ダビデ案件駄目絶対! と最後のマスターは叫んだ 作:Schuld
疲れたOLの部屋。もとい影の国出張所とも言える、作成途中のルーン石やちょっとした礼装が転がる部屋。その寝台の上で、部屋の主は枕を抱きしめて、自己嫌悪のあまり足をばたつかせていた。
艶やかで微かに紫のグラデーションがかかる美しい髪を振り乱し、顔を真っ赤にして枕に顔を埋め……いや、埋めているだけではない。よく見たら噛み付いている。こんな御仁を見て、一体だれが信じられようか。彼女が影の国を治め、数多の神霊や怪物を屠った英霊の中の英霊であると。
今の有様は、その場に転がる干されたばかりのビールやハイボールの缶を見るに、好きだったアイドルがデキ婚しちゃってハートブレイク状態のOLそのものである。目を掛けていた後輩を新入社員に掻っ攫われてしまったOLでも可だ。
いや、実際問題、弟子とその後輩がくっつくのは良いのだ。淫紋の開発だって、最初は「殺してやりたい」発言も相まって舞い上がっていたから、もしや自分を娶ろうとしているのではと無駄にテンションを上げたりもした。だが、冷静になれば弟子が後輩大好き人間であることは態度から分かり、相思相愛であることも簡単に察することができた。
彼女は良くも悪くも期待外れに慣れている。クー・フーリンが妹にNTRされたり、鍛えた甥御がいい男になってきたなーと思った矢先、クー・フーリンに討たれてしまったりと散々な恋愛遍歴を歩んできたのだから、NTRの一つ二つで今更揺らぎはしない。精々、大酒カッ喰らって八つ当たり気味に影の国の獣代わりとしてケルト共を可愛がる――相撲部屋的な意味で――だけだ。
しかし、今回はかなり効いた。
新しい淫紋の調整に付き合わされて、ついに自分がと思ったらこれだ。薄々感づいていたとも。あの弟子が一穴主義者でデレッデレの愛妻家になることくらい。きっと、正式な番いになれたなら飲み会にも行かずにまっすぐ帰り、些細な記念日をマメに祝い、シーズン毎に旅行を企画する良い夫になることだろう。
だが、何よりも腹立たしいのは、あの盾の乙女だ。別に彼女自身に今まで思う所はそこまでない。大した人生経験もないのに殺し合いの場所へ放り込まれ、まぁよく折れずにやっているなと思った程度のもの。自分を支える自分で身につけた強さという、英雄が英雄として立つバックボーンもないのに頑張っていると、評価さえしていた。
しかし、今になれば分かる。彼女を支える存在の背骨が、自分の弟子であることが。
あの強大な攻撃を受け止める盾と、それを支える儚い身体の後ろには何時も立香の姿があったのだ。冬木の初めから、そして今に至るまで絶えず。
戦場で同じ血を流した絆が強いのは、何も戦友だけに限った話ではない。男女の仲にそれが混ざれば、鋼のように硬くなるのも頷けた。スカサハもまた、クー・フーリンを鍛えながら、自らを殺しうる英傑に育ったが故、彼に焦がれたのだから。
だから今考えると分かるのだ。立香がマシュに惹かれたことや、スカサハを確かに想いながらも、根底にはマシュの隣で戦えるようになりたいと思う心があることも。マシュの挑発行動が、自分の何者にも耐え難い唯一無二の領域を護らんとするが故の行動であることだって。
とはいえ、流石に今回は堪えた。
「お姫様だっこかぁ……」
酒が入って色々ダウナーになった状態で、バカップルに目の前でイチャイチャされるのはきつい。剰え、今まで何度も憧れはしたが、結局一度も機会を得られなかったお姫様だっこを見せ付けられたとなれば特に。壊れ物を扱うようにでいて、更には所有権を示すような行為には女として惹かれる物がある。
そういえば、戦場でオイフェを打ち破ったクー・フーリンが戦利品として彼女を持ち帰ってきた時に、ああやって抱えていたなぁと嫌な記憶までフラッシュバックしてきた。降ろせと喚きながらも、あの時の妹は紛れもないメスの顔をしていた。やはり、ケルトの乙女――別に笑い所ではない――からして、強いオスに攫われるのは琴線に触れるのだろう。
堰き止められていた記憶のダムが破れるように、嫌な記憶のフラッシュバックが連続する。自室で膝を抱えながら、城中に響き渡るオイフェやウタアハの嬌声に耳を塞いでいた時の事。教えは十分に受けたと言って、我が子を残して去って行く戦士の後ろ姿。そして、その戦士に似た子供の訃報を聞いた時の光景が……。
死にたくなってきた。
普段ならば、どうせ死にたくても死ねないので開き直れるのだが、今はよくない。死のうと思えば、サーヴァントであるこの身は擬似的に死ぬことが能うのだから。今は死ねない。人理救済を成し遂げていないし、弟子を最後まで鍛え上げていない。
胸へ愛槍を叩き込みたくなる衝動を押し殺し、スカサハは気分転換を試みた。
ごそごそと寝台とマットレスの間に手を突っ込み、とあるものを引っ張り出す。
それは、再利用できる密閉パックであった。何処のご家庭でも簡単に手に入り、冷凍品を保存したり、下ごしらえの漬け置きなんぞで使う実に有り触れた品。
しかしながら、普通の道具に収まっている物は、普通では無かった。
大事に仕舞われていたのが、一枚の肌着だったからだ。
慎重に取り出したシャツを切なそうに眺め、スカサハはそっと黒い布地へ鼻先を埋めた。
ずっと前、鍛錬終わりにケルトスタイル――単に半裸になっただけ――になった立香が訓練場に忘れていった品だ。普段ならだらしないと鼻を一つ慣らし、洗濯室へ放り込んでやるのだが……どうにも魔が差した。
それ以降、目の前でバカップルにイチャつかれてメンタルにバスターチェインを叩き込まれた時、思い出したように引っ張り出してスカサハは一人遊びに興じていた。そう、一人遊びに。
もう時間が経って随分と薄れた男の匂いを深く取り込む様は、まるで脳を汗に浸そうとしているかの如き必死さ。右手でシャツをかき抱き、空いた左手はそろそろと股座へと向かってゆく。
「んんっ……」
豪胆なケルトの女にしては、あまりにもか細い声。秘所をなぞる指も、荒々しい性交を連想させる文化に似合わぬ繊細さであった。
匂いに意識を浸しつつ丁寧に秘裂をなぞってゆけば、薄く張り付いた戦装束が濡れて、淫猥に盛り上がった秘所が浮かび上がってくる。薄い生地は止め処なく溢れる涙を止めることができず、あっと言う間に染みが広がり、遂には滴となって溢れだしてきた。
「あっ……ああっ……んぁ……」
一人遊びの耐え難い声を抑えようとして失敗し、強く噛み締めた歯の合間より嬌声が漏れた。自分の卑猥な声が耳朶を打ち、それを恥じたのであろうか。既に赤くなっていた女王の頬に、紅でも差したような鮮烈な赤が宿った。
だが、その羞恥すらも快楽に繋がるのは、別の生き物のような巧みさで蠢く指が止まることは無かった。代わりにスカサハは顔を埋めていたシャツに強く噛み付き、匂いを口腔からも取り入れると共に声を完全に押し殺す。
シャツと寝台に音を吸われて、殆ど聞こえなくなった嬌声。静かになった部屋には、微かな水音だけが木霊する。
戦装束を着込んだままなので、深い所を慰めることはできない。影の女王も付き合いが長い身体なので、何処が一番イイかなどよく分かっている。一番奥の深いところ、死を奪われた己の中で、次が育つかも分からない小さな部屋。この入り口が彼女の一番好む所であった。
しかし、そこを触ることはできず、望んだ者から触れて貰うことも能わない。
むしろ、きっと今頃、その望んだ男のモノは別の女を愛して……。
嫌な思考が脳を冒し、記憶がフラッシュバックする。弟子の腕に抱かれた、あの小娘の表情が……。
「んふぅ…………」
半ば不意打ちのように絶頂が訪れる。ゆっくり蓄積していた快楽が、強いショックをトリガーとして弾けたようだ。今まで胎児のようにくるまっていた身体がエビのようにのけぞり、浅い痙攣を帯びる。
そして訪れる深い虚無感。絶頂できたのはいいが、寄りによって何故あの光景を思い浮かべている瞬間に来るのか。酷く鬱だ。もし死ねるのであれば、彼女は迷うこと無く魔槍を心臓にブチ込むか、身長を伸ばす儀式に挑んでいたことであろう。
結局、これも気分転換にはならなかった。
「……ああ、あの馬鹿弟子、馬鹿弟子め……」
八つ当たり気味に噛み締めていたシャツを強く抱きしめる。だが、もう殆ど彼の匂いはしなくなっていた。微かに残っていた汗の匂いも、自分の匂いに上書きされて消えてしまった。廊下で自分の前から去って行った彼のように。
「……立香」
小声で名を呼んでみても、誰も返してはくれない…………。
「はふぅ……」
うつ伏せに寝そべりながら、マシュは心底満足したように吐息した。最近は体力が付いてきたからか、立香が珍しく主導権を預けてくれれば行為の後に気絶せずにすむようになっていた。
とはいえ、時刻は十時を回っており、そろそろいつまで寝てるんだとオカン勢がカチコミに来る頃合いである。最悪の場合はナイチンゲール女史が、朝食を抜くとは何事ですかと怪気炎を上げながらやって来る可能性もある。
「よかった?」
「はい、すっごく」
だが、それでもいいかと思えるほどに満足できた。肉の交わりは、本当に思い合った相手とであれば、肉以上に精神の触れ合いにもなる。こうすれば喜ぶだろうか、ああ、今のがよかったのだな、そんな相手を思いやる心があってこそ、双方深く達することができるのだから。
先ほどまでマシュに乗っかられていた立香は、ずいぶんと不衛生になってしまった寝台から身体を起こしつつ、互い違いになる形で寝そべったマシュの形のよい背中を眺めた。昨日はオイルを馴染ませて何度も揉み、背面座位や背面騎乗位の時にも眺めたが、やはり雪原のように白くなだらかな背中は何度見ても美しい。
特に背筋から腰元、尻に続くアーチが絶妙……。
「あっ」
もう息子が反応できなくなるほど致したのに、思わず興奮できそうなほど魅力的な身体を見て、すっかり忘れていることを思い出した。本当ならオイルマッサージの後にプレゼントして、その後の行為で様子を見ようと思ったのに。
師匠に鉢合わせしたり、マシュがちょっと変だったりして忘れてしまっていたが、まぁ今からでも良いだろう。
「え、先輩、まだするんですか? その、そろそろきつ……」
そっと腰に触れてみると、マシュが不安そうに声を出した。如何に女性には男性と違って弾が必要ないとはいえ、粘膜にも限界がある。しかし安心して欲しい。今回はそういうことではないのだから。
「大丈夫、これはプレゼントだから」
「へ? ぷれぜ……んほぉ!?」
予め練ってあった術式を起動。回路を書き換え、浸食し、追加する。背中の腰元、臀部との境目にある三角形のくぼみ辺りが“淡い桜色”に輝いた。臍を飾っている淫紋と丁度同じ色で。
じわりとインクが滲むように術式が構築されていき、あっと言う間に一つの図形が作り出される。
中央に小ぶりなハートマークが飾られ、それを湛えるのは聖杯を模した台座。ハートの両脇からは装飾するような蔦草模様が伸び、臍の物とは対象的に外へと広がって複雑な翼のような図案を形作っていた。
紛うこと無き淫紋である。
「せ、せんぱ……? にゃ、ひゃひほ……?」
唐突な行為に後輩の色々な物が抜け落ちたのか、語尾からは力が抜けていた。
「いや、今日ので懸念は払拭されたんだけど、マシュが催眠プレイ以降ちょっと肉体的な接触で満足できてなかったようだからさ」
「ひょ、ひょんなことは……」
「いやいや、妙に口元に耳を寄せてきてたから分かってるよ、だからねー……ちょっと、こっちの悦びも思い出させてあげなきゃと思ってね」
「ふぁ……」
指が淫紋をなぞりあげ、甲高い声が上がる。もう限界だと思っていた膣が収縮し、腹へ散々蓄えていた立香の残滓が音を立ててこぼれ落ちた。
一つで足りないなら二つ、直列で駄目なら並列で。実にシンプルな話だ。淫靡な入れ墨にも似た淫紋が二つもあれば、少し慣れつつあったマシュでも満足できるだろう。この阿呆は単なる改良には限界があると察し、単発から二発エンジンへの切り替えを試みたのだ。
そんな航空機じゃあるまいに思えど、どうやら試みはきっちり上手く行ったらしい。背筋を波打たせながら、たった一度の愛撫で達したマシュを見れば瞭然である。
流石に下への愛撫は止めておこう。興奮がまた湧いてきたとしても、自分もちょっと痛いくらいなので、更に敏感な女性の粘膜はもっと痛み始めていることだろう。それが英霊の強力な身体だったとして、粘膜まで鋼のような頑強性を誇る訳では無いのだから。
「しぇ、しぇんぱぁぁぁぁ……」
つつーっと鏡面のようになだらかな背中を再びなぞると、気の抜けた声がする。どうやら新しい贈り物は気に入って貰えたようだ。流石師匠肝煎りだけはある。
喉に刺さった小骨のような懸念は未だ残っているが、マシュが満足そうで何よりだ。師匠をはじめとし、カルデアに召喚されてくれたサーヴァントの面々との付き合いは、まぁ何だかんだで色々と考えねばならないのだが、それは後で良いだろう。
彼等には彼等の思惑と願いがあることくらい、最初から分かっているのだから。そして、自分はそれを能う限り受け容れてやりたい。だからきっと、師匠の事も何とか出来るだろう。
何処までも楽観的なことを考えながら、立香は婦長が食事をきちんと摂らない悪い子は此処ですかと扉をぶちやぶってくるまで、後輩の背中を堪能したのであった…………。
分割していたら三話構成に。これだけで三万時近いとか言う究極的に頭の悪い話でした。とりあえず供養短編にしては長く続いた方でしょうか。もう、ゴールして良いよね……?(意味深に手を握ったり開いたりしながら)