目が覚めた時、俺は清潔な白いベッドの上で横になっていた。
周りがすこしざわついており、何だ? と視線だけ動かせば、せわしなくうごく四番隊の隊士達。
あちこちで治療が行われているのか、何が起こったのか全く理解できないでいた。
「目を覚ましたか? 悪いが応急処置しかできなかった、今は怪我人が多くてな」
俺の傍に寄ってきた四番隊の隊士はそう言って立ち去っていく。
そこかしこでうめき声が上がっている。
中には、俺と同じ院生も横になっている。
「おい! こっちに人を回してくれ!」
「今それどころじゃない!」
「A型の輸血袋はまだ?!」
忙しなく動き回る隊士達を横目に見ながら、俺は再び眠りについた。
今の俺に、出来ることは何もないと、無力さを噛みしめながら。
時を遡り、真央霊術院の院生が現世へと遠征へ出て暫く経った頃。
西、南流魂街で虚が大量発生したと言う連絡が瀞霊廷内を駆け巡った。
情報の統制のため隠密機動を得意とする二番隊が率先して動き、各地から情報を齎す。
実働部隊には戦闘専門部隊の異名を持つ十一番隊が南流魂街の最前線へ向かった。
三番隊、五番隊は西流魂街へ、四番隊は治療所を開き、受け入れ態勢を整えていた。
その他の隊は瀞霊廷の守護に周りつつも、いつでも動ける体制を取っていた。
「部下の報告によると、虚たちは少なからず結託した動きを見せているとの事じゃが、総隊長どの、どう思われる?」
一番隊隊舎にて情報の統制と発進を行っている総隊長、山本元栁斎重國は数瞬目を閉じた後、口を開いた。
「分からん、虚が結託するなど過去を遡ってもそうない事じゃ……前線へ出ている隊に通達、一刻も早く虚を殲滅、流魂街への被害を抑えよ!」
「御意に」
控えていた雀部が部屋を出て、この部屋にいるのは総隊長、二番隊隊長四楓院夜一、
四番隊隊長卯ノ花烈、八番隊隊長京楽春水、十三番隊隊長浮竹十四朗の5名である。
「それにしても、虚が結託ねぇ……どんな目的があると思う? 浮竹」
表情に鋭さはないが、その実今回の真相を暴かんと頭を回転させる京楽の問いに、浮竹はこう答えた。
「瀞霊廷を狙うなら直接向かってくるはず、しかし発見されたのは流魂街、もしかしたら流魂街に何かあるのかもしれないな」
「それについても部下に調べさせておる、虚を統率する動きを見せる虚もな」
浮竹の行き着いた答えに先にたどり着いていた夜一は、既に部下を動かしていた。
「でも、なんでこのタイミングなんだろうねぇ、日は沈み始めたばかりだと言うのに……」
「そういえば、今日は霊術院の院生が現世へと演習に向かっていたな……」
「奴等の狙いは現世か? しかし、黒膣を通れば安易に移動は出来るはず……その線は薄いじゃろう」
現世への進攻の可能性は薄い、そう言った夜一、議論が展開されようとした矢先、
総隊長が「静まれ」と声をかけた。
それと同時に現れた地獄蝶が総隊長の指に止まった。
「こちら現世演習に向かった十一番隊の者です! 演習後、巨大虚20体と遭遇! 大至急応援を!」
焦った声で繰り返された報告に、誰よりも早く反応したのが卯ノ花である。
「総隊長、こちらの負傷者は副隊長の勇音を筆頭に残します、現世へは私と、申し訳ありませんが京楽隊長、お願いできますか?」
「僕? 構わないけど」
声の先には未だ厳然として座り込む総隊長を向いていた。
「巨大虚20体に隊長が二人も出向く必要を感じぬが、念のためじゃ、今すぐ穿界門を通り現世へ急行せよ!」
「はい」
「それじゃあ、卯ノ花隊長、さっさと行って済ませましょう」
卯ノ花はそれに頷き、享楽と伴って一番隊隊舎を出た。
隊舎の中庭で穿界門を開き、瞬歩を使って走り出す。
物の数秒で穿界門を通り抜け、現世へとやってくる。
出た場所はビル街の屋上、地点がズレたのか、周りに巨大虚は愚か、院生や隊士の姿すら見えなかった。
どうするか、と京楽に聞くべく振り向いた瞬間、覚えのある霊圧を感じた。
「この霊圧、始解でもしたのかねぇ……」
「いえ、派遣された十一番隊の隊士に始解を習得している者はいません……」
元々、現世の演習に派遣されるような隊士は席官に名を連ねている者はいない。
少々手練れな一般隊士だ。
それでも十分なのは、彼等が十一番隊の隊士だからだ。
昔から、十一番隊の隊士は個人の戦闘能力が大きい。
集団戦闘を得意とはしないが、一対一での戦いでは他の隊の隊士よりも強いのは周知の事実だ。
「じゃあ、この霊圧は一体……」
「行きましょう、今は一刻も早く隊士と院生を救出し、尸魂界に帰還しなくては」
「そうだね」
話しを纏めた卯ノ花は、京楽と共に瞬歩で移動を開始する。
ようやくたどり着いたそこに、巨大虚はいなかった。
「おや、どうやら僕達の援護は必要なかったみたいだねぇ」
京楽はそう言って横目で卯ノ花を見るが、そこに卯ノ花はいなかった。
おや? と顔を動かせば、倒れこむ院生を抱きかかえる卯ノ花隊長の姿。
何が起こったのか状況を聞こうにも、隊士も院生も卯ノ花隊長に抱きかかえられた院生を見つめており、話しが聞ける状態ではなかった。
「おーい、キミ達ぃ、悪いけど虚がいなくなったのならさっさと穿界門を通ってくれないか? こっちも立て込んでてね」
「きょ、京楽隊長?! 隊長自ら出てくるとは、何事「いいから、さっさと戻るんだ」
十一番隊の隊士の声を遮り、京楽は帰還を促した。
隊士が穿界門を開き、無事な院生二人を連れて穿界門へと入っていく。
「卯ノ花隊長」
「大丈夫です、応急処置は済ませました……」
小柄な少年を抱きかかえた卯ノ花隊長は、まるで宝物のようにその少年の顔を見つめている。
「その子、もしかして……」
無言の肯定を示す卯ノ花隊長に京楽は「なるほど」と一人納得した。
大事な弟子を死なせる訳にはいかない……か。
穿界門へと歩いていく卯ノ花隊長の背中を見て、
京楽は「人は変わる生き物なんだねぇ」と、苦笑いした。
(あの、卯ノ花
尸魂界に帰還した卯ノ花は、自分の隊者に向かい、
隊士に千歳を寝かせておくように命じ、重傷者の治療へと周った。
事態が収束したのは朝日が昇り始める頃だった。
誰かに見られているような視線を感じ、俺は目を覚ました。
「うの……はな……さん?」
「ご気分はいかがですか? 黒沼さん」
まるで他人の振りをするかのように名字を呼ばれ、呆然とするも、
ここでは院生と隊長と言う関係であることを思いだし、
「大丈夫です、卯ノ花隊長」と返した。
「それなら結構です、寮に戻って療養してください」
去り際に「無事でよかった」と、慈愛の籠った笑みを向けられ、俺は胸が高鳴る。
俺はどうやら本気で卯ノ花さんに惚れているらしい。
体を解し、動ける事を確認した俺は四番隊隊舎を後にし、寮へ向かった。
寮に戻る途中、やたらと視線が痛かったのは、何故だろうか……?
なんだか居た堪れなくなり、視線が地面へと向かう。
「黒沼っ!」
寮の前で声をかけられ、下げていた視線を上げると日番谷が駆け寄ってきた。
「日番谷か、どうした?」
「どうしたじゃねえ! もう怪我はいいのか?」
「良いから戻ってきてるんだ、卯ノ花隊長からもしっかり療養するよう言われた」
「だろうな、腹に風穴開いてるの見た時は正直助からないと思ったぐらいだ」
酷い言われ様だな、軽く日番谷の肩を叩くと、「助かって悪かったか?」と悪戯心満載で言ってやった。
慌てて取り繕う日番谷が面白く、俺は暫く日番谷をイジって遊んでいた。
――…………ノ……声……える……か?……――
「ん?」
「どうした?」
寮へ入ったと同時に、俺は足を止めた。
不審に思ったのか、日番谷も足を止めた。
「まだどこか調子が悪いのか?」
「いや……」
――……名…………知れ……――
「声が、聞こえた気がするんだ」
「それは気のせいじゃねえよ、俺も昔、潤林安にいた頃から同じ夢を見続けてる、俺が死神になろうと決意したのは、俺の持つ力とその夢が、ばあちゃんを殺しちまうって松本に言われたからだ」
「そ、そうなのか……じゃあ……」
「今日にでも、夢を見るんじゃないか?」
それははたして嬉しい事なのか、俺はどうすれば良いのか分からないまま、寮の自室へと入った。
しかし、その夜、俺は何の夢も見なかった。
ただ、代わりに声が聞こえた。
――……いずれ、また……――
卯ノ花視点は一人称視点ではなく、三人称(あってるかな?)で書いてみました。
それぞれに視点が変わるので、一人称ではやりにくと思い、実行。
書き方が定まらないとか言わないでください、全力で泣きます。
一気に始解習得か? と言うところでおあずけです。
理由として、院生時代に持っている浅打は貸し出し用で、常時持っていないこと、
十三隊のうちどれかに配属された時に正式に授与されるからです。
斬魄刀の解放には長い時間がかかると解説にはよくありますが、それについては作中で……。