一応気をつけたつもりですが細かい部分で前後との齟齬や矛盾が発生してしまっているかもしれません、その場合はご指摘いただけると助かります。
また改善前の内容に関して不快になられた方が一定数おられたかと思います。この場を借りて謝罪させて頂きます、申し訳ありませんでした。
引っ越したばかりの新居の玄関を開けたら、知らない女性が家にいて、しかもすごい笑顔でわけのわからん挨拶をされたでござるの巻。
思わずドアを閉める。そして鍵をもう一度さして開け閉めを確認した。どうやら家を間違えているわけではないらしい。
深呼吸をして、もう一度ドアを開ける。するとそこには一時停止したかのような笑顔のままの女性が立っていた。どうやら見間違いでもないらしい。
「ええと……その、この部屋って今日から自分が住む予定の部屋だったと思うんですけど」
「はい、そう聞いていますよ。なのでお預かりしていた合鍵を使って、スムーズに仕事の話等が始められるように私も準備させてもらっていました!」
えぇー、なんか話が通じてない感じがする。
「あの、非常に失礼なのを承知で伺わせてもらいますけど……どちら様でしょうか?あと鍵はどうやって?」
「あっ、自己紹介が遅れて申し訳ありませんっ。千川ちひろと申します、合鍵は武内さんからお預かりしました」
確かに仕事で自分が不在のときにこっちに来ることになるかもしれないからと、武内のおばちゃんに合鍵は渡してある……だがそれを目の前の女性が持っているのは何故?
「ええっと……武内親子のお知り合いの方ですか?」
「えっ?……そうですけど、もしかして武内くんのお母さんから何も言われてませんか?話は通してあるから細かい部分は当人同士で、って聞いてたんですけど……」
お互いの認識がかみ合わないことに違和感を覚えたのだろう。
先ほどまでの見事な営業スマイルに少しずつ陰りがでてくる。
「とりあえず玄関で話をするのも何ですので中に入って話しませんか?申し訳ないのですが、どうも自分の認識がおいついていないようで……」
話は二か月ほど前、武内親子と新居祝いに一緒に食事にいった日にいったときまで遡る。
ようやく夢の不労所得生活が実現するのだと、その日の自分はたいそう上機嫌だった。
武内親子相手に今までの苦労だとかを偉そうに色々語っていたのはよく覚えている。自分で成したことなんかほとんどなくておんぶにだっこ状態だったのに、よりにもよってそのおんぶしてもらっていた相手に苦労を語るとか今思えば失礼極まりないことをしていたのだが。
その時に武内のおばちゃんに言われたことが事の発端だった、話の流れは確かこうだ。
「じゃあこれからはすることもなくて暇になるんだね?」
「いやぁまったくってわけじゃないですけどね?それでもまぁ今の現場から離れることになりますから実質的にほとんど負担はなくなりますねぇ」
「空いた時間でなにするかはきまってるのかい?」
「いやぁもちろんですよ。会社の利益を増やすために色々模索するとか、これを機に本格的に自己啓発をして今よりも優れた自分になったりとか、まぁ時間さえあればやりたいことは色々あります」
会社設立前からの知り合いで、自分と比較的似た嗜好をもつ小鳥さんには既に話したことはあったが、さすがに日夜働いてもらっている人に向かって「じゃあ社長の自分は毎日ぐうたらしますね」とは言えなかったので、俺は適当に言葉を濁した。
まぁ同じ職場で働いてるわけである程度はわかってしまっているとは思うが、こういうのはポーズが大事なのだ。
「ふぅん……じゃあ新しい儲け話なんかがあったらどんどんあんたところへ持って行くようにすればいいね?」
「……母さん。ひょっとして、」
武内くんが何かを言おうとして、やめる。
まぁ基本的に寡黙な彼は本当に大事な事や重要なことでない場合はこっちから強引に聞き出すぐらいでないと話してくれないので、その時はあまり気にせず、安請け合いをするかのように答えた。
「そうですね!武内のおばちゃんの営業力は身に染みていますので、介護のこと以外でも何か自分にできることがあれば言ってもらえると助かります」
いくら武内のおばちゃんとはいえ、別の事業の儲け話なんかすぐもってこれるわけがないしー。
……なんて、今までも散々味わった筈の武内のおばちゃんのマンパワーをなめていた俺は、武内くんの憐れむような申し訳ないような視線に最後まで気づいてなかったのだ。
その日以降武内のおばちゃんから言われた言葉は以下の通りだ。
「新居の部屋に余裕はあるのか、あるのなら仕事(このとき「介護の仕事」とは別の仕事であるかのようなニュアンスがあった)でも使えるようにしておいてほしい」
「仕事(介護以外のようなニュアンスが以下略)で使うことがあるだろうしあんたが不在のときでも入れるように、ここ(前までの事務所兼自宅)と同じように合鍵を作って渡してほしい」
「あんたに必要だと思った仕事(以下略)ができたら人(社内の人間というニュアンスでは以下略)をやるから対応して」
確かに代表が現場から離れるのだから事前に打ち合わせておくべき話はあるけど、やけに念を押すなぁ。
食事の席で言われていた新たな儲け話があれば持って行くという話を真に受けておらず、そんなこと頭にかけらも残してなかった俺は、まぬけにもそんな風にのんきな感想を抱いていたのだ。
そういった話が出るたびに何か言いたそうにしていた武内くんに問い詰めていればこんなことにはならなかっただろう。
まさか引っ越し初日に仕事の話を、それも合鍵まで渡して回避不可能な状態に持ち込んでくるとは思わなかった。
「……じゃあこの千川ちひろさんという方はおばちゃんが昔から知ってる人で、独立する場を探していたから自分のところが使えるように話を持ちかけたんですね?」
とりあえずリビングに千川さんを迎え入れお茶を出したりした後。
事の張本人であろう武内のおばちゃんに確認の電話をした結果、そういったような話になっていたようだった。
このちひろさん(そう呼んでほしいと言われた)という人もまさか具体的に話が通ってなかったとは思わなかったのだろう。
先ほどまでの営業スマイルはきれいに消え去り、今は真剣な表情で俺とおばちゃんの電話内容に耳を傾けている。
「そうそう、部屋も時間もあるって言ってたろう?そこに困ってる人がいるんだからちょうどいいと思って」
「いや確かにそうは言いましたけど、ならもっとはっきりと伝えてくれてもよかったんじゃ……」
なんというかこれでは騙されたような気分だ。
「だってあんた、正式に話をもっていこうとしたら絶対に断ったろう」
「……いやそれは話を聞いてから判断すると言いますか、」
間違いなく口先で断って逃げてたに違いない。
そんな俺の心を読んだかのように武内のおばちゃんが言う。
「あんたね、ぴよちゃんからちゃんと聞いてるんだよ。まだ若いってのにどうしてそんなぐうたらしたいのかね?あたしらのようなおばちゃんだって額に汗水かいて働いてるんだから、若いあんたが働かなくてどうすんの。少しは働きな!」
ドストレートな正論だった。
……俺が構築しようとたくらんだ不労所得システムは、当然ながら働いてくれている人たちの報酬から成り立っている。言ってしまえば搾取しているようなものだ。
この世は搾取される側と搾取する側で成り立っている……なんてわかったかのような言葉を言うつもりはないが、少なくとも自分が今後自身の働きよりも多くの報酬を得ようとしていることは確かだった。
もちろんそこに不正はない。不満があるなら君もやればいいじゃないか……なんて、いわば自分の代わりに働いてくれている人にはとてもじゃないが言えない。
「……わかりました。とにかく事情はつかめたのでとりあえずせっかく来てくださったちひろさんの話を伺ってみます。まだ具体的に何をどうするかは聞いてませんし」
「儲けの目処が立たないなら仕方ないけど、面倒だからとかの理由で断ったらしょうちしないからね」
「それはもう、ここまでされてしまってそれは流石にしませんよ」
「……あたしも騙すようなやり方で悪かったね。ただその子は本当にいい子だからできるだけ話を聞いてやっておくれ。じゃあもう仕事だから切るよ」
そういって電話は切れた。
「……すいません、大変お恥ずかしいところをお見せしてしまいまして」
「いえいえとんでもない、私もだいたいの事情はわかりました。社長のお立場からしたら突然の訪問になってしまって申し訳ありません」
そういって頭をさげるちひろさん。
きっと彼女にとって今の状況は良くないイレギュラーだった筈だ。であるにも関わらずさらりとこちらの都合を慮れる言葉が出てくることが、彼女の優しさと優秀さを表していると思った。
「ええっと、まぁ幸か不幸かだいたいの事情はわかっていただけたと思うので、大変申し訳ないのですがちひろさんが何を求めてここにやってきたのか、一度ゼロから話して頂いてもよろしいでしょうか」
とりあえずおばちゃんにも、このちひろさんという人にも顔向けできるだけの誠意ある対応はしよう。
「アイドル……ですか」
「はいそうです、繰り返しになりますが、端的に言うと私が本日ここにお邪魔させてもらったのはアイドル事務所を設立したいと思ったからです。そのための場所と……えっと、社長さんは本意ではないかと思うのですが、人手を借りられると武内くんのお母さんから伺いまして」
「ああもうその、働きたくない件に関しては勘弁してください」
「あっ、申し訳ありません。……ふふっ」
アイドル事務所を設立するために人手と場所を提供してほしい、というのがちひろさんの申し出だった。
まだ突っ込んで聞いていないからその内容に関しては置いておくとしても、特筆するべきはこの千川ちひろさんという女性の優秀さであろう。
よどみなくわかりやすい説明をする聡明さ、相手に不快感を感じせない礼節、場の空気を読むコミュニケーション能力、そして女性としての美しさ。
まだ会ったばかりではあるが、なるほど伊達に一人で事務所を立てようというわけじゃないらしい。少なくとも信用はしてよさそうだ。
この短い時間でそう思わされるだけの何かが彼女にはあった。
「それでえっと、アイドル事務所ですか。とりあえず使ってない部屋があるのでそこを事務所として使ってもらうことは問題ありません」
「ありがとうございますっ!実はうまくいったときのためにもう各方面への書類も準備してあるんです。代表は私になりますが社長さんにも書いて頂きたいところがあるので後でお願いできますか?」
そういって書類を取り出すちひろさん。事前にここの住所を使って届出するための書類をすべて用意してあったようだ、この仕事の早さは素晴らしいな。
「あぁ、えっとすいませんまだ本決まりではなくてですね。……もう一つお伺いしておきたいのは、自分がそのアイドル事務所においてどういった仕事をするのかという点です」
「えっ、そちらも手伝ってくださるんですか?」
思ってもみなかったというような感じでいうちひろさん。
「流石に武内のおばちゃんにアレだけ言われてほったらかしにできるほどメンタル強くないです。それにちひろさんの話を聞いて、純粋にできることがあれば手伝いたいとも思いました」
「正直、任せるとなるとそんなにのんびりは出来ないと思いますよ?」
「だからそれに関してはもう勘弁してください。あります勤労意欲ありますよっ、働きたくてしょうがないんです!」
「うふふ、冗談ですごめんなさい。でもそう言って頂けるととても助かります。武内くんと武内くんのお母さんから社長の話を色々と伺ってて、ぜひとも手伝ってほしいと思ってたんです。あ、これはお世辞とかじゃないですよ?」
武内くんはともかく、おばちゃんが何を吹き込んでいたのかが非常に気になるが、それはさておき。
「それで自分は何をすればいいんでしょうか」
「社長さん……いえ、プロデューサーさんには、これからアイドルをプロデュースしていってほしいんです!」
座っていたソファーから立ち上がり、勢いよくそう答えるちひろさん。
「プロデュースですか…?すいません、プロデューサーってのはテレビ会社などにいるものなのでは?」
そういうとちひろさんはあららとこけるようにソファーに戻る。
この人なれてくるとノリがよくなるな。
「そうですよね、知らない人にそういっても伝わらないですよね……プロデューサーというのはですね、普通の女の子を育てて、仕事を選んであげて、アイドルとして輝けるように手助けをする。文字通りプロデュースする人のことを指すんですよ」
「マネージャーとは違うんですか?」
「違いますね、スケジュールのマネジメントとか同じようなこともするんですけど、プロデューサーの一番の仕事はアイドルをアイドルとして輝かせることです。どういったアイドルに育てるのか方針を決めたり、ライブとかテレビ番組とかどういった仕事に出させるのかを決めたりするんです」
……確かにそれはのんびりしてられないだろう。というか仕事に出させる、ということは仕事を選ぶ、取ってくることも職務のうちなのだろうか。
「それは営業も兼ねるということですか?そうなると一人じゃできないくらい激務になると思うんですが……」
「仕事を選ぶと言っても、大半の仕事はオーディションを通して決まるので、プロデューサーさんがするのはどのオーディションに出るかを決めてくることなんですよ。アイドルランクによって制限があるオーディションもあるのでどれでもというわけではないですけど、基本的にオーディション参加が断られることはないのでそんな大変な仕事ではないです。あっ、そのあたりのことを詳しく書いたノートを用意しましたので、時間のある時に読んでおいてくださいね!」
そういって完全自作であろうノートを手渡してくるちひろさん。俺らのような年齢の人が持つにはややカラフルというか、若々しさがあるというか、これちひろさんが作ったんだろうか?
もくもくと表紙をデコレートしてるちひろさんを想像してみると少し面白くて、可愛らしさも感じる。
「なるほど、だいたいのところはわかりました。自分に手伝えることであればやらせて頂きましょう」
「ホントですかっ!よかったです……正直プロデュースを任せられそうな人に他にあてがなかったので……あっ、あらためてこれからはプロデューサーさんと呼ばせて頂きますね!これからよろしくお願いします!」
「ええ任せてください。やるからにはちひろさんを一流のアイドルにしたてあげてみせますよ!」
「……えっ!?いえ、アイドルになるのは私じゃないですよ!?」
「えっ、そうなんですか?」
「私がやりたいのはアイドルを育てることで、私がアイドルになりたいわけじゃないですよっ」
「ちひろさんってそれこそアイドルとして通用するぐらいに可愛らしいし、てっきり自分をアイドルとしてデビューさせてほしいって話だと思ってました」
「いやだもうプロデューサーさんったら、おだててもドリンクしかでませんよ!」
キャー、なんてレトロなリアクションをしながらも鞄からドリンクを出してくるちひろさん。
……栄養ドリンクっぽいが見たことないラベルだな。ていうか赤い帯に星マークで名前無しってやばいドリンクっぽい。怖いからとりあえずもらうだけもらって飲まないでおこう。
「でもそうなるとアイドルになる女の子が必要になりますよね。……あとその場合はアイドル事務所の運営というもの自体が独立してやっていけるものなのかというのが気になります」
ちひろさんがアイドルとしてデビューするという話だと思っていたから、この人ならアイドルをやっても売れるだろうと思ってその辺りの儲けに関する話はあまり考えていなかったが、普通にそこらの女の子をアイドルにするというのであれば話は違ってくる。
当たり前だが夢だけでは食っていけない。人の上に立つ以上自分はもちろん下にいる人間が食べていけるようにかじ取りを行う必要がある。
ちひろさんがアイドルになるのであればそれは気にする必要はなかった。酷なように聞こえるかもしれないが、たとえ失敗してもちひろさんと自分が損するだけでありそれは自己責任だからだ。
でも他の子をアイドルに仕立て上げるというのであれば、それは従業員を雇うのと変わらない。その子が食べていけるように面倒を見る責任が生じてくるし、そうなれば当然ある程度の利益を出せるようにならなければならない。またその場合その子がどこまで信用できて、どこまで優秀であるかという点も問題になってくるだろう。
正直ちひろさんぐらい可愛らしい人で、なおかつ優秀であるのなら自分でやればいいのに、と思う。
俺はちひろさんがアイドルになるべきだという部分を除いてそういったことをちひろさんに話した。
「プロデューサーさんが言うことももっともです。……実はもう、アイドルとして成功できるだろうなっていう逸材を一人見つけて声をかけてあるんですよ。それで今日のお昼前ぐらいにここに来てもらえるよう話をつけてあるんです。プロデューサーさんの疑念に関してはその方を見てもらえればはっきりすると思います」
なんとも話がはやい。武内のおばちゃんからお互いに話が通っていないというイレギュラーがあったが、これだけ用意が良いということは少なくとも武内のおばちゃんとちひろさんの間では殆ど決定事項だったんだろうな。
「見ただけでアイドル事務所としての成否がわかると……それは少し楽しみですね」
――ピンポーン、ピンポーン
「あっ、言ってたらちょうど来たみたいですよ。グッドタイミングですね!じゃあ私が出迎えてきますのでプロデューサーさんは待っててください!」
そういってちひろさんは玄関のほうへ向かって行った。
……しかし昨日まで介護事業所を営んでいた人間が、今日からアイドルをプロデュースするのか。
なんとも現実感のない話だが、それが現実であることを強調するかのように俺の手にはカラフルなノートが握られていたのだった。
ファン作品だと思って読みにきたら特定のキャラクターの扱いが酷いとか完全に地雷だったんだよなぁ……
恐ろしいのは書いてる本人はまったくそんなつもりがないことですね、度し難いアホでした。