※この作品はR-18です。

エロエロナ物語 -エロエロンナ物語R18編-   作:ないしのかみ

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連載四回目です。
前よりはエロ度が上がったかな。

今回も領地視察編ですね。男爵領の色々な風景をお楽しみの下さい(笑)。


帰郷 -サッキュバスの館5- その4

-サッキュバスの館5- その4

 

              ◆       ◆       ◆

 

 気絶させたギルバを領主館へ運ぶ事を指示し、アラティーはジャタド夫妻と話し合う。

 相談は〝息子が淫夢にうなされている〟事と、〝女物の服を着たがる事〟に関しての相談であったのだが、今朝までオナニーする程、猛烈な自慰行為をするまでの症状は無かったらしい。

 

「姫様、何とかならないのでしょうか」

 

 母親がすがりつく様な目で訴えかけて来る。

 

「一応、館の主治医に診せますわ。でも、【解呪】が出来るかは……」

 

 エルダの医者は大抵魔法医である。

 無論、物理的、薬学的に患者を治療する技もあるにはあるが、魔法技術が発達しているこの世界では、そのウエイトはどうしても魔法寄りにならざる得ない。

 医療魔法。

 主に【聖句】と呼ばれる種類だが、その効果は大変素晴らしく、優秀な使い手に掛かれば、大きな外傷でも傷をも残さず完治させる程である。

 が、それ故に魔法は術者の腕に左右される個人技であり、稀少価値から、医療とは大変な金が掛かる物になってしまっていた。

 

 男爵家は貴族だけあって、その医者を召し抱えている。

 しかし、その腕はと言えば〝決して悪くは無いが、良くも無い〟並レベルであり、専属でも無く、町医者の副業であった。

 実際、その女医はトリィに居を構える田舎町唯一の医者なのである。

 

「宜しくお願いします。お嬢様」

「ほら、マチュアも姫様にお頼み申しあげなさい」

「お兄ちゃんを助けて、姫様」

 

 母親に促された妹のマチュア・ジャタドが、幼い口で言葉を紡ぐ。

 姫様と言われるのは、男爵家の娘ゆえの俗称だ。自領の中では領主貴族女子は、大抵、領民から姫と呼ばれるのが慣例だし、中には敢えて領民にそう呼ばせている貴族もいるらしい。

 

『自分が姫と呼ばれるのは、良いのでしょうか?』

 

 返礼としてマチュアの頭を擦りながら、淫魔のお嬢様は複雑な気持ちで一杯だった。

 それでも自分の役目、領主代理としての任を果たすべく、夫妻に質問をぶつけて行く。

 

「淫夢はいつから見る様に」

「一週間程前です」

「彼が口走っていた。シャルル様と言う名に心当たりは」

 

 主人のオドニエは首を捻っていたが、何かに気が付いたらしく、はっとして「心当たりは、あるにはあるのですが……」と切り出した。

 かなり以前の話と前置きすると、昔もそんな名の士族が居たのを話し出した。

 

「シャルル・ゲハと言う男です」

「聞いた事無いわね」

 

 領主代理になった役目上、自領の有力者の大半を記憶している筈なのだが、アラティーに思い当たる人物は浮かんで来ない。

 

「うちに属する士族階級だったら、多分、全員空で言えますのに」

「お嬢様。シャルルはかなり昔にお家断絶になったからです」

 

 オドニエが指摘すると、ガルスが「そうか」と思い出したかの様に手を打つ。

 

「反乱士族の一人ですよ。継承騒動の」

「継承騒動。ああ」

 

 アラティーがエロエロンナに連行後、男爵領を巡る政争だ。

 淫魔の娘を廃嫡し、女男爵の夫となって男爵領を我が物にせんとの工作が、裏側で密かに行われて行われていたのだ。

 その首謀者がシャルルであった。

 

「そこらは余り良く知らないのです」

「御領主様は姫様に、あの事件を詳しく教えてないのですか?」

 

 アラティーは頷く。

 概要だけは知っているが、母は継承騒動の中身を詳しく教えてくれなかった。

 裏に隣の大国、マーダー帝国の影がちらついていたらしく、王国は秘密諜報部隊『闇』まで投入して、一連の事件に決着を付けたと聞いているのだが、晴れて正式な次期領主後継者となった(グラン王国の王室が推したと言う)、アラティーの心労も考えて事件の詳細は秘匿されたらしい。

 

『もっとも、何か別の原因があるに違いありませんわね』

 

 軍事機密か、それとも王国にとって触れて欲しくない何かか。

 いずれにせよ『闇』まで出ばって来たのだから、大事件である。

 多分、マーダー帝国との間に外交的な何かがあったに相違ない。

 

「とにかく、シャルルに関しては調べてみる事にしますわ」

 

 アラティーは城館に母親が付き添う様に指示すると、ジャタド邸を離れた。

 

              ◆       ◆       ◆

 

 陳情は終わっていない。

 ギルバの事は気にはなるが昏倒しているし、館の主治医に任せるしか無かった。

 でも一人に構って時間を浪費する訳にも行かず、淫魔な男爵令嬢一行は次の陳情先に出向いていた。

 

「養鶏場ですわね」

「かなり儲かるそうですよ」

 

 大地を走り回る鶏の群れ。柵に囲まれてダヨー種の大型鶏が餌を啄んでいた。

 そこは最近、盛んになって来た養鶏農家だ。

 

「これが税として、小麦代わりに領都に納められればいいのに」

「軍の糧秣にはなりませんよ」

 

 鶏卵は実際、かなりに収入になるが、如何せん〝なまもの〟なので長期保存に向かず、ガルスの言う通り、軍の糧秣が対象の上納産物になり得ないのである。

 しかし、そうだとしても、ほんの数キロ先に領都エロエロンナと言う大消費地が存在する為に、トリィの養鶏は大発展を遂げていた。

 

 若者が畑を耕すのを止めて、養鶏へ転換してしまうのもアラティーの悩みの種であるが、こっちの方が儲かるのだから止めさせる訳にも行かない。

 卵のみならず、鶏肉の出荷も順調で富農が増えて喜ばしいが、一方で問題も増えて来ていた。

 

「朝が煩いんです」

 

 陳情した領民は、養鶏場の隣家だった。

 名をバルジャンと言うらしい。先のジャタドと違って土地を所有しない(出来ない)、典型的な小作人だった。

 

 アラティーは隣の敷地である、件の養鶏場を観察する。

 田舎の養鶏は鶏舎飼いでは無く、放し飼いが基本だ。

 鶏舎に閉じ込める飼い方もあるが、土地もあるし、建物を建てる資金が勿体ないので大地に放り出して飼育している。

 敷地内に雨避けのバラックはあるけど、屋根はあっても壁は無く、防音なんかに一切気を遣っていないから、鶏の鳴き声は周囲に響き渡る。

 

「何とかして下さい」

 

 昼間はまだ我慢出来るが、朝、一番に夜明けを告げる大合唱に、相手が士族と言う身分差はあっても隣の奴を殺してやろうかとまでの殺意を抱いてしまうらしい。

 

「トリィ殺人事件は困りますわね」

「それと、井戸の水位が減っていまして、姫様の魔法で何とかなりませんか」

「ここも渇水ですの」

 

 この後、貯水池を見学する予定だったのだが、改めて渇水問題の大きさに驚愕する。

 日照り続きで表層の水が干上がっているのは知っていたが、地下水にも深刻な問題が発生している様だ。

 

「魔法ですか、確かお嬢様も魔法が使えるのでしたね」

「風よ、我が意に添え。【送風】!」

 

 呪文を唱えたアラティーは「見ての通り、風属性の魔法ですわ」と、起こした風に掻き上げられた髪を整えながら苦笑する。

 

「おおっ」

「風を操れるだけですわ。資格は六級」

 

 魔法を発動可能だがコントロールが利かなかったり、かろうじて魔法を発生させるだけの児戯に等しい七級に比べ、六級は何とか〝魔導士〟を名乗れる最低クラスだ。

 

「一時は海軍士官目指してましたからね。でも、水魔法を選択しておけばと後悔してますの」

「ああ、風魔法は帆船の操帆に不可欠ですからね」

 

 淫魔学校時代に習得した魔法であるが、今、皆が喉から手が出る程渇望している、水を発生させる水属性の魔法では無い。

 水魔法も素質はあったから、今から勉強すれば魔導士クラスになれるかも知れないが、忙しい公娼生活で学習時間を確保するのは難しく、未だ手が付けられぬままだ。

 この能力のお陰で親友のタンハーからは海軍士官に誘われて、一時はその方面へと進む気が満々だったのだが、領主後継者としてアラティーが正式に認定された為、拘束10年なのは魅力的なものの、故郷から遠くに離れるのを嫌って、結局、アラティーは公娼に就いている。

 

 タンハー曰く、「勿体ないよ。その魔法があれば海軍は大助かりなのに」だそうだ。

 が、何かあったら即日トリィに帰れる公娼と違い、下手すれば外国勤務になる海軍生活をアラティーは拒絶したのだった。

 

「あ、一時的にですけれど」

 

 ふと思い付いたボテ腹男爵令嬢が、何か別の呪文を唱える。

 途端に、周囲の空間から響いていた音が一切消える。

 

「姫様、凄い!」

 

 バルジャンの言葉には驚嘆が混じっている。

 しかし、アラティーは「【沈黙】の魔法ですわ」と説明するものの、周囲を無音にするこの魔法効果は、六級の自分の力では永続しない事を告げた。

 

「ほら、もう効果が切れましたわ」

「こッ、これを永続させる事は出来ないんですか。

 これさえあれば、もう隣の騒音対策はばっちりなのに!」

 

 アラティーは首を振る。

 実際は三級魔導士以上なら可能だろう。が、それら掛かる費用が高額になるのは目に見えている。三級ともなれば超一流の魔導士。到底、男爵領の予算では賄い切れない。

 がっくりと肩を落とすバルジャンに、ガルスは井戸の案内を頼んだ。

 

「ここでさぁ」

 

 石の囲いで組まれた井戸は一般的は釣り瓶式だった。

 最近では手押しポンプも普及しているが、昔ながらの井戸であるのを幸い、上から水面が覗けるので確認が楽であった。

 

「光よ。【幻光】」

 

 少し遅れたアラティーが無属性魔法の魔法光を唱えると、暗闇に沈んでいた井戸の内部が青白い魔光に照らし出される。

 黄色っぼい砂岩質の壁面の遥か下に、煌めく水面がかろうじて確認出来る。

 

「確かに水位が下がってますね」

「まだ汲めるけど、将来的に危険な水位ですわ」

 

 渇水も年々酷くなっている。

 アラティーは構想だけは抱いていたが、今まで躊躇していた計画を実行すべきなのかもとの決意を固める。

 井戸の視察終了後、バルジャンに隣家の養鶏農家を訪ねてみると告げ、そのまま養鶏場を横断してセドリック家に辿り着く。

 ノーザン・セドリックはジャタド家と同じ士族で、やはり、十数の小作家をまとめ上げる荘園持ちの名主である。

 

「おっ、姫様」

「アラティー様が視察に訪れたぞ」

 

 一寸した騒動が起こる。

 事前に招待を受けた先の二家と違い、こちらは抜き打ちの形で訪問したからで、主人一同、慌ただしく迎えに出来た。

 養鶏場の件での苦情申し立てを述べると、土小人(ドワーフ)の温厚そうな名主、ノーザンのこめかみがびくびくと痙攣した。そして「シーマの奴ですな」と怒りを浮かべる。

 

「シーマって、隣の名主ですわね」

「荘園が隣なので、昔からライバル関係でしたが」

「土地を巡って争ってましたわよね」

 

 小声でガルスと会話するアラティー。

 さて困った。

 領主から従属している士族に与えられる知行を荘園と言うが、こうした荘園同士を巡る小競り合い多く、時には裁定として上位領主が介入する。

 だが、アラティーはあくまでも領主の代行だし、セドリック家もシーマ家も男爵家にとっては配下なので、どっちか一方に肩入れする訳には行かないのである。

 

「あー、それと渇水問題ですわ」

「うむっ、加えてノーザン・セドリックに尋ねたき件がある」

 

 矛先をかわす為に、そしてガルスが気になる話題を付け足した。

 前に話題にしていたシャルルの事である。セドリック家は継承闘争以前の事を覚えているのか、無駄かも知れないが、探りは入れておくべきかと判断したのだ。

 

「シャルルですか、確か姫様の継承に一番反対していた男でありますな」

「まぁ、わたくしは当時四歳ですしね」

 

 確かに大きくなる前に処理しておいた方が、後々の問題も少ないだろう。

 聞けば、シャルルは十数年前に男爵領へ入植した男であったと言う。

 始めは平民だったが、シャルルはある士族家の婿養子となり、やがて自前で身分を整えて、先代の知行を継いだと言う。

 

「シャルルは身分を買ったのか」

「ガルスと同じですわね。うち、空いてないけど」

 

 爵位貴族には平民を士族に任命出来る権利がある。

 無論、無制限では無く、爵位の高さで人数は制限されており、男爵家は五十人。子爵家は二百人などとの規定があるが、これは叙任以外にも身分が欲しい人間に対する売買対象となっている。

 アラティーの所でも功績があった者に士族を与えているが、もう、残された枠はない。

 

「だから国に申請してますが、中々、許可が下りません」

 

 成人を迎えたばかりのあどけない役人は、少々苛立った声で言う。

 領地を有する貴族以外に、士族身分を得るのに国に直接申請も出せるのだが、申請の許可が下りるのに時間が掛かる上に、相対的に高価なのである。

 

 まぁ、無闇やたらにぽんぽん任命すると価値が下がる側面もあるのだろう。

 実際、滅んだ某国なんかは、士族どころか男爵クラスの下級貴族を次々金銭で売買して、貴族インフレで国が滅亡したとの事例すらあるから、ある程度、ステータスを維持するのも分からなくはない。

 が、士族身分の値段が、今の相場で一寸した荘園クラスなのは高いなと思ってしまう。

 

「お金持ちですわね。でも、その資金って一体、何処から?」

「それが、当時は全く分からなかったんでさ」

 

 ノーザンの説明によるとシャルルは吟遊詩人の様な男で、当初、流れ者としてこのトリィにやって来たらしい。

 トリィの町、唯一の酒場に逗留して、その美貌と美声を武器に住人を魅了したと言う。

 

 元々、トリィは出城的に領都を守るべき場所に設けられた砦が前身である。

 ポワン河西岸で街道と支街道が分岐する場所に、防壁と小さな砦が建てられ、やがてそこを中心に村が発達し、町となった経緯がある。

 だから、商業的に町としての旨味が少ない。

 

 街道沿いにはあるが、わずか数キロ先に領都があるのだから、宿場町としても発展しなかったし、娯楽なんてのも領都へ足を伸ばせば、良質なのが事足りるから流行らない。

 町に酒場(兼宿屋)が、たったの一軒だったのもその為である。

 地元民相手に細々と営業していたそこへ、スター的に現れたシャルルはたちまち町の人気者になった。

 

「まぁ、シャルルは確かに稼いでやしたけど、田舎町のおひねり程度で士族位が買えるかと言えば……」

「無理だな」

 

 ばっさり一刀両断するのはガルス。

 たまに功績を挙げて、国や領主から士族位に任じられる者だって存在するが、そんなケースは宝くじの特等を引き当てる程度の幸運だ。

 さっきも述べた通り士族位の叙任には多額の金が必要で、吟遊詩人の稼ぎでは余程の事がない限り、まず専業であるとすれば無理だろう。

 

「一応、本人は冒険者(クエスター)として稼いだと言ってましたが、それだけの腕利きだったと言うんでしょうかねぇ」

「まぁ、一流のクエスターなら分からんでもありませんが」

「ですわね」

 

 強大な魔物を狩る専門の一流冒険者なら、難しいが手が届かない目標ではない。

 もっとも相手はドラゴン(竜)とまでは行かなくとも、オーガ(鬼人)とかスキュラみたいなレベルの危険なモンスターになるだろう。

 ゴブリンみたいな子鬼族相手の並の連中では、十年以上掛かっても達成出来まい。

 

「しかし、当時はそれで納得した奴らも多かったんでさ。

 何せ奴は口車が達者でしたから、皆言いくるめられてしまいやした」

「確かに、吟遊詩人としての才はありそうですわね」

 

 その口の上手さでたちまち人気となり、幾人ものパトロンとも言える人達を得た。

 その中で彼に熱を上げていた老婦人に取り入り、士族家の婿養子になった。

 老婦人、ゲハ家の彼女は家を継ぐ者を欲していたと言う。

 老い先短い自分の家を誰かが継承しないと、折角の荘園も断絶した判定されて、男爵家に封土を返納しなければならぬからだ。

 

「そこを上手く突いたのか、或いは手練手管で騙したのか、彼は後釜として認知され、老婦人はそれから間もなく世を去り、封土はシャルルが継ぐ事になります」

 

              ◆       ◆       ◆

 

 渇水の方は状況的にバルジャン家の物と大同小異であったが、養鶏がメインになっている為に畑作に使う程まで深刻な問題になっていなかった。

 ノーザン曰く、「そう言えば、最近、水位が減りやしたね」位の反応だ。

 これが麦畑をやっていたら、日照りに備えて散水するだけに危機感はこんな物では済まないのだが、鶏に水を与えているだけならば、こんな物なのだろう。

 飼料も外から運ばれてくるから、気にしなくても構わない事も大きい。

 

「見事に涸れてますね」

 

 最後に視察した貯水池は干上がっていた。

 昔はこの池から流れ出る小川で、釣りをしていたのを思い出し、煽情的な姿の領主代行は余りの変わり様に途方に暮れる。

 

「エビとか採れたのですよ」

「想像も付きませんが」

 

 かつての池底には、クラック状のひびが無数に走っていた。

 これがあると言う事は、幾分、土に水気が残されている証だが、それも日照りがこれ以上続いたら、風化でクラックは消えて、全て平滑な乾いた地面へと変化して行くのだろう。

 

「一昔前はそうでしたのよ」

「お嬢様がトリィを離れる前ですか、私は物心付いた時にはエビはおろか、小魚すら生息しているのかも怪しい池になっていましたが」

 

 かつての池の底に降りたアラティーは、やや湿り気の残る土を触って嘆息した。

 貯水池の周囲に生えていた青々と茂った草は消え、黒いサッキュバスブーツがくっきりと体重の増えた足跡を残すが、かつて知りうる風景とは全く違ってしまっている。

 

『母様は、ここで採れたエビが好物でしたわね』

 

 アラティーが持ち帰った釣果を、母は家で料理して食べてくれたのを思い出す。

 サッキュバスである自分はザーメンが主食でエビを食べる必要は無いが、母の喜ぶ顔を見たくて頑張って釣りをした記憶がある。

 ぴちぴちと跳ね回り、透明で縞々の筋が入った手の長い小エビだった。

 

「行きましょう。恐らく地下水の流れが変わったのですわ」

 

 暫く歩き回り、周囲の観察を済ませた淫魔のお嬢様がそう結論付けると、そのまま領主館へと取って返す。

 町の中心部、広場に面して建てられている領主館は簡素な城館で、城としての機能は余りなく、役所と住居がメインの建物である。

 

 今は西の街門となっているのが本来の城だが、城と言う奴は住居としてよりも、軍事施設の機能の方が優先されるので余り快適とは言い難い。

 防御の為に窓は小さくて狭く、夏は暑く、冬は寒いのが当たり前で、その構造から陽の光もろくに入らず、室内は暗くカビ臭い、不快で殺風景な場所だからだ。

 だから、母である女男爵はアラティーを生んだのを機に生活用の城館を立てたのだ。

 質実剛健な石造の二階建て、贅も凝らさず華美ではないが、明るく快適な居住空間。それは子供を〝あんな劣悪な環境で育てたくない〟と言う思いだったのに相違ない。

 

『だから、わたくしは城の方で育った記憶がありませんわ』

 

 城館へと行く道すがら、姿を見掛けた領民が「姫様」と声を掛けくれるのに手を振ったり返事をしながら、正門を守る衛士に「ご苦労様ですわ」と礼を述べて館へ入る。

 正面玄関に既に四人のメイドが左右に立ってくれている中、家令のカニンガムが「お帰りなさいませニャ」と出迎えてくれる。

 

「先にジャタド卿の子供を当家に送ったのだけど」

「ギルバ殿ですね。医師が見ておりますニャ」

 

 子供が応接室に収容されているのを確かめた時、アラティーはメイド達に取り付かれ、「沐浴の用意が出来ております」の声と共に浴室に連行されてしまった。

 断るのも何だし、実際、炎天下を歩いて来たのだから汗臭いからかもと納得して、そのままメイド達に服を脱がされ、なすがままに浴室の住人となる。

 

「湯加減は如何ですか?」

「丁度、良いですわ」

 

 浴室に同道したメイド達は、アラティーの身体を洗い、髪を漉いて結い上げた後、浴槽に沈んだアラティーを見守りながら、洗い場で待機している。

 水不足なのに、こんな贅沢して良いのだろうかとお嬢様の胸に罪悪感が走るが、入浴は好きなので温水に浸かる快感を堪能してしまう。

 

『トリンが〝余暇を楽しく過ごしてよ〟と言ってた事は、これだったのかも知れませんわね』

 

 アラティーは親友の言葉を反芻し、両手で湯をすくって顔を洗った。

 気持ち良かった。浴室に居るのも女性ばかりなので【魅了】効果が薄いのを見越して、体内に蓄積してある催淫物質を思い切り蒸散出来るのが有り難い。

 

 体液を含め、サッキュバスは生きた媚薬製造器だ。

 頭髪を洗うだけでも、抜けた髪の毛や頭垢(フケ)にも催淫物質が含まれているので、汗と共にこうして洗い流せる絶好の機会でもあった。

 

 特にこの浴室はアラティー専用として、母が領都の技師を呼んで淫魔専用に特別設計をしてくれたので、気兼ねなくリラックスが出来るのが嬉しかった。

 

「お待たせしましたわ」

 

 綺麗さっばりと身体を清めたアラティーは、新しいサッキュバスルックを纏って補佐役人の青年の元へ姿を現した。

 

「のぼせているのかと心配して、湯殿へ行く所でしたよ」

「その言葉は冗談だろうけど、殿方は危険なので近づかないで欲しいですわね」

 

 全体的に安く上げたと噂の城館の中で、あの浴室はもっとも予算を掛けた場所の一つであるのを説明する。

 あそこにはアラティーが出した催淫物質塗れの老廃物が充満しており、男性が知らずにうっかり近付くと、媚薬効果に侵されて命に関わるからだ。

 そこで特殊な魔道具によって浴室にそれらを室内に押し留め、徐々に無力化する機能が備わっているのだが、流石に入浴直後の状態では危険が大きすぎる。

 レズっ気があれば女性すら、淫気に蝕まれて痴態を曝してしまうからだ。

 

「……」

「近づかなければ平気ですわ。さて、ギルバですが目を覚ましたのでしょうか?」

 

 ガルスと会話しつつ、バックヤードを抜けて表へ出る。

 基本的に二階が男爵家の住居部分、一階が公職スペースなのだが、重さの関係で浴室と厨房は例外的に一階にあるからだ。

 応接室は当然、一階にある。必要なので応接室は複数あるが、単に応接室と言うのはその時に解放されている応接間の指す。

 ずっと一つの部屋を使い回すとメンテに問題が出るので、季節毎にローテーションを決めて順次、開放している部屋を入れ替えているのである。

 

              ◆       ◆       ◆

 

「あ……」

「姫様!」

 

 現在使用中の第三応接室、両開きの重い重厚な扉を開くとそこには付き添いのジャタドの奥方が座っていた。

 主治医の姿もあり、淫魔は彼女へ「何か分かりましたの?」と声を掛ける。

 

「精神系の魔法ですね。但し、私ではそれ以上は……」

「そう」

 

 東方系の顔立ちと服装をした主治医ヴァンドルディ・ナタクは、済まなそうに告げる。

 医療を司る魔法体系【聖句】は女性にしか使えないので、医者は必然的に女医になるのがエルダの常識である。

 

「私の腕では何者かが、この男の子に魔法的な力で干渉しているとだけしか」

「【淫夢】ですの」

「恐らく。強制的に射精をさせて魔素を根こそぎ奪っているみたいです」

 

 アラティーは彼が放精した精液が、全く味がなかったのに納得する。

 淫魔がザーメンに美味と感じる魔素が全く含まれていないのなら、不味いのも当然だった。

 

「【淫夢】ですか。コモン・サッキュバス(臣民種淫魔)が遺失した生体魔法。明らかにレベルが【魅了】とは違いますわ」

「いえ、姫様。【淫夢】自体は【魅了】と同じく、そんなに害はありません。問題なのは【搾精】に似た別種の未知な魔法が、同時に働いている事であると推測します」

 

 【搾精】はサッキュバスなら基本の生体魔法だ。

 接触した対象の性欲を増幅させ、身体に干渉して精子の製造量をブーストさせ、信じられない量の精液を射精させてしまう力だ。

 

「でも、ギルバには誰も触っていませんわよ」

「非接触で【搾精】する点。しかも、魔素を射精途中で抜き取る点が怖いのです」

「透明人間でも居るのでしょうか?」

 

 顔色の悪いヴァンドルディは、ガルスの戯れ言に首を振った。

 遠隔からの魔法効果だけでこれを成し遂げているのが、全く未知の現象であるからお手上げなのだと。対処法がまるで見当が付かないらしい。

 

「【解呪】は試みましたの?」

「五回程。しかし、全く歯が立ちません」

 

 自嘲気味に「落ちこぼれのやぶ医者ですから」と、悔しさを滲ませる。

 彼女は五級聖句使い。世間では何とか〝専門家〟を名乗れるレベルの町医者である。

 いわゆる並の医者だが、経済的に成り立たない小作人中心の田舎町に開業する医者なんか、余程の変人だろう。

 それなら〝奉仕の精神で村々に点在する、聖教会の聖職者にでも任せてしまった方が良い〟と考える医者も多く、結果として田舎町に赴任する医者は少ない。

 

 彼女も領主が何とか説得して男爵領に招いた経緯がある為、如何に腕不足でも、領主代行がそれを責められる立場ではないのだ。

 

「大分、消耗していますね。交替として領都から、腕の良い魔導士を呼びますか」

「有難うございます。でも【安眠】や【解呪】の魔法をやや多目に使っていますが、まだ平気です」

 

 ヴァンドルディはガルスに礼を述べるが、町一番の医者のプライドなのか、交替要員の派遣はやんわりと否定した。

 淫魔のお嬢様はガルスの物言いに「その言い草は失礼ですよ」と、若くて思慮のない事をたしなめた。自分では好意で交替を促したのだろうけど、それは〝貴様の腕では役に立たないから、もっと腕利きを呼んで貴様をお払い箱にする〟と、言っているのと同じ事だからである。

 ガルスはまだまだ若いから、もっと経験を重ねる必要がありそうだ。

 

「それに今からでは無理ですわね。帰還が何時になるかも分かりませんし」

 

 如何に日が長くなったとは言え、既に午後だと指摘してガルスの意見を却下する。

 実作業にどの程度時間が掛かるのか見当が付かないし、街道沿いとは言うものの、治安が悪化する日没後に送り出す訳にも行かない。

 それに資金面でも問題がある。魔導士の雇用費は概して高価なのである。

 

「ううっ、シャルル様っ!」

 

 突然の言葉にギルバの方を向くと、彼がスカートをたくし上げ、股間の肉棒を猛烈な勢いで扱きり出した所であった。

 着替えさせる間もなかったので、服装はアラティーが気絶させた時のまま、妹の服と思われし簡素なワンビース姿であるが、単に女装しただけで余り似合っていない。

 

「また発作ですね」

 

 ふらふらとヴァンドルディが立ち上がる。

 既に何度も魔法を使っている関係か、かなり消耗している様子で「安らかなる眠り……」と呪文を唱えている最中、ぐらりと倒れて昏倒してしまった。

 ガルスが慌てて抱き抱えると、ヴァンドルディの方が反対に寝息を立ててしまっていた。

 

「怪我はありませんの」

「大丈夫です。しかし、主治医殿が役に立たないとなると」

 

 やはり、無理はあった模様だ。

 ギルバの母が名を叫びながら息子の行為を阻止しているが、少年は妨害されても、なお「シャルル様」の名を、夢遊病者の様に繰り返すのを止めない。

 

「くっ、このままでは命に関わりますわ」

 

 アラティーは聖句を使えないから、【安眠】の魔法を使えないのだ。

 幸い、今作用している【搾精】のレベルは、アラティーのそれと比べると低位レベルらしいが、飛び散っている精液の量から判断するに、もう成人男子の数倍は発射している。

 五つの子供と言う条件から逆算して、生命力が死に至るデッドゾーン間近なのは間違いなかった。

 

「済みません、お母様。お子様の童貞を頂きますわね!」

「え、姫様」

 

 返事を待たず、領主代行は意を決すると黒いレオタードのクロツチ(股布)を脇に寄せ、ソファに座る少年の上にゆっくりと腰を下ろした。

 そそり立つギルバの男根が、見事に毛が見当たらぬパイパン恥丘にキスをして、淫靡な水音と共に縦筋が走る淫魔の膣に咥え込まれた。

 

「んっ、んっ、それっ、それ♪」

 

 自分の体重で少年を潰さない様に、少し腰を浮かせた体勢でサッキュバスのグラインドがギルバのペニスを攻め立てる。

 たまたち【魅了】と【搾精】の生体魔法が作用して、アラティーの魔力が未知のシャルルとやらの魔法に、横合いから割り込んでジャミングを開始する。

 

「お嬢様」

「わたくしの魔法で、向こうの魔法の影響を妨害しますわ」

 

 魔法による影響ならば、同種の魔法をぶつけて主導権を取り返す方法は淫魔学校で習っている。

 もっとも〝相手の力の方が強かったら危険〟とも教わっていて、おいそれと実行出来る手段ではないのだが、今のアラティーには迷っている時間はなかった。

 

「頑張って下さい」

「ええ、あんっ、あんっ♪」

 

 それを見守る事しか出来ないガルスの声援を背に受け、危険を承知で愛撫に力を込めた。

 

「シャ、シャルル……」

「貴方が今、奉仕する相手はわたくしです。シャルルとやらではありませんわ!」

 

 否定の言葉が響き、少年の言葉が止まる。

 荒い息を吐きながら、お嬢様は「シャルルとは何者です」と男の子へ問いかける。

 

「ぼくを……愛してくれる。女の子として」

「女の子として?」

 

 こうして繋がると、強い魔力がギルバの身体を占有しているのが判る。

 自分の【魅了】や【搾精】が妨害され、支配が上手く行っていないのだが、匙加減を間違えて直接、強大な魔力をただぶつけるだけでは、器である人間の心を壊してしまいかねない。

 よって細心の注意を払い、心の隙間から自分の影響力をじわじわと相手の支配領域に浸透させて行き、主導権をこちらに奪い返すのだが、それには膨大な魔力が消費される。

 

『そう言えば、ジャダト家で最初の相談内容は〝息子の性癖〟だった筈でしたわね』

 

 アラティーはセックスの傍ら、それをおろおろと見守っているギルバの母親に問うた。

 思った通り、母親から「息子に女装癖が発覚した」との話が出て来る。

 

「あんっ、それがシャルルとやらが見せた【淫夢】の影響なのかしら。あっ、あっ♪」

「可能性はありますが、過去の記録を調べて参ります」

 

 ガルスは一礼すると応接室から退出する。

 シャルルが関わった事件は男爵領ではタブー視されており、次期領主であるアラティーにすら詳細は知らないし、関わった人間も口を閉ざしている。

 アラティーは昔の記録を機密文書まで遡って調べる予定だったが、領主代行がこの状態ではとても記録まで手が回りそうもない。第一、今の作業に何時間必要なのかも見えていないのだ。

 敗北する気はさらさらないが、下手すると一晩掛かりになる可能性もあった。

 

「た、貯めて置いて良かったですわぁ」

 

 これは精液を溜め込んで、ボテ腹になった腹部の事である。

 魔力が消費されるにつれ、それを補填する為に、一旦、低減させていた吸精を再開したので、見る見る内に腹部が引っ込んで元の体型へと戻って行くのだった。

 子宮、そして胃や腸にとっぷりと蓄積されていたザーメンが吸収されて魔素へと姿を変えて行く中、アラティーはそうした食事行為に快感を感じてしまう。

 

「女の子になりたかったのですか」

「ううん。でも、ぼくは女の子の格好でシャルル様に愛されたかっただけなんだ」

 

 ややイニシアチブを取り戻しつつあるのを確信して、淫魔のお嬢様が探りを入れると、まだ覚醒していない様な感じながら、ギルバが質問に返答した。

 アラティーは『よしっ』と心中で快哉を叫んで、問い続ける。

 

「何故ですの?」

「シャルル様。シャルル様だけが、女の姿のぼくを認めてくれたから」

 

 熱にうなされる口調で少年は語る。

 ギルバの射精によって魔素が減少しているので、アラティーは【リバース】の生体魔法を発動させて、少年に生命力を補充しながら身体を支えて行く。

 

「女の子になりたい訳じゃないんだ。ぼくは可愛い格好をしたいだけなのに、父さんも母さんも妹のマチュアも、ぼくを否定するんだ!」

 

 そう叫んだ途端、ギルバの逸物から熱い白濁が飛び出してアラティーの膣を直撃する。

 凄い量だったが次期領主は子宮口をびっちりと閉じて、奥宮の扉を叩き付けるザーメンの波を受け流していた。

 ヴァギナから溢れ出る精液と共に少年は身体を震わせていたが、一分近く続いた射精の終了と同時に気絶する。

 

「ふうっ」

 

 お嬢様は意識を失ったギルバから、すっかり力を失った男性の象徴をずるりと退き抜く。

 栓となっていた逸物が抜けた秘裂からごぼりと音を立てながら、膣が飲まなかったどろどろの白濁が流れ出る。

 

「ひ、姫様、息子は」

「一応は【搾精】を停止させましたわ。それにしても不味いですわね」

 

 魔素が全く含まれないスペルマは、サッキュバスの糧にならない単なるタンパク質の塊で、無論、生命力も皆無なので女を孕ませる事だって出来ない、

 こんな残骸をアラティーは自分の子宮に入れる事を拒否した。それ所か、お腹を押して膣に残っている精液もどきを押し出して、局部をハンカチで一滴残らず拭って行く。

 しかし、サッキュバスにはヴァギナにも味覚はあるので大変不快であり、顔をしかめている。

 

「では、息子は助かりますのね」

 

 しかし、アラティーは「いいえ」と首を振る。

 母親が愕然としていると、領主代行のサッキュバスはギルバに毛布を掛けながら、まだ【搾精】を一時停止しただけだと説明し始めた。

 

「ザーメンに魔素が含まれていないと言う事は、シャルルの【搾精】機能がまだ生きているのですわ。つまり、わたくしは未だイニシアチブを取り戻してはいません」

 

 恥丘の全白濁を拭き取った後、細腕で片側へ寄せていたレオタードのクロッチを元に戻すと、ぐったりとした少年を見やり、アラティーは宣言する。

 

「これから、第二ラウンドに入りますわ」

 

 

〈続く〉




約13,200文字。
「平成」に間に合った。次の更新は「令和」になるんだろうな。

ボテ腹の予定が引っ込みました。ヴァンドルディ(CV、能登麻美子)にメルクルディ(CV、水橋かおり)と言う姉妹は存在するのか、それは不明です(笑)。
いや、キャラデザは全く違うけどさ。
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