襲撃は突然だった。
虚退治に流魂街の外れまで狩りだされ、
いざ来てみれば虚の影など一つも見当たらない。
情報は嘘だったのか。
これで何もなかったら骨折り損ではないか。
「どうします? 隊長」
私が日番谷隊長に声をかけ、隊長が口を開きかけた時だった。
突然斬魄刀に手をかけた日番谷隊長は空を睨み、
「来るぞ!」
と、叫んだ。
その瞬間、無数の
黒膣は十番隊を囲むようにして開き、次々に流魂街へと降り立つ。
「何だ、この大群は!?」
隊士の一人が叫んだ。
しかし、十番隊の中でも精鋭を連れてきただけあって誰一人戦意を喪失していない。
斬魄刀を構えいつでも動ける様に陣形を組んでいた。
「俺が行く、続け!」
日番谷隊長の声に隊士達が応と答えた。
「霜天に坐せ! 氷輪丸!!」
始解の解号を叫び、氷の竜を産み出し、巨大虚と大虚をぶち抜いた。
それに私が続き、部下が続く。
隊長が殿を務め、更に竜を呼び出した。
二頭の竜が虚達を足止めすることに成功し、隊長も包囲網から突破した。
包囲を抜け、一瞬だけだが隙ができた。。
戦うか、退くべきかと考えたがためにできた隙だ。
その隙を読んだのか、大虚が一斉に虚閃の準備を始めた。
「退け!!」
隊長の声に私も隊士達も背後の虚閃に気を付けながら距離を取り始めた。
しかし、大虚の構えた虚閃は私や隊士ではなく、隊長一人に向いていた。
「隊長!!」
私の声と同時に、虚閃が放たれた。
赤い閃光に飲みこまれた隊長。
爆音と共に吹き飛ばされた私は空中で霊子の足場を作り着地する。
すぐに隊長の無事を確認せねばと思い、一歩を踏み出そうとした時だった。
それを阻止するかのように蟷螂のような腕をした最下級虚が私に襲い掛かってきた。
咄嗟に弾き、距離を取ると、隊士達がそれぞれ虚と戦闘になっているのが見えた。
分断された事に気づき、それを行った司令塔な役割を担っている虚が居ることも分かる。
簡単には隊長の所には行けそうにない。
「唸れ! 灰猫!」
刀身が灰状に霧散し、蟷螂腕の最下級虚を両断する。
目の前の視界がクリーンになり、隊長の姿が確認できた。
焦げ跡が目立つが大きな怪我はしていないようだ。
「隊長! ご無事ですか?!」
「問題ねぇ! それより松本! 部下を集めろ! 個人で戦うんじゃねえ!」
虚との実践に置いて大事なのは個人で戦わないことだ。
私は身近にいた十番隊三席の池田に声をかける。
「三人体制で巨大虚を制圧するわよ!」
「了解!」
左右に別れ、まずは部下を集めるべく虚を薙ぎ払っていく。
数名を確保するとそのまま巨大虚へと向かわせる。
後ろで見守る大虚と最下級虚が奇妙だ。
恐らくは最下級虚の中に司令塔がいるはず、そいつさえ倒してしまえば……。
しかし、この大群の中、その一匹を探すのは至難の業だ。
その時は一瞬だった。
大虚が再び虚閃を撃ったのだ。
今度は無差別に、隊士と対峙している巨大虚を気にも留めず隊士諸共。
20を超える隊士が負傷し、戦線から離脱。
善戦していた私達は一気に劣勢へと追いやられてしまった。
卍解している隊長の背後に見える花びらも、既に半分程散っている。
もう長くは持たないだろう。
援軍を呼ぶと同時に四番隊の派遣も頼んだのだが、未だに到着した様子はない。
真正面から我先にと向かって来ていた巨大虚を斬り捨て、溜息をついた。
「キリがない……」
一度距離を取って体勢を立て直すか、
前線で戦い続けている隊長に指示を仰ぐのは無理だろうと決断し、
周囲を見渡した時だった。
隊長の卍解が解けた。
一気に落ちた霊圧に、これ幸いと大虚が虚閃を撃った。
「隊長!!」
防御も儘ならず、虚閃に撃たれた隊長がボロボロになって倒れた。
トドメを刺さんとばかりに襲い掛かった虚達に割って入り、灰猫で隊長毎覆った。
虚の攻撃を防ぎ切った私は、隊長を抱えて下がる。
これ以上の戦闘は危険だ。
私は重傷者を軽傷の隊士に運ばせることにした。
残った数は僅か50余り。
これだけの人数で100以上の虚を相手に出来るだろうか?
戦い続けて緊張が解けない。
一瞬でも判断を誤れば死が待っている。
恐怖に飲まれたら負けだ。
全員を集めて鬼道で結界を貼り、そこに籠る事も考えたが、
いつ到着するかも分からない援軍を待つために霊力を消費するのは良くないだろう。
かと言って戦い続けても負傷者が出続け、全滅になる。
作戦を考える時間もある訳もない。
とにかく適当な防衛線を作ってそこを守るしかない。
隊士達に指示を出していると、近づいていた虚に気づくのが遅れた。
慌てて灰猫で虚を斬ると、背後から細い糸が飛び出し、私の腕に張り付いた。
「しまった!」
何とか剥がせないものかと腕を引くも、糸が切れる様子は無い。
そうこうしているうちに両手足を絡め取られ、
いつの間にか張り巡らされた蜘蛛の糸に体を拘束されてしまった。
「くっ!」
『おぉ、おぉ、こりゃあえらいべっぴんさんが釣れたもんじゃ』
糸を伝って大型の蜘蛛の虚がやってきた。
話すことができるとは、恐らくこいつが司令塔の役割を持っているに違いない。
負けたつもりはないと睨み付けると、蜘蛛は大仰に長い腕を動かした。
『気の強い女は好きじゃぞぅ? 衣服を一枚一枚破き、その肌を晒したが最後、我が子を孕んでもらおうかのぅ』
ククク、と笑う蜘蛛に、私は下衆めと悪態をついた。
首を回せる範囲で見れば、隊士は私が捕まっている事に気づいている。
しかし、巣を守るようにして巨大虚が固まり、大虚がでかい足で動き回る。
どんどんと遠ざかっていく隊士達の姿に、私は焦りを感じた。
『さぁて、邪魔者は消えた所で、お楽しみといこうかのぅ……』
蜘蛛の前足が器用に私の死覇装にかかった。
少し間違えれば肉毎斬られてしまいそうだ。
思わず目を瞑り、歯を食いしばる。
『そぉれ』
死覇装が裂かれたと思ったら、私の胸元に足の先が刺さっていた。
「何をっ?!」
『カカカッ、すぐに分かるわい……』
ビリイ、という音と共に死覇装が左肩から縦に裂かれた。
下に着ていた着物まで一緒に裂かれ、私の腕から腰までが露わになる。
「やめてっ!」
こいつは本気だ。
私をすぐに殺さず、本能のままに私を犯すに違いない。
足や腕を力の限り動かすも、糸はまるで荒縄かと思う程きつく締ってきた。
『おぉぉぉおお、美しい肌じゃ、どれ、もう半分も……』
蜘蛛の足が右肩にかかる。
この足が動けば私は裸体を晒すことになる。
戦って負け、潔く命を取られるのならまだ納得しよう。
だが、この体を穢され、虚の子を孕ませられると言うなら……。
『さぁ、さぁさぁさぁさぁ!!!』
嬉々として足を降ろしにかかる蜘蛛。
時間をかけるつもりなのか、足はゆっくりとしか動かない。
肩の部分が裂かれ、脇へと移動していく。
辱められる姿を見たくないがために目をギュッと瞑る。
ビリ、ビリと布の避ける音が耳を打つ。
『さぁ、もうすぐじゃぞ』
「悪いがそこまでだ、この変態蜘蛛野郎」
いつの日か知り合った。
隊長と同じ背ぐらいの男。
隊長が隊長になって暫くして会いに行き、互角の戦いを見せた男。
黒沼千歳が、蜘蛛の足を斬り捨てていた。
「女性には優しくしろって教わらなかったか?」
琥珀色の瞳に怒りを見せ蜘蛛の顔面を鬼道で攻撃した。
蜘蛛が痛みに悶え、糸を伝って離れていく。
黒沼は私の両手足の糸を斬ると、私の腰に腕を回した。
「遅くなって申し訳ありません、松本副隊長……こいつは俺が相手しますから……」
「え、えぇ……」
命の危険に颯爽と現れ、助けられる。
私の心臓はバクバクと音を立てていた。
こんな時に何を考えているのか、私は周囲を見渡す。
「えっ……?」
口から出た言葉は、驚きに満ちていた。
先程まで巣を守るようにして動いていた虚が見当たらないのだ。
「まさか、これを一人で……?」
「どうかしましたか? 松本副隊長……あ、すみません……」
私の疑問に「何が?」と言う顔で見てきた黒沼が、何かに気づいた。
脇に回された腕が離れ、私は一人で立つ。
すると黒沼は、斬魄刀で死覇装の腰より上を斬ると、
羽織のようになった死覇装を私に渡した。
「これで体隠してください、気づかなくてすみません……」
言われてみれば、私は死覇装の肩がないタイプを着ているようだ。
「あ、ありがとう……」
私にしてみれば少し小さい死覇装を羽織り、
私は治療が行われている所へと向かった。
さっきからバクバクと脈打つ心臓が、妙に煩かった。
きっと私は今、顔が赤い。
どうして……。
彼にこんなに惹かれるの……?
ギン……。
今回は最初から最後まで松本さん視点でした。
松本さんがひんむかれてヤられるシーンを期待した方にはごめんなさい。
本格的なのはまだ先になります。
いくつフラグを立てられるか……。
それにしても、暑い。
今日は久々に外の現場だったので熱中症になりかけました。