まずは小手調べ、相手の出方を見ようしたで俺の前に瞬歩で現れ、黒沼が突きを放った。
弾く前に届く、瞬時に判断し突をバックステップで回避、そのまま距離を取った。
「破道の三十一 赤火砲!」
左手を黒沼に向け、詠唱破棄した鬼道を放つ。
黒沼に向かっていく赤火砲が着弾すると確信した時、
無造作に突き出されていた黒沼の斬魄刀に当たり、赤火砲が消えた。
「吸収したのか……?」
「教えると思うか?」
戦いの基本、自分の手の内を明かすべからず。
院生時代、訓練を受ける前の教えだ。
懐かしい思い出が一瞬頭をよぎるが、目の前に出てきた影に意識を切り替える。
袈裟切りを放つ黒沼の斬魄刀を氷輪丸で受け止める。
「――」
黒沼が俺には聞き取れないぐらいの小さな声で何かを呟いた。
何を、と思った次の瞬間、黒沼の持つ斬魄刀が赤く輝き、刀身から炎が噴き出した。
「なにっ?!」
黒沼の斬魄刀を弾き、ステップで下がる。
炎熱系の斬魄刀か? しかし、それにしては熱量があまり感じられなかった。
黒沼は弾かれた斬魄刀をそのまま振り下ろした。
何をしている?
その疑問は、一瞬にして解けた。
黒沼の斬魄刀の切っ先に、炎の球が出来上がっており、
振り下ろしたと同時に俺へと飛んできたのだ。
赤火砲をやり過ごすため瞬歩で移動した際に、俺は気づいた。
先程俺が撃った赤火砲の霊力が飛んできた炎の球から感じられたからだ。
「なるほどな、さっき消えたように見えたアレは、お前斬魄刀の能力か」
「ただの一度で見破ったその頭脳は素直に褒めてやる、隊長が無能じゃ部下が困るからな」
冷静に分析し、それを指摘する、しかし黒沼は両手を大仰に身振りし、笑った。
「てめぇ……どこまで俺をコケにしやがる!」
「どこまでも」
一瞬にして真顔になり、殺気をぶつけてくる。
こいつがどうしてここまで怒るのか、
俺の不甲斐無い姿を見ただけでここまで怒った事があっただろうか?
今までも黒沼に助言を求めた事はあった、俺のどこがお前を怒らせたんだ……黒沼。
日番谷との戦闘が始まり、開始早々に見せた能力が見破られた。
流石、院生時代に天才と言われ、史上最年少で隊長に任命されただけはある。
だけど、今のお前じゃ本当に誰もついてこない。
思い出せ、院生時代、他人に何を言われようが跳ね除け、結果を残してきた事を。
(お前がそれを思い出せば、隊は簡単に纏まるって事にな)
斬り合い、撃ち合い、時には白打を混ぜ、勝負は全くの五部と五部。
「霜天に坐せ! 氷輪丸!!!」
船橋をひっくり返そうと言うのか、日番谷は始解の解号を叫んだ。
氷輪丸の桃尻に鎖で繋がれた龍の尾のような三日月形の刃物が形成された。
入隊前に聞いた、氷輪丸の能力。
触れたものを全て凍らせる水と氷の龍を作り出し、
斬魄刀そのものにも凍らせる能力が付加させられると……。
(全く、厄介な能力だ)
しかし、勝算はある。
こっちも始解は習得している、見せてやるよ……。
咆哮を上げ向かってくる龍に対し、何の構えも取らず、斬魄刀を龍に向けた。
氷輪丸と俺の持つ斬魄刀がぶつかった瞬間、何の前触れもなく、龍が消えた。
「なん……だと」
自慢の技を一瞬で消され、しかもその手法が分からないとなれば、
呆けてしまうのも仕方がないだろう。
だが、それは戦場において最もしてはいけない行為。
「余所見してんなよ! 返すぜ! 氷輪丸!」
振り下ろした斬魄刀の切っ先から、日番谷の放った龍そのものが現れ、
日番谷に食らい付き、氷の柱が出来上がる。
「……」
自分の技を打ち消され、あげくに撃ち返される。
呆けて油断をしても、日番谷はあの程度てやられるような奴じゃない。
暫く見守っていると、氷の柱に罅が入り、中から日番谷が出てきた。
「待たせたな」
「考えは纏まったか?」
出てくるまでに以外と時間がかかっていた。
恐らく俺の技について考察をしていたんだろう。
「あぁ、だいたいな……」
日番谷はだいたい、と言っているが恐らく謎を解いているだろう。
ただ、答えを知らないので断言できないだけだ。
「それで? まだ続けるか?」
「当たり前だ……俺は十番隊隊長、日番谷冬獅郎だ……席官ごときに負けてられねえよ」
「意地か?」
霊圧を高めていく日番谷に、問う。
「……あぁ、席官に負けた、俺が笑われるだけじゃなく、十番隊まで笑われちまう……」
それに、と日番谷は続けた。
「うるせえ部下共に俺の力を見せつけて、黙らせてやる」
晴れ晴れとした顔で言い放つ日番谷を見つめ、
ふっと笑い、俺は日番谷に向けていた斬魄刀を降ろした。
「何のつもりだ?」
「前言撤回する、今のお前なら誰が見ても隊長と呼ぶさ……」
「俺と戦うのが怖くなったか?」
自信満々に言い放つ日番谷に、俺はニタリと笑った。
「別に、お前が卍解を使おうとも、俺には勝算があるからな……」
「ほぉ……言うじゃねえか、だったら見せてもらうぜ」
俺に斬魄刀を向けるが、ふいと顔を逸らし、一言。
「断る」
「てめぇ……」
顔の半分を手で覆い、やれやれと首を横にふる日番谷。
氷輪丸を鞘に戻し、近づいてくる。
「帰るぞ」
そう言って歩き出そうとする日番谷に、俺は声をかけた。
「いやぁ……素直に帰れそうにないんだよねぇ……」
「はっ?」
振り返り、俺を見る日番谷。
しかし、俺が見ているのは日番谷の目指す方向のやや上。
そこに見える、巨大な不思議生物の上に乗る、卯ノ花隊長を筆頭にした複数人。
顔に冷や汗を浮かべた俺を見て、不思議がった日番谷も同じ方向を見つめ、固まった。
俺と日番谷に見つかった事で、不思議生物こと、卯ノ花隊長の斬魄刀が解放された姿、
「肉雫唼」が降りてくる。
「随分と派手な訓練でしたね、日番谷隊長」
女神のような笑みを浮かべ声をかけてきた卯ノ花隊長だが、
俺には卯ノ花隊長の背後に鬼が見えた。
日番谷は平静を装いながら答える。
「あぁ、黒沼三席を借りたこと、悪かったな……」
「いえいえ、偶には訓練相手が違うのも彼には良い刺激になったでしょう……」
思いがけない返答に日番谷はほっとする。
しかし、ここで安堵していてはダメだ……。
卯ノ花隊長は上げて落とすタイプの人だ。
「ですが、三席、それも卍解習得者でない相手に向かって解放しようとしたのは頂けませんね」
ギクリと体を固まらせた日番谷だったが、口は動いていた。
「そ、それについては謝るが、実際には解放してないんだ、問題ないだろ」
「そう言う問題ではありません、緊急事態でもないのに安易に卍解を解放しようとした、その過程が問題なのです」
やめておけ日番谷、言い返せば言い返すほど自分の立場が危うくなるぞ……。
哀れ日番谷、俺は助けられない。
「所で、なんでキミ達こんな所まで来て訓練しようと考えたんだい?」
「距離的にも瀞霊廷に居ては霊圧感知が難しい場所だ、万が一を考えなかったのか?」
京楽隊長と浮竹隊長、大の大人、この場合、俺より格段に背が高い二人に囲まれているため、威圧感が半端ない。
「あ、え……いやぁ……」
日番谷は卯ノ花隊長に口撃されているため、他の人達は俺に話を振る以外ないのだ。
「止めておけ、どうせ些細なことじゃ」
当人からすれば重要な問題でも、他人からすれば些細な事と言うのはあるだろう。
とくに、今回の隊長の在り方については……。
長年隊長を務めている3人にとって、隊長の在り方など当の昔に決まっているのだし、
今更悩むものでもないのだ。
「まぁ、あ奴は隊長になったばかり、知人に愚痴を漏らしたい気持ちもあったんじゃろうが……これは相手が悪かったと見るべきじゃな」
卯ノ花隊長にいつの間にかその場に正座させられ、
「はい、すみません、以後気を付けます、もうしません」などの、
決まった答えしか返さない日番谷を面白そうに眺め、夜一さんが言った。
「……周りから何を言われようと、あいつは結果だけを残してきました……だから今回もそうすれば良い、それに気付けなかったのは、あいつが隊長と言う役に怖気づいたからだと思ったんですよ」
怖気づいたと思ったのは、あくまで俺主観での話しだ、
本人はただ自信がないと言っていたが……。
公言していないが、自分も隊長を目指している身であり、
同期で自分より先にその役に就いておきながら泣き言を言いに来た日番谷に苛立ちを覚えた事は事実だ。
その事を話すと、浮竹隊長は「どうして隊長になりたいんだい?」と聞いてきた。
京楽隊長は「隊長なんて面倒な書類仕事ばかりだよ?」と。
「昼寝もロクにできんしな」とは、夜一さんの弁。
「役目や仕事には何の魅力も感じていませんよ、俺は憧れに近づきたいだけです」
「なるほど、確かに卯ノ花隊長は長く隊長職を務めている一人だし、憧れを抱くのは納得できる」
浮竹隊長が「がんばるんだぞ」と応援してくれる横で、確信めいた事を呟いたのは、
京楽隊長だった。
「そうかなぁ? 僕はただ好きになった人だから傍にいたいような気もするけど」
鋭い……。
そう思って京楽隊長を見上げると、「図星かな?」と笑われた。
「お主、以外と好き者じゃのぉ、あぁ見えて卯ノ花隊長は「私が何です? 四楓院隊長」
夜一さんが何かを言いかけた途端、それを遮るようにして卯ノ花隊長が割って入った。
それも、瞬神の異名を持つ夜一さんの背後に現れて、だ。
「お、おぉ……卯ノ花隊長、説教はもうしまいか?」
「えぇ、それより、私が何か?」
お主、以外と根に持つタイプじゃの、と呟いた夜一さんは、俺を盾にこう言った。
「こんな若い、それも部下である者を籠絡するとは、卯ノ花隊長も意外と乙女なんじゃな」
「し、四楓院隊長?!」
何を言い出すんですか、と慌てていると、目の前にいる卯ノ花さんが夜一さんから俺を奪い去り、その腕に閉じ込めた。
「婚儀は交わしてはおりませんが、彼は私の旦那になる方です、手はお出しになさらないようお願いいたします」
涼やかな笑みを浮かべながら衝撃的発言をぶっ放した卯ノ花隊長に、
その場にいた全員――俺を含む――が凍り付いた。
卯ノ花隊長って、天然なのか?
色々と修正を加えながら書き上げました。
自分での何度も見直しをしましたが、読者様方から見て「ここおかしくない?」と言うのがありましたら感想の方にて教えていただけると嬉しいです。
さてさて、卯ノ花さんの発言に千歳君はどうするのでしょうねぇ……。
8月5日 誤字を修正。