ここはどこだろう?
目が覚ました榊遊矢が最初に思ったことがそれだった。
いつもの通り学校が終った後の帰り道、なんとなく気持ちよさそうという理由から草原で昼寝をした。なのに今いる場所は異様なまでに暗い森だった。何かがおかしいと感じた遊矢はすぐにデュエルディスクを起動した。いや…起動しようとしたと言ったほうがいいだろう。デュエルディスクは何の反応も示さなかったのだから…。さらに異常はそれだけにとどまらない。
「カードが…、無いッ!?」
今までの苦難を、戦いを共に乗り越えてきたカード達がそこには存在しなかった。自分の置かれている状況に頭がついていかない。だが、確かなことが一つだけある。
「ここでじっとしていても、何も変わらない」
そう呟くと森の中を歩きだした。
どこまで進んでも変わることのない風景。それでも遊矢は進み続ける。走ることも声を出すこともしない。ここがどこなのかわからない以上当然といえば当然だった。何度も何度も遊矢は何も起きないことを願っていた。
そしてようやく景色が変わった。森の中の湖に着いたのだ。そこには先客がおりのどを潤していた。
(今のどが渇いていなくても水分は取っておいた方がいいよな…。この先何が起こるかわかんないし)
目の前で水を飲んでいる動物が1頭いるがシカのような動物で凶暴ではなさそうだった為、そう決めて湖へ進もうとした。
「!?」
突然視界の外から黒い塊が凄まじいスピードでシカのような動物に飛び掛かった。シカのような動物は抵抗することもできず首を喰い裂かれ、遊矢は突然のことに動きが止まった。飛び出して来た者の正体はオオカミだった。しかし普通のオオカミとは明らかに違う箇所が一つ、背中から黒い翼を生やしていた。目の前に自身の生命を脅かす存在が現れただけでも非常事態だというのにそれが見たこともない未知の生物であることに遊矢の頭はパニックを起こしていた。しかし事態は遊矢に考え事すらさせる暇すら与えてはくれなかった。
獲物を仕留め、口元を真っ赤に濡らしたオオカミがゆっくりと遊矢に表情を向けた。先程獲物を仕留めたばかりだというのにボタボタと涎を落としこちらを見つめるオオカミを見て遊矢は走り出した。
真っ直ぐではなく右へ左へ、木の間を縫うように走る。捕まれば終わる、その恐怖が体をこれ以上にないくらい動かしていた。それでもオオカミの方が動きは速く、少しずつ追いつかれていた。そしてあと少し、というところまで来たが邪魔が入りその牙と爪は届かなかった。だがこの事実に遊矢は喜ぶことはない。なぜなら横槍を入れたのは別のオオカミだからだ。
獲物の取り合い。逃げることに集中しているのであまり詳しくはわからないが、ほかの場所でも争うような声が聞こえるので遊矢はオオカミが増えたのだとより恐怖に染まる。だが向こうが争い合い、こちらへの意識がそれているのも事実。足を緩めることはなく走り続け少し開けた場所に抜けた。50メートル程先にまた森が広がっているがそれまでは障害物もない草原。オオカミ達は翼をもっているので空を飛ばれ捕まる危険がある。ここが正念場だと気を引き締めなおし、全身に激痛が走った。
「ガアァァァァァァァァ!」
全身のいたるところに切り傷ができ体は宙を浮く。そして勢いよく背中から地面に叩きつけられた。何が起きたのか考える暇もなくソレは空からやって来た。自分を追い掛け続けていたのと同じ翼の生えたオオカミ。だが大きさが違う。先程までのオオカミ達は自身の持つ『シルバー・クロウ』と同じくらいの、普通のオオカミとも変わらないくらいの大きさだった。だが新しく来たオオカミは自身のエースモンスターであるオッドアイズと同じくらいの巨体を誇っていた。
空から遊矢の近くへ降り立ったそのオオカミは2本の前足で遊矢の両腕を押さえつける。逃げられないようにという意味もあるのだろうが、遊矢にはもう体を動かす力も、気力も残っていなかった。
遊矢を押さえつけているオオカミは、周りに集まって来た他のオオカミ達を一瞥すると涎を垂らしながらその大きな顔を遊矢に近づける。そしてゆっくりと遊矢の全身を舐め始めた。何度も何度も、自分の獲物だと示すように、ゆっくり味見するかのように全身を舐めまわす。
顔にまで唾液を塗りたくられ、遊矢は自分が涙を流しているのかさえ分からない。今この状況に恐怖しているのか、不快に思っているのか、その両方なのかもわからない。
いつもと同じはずだった。いつもと同じ日常が待っているはずだった。なのに、見知らぬ地にたった1人。
少しずつ意識が遠くなっていく。
(なんで…?なんでこんなことになったんだ…。イヤだ!こんなとこで、死にたくない…!)
その瞬間、遊矢を押さえつけていたオオカミが突然跳ね飛ばされた。そして遊矢は見た。緑色のドラゴンが自分の近くに降り立つのを。そこで遊矢の意識は途切れた。