真央霊術院に編入して一ケ月。
クラスメイトとも打ち解け、良い具合にクラスの一員になれている今日この頃。
授業にも追いつきつつある中、試験結果が張り出されていた。
ずらっと並ぶ名前を中盤当たりから上へと眺めていく。
「あ、あった」
3の数字の横に、黒沼千歳と書かれていた。
今回の試験は鬼道、白打、歩法、斬術、座学の5教科から採点され、1教科満点が100となっている。
俺の点数は480となっているので、全部の教科で平均的な点数を取ったのか、
どれか一つの教科で落としてしまったのか、の二択が考えられる。
「まぁ、間違いなく座学だろうなぁ……」
そうぼやきながら、上の二人を見る。
2番は知らない人で、1番は……。
「日番谷冬獅郎……」
「なんだ?」
「っっ!」
1番の名前を読み上げたら、隣から返事が返ってきた。
驚きに声を上げそうになるのを堪え、隣を見る。
そこには、俺を真っ直ぐに見つめる翡翠の眼をした、少年、日番谷冬獅郎が立っていた。
「あ、あぁ、1番が、知っている人だったから、つい名前を……」
「お前も3番じゃねえか、編入したてで総合3位、どっかで勉強してたのか?」
その言葉にすぐにも返事をしてやりたいが、試験結果を見に来る一団を目にし、移動しようと日番谷に目を配る。
意図を理解したのか、頷いて歩きだした。
霊術院の外、中庭に位置するそこに座り込んだ俺と日番谷。
「それで? 俺の質問には答えてくれるのか?」
「勉強は寮でやってた、教えてくれる人はいなかったよ、俺のいた所、外れだったから」
外れ、それだけで理解ができたのか、日番谷は「よく入れたな」と感嘆と声を漏らした。
「薬草を摘みに来た四番隊の人に連れてきてもらったんだ、虚って言うんだっけ、あの化物とも、山の中じゃ何度も戦ったし」
「虚を相手にしたことがあるのか?! 俺達も演習で何度か戦うが、単独で倒したことなんざ数える程度しかねえ」
「た、たまたま弱い奴だったんじゃないかな、霊力は高いほうだって褒められた事あるし」
俺の事を話したので、今度は俺の番だ。
「日番谷は、どこの出身なんだ?」
「俺は西流魂街一地区「潤林安」だ、ばあちゃんと、幼馴染と一緒に暮らしてた、俺がここにいるのは、俺の霊力が高すぎて一緒に住んでたばあちゃんが死ぬって死神に言われたからだ」
時々遊びに行ってるとまで話した日番谷に、俺は相槌を返す。
「せっかくだから瀞霊廷を案内してやるよ、どうせ寮で勉強ばっかしてんだろ?」
立ち上がった日番谷が不敵に笑いながら言う。
「それじゃあお言葉に甘えるよ、実を言うと今回の試験、座学の瀞霊廷内の地理で落としたかもしれないんだ」
「あんまり外に出ないやつには苦労する問題だな、まぁ、死神になったら瀞霊廷の守護も仕事の一環になる、迷子になるようじゃ困るって意味だろ」
日番谷の指摘に適当に返し、案内を頼んだ。
飯屋から小物屋、恩人の死神に連れていかれる飲み屋まで案内され、
今回の試験で出された瀞霊廷内の場所を巡り終わると、二人して小物屋へとやってきた。
「何か欲しい物でもあんのか?」
「日番谷の話を聞いていたら、俺もお世話になった人にお礼をしたくなってね」
この一ケ月、卯ノ花さんとは会ってない。
もし恩人がただの一般隊士や席官クラスの人ならば会うこともあっただろう。
しかし、俺の恩人は四番隊隊長の卯ノ花さんだ。
仕事も忙しいだろうし、何より霊術院の生徒が会える訳がない。
時々ではあるが、特別授業として護廷十三隊の隊長が出てくる事があるが、運が悪いのか、俺は卯ノ花さんに会ったことはない。
その代りと言ってはなんだが、八番隊隊長の享楽春水さんと、十三番隊隊長の浮竹十四朗さんは良く霊術院に顔を出しては、熱心に指導をしてくれる。
といっても、享楽隊長は浮竹隊長について若い女学生にナンパをかけるだけなのだが……。
店を見廻しながら、何がいいかと物色する。
(卯ノ花さんはいつ見ても同じ髪型だから、髪留めや髪飾りは使いそうにない……というよりも、無駄な装飾を嫌いそうだ……)
あーでもない、こーでもないと悩みながら、ついに見つけた一品。
「これにしよう」
手に取ったのは、俺の手には細い万年筆。
しかし、卯ノ花さんの指の細さなら、丁度良い感じになるのではないかと思う。
一ケ月前にされた行為を思い出し、少し顔を赤くしながらも、万年筆を購入。
どうやって渡そうかと思い悩みながらも、今日の所は寮へと引き返した。
翌日、食堂で鉢合わせた日番谷に院生が十三隊の隊舎に行くことは出来るのか? と聞いたところ、
知らないと答えが返ってきた。
「そもそも、俺に死神になれと言った奴はいつも向こうから来る、なんならそいつに頼んだらどうだ? 隊が違っても渡すことぐらい出来るだろ」
日番谷のありがたい申し出に頷き、俺は急いで朝食を書き込み、日番谷の待つ場所へと向かった。
甘味所へと先に向かっていた日番谷を見つけ、声をかける。
「来たか黒沼、松本さん、こいつが話した黒沼だ」
日番谷の声の先には、死覇装を桃色の帯留めで留め、胸元を大胆に開けた明るい髪の色をした美女だった。
「この子が? あんたと同じで可愛い顔してるわねぇ」
ふふん、と笑いながら俺の顔をじろじろと見ている松本さんに、俺は思わず一歩下がった。
「止めてやれ松本さん、気味悪がってる」
「ちょっと、気味悪いって何よ、こぉんな美人に詰め寄られて嫌がる訳ないじゃない」
「どこが……本性を知れば誰だって引く」
「あ、ちょっとアンタ、最近生意気になってきたわね」
「さぁな、元からだ」
俺を余所に口喧嘩を始めた二人をどう止めるか迷いつつ、お茶と団子を頼む、
若い女性が持ってきたお茶と団子を楽みつつ、まだ終わらないなぁ、眺めていると、救いの手が差し伸べられた。
「いい加減にし、乱菊、若者はいじめるもんやないでぇ?」
「市丸副隊長……どうしてここに」
現れたのは、5番隊の副隊長、市丸ギンだった。
「散歩しとったら乱菊が見えたから」
顔にはりつけた薄ら笑いを柔らかい笑みに変え、松本さんの頭を撫でた。
「それで、こっちの二人は乱菊の知り合い? 君は、会うた事あるね、日番谷冬獅郎クン、やったな?」
「そうだ」
知っているのに、わざと思い出したように話す市丸副隊長に、日番谷は気づいているのか、無愛想な態度で返した。
「ちょっとアンタ、副隊長に向かってなんて口の利き方」
「かまへんよ、まだ正式な死神やあらへんのやし」
「だそうだ、文句あるか?」
三人のやり取りを見ていると、市丸副隊長が俺を見た。
「君は初めてやね」
「真央霊術院院生の黒沼千歳と言います、市丸副隊長」
「黒沼? 東流魂街の外れの名前やね、千歳……キミ、もしかして朽木隊長蹴り飛ばしたって言う噂の?」
「「はっ?」」
市丸副隊長から告げられた言葉に、松本さんと日番谷が揃って声を上げた。
「ほんまなん? ボクは現場見とらんから知らへんけど、この間の隊首会で朽木隊長が叱られたって隊長から聞いたもんやから」
「叱られる? どうしてです?」
これには松本さんが第一に声を上げた。
「なんでも、死神でもない者に手を上げたあげく、反撃されたからとか、ほら、一ケ月ぐらい前に一番隊隊舎でえらい大きな霊圧感じたやろ?」
「一ケ月前……あ、思い出しました、確か四番隊の卯ノ花隊長が連れてきた子だって聞いてますけど」
「それが黒沼……なのか?」
俺を除いた三人の会話は纏まったのか、答えを知りたそうに俺を見ている。
「間違ってないよ、俺は卯ノ花さんに連れてきてもらったから、松本さんに会いたかったのは、これを届けてほしかったからなんですよ」
紙袋に入った万年筆を持ち上げ、松本さん達に見せた。
「なるほどねぇ、いいわよ、私が届けてあげる」
「ありがとうございます、お願いします」
紙袋を松本さんに渡し、店の店員に勘定を払って立ち上がる。
「それじゃあ、日番谷、松本さん、市丸副隊長、俺はこれで失礼します」
「あれ? もう帰るん? もっとゆっくりしてってもええのに」
「いえ、勉強がありますので」
そう言って頭を下げ、俺は寮へと戻っていく。
「勉強、ボクは1年で霊術院卒業したから、あんました覚えないなぁ」
立ち去っていく千歳を見ながら、市丸は自分がどうだったかを呟いた。
そして市丸も「ボクも、散歩の続き」と言って歩いて行った。
「あの子、頭は良さそうだけど、成績悪かったの?」
「いや、総合で3番だった」
日番谷はそう言って、最後の団子を手に取る。
「へぇ、すごいじゃない」
「そうだな、編入1ケ月で総合3番だし、見ている限り俺や草冠に並ぶのも時間の問題だな」
「そうね……さてと、じゃあ私はコレ、届けに行くわね」
紙袋をヒラヒラと見せ、立ち上がった松本は、勘定を払い終えていた。
「あぁ、またな」
「またね、アンタ、あいつに負けないように頑張りなさいよ?」
日番谷はそれに対し「当然だ」と返す。
松本は満足した笑みを浮かべ、去っていく。
彼が編入して1ケ月、私は彼が心配でなりません。
勉強についていけているでしょうか?
いじめられてはいませんでしょうか?
仕事に手がつかないぐらい心配になるあまり、副官の勇音に心配さる始末。
「はぁ」
「隊長、また溜息ばかり、そんなに心配なら、様子を見に行ったらどうですか?」
勇音はそう言うが、それは出来ない。
総隊長により、私は彼に会う事を禁じられている。
「隊長が院生に会いに行くなど贔屓しておると見られ、それこそ彼を苦しめる原因になりかねん、卯ノ花隊長、黒沼千歳に会う事は禁ずる」
そう告げられた時の私の落ち込みっぷりは、古株の享楽隊長や浮竹隊長に見抜かれてしまいました。
霊術院の指導によく行かれる浮竹隊長から、千歳さんが元気にやっていると話しを聞くと、余計に彼に会いたくなる。
彼が霊術院に入る日、この手で彼を汚したのは彼の初めてが私であると彼に刻み込むため。
今でもあの時の彼の顔を思い出しては、一人夜に身を慰める事がある。
勇音に心配ありませんと答え、書類を片付けお茶を頼むと、扉の奥から声がかかった。
「失礼します、十番隊の松本です、入室してもよろしいでしょうか」
他の隊の者が直接ここを訪ねるなど、めったにない事です。
私は「お入りなさい」と声をかけ、入室を促した。
入ってきたのは胸元をぱっくりと開いた金髪の美女。
市丸副隊長と同期だと聞いた松本乱菊である。
「事前に連絡もなく、ご迷惑をおかけします」
「いえ、丁度一段落したところです、ご用件は?」
「これを届けるようにと頼まれました」
差し出されたのは小さな紙袋。
私に物を贈ってくる人物は限られているが、その殆どが甘味や和食のお裾分けだ。
「何方からでしょうか?」
「霊術院の黒沼千歳からです、中身は確認しておりません」
「千歳さんから?」
私は渡された紙袋をその場で開くと、中から取り出した物は、万年筆だった。。
装飾の無い、使いやすそうな万年筆が手の中に転がった。
「これを千歳さんが?」
「はい、お世話になった人に礼を忘れていたと言っておりました」
手の中でしっくり来る万年筆を見つめ、笑顔になる。
「ありがとうございます、松本さん」
「いえ、それでは私はこれで失礼させていただきます」
「はい、ありがとうございました」
松本の退室を見届け、私は万年筆を両手に抱き、ほぅ、と息を吐いた。
(贈り物がこんなに嬉しいとは、千歳さん、早く卒業して私の所へ帰ってきてください……貴方に教えることは沢山あるのですから)
千歳さんへの想いを寄せ、この想いは母性や保護欲ではなく、恋慕である事に気が付く。
小柄で細見、男と言うよりも少年、しかしながら男の象徴であるアレは立派であった。
今夜は眠れそうにない、と私は深く深く、恋慕の募った溜息を洩らすのであった。
書き忘れていましたが、卯ノ花さんの一人称である「私」の読み方は「わたくし」です。
ルビを振るまでもにないと思っていましたが、「わたし」と読んでいる方がいましたら、どうか「わたくし」と意識して読んでいただけると嬉しいです。