※この作品はR-18です。

色欲の花嫁(番外編)   作:スカイリィ

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※注意:この作品は花嫁シリーズ第一作「色彩の花嫁」と第二作「青空の花嫁」の番外編にあたる作品です。未読の方は先にその二作品をお読みください。

 またR18作品としていますが、作者は官能小説を書くのは初めてなので過度な期待はしないでください。


プロローグ

 息子の部屋の違和感に気が付いたのは、彼が中学に上がったばかりのころだっただろうか。

 

 部屋の隅から漂う、栗の花に似た臭気。ゴミ箱の中に丸められたティッシュの塊。私はそれを目にして、とうとうこの日が来てしまったか、と掃除機を片手に小さくため息をついたのを覚えている。

 

 オナニー。自慰。マスターベーション。

 自身の性欲を自身の手で発散する行為。

 

 息子がその行為を覚えたことに対して私の中に嫌悪感が芽生えなかったと言えば嘘になる。今まで純粋だった息子が性欲という獣を胸の内に宿してしまった。それを考えると、少し憂鬱になってしまう。

 

 けれど、思春期の子供。それも男の子がそれを覚えるのは当たり前のことだ。私の中では、嫌悪よりも息子の成長の方が喜ばしく思えた。あの子は子供から、大人の男になろうとしているのだ。我が子の成長を祝福せずして親を語れるわけがない。彼の成長を否定するつもりはこれっぽっちもなかった。

 

 私はその時、とりあえず気づかないふりをしてゴミを捨てた。これは思春期の彼にとってデリケートな問題だ。母親である私が下手に刺激するのは良くない。そう判断してのことだった。

 

 それからというもの、息子の部屋のゴミ箱には毎日とはいかなくても、丸められたティッシュがよく入っていた。少し知恵をつけたのかお菓子の袋でくるみ、独特の臭気を封じ込めるようにしていたけれど、直感的にそれらの存在は分かった。

 

 息子のベッドの下に女性の裸が写された雑誌が隠されるようになったのもそれくらいからだった。恐らく学校の先輩から譲り受けたのか、それらの雑誌はいささか劣化していた。発行日を見ると七年も前のものだった。

 

 なるほどこうやって代々受け継がれていくのかと、それを見た私は妙に感心したものだ。大学の定期テストにおける過去問題が先輩から後輩へ受け継がれていくのと似ている。ちなみにその雑誌は立香が中学校を卒業する直前には無くなっていたので、恐らく後輩の誰かに譲られたのだろう。

 

 世の中には子供がアダルト雑誌を隠し持っていたら反省文を書かせるという親もいるそうだが、私はそんなことはしなかった。むしろそんなことをして女性に対する興味をなくしてしまう方が大問題だ。息子が見せる性への目覚めの兆候は、健全な成長の証だった。

 

 中学三年にもなると、ゴミ箱のティッシュの量は増大していた。毎日のようにティッシュが入っているし、一回や二回分ではない量がゴミ箱に突っ込まれていた。息子の性欲はすさまじく旺盛だったのだ。それでいて疲れた様子もなく平然とした顔をしているのだから末恐ろしい。この子のお嫁さんになる人は大変だろうなと思ったものだ。

 

 彼の身長が私のそれを抜き去りつつあったそのころ、私は息子にやんわりと性教育をしてあげた。直接的なものではない。どちらかと言えば思い出話に近い。

 

 私が妊娠した時の話、お腹の中から胎児の息子に蹴られた話、息子が産まれた時の話。私はそれらの思い出をたびたびするようになった。さりげなく、ふとした時にその話を息子に振ってやった。

 

 性行為については学校の保健体育でするだろう。妊娠・出産のメカニズムも教えてもらうだろう。でも、妊娠した女性の苦労までは教えてもらえないかもしれないし、教えてもらっても息子には実感が湧かないかもしれない。だから身近な、私と彼自身のエピソードを伝えることでそれを理解してもらおうと私は努めたのだ。

 

 三千百六十グラム。この数値を忘れたことは一度もない。産まれた時の、あの子の体重だ。三キロちょっとしかないその小さな身体、その重みを両腕で感じた時のあの喜びを、私はそれを聞く息子の頭を撫でながら伝えてやった。

 

 自分の産まれた時の話を、息子は照れ恥ずかしそうにしながらも耳を傾けてくれた。初めての育児でてんてこまいになってしまったこと。夜泣きをする彼を抱っこして夜の景色を見せながら「ほら、みんな寝てるよ」と言い聞かせてあげたこと。

 

 大変なことが多くあったけれど、私はそれらの思い出を笑顔で伝えてやった。オムツを替える時にオシッコをひっかけられた話をした時の彼の表情などは写真に残したいくらいの面白さがあった。

 

 賢くて心優しい息子は照れながらも「ありがとう、母さん」と己を育て上げた私を労ってくれた。その一言だけで嬉しくて泣きそうになってしまった。泣きながら抱きしめても良かったのだけれど、私はそれをこらえて「だからこそ、恋人や奥さんを大切にしなさい」と息子に言い聞かせた。

 

 セックスはポルノとは違う。神聖というほどのものではないけれど、相手を思いやる気持ちがあって初めて成り立つ繊細な行為だ。人生において、セックスを楽しむ権利は誰にでもある。息子自身が望むのであれば大いにそれを楽しむべきだろう。でも、それは相手を苦しめるものではあってはならない。

 

 セックスする時は相手を大切にすること。妊娠を目的としていない時は避妊すること。もし妊娠させたら、必ずその人を支え続けてあげること。この三つを息子に約束させた。両親が自身を育て上げた時の苦労を聞いていた息子は、それを素直に了承した。

 

 母親である自分が言うのもあれだが、息子はなかなかにハンサムだ。性格もとても優しい。彼が行動しなくても女性の方から言い寄ってくるだろう。

 

 いつになるのかはわからないが、そのうちセックスをして、場合によっては相手を妊娠させるかもしれない。その時になって、相手の女性が苦しい思いをするのは好ましくない。立香を受け入れてくれる女性なのだから、大切にするのが道理というものだ。いつか来るその時のために、私は息子に伝えるものを伝えてあげた。

 

 最初の行為は不器用なものになるかもしれない。けれども相手を思いやることこそが何よりも大切なのだ。テクニックなど二の次にすぎない。ここまで伝えれば、優しい息子はきっと相手を思いやってくれるだろう。

 

 

 そして息子は高校卒業と同時に海外へ旅立ち、運命の女性と出会った。マシュ・キリエライト。それが息子と愛し合う関係になった少女の名前だ。

 

 最初は外国人ということで少し戸惑ったけれど、会ってみると素晴らしい女性であることがわかった。料理はできるし、スタイルは良いし、顔も可愛らしい。そしてなにより、とても優しい女の子だった。

 

 奥手な息子が選んだ大切な女の子。気が付けば私もまた彼女の性格に惹かれていた。

 

 子供時代を無菌室で暮らすという辛い過去を背負っていても、彼女は誰も恨まず、絶望もしなかった。それどころか他人を思いやり、その命を尊重する慈悲深さを持ち続けていた。

 

 すべての命は必ず終わる。だからこそ、精いっぱい生きる命は美しい。彼女はそれを他人からの受け売りなどではなく自分の言葉で述べてみせた。

 

 この人生の結論を知っている人は多くいるけれど、それを実感している人はどれだけいるか。

 

 当たり前の日々こそ何よりも美しいと感じ、生きている一瞬一秒に感謝する人間なんて、本当に数えるほどしかいないだろう。彼女はそれをごく普通に思っている稀有な娘だった。

 

 私は彼女を美しいと思った。なんと鮮やかな命なのだろうと感動すら覚えた。そして息子と同じくらい、好きだと感じた。こんな娘が息子を愛し、そして私を『お母さん』と呼んでくれるのが嬉しくてたまらなかった。

 

 そんな彼女だからこそ、立香と幸せになってほしいと思えた。

 

 でも、ちょっと不安なところもあった。主に性の分野で。

 

 彼女はまだ十七歳と年若く、妊娠するには早すぎる。息子もまだ二十歳前で父親になるには早い。

 

 しかも少し前までは童貞と処女だった。そんな二人がセックスで「無茶」をしていないか、私には不安だった。

 

 マシュは純粋ではあるのだけれど、それゆえの世間知らずなところがある。もし息子に異常な性行為をされたとしても、彼女にはそれを通常のそれと判断することが難しい。

 

 息子がそういうことをするのは考えにくいけれど、彼だって男の子だ。徐々に過激な行為をしたくなるのが普通だろう。

 

 そういうわけで、私は彼らの性生活とやらが気になっていた。別にデバガメしたいわけではない。二人がちゃんとした性生活を営んでいるのかどうか、それだけが心残りなだけだ。

 

 性生活に正解などない。だけどせめて、二人のそれは苦痛が少なく、喜びが多いものであるべきだろう。

 

 人生は一度きり。若い頃も一度きり。性の喜びを味わえる時間も一度きり。それが間違った知識や欲望で歪められてしまうのは、悲しいことだ。

 

 せっかくこの世に産まれてきたのだ。二人のその限られた時間は、どうか優しさと喜びに満ちた、暖かいものであってほしい。

 

 母親として私が願えるのは、そのくらいのものだった。

 

 

 

 

 

「そういえば、立香に告白されたのって、いつなの?」

「告白、ですか?」

「『好き』って言われたんでしょ?」

 

 フォウくんの散歩からの帰り道、マシュと共に適当なカフェに入って紅茶を飲みながら私はそう尋ねた。

 本当に、ふと思ったことを訊いたのだ。女子学生同士がファストフード店で恋バナを振るのと同じような感覚だ。

 ちなみにフォウくんは私のカバンの中で爆睡している。きっと遊び疲れたのだろう。小柄なのも相まって店にバレることなく持ち込めた。この辺の店でペット同伴可能な店舗は少ないのだ。

 

「立香があなたに愛の告白をしたってのが、ちょっと驚きなの。優しいけど、恋愛になると奥手で不器用だから、あの子」

 

 息子は本当に心優しく、それでいて芯の強い男の子に育ってくれた。それは母である私にとって本当に喜ばしいことだ。しかし同時に年相応の不器用さも併せ持っていることを私は知っていた。

 そんな息子が、好きな女の子に告白したとなればかなりの一大決心であったに違いない。きっと下手な戦いよりも覚悟を決めていたことだろう。

 

 マシュはその質問を受けて、飲んでいた紅茶のカップをソーサーの上に置いた。

 

「最後の戦い──ゲーティアとの戦闘が終結して、先輩と一緒に外へ出て青空を見た時です」それから少し顔を赤らめて、もじもじしながら口を開く。「私が青空に見とれていたら、急に抱きしめられて、その」

「……なんて言われたの?」

「……『マシュ、好きだ。俺の恋人になってください』と」

 

 おお、これ以上ない直球ストレート。私はその言葉を口にした際の息子の顔が手に取るように想像できた。覚悟を決めた顔で、それでいて耳まで肌を赤くして、震えそうになる声を必死に抑えている彼の顔を。

 

 よく頑張った。私は心の中で息子を褒めたたえた。

 

 世界を救ったことも、一人の女の子のために戦い抜いたことも、母である私にとって誇らしいことではある。けれど、言葉を濁さず、大切な人に自分の気持ちを真っ直ぐ伝えてみせた彼の勇気もまた同じくらい嬉しく思えた。

 

 真剣な恋であるほど、その告白を躊躇してしまうものだ。マシュに対する立香の気持ちを考えれば、それがどれほど勇気のいることだったろうか。私はそれを想い、笑みを浮かべた。

 

「でも、私、その時は……」

 

 少し目を逸らすマシュ。恥ずかしさとはまた違う、後ろめたさのような感情がその顔からは読み取れた。私はその原因に心当たりがあった。

 

「その『好き』って感情が分からなかったのね」

「はい。……先輩に『好き』と言われて、胸の奥が熱くなっていくのは感じたのですが、それが恋による感情だとは理解しきれなかったのです」

 

 同世代に比べて人生の経験が圧倒的に不足していたマシュは、立香に好意を伝えられてもそれに対応する感情を見つけることができなかったのだ。

 

 彼のことは好ましく思っていても、それが親愛なのか、男女愛なのか、あるいは友情なのかもわからない。恐らく彼女は応えに窮してしまったことだろう。

 

 マシュは自身の心臓の上に手を置いて、その時のことを教えてくれた。

 

 

 

 立香に抱きしめられて愛の告白を受けたマシュは顔を赤くしながらも、彼の腕の中で首を横に振った。

 

『ごめんなさい。先輩』

『マシュ?』

 

 戸惑うように立香は彼女の身体を一旦離してその顔を覗き込んだ。

 

『先輩。私は先輩の言う「好き」がうまく理解できません。理解できていないのに「私も好き」と返してしまっては、嘘になってしまいます』

 

 心優しいマシュは、だからこそ立香の告白にそう返事をした。嘘をついたところでその場しのぎにしかならず、いつか立香を傷つけてしまうかもしれない。愛や恋が分からなくても、それだけはしたくなかったのだ。立香を傷つけることだけは。

 

『先輩に嘘はつきたくありません。ですから今はその気持ちに応えられません。ごめんなさい』

 

 答えを受け取った立香は自身の気持ちを受け入れてもらえなかったにも関わらず、その顔に笑顔を浮かべていた。

 

『そっか』

 

 確かに立香の想いは受け入れてもらえなかったかもしれない。けれども彼はそれを悲しいと思いつつ、彼女の素直さを好ましく感じていたのだ。この自分に嘘をつきたくないという、彼女のいじらしさを。

 

『わかった。なら今は──』

 

 手を引こうとする彼の腕を、彼女の両手がつかんだ。間髪入れずに、マシュは立香に詰め寄った。

 

『ですから、教えていただけないでしょうか』

 

 キョトンとする彼の目を真っ直ぐに見つめながらマシュは告げた。

 

『私はまだ「恋」を知りません。でも先輩が教えてくれたなら、理解できるようになると思います。この空と同じように』

 

 そう言ってマシュは自分たちの頭上に広がる青空へ視線を向ける。

 

 かつて少女は空の青さを知らなかった。いつだって空は、灰の色だと思っていた。

 

 しかし一人の男の子が、たった今それを教えてくれたのだ。そして理解した。空の青さを。その美しさを。実際に目の当たりにしなければ絶対に理解できないであろう、その感動を。彼女は心に刻むことができたのだ。

 

『恋というものがどれほど素晴らしいものなのか、どれだけ鮮やかなのか。先輩に、教えてほしいんです』

 

 彼に教えてもらえたなら「恋」という概念もまた、同じように理解できるはずだ。マシュはそう考えた。実際に体験しなければわからない、その感情を。

 

『私がそれを理解するにはとても時間がかかるかもしれません。けれど、私、ずっとあなたについていきますから』

 

 だからお願いします。マシュは立香の手を引いて、告げる。

 

 

 私に「恋」を教えてください、先輩。

 

 

 

 ことのあらましを聞いた私は、いつの間にか自分が口元を両の手で押さえていたことに気づいてハッとする。年甲斐もなく自身の頬がほんのりと熱く上気しているのが分かった。

 

 なんという殺し文句だろうか。私はゆっくりと息を吐いて心を落ち着かせた。

 

 私に「恋」を教えてください、だなんて、聞いていたこちらの方もドキドキしてしまうような、あまりにもピュアすぎる返答ではないか。

 

 それを受けた立香の心境たるや、それはもうすごかっただろう。告白したのは自分の方であるはずなのに、むしろ逆ではないかと思えるほどだ。

 

「そこから、立香の『わかるようになるまで待っている』につながるのね」

 

 熱くなった顔を悟らせないように私はそう訊いた。するとマシュは「えへへ」と照れたようにはにかむ。

 

「はい。先輩は優しいですから」

「でも、キスくらいはしたんでしょう?」

 

 恋を教えるというのであれば、そのくらいはしていてもいいはずだ。からかうように私が訊くと、マシュはとたんに顔を朱色に染めて首を横に振った。

 

「その、私の、いわゆるファーストキスというものは、あの夜に」

 

 あの夜? 私は一瞬なんのことだか分らなかったが、すぐ答えにたどり着く。

 

「大丈夫だったの?」苦笑いをしながら私。「お互いに酔っぱらっちゃって、立香にひどいことされたんでしょ」

「ひどいことというか、すごいことというか」

 

 胸の前で合わせた両の手をもじもじさせながらマシュはうつむいてしまう。頬を染めているのが可愛らしい。

 

 あらあらうふふ、とその様子を見ていた私は思わず笑みを浮かべていた。若い子の恋愛模様というのは見ていて楽しいものだ。ましてや自分の息子とその恋人のそれとなれば、ニヤニヤとした笑みが漏れるのも当然と言えた。

 

 この様子だと、悪くない初体験であったようだ。それは喜ばしいことだ。

 

 しかしそうしてマシュを観察していると、何か思い出したかのようにもじもじするのをやめて、こちらを真っ直ぐな目で見てきた。私はその視線の中になにやら不安そうな感情を見出すことができた。

 

「どうしたの?」

「その、大変お恥ずかしいのですが、ご相談したいことを思い出しまして」

 

 そう言ってわずかに目線を逸らすマシュ。同時に私は察する。恐らく、立香との性の営みで何か悩み事があるのだろう。話の流れと彼女の態度からしてそれが一番可能性がある。他人に話すことがためらわれるそれを、マシュはこの自分に話したいと考えているのだ。

 

「いいわよ別に。こんなおばさんでも力になれるのなら、どんなことでも訊いてごらんなさい」

 

 私はそれを受け入れることにした。後は老いるだけのこの身だけれども、彼ら若い世代の幸せに少しでも貢献できるというのであれば、そのくらいは引き受けて当然だ。

 

「えーと、では、その」マシュはわずかに口ごもったが、はっきりとした言葉で私に相談した。「私の身体で、先輩が満足できているのかどうか、不安なんです」

 

 あれま、と私は目を丸くする。セックスで女性が満足できないというのは良く聞く話だけれども、男性が満足できているか、という話は少ない。

 

 男性の場合、絶頂すれば射精という目に見える現象が発生するから、満足できているか一目でわかるからだ。しかもある程度はムードを無視しても性的快楽を得ることができる。要は美しい女の裸と物理刺激さえあれば男は感じるのだ。

 

 一方女性は、ある程度のムードが必要になってくる。女は心で感じるのだ。だから男性が雑に性行為をしようとしたり、手早く済ませようとすれば女性は満足しない。感じようと思わなければ女は気持ちよくないのだ。だから性の不一致という現象がたくさんのカップルで発生する。

 

 ところがマシュの場合は立香が満足できているか不安だという。これはなかなか珍しい。女の私から見てもマシュの容貌はとても美しいと思えるし、性格も優しくて献身的だ。そんな彼女と行為に及んだ立香が満足しないというのは考えにくい。どういうことなのだろうか。

 

 しかし、亀の甲より年の功。彼らの倍以上の年齢を積み重ねた私の手にかかれば、そのくらいの問題は解決できるはずだ。私はマシュの続く言葉に耳を傾け──

 

 

「私が一晩で二十回絶頂する間に、先輩は十回くらいしか射精しないんです」

 

 あ、これ手に負えないやつだ。

 

 そんな悟りを得て、私の脳は自己防衛のために思考を停止した。

 

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