※この作品はR-18です。

高律の夏休み   作:bui

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世界一初恋の二次小説です。

8月5日は高律の0日設定。
いったいどんな日になるのだろうかというのはクラスタの興味の湧くところです。

そんな日が目前に迫っているので祭り気分のお話です。

いつものパラレルではないですが、やっぱりIFの世界なので妄想暴走しているところはご容赦を。

なんでも赦せる方のみご覧ください。



高律祭りその二

りっちゃんversion オリキャラ登場


リツと織田律

その日俺は急な訃報でひどく慌ててイギリスに向かった。

 

亡くなったのはとてもお世話になったイギリス時代の学校の寮母さんだった。

 

日本から逃げるように渡ったイギリスで、俺は生きる気力のようなものをほとんど失っていた。

自分から何かの行動をすることなく『誰にでも訪れる自然な死』それを望んでいたような気がする。

 

あの時の俺の心は本当に死んでいたのだ。

 

同室の尚は確かに俺を強く引き上げ、その後も支えてくれた。

おせっかいを焼いて、他の同級生との間を取り持ってくれて俺の居場所を作ってくれた。

 

一方で寮母のミセス.メリッサの存在は別な意味で俺にはとても大きかった。

 

年齢的にも未熟な男子ばかりの寮では、ちょっと目を離せば暴走する奴がいるので寮母はとても厳しい躾をする存在だった。

 

悪さがバレてその部屋に呼ばれるということは世にも恐ろしい体罰が待っているという事だったけど、それでも少年の暴走は止まらず、昔ながらの細い鞭でピシャリと掌を叩かれるなんて日常茶飯事でだった。

そして『礼拝堂で食事抜きでお祈り』などは食べ盛りの子どもたちには直接的な体罰より怖かった。

 

しかし、俺が生気のない顔でふらふらとしている時にミセス.メリッサは何度も俺を部屋に呼んだ。

同級生からはリツはどんな悪い事をしたのだと心配されたけど、ミセス.メリッサは俺が何に絶望して何を放棄していたかなど知らないはずなのに、いつも何も聞かず異国から来た俺に座る椅子と温かいお茶や手製のパイをすすめてくれた。

 

おそらくはただのホームシックとは思っていなかったのだろう。

 

それでも

『食ベなさい。そして眠りなさい。そうすればいつか必ず身体の中から力が湧き笑うこともできるようになります。』

ミセス.メリッサはいつもと同じように眉間に皺を刻んだままそう言った。

 

そしてその時だけは俺の肩から力がすっと抜けて、同時に溢れてくる涙も拭かず菓子をほおばったのだ。

 

 

そんな事を繰り返すうちに『普段』を取り戻した俺にミセス.メリッサは「私はあなたが何をしても、どんなことになっても必ず肯定します」と言ってくれた。

 

だから俺はいつかミセス.メリッサに立派になった自分を見てもらおうと思っていた。

必ずこの地を訪れてそれを報告しよう、その時こそ苦しくて辛かった自分を認めて日本に連れて帰ろうと思っていた…。

 

なのに今回のミセス.メリッサとの対面でも、俺はまだ何も報告をすることができなかった。

 

 

 

▽

棺の中のミセス.メリッサの顔は久しぶりにもかかわらず卒業した頃とそれほど変わっていはなかった。と言っても、当時すでに孫がいても良いほどの年齢だったから変わらずに若々しいというわけでもなかったし、西洋の女性の顔立ちは東洋人の自分には同じに見える節があった。

 

持病があったわけでもなく、急に襲った病であまり苦しむこともなく亡くなったのだそうだ。

説明されたとおり、ミセス.メリッサの顔は安らかに見えた。

 

しかし亡くなるにはやはりまだ惜しい年齢で、きっと本人に聞けば後悔などいくつもあったに違いない。

無念の顔つきではないことがなんだか切なかった。

 

そして棺に花を入れる時に胸の上で組んだ手にそっと触れてみて、突然俺は理解してしまった。

ミセス.メリッサその人は、今はもうそこにはいないということに。

 

そこにある身体はかつてミセス.メリッサだったはずの魂の入れ物だ。

 

もう彼女はここにはいない。

 

これはミセス.メリッサではない。

 

氷とも違う冷たさは、人としての心の温かさを失った証拠にちがいない。

 

とたんに俺は、長い旅をするヨットが、寄港地の起点を失い大海に潜ぎ出すことができないような心細い気持になって意地も勇気も湧かなくなった。

 

あの優しくて崇高な彼女はどこに行ってしまったのだろう。

 

生ってなんだろう。

死ってなんだろう。

魂ってなんだろう。

想いってなんだろう。

そして人とはなんだろう。

 

 

今思考しているこの俺の心は死んだらどこに行くのだろうか。

 

この気持ちは恐れだ。

変わってしまうものへの恐怖がどんどん侵食してその脆さに愕然とする。

 

背筋から身体の芯に向かって冷えが襲いゾクゾクと震えがくる。

地面から黒い怨霊のような手が次々と湧き、同じように黒い俺のズボンのすそを掴んで這いあがって来るように感じた。

 

黒い手はペタペタと俺の身体を伝い地の底から抜け出そうとしてあがき、代わりに空いた場所へ俺を引きずり込もうとする。

払いのけようとしても目眩に似た揺らぎに体幹がぶれる。地面に足をつけて立ってさえいられない。

 

心までも地面にめり込ませようとする黒いモノに汚染され続け、天と地の境目さえ分からなくなったヨットは大航海をする舟ではなく水に漂う小さな木っ端に様変わりしたように感じた。

 

車酔いにも似た気持ちのわるさに耐え切れず、葬儀のあと、かつての学び屋にヨロヨロと逃げ込むとそこにはあの大きな桜があった。

 

思い出の中の桜の木と寸分たがわないそれは、相変わらずどっしりとしていてシーズンには今でも見事な花をたたえているのだろう。

 

人の儚さに比べて自然はなんと強いのだろう。この桜にも等しく流れていたであろう時間は自分たちと何が違ったのだろうか。

 

不変の姿に不安が増す。

 

手を回しても届かない木の幹に耳をつけるけど俺の悲しみを吸ったはずの桜は何も言わなかった。

 

 

そして知ってしまった。

悲しみはなにも変わらずそこにあった。

あの時の苦しい自分が昨日の事のようによみがえる。

 

未来を知っている自分のはずなのに、その記憶は津波のように俺を飲み込み、なぜあれほどに苦しまなければならなかったのだろうかと繰り返し同じ問答を投げかけた。

 

自分さえも放棄したくなるほどの絶望を桜は知って、そのままここに留めた。

 

俺も、高野さんも、やがて人はみんな居なくなるのに、

桜は一人で悠久だとでも言いうように何もかも変わらなかった。

 

だからその姿にすべてを抱えて平気でいられたのだ。

 

桜の記憶の前に立ち、恐れで冷えてぽっかりと空いた身体の芯に潜り込むように入り込んでにさらに冷やす。

 

もう寒くて寒くて我慢ができない。

一人では抱えきれない。

このまま凍えて死んでしまう。

 

人の命の時を刻む砂時計は俺たちにはなにも告げずに、しかし確実に砂を下へと落とし続けている。

いつ、自分の中に答えが出るのだろうか?

 

その時に自分はどうなるのだろうか?

 

意気地なしで見栄っ張りでどうしょうもない自分を昔の自分が冷笑する。

 

帰りたい。

早く帰りたい。

温めて欲しい…。

今ここにいるのは誰なのか、教えて欲しい。

 

 

 

▽

ヒースローから成田への道中、地球の丸みに沿って飛行機は飛んだ。眼下には青い海が広がっている。

 

人は惑星までも支配しようとしているというのに、自分の足元の海底さえまだ征服していない。

暗い深海に何を沈めているかさえ知らない。

 

寒くて凍えそうでケットを被って空の上の長い時間をすごして、やっとたどり着いた場所はスチーマーの中もかくやという蒸し暑い都会だった。

 

しかし…、汗がだらだらと流れるのに指先はいつまでも冷たくて、ゾクソクと悪寒がして鳥肌がたつ。

 

早く温めて欲しい。

人の熱で覆って欲しい。

 

震える指で画面をタップをし帰国を伝えるメッセージを送信すると、すぐに返信が来た。

 

帰ります。

 

帰らせてください。

あなたの所へ。

そして温めて。

 

 

 

▽

 

真夏の大気は熟しきって膨らんで腐敗寸前のねっとりとした果実の香りに似ている。疲れ果てて歩く身に家路までゆるゆると続く坂道は最後の試練としか思えない。

 

暑いのに冷たい。

凍り付きそうな冷気を埋め込まれた心のまま、アスファルトで覆われた道を一人トボトボと歩く。

 

つくべきかつかざるべきか迷っているような街灯の点在した灯りに逢魔が時をしる。

 

フウっと下を向いて息を吐くと葬儀の日はピカピカだったはずの黒い革靴がうっすらと埃をかぶっていた。

 

地面にめり込む錯覚は土葬からのイメージだったのかもしれない。

溶けだした体液は地球に吸われ、骨肉はバクテリアの栄養となり、その循環でやがて巡り俺たちを潤すのかもしれない。

 

死んだらお空の星になる。

 

子どものころ読んだ童話にそんなものがあったような気がする。

 

人は行ってはいけない領域を侵害し、星が星でしかないことを暴いてしまった。

でも、でも、それは本当なのだろうか?

どこかの誰かがあの光は魂だと知らせたくなくて、とてつもない大きな嘘をついているとしたら?

 

死さえも怖くなくなるのにな…。

 

有限が人を追い詰めていくのかもしれない。

 

 

 

▽

 

早く帰りたいのに後ろから何かに引っ張られるような重さが縋り、なかなか先に進めない。

 

すると…、

 

遠くに見知ったシルエットがあった。

それは鈍い足取りの俺を確認するようにしばしとどまり、おもむろに駆け寄って腕を伸ばした。

 

たかのさん。

 

何も言いたくなかった。

何もいらなかった。

 

そのぬくもりだけ感じたかった。

 

飢えている。あなたの温もりに。

 

お願い、俺をあたためて…。

 

 

 

それから先は夢心地だったような気がする。

自分ではない何かに、

いや、俺の中の冷えが、ひたすら目の前の熱を引き出すように縋った。

 

「温かい…。」

 

身体を強く抱きしめられて、身体の中の冷えを埋めて欲しくて、飢えた鳥の雛のように口を寄せると高野さんは俺の望むままに応えてくれた。

 

でももどかしい。

届かない。

そこよりもっと深いところがまだ寒い。

身体の中の冷えが不満にうごめく。

 

もっともっと奥に来て…。

 

塊になっているところも、それを覆うひだも、柔らかい所も固い所も全部に触れて痛いぐらいに存在を教えて欲しい。

俺にさえも届かない場所をあなたは熟知しているんだから。

 

絡めて舐めて噛んで啜って、熱も冷えもすべてを奪って欲しい。

 

あなただから、あなたにしか、あなただけに…。

 

俺のすべてをあげるから、

 

こんなにあさましくあなたを欲しいと思っている俺を笑わないで。

そしてあなたの温もりで覆って。

 

粘度の高い糸を吐いて蛾の幼虫が蚕になるように、ふんわりと柔らかく包んで息もできないぐらいあなたでいっぱいにして欲しい。

 

そして俺の世界が暗転と化した時に…。

 

精神的な温もりは実質的な温もりに転嫁された。

 

日本の風呂っていいな…。

 

とんだオチだ。

 

でも心地いい。

 

冷えに支配されたような気がしたけど、一旦は俺を取り戻して、胎児の気持ちになって湯の浮遊感に身を任せた。

 

 

 

 

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