※この作品はR-18です。

高律の夏休み   作:bui

7 / 7
世界一初恋の二次小説です。

8月5日は高律の0日設定。
いったいどんな日になるのだろうかというのはクラスタの興味の湧くところです。
本編は終わりですが、高律祭りおまけ。


どうってことのないとある日の高律



真ん中バースデー

盆暮れ正月、なんでこんなに忙しいんだと言ったらそれは出版関係が休みたがるからだと猛り狂った編集長の顔をまた思い出す時期が来た。

 

エメラルドの発売は月末。

それを逆算して校了は大体月の半ばチョイス過ぎ。

しかしそれは守られることのない飾り物のような日だった。

 

発売日のデッドは一週間前。そしてそれを過ぎると出版が危うい…。

 

お盆があるから校了は今月は18日を予定してあった。

でも今月は連載のはざまで一回休みの超デッド常連の吉川先生がいないだけ気が楽かもしれない。

 

紆余曲折あった俺と高野さんが、形ばかりとは言え(もはや付き合ってないって言う方が変だろうと言われる状況だったことは承知している…。)両思いとなり、その上で付き合うという浮かれ切ったこっぱずかしい状況に浸らずに済んだのは一にも二にも過酷なエメラルドの締め切りのせいでもあった。

 

ありがたいやら残念やら…。

 

でもたったの数日でも恋人となった高野さんは甘かった。

 

痒い所だけではなく痒くなりそうなところにまで手が届くような生活に、もう何だか全部いいかって思えたほどには…。

 

俺の担当の先生との話の中で、これから先で入れるエピソードの相談があった。

 

そういうものがあるって、残念ながらどうしても乙女脳ではないおれは考えもしなかったし、もちろん知らなかった。

 

真ん中バースデーか…。

 

確かに年一回ではお祝いしきれない。

 

二人がいるからこそある記念日だと思えば、この日にあることが何だかうれしくなる。

 

だから今日はお祝いしよう。

 

本当はお祝いしたかったのにうまく祝えなかったあなたの誕生日をもう一度やり直させてください。

(まあ、あの日はあれで色々と濃い日だったけどな。)

 

 

『今日は何時ごろ帰りますか?』

 

すぐ傍にいる人にそっとメールを送る。

 

すぐに受信に気が付いたであろうことは眉が上がったから分かった。この人ってさ、良く見ると分かりやすいな。そういう点ではあまのじゃくな俺の方が分かりにくいのかもしれない。

 

こういう気づきはどうしても昔の先輩を思い浮かべてしまう。

 

過去には戻れないけどひょっとして俺がきちんと嵯峨先輩を見ていればもっといろいろなことが分かったのかもしれない。

 

あの頃の俺の目には恋という面倒なフィルターがかかっていた。

 

それは世界をキラキラと輝かせる反面、肝心なところにはモザイクがかかっているようにぼやけていた。

 

先輩の輪郭は分かるんだけどいつも逆光の中にいるようでその細かな表情は分からない。

 

あの頃の先輩が高野さんが言うように俺を好きでいてくれたのだったら、その顔に俺に対する好意を綻(ほころ)ばせてくれたりしたのかもしれない。

 

見たかったな、先輩のそんな顔。

 

好きって不思議だ。

 

どうしてそんな感情があるんだろう。

友人にでも幼馴染にでも、ましてや家族にでもないその感情。

独占欲と自己顕示欲と執着と嫉妬。

 

姿を見ただけで心臓の外の皮だけピリッとはがれて中身の柔らかくて体液の染みたところを輪郭に沿ってさすられて絞られるように痛い。

 

普段は意識したことのない喉まで出てくるようなバクバクとした動悸にインフルエンザの時より体温が上がったのではないかと思う。

 

はね箒でさすりあげられたようなゾワリとしたくすぐったさが背中から首筋から身体のいたるところを襲って、途端にそこらじゅうを掻きむしりたくなる。

 

初めての高熱に脳みそも誤作動を起こして命令した通りに身体が動かない。

見たいのに直視できない。

触りたいのに触れない。

 

気持ちだけしかないのに、気持ちだけで暴走してしまった。

 

やっぱり十代の恋だなって思う。

 

怖いものがあるとすれば先輩への恋でいっぱいな自分の事だけだった。

 

 

今思い出してみれば、あの頃の先輩は二つ年上だったからすごく大人な気がしていたけど、やっぱり高校生だったんだ。

 

そして別離…。

 

思い出はワニに毛を剥がれた稲葉の白兎のように自分のむき身になった肌を触れるものもないのにひりつかせる。

そして寄せては返す波のように、断続的に襲う痛みにヒッと何度も何度も飛び上がって泣く。

 

一瞬だけホッとすることもあるけど、そのうちにまた満潮を迎え波が来る。

 

痛みが去るわけではないのに、だんだんとその痛みに慣れてしまって、むき身の肌も硬質になって、痛みを忘れたふりができるようになっていった。

 

 

今は違う。

 

年とともに汚れてしまった精神は浮かれた恋をこじらせた。

見なかったことにしたり諦めなければいけないことも多い。

考えれば考えるほどに実りのない恋。

 

あ~あ、面倒な大人になっちゃったな。

 

ならもうやめたらいい。

 

 

でも、それでも手放せなかった恋。

 

だから

 

 

未来は不確か過ぎて約束できないけど今は一緒にいよう。

 

過去になったさっきもその時は今だった。

 

未来もきっとその時になれば今になる。

 

ずっとなんてわがままは言わないから、せめて高野さんが気が済むまで一緒にいたい。

 

いつ気が済むのか分からないけど今は一緒にいてください…。

 

 

 

 

▽

 

お盆でグチョグチョのスケジュールではあったけど何とか仕事にめどをつけて会社を出た。

 

「どうせ印刷所も取次も休みだから今日は帰る。」

というのが表向きの理由であることは俺には分かってたけどそれに反対する人は居なくて、エメ編的には早い、(一般としてはずいぶん遅い)帰宅となった。

 

帰路の途中にあるアンティークという深夜までやっているケーキ屋さんで小さなホールのケーキを一つ買った。

 

白いチョコクリームのケーキには白いバラの飾りと白いチョコのチップが上品にデコレートされていた。

 

高野さんは俺のすることには取り立てて何も言わなかったけどこの季節のホールケーキにはちょっと怪訝そうではあった。

 

別に隠すようなこともでもないので今日が高野さんと俺の誕生日の真ん中であることを告げて「お誕生日しましょう。」と伝えた。

 

おそらく明日の祝日からは本格的な盆休みに入る人は多いはずで、工場などの製造業は一週間どころか10日も休みがあると聞く。

 

長い休みってどうなんだろう。お金の面でも大変だし時間を持て余しそうだ。

 

まあ、自分たちには関係ないけど(笑)

 

 

「なあ、誕生日ならちょっといい酒買う?」

 

あまり酒に強くないので気づかなかったことを高野さんが言うので、酒屋に寄ると、あと少しで閉店というところに来た俺たちにお店の人は嫌な顔もしないで応対をしてくれた。

 

ラインナップが多すぎてどうしてよいか分からない俺に対して高野さんは店主と話をしてよさそうなところを何個か提案されたらしい。

 

「ヤッパリ泡(スパークリング)かな? Moët(モエ)がある。それから日本酒の発砲タイプもあるらしいけど?」

高野さんが俺に一応聞いてくれるけどなんとも心もとない。

 

「高野さんが決めて下さい。」

 

さっさとお酒に対する検討は放棄して、ワインの多彩なエチケットに見入ってしまう。

意味とか解ればきっと楽しいのだろうけどそもそも酒に造詣がなくて申し訳ない。とは言っても強くないので量は飲まないけどお酒を飲むこと自体は嫌いではない。

 

でも弱いから人より早く酔って鬱憤が噴出して『絡み酒愚痴派』になってしまう。

それから脱却できれば高野さんも俺と飲んで楽しいって思ってくれるかな?

 

 

 

ケーキにお酒、そしてスーパーでお惣菜を買って何とか体裁が整った部屋でやっと真ん中バースデイの宴を始めることができた。

 

大昔、俺が先輩の誕生日を妄想していたことを思い出す。

 

独りよがりなあの時リツは嵯峨先輩の喜ぶ顔を本当の意味で想像できていたのだろうか。自分事の筈なのになんとなくそのあたりはあやふやで思い出せない。

 

「食べながらお互いの事を質問しあいませんか?。」

 

それは高野さんに誕生日会をやると言って引きずり込まれた部屋で行われたゲームの再現だ。なんとなくケーキはこうやって食べるのがいいなと思ってホールのケーキにした。

 

「ふーん」

とちょっと意味ありげに高野さんは笑った。

 

ケーキをお皿にのせてテーブルに置くと高野さんがスパークリングを開けてフルートグラスに注いだ。

 

さらりとした薄い黄金色の液体は角度によってはキラキラと光って見えて、赤くなりそこなった夕方の空が、夜と交わる瞬間の畏怖に似た厳かな気持になった。

 

文明の時代以前の人間はその空を仰いで明日のことに思いを馳せたのだろうか?

それは俺の中の人としての遺伝子にも組み込まれているような気がして、ものがつまって息が出来なくなって酸素が不足した時のような苦しさと切なさを感じた。

 

グラスの中に閉じ込められている金色のビーズのような泡は、線香花火の火花ようにはじけてシュルシュルと尾をなびかせて狭い空間を飛び跳ねていた。

 

目の前の愛しい人の細くて長い指がステムをつまみ、少し斜めにグラスを寄せてくる。

俺もそれに習い軽く音も出ないほどにそっと触れさせて「お誕生日おめでとうございます。」というと高野さんは「おめでとう、お互いに」とちょっと笑った。

 

真ん中バースデイってなんだってちょっと思ってるんだろうけど、とりあえず俺がやることに文句も言わずにこうやって付き合ってくれている。

少し前の俺だったらこんなこと「馬鹿じゃないのか」って思ったと思う。

 

口実なんて、本当はなんでもよかったんだ。

何かを高野さんとしたかっただけなんだから…。

 

 

▽

「一口ごとに質問すんの?」

 

相変わらず嬉しそうに笑いながら高野さんが切り分けけていないホワイトチョコのケーキを見つめてそう言う。

蝋燭も立てずにおめでとうの乾杯をしたのだからあとは食べるだけだ。

 

「一口ごとでもなんでも自由に。」

 

ルールなんかは適当でという意味を込めてそう言うと

「縛りはねーの?」

と再度聞かれた。

 

「縛り?」

俺はおうむ返しに告げられた言葉を繰り返す。

「だめな系の質問とかさ、ねーの? 昔にまつわる事はよそうとか…。」

ああ、高野さんがいいよどんだ事で納得がいった。

 

辛い事や言いにくい事は初めから除外しておく?ってことか。

 

怖くて聞けないことも聞くチャンスかもしれないけど、こんな場で聞く勇気が出るかと問われれば微妙な気もする。

でも初めから除外したら今までの俺たちと同じでぐるぐるしてしまうにきまってる。

 

「とりあえずいいんじゃないですか?高野さんはあります?」

 

「いや、お前が聞きたきゃなんでもいいよ。」

 

高野さんがまたにっこり笑ったので俺もホッとして、もう一度喉を潤す意味でパチパチといまだに線香花火をはじけさせているスパークリングワインを口にした。

 

「薔薇のところ、食べてくださいね。」

「いや、お前甘いのすきだろ?食べろよ。」

俺が言った言葉に高野さんが反応して逆にフォークで掬われて目の前に差し出す。チョコクリームで作られた花は摘まれても薔薇の形をしていた。

 

躊躇したもののそのままアンっと口に含むと思ったよりも甘くなくて薔薇は口の中で溶ける様にはじけた。

 

「好きな人の名前フルネームで教えて。」

 

口の中の味の余韻に浸る間もなく一番目の質問が頬杖をついた恋人の口から発せられた。

 

「た、高野政宗さん。」

 

大丈夫。予想されし質問だ…。

なのになんだこの顔が熱くなる感じは。絶対にどこもかしこも真っ赤に違いない。思わず羞恥にぐっとフォークの柄を握りしめてしまった。(超能力者なら念力でギュンっと曲げてしまったかもしれない)

 

すると

「やべー。想像以上にくる…。」

と頭の向こうから高野さんの声がした。

 

ハッとして顔を上げると真っ赤な顔で口をふさいでいる高野さんが目の前にいた。

 

ああ、また俺は見そびれるところだった。こんなに愛しい顔をした恋人の表情を…。

 

ちゃんと見ておかなきゃ。

思いの他口下手な俺たちがすれ違わないように。

今をきちんと。

 

 

 

▽

 

「肉以外に好きな食べ物はなんですか?」

「ホントお前食いモンばっか。(笑)好き嫌いねーから一番二番って難しいけどお前の嫌いなジャガイモは俺はむしろ好きだね。」

 

「図書館や本屋以外で行きたいところ。」

「え…、以前小説で出て来た場所に行ってみたいです。綺麗な浜なんですけど実在するらしいので。」

 

「サンドイッチの具は何が好きですか?」

「ツナは積極的に選ぶかも。あとは普通にタマゴとかハムかな?」

「なんで疑問形なんですか(笑)」

「いや、凝ったヤツってそういえば選ばないなって思ってさ。じゃあお前は?」

「え?俺ですか?好き嫌いよりできるだけ野菜を食べようと思うんで、レタスとかいっぱい入ったのかな?あ、キュウリのサンドイッチ好きです。」

「イギリスの話に出てくるよなキュウリのサンドイッチ。」

「ええ、シンプルですけど美味しいです。」

 

「じゃあおむすびは?」

「コンビニだったら最近変なの売ってるよな。まあ、定番のエビマヨとかイクラ鮭とかかな。」

「この間オムライスのおむすび売ってましたよ。薄焼きタマゴの内側にケチャップ入っていました。」

「おむすびってなんでもいけるよな。天むすとかお前好きそう。」

「あ、好きです。あれば買います。」

会社の近くにその場で作ってくれるおむすび屋さんがあってあら塩がしゃりっとして、タクワンを三切れつけてくれる。

ワサビの葉とか生姜とか少し素朴で美味しいおむすびがいろいろあったことを思いだした。

 

「色は?」

「色ですか?」

「好む色ってあるんじゃね?」

「そうですね…。やっぱり寒色系になりますけど今は…、」

「今は?」

「高野さんの瞳の色が好きです。」

 

高野さんは珍しく素で驚いたようで目を丸くした。

そう、高野さんの猫のような瞳は煮詰めた砂糖の飴のような色をしている。

コロコロと舐めたらジンワリと温かい甘みが出てきそうだと思っていた。

 

 

質問を答え、そしてそれにまつわる話は尽きなくてホールとはいえ小さなケーキはとっくに食べ終わっていた。

 

「俺の好きな色も聞いて。」

 

大好きな瞳を見つめていたら高野さんが俺の頬を猫の喉を撫でるように摩って言う。

 

「なに色ですか?」

 

聞きながらも答が分かったような気がした。

 

「俺も律の瞳の色が好きだ…。」

 

そう言いながら瞼に唇が近づいて反射的に目を瞑ると高野さんの舌がペロリと睫毛を舐めた。

テーブルを挟んでいるから身を乗り出してやっと触れられる距離で、でも睫毛の根元の感触が瞬時に全身に伝わり、ブルリと背筋が震えた。

 

顎にある指を掴んで「俺も高野さんの目を舐めたいです。」と言うと高野さんはさらに顔を近づけた。

 

「まだ遠いです…。」

 

目の前にあるのに遠い。

だって間にテーブルがあるから。

抱きしめたいのに抱きしめられないから。

 

両手を上にあげるとやっと意図が分かったらしい高野さんはにっこりと笑って近くに寄って来てくれた。

 

ギュッと抱きついてそっとささやく言葉は

 

「酔ったみたいです。」

 

 

 

きっと何杯も飲んだスパークリングに酔っているんだ。

 

だって俺はお酒に弱いから。

 

だから食事の途中でお行儀が悪いとかもう関係ないよな。

 

コロコロと飴玉を舐めるように高野さんをなめてみたい。

 

そしてきっと同じように俺も転がされるんだろうな。

 

 

 

 

俺達の記念日の夜は、そんな風に締めくくられるのがふさわしい。

 

きっと。

 

 

 

 

 

真ん中バースデー

おしまい。

 

 

 

 

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