エロエロナ物語 -エロエロンナ物語R18編- 作:ないしのかみ
お待たせしました。
こんなに長くなるとは思わなかったけど、無事に今回で完結です。
-サッキュバスの館4- その5
娼妓艦バヤデールはサムブーク級の中型艦だ。
全長は40m余り。
そこそこ大きく、軍艦ならば舷側に弩砲を並べ、有力な戦闘艦として活躍出来る艦である。
しかし、娼妓艦と言う分類は補給艦や工作艦と一緒の補助艦艇だ。
戦闘艦なら片舷20門近くある筈の弩砲は、甲板上に片舷3基である。本来、船腹に穿って配置されている弩砲はない。
代わりに配置されているのは、十六室ある娼妓部屋。豪華な内装でリラックスした雰囲気で楽しめ、最高の娼妓士官がご奉仕してくれる特別室だ。
目的が浮かぶ娼館なので当然なのだが、そんな訳で弩砲は自衛用の物でしか無く、それ以外は此処の将兵が持つ技術と武力に頼らざる得ない。
「魔導弾頭も積んでないのよね」
「まぁ、本来はエッチする為の船だし、弾庫に太矢がちゃんと管理されていた方がビックリだ」
砲座に座るキャロンにタンハーはそう答えた。
魔導弾頭。先端に魔法を封じ込めた太矢は、本来戦闘艦でないバヤデールには未搭載だ。
普通の太矢だって、この艦が建造したてのほやほやだから装備品として搭載しているのであって、補助艦がいざ弾庫を開けてみたら、海風を受けてボロボロの錆々で使い物にならぬ残骸が放置されてただけだったと言う、笑えない事も多い。
戦闘なんか縁遠いから、数年間誰も省みないで放置していたなんてのも珍しくないからだ。
「火を点けます!」
ゲス・ゲスが合図するが、キャロンはそれに答えずに、ただ首を縦に振っただけだ。
今回用意された太矢は火矢だ。
先端の弾頭部分が中空になっていて、そこへ可燃性の素材、タールや油脂を中心に硫黄などを練り込んだ焼夷材を詰めた物である。
松明を近づけると、「ぼっ」と乾いた音と共に火がもうもうと燃え始める。
「射撃始め!」
副長の命令と同時に、片舷3門の弩砲は火矢を放つ。
黒い煙の尾を引きながら、それは敵船へと真っ直ぐ飛んで突き刺さる。
「次発装填!」
タンハーは巻上器のハンドルを力一杯回す。
だが、次の発射に至るまでの機会は無かった。燃えながら敵艦が体当たりしてきたからである。
「取り舵。躱せ!」
「アイ・サー」
艦長の絶叫と舵手の返答が響いて、バヤデールは艦首を左へと回す。
船があり得ない程の角度で傾き、そこへ突っ込んで来る燃えた敵艦の艦首が、こちらの舳先とぶつかってがりがりと嫌な音を立てる。
敵の舷側から何本も延びたオールが粉砕され、舷側を擦り合った形で併走してしまう。
「ちぃっ、新品なのに!」
忌々しげな艦長の声。
衝角こそ突き入れられなかったが、敵とぶつかって傷物にされたのが余程悔しいのだろう。
「敵が乗り移ってくるぞ。白兵戦だ」
だが、直ぐに気持ちを切り替えたらしく、ひょいひょいと人形じみた動きで次々と移乗してくるアンデットの迎撃を命じる。
「火の精よ。かく燃え上がれ。【火球】」
ついでに火の呪文を唱え、敵艦へと叩き込む。
それは甲板で炸裂。後続として続こうとしたが数体が、こちらへ乗り移る前に火球で吹き飛ばされる。と、同時に敵艦の船体がぽっきりと折れた。
先の火矢で耐久力が減っている上、この火球の爆発に耐えられなかったのである。
前後に別れた船体が、併走していたバヤデールの後方へ置いて行かれる。
真っ二つとなって艦首と艦尾を垂直に立ち上げ、松明の様に燃えながらずぶずぶと水没して行く。
「不死怪物だけあって、やはり火には脆いか」
火には浄化作用がある。
艦長はうそぶくと、自艦の甲板上へ目を向けた。
敵艦はこうして倒されたが、乗り移ってきたアンデット共は構わずに戦い続けていたからだ。
タンハーやキャロン、ゲス・ゲスも砲座を捨てて刃を抜き、敵と渡り合う事になる。
「生意気な骸骨だな!」
タンハーはカトラスで、スケルトン(骸骨兵士)を事も無げに叩き斬った。
幸い、剣術は得意な方だったし、素早いが魔剣でなくとも対処可能な相手だったから、断ち切られた白骨は一撃で崩れ去る。
他の乗組員もそれぞれ渡り合っていたが、スケルトンやグール(屍食鬼)みたいなアンデットに対してはともかく、それ以上の奴らには苦戦していた。
「気を付けろ、アンデット・プリンセスだ!」
艦長が注意を促したのは、屍姫(しかばねひめ)との異名もある存在である。
レアなアンデットモンスターである。
姿形はドレスを着た少女に見える。しかし、不健康そうな青白い肌の色(こいつ個人に限って言えば、薄紫に見えた)が目立ち、生者とは明らかに異なるオーラを纏っている様に見える。
「こんな奴っ!」
キャロンが躍りかかる。
その太刀筋は見事な物で、肩から袈裟斬りに脇腹まで斬り裂いた…筈であった。
「くすくす……」
屍姫は含み笑いの声を発し、斬られたのを気にもせず、事も無げにキャロンの方へ向いた。
ゲス・ゲスが「下がって」と声を掛けるが一歩遅い。
斬り捨てたと思ったのは錯覚だった。その身体は幽体であり、刃は屍姫の身体を手応えも無く、通り過ぎただけであった。
「こいつ」
唖然としている彼女へアンデットモンスターは手を伸ばし、その身体に触れる。
途端に襲われる悪寒。
体中に走る冷たい感覚にキャロンは膝を折って屈した。
「シグルーンっ!」
ゲス・ゲスの声が、酷く遠くから聞こえる気がしてキャロンは気絶する。
タンハーは駆け寄るが、持っているカトラスは魔剣では無く、普通の刀剣で手も足も出ない。いや、魔剣であろうが幽体のこいつに効くかも判らなかった。
「ええいっ、火属性の魔法ってのは使いづらいな」
代わって登場したのは艦長のリビエラであった。
流石に自艦の上で【火球】か何かをぶつける訳には行かないので、自分のカトラスに【鋭刃】の魔法を纏わせている。
別名『ブレードシャープ』とも呼ばれる魔法で、一時的に魔力を刃に宿らせて剣の威力を増大させる物である。
艦長が得意な【火刃】『ファイアブレード』に比較すると刃の付いてる武器にしか使えない欠点があるが、威力が高くても炎を纏わす【火刃】は下手すると船火事になるので、妥協せざる得なかったのだ。
「死ねっ、て!」
ずばっと艦長の一撃は、屍姫を斬り裂いた。
「……うん、もう死んでるんだったな。お前」
間抜けな言葉が紡がれる中、よろめきながらもアンデット・プリンセスは立ち上がる。
「邪悪なる魂よ。退散せよ。【聖光】っ!」
横から飛ぶのは聖句魔法。
バヤデールの軍医であるモルガナ大尉の唱えた聖なる光が、屍姫を照らすと姫は身悶えし、「ああああ……」と喉を掻きむしりながら消滅する。
「キャロン、キャロン」
タンハーの叫びだけが甲板に響く中、戦闘は終了した。
◆ ◆ ◆
「どうか?」
「良くはありませんね。屍姫は、別名、病姫(やみひめ)とも呼ばれるアンデットです。
接触時、精気を奪われると同時に何かの病を移された可能性もあります」
艦長の問いに答えるモルガナ大尉。
このバヤデールで唯一、聖句魔法が使えるサッキュバスであり、故に軍医として皆から一目置かれている重鎮である。
医務室に担ぎ込まれたキャロン少尉に付き添うのは、ゲス・ゲスとタンハーであった。
こうした付き添いは本来なら邪魔だとして断られるのだが、この娼妓艦では医務室は広く豪華な設備が整っており、ベッドも十床もあった為に同室が許されたのだ。
元々、戦時には病院船として使う副目的があると、タンハーが知るのは後日である。
「先生、いや、軍医殿。どんな病気なのでありますか?」
タンハーが質問する。
「先生で良いわよ。そうね、診断魔法で探ってみるわね」
慣れぬ軍隊用語を使おうとする若いサッキュバスに微笑むと、大尉は聖句魔法を唱える。
やがて、鋭い顔付きになって首を振る。
「いけないわね。これ、あたしの手じゃ負えないわ」
「え?」
「軍医。説明を」
艦長が促すと、モルガナ大尉は「悪性の腫瘍病です」と告げる。
内臓に悪性の腫れ物が広がり、増殖しているのだと説明する。
「昔、シグルーンが罹った病気です」
「それが再発したのね。厄介な。あたしの五級聖句ではこれを治すだけの力は無いわ」
ゲス・ゲスの説明に軍医は嘆息する。
外科手術との併用で何とかなる場合もあるが、成功率は極めて低いのだとも説明する。
「どうにかなりませんか?」
「あたしの腕ではどうにもね。一旦、患部を切除して【再生】の魔法をかけるって手もあるけど、かなりの使い手、三級クラス以上の聖句使いじゃ無いと難しいわ」
必死に頼むタンハーに申し訳ない顔をする。
軍医は【再生】魔法は使えない。そして例え使えたとしても、もしかすると切除した腫瘍自体が再生してしまう場合もある。
「昔の聖女様とか、ラートリィ宰相辺りの凄腕ならばともかく、御免」
「そんな伝説の存在や、雲の上の人を引き合いに出さないで下さい」
と非難するが、それがどうにもならない批判である事は重々承知している。
が、タンハーは、はっとしてゲス・ゲスの方を振り返った。
「ゲス・ゲス。あんた、昔、キャロンの病を治したって言ってたわよね?」
「あ……」
その言葉に、ゲス・ゲスは後ずさりした。
艦長と軍医は「治したって、どう言う事だ?」「え、どうやって」と反応する。
「昨夜聞いたんです。彼女がキャロンの病気を治す為に、キャロンを犯したって」
「まさか、いえ、まさか……あの」
「性治療か!」
艦長の問いかけに、ゲス・ゲスはちょこんと頷いた。
◆ ◆ ◆
4月12日。晴れ。
今日は一日目まぐるしかった。
アンデット・シップとの死闘。あたしは初めて実戦で弩を撃ったよ。
続けて骸骨との斬り合い。あんまり強くなかったな。
娼館時代にしごかれた警備隊のドラフト姉さんの方が何倍も強かった。でも、あの人、脚が何本もあって横歩きするから狡いんだよねぇ。糸も時々吐いたりするし。
まぁ、それはそうとしてアンデット・プリンセスってのに遭遇した。
滅多に出会わない怪物だそうで、艦長がそれを知っていたのは奇跡に近い物だったらしいね。
とにかく、こいつにキャロンが倒されてしまったんだ。
精気を奪う、エナジードレインとか言う能力も酷いけど(世間一般の人は、サッキュバスもこの力を持ってると誤解してる)、病を与える最悪な力を持った敵だった。
キャロンはそれによって、悪性の腫瘍を体内に発生されてしまった。
癌、だっけ? とか医療用語で言うらしい。
もう駄目だ。と皆が悲嘆に暮れる中、あたいは思い出したんだ。
ゲス・ゲスが以前、キャロンを犯してその命を救った事を……。
タンハー・ラーパティの日記より、抜粋。
◆ ◆ ◆
「いやっ、駄目なの」
ゲス・ゲスは丸くなってふるふると身体を震わせた。
「また、シグルーンの体と心を傷付けてしまう」
「大丈夫だよ。今度はきちんと説明してあげなよ。きっと誤解も解ける」
タンハーは彼女の肩に手をかけて説得した。
そして「それに、今、やらないと手遅れになってしまうかも知れないんだよ」と脅す調子で付け加える。
「性治療はまだ研究段階の筈だが……」
「東方から来たサッキュバス。何て名前でしたっけ、彼女が技術を伝授してますが、まだ習得に至っている者は少ないと聞きますね」
「確かミニとか言ったな。それによれば、本来、生体魔法として母から教わる類いの魔法らしい。
基本的にはサッキュバスであれば誰でも習得出来る筈なのだそうだが…」
艦長は天井を仰いだ。
「我々、エロエロンナのサッキュバスは、先祖が本来のサッキュバスでは無いからな」
エロエロンナにやって来たのは元々、魔法的に産み出された促成サッキュバス。
本物と同じ力を勿論持つが、先祖から受け継がれている特殊な生体魔法なんかは遺失しているのである。例えば、夢魔として他者の夢に干渉する能力とかを。
その力を得る為に、外国産の天然物サッキュバスを移民として受け入れて、失われた力を研究しているのが現状である。
だが、海外からやって来るサッキュバスは少なく、現れても大抵が犯罪者すれすれの悪人が多いので、移民となるのは極端に少ない。
大前提となる〝人に危害を加えない淫魔〟を満たす者が殆ど居ないのだ。
ゲス・ゲスとかは数少ない例外なのである。
「その東方淫魔によれば、若い娘程、才能を開花させるんだとか」
「つまり、私や軍医みたいなのは、性治療を覚えるのは無理っぽいって話か」
乾いた笑いが出る。両人とも既に三十路手前で若くは無い。
そんな中、タンハーの言葉にゲス・ゲスはやってみようと決意していた。
「他人をふたなり化させるのは出来る?」
「うん、得意じゃ無いけど……」
「構わないわ、シグルーンにお願いね」
そう言ってスカートをまくり上げるゲス・ゲス。
白い下着の上から、タンハーは手を当てて生体魔法を発動させ、手から魔力を放射する。
クリトリスがむくむくと成長し、キャロンが「あっ、ああっ」と悩ましげな声を上げる。数十秒後、キャロンの股間に立派な肉竿がそそり立った。
「あら、凄いな」
「こんだけ有れば充分だわ。軍医殿。ベッドを借ります」
言うが早いが、ゲス・ゲスは寝台の上に乗る。
一回、キャロンの顔を見下ろした後、「御免なさい」と呟いてその腰を沈めて行く。
騎乗位、そして着衣でのずらしハメは、サッキュバスがもっとも好むシチュエーションである。ずぶぶっと音を立てて全てを飲み込むと、彼女は腰を振り始めた。
「んっ、んっ、んっ、んっ、んんっ」
鼻先に汗をかきながら、歓喜の顔で一生懸命奉仕を繰り返す妹淫魔。
姉の方も意識が混濁しながらも、「あっ、あっ、あん」と感じているらしい嬌声を吐いている。
『お姉ちゃん。お姉ちゃん』
ゲス・ゲスの生体魔法。生まれつきに備わるサッキュバスの魔法的な能力が働き出す。
本来、こうした力は淫魔全体が持ち合わせている物である。
【魅了】や【搾精】等、教えられなくても使える本能的な能力の他に、伝授されないと使えぬ技がある。
大抵は幼少時に、淫魔の母から「こんな風に使うのよ」と伝授されるのだが、その機会が無いと才能を開花させる事は出来ずに埋もれてしまうのだ。
彼女は幸い、母親から幾つかの生体魔法を伝授されていた。
『ああ、ここが悪い所ね。ここは、こうしてやる!』
妹淫魔は姉の体内をサーチして、癌細胞を突き止めると力を込めた。
ふたなり化した姉の膀胱は魔法によって精巣に作り替えられている。ゲス・ゲスの力を受けて、そこへ大量の精子が生産されて行く。
「ああああーっ」
「お姉ちゃーんっ、熱いいいーっ」
満を期した大量射精が、妹淫魔の子宮を打ち据えた。
どくっ、どくっ、どくん、とペニスが脈動し、一回毎に凄まじい量のザーメンが吐き出される。
「…はぁ、はぁ、リュ……リュミセ?」
「うん、お姉ちゃん。待ってて、リュミセ頑張るから」
混濁した意識が言葉を紡いだのだろう。キャロンの口から妹の名が飛び出した。
リュミセ。ゲス・ゲスと呼ばれる前に、呼んでいた淫魔としての名だ。
間髪を入れずに第二射。射精が開始される。
「ああっ、出てる。出てる。もっと、もっとリュミセの膣内に射精して、大量に精液出してぇ」
妹の叫びに呼応するかの様に、その射精は止まらなかった。
淫魔の胎内に収まった逸物は射精脈動を続け、数分間でリッター単位の精液を妹淫魔の子宮に放ち続けた。全てを受け止めた子宮がぽっこりと膨れ上がり、妊婦を思わせる姿に変わり果てた頃、ようやくザーメンの流入が止まった。
「ああっ、お姉ちゃんの精液で、精液で一杯。嬉しい」
惚けた様な表情でリュミセは呟いた。
下に敷かれた姉はげっそりと痩せている。リュミセはそれに気が付くと、慌てて【リバース】の生体魔法を唱えた。
精液として搾り取った精気を、身体を通じて元の持ち主に還元させる魔法だ。身体が繋がっている限り有効だが、引き離されると効果が切れてしまうので、キャロンの身体から降りる事は無い。
「驚きましたね。本当に癌が消滅しています」
軍医が再び観察した結果を艦長へと述べる。
性治療は搾精時、相手の身体のどの部分の生命力を削るのかを選択して、その部分の細胞を転換させてしまう生体魔法である。
普通、サッキュバスが吸精する際、相手を生かしておく為に余計な生命力から精気を転換し、その部分を精液化させて射精させる。
太った相手ならば、まずは余計な脂肪や贅肉から吸精し、身体の根幹部分である骨や脳、内臓なんかは後回しにされる。
性治療はそれを思惟的に選び、キャロンの例の様な、身体的に有害な部分を吸精で取り除いてしまい、かつ、リバースで健康な部位を再生させる物である。
夢の様な治療法であるが、サッキュバスが行う行為なので、今までは男性相手にしか行えないと考えられていたのだった。しかし……。
「女性相手でも、ふたなり化させれば可能になるのか」
「盲点でしたね。艦長」
「が、現状。余り大っぴらに発表は出来ないぞ。使い手は少ないし、他国に知られたらサッキュバスの戦略的価値が上がってしまう」
今の世の中では淫魔と言うだけで忌み嫌っているが、もし、彼女らに価値があると知れたら、他国は放っては置くまいとも考えられるからだ。
「女性が、自らの身体をふたなり化するとも思えませんが」
「甘いぞ大尉。一部の娼館では、そんなプレイも流行り出しているのだ」
モルガナは絶句し、「時代は変わりましたね」と呟くのであった。
◆ ◆ ◆
「気分はどう?」
数日後、タンハーはキャロンの士官室を訪ねた。
ここ数日は医務室で手当を受けていたが、ようやく目的地のマディス湾に到着したので、彼女は自分の居室に移されたのだった。
「悪くないわ。溜まった仕事を何とかするのに忙しいけどね」
「無事で本当に良かったよ」
机で書き物をしていたキャロンが振り向く。
「見て、この書類。あたしは主計士官じゃ無いって言うのに」
「仕方ないよ。まだ甲板での作業は危ないから、デスクワークに回されたんだから」
しかし、彼女は「息が詰まるのよ。あたしは航海士官なんだから、操帆するか舵握ってたいの」と不満を述べる。
まぁ、今は寄港しているので、本来の仕事は出来ない訳だが。
「窓、開けてるんだ」
「今日は暑いからね。娼妓室と違って、涼む魔法なんてないし……」
娼妓室は魔道具によって冷暖房完備であり、これも最新鋭娼妓艦『バヤデール』の自慢の一つだが、当然ながら、士官室にはこの恩恵は無い。
風に乗って、サッキュバス達の嬌声が聞こえて来る。
この湾は西艦隊最大の寄港地である。当然、到着した翌日から、娼妓艦の任務、つまり娼妓士官達のお仕事が始まっているのだ。
「声、気にはならないんだ」
「……どうでも良いわよ。あたし自身が快楽に、しかも妹相手に溺れてしまったし」
ふうとため息をついて、「あんたの方のお仕事は?」と尋ねて来る。
「休憩中。午前中は四人を相手にしたよ」
「そう」
「娼妓艦って結構楽だよね。淫魔が沢山居るんでローテーション組んでくれるから、連続して相手しなくて良いし」
ママの『シャンブロウ』よりも楽ぽい。とタンハーは語る。
部屋を一回毎に交替しながら、娼妓するので担当を外れて休憩出来るのだ。
「そう言えば、あたいの部屋の相棒はゲス・ゲスだったよ」
「へぇ、リュミセはあんたと組んだんだ。じゃ、今…」
「うん。絶賛、ご奉仕中。あ、リュミセって言ってたけど……いいの?」
それを指摘すると、彼女は顔を赤らめて「煩いわね!」と叫んだ。
そして「名前を昔のに変えただけよ」と呟いてそっぽを向く。
「聞いたから……」
「え」
「あたしを犯した理由。あたしは悪性の腫瘍で死ぬ筈だった」
いや、もしかするととっくに死んでいた筈だった。
屍姫が与えたあれは再発であり、11歳のあの時、妹が性治療を行わなければ……。
「リュミセは後悔してたよ。お姉さんを傷付けてしまったって」
「でも、あたしが犯されたのは理由が……」
「違うんだよ」
タンハーはもう一度首を振って、「違うんだ」と続けた。
確かに姉を犯したのは治療行為だった。でも、その後、女性に戻した姉をのバージンを奪ってしまったのは、純粋に自分の性欲を押さえ切れなかったからだと。
「好きだったんだって」
「……」
「お姉さんであるキャロンが好きで好きで堪らずに、欲望の赴くまま、気が付いたら自分の逸物をねじ込んで、思いの丈を大量に注ぎ込んだのは罪だったって」
キャロンは椅子をきぃと鳴らして、頭の後ろに腕を組む。
天井を見上げ「そう、なんだ」と呟いた。
「まだ彼女が許せないのかい?」
「拘りはあるわ。でも、不思議ね。かつて程、腹は立たないのよ」
タンハーはこの姉妹を仲直りをさせたいと思うが、リュミセも姉に対しては引け目を感じているらしく、あの後、直接、会う事を避けている様子だった。
その時、こんこん、と不意にドアがノックされた。
「誰?」
「あ……あの」
声で判ったが、ゲス・ゲスだった。
消え入りそうな声で「あの、そろそろ交替の時間だから……」と述べる。
「あれ、そうなんだ。キミの担当は?」
「時間前に上がってしまって……。張り切りすぎたみたい」
良くある話だが、淫魔相手に興奮しすぎてほんの数分で全精力を使い果たしてしまう兵も居る。無論、生死に関わる程は絞らずに寝かせてしまうのだが、そうなると担当淫魔は持ち時間の大半が暇になってしまう事態が起こるのである。
「そーゆー時は、こっちが調整して上手くやらなきゃ」
「行くの?」
「うん。また来るよ」
部屋の主と挨拶を交わし、廊下へと出る。
扉の向こうにはゲス・ゲスこと、リュミセが佇んでいた。
正面におらず、ドアから離れて待っているのはキャロンと直接顔を合わせない配慮だろうか。
「で、その兵は?」
「既にベッドから移動させたわ。今もベッドメイクに入ってる所」
娼妓艦の医務室が広く、ベッドが多いのは精力を使い果たした兵を収容する為であるとも噂される。まぁ、普通の軍艦なら病室に余裕が無いので、ハンモックへ一直線だ。
「よしっ、リュミセ。キミはあたいが次の担当になって交替する半時間は暇だよね?」
「え、はい」
「じゃ、行ってらっしゃい」
腕を掴むとタンハーは彼女を有無を言わさず、キャロンの部屋へと放り込んだ。
「ちゃんと話し合うんだよ」
最初はどんどんと扉を叩く音がしたが、キャロンの「リュミセ」と言う妹を呼ぶ声がしてから、抗議のノックは沙汰止みになる。
ノブを握っていたタンハーの手が離れ、「やれやれ」とばかりにコキコキと首を鳴らし、彼女は娼妓室へと向かう。
結果として、姉妹は仲直りしたらしい。
その後、姉妹の間でかなりのエッチをしたとの話も出たが、本当かどうかは知らない。
娼妓艦『バデヤール』の処女航海。
それは後に様々な冒険を経験する、娼妓士官タンハーの波乱万丈な物語のプロローグであった。
〈FIN〉
こんなに遅れたのは屍姫のせい。
いや、病を与えるアンデットって捜したけど居ないのね。麻痺(グール)や呪い(マミー)とか与える奴は居るんだけど。
で、「しゃーない。オリジナルで出しちゃれ」と開き直ったのが、このアンデット・プリンセス。幽体のお姫様なのは趣味。凄いゴーストの強力版にしてみました。
病没したお姫様の亡霊なのかもって裏設定があったり。
こんなオリジナルモンスター出して良いのかなと悩みましたが。良く考えたら既にヤシクネー(「モンスターじゃ無いぞ。失礼な」エクシー談)みたい種族も出してるんだから、構わないかと開き直りました(笑)。