※この作品はR-18です。

エロエロナ物語 -エロエロンナ物語R18編-   作:ないしのかみ

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サッキュバスの館4をお届けします。
長編になったなぁ。まだ続くので、もう少しお付き合い下さいませ。


海軍娼妓士官 -サッキュバスの館4- その3

-サッキュバスの館4- その3

 

 天候は快晴。

 娼妓艦『バヤデール』は快調に海を進んでいた。

 上手く風を掴んだらしく、【風】魔法のお世話になる事も無く、三艢の帆柱一杯に張られたラティーンセイル(縦帆)は、大きく風を孕んでぐいぐいと船を進めている。

 

「三番、四番リギン(帆索)を調節しろ。風向きに注意。ワイルドジャイブに気を付けて」

 

 タンハーの命に従って、兵達が慌ただしく甲板を行き来する。

 任官・配属されてから、初めての遠洋航海だが、彼女も航海で士官の役目を果たしていた。

 普通、娼妓士官はこうした通常の士官任務にはノータッチなのであるが、娼妓艦ではそうは行かない。通常の士官が少ないので自然と兼任になる為だ。

 乗っている士官の大半が娼妓士官なのだから、それは当然だと言える。四六時中、性行為しているだけでは艦が回らないのである。

 

「岸に近づきすぎだ。取り舵修正!」

「りょ、了解ですわ」

 

 その声にチラリと船尾楼の方を見る。

 舵輪に取り付いているのはキャロン少尉。この『バヤデール』の中では数少ない通常士官だが、隣に立つ航海長の命令に悪戦苦闘中である。

 本艦は中型のサムブーク艦で、機動性が高く、それだけに舵の効きが良すぎる所がある。特に今の様な、全速を出せる様な状態だと船体が飛び跳ねる傾向があり、それだけ操舵がしにくいのだろう。船体が軽いのも影響が高そうであった。

 

 そうこうしている内に鐘が鳴る。

 当直の交替時間だ。

 引き継ぎの為の人員が整列し、現状の報告の後に交替が速やかに行われる。

 タンハーも別の士官に任務を引き継ぐと、船内へと引き上げる。

 

「何、ラーパティ少尉?」

 

 タンハーが近寄った時、キャロンは顔を見ずに言い放った。

 ママが語った通り、キャロンは『シャンブロウ』から転属させられて、タンハーと同じ船に配置となったのだが、ろくに話をしてはいない。

 

「えっと、タンハーで良いっていつも言ってるじゃん」

「どうして、友達でもないのにファーストネームは呼べないわ」

 

 ここへ配備されて一週間。いつもこの調子だ。

 

「キャロン……」

「その名で呼ばないで。あたし、貴女に愛称で呼ぶ許可をあげた覚えは無いわよ」

 

 どすどすと足音を立てながらずんずん先に行ってしまうが、タンハーはすたすたと追いついて「何怒ってるんだよ」と抗議の声を上げる。

 

「全部よ。ええ、全部!

 突然、移動命令が出て、行った先がサッキュバスだらけの娼妓艦なんて冗談じゃ無いわ」

 

 廊下の壁をばんと殴る。

 娼妓艦らしく、船内は贅が尽くされており、一般艦艇ではまず見られない様な装飾が施されているが、高級家具みたいなワックスですべすべの赤マホガニーの壁に亀裂が入りそうな勢いだ。

 

「情けない……。それでも海軍を辞められないのが情けなくなって来る」

「辞めたいの? あたいは、キミと仲良くなりたいんだけどな」

 

 タンハーは本音をぶつけた。

 

「お家再興が無けりゃ、とっくに辞めてるわよ!」

 

 荘園も無く、商才も無い一代限りの貧乏士族の子女には、軍に入って身を立てる他の選択肢はほぼ無いと言って良い。

 この内、陸軍は狭き門である。軍学校を出て騎士になったとしても、基本的に装備は自前で揃えねばならない。鎧、武器、服、そして馬だ。

 どれも高価な代物であって、貧乏士族が用意するのはハードルが高い。馬なんかは飼っているだけで維持費が掛かるし、万が一死んだら目も当てられない。

 

 海軍士官はその点、まだ揃える物が少ない。服に武器で済む。当然、それなりのお金は要るが、馬を飼うよりは経済的負担が少ないし、武器だって大袈裟な物は要らない。

 無論、陸軍と違って最低限、読み書き、計算、水泳が必要で、海図も読めない奴、羅針盤やクロススタッフも扱えぬ者は、どんどんエリミネートされてしまう。

 板子一つ下は地獄の海軍には、実力の無い馬鹿は必要ないのだ。

 

 キャロンはそれを潜り抜けて海軍士官となった。

 この道を幾ら淫魔嫌いと言っても、放り出す事は自殺に近い。

 

「あたしが配置換えとなったのは、あんたの差し金?」

 

 キャロンはこちらをきっと睨む。

 

「あたいにそんな力は無いよ。

 それに娼妓艦の士官は基本的に女性のみと規定されてるし、その関係じゃ無いの?」

 

 タンハーは誤魔化した。しかし、その説明には納得力がある。

 この『バヤデール』は出来たてほやほやの新鋭艦で、乗組員も集められたばかり。

 そして、今回が正式な任務での初航海であったのだ。

 

「……そうね。でも、あたしに関わらないで」

 

 キャロンは馬鹿に事を言ってしまったと恥じたが、照れ隠しの様にタンハーを拒絶すると自室へと飛び込んでしまった。

 

              ◆       ◆       ◆

 

「悪くないねぇ」

 

 艦長のリビエラ・マレーン少佐は上機嫌であった。

 娼妓艦の艦長であると同時に、娼妓士官でもあるサッキュバスである。

 胸と腰を強調する煽情的なサッキュバスルックを身に付け、長く伸ばした紫色の髪を風に翻している。緑色の瞳は水平線の彼方を見詰め、自艦が躍動する様を全身で感じていた。

 

「前の艦が廃艦寸前だったから、こんな速度で走れなかったんだ」

 

 遠い目をして語るが、「おっと『フリウリ』が悪い船って訳じゃ無かったのは本当だよ」とフォローする。ちなみに『フリウリ』とは彼女が前に乗っていた娼妓艦だ。

 この『バヤデール』が竣役するに当たって、乗組員の約半分は『フリウリ』からの移行組である。

 

「さて、諸君に此処に集って貰ったのは他でも無い」

 

 艦長は艦首に当直以外の士官を全員集めていた。

 彼らに向き直って「知っての通り、本艦はこれが初航海だ」と告げて、掲げられている海図を示す。近海用の物であり、中央大陸の海岸線が書かれている。

 

「行き先は西部艦隊だ。まぁ、この速度で行けば五日の距離だな。

 まぁ『フリウリ』に乗り合わせていた者は分かるだろうが、いつもの通常業務だ」

 

 リビエラは「こほん」と咳を一つ付き、「西部艦隊の性欲が溜まった連中を慰労するのが役目だな」と告げる。

 

「我が王国海軍に娼妓艦は三隻しか居ない。先に行ってる『トロイメライ』との交替になるのだけど、何しろ本艦は新参だ。どんな不具合があるやもしれん。気を抜かず、無事に到着させる様に各人努力せよ。解散!」

 

 士官達が一斉に敬礼する。

 艦長を含めた二十名の士官の内、娼妓士官は十八名。ほぼ全てがサッキュバスの群れなので色気が半端ない。押さえているが、甘ったるい催淫物質が漂っている。

 艦長が艦首に彼女らを集めた理由でもあった。帆船は後ろから風を受けて推進するので、風上は艦首になるからである。

 普通、訓示を与える場所は船尾楼なのだが、そうなると艦全体に淫魔が生成した媚薬混じりの空気が広がってしまう。幾ら娼妓艦が女性乗組員主体だとしても、これでは都合が悪いからだ。

 

「不具合か……。そーいや、水漏れの報告があったなぁ」

 

 タンハーがごちる。

 木造船なのでどうしたって水漏れは起こるのだが、新造艦はその箇所がまだ完璧に把握出来ていない。試験航海で幾つかの場所は掴んである。しかし、出来れば、この航海中に全て掴みたいなと思う。修理可能ならば詰め物やコーキングを施さねばならない。

 

「昼間、ミズン(次帆柱)のリギンが具合悪かったね」

「キャプスタン(巻上器)も硬かったよ。ま、これはまだ当たりが付いてないだけだろうけどさ」

 

 がやがやと士官同士が不具合を口に出す。

 新造艦だけあって、まだ慣らしが済んでいないのである。

 

「処女だからね。経験を積んで各部が円滑に動く様になるまで、優しく扱ってくれ」

 

 リビエラが告げると、「あはは」と笑い声が上がった。

 士官達は三々五々、各所へ散って行く。

 

「慣れた?」

 

 一人の娼妓士官がタンハーに声を掛けてく来た。

 

「え」

 

 初めて見る顔だった。

 この時代、何処でもそうだけど海軍は決まった軍服は無い。一応、制定されてはいるが、それは式典に出る場合とかの特別な場合用だ。

 代わりに腕に階級を示す青い布を巻き、そこに階級を始め、所属艦他の必要な情報が記されている。タンハーや彼女も例外では無く、動き易いサッキュバスルックに階級布を巻いている。

 これは戦闘に巻き込まれた際に誰かを確認する為の物を兼ねている。死者の身元を認識する認識票と言っても良いので、無論、偽造すると罪に問われる。

 

「えっと、誰?」

 

 腕に巻いている階級章を見ると同じ少尉だ。先任かも知れないけど、同じ少尉なのでタンハーの口調は砕けた物になる。

 名前も書いてある筈なのだが、それは読み取れなかった。

 

「あ、ごめん。私はゲス・ゲス」

「中原風の名前だね」

 

 パカ・パカとか、ドー・ドーみたいな音を繋げる命名は中原起源だ。

 中原からやってきた者か、その子孫だろう。この下にファミリーネームが入るのだが、普通、それは省略される事が多い。

 

『同期やそれに近いサッキュバスの名は把握している筈なんだけど、こんな娘居たっけ?』

 

 タンハー出自である『風紗館』(ふうしゃかん)の娘ではなさそうだ。別の娼館出身者なのか。

 桜色の髪に色黒の肌。背は低く、150cm前後だろう。レオタード状で腹の部分を大きく開け、白いハイレグな服が色黒の肌を強調している。腰にはカトラス(船刀)を佩いている。

 

「うん。元々、中原から来たの。だから娼館組じゃ無いんだ」

「移住組かぁ。珍しいなぁ。良かったら歳を教えて」

「14だよ。一年先輩だね」

 

 他所から来て、エロエロンナに移住申請するサッキュバスは少ないが、全く皆無という訳では無い。数年に一度は居るらしいが、ゲス・ゲスみたいな若い子は少ないので珍しかった。

 大抵は各地を放浪した末に辿り着く、年齢を経た者が多いからだ。

 

「リビエラ艦長、張り切ってるからね。ずっと『フリウリ』が予備艦だったから」

「あ、予備艦だったんだ。と言う事はキミは前任者組?」

「うん」

 

 ゲス・ゲスの桜色の髪が揺れた。

 軍艦と言う物は全艦が稼働する事は無い。必ず交替用の艦が存在し、それをローテーションで回しながら任務に就く。

 予備艦と言うのはローテーションに付く艦がドック入り等で不稼働状態になった場合、臨時に任務に就く艦の事だ。

 王国海軍には三隻の娼妓艦があるが、その内の一隻は予備艦である。大抵は一番古く、引退寸前の中古艦が予備艦に指定されるので、この前まで『フリウリ』がそれに当てられていたのである。

 

「流石に〝こりゃもうダメだ〟って位に老朽化してたから、代艦として本艦が新造されて『ケーニス』が予備艦になったので、艦長、気分が高揚してるんだ」

 

 聞けば、娼妓艦『ケーニス』の艦長とリビエラは犬猿の仲だったそうだ。

 いつも「おんぼろ」だの「婆ちゃん艦」だの罵られて、鬱憤が溜まっていたらしい。リビエラからしてみれば、今度は予備艦となった『ケーニス』をざまぁ出来る立場になったのだから、鼻高々と言う事なのだろう。

 

「そう言う事もあるんだ」

「軍隊だって人の集まりだからね。あ、うちら娼妓士官は『ケーニス』の連中を嫌ってなかったよ。うちの艦長と向こうのアーカーシャ艦長は、学生時代から仲が悪かったらしいんだよね」

「『翠晶館』(すいしょうかん)かな?」

「らしいよ。あ、私は『華恋館』(かれんかん)出身」

 

 クスクス笑いながら、ゲス・ゲスは「艦長、時々、暴走気味になるから気を付けて」と警告する。意味が分からず、問い返すと「貴女、艦長の好みぽいから」と真顔で言う。

 

「ま、まぁ、サッキュバス同士のカップルだって珍しくないし……」

「本命居るのなら、それを早めに告げた方が良いわよ」

「本命かぁ…」

 

 タンハーの脳裏に浮かんだのは、一人の少女士官。

 

「流石に艦長も、そこまで野暮じゃ無いからね」

「キャロン、かなぁ」

「え…キャメロン少尉?」

 

 ゲス・ゲスは目を見開く。

 タンハーは天を仰ぎながら、「恋人とまでは行ってないんだけどね」と弁明する。

 かなり一方的な片想いだ。何となく気になってるし、つんつん気味の対応が可愛いと感じているのが、自分は実はMじゃないかと疑い気味なのだが。

 

「そうなんだ……。でも、シグルーンは淫魔が嫌いだから難しいわよ」

「だろうね」

 

 指摘されなくても分かっている。ゲス・ゲスは「はぁ」と嘆息するが、それでも「頑張ってね」と応援してくれた。

 

「じゃ、あたしはこれで……。あ、シグルーンは甘い物が好きだから、それで誘ってみるのも手かも。

 酒保に売ってるから、飴とか」

「うん、有難う」

 

 その時はそれでお別れしたのだが、数歩歩いて気が付く。

 ゲス・ゲスは何で「キャロン」と聞いただけで、シグルーンの事だと気が付いたのだろう?

 好みまで知っているのはどうしてだろうと。

 

              ◆       ◆       ◆

 

 警告はされていたが、その夜、タンハーは艦長室に呼ばれてしまっていた。

 

「一応、新任の娼妓士官は私が試験する事になっている」

 

 との名目だ。つまみ食いなんじゃ無いかって気もするが、艦上では艦長が一番偉い。司令官でも乗り込んでいない限り、艦内では艦長が法律なのである。

 呼ばれたのは新任の娼妓士官9名。以前から『フリウリ』に乗り組んでいた半数の者達は除外されている。

 

「多いな」

「本艦は以前の艦に比べて、娼妓室も倍増になりましたから。

 お陰で艦内の淫魔と非淫魔の割合がほぼ同数と言う、例を見ない構成になっています」

 

 答えるのは副長のカリーナ大尉。無論、彼女もサッキュバスだ。

 乗組員全40人中、18人がサッキュバスなのだから前代未聞の数であるのは間違いない。これは西部艦隊の要請を受けて娼妓室、つまり淫魔がエッチする個室が増えたせいだ。従来の娼妓艦から見れば、倍の能力があって、それだけ将兵の慰安能力を高めてある。

 今までの娼妓艦は中古の小型艦改装であったが、この『バヤデール』はそれ目的の為に新造された専門艦なので、この娼妓室倍増の他、色々と工夫も施されているのだ。

 

「しかし、流石に、この私でも一晩に9人はきつい。クジで相手を決めるから引いてくれ」

 

 結局、人員を三組に分けて三日をかけてセックスする事になる。

 クジ運が良いのか悪いのか、タンハーは最初の組になった。

 

「攻めが良いか。受けが良いか?」

「あたしは受けで」「私は攻め」「あたいは……受けで」

 

 一応、艦長は要望を聞いてくれた。

 タンハーはお腹が空いているとの理由で、受け役を選択した。

 初回の三人中、攻めを選択したのは一人だけであり、どの娘も消耗したくない事が分かる。

 娼妓艦での性交は基本的に少ない。それはどの道、港や任務海域に着いたら、嫌と言う程にセックスに励む為で、任務前に腹を減らしておけとの理由と、乗組員に対してサッキュバスの数が多すぎるせいでもある。

 毎晩、毎晩、エッチに励んだら乗組員を消耗させてしまい、運航が上手く行かなくなる。それに娼妓艦のクルーはいつでも淫魔を抱ける環境に居るので、普通の軍艦と違ってがっついたりはしないのである。

 

「では、最初だ」

「はいっ、エイネー・アプサラス少尉、行きます!」

 

 新任の少女淫魔は、ずぶりと艦長の逸物を咥え込む。嬌声が上がり、激しく腰を動かす中、副長のカリーナ大尉は残る二人を呼び寄せる。

 

「見学するか? それとも休んでいるか?

 出番が来たら呼んでやるから、出て行っても良いぞ」

 

 攻めを選んだ少女は残留を希望し、逆にタンハーは部屋を出る事を選択する。

 タンハーは同僚を『研究熱心なんだなぁ』と感心しながら退出する。階級は中尉なので新任と言う訳では無く、別の任地からの転属組らしいから、それだけプロ根性でもあるのかも知れない。

 

「あ……」

「あ」

 

 廊下に出た途端、そこに居たのはキャロンであった。

 

「こんばんわ」

「艦長は今、野暮用で……」

「分かっているわよ」

 

 報告書を抱えた彼女は廊下の壁に身体を預けた。

 

「副長も野暮用中なの?」

「呼べるよ。それとも中に入って報告する?」

「冗談じゃ無いわよっ」

 

 その態度にタンハーは肩をすくめる。

 自分のキャラじゃ無いのだが、「娼妓艦に務めてるんだから、いい加減慣れた方が良いよ」と説教すると、「分かってる。分かってるわよ」とキャロンは伏し目がちになる。

 

「淫魔だらけの環境に気が狂いそうだわ……」

「そんなに毛嫌いしなくても……。あたい、キミに何か嫌な事をした?」

 

 キャロンは首を振る。

 タンハーは彼女の肩に手を置く。びくりと縮こまりはしたが、それでもキャロンは逃げなかった。

 

「じゃあ、何か淫魔が嫌いな原因があるんだね。あたいで良いなら相談に乗るよ」

「年下が生意気な事を言うわね」

 

 タンハーは13歳。対するキャロンは18歳だ。15の頃に正規の士官になって三年。まだ少尉のままなのは、多分、淫魔嫌いが影響しているのではないかとタンハーは推測している。

 偏見が多い西部艦隊ならともかく、淫魔慣れしている東部艦隊ではサッキュバスは広く受け入れられているからだ。

 仲間を差別するのは海軍の、特に一丸となって操船やら、戦闘にチームワークが要求される艦隊任務では当然、マイナス評価だろう。

 

「ごめん……」

「貴女の事は嫌いじゃ無いわよ。淫魔であると言う一点を除いてね」

「酷いなぁ」

「あんたの母親、ラーパティ大尉もね。

 お世話になっていたし、感謝はしているのだけどサッキュバスであるのが、どうしても……」

 

 口をつぐんで、耳を塞ぐ。

 艦長室からは「ああっ、いいっ。艦長、突いて、子宮の奥まで突き入れてぇぇぇ!」との絶叫が洩れていた。エイネー少尉だ。激しく犯されているのだろう。

 

「これが嫌なのよっ。

 どうして、どうしても自分が淫魔に犯されたのを思い出しちゃうから」

「向こうへ行こう」

 

 キャロンの手を取って移動させる。

 浮かぶ娼館として造られ、しかも、既存艦の改装では無く、それ専用として最初から建造されている娼妓艦。艦内は一般艦船に比べて豪勢で、船室の壁も厚くて防音性にも優れている為、船長室から離れれば、エイネー達の出す嬌声も届かないとの判断である。

 

『淫魔に強姦されたんだ』

 

 彼女の母と同じだったのか、とタンハーは思った。

 キャロンの母も淫魔に犯されて、サッキュバスを身籠もっている。

 

「身内の恥だけどね。あたしの父親が最低の男で、その為に爵位を剥奪されたわ。

 そして、その為にあたしは処女を失った」

「その、良く分からないんだけど……」

 

 説明だけ聞いていると原因が不明だ。多くの部分を省略しすぎている。

 魔法灯の輝く明かりの下で、キャロンは膝を抱えて座り込んだ。

 

「説明させる気?」

「出来れば……だけど、まず、これでも舐めて機嫌直してよ」

 

 酒保で買ったばかりの薄荷飴を差し出す。ゲス・ゲスのアドバイスを受け入れて、何かの役に立つかもと買っておいた秘密兵器だ。

 キャロンはそれを受け取ると、ぽいっと口の中に放り込んで「苦い」と文句を言った。

 口に入れるとすーすーする薄荷はタンハーの好きな味だったのだが、蜂蜜飴の方が良かったかもと反省する。

 

「刺激が強いのよね。これ、眠気覚まし用でしょう?」

「今度からは蜂蜜飴にするよ。酒保じゃ、この二種類しか置いてないけど」

「あたしの母の事は知ってると思う。多分、あんた、あたしの事を調べたでしょ?」

 

 素直に頷くしかない。

 キャロンは「やっぱりね」と呟くと説明を続ける。

 

「あの男は、あたしの父は男爵と言う爵位のみがプライドの駄目男。

 王都で有力貴族の手先となって太鼓持ちするしか能が無い、どうしようも無い男だったわ。

 母はあの男の権力で、半ば無理矢理嫁がされた様な物だった。統治能力も無いから領地は赤貧に喘ぎ、商人である母方の祖父の力が無ければとっくに潰れていた」

「うわぁ…悪し様に罵るねぇ」

「当然よ。あたしはあの男に育てられた覚えもないし、顔を見たのも数回だけだからね。

 だから、あたしはディア男爵を名乗らない。母方の家系であるキャメロンを名乗ってるの」

 

 そして家が傾いた時、男爵はサッキュバスを偶然、捕らえる事に成功したらしい。

 母がそれに関わっていたというのは意外であった。キャロンが産まれてから、ずっと放置気味であった母が出会い、そして親友になったのだと言う。

 

「あの男は王都で女を作って、母様には目もくれなかったからね。

 でも、母様もその時、既に狂っていたのかも知れない」

 

 彼女はそう言いつつ、リノリウム張りの床にの之字を描いた。

 王都へ行った父に捨てられた母は、自分の世話を乳母任せにすると、手当たり次第に男を漁って乱交し出したのである。

 

「まるでサッキュバスの様に……」

「それ偏見。あたいらだって、そんな色情狂みたいな奴はそうそう居ないよ」

「そうなの?」

「一人の男に操を立ててる変わり者だって居るよ。

 その娘。処女をそいつに捧げるんだって、頑なに本番しないんだ」

 

 一つ下の後輩を思い浮かべる。口まんこや尻尾での吸精はするが、ヴァギナは新品で未貫通なのである。流石に淫魔の中でも〝変わり者〟として認識されているのだけど。

 

「四六時中、暇があれば性交してると思ってたわ」

「お食事だからね。たしかに精液は好きだけど、年がら年中食べてたいとは思わないよ」

「へぇ……。まぁいいわ。

 とにかく母はその淫魔に出会い、そして淫魔は母を愛したらしいのよ」

 

 キャロンは「同情なのかも知れないけれど」と付け加えた。

 母にとっては王都の夫と同じく、これもただの火遊びだったのだろう。だが、その逢瀬は最終的に淫魔との子を成してしまった。

 ここで夫が王都より戻って来る。そしてその淫魔を捕らえて、産まれた淫魔の子供と自分の妻を人質に彼女を脅迫し、従わせた事から家の没落は始まった。

 

「サッキュバスを工作員にして暗躍した。と聞いてるわ」

「どっかの三文小説の悪役みたいだね。ラーガが好きそうなシチュだ」

「ラーガ?」

「同期のサッキュバス。文学少女」

 

 確か、ラーガ・ランツベルグは公娼になったんだっけ…と思い出す。

 娼妓士官に誘ったんだけど、結局は一般コースに就職した。

 

「ホント、三文小説もどきよ……。ま、そんなのはそうそう上手く続かないわ」

 

 淫魔を使って敵対者を堕とし、場合によっては暗殺する。接待役として上位の権力者に献上して、便宜を図って貰う。と言った、本当に三文小説みたいな工作を行ったそうだ。

 地元で行う分なら監察の手も入らなかったのかも知れない。だが、男爵は調子に乗って活動範囲を王都へまで広げてしまった。

 

「結局、『闇』に実情を暴かれて爵位剥奪。領地は没収になったわ」

「男爵は?」

「死刑。そして直接の工作員だったサッキュバスも処分されたわ。

 あたしから見ればざまあみろよ。あの男は母様の命を盾に淫魔を脅してたんだから」

 

 そしてその淫魔が処刑された後、母もまた命を絶った。

 母は本当にそのサッキュバスを愛していたらしい。そして淫魔もまた本気で母を愛していたのだ。

 

「子供が居たよね?」

「ええ、あたしと一緒に育ったわ。妹みたいな物だった」

 

 次の瞬間、声に殺気が篭もる。

 

「だけど、あいつは、妹だと思っていたあいつはあたしを裏切ったのよ」

「え」

「あいつはあたしを犯したの。とんだ道化だわ。あたしは本当の妹みたいに思ってたのに、あいつは、あたしを性欲処理の相手としか見ていなかったのよ!」

 

 

〈続く〉




すげー長い。
エロ度が、かなり足りませんがお許しを。

どうでも良い裏設定。
娼妓艦。
浮かぶ娼館です。普通にサッキュバスが一杯居る東部艦隊だけなら要らない艦です。
でも、西部艦隊にも性処理しなければ風紀が、と言う訳で淫魔を載せて出張するのが任務。接待用なのでゴージャスに造られてますが、軍艦なので武装してます。海賊程度なら自衛可能でしょう。
ゲス・ゲス。
信じられないかもだけど、実在した淫魔の名です。
ニューギニアの淫魔で、本来は「ゲスゲス」と中黒は入りません。
リノリウム。
エルダ世界では錬金術で発明されてます。本当は別の名前なんでしょうけど、面倒臭いから地球と同一名にしちゃいました。テラ語ですね。
ほぼ地球の物と同じですが、材質に違いがあるやも知れません。
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