8月5日は高律の0日設定。
いったいどんな日になるのだろうかというのはクラスタの興味の湧くところです。
そんな日が目前に迫っているので祭り気分のお話です。
いつものパラレルではないですが、やっぱりIFの世界なので妄想暴走しているところはご容赦を。
なんでも赦せる方のみご覧ください。
高律祭りその三
風呂から上がったリツの顔は少しだけすっきりとして見えた。
髪をタオルでワシワシと拭きながら、俺が用意しておいたちょっとデカめのTシャツもハーフパンツも文句も言わずに着ていた。
透明のグラスに注いだのはミントをつぶして作ったディアボロマント。
冷えたそれを差し出すと躊躇もせずに受け取りおいしそうに飲んだ。
「甘いのにさっぱりしてますね。」
嬉しそうな顔が見られて俺もうれしい。
作った甲斐があったってもんだ。
ミントは自家製で、春先にまとめ売りになっていたパセリやら野イチゴやらの可愛い見てくれの草花と一緒に買ったものだ。
他のはたいして大きくならないのにこいつだけは植えたプランターいっぱいにはびこり、他のが押されているから先をはさみで切ったらもっともっと茂ってどうにもおさまりがつかなくなった。
ミントはよく聞くハーブだけど、用途としてはお茶にして飲むぐらいしか利用方法が思いつかず、ネットで調べたらシロップにして飲むと良いとあったので早速作って今日はそれを炭酸で割ったのだ。
それにしてもミントは本当に強いな。毎日ただ水をやっていただけだったのに。
生命力にあふれるような飲み物ってことだな。
リツが嬉しそうだからよかった。
植物の力がもらえたみたいで本当に良かった。
▽
風呂がガリの着替えは、リツの部屋に取りに行くという選択肢もあったのだけど、逡巡した結果俺の服を用意したものだった。
比較的首の詰まったデザインを選んだつもりだったけど襟ぐりは広く開いていて、そこからつるりとした素肌が覗き、鎖骨の窪みが艶めかしく影を作っている。
そこに舌を差し込んで骨に沿ってネットリと舐めたい…、そうしたらリツが困ったような苦しそうな顔をして、それでも気持ちそよさそうな声を出すだろう。
うん…、ヤバイかも…。
湯で温まったリツの顔色もいい感じに上気していて体調としては悪くなさそうに見える。
しかし帰って来た時の表情はイギリスから何だかやばいもん連れて来ちゃいやがったことは一目瞭然だった。
苦しい過去と対峙するのは並大抵の精神力ではないだろう。
ましてや覚悟もなく、突然腕を引かれてつんのめるみたいに突発的に起こった出来事で、結果覚悟もないままに鼻先にそれ見ろとばかりに辛い過去を見せられたのだ。
呆然自失が続いていると考えてもおかしくないだろう。
しばらくはゆったりと過ごせるように気を使ってやりたい。
▽
「イギリスってさ、フィッシュアンドチップとか言うじゃん。魚って結構食うの?」
食事が始まり、リツが鮎の塩焼きを軽く上からツイツイと押さえて器用に骨を引き抜き、静かな箸使いで皮ごと香りの良い身を口に運んでいる横で小芋の煮っころがしを咀嚼しながらそう聞いてみた。
わざとイギリスの話を振るのは勇気のいることだったけどここでしないとこれからはもっとできない。
だからと言って触れないのも不自然で、どっちも変なら遠くから触れてみようかとイギリスの料理は本当にまずいのかと遠回しに気いてみた。
何しろジャガイモの件もあるしな。
「魚ですか…。確かにパイになったり燻製っぽいのもありましたけど…」
途端にまた苦いものでも食べたように眉間に皺が寄る。
どうやらあまりいい思い出はないようだ。
「ジャガイモは日常的に出てきます。フライはまだいいんですけどマッシュポテトはどろりとしてちょっとくどくて…、日本で毎日食べたならあんなに嫌いにならなかったと思うんです。なにかこう…、料理ごときに気持ちや時間を割いたりすることはかっこ悪いと思っているんじゃないかと思うというか…、魚がですね~、ごんなかんじで…。」
身振り手振りいっぱいでする話が楽しくて、リツも楽しそうに見えるのがうれしくて静かに聞いていると「でも、お茶とお菓子は美味しかったです…。」と話を締めくくるようにぼそりと言った言葉が妙に耳に残った。
「ミセス.メリッサは…。あ、今回お葬式の…。」
少し語尾が曖昧になって持っていた茶碗をコトリとテーブルに置く。それは一番どん底の時期に接した恩師と呼ぶ人の事なのだな…。
「いつも気難しい顔をしているのにお菓子作りの達人で、どれもみなとても美味しかったんです。スコーンとかショートブレッド、ミンスパイ、ジャムやハチミツとクロテットクリーム。そしてどれにも濃く入れた紅茶がとても合うんです。寮母さんは部屋を持っていてそこのオーブンで常に何かを焼いているんですけど、焼きたてでホカホカを食べさせてくれるしシロップなんかはジャブジャブと漬かるぐらいかけて、凍えそうな気持ちやもやもやした気持ちはいっぺんで吹っ飛ぶくらい甘くて美味しかった。」
伏せられた視線は手元の茶碗を見ているようでいて見ていない。
リツは今、リツの中にだけ存在する思い出のアルバムを見ているのだ。口の端がふんわりと緩んで長いまつげが頬に濃い影を落としていた。
「もう一度食べたいな…。」
掠れた言葉はふうと吐く息とともに宙を一瞬さまよって消えた。
それはもう二度と手に入らないものへのお弔いのように真摯で、少年の日のリツはこうやってリツ本人の中で何度も何度も埋葬されて来たのだろう。
苦しかったり寂しかったり悲しかったりしたどこにも向けられなかった気持ちと一緒に。
日本より緯度の高いその寒い国は、直接的にはリツを慰めることはしなかったのかもしれないけど、その人の存在によってリツは少なからず救われたのだ。
一つ一つは些細なことでもそれが集まって混じってどろどろに溶解して、また冷めて一つの形を成す。それが今のリツだ。
「スコーンぐらいなら作れると思うぞ。」
そう言ってやるけどリツは首を振る。
「おそらく違うんだと思います。あの場所で食べたあのお菓子はきっと…。」
またリツの語尾が揺れる。そしてその気持ちが自分にもよく分かった。
俺が懐かしさからばあちゃんの煮つけの味を再現しようとしても決して同じ味にはならないのと同じだな。
喧嘩をしている席で食べる高価な料理と、愛しい人と食べる簡素な食事の味の。
暑くて煮えてしまいそうな時に食べる油で煮込んだアツアツの鶏肉のコンフィと、真冬の凍るような寒さの中で、身から骨がほろりとはがれる程に煮込まれた身体に染みる温かいコンフィの味。
同じものでもそれぞれのシチュエーションで受けるうまさが違うように、シーンだけでも人の心は受け取るものが異なる。
ばあちゃんに教えられたレシピで、同じ材料を使って作っているのにいつも何かが足りないと感じてしまうのは、その味に思い出のシーンというもはや入れることのできない飛び切りのエッセンスやスパイスが含まれているからなのだ。
土地の湿度や温度といった直接的な感覚から、その場が作る雰囲気、その時の気持ちなどの、料理とは無縁と思われるものが全部必要なのだ。
食事をしたいという欲求は原始的な食欲とは似て非なるもので、子どもの頃の毎日の楽しい食事の積み重ねがやがてご飯を食べたいという食事欲につながると聞いたことがある。
だからリツがどんなに食べたいと望んでも、もうそのお菓子を食べることができない。
そしてそのお菓子はリツの中で唯一無二のものに格上げされた。思い出の中だけに存在する世界で一番おいしいお菓子となってしまったのだ。
「高野さんってお菓子も作れるんですか?」
根菜の炒め物をコリコリと気持ちの良い音を立てながら食べていたリツが一口汁を啜った後でそう聞くので、「積極的に作ったことはないけどきっと大丈夫だろ?」と意味なく自信ありげに答えてやった。
実際にエメラルドでバレンタイン特集をやった時、少しだけ参加したチョコレートケーキ制作の時にはそれほど困ったことにはならなかった。
まあ…、あれは単なるお手伝いレベルだったけどな。
そう言えばと思い出したようにズイっと顔を近づけて来たリツが
「俺、今度クレープ食べてみたいんですけど。」と作ってくれという意味を含めて俺に言うので「自分で作るって選択肢は?」と呆れて言うと「うーん。後片付けしてくれるならチャレンジしてもいいですけど、大変なことになりそうな予感がして。」とシレっとした顔で言った。
ヤレヤレだぜ。珍しいお願いに心がざわめくじゃないか…。
「じゃあさ、」
鶏肉とアスパラの冷製サラダを、白地に大胆な青の柄の手塩皿に取り分けて食ベているリツの顔を眺めながら
「評判のクレープ屋があるらしいから明日行こう。」
と誘う。
つい先日、物流で送付物の確認をしてもらっている部屋で、別のグループの子がその店について熱弁をふるっていた。
どうやら新しい店らしく、甘いもの好きのリツなら喜ぶかもしれないと聞き耳を立て場所も名前もちゃんと覚えておいたのだ。
近いうちにリツを誘って行こうとひそかに思っていたので丁度良いタイミングだった。
「ワゴン販売じゃなくてフォークとナイフで食うらしいぜ。」
手振りで見せるとリツの瞳が期待に揺れる。この顔を見たくてアンテナ高く上げ情報を仕入れるんだ。
「いっペん食ってみねーとさ、作るにしても想像つかねーからな。」
とって付けたような言い訳にもリツはああ、と納得したような顔をして、「フォークとナイフで食べるんだ。」とまた口元を緩めた。
以前大きなパンケーキを食べた時も無理やり引きずって来られたことにあれこれと文句を言っていたくせに、いざ食すとなれば子どものように喜んだリツ。
結局意地を張っても素直なのだと感心して俺の顔も同じく緩んだ。
そしてそれは甘いものを好まない俺なのに、世界で一番おいしいパンケーキのように感じたのだった。
十年後、二十年後、さっきのように『あれはおいしかった』とリツの思い出の中に登場するようなシーンになればいい。
そしてその中には必ず俺が居たい。
思い出の中も現実もいつも一緒ですねと言ってもらいたい。
だからたとえリツがなにやら不穏なモノを引き連れていたとしてもその楽しい陽の力で何もかも吹き飛ばせる、必ずそうなると確信しているのだった。
食事も中盤に差し掛かり、綺麗に巻けたう巻き玉子を食べながら「いきなり戻ってきたのにこんなにちゃんとご飯を作れるなんて…。」と、今度は急にリツが口をへの字にした。
俺達の夏休みが今日からだったから、リツがいつ帰ってきてもいいように食材を仕入れていたのが功を奏しただけだけど、腹が満たされてきたら少しだけ劣等感が湧いたようだ。
ホント馬鹿で可愛いヤツ。
丸川では夏休みは各自に6日の有給が与えられている。
各々が部署内で調整しつつ休みを取ることになっているけど部署によっては一斉にお盆期間休みとする場合もあるようだ。
しかし残念ながら一斉に休めない編集業のために、まずは俺とリツが一番手で3日(俺が勝手に)休みを入れた。
その後は本人の希望で羽鳥が俺たちの休みが明けたあとに一週間の休みを取って、お盆シーズンは美濃と木佐がやはり希望で一週間休みをとることになっている。
子どももいないしわざわざ時間をかけて帰省するほど遠い実家もない俺とリツは休みをいつにしても良かったのだけど、後半は校了があるのに俺や進行係のリツが休みというのはだめだろうという理由と、副編の羽鳥と編集長の俺が同じ時期に休むわけには行かないということもありでこうなった。
俺達は細切れの休みになるが、残りの3日は来月頭あたりにと勝手に思っている。(リツは希望がないと言ったので勝手にそう決めている。)
葬儀のために夏休み前に突発的な連休を取ったリツだけど、工メラルド編集部は多忙すぎて有給も使えてない状態なので、夏休みを減らすということは考えなくて良いと言っておいた。
単なる名目の違いだけなのだけど、夏休みが葬式って少し悲しい気がしたから…。
▽
食事の最後に水ようかんを食べて終え、片づけも二人で終えて、さてと言うところで「長い時間お邪魔してしまって申し訳ないです。そろそろお暇いたします。」とリツが言った。
まあ、ある程度予測もついていたし、おそらくそう言うだろうなと思っていたけど、やはりここがリツの家でないいことを突き付けられるようで寂しくなる。
まあ、俺が簡単に帰すわけないことは分かってるだろうけどな、リツ。
「明日も一緒に出かけるんだから泊まってけばいいだろ?」
「はい・・・。」
なんとも歯切れが悪いのは食事を食べさせてもらったという負い目だろうか?
「隣なんだから。洗濯物なら一緒に洗ってやる。」
まあ、逆に隣なんだから帰っても差し支えはないと言われれば仕方がないのだけどな。
それにしても、いつもあれこれ理由をつけて帰りたがって、痛いところをつつくとキャンキャン言うくせに今日は妙に大人しい。
食事の件があるにしても湧く違和感が不安を呼んで気持ちがささくれ立ちイライラが湧く。
リツがなにやらもごもごと言うので「ああ?!」っとちょっと力を入れて聞き返すと「スルんですか?」と今度ははっきりと聞こえた。
意外な展開に動揺を隠せなくて「期待してんの?」と先ほどのイライラを隠して
「疲れてるのでしないほうがいいんですけど、ご飯もご馳走になったし…。」と居心地悪そうな、なんとも不安げな顔つきで言うのが癪に障る。
メシ食べさせたから抱かせろって俺が言うってか?
いや、確かに言うけど、こんなにいい感じだったのにそれこそずいぶんじゃないか?
付きまとうイライラと湧く焦りや呆れがごちゃごちゃに混じって何も言えなくなっている俺に「いえ、そうじゃなくて…、ああ、うまく言えないけど…、」とリツが眉間に皺を寄せて首を振った。
張り詰めた空気がフワリと揺れて、リツの髪からシャンプーの香りがする。
そしてそれがリツの本来の香りと混じって鼻先から頬へ、肩から背へ、だんだんと身体をとり巻くように覆い、鬱々とした嫌な気持ちはゆっくりと、しかし強く抱きしめたい衝動に変わっていく。
「疲れててしない方がいいんですけど、高野さんもその…、そうしたいと思ってるのかな?って…、お風呂入って、ご飯食ベて、そうしたらなんだかそういう流れが正しいのかなって…。嫌な意味じゃなくてそれが当たり前っていうか…、普通と言うか…。言いたいこと分かってくれます?」
リツが必死に説明することは、要するに恋人時間ならそうなるよねってことか?
そう思っていいのか?
これは本当にリツなのか?
「いや、お前疲れてるみたいだから今日はそんな気はないけど、久しぶりに抱き締めて寝たいとは思ってる。」
動揺を隠しながらも正直に今の気持ちを伝えつつ、視線では『だから帰らないで』と伝えるとリツは少し考えるようにしながらも「わかりました」と短く答えたのだった。
▽
リツの部屋は羽毛の枕だと知っていたからこの部屋の枕を買い替えたときにリツ用にそば殻の大きめの枕を用意した。
別にわざと反発をしたつもりではなくて、違う感触もいいんじゃないかと思ったからで、もちろん本人に確認もしなかった。
大きめで平べったい俺の枕の横に置いて、お前専用と告げるとやっぱりギャンギャンと小型犬のように威嚇して吠えていたけど、結局その日も今もその枕に顔を埋めて寝ている。
俺が風呂に入るにあたり、疲れているだろうリツには先にベッドで寝ているように言ってあった。
寝てしまえばきっとさっきの「スルんですか?」という不安なことには至らないと思えるのだろうことも含めて。
まあ。そう言っても結局眠れなくていたしたことは数限りないので、俺に対してそのあたりの信頼や安心感はないんだろうけどな…。
男同士でも性欲の強さや衝動には違いがあるんだろうけど、リツはどうなのだろう。俺を求めてうずく身体を持て余すこともあるのだろうか。
まぁ、その蕾を手折ったのはおそらく俺だ。
本来は外へ向けられるべき思春期の男子の衝動を受け身の形で閉じ込めてしまったのだから。
そんな事を考えながらベッドを揺らさないように、音をたてないようにとリツがあけてある場所に納まり、ずれた掛布をもう一度リツにパサリと掛けると「ん、ぅん…。」と息とも聞こえる悩ましい声を漏らした。
一瞬起きてるのだろうか?と思ったけどやっぱり寝ているようで、横向きに寝ているリツの身体に対面するように身体を寄せると、スウスウと規則正しい呼吸が聞こえて少し湿った温かい息が頬にもかかる。
ここで背を引き寄せたりすればさすがにリツとて目を覚ましてしまうだろう。それも本意でない。
呼吸の感覚を同期するようにそろえると不思議と眠気が湧く。
考え事はやめにして目を瞑るとほどなくしてリツの寝息が子守歌だったかと思えるほどあっけなく俺自身も眠りの世界に引き込まれて行ったのだった。
▽
どのくらいの時間が経ったのだろうか?身体の半分から熱が奪われるような感覚に目が覚める。
「あ、起こしてしまいましたか?」
うっすらと開けた視線の先にはリツがひじをついて身体を少し起こしていた。
「ん?何時?」
枕もとに手を伸ばして携帯で時間を確かめようとすると「12時過ぎです。」とリツが答えた。
まだ布団に入ってから小一時間ぐらいしか経っていない。
「寝れない?」
そう聞くと
「いえ、ちょっと夢を…。」
とリツは答える。
空調が少し効きすぎのようで寝室は少しひんやりとしていた。
寝巻代わりの薄手のシャツ一枚では掛けるものが無ければ寒いかもしれない。
肩に手を回してぐっと引き寄せるとバランスを崩したリツの身体の半分が俺の上に乗る形になった。
「抱き枕」
ちょっと笑いながらそういうと
「どっちがですか…、これじゃあ俺の抱き枕が高野さんですよ…。」
と胸に腕を回して顔を摺り寄せる。
何度目かの珍しいリツの行動にちぐはぐさを感じる。
少しぼんやりとしたリツの雰囲気と、いつもなら決してしないような甘えた態度に潔斎してるってわけでもなさそうだと思うし、喪に服しているにしてはエロいとも感じる。
人肌が恋しいのか?葬儀のショックでスキンシップを取りたいと思っているのかもしれないと思い当たる。
とにもかくにも非日常の中でも別離は重いものだから。
身体の重みを支えながら、その項をさすりあげるように、逆毛をたてるように髪を逆からなでるとリツの背中がブルリと震える。
「高野さんの手は大きいですね。」
髪をかき回すように弄び、頭皮を掻くように撫でると、こそばゆいのかその手を掴みしばらくそれを見つめていたリツが指先をペロリと舐めた。
「前に…、俺で練習すればいいって言いましたよね。」
瞬間は何の事を言われているのか分からなかったが、リツの熟れたリンゴのような表情からそれが口でしてもらったあの時の会話だと思い当たる。
「指で試してみてもいいですか?」
そう言われて返事の代わりに人差し指と中指をリツの唇にプニっと押し当てると一瞬遅れて唇は開かれ、ねっとりとした舌が指の腹に絡みついて来た。
唾液と舌がピチャリと音を立て指に絡まる。
何も性的要素のないはずの場所に感覚の点を植え付けるように卑猥さに染みる。
指の腹や爪との境目を細く磨がれたような細く強い舌の先がシュルシュルと探るように動き、絡まるようなヌメヌメとした動きで舌の裏の柔らかい所と腹とで交互に指を撫でられ、歯と唇の裏の粘膜で挟まれたり、突然外に放り出しチュウと吸われて滴り落ちる唾液をなめとられたり…。
これは…、防戦一方では分が悪い。
二本の指と親指でリツの上あごを挟み唇を摩ったり、嗚咽を呼ぶ喉の奥ぎりぎりを指の背で摩って頬の裏の柔らかい所を曲げた指で強めに押すと「ふっ、ぁ…、んん…っ」とリツが熱くなった息を漏らす。
苦しそうに目じりに涙を浮かべながらもうっすらと開いた瞳は満足そうで、もっと悦ばせて深く広く暴きたくなる。
舌をツイっとつまんで引き出して開いた咥内を薬指の腹でさすり、上あごをきつめに押し上げて刺激し、頬と奥歯の境目の柔らかい所をぷにぷにと爪でひっかくと、さっきまでの瞳にさらに色が加わった。
艶めかしく赤くなった目じりから涙が一滴流れ、そこには芯に抱いた火照りを隠せないリツがいた。
リツの足が俺の股の間に入って俺の身体をがっつりと挟み込み、もう一度攻撃の主導権を掴みたがっている事は明白だった。
やっぱりこいつって負けず嫌いだなと笑いたくなる。
そしてそんな緩んだ気持ちの隙をとられ、爪の隙間や指の股の水かきを大胆な動きの舌に攻められながら、掴んでいる手は忙しなくマッサージでもするように手の甲と腹をぐにぐにと押される。
もうこいつは!
たまらなくなって身体を無理やりに反転させ、のしかかるように手をシーツに埋めて、唇で唇を強くふさぐとリツがビックリしたように大きな目をさらにまん丸に見開いた。
「やりすぎ…、つうか本番もその調子で頼むよ。」
額を上げるように髪をかき上げてキスをしてから、唇にもチュッとわざとらしく音を立ててキスをすると、途端に状況が理解できたらしくリツは恥ずかしそうに耳を染めて「合格ですか?」と言って俺のシャツに顔を埋めた。
まったく…。
「傍にいるから怖い夢ももう見ないだろ、寝ろよ。」
そう言って背中をトントンと叩くこくりとうなずく動作を感じられて、この苦行に耐えた自分を讃えて苦笑してしまのだった。
まあ、いい人も今夜限りだけどな。
勝手ま明日の予定に思いを馳せ、実戦が楽しみだと思いながらさっきの苦笑とは違う笑いをグッとこらえ、
俺達は再び眠りの神様に身を任せたのだった。