ダビデ案件駄目絶対! と最後のマスターは叫んだ 作:Schuld
人は変わることができる生き物であり、変わり続けるからこそ生きていける存在である。
が、これはちょっと変わりすぎかな、と現時点で人類最後のマスターとなった男はぼんやりとバスタブに腰掛けながら思った。
目の前に広がる光景は中々に倒錯的で、それでいて一般性癖に含有されるもの。本来ならば身体を清潔にするはずの浴室で、身体を汚す行為を始めようというのだから、これを倒錯的と言わずになんとするのか。
異国に来てからは異国の文化にあわせて体毛を処理するようにしていた立香であるが、彼の開いた股の間には愛しい愛しい後輩の姿があった。普段であれば可愛らしい顔は情欲で紅く染まり、アメジストの瞳は怪しい輝きを宿している。
何やら唐突に風呂に誘われたと思い、恋人らしいイチャイチャプレイができるかなーなどと暢気していたらこの様だ。お洋服脱がせますね、という一言から現状まで僅か2分である。待てが出来ないことに定評があるケルト勢よりはマシだが、それでも慎み深かった後輩からすれば嘘のようである。
そう思えば、これも淫紋調教の成果なのだろうかと少し感慨深かった。まぁ、淫紋入れてからも別に普通の魔力供給(意味深)とかマッサージしかしていないのだが。
いつの間にやらシールダーからバーサカーにクラスチェンジしていた後輩は、汗で蒸れた会陰部に顔を寄せて恍惚としている。汗腺が多く服の構造上どうしても蒸れやすい部分であり、更に10数kmのランニングと数十回のスクワットをこなしているので良い匂いとは思えないのだが、彼女の顔は幸福そうにトロンと蕩けていた。
「……マシュ?」
「せんぱい……すごく……いい、においです」
呂律も若干回らなくなってきている。股座の臭いを嗅いで発情してきているらしく、体勢の問題から見えないのだが発光によって淫紋が励起していることが分かった。
『そっか、臭いフェチだったかぁ……』
今更ながら立香は事の真相に気がついた。世辞に良い臭いと言えない状況の自分がスクワットをしていた部屋は、さぞ汗の匂いやら何やらが籠もっていたことだろう。特に何かした覚えも無いのに彼女が発情し、今も尚臭いを求めていると言うことは、つまりはそういうことなのである。
お祭り系影の国の女王が考案した淫紋は、行き着くところまで行き着けば視覚すらも快楽に返じさせる特級品だ。生活に支障が出るので機能を絞ってはいるものの、切片さえあれば機能は十全に仕事を果たす。元より彼女には、臭いで発情する素養でもあったのだろう。
そういえば、叔父貴をはじめ性に造詣が深い勢から聞いたことがある。体臭というのはセックスにおいて非常に重要なファクターであり、良い匂いだと感じる相手ほど身体の相性は不思議といいものだと。
ここで小難しい話をすると、遺伝学的に体臭は互いの相性を知る重要な要素になり得るそうだ。遺伝学的に近しい相手ほど体臭は不快になり、逆に遠ければ遠く繁殖的に良い相性の相手であれば体臭は心地よく感じられるらしい。だからこそ思春期の娘子は、自然とお父さん臭い! などと言い出すのである。
成る程どうして不思議な物で、臭いフェチにも合理性とやらはあったらしい。まぁ、行きすぎた拘りは流石に違うだろうが、今のマシュが陥っている状況はまさにソレであろう。
「せんぱい……まだ、ですか? まだだめですか……?」
今は抑えさせているが、“待て”を止めた瞬間面白い事になりそうだ。このまま限界が来てバーサーカーからデンジャラスなビーストになるまで遊んでも良いのだが、初夜の一件もあってあんまり焦らしプレイは好きじゃないようなので、そろそろ止めてやるとしよう。
「よく我慢できたね、マシュ。いいこだよ……」
「えへ、えへへ」
誉めながら頭を撫でると、後輩はとても良い笑顔を浮かべてくれる。これで顔の前に怒張した自分の逸物が無ければ写真に残しておきたいくらいだ。別の意味で写真に残しておきたくもあるが。
「ん、もういいよ」
「はい! ありがとうございます、せんぱい!」
ここでお礼を言うあたり、もう大分キている。淫紋に自分から魔力でもガンガン流しているのか、相当出来上がっているようだった。勝手に下を弄らないようにも言いつけてあるし、本当に限界が近かったのだろう。
「では、失礼しますね」
若いだけあって視覚的、状況的興奮だけでマックスに至れる怒張をマシュは柔らかく捕まえた。そして、挨拶でもするように口づけを落とす。恋人と愛情を確かめ合う軽い接吻と似たようなキスは、グロテスクな逸物には不釣り合いなはずなのに酷く似合ってもいる。ただそれだけの単純な行為が立香の征服欲を見たし、背筋に言い知れぬ快感を走らせた。
柔らかなキスから始まり、行為は少しずつ発展していく。不慣れながらも怯えの無い動きで舌は各所を這い回り、時折形を確かめるように唇で吸い付かれる。むず痒いさと快感の中間点にある感覚が返って心地よい。射精には繋がらないが、いちゃいちゃしているという感じが立香には楽しくもあった。
敢えて何処が気持ちいいかは口にせず、マシュのしたいがままに任せる。彼女は人が何を求めているかを慮る事ができる子なので、感受性に従わせた方が将来的にテクニシャンに育つのでは無いかと考えた教育方針だ。少し前まで童貞と処女のカップルだったのに何を偉そうに、と誹られても仕方がないが、バックに居る百戦錬磨――多義的に――の講師陣は伊達ではないのだ。
好きこそ物の上手なれ、というのは何処ででも通用する理屈なのである。それに、楽しそうにしている方がいやいやしている方よりいいではないか。無論、逆の性癖の持ち主もいるかもしれないが、それはさておくとしよう。
「ん……せんぱい、すごく……いいにおいです」
さて、男性諸氏ならば経験はあるだろうが、人体急所の一つにして唯一骨にも筋肉にも護られていない臓器である陰嚢は、ラジエーターとしての役割も果たしていることもあって酷く蒸れやすい。夏場にここの始末に困った経験の持ち主も多かろうが、汗を掻きやすいということは臭いも強くなると言うこと。
そんな陰嚢に鼻をすり寄せ、恍惚と表情を蕩けさせる後輩は恐ろしく淫靡であった。鋼の精神力で衝動に任せて動こうとする身体を押さえなければ、今頃は逸物を口にねじ込んで強引にグラインドさせていたことであろう。
抑えねばならない。後輩の技量のためにも、自分の楽しいベッドライフのためにも。
暫し――している方には短く、されている方には酷く長く感じる時間――臭いを堪能してから、マシュは味も確かめようと言わんばかりに陰嚢を銜え込んだ。脆い部分を託して貰えているという多幸感と、口から抜けてゆく得も言えぬ心地よさを覚える体臭。皺を伸ばすように舌を這わせる度に帯びる震えすら、彼女によっては興奮と快楽に変換されてゆく。
口腔で転がし、伸ばし、飲み込むように喉の奥にやってバキュームしてみたりと好奇心に任せて後輩は色々試してくる。その熱意に溢れる姿が愛おしく、不慣れさに興奮が高まってテクニックに欠ける愛撫が快感を高めていった。
「ね、マシュ」
撫でられながら舐めるのが好きと数回の逢瀬で悟った立香は、陰嚢から棹への愛撫に戻った後輩の頭を優しく撫でてやりながら、自分の限界が近いことを悟っていた。
「ふぁい?」
撫でられながら、まるで好物の飴でもしゃぶっているような無垢さで見上げてくる後輩。あどけない筈の表情に滲む淫靡さに堪らない物を感じながら、立香は腰を浮かして取り上げるように彼女の口から陰茎を引き抜いた。
「あっ……」
口蓋の溝に擦られた亀頭に快感が走るが、心地よさを押し込んで物欲しそうに逸物を見上げる後輩に提案する。追いかけるように持ち上げられた顔に陰茎をぺちぺちぶつけてみるのは、ちょっとした悪戯心であって、別に彼女を虐めたい訳ではないのだ。断じて。
「風邪ひいちゃ拙いし、湯船に浸からない?」
限界を誤魔化し、醜態を避けるための誘いかけに後輩は素直に乗ってくれた。それはいけません! と慌てて表情を普段の気遣いができる後輩のものに戻し、湯船に手を突っ込んで温度を確かめながら、ちょうど良い具合ですよ! などと元気に言ってくれる。
切り替えの上手な後輩だ。確かにレイシフト先では妙に奇襲を喰らう展開が多かったから、彼女も切り替え上手にならざるを得なかったのかもしれない。それでも腹の淫紋は怪しくピンクに輝き続けているので、劣情は収まってなど居ないのだろうが。
本当にいじましく……愛らしい後輩だ。
「「はふ……」」
バスタブに溜めた湯に浸かるのだが、少しだけ問題がある。元々複数人で風呂に入る文化が無い西洋において、バスタブというのは基本的に一人用。それもサイズが限られたカルデアの浴室はシャワーユニットやトイレ込みで狭めに設計されており、当然バスタブも巨大とは言い難い。
つまり、浸かろうと思えば上下に重なって入る必要があるのだ。まぁ、この場合は問題というより、メリットでしかないのかもしれないが。
全裸で体温が下がっていたため、お湯の温度が心地よく先輩後輩そろって間抜けな声を零してしまった。全く同じタイミングの嘆息に、二人は顔を見合わせてくすくすと笑う。
「お湯加減、如何ですか先輩」
「ん、ちょうど良いよ」
対面で浅く寝そべりながら湯船に入る二人は、言うまでも無く立香が下になっている。デミ・サーヴァントであり肉体の頑強性なんぞ人間と比べるべくもないマシュであれば、別に彼女が下でも問題は何もなかっただろうが、これは男の矜持とも言うべきもの。むしろ、後輩からの重量負荷なら、それも愉しんでみせる度量が男には必要であろう。
どちらともなくバスタブの中で互いに身体を探り合う。戦いで引き締まった四肢を、強靱に鍛え上げられた胴体を、愛おしげに見つめ合う頭部を。時折マシュは立香の身体に残った古傷をなぞり、記憶を辿って何処の特異点で負った傷かを口にする。それは盾の英霊であり、立香の最後の盾を自認する彼女にとっての心残り。自分が万全であったならば、負わせる必要の無かった傷。
しかして、立香にとっては数多の特異点を英雄英傑、そして後輩と共に駆け抜けた証たるトロフィーなのだ。この偉業が人の歴史に残らずとも、自らに刻まれた傷と記憶だけは色あせることは無い。その疵痕を慈しむように、それでいて悲しそうになぞる後輩の姿は男として……何かそそる物があった。
「マシュ」
「はい、せんぱ……あっ」
名前を呼んで顔を上げさせ、不意打ち気味に唇を奪った。さっきまで自分の物を舐めていた、などという無粋な事を気にしてはいけない。本来汚い物を舐めてくれるのが愛なら、その汚い物を口に含んでいたことを気にしないのが男の愛である。むしろ、自分が“出した”後をきちんと舐めて掃除してやるくらいの気概が必要だ! とは、色々益荒男過ぎるケルト勢の言である。
笑い声を零しながら口づけを交わし合う。啄むような軽い物から、本当に触れあわせるだけの優しい接吻。そして、最後には口腔に舌を招き合う深いキスへ。
「せんぱ……せんぱい……んぅ……せん……ぱい……」
啼くように声が口の中で切れ切れに溢れ、声音に紛れる感情さえも啜るような激しいキスを交わした。言うまでも無く、その間にも両者の手は休むこと無く身体を這い続けている。マシュの右手は腹にあたる立香自身を優しく弄び、立香の手はマシュの弱点である内股や首筋を掠めるようなフェーザータッチで責め上げた。
交合にはリズムというものがある。手慣れた連弾のように心が通い合った者同士であれば、不思議と高まりが同調し、求める時が一体化するのだ。それを証明するようにマシュが腰を上げて求めるのに対して、立香が挿入しやすい位置へ動いてやる動作は恐ろしく自然であり、完全に同調した流れの中にあった。
輝きが痛いばかりになった淫紋は、桃色だったものが明度を上げすぎて桜色に変じている。色合いは丁度マシュの髪色に似ており、正しく彼女に誂えたかのようだった。増幅される快楽と興奮の域は凄まじく、頭の中を一つの思考で染め上げる。
愛した人と一つになりたい、そんな単純な思考に。
そして、身体は欲求に従って、いとも容易く不完全な二つは一つに繋がった。
「んぅ……ああ……!!」
十分過ぎるほど潤んで湯に滲ませるほどだった女陰へ、男根はあっさり最奥まで突き入れられる。若く発達した筋肉は複雑に無数のひだを作り出し、姦通された時から彼の形に合わされてしまったそこは悦びに打ち震える。十分焦らされた後の挿入、その最初の一突きで達することに彼女はもう慣れていた。立香はたっぷり焦らした後は、ご褒美のように一度だけ絶頂を許してくれるのだ。
ぶるりと身体が震え、「お」とも「ほ」ともつかぬ、下品な声が止められなかった。主従という関係がそうさせるのか、もしくは元より相性が良かったのか、特段大きいとも言えぬ立香の物は、本当に彼女にぴったりなのだ。
高く張ったエラ、本来は他のオスの精子を掻き出す役割を持ったそこは、自分以外が侵したことの無い領域を容赦なく擦り上げていく。硬く張り詰めた怒張が帯びる反りは、彼女が好む場所に当たるように潜り込み苛んでくる。控えめな後輩が、勝手にも先輩は自分に誂えて作られたのでは無いか、と不遜な妄想をするのも頷ける一品であった。
動くね、とは最早聞かない。寝そべって抱き合う激しい動きが難しい体位でも、水の浮力と姿勢を工夫すれば十分に抽挿は可能だ。マシュが一番好きな浅いところを細かく擦ってやることはできないが、次に好んでいる奥を優しく何度もノックしてやる動きはできる。
「おっ……おんっ……せんぱっ……ひひれす……せんぱいっ……」
身体が跳ね上がって唇が外れる度に嬌声が漏れ、また必死に唇を求めてくる。激しい刺激は得られないが、その声と表情だけで立香は十分な程に昂ぶっていく。男は女より物理刺激によって快感を得るところが大きいが、視覚的興奮や精神的充足でも十分に快楽は得られるのだ。
浅ましくも根源的な、この女性を征服したという満足感が心を満たしていく。成る程、処女地を強く求める――当人は男色家でもあったが――征服王の気持ちがよく分かった。まぁ、これを目の前で言ったらちょっと苦言が飛んできそうではあるが。
「どう? マシュ、気持ちいい?」
「んほっ……いいれふ! せんぱっ……れもっ、くるっ……くひ……おおっ……
「んー? ちゃんと言ってくれないと分かんないなぁ」
好きな女の子にちょっとした意地悪をしたくなるのは、幾つになっても直らない男の性だ。そのちょっとした悪戯で、人間であれば頭が軽くトぶ快楽をスタックさせているのはどうかという話であるが、マシュはデミ・サーヴァントなのでノーカンである。ノーカン。
「ほひっ……ほしひれふ! しぇんぱいのが、あちゅいの、まりょくくだしゃい!」
おねだりが出来るように唇を解放してやると、回っていない呂律で必死に懇願を口にした。まだ淫語を堂々と口にするのは茹だって尚も恥ずかしいようだが、そこは追々の課題としよう。
「よくできました」
「あひっ……」
強くかき抱き、一番大好きな所を責めてやった。彼女は耳元で囁かれるのが大好きなのだ。初夜の床でのリンパマッサージで分かったことだが、耳や耳の裏が非常に弱く、ともすれば囁きだけでも絶頂出来るほど脆い。
焦らすようなことを宣いつつ、その実かなり限界が近かった立香は淫紋に魔力を流し込んで制約を解き放った。今の今までスタックし続けた快楽を解き放つ許可を。
「んぁぁぁぁぁ……!!」
声にならない甲高い嬌声が狭い浴室に響き渡る。許可と共に魔力を回して膂力を強化した上で行った最後の一突き。膣の最奥へ強く突き立てる抽挿が、絶頂のスイッチを押したのだ。強烈な快楽に筋肉が収縮し、今までも複雑で官能的な締め付けを行っていた蜜壺が一際激しく締め上げられた。
ぬるりと全体を撫で上げる複雑な絶頂の証明に、立香もまた達する。魔力を膨大に含む精が吐き出され、熱い奔流となって快楽に打ち震える膣を撫で上げた。本来然程強い衝撃でもないのに、吐精の勢いに押されてマシュは絶え間なく連続する絶頂の渦に突き落とされる。尋常の交合では決して至れない高みに腹の筋肉が痙攣し、無意識に吸い付いていた唇に力が籠もる。
「あふっ……ひっ……ひぅ……しぇんぱ……しぇんぱいぃ……」
「いたた……大丈夫だよ、マシュ、怖くないよー」
強すぎる快楽に幼子のように泣きじゃくりながらも、涙やら何やらで汚れた顔は喜悦の笑みに歪んでいた。泣き笑いの表情は異様な物なれど、抱きしめる立香には美しい物に映った。
綺麗だから汚したい、というのは誰しもが抱く禁忌なのだろう。
長い長い絶頂で締め上げられ続ける膣の中で二度目の暴発をしなければいいのだけれど、と表情筋を全力可動させて誤魔化しながら、立香は泣きじゃくる後輩の頭をずっと丁寧になで続けていた…………。
流石に自重というものを覚えれど、性欲に突き動かされる若いカップルの交合は得てして長い。幾度かの吐精と数えきれぬ絶頂の後、二人が冷静さを取り戻した時にはバスタブに溜めたお湯はとっくに冷めていた。
その上、汗やら何やらが滲みきって、とてもではないが風呂に入ったとは思えぬねっとり具合。完全に脱力したマシュの身体をシャワーで洗ってやって、自分も身体を清め終える頃には疲労困憊していた。
並んで寝るには些か狭い寝台に二人で横たわる。寝落ち寸前のマシュは、幸せそうな表情で腹をなぞっていた。まるで、精を受け止めた己の腹に子が宿っているかのように。
実際の所、マシュの痛んだ身体に子を宿す機能が備わっているかは疑わしい。よしんばあったとして、子も母胎もまともでは居られないだろう。何よりも今は人理を救う闘争の最中だ。腹を膨らませて戦える訳も無く、マシュは暫し幸福な感覚と夢想を愉しんでから……魔術回路を励起させた。
性交は体液を媒介とした魔力の譲渡を可能とし、生命の源である精液には特に多くの魔力が籠もる。近頃疲れがちなマシュの身体を癒やすべく、立香はカルデアのサポートが途切れても数騎のサーヴァントを平然と限界させる、いっそ常識外れなまでに膨大な己の魔力の過半を彼女に受け渡していた。
精液から魔力を抽出し取り込んでいく。それに反比例して精からは活力が失せ、“子を成す”機能、精虫が死んでいった。魔術師だけが可能とする、実利を兼ねた避妊というところだろうか。性病の感染は防げぬが、次代を作るという何より大事な事業のタイミングを誤らずに済むので、実利的には非常に有益な技術と言えよう。
こうする時、マシュはいつも寂しそうにする。女として、生き物としての幸福を自ら手放す行為に寂寥感を抱かずには居られないのだろう。彼女は作られた桜のような少女だ。自分には次代など作れないと分かって生きている。なればこそ、芽吹くことの無い種を惜しむのか。
立香は何も言わず、儚げな後輩を抱きしめた。淡い姿が消えてしまわないように、彼女が悲嘆に暮れないように。この人理を救済するという大業の中で、お互いに折れてしまわない為に。
「ねぇ、先輩……」
「なにかな、マシュ」
「……起きた時、また私に“おはよう”と言ってもらえますか?」
「ああ、勿論」
朝目が覚めるのは幸せな事だ。目を閉じたが最後、二度と目覚められないのでは無いかと恐れながら過ごした日々を思えば、この暖かさや充足感に包まれ、心地よい疲労の中で眠りに落ちられることのなんと幸せなことか。
自分は今、とても恵まれている。マシュは最後に腹を優しく撫でて、静かに目を閉じた。きっと今なら、いい夢を見られるだろう。
そんな後輩を見ていると立香も直ぐに眠気に襲われ、あっと言う間に瞼が重くなってきた。ランニングや筋トレの疲労に相まって、都合四度の吐精は中々に響いた。風呂の掃除をしなければならないが、もう後で良いだろう。動いて後輩を起こすのも可哀想だし、何より今から動いてまともに作業ができるとも思えない。
きっと、冷め切った上、熱変成した精液が浮かぶ風呂を詰まらぬよう掃除するのは酷く陰気だろうが、それも素晴らしい時間の駄賃だと思って諦めよう。
立香は掛け布団を引っ張り上げると、裸身の後輩に縋り付いて瞑目した。寝ようと意識する必要も無く、意識が沈んでいくのが分かる。やはり人の温もりというのは、何者にも代えがたい幸福感を与えてくれた。
一分と待つことも無く、人理踏破の偉業の最中に貰った物が所狭しと並ぶ部屋の寝息は二つになった。朝シフトの起床時刻まで、規則正しく幸せそうな寝息が途切れることはないだろう…………。
灯りが落ちて、蛇口から微かに溢れる水音だけが木霊する浴室。その中に聴覚を研ぎ澄ませたとしても、とても聞き取れぬであろう大きさの足音が一つ。ひたりと冷え切ったタイルに降り立った影は、荒淫で汚れきったバスタブの中へ指を潜らせる。
細くしなやかな指が攫い上げたのは、お湯の熱で固形になった立香の残滓だ。性交の最中に掻き出されたそれには十分な魔力が宿っているが、冷え切って固まった物は水の臭いも混じって酷く虚しいものに成り果てていた。
しかし、指の持ち主は掬い上げた精液を大きく口を開け、伸ばした舌の上に乗せた。冷たく無情な、されども芳醇な魔力の味がする。温かく新鮮な物を直接注いで貰えたなら、どれ程の悦びを得られるのであろうか。
他人が得た寵愛の残り滓をかすめ取るように味わう自分の浅ましさ、だのにこの惨めな美味を堪能している自分の姿に影は打ち震えた。どうしてこれを自分は貰えないのだろう。どうして自分の腹には、あの溢れん限りの独占欲を形にした印を刻んで貰えないのだろうか。
「ああ、マスター……寝所に忍び込めるだけで幸せだったのに、私はそれで満足だったのに……」
もっと欲しいと、虚しい愛の残り香を掬い上げた影。影に溶け込むような、上等な蜂蜜のような肌を持つ中東系の少女は悲しげに指を銜え込んだ。彼女はアサシンのサーヴァント。静謐のハサン。愛と熱を求め、何時もそれが手に入りそうになりながらも取りこぼしてしまう哀れな毒人形。
「満たされると、貴方に触れるだけで十分だと思って居たのに……」
彼女は満たされたと思っていた。自分が触れても死なぬ、熱を感じられる相手に巡り会えただけで幸福だと。その熱を少しでも良いから感じられるだけで良いと思い込んでいた。
だが、人の欲望に果ては無い。一口飲めばカップの全てを。カップを乾せば瓶一つを。瓶が終われば底なしに。一度知った味を忘れることはできないのだ。たとえ自分が満足している、身に余る物だと思い込もうとしたところで。
「ああ、マスター……私は、私は……」
影は虚しい呟きを零しながら、浴室に佇み続けた…………。
ながぁぁい! 説明不要!! エロのみで9,000文字とかどれだけ業が深いのか。推敲しているとSAN値がぐんぐん減ってきて困る。
そして、またこっちでも拗らせていくのか……(困惑)