小鳥さんのツテで紹介してもらった赤羽根という人が、元Sランクアイドル『三浦あずさ』さんのプロデューサーだったと知ったときは、望外の幸運にめぐり合わせてくれた小鳥さんに感謝しきりだった。
余りにも悪すぎた間の埋め合わせもかねていずれ飲みにでも誘わなければならないだろう。
それはさておき、赤羽根さんにアポを取ってから事務所の代表者であるちひろさんにも同道してもらい、事情を説明しプロデューサー業について師事してもらえないかと打診したところ、以前勤めていた会社から許可がおりれば喜んでとの返答を頂き、また赤羽根さんが以前勤めていたという765プロの社長さんも快く許可して頂いた。
それどころか研修の場として実際765プロのアイドルの仕事についていっても良いとまで言って頂け、あまりの高待遇に逆に不安になったのだが、765プロのほうにも自分をだしにして元Sランクプロデューサーである赤羽根さんに一時的にでもいいから今の765プロのアイドルをプロデュースしてほしいとの意図が以前からあったそうで、渡りに船だったとのことだ。
結果的に会社同士の貸し借りもなし、純粋に負担がでるのはプロデュースすることになった赤羽根さんだけという形になってしまったので、心ばかりの御礼をと思ったが、金には困っていないからと受け取って頂けなかった。
「俺もあずささんもどっちも辞めるころにはかなり高給取りだったからさ。それに……無理行って急に辞めた会社への恩返しとか、場合によっては復帰とかも、こっちにも色々ありがたいタイミングだったんだ」
なんていいながらほがらかに笑う赤羽根さん。うーんイケメンだな。
「そういって頂けるとこちらも少し気が楽です。……が、いつか必ずこの御礼はさせて頂きますので、そのときは有無を言わさず受け取ってください」
「有無を言わさずってのはひどいな。なら、君がいつかアイドルをプロデュースしたときには、その子をトップアイドルにできるようにしてやってくれ。そしたら教える側の俺としても鼻が高いよ」
赤羽根さんはその優しそうな甘いマスクに見合うだけの良い人だった。小鳥さんに感謝である。
そうして一時的に765プロでプロデューサー見習いとして現場を経験させてもらえるようになってから、すぐに事務所単独の年末ライブの準備だということで一部設営の手伝いからスポンサーとの交渉現場への付き添いなど、大きなホールを借りてのライブを開くにあたってどのような仕事が発生するのかなどを実地で教えてもらったり。
年が明けてからは765プロの新人アイドルへ赤羽根さん流プロデュースをつきっきりで学ばせてもらえるなど、本当に謝礼を支払わなくてよいのかと不安になるくらいに貴重な経験を積ませて頂いた。
特に勉強になったのが歳下というか、まだ子供と言ってもいい年齢のアイドルたちへの接し方だった。楓さんは自分と同じ歳の大人だったので普通に話し合うことができていたのだが、アイドルとしてはかなり年上の部類になる。楓さんがデビューした後に他のアイドルをプロデュースするだろうことを考えれば、思春期まっさかりの女の子に対してどのように接するかというのはとても参考になった。
いかに道理や理論が正しかったとしても、思春期の女の子は頭ごなしに否定されることをひどく嫌う。たとえ受け入れられないことであっても、一度受け止めたうえでやんわりと、納得してもらうことが大切なのだ。そうすることで不満がある仕事であったとしても、その不満を表に出さずに従事してもらえるようになるのだそうだ。これは赤羽根さんの経験則からくるものらしい。
しかし我儘が多く仕事に対して大人のような責任感がないとはいえ、765プロの新人アイドルたちはアイドル慣れしていない自分からみても逸材ばかりだった。
抜群の歌唱力を誇る如月千早ちゃんに、アイドルの申し子と言わんばかりの魅力を感じる星井美希ちゃん、それ以外の子たちも、どの子も楓さんに劣らぬ才能を持っているのだろう。テレビを見ていても楓さんより才能のありそうなアイドルは殆ど見当たらないのに、アイドルの卵の中にはそれが溢れていることが少しおかしかった。
そんなこんなで少しずつ赤羽根さんの代わりにアイドルとの挨拶まわりや事務処理などもさせてもらえるようになったりし始め、赤羽根さんからもこれなら一人でやっていけるだろうと太鼓判を押してもらえたのが2月の半ば頃。
そろそろ楓さんのデビューに備えて準備をしなければと思っていたのだが、少し困った事態になってしまっていた。
「プ、プ、プ、プロデューサー!今月でやめちゃうってほんとですか!?」
もうすぐここともおさらばか、なんて話を765プロ社内のとある部屋でアイドルたちと話していると、泡を食ったような勢いで同じ部屋でくつろいでいた新人アイドルの天海春香ちゃんが尋ねてきた。
「やめるというか、もともと俺って765プロの社員じゃないんだ。プロデューサーの研修させてもらえることになって、少しの間だけお邪魔させてもらってたんだよ」
「えぇっ、私そんなの聞いてなかったんですけど…」
「そういえば春香ちゃんは今年になってから765プロに入ったから、俺が来たときの説明を受けてなかったんだっけか。ごめんうっかりしてたよ」
「そんなぁ…私、これからもずっとプロデューサーにプロデュースしてもらえると思ってたのに…」
思ってもみなかったといった感じで涙目になる春香ちゃん。自分としても惜しいというか、もどかしい気持ちがあるのは確かなんだが……。
「ごめんな。でも来月から赤羽根さんがプロデューサーとして本格的に復帰するらしいし、春香ちゃんの才能と赤羽根さんのプロデュースがあればきっとうまくいくよ。赤羽根さんは俺と比べるのも失礼なくらい優秀なプロデューサーだからさ」
「うー、赤羽根さんがあずささんをプロデュースしたことあるすごい人なのは知ってますけど……どうしてもプロデューサーにプロデュースしてもらえないんですか?」
なんてことを瞳をうるませながら上目使いで言ってくる春香ちゃんは控えめにいって超可愛いいんだが、それはさておき、どういって断ったものだろうか。あまり自分を立てると今後の赤羽根さんのプロデュースにも影響しそうだから、下手なことは言えないが……。
なんて悩んでると同じく部屋でおにぎりを食べていた美希ちゃんも会話に入ってきた。
「美希もプロデューサーさんにはずっと美希たちのプロデューサーさんでいてほしいって思うな。千早さんもそう思うでしょ?」
「……そうね。まだプロデューサーとして経験が少ないと言うけれど、仕事の説明とかも誠実でわかりやすいから、これからも一緒に仕事をしたいとは思うわ」
考えているうちによくない流れになってきたな。とりあえずこの流れは止めないとまずい!
「ちょ、ちょっと待ってくれ。俺はあくまでも見習い研修プロデューサーで少しお邪魔させてもらうだけって話をしてただろ?それに如月さんなんか会ったばかりの頃は結構面倒くさそうにしてたじゃないか」
「そ、それは新人のアイドルに新人のプロデューサーをつけるなんておかしいって初めは思っただけです。でも実際はじまってみたら仕事も早いですし、1つ1つの仕事についてどうすればいいか等を丁寧にまとめてくれるから」
「そうそう。プロデューサーさんって美希たちのことすっごくよく見てくれて、考えてくれてるよねっ!赤羽根さんも律子もいっぱい仕事を用意してくれるけど、プロデューサーさんほど美希たちのことを見てくれてるって感じしないもん」
「……やっぱり私、これからもプロデューサーにプロデュースしてほしいです!」
そういってまっすぐ俺をみつめてくる春香ちゃん。正直楓さんがいなければここで折れてたかもしれないぐらいには、惜しいと思う。彼女もそうだが765プロの新人アイドルたちもみんなトップアイドルの素養があって、それを俺が開花させてみたいという気持ちも大きい。大きいが……
「みんながそういってくれるのはすごい嬉しいことなんだけど……ごめん、やっぱりできないよ。そもそも俺って765プロの社員じゃなくてシンデレラガールズって事務所のプロデューサーだし、もともと少しの間だけお邪魔させてもらうって話だったろ?説明しそびれてた春香ちゃんには申し訳ないけど…」
「うー……じゃあ美希がそっちの事務所……でも美希、ここのみんなのことも好きだし…」
「そもそもそんな簡単に移籍なんてできないはずよ。美希も契約書かいたでしょう?」
諭すように言う如月さん。この二人正反対っぽいのに変に噛み合うみたいなんだよな。
「じゃあ、じゃあプロデューサーさんに765プロに入ってもらうのはダメなの!?まだシンデレ……なんとかって事務所はアイドルいないんでしょ?」
「美希ナイスアイデア!そうですよプロデューサーが私たちの事務所に来ればいいじゃないですか!」
「いやいや勘弁してくれ、それだと俺が今の事務所との契約違反になる。それに今の事務所にもアイドルがいないわけじゃないんだ」
「え、そうなんですか?」
そんなこと思いもしなかったといった感じで如月さんが尋ねてくる。そういえばうちの事務所については赤羽根さん以外にあまり話をしたことがなかったな。
「ああ。今年の春からデビュー予定で、俺がプロデューサーの仕事を覚えるまで待っててもらってるんだ。俺は彼女もここにいるみんなに負けないくらいアイドルとしての素質があると思ってるから、彼女をトップアイドルになれるようプロデュースしてあげたいんだよ」
「プロデュース……してあげたい…?」
「うう……どうしても無理なんですか?」
「ごめん春香ちゃん。事前に説明できてなかった俺が悪かったよ」
「で、でもこれでさよならってわけじゃないですよね!?アイドルを続けてればまたこれからも会えますよね?」
「うん、俺も4月くらいから自分の事務所でプロデューサーとして働くことになるし、すでにランクが上がってきてる美希と如月さんはなかなか会えないかもしれないけど、まだデビューしたての春香ちゃんは特に現場なんかで会う機会も多いとおもうよ」
「じゃあそのときは少しでもいいですから、また相談とか乗ってもらえますか?」
「赤羽根さんもいるしあまり俺が余計な事はできないし言えないだろうけど、相談くらいならいつでも乗るよ。春香ちゃんたちならきっとトップアイドルになれると思ってるから、その手伝いが少しでもできるなら俺もうれしい」
「プロデューサー……私、頑張りますね!」
なんとか丸くおさまった……かな。
「プロデューサーさん」
ん、美希?
「プロデューサーさんがプロデュースしてあげたいって言ってるアイドルの名前、教えてほしいの」
「名前?ああそうだな、いずれみんなとも共演させてもらうこともあるかもしれないし。高垣楓さんっていうんだ。年齢は俺と同じだからみんなよりちょっと年上だけど」
「プロデューサーと同じ年齢……こういってはなんですけど、珍しいですね」
「たかがき、かえで……おぼえたの!」
「まぁ今後もし会うことがあったらよろしく頼むよ。」
そんなこんなで惜しまれつつも765プロでのプロデューサー研修は終わりを告げたのだった。
元の予定ではこのあたりは2行くらいで済ませる筈でしたがなぜか変にフラグまでたててしまいました、お前のプロットガバガバやな?