エロエロナ物語 -エロエロンナ物語R18編- 作:ないしのかみ
うーん、今回、エロシーンはあるけどあんまりエロじゃ無い。
-サッキュバスの館5- その3
「そりゃ聖教会はセックスをタブー視してないけどね。やっばり幼い子供を筆卸しするのは、余り勧められないとゆーか」
「親公認でしたわよ」
聖教会の助祭(巫女)である立場から、アラティーの搾精に苦言を口にするトリンシス。
しかし、強姦では無く、ちゃんと親公認だと主するアラティー。
「サッキュバスの倫理よねぇ」
「それ偏見ですわよ。お食事は確かにそうですけど、モラルは世間一般と変わりませんわ」
アラティーは登録淫魔は人間社会で暮らしているだけあって、倫理とか社会的な常識はそれ程の違いは無いと力説する。
かつての魔族社会みたいに強者が常に弱者を虐げ、好き勝手やって暴力と快楽に溺れる絶対階級制社会では無いのだと。
「ま、あんたを見てれば判るけどね」
「え……」
「サッキュバスってさ、自由奔放で所構わずセックスして、しかも無責任な種族でしょ」
それは伝承物語に出て来る、典型的な淫魔像である。
ふらふらと放浪しては気ままに搾精を繰り返し、他種族の男を枯死させ、女を強姦して子孫を孕ませる、恐ろしくかつ美しき魔物。
「野良淫魔と一緒にされては……」
「ま、怒りなさんな」
その言動を片手を挙げて制止すると、トリンは残ったお茶を飲み干した。
「エロエロンナで淫魔が認められた当時、そんな危険な魔物が領民として普通の人間と一緒に公共生活を送れるかって問題になったのよね」
「公娼制度はその名残ですわよ」
成人したサッキュバスが15年も公娼として従事させられるのは、こうした危険な淫魔達を管理する為でもあるとされている。
15年間、公娼として街の財源に寄与させ、その間に性格や素質を観察して危険と判断したらエリミネートされるのである。
「幸い、あんたら登録淫魔は模範的で、排除された個体は殆ど存在しなかったけどね」
「元々、純粋淫魔じゃ無かったのと、人里で新しく生まれた個体ばっかりでしたから」
エロエロンナに最初に移民した淫魔達は、生まれながらのサッキュバスでは無く、淫魔にされてしまった元人間だった点が大きい。
つまり、最初から人間としてのモラルを備えていて、その後に生まれた新生児もそれら従って育てられたから、感覚的にはごく普通に社会常識を持っているのだ
他者を殺めるのは悪い。泥棒はいけない事だ。法は守るべき。と言う社会常識は、多くの魔物には理解出来ない。
魔物は感情の赴くまま、気に入らぬ相手を害し、物を盗むのが当たり前なのである。
だから同じ魔的生物でも、それらを理解して社会的に暮らせるのを〝魔族〟と呼び、言葉を理解して知性を有する種族でも、それ以外は〝魔物〟と呼ばれて区別される。
同じ節足類型魔的生物でも蜘蛛型のアラクネーは〝魔物〟で、ヤシガニ型のヤシクネーが〝魔族〟に分類されているのはこの為である。
サッキュバスは社会を構築可能だが、女王を頂点とする同族でしか存在出来ないので長い間、〝魔物〟と〝魔族〟の両方に分類されていたが、登録淫魔の存在で最近では〝魔族〟に再分類されている。
「あんた、真面目すぎるのよ」
「真面目……ですの?」
トリンは頷いて「だっていつも領地の事を考えて、色々と活動してるじゃない」と指摘する。
帰郷の度に寸暇を惜しんで、女男爵の仕事を補佐しているのは確かだが、自分に課せられた当然の役目だと考えている領主の娘は、目をバチクリさせた。
「今だってそう。領民の相談を聞いたり、将来の経営を常に気遣ってたり」
「でも、次期後継者ですから」
「それが変なのよ!」
どんとテーブルを叩いて巫女が力説する。
その怒気の強さに気圧されながら、アラティーはごくりと唾を飲んだ。
「サッキュバスでしょ、自分本位で快楽と饗宴にふけって面白おかしく生活する」
「いえ、それは偏見……」
「偏見でも、何でも良いのよ」
トリンは言い切った。
要は仕事やら政策は部下に任せて、身体を休めて欲しいらしい。
優雅に羽を伸ばし、たまには休暇を満喫して休んだらどうだと提案する。
「あんたは貴族様だし、サッキュバスでしょう!」
「うーん、粗放な経営やったらうちが困窮しますし、民には重税が掛かってしまいますわよ」
エルダの税率の基本は6公4民。つまり領主の取り分が6割、民が4割なのだが、これが下級貴族でも独立領主になると、平気で7公や8公の重税を課す。
もし9割取る様な奴は、例外なく悪徳領主と言えるだろうし、4割程度で済ませるなら、人々から〝名君〟として称えられる良い領主様と賞賛されるだろう。
「それは困るわね」
「放蕩な経営をしてる貴族家は、家計が大抵、火の車なのですわ」
最近ではディア男爵家とかが放蕩経営の末、王国からお取り潰しにあった。
貴族だって領地経営に失敗すると、爵位も領地も取り上げられるのは珍しくは無い。
無論、アラティーは自分の家を守るつもりである。
「それでも、アラティーは働き過ぎ。
サッキュバスでしょ。淫魔でしょ。余暇を楽しく過ごしてよ」
今にも泣き出しそうな彼女を見て、『自分の事を本気で心配してくれてるんだ』と理解する。
子供の頃の様に無邪気に遊んだ、追いかけっこや、お花摘み。
楽しい事だけを考えて、日がな一日一緒に遊び呆けて欲しいのかも知れない。
「搾精は楽しいのですけど……」
「そこは淫魔その物ね」
その言葉を耳にしたトリンは、やや落ち着きを取り戻した様子だ。
大きく深呼吸すると、「あんた私に黙ってエッチしてるの?」と疑問を投げかけて来た。
無論、身に覚えがないので首を横に振る。
「あんた子供に淫夢を見せているでしょ」
「ええつ?!」
寝耳に水である。
「子供達も淫夢を見たって話があるのよ」
「淫夢を扱えるサッキュバスは、寡聞して知りませんわ」
伝説とかお伽話みたいな伝承では、他者の夢に進入して自在に記憶を操作するサッキュバスがちょくちょく登場するが、その生体魔法は現代では遺失扱いだ。
そうした能力を持つ淫魔が居た事は、古代王国の文面とかの記録が残っているので、過去に存在はしていたらしい。
「でも、現代のサッキュバスにはその力がありませんの」
「何で?」
「遺失したからですわ」
魔法的な力を発揮するが、生体魔法とは魔族や魔物と呼ばれる存在が本来持っている力で、呪文を唱えて発動させる魔導とは異なる力である。
ドラゴンが炎の【ブレス】を吐いたり、サッキュバスが【魅了】の力を発揮させるのもこれである。いつ何処でも、使いたい時に意志の力で、或いは無意識に効果が発動する代物だからだ。
「普通、生体魔法は親から子へと自然に受け継がれますの。わたくしが【吸精】や【胎内拡張】を知っているのも、基本として自然に備わっているからですわ」
エルダにはまだ遺伝子と言う観念はないが、そうした基本生体魔法は身体の奥底に刻み込まれ、誰からも教わらなくとも手足を動かすのと同様、自然と使いこなせる様になる。
「遺失って、それを途中で無くしたの。そんなの有り?」
「生体魔法には基本とそれ以外の二種があります」
一拍子置いて「やはり、普通は親から教えられる物なのですが……」と口ごもる。
「教えてくれるの」
「いえ、良く俗説に【エナジードレイン】って能力を耳にした事ありません?」
昔話、或いは伝承で耳にするサッキュバスの特殊能力だ。
搾精し、犠牲者から経験を根こそぎ奪い取る恐るべき力で、他人の持つ力を取り込み、本来持っていない技能や魔法、更に知っていない筈の記憶までフルコピーして、己の物として使いこなすサッキュバスの究極技能である。
「でも、それ、眉唾でしょ?」
「そうです。そんな恐ろしい力があれば、この世界は淫魔に征服されてます。でも……」
確かに経験や記憶を全て奪い、廃人になる様な力をサッキュバスは持ってはいない。だが、経験を他者へ伝播、譲渡する力はあったのである。
それは淫魔の親が、子供に伝える生体魔法である。
「親が子供を育てるには〝授精〟が不可欠ですけど、それを与える時に親から子供へ。生体魔法がが伝わる事が最近の研究で分かりましたの」
この〝授精〟とは、人間における〝授乳〟の精液版で、生まれ立て淫魔の子供が母から絞り出したザーメンミルクを飲む行為である。
「つまり、精子を飲むと魔法が伝わるの」
「はい。でも、我々、登録淫魔は基本生体魔法以外、何一つ、特殊な生体魔法は伝わってませんでした。先祖が人間から淫魔に変えられて、母親となる個体が皆無でしたので」
この為、その後に生まれた二世、三世も覚える機会は全くなかった。
故に長らく、淫魔が持っているとされ、実在する生体魔法も〝遺失〟扱いだったのだ。
「最近、それが復興したのです。でも、やっぱり【夢操作】とか夢魔関連の生体魔法は、未だ幻のまま見付かっておりませんわ」
「あんたらエロ淫魔だけじゃなくて、淫魔全体で?」
エロ淫魔とはエロエロンナ伯爵領所属の登録淫魔を指す俗称だ。アラティーは「恐らく、古代に女傑テラ・アキツシマが滅ぼしたのでしょう」との推測を述べる。
王族種淫魔を壊滅に追いやったのを筆頭に、この古代英雄はサッキュバスと言う種族全体に途方も無い被害を与えている。
もしかしたら、現代ではお伽話になっている【エナジードレイン】や【夢操作】なんかの生体魔法も、かつては実在していたのだが、危険と判断したテラの手によって子々孫々に至るまでの伝承を防ぐ為、保有淫魔を皆殺しにされ、壊滅させられてしまったのかも知れない。
「ふーん。まぁ、今のサッキュバスが淫夢を扱えないのは理解したわ」
「でも、どうしてそんな話が……」
「それはね」
田舎の一軒家の中で、幼馴染みの巫女が説明を開始した。
◆ ◆ ◆
「決済報告書はこれだけですニャ」
「陳情は?」
領主館の執務室。
溜まった書類に目を通し、自分が決済しても構わぬと判断した用件にサインをして配下の部署へと回す。税率変更とか、領主ではないと決断不可能な重大な案件は、当然、保留だが、それ以外の雑用的な仕事は次期領主であるアラティーの裁量に任されている。
ちなみに男爵領の税率は5公5民。極端な重税では無くむしろ安い。
これは伯爵領に仕える従属領主だからで、軍隊を自前で整備する負担が軽い為である。
治安維持用の部隊は必要だけど、独立領主みたいな対外用の大規模部隊を整えなくても良いのは大助かりだ。
軍隊は生産に寄与せず、領地の財源を食い潰す金食い虫なのである。
「渇水対策に石畳の補修。ああ、これはお嬢様に相談すべきことなのかニャ」
「ん?」
「隣人トラブルとかですニャ」
執務室の机から顔を上げたアラティーに、家令のカニンガムは頭のネコミミをびくびく揺らしながら済まなそうに言った。
「隣家の鶏が朝、煩く鳴くので御領主様の仲裁で何とかして欲しいとか。息子の性癖が変なので、サッキュバスであるお嬢様に見て欲しいとかですニャよ」
羽根ペンを置くと、丁度、仕事も一段落になったので部屋の隅にある置き時計を見る。
時間は午後五時。まだ明るいが、そろそろ休んでも構わないだろう。
「今日の執務はこの辺にしましょう。その陳情は明日と言う事で」
正式に次期男爵として認可された際、こうした仕事にアラティーが携わる事となった。
後継者だから領主の仕事に慣れさせるのが名目だが、もしかして役所の経費を節約しているのではないかと、時々、疑う事もある。
「今から現場に行っても、夜になってしまいますニャ」
「そうね。一週間貰えた休暇も、残り三日。何とかその間に解決したい物だけど」
エルダの一週間は六日であるが、既に三日を消化してしまっていた。
四日後には領都へ戻り、再び公娼の任務に戻らなければならない。
「ニャニャ、陳情を解決しつつ、暫く、羽を伸ばしては……」
「やっぱり働き過ぎと思うの。カニンガム」
「ニャ」
ネコ耳族の家令は肯定した。
男爵家の家令なんかやってるから、この男も貴族階級である士族である。
「男爵様も私も、元来、政治的な事が苦手なので、お嬢様のお仕事ぶりには大変助かっておりますニャ。しかし……自分から見ても、お嬢様は頑張り過ぎですニャ」
士族だから騎士なんかと階級は同じだが、剣なんかを佩刀している事も無いから、事務畑一筋だと思っていたが、昔は母の部下として船に乗り、斬り込み隊を指揮していたと聞いた時は眉に唾を付けて聞いていたものだ。
「トリンシスにも言われましたわ。それ」
アラティーが生まれてこの方、カニンガムが船に乗っているのを見た事は無く、ずっと家令として家を取り仕切っている印象しか無い。
「さすが幼馴染み、助祭様は分かっておられますニャア」
「でも、オーバーワークとか、わたくしはちっとも気にしてませんのよ」
実際〝こんな仕事もう嫌だ〟とか、〝放り出して遊びたーい〟なんかの気分にはならない。
面倒臭いがやり甲斐はあるし、達成した後に皆の笑顔を見るのが嬉しい。
これはサッキュバスが〝殿方が自分の身体で気持ち良くなり、たまらず美味しい精が吐き出されて食欲を満たすと同時に、最高の快楽を得た相手の姿を見るのが至福の瞬間〟と語るのに通じる思いであった。
「わたくしは貴族。領民の皆様を束ね、庇護するのが役目ですから、弱音なんて吐いてはられませんわ」
「しかし、根を張り詰めすぎるのも問題ですニャ」
その言葉に『仕事が趣味になってしまったのかしら』と反省する。
周りを心配させるのも、良きリーダーでは無いのである。
「お母様はいつ戻って来るのかしら」
ふと思い出し、本来の領主である女男爵の予定を尋ねる。
減税の交渉にエロエロンナ伯爵家、つまり領都へ赴いていた筈だが、帰還すれば仕事を全て引き継げるからだ。
「一週間以内には。恐らく、お嬢様の休暇期間中には再会出来ますニャ」
「上納が麦ではなくて、現金だったら苦労しないのに」
アラティーは嘆くが、昔からトリィの上納産物は小麦と決まっている。
付近で小麦が採れなかった頃の名残で、唯一、近所で麦を生産していたトリィは軍の糧秣として小麦を上納する事に決められていたからだ、
近年続く凶作では必要量が確保出来ず、代わりに唸る程の黒字が出ている竹が生み出す金銭で支払えないかと、毎年、領都参りするのが恒例になってしまっている。
「外国から安い麦を買って、そいつを横流しするのは罪だしねぇ」
「それが出来れば、苦労はしませんニャ」
それが一番簡単なのだが、色々と面倒らしい。
昔、そうやって税を払っていた貴族の麦に、外国から魔法で工作がされてて大問題になった。
第二次マーダー大戦の頃、あるワードを唱えると一晩で腐る麦が前線に出回り、糧秣が全滅した前線の王国軍が壊滅した。
幸い、壊滅した部隊は小規模な物であったので、全体的な影響はさほどでもなかったのだが、以来、王国は出所がはっきりした国内産の麦しか、信用しなくなったからだ。
「食料が供給出来れば、小麦以外でもいいんだけど……」
芋でも椰子でも、モロコシでもだ。
が、保守層に反発を受けてる現在、それが至難の業であった。
魔竹を植えた時みたいに領主による勅命で、強制的に作付けするという最終手段はあるが、温和な母は好むまい。
「まぁ、最悪、お母様に会えなくても仕方ないわね」
「きっと会えますニャ」
「あ、心配しないでカニンガム。お母様とは領都でちょくちょく会ってるから」
何だかんだ言っても、トリィはエロエロンナの近郊にある。
その気になれば歩いて行ける距離だから、淫魔学校時代も母とは理由を付けてしばしば面会をしていた。
一応、周囲には身分は伏せていたが、在学中は貴族っぽい淫魔として話題になっていたし、公娼となった今でも、大っぴらに貴族でございとは宣伝していない。
「お嬢様。そろそろお食事の時間ですニャ」
「え、お腹空いてませんわよ」
カニンガムが告げるが、アラティーには空腹感は無い。
いつも公娼で充分すぎる程の精液を得ているから、体内に蓄積した魔素も何も口にせずとも、一年分は貯まっていた。
にしても、初日に続いて二回目のお食事タイム。
「必要有りませんわ。と、言いたい所ですけど……はぁ」
拒否するのは簡単だが、領民が自分の為に用意してくれた折角のご馳走である。
一滴たりとも無駄にするのは気が引けるし、皆の好意を無駄にするのも心が痛む。何より、皆はアラティーに食べて貰いたいのだ。
最高の性的快楽をもたらすサッキュバスであり、しかも雲の上の身分のお嬢様と交合(まぐ)わえられるのである。
「待っているのですね」
「ニャ」
自分の食事の為に、希望者が殺到して籤引きになると言うのも嘘では無い。
ならば、『領民のそれに応えてやるのも貴族の仕事』と腹をくくり、「ドレスを着替えた方が良いのかしら?」と意見を求める。
サッキュバスルックの方が伝統的と言うか、皆が想い描く典型的なサッキュバスの姿であるからだ。
「そっちの方が、受けが良いですニャ」
「了解。人数は?」
「十人ですニャ。二日後にも同人数が……」
「二日毎に十人ずつ、前と併せて合計三十人と相手するのね。太りそう」
娼妓艦に務めている淫魔からは文句が出そうだけど、今は魔素を精液に還元して出せないから、貯めるしか無い。多分、贅肉が付く。
オナニーして不要な精液を自家発電すれば良いのだが、アラティーは無為無策に精液を無駄撃ちするのを好まなかった。
再び生体魔法【瞬装】で黒いサッキュバスルックに早着替えを行うと、アラティーは領民の待つ食堂へと向かったのだった。
◆ ◆ ◆
「かなり酷いわね」
翌日、訴えのあった街道で検分を行うアラティー。
街道はトリィの街のど真ん中で、本街道と支街道に分岐しているのだが、石畳の破損状況は支街道の方が問題だった。
「支街道の方が、元々、貧弱な造りでしたけど、これでは」
「分かりましたわ。職人を手配しましょう」
西から延び、トリィを経由して領都まで延びる本街道は荷馬車が行き来する、重要な交通路である。対して本街道から分岐して、北へと向かう支街道は舗装も貧弱で、幅も本街道よりずっど狭い。
交通量も、ひっきりなしに人影の絶えない本街道の半分にも満たない。
それが荒れていた。
石畳が凸凹にうねり、掘り返された様に穴が開いた箇所もある。
破損した石畳を検分して、蓄えていた資金を工面すべきと結論付けたアラティーは明日、石畳を補修する石工を屋敷に呼ぶ手筈を整える。
民から集めた税金の全ては、貴族の懐には入らず、税収はこうした緊急の公共事業費にも消費されるので、なるべく貯めておくのが常識になっている。
不慮に備えて資金は幾らか手元に用意しておかないと、いざ災害が発生した際に領地が荒廃するに任せる羽目に陥るからだ。
「うぷっ」
「大丈夫ですか、お嬢様」
随行している若い役人、ガルスが慌てて駆け寄る。
「へーき、平気。お腹が一寸張ってるだけで……すわ」
レオタード状の黒いサッキュバスルックに身を包んだ淫魔は、苦笑いと共にぽこんと膨張したお腹を擦った。
昨日、搾精したザーメンを全てお腹に収めている為である。
普通、腹に収めた精液は全て吸精それて引っ込むのであるが、太るのを危惧した彼女はワザと吸精速度を下げて、お腹に停滞させたままにしていた。
「苦しそうですが」
「うん、思わずザーメンげろ吐きそうになったけど、平気ですわ」
ヴァギナ以外に口とアナルを使って搾精するから当たり前なのだが、淫魔は子宮のみならず、胃や腸も精液タンクになる(尻尾は作成した精液をこれらの何処かへ直結するので、それ自身は精液を溜める事はない)。
「中々減らないわねぇ。吸精って気が付かなかったけど、かなり凄いんですわね」
「そうなんですか」
「最大速度で吸えば、この妊婦みたいな腹が一時間もしない内に引っ込みますのよ」
目を丸くして驚く青年役人のガルスを尻目に、アラティーは苦笑する。
非淫魔にとって、淫魔の生態は理解されがたいのだろう。
しかし、腹にザーメンを貯めているのが〝贅肉を付けたくないから〟は、既にボテ腹状態を晒しているのに変じゃないか、と矛盾してないかと訝られる向きも多かろう。
違うのだ。
一時的に体型がボテ腹になるのと、贅肉が付いて何時までも隊形が崩れるのはと、サッキュバスにとって天地の違いがあるのである。
一旦贅肉が付いたら、元の体型に戻るのが時間が掛かるのである。に対し、一時的にボテ腹になったとしても搾精時に良くなる形態だから、淫魔的には恥ずかしくないし、どちらかと言えば可愛い姿として認識されるのである。
「このサッキュバスルック自体、お腹が膨らむのを前提に縫製されたデザインですのよ」
「昨日から着たままですね」
お嬢様は「この姿では、ドレスはどれも規格外ですもの」と腹をさすりながら告げる。
伸縮性を持つ魔糸を使用してない普通の服地では、無理して着てもお腹が収まらず、弾けてしまうだろう。
「辛いですか」
「数日の我慢ですわ。明日のお食事会でまた、搾精しなきゃですけどね」
領都に帰還すれば、後輩達の給食用に貯まった精を吐き出せる。
それまでの我慢だった。但し、その前にあと十人前を搾るから、今のお腹が倍近く大きくなるのだけども。
「そこまで民衆に迎合する事は……」
「ガルス・ゼイラム」
「はっ!」
突然、フルネームを呼ばれ、若い役人は直立不動になった。
彼はトリィ男爵領に従属する騎士の息子であり、実家は狭いながらも自分の土地を持っている。
「貴方が士族位になれば、お父様の土地を譲られるのでしょうね」
「恐らく。士族になれれば、ですが」
士族は貴族であるが、爵位持ちではないので子孫に継承権は無く、一代限りの称号である。
エルダ世界で土地を所有可能なのは貴族以上の特権で、その他は地主(貴族)から土地を貸与される小作人となる。
土地をもった者は狭くても領主となり、自分で土地を耕すか、小作人に土地を貸与してそこからの挙げた収入で生活を立てて行く。
しかし、例え後継者が生まれたとしても、世襲ではないのでその者が士族以上の身分にならないと、その代が没すると土地は国に取り上げられてしまう。
「宛てはありますの」
「士族申請はしております」
だから、士族の子女はこのガルスの様に、先代と同じ士族身分となって土地を継ごうとする。
多額の金を出して士族の地位を買う方法と、勉学や武芸に励み、国軍の一員として騎士学校や海軍士官学校、または魔法アカデミーに入学して士族資格を獲得する方法。
冒険や戦などで名声を高め、国から貴族に叙勲される手もあるが、これは狙って獲得するには困難なケースなので一般的では無いものの、その手で国王になった奴も居るので、一概に夢物語とは言えない。
「じゃあ、領主となった時に心得ておきなさい。貴族はその存在が偉いのではありませんわ」
淫魔の少女が真剣な目力で、ガルスの視線を貫いた。
セクシーに各所が露出し、肌が見えるレオタードのぱっこりとしたお腹をさすりながら、サッキュバスは続けた。
「貴族とは皆の上に立つ司令塔なのです。軍で言えばより良き道を探り、策を与え、指揮を執る将軍や提督ですわ。
でも、軍は司令官だけでは機能しませんの。どうしても直接戦う兵士が……。この場合、小作の領民があって機能しますのよ」
が、そこで彼女は「陣頭指揮を執るテラ・アキツシマみたいな古代の英雄とか、敵艦に移乗して大活躍したビッチ・ビッチンみたいな大提督なんかは別ですわよ」と述べる。
大将なのに個人でも桁外れに強いなんて、あれは次元を越えているから、例外中の例外だろう。
「無論、指揮官は時には非情とも言える判断を、部下に下さねばならぬ時があります」
「死守命令とかですか」
「それが典型例ですね。全体の為に個を斬り捨てるのです」
アラティーは同意する。
囮として敵を引きつけ、足留めの為に時として味方を見捨てる時もある。
この犠牲でそれ以上の効果を上げられるならば、躊躇なく死守命令を出すのが戦略だ。
敵が時間を浪費する間、より大きな効果が得られるならば、大を生かす為に小を殺す事も指揮官には要求されるからだ。
「間違えてはなりません。貴族とは民に生かして貰っているのです。それを忘れ、常に絶対者の様に振る舞ってはなりません。だから、わたくしはなるべく領民の希望に添いたいのです」
ぼんぼんとお腹を叩き、「領民が気持ち良くなって喜んでくれるなら、このお腹が倍に、いえ三倍に膨らむとしても、わたくしは一向に構いませんわ」と宣言した。
「自分を犠牲にしてまでも、民の忠誠を」
「領民の殿方がわたくしを慕い、性欲をぶつけて好意を持って仕えてくれるなら、幾らだってこの身体を差し出しても……。こんな方法しか思い付かないのですけれど」
自分がサッキュバスなのを最大限に利用した方法だった。
だが、なるべく民の意に沿って、好意を保ちながら統治するのは良い結果を生む。
強権的では無く、統治するのをこれから領主になるのなら、心に留め置いて欲しいと、アラティーは若き青年に諭したのだ。
◆ ◆ ◆
次に訴状を出した家は、典型的な田舎農家であった。
街道から離れた辺鄙な一軒家で、隣家まで数分掛かりそうな位置に建っている。
中心部からここまで、結構な運動量になる。
馬に乗るのも苦手と言う理由もあったが、お腹のザーメンを減らしたいので男爵令嬢は徒歩で移動している。
身体を動かしていれば体内の魔素も消費されるのだが、こんな程度では焼け石の水なのは理解しているのにも関わらず、塵も積もれば山だとして朝の体操を含めて敢えて行っているのだ。
「息子さんの相談でしたわね」
「領主代行が担当する仕事ですかね?」
日干し煉瓦の安手の建物を観察しながら、ガルスがぼやく。
アラティーは「相談に乗ってあげて不安が解消出来るなら、喜んでくれて足を伸ばした甲斐もあると言う物ですわ」と戒める。
サッキュバスだからこそ、相談に乗って欲しいとの訴えは何処か切実さを感じてしまったのだ。
「しかし、そうだとすれば、性関係の相談でしょうか」
「淫魔はそっち方面の専門家だと思われてますから」
昨日、トリンシスに相談されたのを思い出す。
トリンは助祭として、街に初等学校の学校の教師も担当しているのだが、最近、子供達の間に、淫夢が流行っているとの話だ。
学校と言っても仕事が終わった夜間、ほんの数時間だけ開かれる教室に過ぎず、農家の子供の多さから、やって来る人数も多くないし、内容も読み書きと、加減だけの算数が主体である。
これすら身に付いてない人間が多いのが、文盲だらけの王国の悩みであるが、聖教会の行う奉仕の一環みたいな物で、無論、基本的に無料だ。
「学校の生徒が淫夢を見た。それと関係してるのかしら」
初夏の日差しに噴き出る汗を抑えながら、アラティーは疑問を口に出した。
お嬢様の周囲には甘ったるい匂いが立ち込めているが、発汗に混じる催淫物質の濃度を低めに調整するのも、淫魔ならではの苦労である。
「どんな内容なんです?」
アラティーは暫く沈黙したが、やがて「夢精ね」とその内容を伝えた。
何でも夢の中に超絶美形が誘惑して来るらしく、そいつが学校の少年達を次々と毒牙にかけているらしい。
「少年……」
「何故か、女の子の方は被害なしナシですわ」
女性の方は淫夢を見てないと言う。
大抵、淫夢は男女両方に作用して、等しく淫らで性的快感をもたらす物なのであるが、今度の淫夢は少年限定らしい。
「しかも、相手が女性形じゃ無いのも特徴ですわ」
「美形って、そう言う意味ですか!」
ガルスは思わず叫んだ。
いや、てっきり目の前のお嬢様みたいな美女が、「あはーん」だの「うふーん」とかの甘ったるい声を出して誘惑しているのかと想像していたのだが、予想の斜め上の事実だった。
「お待ちしていました。アラティー様」
「オドニエ・ジャタド。出迎えご苦労ですわ」
ジャタド家。農家で出迎えられる。
かなりの大きさの建物で壁や天井は竹炭で煤けており、細い通路を介して家畜小屋に繋がっているらしく、豚の鳴き声が響いている生活感溢れる造りである。
一家はヒト族で、一応は士族らしく、余所行きの格好をして帯剣している夫と質素だが目一杯着飾っている様な服装をした妻、そして、ぐずりそうな顔をした子供が立っている。
「息子さんと聞きましたが?」
「いえ、この子は長女です」
しきりに母親の袖を引っ張っている小さな子供が女の子なのを確認すると、アラティーは当事者の事を尋ねる。
「息子は奥で……」
奥さんの代わりに初老の旦那が答えると、ガルスが「熱でもあるのか」と訝しげに問うた。
夫妻は顔を見会わせる。
ひとり、女の子が「ねぇ、もういいでしょ。ねぇ」と駄々をこねている。
出迎えの為に整列されたのが、遊びたい盛りの子供に飽きてしまったのだろう。
「では奥に行っても構いませんの」
「は、こちらです」
主人が先頭に立って案内する。
後ろでは母親の「偉い人の前なんだよっ、いい加減おしっ」の言葉と、拳骨らしい鈍い音と一緒に女の子の泣き声が響いていたが、取りあえずアラティー達は見て見ぬ事にした。
ジャタドは士族だけあって、土地持ちの名主であった
戦時には男爵配下の騎士として、数人の従士を率いて馳せ参じる立場にある筈だが、この模様から見るに完璧に農民で、騎士としての腕はなまくらと化していそうだ。
名主だけあってかなりの富農らしく、建物は二階建てで、部屋もそれぞれ個人に当てられるだけの数があるのだろう。
「ここでございます」
案内された先は二階の突き当たり、子供部屋と思しき小部屋だった。
入った途端、淫魔にとって食欲のそそられるむせる程の精臭が広がった。
「ギルバっ!」
「こっ、これは」
「自慰、ですわねね」
目の前の寝台に五歳前後の男の娘が座り、一心不乱に自慰を繰り返している。
男の子ではなく、女性の服を着た男の娘である。
「ああーっ、シャルル様、シャルル様ぁーっ」
誰かの名であるらしき単語を一心不乱に叫び、スカートから突き出した逸物を猛烈にしごく男の娘の顔は、猛烈な快感で蕩けている。
「ギルバっ、おおっ、ギルバよ」
父親が息子に掛ける声は届いていない。
アラティーはギルバの目が、こちらの世界に向いていない事を確かめる。
『虹彩がハート型してますわね』
これは【魅了】の様な、強力な精神魔法によって支配されている証だった。とにかく自慰行為を中断させるのが先決とばかり、アラティーは咄嗟に手刀を首筋に振り下ろす。
「うぁっ」
決まった途端、ギルバの股間から精液が勢い良く飛び出すと同時に、少年がぐったりと気絶する。無事に気絶させてから、アラティーは父親を呼んで介抱を任せた。
「お嬢様」
「淫魔学校で習った素手格闘。役に立つ物ですわね」
お腹の大きな淫魔は「ふう」と安堵のため息を付いた。
指で飛び散った少年の精液をすくうと、ふんふんと臭いを嗅ぎぺろりと指先を舐める。
「うぇっ、な、なんですの」
途端にペッと吐き出す。
「味が、味がありませんわ!」
そう、物凄く不味いのだ。
匂いだけは精臭で美味しそうに感じるものの、実際のザーメンにはサッキュバスの味覚に訴える味が全くなく、ただの生臭いタンパク質の塊だったからだ。
〈続く〉
ガルスとか新キャラ登場。
でも、あくまでアラティーの恋人はトリンシスなのでした。
腹ボテでも頑張ってます。でも、あと二倍膨れる予定。