ダビデ案件駄目絶対! と最後のマスターは叫んだ 作:Schuld
果たして今回はどんな趣向だろう。そんな期待に胸を膨らませて主人の部屋を訪れた盾の従者は、自分の状態に疑問を覚えずに居られなかった。
マスターが部屋に自分を招いた時は、何時も素敵な趣向が用意されている。お祝いしかり、淫紋をいれて貰った時しかり。逢瀬の時もまたいいものだった。
だが今日は何やら趣が違う。
「やぁ、マシュ。待ってたよ」
普段ならばそろそろ寝ようかという時間帯。シャワーを浴びて寝る準備をしておいでと呼ばれたので、いつも通り可愛がって貰えるのだと思った盾の従者は、異様な雰囲気を醸し出す立香の私室に首を傾げた。
光量は絞られて優しいベッドランプだけが部屋を照らし、甘やかな独特な香りのお香が焚きしめられている。寝台はいつでも眠れるように整えられているのだが、何やら小道具らしきものが用意されたトレイがベッドサイドに置かれていた。
「あの、先輩、これは……」
「まま、いいからいいから、座って座って」
「えっ!? せっ、先輩!?」
半ば押し込まれるようにベッドに座らされた後輩は、あれよあれよというまにお世話をされてしまう。温かそうな靴下を履かされ、薄い寝間着の上にカーディガンも羽織らされる。その上、どこにサーブしていたのかしらないが、ほかほかのホットミルクまで押しつけられてしまった。
進められるが儘に飲んでみると、適温に暖められたミルクには蜂蜜が溶かされており、更にシナモンスティックで軽くかき混ぜたのか安心する味がした。自分が小さな子共になったような錯覚を覚える、記憶に無い筈の味。きっとそれは、彼女が読んだ無数の物語の中で、親が子に与えてきた物の印象なのだろう。
身体が温まり、お香の匂いと隣に腰掛ける先輩の微かな風呂上がりの体臭でマシュは心の底から落ち着くことが出来た。身体の芯から力が抜け、このまま寝台で毛布にくるまって寝てしまいたいと思うほどに。
「どう? リラックスできた?」
「はい、とっても。ですが先輩、コレは一体……」
大変落ち着いて幸せな気分になれたが、それでも立香が何をしたいのかは分からなかった。お誘いの方法からして艶っぽい話かと密かに期待し、服の下に隠れた淫紋は桃色の淡い光を帯び始めていたのだが、リラックスしての休息が目的だと些か肩すかしと言わざるを得ない。
確かにこういった静かな時間はマシュの好むところではあるが、激しく交わる男女の時間も好きなのだ。例えるなら無論魚も好きだが、肉の気分で帰って来たのに、夕食に煮付けを出されても……という所であろうか。すっかりその気になっていた脳内が髪色と同じ感じに染まってきた後輩は、微かな物足りなさを感じたが……。
「じゃ、これ付けてくれる?」
立香の笑顔と、彼の手にある道具を見て一瞬でそんな気分は霧散した。背筋にぞわりと心地良い感覚が走って行く。ああ、この先輩はまた自分を愉しませようと――無論、自分も愉しもうと――新しい趣向を用意してくれたのだと。
悪鬼スマイルほどではないが、外連味のある笑みを浮かべたマスターが手にしていたのは、何の変哲も無いアイマスクであった。十分な分厚さがあるそれは、仮眠用の器具として何処にでも備えてある有り触れた品。されど、趣向を凝らせばこれも淫具に成り果てるのだから、人の業とは真に恐ろしいものである。
「は、はい……」
普通であれば抵抗なり疑問なり覚える所なれど、盾の乙女は何の抵抗もなく受け容れた。アイマスクを受け取ると自ら迷いも無く身につけ、次はどうすれば良いですかと次を促してくる始末。もう彼女も染まっているのだ、取り返しの付かないところまで。微かであった淫紋の輝きは、既に薄い寝間着から透けて見えるほどであった。
さてどうなるか、手錠か縄かとアイマスクに続く物が連想される。どうやらマゾヒストの気が大いにある後輩としては、“そういった”器具の使用にも興奮を掻き立てられるらしい。
乏しい性知識からの連想で発情していた後輩であるが、次なる指示は意外なものであった。ただ何もせず仰向けにベッドに寝そべって力を抜けというのだ。
自分にマゾヒストの気があることは重々理解していた後輩からすると、少しだけ残念な気もする。痛みには彼女自身かなりの耐性を得ているし、別に好きでも無いのだが、拘束には興味があったから。独占欲を更に形にしてもらっているような物なので、腹の淫紋を気に入っているのと同じ要因で興味を抱いたのであろう。
暫しの沈黙が部屋に満ちる。微かな衣擦れの音と自分の鼓動の音だけが鼓膜を揺らしている。視界を完全に塞がれたことで、他の感覚が鋭敏になっていく。この沈黙の中、自分の鼓動と側にある熱が興奮を強めていく……。
「ね、マシュ、今から俺の指示には逆らわずに従ってくれる?」
「ひゃんっ!?」
掠れるような囁きが耳朶を打ち、盾の乙女は痩身を跳ね上げさせた。元々耳が性感帯である彼女は囁き声に弱く、耳に感覚が集中していたこともあって衝撃が倍増したのだ。思わず変な声を出してしまったことに
「んっんん……ええ、先輩のご命令ならなんでも……」
「ん、ありがとね」
恥ずかしさを紛らわそうと咳払いしてから応えると、何処か下腹に響くような掠れた声で立香は笑った。快活な笑い声もいいのだが、この男性らしい低めの、耳朶によく染みる声も癖になる。名前を呼ばれるだけで愛撫されているような心地だった。
「じゃあ、まずはね、全身に少し力を入れてから、手や足先から少しずつ力を抜いていって。できそう?」
「……? はい、やってみます」
目を閉じたまま腹筋や手足の筋肉を締めて全身を緊張させる。インナーマッスルを鍛え上げるために特殊な筋トレも日常のようにこなしているマシュには容易いことだ。
「五秒ずつくらいかな、それくらい間を開けてゆっくり全身の力を抜いていくんだ」
「……はい」
「それから、呼吸はふかーく、ゆっくりとね。力を入れながら吸って、脱力するのに合わせて吐いていく……」
「…………はい」
ゆったりとした調子で発される低い声は、聞いていて心が落ち着いてくる。五回ほども繰り返せば、力を入れようとしても強くは入らないのに、何故か脱力だけは最初よりもずっと自然に力が抜けてゆく。骨が溶け、不随意筋すらも仕事を放棄してしまうかのような脱力。
頃合いを見てか、新しい指示が吹き込まれる。蕩けた身体に従って頭からも思考と理性が抜け落ちて行き、とろんと眠りに落ちる寸前に近い曖昧なものが満ちてゆく。ふわふわした頭の中に、主人の声は嫌に鮮明に染み込んでゆく。
「いい? 今からマシュの身体はマシュのものじゃなくて、もう俺の物だから。俺の指示には絶対に逆らえないし、逆らいたくない……よね?」
「……ふぁい」
普通なら何を言っているのかと思う言葉も、曖昧になりつつある思考の中では意味を持たない。むしろ、自然なことを言われているようにすら思えてきた。元より自分は先輩のサーヴァントなのだから、当然のことですと言わんばかりに。
「じゃあ、今から俺の指示通りにしてね……まずは吸って……そして、吐く……」
「すぅ……ふぅ……すぅ……………ふぅ…………」
ゆったりとした呼吸を指示され、脱力しきった身体で繰り返す。緊張と弛緩を繰り返しながら行った深呼吸と違って、指示に従ってタイミングを合わせる深呼吸は何処までも深く、精神が墜ちてゆくような安堵を覚える。指示に従う、呼吸を許されているから生きていられるような、何もかもを握られる恐怖にも似た安心感。もしかしたら、赤子というのはこういう気分なのだろうかとマシュは思った。
「吸って……呼吸に合わせて何かが抜けていくよ。吐いて……疲れだったり、辛さだったり、悩みだったり。吸って……どんどん気持ちが楽になっていく。吐いて……そして、どんどん気持ちよくなってくる」
不思議と言われていることが命令としてではなく、揺るぎない事実のように頭に飲み込まれてゆく。元々弛緩していた身体の感覚は益々緩んでいき、気分が楽になった。そして、四肢末端の感覚が薄れてゆくのに身体は次第に温かく、心地良い感覚に包まれていく。
ほんのひとすくい程度残った理性が知識と結びつき、声を上げた。ああ、これは暗示だと。魔術師が神秘の秘匿に用いる、極めて一般的かつ普遍的な技術。だがこれは、恐らく魔術師のサーヴァントに仕込まれた現代の神秘より数段“濃い”代物なのだろう。自我を残したまま感覚を蕩かす毒のような術式。
「吸って……俺の声だけが世界に存在してる。吐いて……俺の声だけがマシュの全てをコントロールしてる。吸って……もう俺の声しか聞こえないし、感じない。吐いて……足先から感覚が消えて、ふわふわ気持ちよくなってくる」
人は精神の生き物だ。精神と自我によって構築され、時に肉の身体をそれらは上回る。なればこそ、精神は肉体に深く影響を与える。これは精神面から肉体を蕩かそうとする、いわば心の愛撫。害意を以て成せば精神を殺しうるが、愛を以て成せば……。
英霊としての、戦士としての心が叫んだ。ここから先に行けば戻れなくなるぞと。常軌を越えた快楽に心が蕩かされて、普通の快楽では全く満足できなくなってしまう。その内、暗示は条件反射的に精神へとこびり付き、淫紋以上に自分を縛るだろう。
……だが、それの何が悪いのだろう?
だって、せんぱいがおっしゃるんです、おれのめいれいはましゅのしこうだって、きもちよくなっちゃえって、きもちいいのはいいことだって……。
反響する低く掠れがちの声に、元より殆ど残っていなかった理性は、湯を掛けられた角砂糖のように容易く溶け墜ちた。
「……おお、何か思ってたより凄いことになっちゃったぞ」
立香は目の前で小さく涎を垂らしながら、身体から生命維持に必要な最低限の力以外全てを失った後輩を見下ろしながら呟いた。
暗示、秘匿されるべき技術を魔術師のサーヴァント達から学ぶ上、様々な手法で立香はこれを教え込まれた。しかしながら、これは多様される暗示とは異なる系統の精神操作技術。古い系統の技術を一つの方向へ特化させ、ただひたすらフェチ的に洗練させたその技術の名を……。
「催眠音声、恐るべし」
催眠音声という。
アストラル離脱を外から働きかけつつ、むき出しになった精神へ直接快楽を叩き付けるテクニック。身も蓋もない端的な言い方をしてしまえば、無駄に高度かつ難易度の高いオナニーだ。アストラル離脱と同じく慣れとテクニックが必要であるが、嵌まるとヤバイと定評のある強い快楽を得られる自慰技術なれど、元は大勢に向けて吹き込んだ音声で行う手法。
当然、生の音声を用い、ただの一人を対象にカスタマイズできない筈が無い。
この発想は黒髭から借り受けたパイケットの戦利品、彼が好まなかったヒロインの悪墜ち物から得たものだ。悪墜ちのお約束と言えば調教や薬物漬け、淫紋も勿論あるが……その中でも洗脳は非常にメジャーかつ人気の要素である。
そして魔術師にとって身近な暗示という技術は、発想としては非常に親和性が高い。それこそ、目的として発展した方向以外に応用するのが驚くほど容易いほどに。効果の程は思いつきで練った簡単な導入により蕩かされた後輩を見れば確かだろう。骨が入っていないのではと思うほど蕩けきり、腹の淫紋が完全に励起してしまっていることから明らかである。
自分だからここまで没入してくれたのかな、と思うと愛しい気持ちが沸き上がってきた。催眠に掛かろうと思えば、催眠を信じ受け容れる事が必要であるから故に。
ぞくぞくと征服感と達成感が腰元から這い上がってくる。得も言えぬ快感を味わいながら、立香は次の段階へと踏み込んだ。催眠導入したら、後は思うが儘に快楽を与えていくだけだ。
「さぁ、マシュ、ふわふわして気持ちいいけど……凄く気持ちよくなりたいよね。俺がなりたいから、マシュも当然気持ちよくなりたい」
あんちょこに目を通しながら指示を飛ばしていく。大事なのは相手が没入できるよう、かける方も催眠に墜とせると確信しながら揺るぎない声を出すこと。彼女が安心できるような、浸れるような声を保つ。
「気持ちいい所がじんじんと熱くなってくる。気持ち良い所は、もう知ってるよね?」
ぴくんと後輩の身体が微かに跳ねる。内股が力なくすりあわされ、穏やかだった呼吸が少しずつ荒くなっていくのを感じた。夢見心地で笑みに歪んでいた口から涎が微かにこぼれ落ち、快楽の声が溢れる。
何処が良いとは指示していないが、きっと彼女のお気に入りの場所が気持ちいいのだろう。何時も刺激してやると良い声を上げる場所を立香は熟知している。意識した場所へ催眠によって快楽が起こされているのであれば、きっと全ての場所が同時に刺激されていることだろう。実際にはできない、正しく夢の世界でのみ得られる快楽だ。
同人誌を借り受けに行った時「嵌まりすぎるとガチでヤバイですぞ」と結構なマジ顔で言っていた黒髭が思い出されせる。というか、やはり彼もやっているようだった。借り受けた戦利品の中には、これをやるための記憶媒体も含まれていたのだから。
「凄く凄く気持ちいい、マシュが気持ちいい所に本当に調度良い強さとタイミングで快感が走ってゆく……だけどね」
身体が少しずつ痙攣して行き、小さな嬌声が止まることは無い。立香は指一つ触れていないのに、甘やかな痺れを得た肢体は快楽にうねる。だが止まらない、ここで達しては“つまらない”快感は我慢すればするほど増幅していくのだから。
「イケないよ」
びくんと一度大きく身体が震えた。絶頂の証では無い。その逆、正しく絶頂に多する一歩手前で掣肘を受けたことで身体が反発したのだろう。されども、身体を制御する精神からの命令に身体は素直だ。微かに震えながらも、確かにマシュは達せずに居た。
「不思議だね、すっごくすっごく気持ちいい、マシュの好きな所全部が気持ちいいのにイケないんだ。どんどんどんどん気持ちよくなっていくのに絶対にイケない」
ううむ絶景、と立香の表情が笑みに歪んだ。喜悦に歪んでいたマシュの表情が困惑に転じ、何かを求めるように口と指先が力なく蠢いているのを見ると楽しくて仕方がなかった。彼女はこれほど深く催眠に墜ちて快楽に溺れても、自分を求めているのだ。耳を澄まし唇の形を読めば、上手く形を結べぬ声で自分を呼んでいるのが分かった。
「だってね、まだイッたら勿体ないから……今からマシュが知らない、一番気持ちの良い所を刺激するからね……それは」
理性が溶け墜ち、快楽の渦に揉まれる精神。普段も強い快楽を得られていたが、これは別種の快楽だ。未知の快感に溺れ、怯えながら盾の乙女は絶望的な、されど何よりも期待を感じさせる言葉を聞いた。
「魂だよ……今から、俺の声はマシュの魂、快感を感じる魂の部分を擽るんだ」
魂の存在を確信する魔術師にとって、それは麻薬のような囁き。全ての感覚が精神に由来するのであれば、その精神が依って立つ魂を擽られればどうなってしまうのか。茫洋と快楽の海を漂う精神は、未知の快感へ恐怖すると共に期待で沸き立った。
一瞬、魂に寄り添った盾の英霊が「ちょっ、おまっ」と焦ったように思えるが無視だ。霊基に刻まれた有り様は大事であるが、今の彼女はシールダーではなく、恋する乙女のマシュ・キリエライトなのだから。
「魂を擽られると本当に気持ちいいよ……そこを触られて初めて、マシュはイクことができるんだ。いい?10数えたら魂の気持ちいい所をおもいっきり触るから……そうなったら、分かるよね?」
アイマスクに隠れて見えないが、確かに分かる。彼女の瞳、紫水晶の目が懇願しているであろうことが。腹で輝く淫紋は完全に励起し、桜色の光が目映いばかりだ。触れてもいないのに彼女の敏感な所は硬くしこり、完全に潤んでしまっているのだろう。
「まずは魂の楽しい所から擽っていくよ……じゅーう……ほら、どんどん楽しくなってくる。気持ちいいだけじゃなくて楽しくて楽しくて、一番楽しかった記憶が沸き上がってくる。きゅーう……マシュが楽しかったことは何かな? 無人島で遊んだこと? 特異点探索の合間にやった観光かな?」
単純に数を数えるのではなく、焦らすように数の間に言葉を、しっかりと心を擽ってゆくような言葉を交ぜてゆく。何かを思い出しているのだろうか、形にならない譫言が漏れ出している。立香の名を呼び、地名が混じっていた。言われるが儘、快楽に削られながらも愛おしい旅路を思い出しているようだ。
「次は恥ずかしいところかな? はーち……一度、攻撃を受けておへその辺りからかなり際どく鎧が壊れちゃったことがあったよね。なーな……そういえば、初めて水着を着た時も最初はパーカーが手放せなかったっけ。ろーく……そして、そんな時はみぃんなマシュに集中してたよね」
羞恥を快感に変換するのは意外と簡単だ。恥ずかしさが快楽に繋がらない人間は憤怒に変換しやすく、直ぐに怒る。だが、才能があれば恥ずかしがって隠そうと、逃げようとすることが多い。マゾヒストの気が十分にあるマシュは、当然後者であり、記憶を思い出して悶えている姿から疑いようも無い。
これから露出プレイに繋がったらどうしよう。一瞬そんな恐ろしい考えが過ぎった。エロに興味はあるが、流石にそこまで倒錯した物に食指が伸びない立香としては、加減を図るのが大切だと今更ながらに気付く。マシュ自身の望む被虐に何処まで付き合えるかというのは、今後の恋人生活の課題になり得るので非常に難しい。
もし今回のにハマって、もっとハードなのを要求されたらどうしようと空恐ろしい物を感じながらも、あんちょこに従って続けることにした。半端に止められてはマシュも辛いだろうから。
もし深夜の全裸カルデア徘徊ツアーを提案されたなら……その時はその時だ。腹を括るほかあるまい。
「次は嬉しかった所だね。ごーぉ……特異点を解決する度、みんな笑顔で送り出してくれた時は嬉しかったよね。しーぃ……ホワイトデーのお返しをマシュはすっごく喜んでくれてたなぁ。さぁーん……ほら、どんどん嬉しかった記憶が溢れてくる……にぃーい……俺からの告白がマシュにとって一番嬉しかった所だったらいいのになぁ」
言ってて恥ずかしくなるが我慢である。勢いに任せて作った筋書だが、我ながら頭湧いてるんじゃないかと思えてきた。どれだけ自分の比重が相手の頭の中で重いと妄想して作ったんだこれはと。
対象が凄まじい勢いで悶えていなかったら、勘違い男も甚だしい所である。
綺麗な思い出を快感に変換されていることを恥じているのか、それともそれすらも快楽として楽しんでいるのか。マシュの身体は小刻みに波打ち、嬌声は最早小声とは言えない音量に達しつつある。それに、もう限界が近いのだろう、股の間は布地の色が変わるほどじっとりと濡れていた。
「さぁ……最後だよ、マシュ……色々な所を擽ったけど、最後は……魂のキモチイイ所。今までの快楽ぜぇーんぶ忘れちゃうくらいすっごいところ……もう、気持ちいいことしか世界に無いと思えるほど気持ちいい所だから、覚悟しようね?」
ともあれ台本もいよいよ佳境だ。マシュも良い具合に出来上がっているし、ご褒美のあげ時だろう。これ以上焦らしたなら、さしもの彼女も何処かに異常を来しかねないし。 「よく我慢したよね。本当にえらいよー、マシュは……いーち。最後の数字を言った後、手を一緒に叩くから。そうしたら気持ちいい所を……掻き毟って上げるね」
掻き毟る、その一言に縦の乙女は一際激しく全身を震わせた。掠れた甲高く長い悲鳴は、所謂歓喜の声というところだろうか。優しく労るような愛撫の声から一転、暴力的な快楽を予想させる、掻き毟るという表現。
今まであえて焦らすような物言いを続けてきたこともあって、この表現は彼女に深く突き刺さったことであろう。期待するように顔が立香の居るであろう方を向き、懇願するように口が開かれた瞬間を見計らって……。
「ゼロッ!!」
掌を打ち付けた。部屋に響き渡る破裂音と掠れた嬌声。長く尾を引くような快楽の叫び声は、小さく部屋に木霊しながら何度も何度も張り上げられる。今日最初にして最大の衝撃を与えてくれる快楽に、今までろくに動かなかった身体が暴れ出した。全身を削り取るような強い強い悦楽が神経にすら影響を及ぼし、暗示に縛られていた身体を跳ねさせたのだ。
おお、と思わず立香は感嘆の声を上げた。悦んで……うん、かなり際どいが悦んではくれている。未体験の強すぎる快楽を、今までの調教もとい逢瀬もあってどうにか受け容れられているようだ。もし淫紋の強い快感に馴染んでおらず、コレが最初の快楽だった場合は、流石にどうなっていたか分からないが。それこそ黒髭から借り受けた薄い本の如く、頭の何処かがトんでイメージカラーか変わった上、際どいコスチュームに着替える案件かもしれない。
ただ、流石にあまりのよがりっぷりに「大丈夫かこれ」という気はしてきた。もう半分発狂しているようにも見える。身体を振りたくりながら上がる叫びに、自分の名前を呼ぶものや、気持ちいいという内容が見えているから辛うじて大丈夫だと思うのだが……。
『……この後、あんちょこには一応何度もゼロと叫ぶってのがあるんだけども』
ゼロと言う度に絶頂するという刷り込みがなされているので、ゼロと言いながら手を打てば打った回数だけ絶頂する。これも催眠音声ではよくある手法なのだが……。
やっていいものか、ちょっと疑問に思えてきた。というより、もうかれこれ三分以上悶え続けているが本当に大丈夫だろうか。今までもかなり強い絶頂を与え続けてきたが、そろそろ最長記録を更新しそうなのに、未だ勢いが全く衰えていない。
マシュが壊れてしまわないか心配になって……。
「おわっ!? マシュっ!?」
どうしたものかと首を捻り始めた頃、遂に色々な臨界点を突破したのだろう。一際激しく痙攣という表現が生ぬるく感じる程に身体を揺らした後、マシュは骨が折れるのではと心配になる勢いでブリッジしてみせた。見事な弧を描く身体と、布に勢いを殺されながらも股座からしとどに垂れてゆく潮は紛れもない絶頂の証明。
ようやっとのことで、マシュは一番深い所まで達せたようだ。
しかし、不安になるほど張り詰めた身体から力が抜けた時、鼻を擽ったのはアンモニア臭。強すぎる快楽に身体のコントロールがおかしくなったのか、下の筋肉が緩んだようだ。むしろ“大きい方”が漏れなかったのは幸運というべきか。
「やばっ、やり過ぎた!? そりゃそうか、淫紋との相乗効果が……やべぇ!?」
失禁というのは思って居るよりも大分ヤバイ危険のサインである。普段であれば保たれている身体のコントロールが乱れているからこそ、筋肉が緩んでしまって尿が漏れるのだから。酒なんぞをやっていた場合は急性アルコール中毒を心配するほどのアラートだ。
あまつさえやっている“コト”がコトである。何かしら身体に良くない変調を来した可能性も十分に考えられる。
「えーと、えーと催眠の解除をしてからじゃないと……」
気絶しているかもしれないが、手順を保たないと精神に汚染を来しかねないのできちんと催眠を解除する下りを早口ながらやってから、立香はマシュを抱き上げた。乙女の尊厳が漏れ出している状態のマシュだが、一応パスを通して魔力に妙な波は無いので命に別状はないと思う。
が、この状態をスルーして痛いほど隆起した自分の分身をねじ込めるほど、立香は外道でも胆が太くも無かった。とりあえず応急処置として下を脱がせて尿だけ拭い、自分の部屋着に履き替えさせた後……。
「人理救済の旅路を歩むマスター、藤丸 立香が抑止の担い手に令呪を以て命ずる! お願いだ、来てくれナイチンゲール!!」
令呪を切って医務室からナイチンゲール女史を召喚し、マシュの状態を確認することとなった。
どうなったかって?
翌日、そこには元気に「たまにで良いのでまたしてください。その時はエッチしながらでも……」とおねだりするマシュの姿が!
「もう軽々しくこんなことしないよ」頭に大きなたんこぶを作ったマスターは、苦笑気味にそう語ってくれた…………。
6,000字の助走から10,000文字のエロ。この奇病を良い加減なんとかせねばならぬ。
感想やTwitterのフォローありがとうございます。現金ですが、やはりやる気が出て来ますね。お気に入りも600を突破し、中々に驚いております。さて、ここで一つ質問……ぶっちゃけこの諄い文章で抜けるのだろうか。