※この作品はR-18です。

二週目男のアイドルマスター   作:konnohaya

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008 人はみかけによらなすぎない?

誰かに本心をさらすのが恥ずかしい、情けないことだと思うようになったのはいつからだろうか。

 

前世での子供時代、自分はゲームでいうところの主人公で、友達や親は仲間になるサブキャラクター、それ以外の人間は等しくモブキャラクターだと本気で思っていた。

 

だが小学校を卒業し中学校に入り、自分よりも運動神経や学力で優れた人がでてきて、誰かを好きになって振られたりして、他人からみた自分がいつでも一番でないことを自覚したとき、この世界はゲームではなくて、本当は誰もが主人公で自分は特別な存在ではないということを学んだのだ。

 

そしてそんな風に新しいことを学ぶたび気づくたびに無知な自分を恥ずかしいと思うようになった。知らないということが恥ずかしいから余計なことを言わなくなったし、トップをとれないことを自覚してしまうのが嫌で本気も出さなくなった。

 

そうして適当に生きながら遊びほうけて定職につかなかった前世の俺は、社会的地位や名誉といった自分を飾る箔を持っていなかったから、歳をとるにつれて誰に対しても初めからしたてに出ることで自分の心を守るようになった。

 

本心を隠して誰からも好意的にみられるように立ち振る舞うことが、自分のちっぽけなプライドを守る上でも、社会的地位のない人間が生きていく上でも楽だったのだ。

そしてそれは悪いことでもなかったと思う。謙虚であるともいえるし、人付き合いも円滑になった。自分だからと仕事をくれる人だっていたし、誰かに疎まれることもなかった。

 

漫画やゲームの主人公がいればそれこそ逃げるなと叱咤するんだろう。

でも、現実なんてそんなものだ。少なくとも俺からみた現実はそんなものだった。

誰だって自分のプライドを守るし、本心は隠す。俺の場合まともな職業にもついてなくて誰にも自慢できるものも、ついでに自慢できる相手もいなかったから、他の人よりも少し度が過ぎていただけだ。

 

そしてそんな前世での立ち振る舞いは、2回目の人生をすごし周りの人間よりも2倍以上の経験を積むことが出来た今になってもしみついて離れない。

だってそうだろう、こっちは人生やり直してるっていうのに世の中には自分よるもはるかにすごい人間が多い。見栄をはって生きていけるほど自分はそんなにすごい人間ではない。本気を出したって勝てっこない。

 

だから人生2回目という他の人よりも有利なスタートラインに立ちながら、不労所得なんていう現実的で比較的簡単に達成できそうな目標しか立てなかったし、人付き合いの仕方も相変わらずだった。

 

それが問題だったとは、今になっても思っていない。

自分にとって、処世術だったのだ。

 

でも今それが足を引っ張ってしまっていることもわかっている。

てきとうに相手にだけ心を開いてもらおうというのがいかに都合の良い話であるかは、自分でもわかっているつもりだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ピンポーンというインターフォンの音と同時に玄関の開く音、それから楓さんの「おじゃまします、お疲れ様です」という声が響く。

 

普通のマンションの1部屋を事務所兼自宅にしているからか、すっかり慣れてしまったちひろさんや小鳥さん以外の人は、どうも会社に出社するというよりも他人の家にお邪魔するような感じになってしまうらしい。

楓さんもその例にもれず、事務所設立から半年たった今でもおじゃましますと言いながら事務所に入ってくる。

 

俺はすっかり応接室を兼務することになってしまったリビングのドアを開き、楓さんを迎えた。

 

「お疲れ様です楓さん。すいません呼び出してしまって」

 

「いえ、特に用事があったわけではないので大丈夫です。……あら、ちひろさんは?」

 

「ちひろさんは、今日は少し早めに退社してもらいました。話の内容的に二人のほうがいいだろうって……ああすいません緊張させるような言い方になってしまいました、そんな難しい話をするわけではないのでリラックスしてください」

 

対面のソファーに座ろうとしていた楓さんの動きがわずかに固くなってしまったのをみて、慌てて取り繕うように言った。

 

「えっと、それでお話と言うのは何でしょう?……あの、私、何かいけないことをしてしまいましたか?」

 

「いえいえ!違うんです、すいません緊張させてしまって。少し聞きたいことがあったので時間をとってもらったんですよ」

 

「そうなんですか?……では、聞きたいことってなんでしょうか」

 

「えーっとですね……あの、アイドルとしての仕事を始めてからしばらくたちましたけど、どうでしょうか」

 

今まで適当に楓さんと接していたせいであなたのことをあまりに知らなすぎたことに今更気づいたので、今後アイドルとしてもっと上に行くためにもあなたのことを教えてくれませんか。

……と、本当は言いたかった。だがそれは余りにも楓さんにとって失礼な話であり、自分にとって厚顔無恥な話であった。とてもストレートには言えなかった。

 

「そうですね……特に問題なくできていると思います。言われた服を着てポーズを取るのがメインなので難しいことが少ないです。あ、表情を作るのは、まだ少し苦手ですけど」

 

最後に少し茶化しながらもほがらかに答えてくれる楓さん。優等生な回答だと思った。

改めてこの答えで楓さんの何が知れるのかと思うと、我ながら無意味な質問をしたものだった。

こちらから呼び出して時間をとってもらっておきながらこれはない。

 

「私みたいに口下手で、人見知りでもできる仕事をプロデューサーが一緒に考えてくれたおかげです」

 

にもかかわらずそんなことを笑顔で言ってくれる楓さんに、これから話すことの恥ずかしさよりも申し訳ないと思う気持ちのほうが上回った。

話しづらい恥ずかしさよりも、話さない不誠実さのほうが自分の中で沸き立ってきた。

 

「あの……」

 

「はい」

 

「そのことなんですけど」

 

「はい、なんでしょう」

 

「あー……」

 

「……プロデューサー?」

 

「すいません、ちょっとどう伝えたらいいか思いつかなくて。とりあえず思いつくがままに言おうと思うんですけど、聞いてもらえますか?」

 

「ええと、はい。大丈夫だと思います」

 

「長くなるかもしれませんけど」

 

「予定は何もないのでそれも大丈夫です」

 

……とりあえず言うべきだと思うことを思うがままに言ってみよう。

思ってることを伝えて、必要だと思うべきことを伝えて、それから今までのことを謝ろう。

 

「ええとですね……実は自分は、楓さんのプロデュースを始めるまで、プロデューサーという業務をやったこともなければ、アイドルについても全然詳しくない、業界とはまったく無関係のただの自営業者だったんです。まずこのことを黙っていたことについて謝らせてください、すいませんでした」

 

最後に考えたのが謝ることだったせいかいきなり順序が逆になってしまったが、気にする余裕はなかった。

 

「……えっと、それは確かに今初めて聞きましたね。でもプロデューサーのプロデュースに不満を持ったこと、ないですよ」

 

まったく不満がなくて、本心からそう思ってるかのような笑顔で楓さんが答える。

確かに不満がでないように気をつけていたから、プロデュースに不満を持たれたことはないと思う。

他人に気持ちよく動いてもらうのは前世で身に着けた得意技のつもりだった。

 

「ありがとうございます。えっと、でも言いたいのはそのことじゃなくて。いやそのことを謝りたいのも事実なんですけど、なんというか……そう、そういった楓さんに本当のことを言わないような接し方について、あらためたいと思っているんです」

 

「……あの、もしかして私、プロデューサーのことを不満に思ったりしてるように見えましたか?」

 

「いえ、いえ!そんなことはないです。こんな自分のことを信用してくれていたように見えました」

 

「私、人と話すのが苦手なんですけど、プロデューサーとは普通にお話しできてるんですよ」

 

本当に彼女は自分のことをプロデューサーとして、仕事仲間として信用してくれていたんだろう。

不満がなかったかどうかはわからない。けど少なくとも信用はしてくれていた。

そんな信用を俺は自覚がないまま裏切っていたんだろう。

 

「それはありがたいです、本当に自分なんかを信用してプロデュースさせてくれたことに感謝しています。けど…そうですね、例えばですけど。たとえば楓さんが実は自分に不満を持っていたとしたら、楓さんはそれを自分に伝えてくれましたか?こういうところを直してほしいとか、私はもっとこうしたいとか。信用してるしてないとはちょっと別で、言いたいことがあったときに言ってくれたでしょうか?」

 

そう聞くと楓さんは唇に手をあてて首をかしげた。

 

「……それは、どうでしょう。本当に、そういうことを思わなかったからわかりませんけど……たぶん言わなかったんじゃないかと思います。それが本当に嫌な事だったらさすがに言うと思いますけど少しのことだったら我慢してたかもしれませんね」

 

「……楓さんは優しいからきっと我慢できることは我慢してしまうんでしょうね。でもそれじゃ駄目だって気づいたんです。今までずっと他人行儀で接してきた自分から言うなって話なんですが、もっと楓さんのことが知りたいんです」

 

俺は楓さんの返答を待たずにそのまま続けた。

 

「さっきの話もそうです、実は自分がアイドルについてまったくの無知でプロデューサーもなりゆきですることになってしまったけれど、楓さんがアイドルとして逸材だということがわかったので、楓さんがアイドルしてうちの事務所に所属してもらえるように、適切だと思うような接し方をしました。

 

でもそれだと楓さんに対して不誠実で、楓さんの本心を打ち明けてもらえるに値しない、信頼を得ることができないと思ったんです。そしてその信頼を得られないということが、楓さんのアイドルとしての活躍の妨げになると思ったから、今日のこの場に来ていただいたんです」

 

「………」

 

一気に伝えてしまったせいか、楓さんは言葉をかみ砕くように目をつむって思案しているようだった。俺は構わず続けた、今言い切らないと、後から同じことを同じ熱量で言えるとは思えなかった。

 

「自分のプロデュース業に不満がなかったとしても、それ以外でも楓さんの本心を教えてほしいと思ったんです。楓さんがアイドルとしての訓練をして、実際にモデル仕事をするなかでどう思ったのか、やってみたいこと、やりたくないこと、不満に思っていることとか全部を教えてもらいたいんです。どんなことでも全部です。

 

流されるままにアイドルになってしまっても、流されるままにアイドルを続けるんじゃなく、続けるのは自分の意思で続けてほしいんです。そうでないと、楓さんのもつ魅力をすべて出し切れないと思うんです」

 

言いたいことを一気に言い切った。相手の理解や相槌を待つことなくマシンガンのようにしゃべるのはマナーの悪い行為で本来は避けるべきだとしても、そういった順序を立てて話せるような気持ではなかった。

 

 

 

 

 

楓さんが答えを返してくれたのは1分ほど待ってからだった。

 

「……プロデューサー」

 

「はい、楓さん」

 

「つまりもっと仲良くなろうということでしょうか?」

 

「それも間違ってないです。楓さんのことをもっと知って、楓さんにももっと私のことを知ってほしいんです。腹を割って話すとでも言いましょうか」

 

「そうですか……プロデューサー」

 

「はい」

 

「今から飲みに行きませんか?」

 

……え?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

楓さんがよく事務所やレッスン場からの帰りに寄っていくという居酒屋に行くことになった。

 

こんなミステリアスな雰囲気のある美人が一人で安めの大衆居酒屋に行きつけになっているという事実で、すでに俺の中の楓さんのイメージを崩壊させるには十分だったが、乾杯してからの楓さんはさらに俺の想像を上回っていた。

 

「ほらプロデューサー。これ見てください」

 

「その2本の焼き鳥がどうしました?」

 

「つくねにくっつくねぎま、です……ふふっ」

 

ほどよく酔っぱらったのかさっきからずっとこの調子なのだ。

そのバラエティの豊富さに思わず感心してしまうほど楓さんはダジャレを連発していた。

 

「……今までいかに自分が楓さんのことを知らなかったのか、思い知らされました」

 

「プロデューサー、手があいてますよ」

 

「ああすいません、嫌いではないんですけど一度酔って痛い目をみてしまったので、のみすぎないのと、ペースを崩さないように気をつけてるんです。ちまちまで申し訳ないですけど」

 

「そうなんですか……じゃあ次は焼酎、どうですか?」

 

「……もしかして、焼酎を推奨中ですか?」

 

「ふふっ、プロデューサーもやりますね」

 

「俺もダジャレは案外嫌いじゃないんですよ。……それはともかく、楓さんいつもは1人で来てるんですよね?」

 

聞きながら軽く店内を見渡す。

チェーン店にはなかなかない個人店らしい店の汚さというか不潔さというか、そういったものに目が言ってしまうような小さな板張りの店だ。

席は少ないもののそれなりに仕切られていて、そのほとんどが人で埋まっている隠れた人気店のようだった。

 

「そうですよ。いつもビールを、あびーるほど飲んで帰るんです……ふふっ」

 

「なんというか意外でした。お酒が好きなことも知らなかったし、ダジャレも普段から考えてないとそんなでてこないですよね?」

 

「そうですね、私も知りませんでした。お酒の席とはいえ……自分がこんなおしゃべりになるなんて」

 

自分でも意外そうに話す楓さんの楽しそうな笑顔は、今までみたどの楓さんの表情よりも魅力的だった。

自分がどれだけ楓さんという人物のことを知らなかったのか思い知ってしまった。

この少しの間で、自分の知らなかった楓さんの表情を知るたびに、楓さんの魅力が増していくように感じる。やはり楓さんにとって今のモデル活動は、楓さんの魅力を活かしきるに至らない仕事なのだろうとますます確信できるのだ。

そしてそんな風に重要なことにあっさり気づいてしまえることに、俺は今までどれだけ間違っていたのかを思い知った気分だった。

 

「……それでですね楓さん、お酒が入ってるところに堅苦しい話は難しいかもしれませんけど」

 

「大丈夫ですよ、ちゃんと聞いてますっ」

 

なんていいながら敬礼のポーズをする楓さん。

本当に楽しそうで、それ以上に可愛らしすぎて、どうにかなってしまいそうだった。

自分のほほが赤くなるのを感じながら目をそらしつつ早口で言った。

 

「俺は、楓さんならもっとアイドルとしてすごいことが出来る、もっとファンを増やすことができるとずっと思ってるんです。でも今の仕事のままだとそれは難しいとも思うんです」

 

「このチーズは、持ちーずらいです……ふふっ」

 

「楓さん聞いてます?」

 

「聞いてますよー。初めて自分のこと、俺って言いましたね、プロデューサー」

 

「あぁすいません。つい慌てて雑な言い方になってしまって……」

 

「今度からはずっと俺って言ってくださいね、腹を割って話す……でしょう?」

 

冗談めかして言ったように見えて本当にそれを望んでいるのだと、不思議とわかった。

 

「わかりました、これからは取り繕った話し方もできるだけやめます。俺だけ隠したままってのは不公平でしたね」

 

「約束、やぶったら罰ゲームですから」

 

「気をつけます……それで話は戻しますけど」

 

「プロデューサー、手が空いてますよ。ほらとっくり持ってください」

 

「え、ああすいません、でもペースがちょっと早いので」

 

「とっくりが、もうとっくりカラですよ……ふふっ」

 

「……話をするのは後日にしましょうか」

 

結局、その日はいつもより明らかに飲み過ぎたのだろう、足元が少々怪しい楓さんを家まで送って帰ることになった。話については2日後だと予定がなくて都合がいいとのことだったのでまたその時にと約束をした。

 

ちなみに俺も翌日は二日酔いになった、ちひろさんの視線が痛かった。

 

 

 

 

 




読んで下さった方ありがとうございました。
明日も同じ時間ぐらいに投稿すると思いますのでよろしくお願いします。

余談ですけど、ハーメルン様の小説投稿に関する機能ってすごい便利なのに簡潔でわかりやすい作りになっていたんですね。
今回その手の投稿者向けの項目を初めて選んだのですが使いやすくてびっくりしました。
wordなんかいらんかったんや……
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