ダビデ案件駄目絶対! と最後のマスターは叫んだ 作:Schuld
カルデアには大浴場と呼べるほど立派な代物は無いが、多人数で使用するシャワースペースが存在する。元々大人数が駐留する組織であるので、効率的に水を使うのであれば当然の設備であるが、グランドオーダー発令後も利用者は少なくなかった。
ー というのも、個室にシャワーがあるのは役職持ち向けの立派な個室くらいで、後はこっちで済ませろとばかりに簡素な部屋が居住区に多かった……からではない。主要メンバーが悉くレフ・ライノールのテロによって倒れた今、居住区で部屋は選び放題であり、少しでもストレスを減らすために生き残った二十数名のスタッフは皆よい部屋へ移っている。
故に彼等も態々公営の貧相なプールか軍隊かよ、という風情のシャワールームを使う必要性は何処にも無いのだ。にもかかわらず、このシャワールームがよく使われている理由は一つ。
「あー……やっぱり霊媒集め後のシャワーはいいですね……」
多人数が同時に使えるからである。特異点を回って霊媒を集めると、肉の身体を持つ敵を倒した時に返り血が付くことは珍しくない。無論、厳密な意味で肉の身体を持たない英霊達は霊体化すれば汚れも全て落ちるのだが、当人達曰くそれだと綺麗になった気がしないという。
なら、せめて仕事上がりはさっぱりしてもらって、モチベを保った方が長期的に見てもいいだろうと彼等のマスターの計らいでシャワールームは開放されている。ゆったりバスタブに浸かりたいなら、余った部屋の使用申請をすればできるので、人前に肌を晒す習慣が無い英霊達でも安心だ。
キメラの返り血を流し終えたマシュがシャワーブースから出ると、同じタイミングでシャワーを終えた英霊と鉢合わせした。
年齢を感じさせないしなやかな長身。西洋世界的価値観の女性美をそのまま形にしたような、ライラックの髪を丁寧に束ねた彼女はキャスターの英霊。コルキスの魔女として名高いメディアであった。戦闘面においても知識面においても、支援と名が付く行為に関して八面六臂の大活躍を見せるカルデア屈指の便利屋は、マシュのしなやかな裸身を見て嘆息した。
「マシュ、貴女本当にやらかしたのね……」
「はい?」
それよ、と彼女が指さしたのは、励起状態にないため輝きを失った黒い紋様。盾の乙女の穢れ無き雪原のような腹に刻まれた、それはそれは見事な淫紋であった。
あのマスター、絵心でもあったのか結構凝った図案をしており、複雑精緻極まりない構造に関しては下町のおねぇちゃん系女王ことスカサハ監修というのも相まって、神代の魔術師でもケチを付けられないクオリティ。
むしろ、自分がちょっととち狂っていた時分にこの知識があれば、あの金髪駄目小物に刻んで制御してやりたかったと思うほどの代物であった。死ぬ権利を擬似的に得てはっちゃけていても、やはりあの女王は師としても術士としても大変優秀であったらしい。
「ああ、これですか」
恥じるでも屈辱を感じるでも無く、まるで恋人から貰った婚約指輪でも愛でるかのような表情で淫紋をなぞる盾の乙女。正直な話、ここまで幸せそうな顔をされるとケチを付けるのが悪くなってくるどころか、少し嫉妬を覚えるくらいである。幸福そうな表情の源であるマシュが与えられた愛を、自分は得ることが出来なかったことを思い出してしまって。
「貴女、それの危険性は分かっていて?」
「ええ、入れる前に先輩から説明を受けましたけど、そこは自分でカバーしました」
自慢げに胸を張る盾の乙女に、裏切りの魔女の汚名を着せられた女は首を傾げた。
疑似回路、という新しい機構を霊基に組み込むことは、英霊という完成されたシステムに新しい脆弱性を取り込むことになる。彼女自身はデミ・サーヴァントと呼ばれる、半人半霊とでも言うべき微妙な状態であるが、その点に関して大きな差異は無いだろう。
分かりやすく言えばパソコンにソフトを放り込むのと同じだ。ソフトに対応したスパイウェアなんぞが開発されるように、堅牢極まりない英霊本体ではなく、後付けされた疑似回路であれば干渉はずっと簡単になる。
それこそ淫紋の使用権を乗っ取られたり、立香が設定しない淫紋を通した絶対命令権なんぞを仕込まれれば目も当てられない。彼が嫌ったダビデ・ランスロット案件そのものではないか。
が、魔女の懸念に盾の英霊は、この回路を外付けの疑似神経のままにせず、完全同化させたと自慢げに語って見せた。そうすることによって、破邪の力は後付けの淫紋をスルーするのではなく、自身の一部と見なして構造そのものまで護ってくれると。
「ええ……」
またしても(困惑)と語尾に付けざるを得ないリアクション。何この子、と如実に語る表情にマシュは気付いていないらしく、誇らしげに解説を続けた。
曰く、このデミ・サーヴァントの身体は魔術回路も英霊に同化しており、中々フレキシブルかつ組み替えができるらしい。そこで外付けの淫紋を“元からあった魔術回路”と同じ認識にしてしまえば、絶対に消えないし誰にも汚されない素敵スペックになるのでは、と彼女は考えたらしい。
考えるまでは良いが、迷わず実行に移すメンタルの正気を疑う。恋は狂気に等しいというが……そこまで考えて、メディアは考えを打ち切った。
恋は狂気。この話をし始めると、自分のトラウマだとか黒歴史の数々が記憶のマウンテンサイクルから出土されてしまう。むしろ貰った物を大事にするくらいなら、自分と比べれば可愛いもののような気がしてきた。
うん、きっとそうだ。思春期の乙女だって、恋人の名前をタトゥーにすることもあるではないか。似たようないじらしい行為だと思おう。
「……まぁ、いいわ。後で私の工房においでなさいな」
「え? 構いませんけど、どうしてですか?」
髪に香油を塗る次いでに、淫紋へ不可視化の術式をかけてあげる、とメディアは言った。当人が納得する分にはいいのだが、それを堂々と晒されると発狂するマスターLOVE勢がいるのが問題なのである。下手すると婚約指輪よりガチな代物だけあって、我も我もと絡んでいる面子が数名居るので洒落になっていない。
「……別に隠すことはないと思うんですけれど」
ただ、マシュとしては折角の絆なので隠す気も必要も無いと思っているらしく、素直な彼女にしては珍しく抵抗を見せた。実際、自分は幸せですと人に見せ付けてみたくなるのは自然な感情でもあり、別段おかしなことでもあるまい。然もなくば、セレモニーという文化は人間の中に産まれていないだろうから。
盾の乙女の護りが堅牢なのは、肉体面においてのみではない。精神的にも一度決めたことでは退かない強さを持つ。生半可な説得では頑として納得するまいと悟ったメディアは、あっさりと切り札を出すことにした。
「新婚旅行で温泉行けないと困るわよ」
「あっ」
言われてマシュは思い出す。先輩は温泉好きで、グランドオーダーが終わったら休暇でも取って温泉巡りがしたいと言っていたことを。もしもこの身が人理救済の末にも保ったなら、マシュも一緒に連れて行って貰う算段であったし――実際に立香も誘ったであろう――楽しみにもしていたのだが、彼の祖国において入れ墨という文化は好かれていないのだ。公共の場で晒すことがタブーである程度には。
そんな実質新婚旅行に等しいイベントで温泉に浸かれないなど、片手落ち所の話ではない。家族風呂でキャッキャうふふができないなんて、レストランにはいってコーヒーだけ飲んで帰るような所業がどうして認められようか。
「お願いします」
「凄い食いつきね……ほら、先に頭を乾かしなさい。私達と違って、貴女の髪は手入れしないと傷むんだから」
恋と愛は強い。かつての自分、見ようと思えばいつでも見られる、見られるようになってしまった若い頃の自分もこうだったのか。そんな益体も無いことを考えながら、神代の魔女は小さく嘆息を零した…………。
「やはり男は持久力だ!」
娯楽室があるにも関わらず、余暇を過ごす施設として何故か一番人気のトレーニングルームに雄々しい叫びが轟いた。
発生源はベンチプレスにて300kgのバーベルを軽いダンベル運動の勢いで繰り返す――現世界記録が500kg足らず――、むくつけき偉丈夫であった。短く刈り上げた髪と巌の如き表情。鍛え上げた逞しい長躯を誇る彼は、ケルトはアルスターサイクルの英雄、フェルグス・マック・ロイその人。
剣の英霊にしてケルトがケルトと呼ばれる理由の一角である、如何にもケルトな武人。しかして立香の数多居る師の一人であり、本人曰く「剣と女遊び」の師匠だ。
「叔父貴、急に何さ」
そんな師の咆哮をカルデア最後のマスターはランニングマシーンの上で聞いた。流れるベルトは中々に早いペースであるが、多くの特異点を踏破して鍛え上げてきた身体に疲れは見えない。微かに汗が滲めども、綺麗なフォームと一定のリズムを保った呼吸が乱れることもなかった。全ては肉体派英霊共が挙って英雄の卵を真なる英雄に鍛え上げようと心血を注ぎ――或いは面白がって――鍛え上げた結果である。
「お前も一人前の男になったからな! やはり! 男にとって何が大事か! 改めて教えてやろうと思ったのだ!!」
持久力、それは確かに重要だ。継戦能力の根幹であり、戦うにせよ逃げるにせよスタミナが無ければ成り立たない。実力が逼迫した場合はスタミナの多寡で勝敗が決まることも珍しくなく、戦士という存在が成り立つ上で非常に重要な基礎である。
が、今回はそんな真面目な話はしていない。要するに色々とピンクなアレを致すがためのスタミナであろう。
「いやぁ……俺もまだ若いから自信はあるけどさ、叔父貴と比べられるとなぁ……」
「なんと!?」
英霊であるが故に意味も無かろうに、習慣と鍛錬そのものを好む性質から成される筋トレに驚きの声が混じった。
そりゃー一般の人間、魔術回路こそ持てど庶民の産まれである立香としては、赤枝の騎士と対比されては軽自動車とMBTを並べるようなものだ。確かに鍛えて体力も付き、激しいグラインドを一晩続けられるくらいの体力が身についたとしても、満足させるのに人外の体力を持つ女神か七人の女が必要とかいうぶっ壊れ性能と比べられては困る。
「俺が若い頃はだな! その気になれば三日間ブッ続けでもなんとかなったぞ! 立香、志が低くてはいかん!!」
「俺が叔父貴クラスになったらマシュ壊れちゃうよ」
「なに!? 嬢ちゃんはそんなに脆かったか!?」
この御仁、神代に近しい時代を生きていたからか、人間の肉体に対する評価がちょっと色々トんでいる。むしろあの時代のケルト女性で七人となれば、現代の女性なら一個小隊規模に匹敵するのではなかろうか。
今更ながらそんな存在を使役し、師と仰いでいる事実に軽く戦慄した。もしかしたら自分は、世界中の魔術だとか神秘を尊ぶ人間が血涙を流して羨む立場にあるのではなかろうか。ぶっちゃけ鍛錬が洒落にならない程きつかったりするので、たまにであれば替わって欲しいのだが。
「うーん、となると難しいな……やはり愛妾が必要か!」
「どうしてそうなるのか」
日課の基礎体力トレーニングが会話のせいで途端に重く感じてきた。確かにカルデアにおけるマスターLOVE勢に独占欲が強い者は少ないが、それでも色々とお昼のドラマみたいな展開は好む所ではなく、それだけは避けてくれと三十路童顔にも土下座で頼まれているので考慮せねばなるまいて。
それに立香は年相応の性欲はあれど、フェルグスほどの性豪ではないのだ。マシュ一人で十分過ぎる。精神的にも普通の彼が全霊で愛せるのは一人が限界というところ。全ての恋人を本当の意味で平等に扱うなど、人間を超越せねば難しかろう。結局、どうしたって人間は優劣や順番をつけてしまう生物なのだから。
「ううむ、やはり立香は未だ性の奥深さを知らぬと見える。ならば! いっそ! 俺を交えて嬢ちゃんと三人で!!」
「……何やってんのよ」
実行に移された日には立香もマシュも酷い目に遭いそうな提案は――前者はスタミナ的な意味で、後者は菊門的な意味で――、酷く胡乱な声に遮られた。
見やれば、トレーニングルームの入り口には一人の英霊の姿があった。扉が開いた音がしなかったので、霊体化した状態でフラフラしていたのだろう。
佇む姿はむくつけき男の園に似合わぬ乙女の具現。愛らしい女性の身体という概念を生物にしたような美貌の彼女は騎兵の英霊、北米で暴れ回ったケルトがケルトたる側面を担う一人、恋多きコノートの女王ことメイヴだ。英雄目当てでカルデアに転がり込んできた彼女だが、今のところ狩りが上手く行っていないようで最近はフラストレーションが溜まっているのだろうか。今日も何処かご機嫌斜めな様子であった。
「おお、メイヴか。何、立香に男としての教えをだな」
「私がちょっと辟易するくらいのテクニックをどう仕込もうっていうのよ。てか、クーちゃんズ居ないの?」
「今日は見てないなぁ」
どうやら彼女は恋い焦がれ、結局手に入らなかったクーフーリンを求めて徘徊していたらしい。カルデアに来た理由の大半も、クーフーリンが複数居るからといっても過言では無い彼女としてはモーションを掛けたかったのだろうが、向こうが避けてしまってはどうしようもない。きっと今頃、人目を避けてチンチロの胴元でもやっているのだろう。
「あ、そうだちょうど良いメイヴ。ポールの上に乗ってくれんか。ここの設備じゃこれまでしかウェイトを乗せられんのだが、どうにも物足りなくてな」
「しっつれいねー、羽のように軽い私を捕まえてウェイトにしようだなんて」
文句を言うメイヴは実際軽い。154cmの身長でダイナマイトな体つきをしているのに体重が41kgなどという、明らかにチートかバグとしか思えないステータス。数値的に優越しているのが清姫くらいしか居ないという――彼女が13~4歳という事には目を瞑る――凄まじい逸材だ。
「愛人の頼みだ。女王なら快く聞いてもよかろう」
「もー、仕方ないわね。クーちゃんも見つからないし、暇潰しに付き合ってあげるわよ」
文句を言いながらも付き合ってやるメイヴは、やはり恋人にするには良いのかもしれない。伴侶には絶対にしたくない、とは付き合った男の誰しもが零す感想だが。
男に跨がる者として騎兵のクラスを戴いた彼女は、不安定なポールに腰掛けても特に不便そうにはしていなかった。逆にフェルグスは女体の香りと、ポールが上下するたびに接近してくる太股や鼠径部にテンションを上がっていた。
「で、何を馬鹿話してた訳?」
「うむ、立香が情けないことをいうのでな! マシュの嬢ちゃんを交えて三人で……おお! そうだ!」
嫌な予感が加速して、ついに危険な領域へと突入する。
「鍛える意味でならメイヴも混ざれば、嬢ちゃんにテクニックを伝授できて、更に熟れた女の味を立香に仕込めて一石二鳥ではあるまいか!」
「おお! 立香と寝て良いのね!?」
つまらなそうにしていたメイヴの瞳が、途端に楽しそうに輝いた。暇を持て余したケルト勢が考える事なんぞ碌でもないことに違いはあるまいが、これは結構……いや、かなりヤバイ方向の話だ。
女王メイヴの楽しみは、勇士や傑物の類いを食い荒らすことだ。無論、鬼勢と違って食的な意味では無く性的な意味で。特異点を踏破して人理救済の大業をなさんとする立香は勇士と称するに不足は無く、もしも人理を救ったならば一級の英雄として喰らうに値するであろう。それが人理に刻まれずとも、ヒトの歴史に残らずとも。
「いいわね! 私、女の子はそこまででもないけど、身持ち堅そうな盾の子は結構楽しそうだし悪くなくってよ?」
「やはりこういう所は気が合うな! 人間性は欠片ほども評価できんが、身体とこういったことへの才能はやはり一級か!!」
「おい」
ぎゃあぎゃあと喧嘩を始めた二人を「お前ら本当に恋人関係だったんかい」という目線で見やりながら、これ以上の面倒事を避けるため、立香はそっと気配を消してトレーニングルームを後にした。日課のノルマは後10kmほど残っているし、筋トレもしたいが後にしてしまおう。このまま歪んだ形で4Pに突入したらどうなるか。
新しい扉が開けるかもしれないが、その先はケルトだぞ、と頼れる弓兵の言葉を模した電波が飛んでくる。流石にこのカルデアをケルトやギリシアの宴にしてはならない。取り返しのつかないことになること請け合いである。主にバーサーカーとかバーサーカーとかアサシンのせいで。
「……後でマシュに癒やしてもらお」
やはり、この荒んだ心をいやしてくれるのは愛らしい後輩だけなのだ…………。
バスタブという風呂の入り方に未だ慣れない立香は、湯を溜めながら軽くスクワットをして時間を潰していた。
ケルト勢とギリシア勢曰く、男は下半身の粘り強さと足の速さが重要とのことで、色々な面子によって練られたトレーニングは下半身強化が大目だ。
その事実は俊足の英霊に強者が多かったり、強大な膂力を支える要点として力自慢が重要視していることから疑いは無い。が、この期に及ぶと性的な意味での下半身力の方が重視されている? と邪推を抱いてしまう。何せトレーニングメニューはケルト勢が主に監修を務めているのだから。
とはいえ実際に続けて自力はついているのだし、文句を付けたところでと考えていた所、部屋のインターコムが鳴らされる。誰かと思ってモニタを覗けば、そこに居たのは愛らしい後輩であった。
渡りに船だ。風呂に入ったら部屋に呼んで癒やして貰おうと思っていたので手間が省けた。ケルトに触れて傷ついた現代人の価値観を癒やすには、やはりぐう聖な後輩のぽわぽわした空気しかない。
「すみません、先輩。急に訪ねてしまって」
「いいよ別に。暇してた所だから」
「あれ、お風呂に入ろうとしていらしたんですか?」
寝台の上には着替えとバスタオルが用意されており、風呂場からはバスタブに湯を溜める音がする。部屋の主はからは筋トレの残滓である汗の香りがした。
「ああ、さっきまでトレーニングルームでちょっとね」
「サウナに入られなかったんですか?」
トレーニングの後、付き合ってくれた面々とサウナに入り、耐久実験染みた我慢合戦をするのが彼のいつも通りだった筈。
「あのまま入ると、大事な物を喪いそうだったからね……」
遠い目で明後日の方向を見やる先輩に、彼の苦境を知らぬ後輩は首を傾げるばかり。自分の身体だとか愛する先輩の後ろの貞操だとかに関わるやりとりがあったこと、それは知らぬ儘にしておいた方がきっと誰にとっても幸福なのだろう。叔父貴は叔父貴でケルトだが、あれでいて強引な事は好まないお人であるから心配もいるまい。
ふと、マシュは下腹に小さな疼きを得た。平服に隠されている腹だが、そこに宿った疑似回路が励起状態になりつつあることが感覚で分かる。
一体どうして、と首を傾げて見るも覚えは無い。立香はマシュを持て成そうと冷蔵庫に向かっていて何かしたようでもなければ、自分が何かをしたはずも無い。淫紋が励起するには、自分が興奮するようなことをするか、立香から命じられない限りないはずだ。
では一体……そう考えた時、鼻腔を擽る臭いに気付いた。さっきから感じていた立香の香りだ。
モンゴロイドの体臭はコーカソイドに比べてかなり薄く、職員にも西洋系の白人が多いカルデアにおいて立香の体臭は非常に薄い方だ。しかし、微かに彼が纏った汗の匂いはマシュの琴線を酷く擽る何かがあった。
汗の香り自体はマシュとしても馴染みがあるもの。英霊も現界していると体臭を持つし、レイシフトした先で生きていた人達にも臭いはしっかりあった。盾の扱いの師であるレオニダス氏を筆頭に、むくつけき大男に事欠かぬカルデアにおいてその臭いを嗅がぬ日は無いと言っても過言では無い。
今まで何度も嗅いできた臭いだが、特に何かを感じたことは無かったはず。ただ、立香の香りには確かに今まで違うものを感じていた。普通であれば良い匂いとは言い難いはずなのに、良い匂いに感じてくる。
ああ、これはなんなのだろうか。もっと嗅ぎたいと思うと共に、下腹が疼いてくる。そう、正に丁度淫紋が刻まれた部分が。
マシュは先の一件以来、随分女として成長した。我が儘を言えるようになったし、したいことを剰り悩まずすることもできるようになった。立香がそれを望むからというのもあるが、女として振る舞うことに楽しみを覚え始めているのだ。愛した相手に女として求められる、生物としての根源的な欲求を満たすことに彼女は慣れ始めていた。
「……先輩」
「ん? 何?」
マシュは魔術回路を励起させ、メディアからかけてもらった不可視化の術式を解除する。本当はこれを報せるためにやってきたというのに。そして、次いでに魔力が供給されはじめた淫紋が淡く輝きを帯びる。肉体が熱を宿し、吐息が熱っぽくなるのを彼女は感じていた。
そうして、欲求を満たすため、艶然と微笑む。
「折角ですから、一緒にお風呂に入りませんか?」
その表情は、もう立派な女のものであった…………。
希望があったので、とりあえず書き散らした文だけは推敲しつつ少しずつ放出していこうかと。が、流石に長くなりすぎたのでお風呂プレイは次回。風呂はやはり日本式が良いですが、泡風呂はエロ的な意味で大変アドがあると思うのですよ。
そして、やはりケルトはケルトだった。