エロエロナ物語 -エロエロンナ物語R18編- 作:ないしのかみ
エッチの頻度が下がるなぁ。
-サッキュバスの館5- その7
◆ ◆ ◆
「皆様、ありがとうございます」
皆が集まってくれた事にアラティーは感謝を述べる。
既に身体から甘い匂いが漂っていたが、これは皆の緊張をほぐす為の軽い仕込みである。
最大濃度で散布したら、普通の人間は耐え切れずに理性が飛び、性欲の赴くままに暴れ回る野獣と化してしまうだろうから、催淫空気の濃度は低く抑えている。
「それでは、お相手させて頂きますわ」
領主の娘が淫魔だと判明した時から、領民が糧を提供するこの制度が始まった。
最初は秘密裏に、しかし、その評判は年を経る度に高くなって行った。
サッキュバスが与える快感が精の提供者を魅了し、いつしか、秘密は公となって領民の希望者が殺到したからである。
「んぐ……んぐぐ」
「アッ、アラティー様、気持ちいい」
「んふ、耐えて下さいね。今、喉の奥まで飲み込みますから……」
咥え込むと口をすぼめ、喉奥まで一気に飲み込むディープスロートを数往復すると、攻撃されている男は堪らずに精液を漏らしてしまう。
脈動する陰茎から大量のスペルマを受け取ると、次の相手に目標を移す。
『ま、参りましたわね。胃の中がもうすぐ満杯になりそうですわ』
フェラは良くて一人分が現界だろう。残りは子宮と腸に頑張って貰うしか無いと決意する。
「次の方、どうぞ」
こうした流れ作業的な相手は、本職の娼婦としては余りやりたくは無い。
が、お客相手の営業じゃ無いのだから、ここは割り切るべきなのだろうかと、いつも悩む瞬間である。
『でも、気持ち良くなって貰わないと。そこだけはサッキュバスの意地ですわ』
騎乗位で腰を振りながら、尻尾で搾精し、最大限の快楽を与える。
皆、この日に備えた貯めていたのか、射精量が膨大だったが、何とかノルマをこなし終えたのはお昼過ぎになってからだった。
◆ ◆ ◆
「うぷっ」
口に手を当てて暫く耐えるサッキュバス。
皆がご馳走してくれた精液だから、戻す訳には行かないから、落ち着くまで暫く待つ。
『きゅ、吸精しなくてはなりませんわ』
少なくとも口で受けて、胃の中にどかんと貯まった分は魔素として分解しないと持ちそうもないと判断したアラティーは、慌てて浴室へと向かった。
ここならば処置が施されれているので、大量に吸精しても大丈夫だからだ。
「あ、あああぁぁぁ……」
体中が発汗して汗が噴き出し、目から涙が溢れた。
口からは涎かが流れて、部屋中にむわっと媚薬混じりの催淫空気が充満した。
手がレオタードのクロッチをまさぐり、脇に寄せると排水溝目掛けて勢い良く黄金水を発射するが、無論、その中にもたっぷりと媚薬が含まれていて甘い香りを漂わせている。
「あ、ああ。私室でも構わなかったのですが、流石におしっこまで出せませんからね」
放尿の快感に身を奮わせる。
大量のザーメンを吸収する際にどうしても水分が余ってしまうのだが、淫魔は身体中から余計な水分をこうやって排出するのである。
出す際に、どうしても体内で精製した媚薬成分を同時に出してしまうので、こうして迷惑が掛からぬ様な処置をアラティーは行っていた。
城館内や自分の町をピンク色に染める訳には行かないからである。
「アラティー、入るわよ」
「駄目ですわ。この状態では貴女も危険です。脱衣所でお待ち下さいませ!」
そのまま沐浴して、トリンシスを待たせる事、約7分。
身体を洗い流した淫魔は上がると、汗まみれのサッキュバスルックを新品に着替えて恋人の前に姿を現した。
「髪を乾かす暇がありませんでしたわ」
「お腹も出たままよ。吸精して引っ込めたんじゃ無いの?」
「胃の分だけです。子宮や腸の中は貯まったままですわ」
お食事会で頑張って搾精したアラティーだが、やはり無理があった。
10人分。しかも、この日の為にオナ禁までした大量の精液だ。
充分に魔素が足りているのに、無理して吸精は体型を崩しかねないのだが、太るのを危機感を覚えても、胃の分だけは嘔吐する危険があるのでやむを得ず吸精したのだと語るサッキュバス。
「ふ、太らないか心配ですわ」
「ギルバを通じてシャルルに対決した時には、催淫物質垂れ流しをしなかったのに」
「あれは体内に留め置いたからです。出せる物なら出してしまった方が健康的ですのよ」
野良サッキュバスなんかだと自分勝手できるけど、催淫物質を抑制しないと社会生活に支障が出るから色々と苦労もあるのだと、アラティーはしみじみ語る。
「あっ、贅肉が」
「エッ、嘘。何処に何処に!」
慌てて体中を探し回るアラティーに爆笑する巫女。
しかし、本当にぷにっと摘まめるお腹の肉を発見し淫魔は、絶望の淵に追いやられた様な顔をして落ち込んでいた。
力なく、いつも元気そうだった尻尾がぱたりと倒れているのも、かなりショックだった印だ。
「ああ、太ってしまいましたわ」
「冗談から駒だ。そんなに落ち込まないでよ」
廊下に座り込んでの之字を書きながら、ぼそっと「太ったら痩せるのに苦労するんですのよ」と、彼女は死んだ魚の様な瞳をトリンに向ける。
「わたくし、デブ専専属サッキュバスになりたくない……」
「ぶっ、アラティーがデブ専。まだ少し贅肉付いただけでそこまで飛躍する?」
サッキュバスが大量吸精すると言う一般イメージは、正しくもあり間違いでもある。
空腹が少なくても体内魔素が満タンでなければ、一人分程度の精液ならば問題なく、絞り尽くして大量に吸精可能だが、既に体内魔素が限界まで貯まっていると、超過した分は心臓に収まらず、身体の各所に分散されるので、魔素を取り込んだ贅肉として太るのである。
「どうせお肉になるなら、バストを成長させるとかなら良かったのに……」
「あんた、それ以上、胸を大きくしたい訳」
彼女の胸は貧乳と言われた親友のタンハーが、いつも羨ましがっていた程で巨乳であるのだが、トリンの語気に怒りが混ざっているのに気付き、アラティーは慌てて弁明する。
問題は一旦、こうして贅肉が付いてしまうと落とす事が難しいのだと。
「魔素は貯まった心臓から消費されていきますわ。で、心臓の魔素が空になってようやく、余分な魔素に手を付けられるのです。つまり……」
「贅肉を落とすのは最後になる訳ね」
お嬢様は「だから、胸を大きくするのだったら、ボディラインが崩れないのです」と続けるが、そうは問屋が卸さないらしい。
元々、臣民種淫魔は王族種の配下であり、その境遇から魔素が満杯になる様な事態は考えられておらず、王族種の為にせっせと精液を集め、それを女王へ献上する為の部品だったから、この問題に初めて気が付いたのも、登録淫魔が登場してからだった。
「王族種の存在から解放された後でも、魔素が一杯になるサッキュバスなんて多分、殆ど存在しませんでしたわ」
「エロ淫魔の存在が、それを変えたか……」
「はい」
肯定したアラティーは「人々に追われ、ゲリラ的に人を強姦して糧を得ていた淫魔が、毎日、安定して飲み切れない程のスペルマを得るなんて事は無かったでしょうし」と、説明する。
公娼は淫魔の食糧事情を、いつも飢えていた。もしくは腹を空かせていた食糧事情を、毎日、安定した糧を得られる環境へと一変させ、魔素を限界一杯まで体内に蓄積し、余剰分を体外へ排出してしまえる程になったのだ。
「最初に太ったサッキュバスは、パニックだったと聞きますわ」
「ああ、未知の病気がなんかと勘違いしたのね」
「今から考えると笑い話ですけどね」
魔素を限界以上に摂取すると、贅肉が付いて体型が崩れる現象は知られていなかった。
王族種が居た〝王国時代〟は吸精した精液を濃縮して直ちに王族種へ渡してしまう為、常に魔素は満杯になる事は無く、また、それ以降の〝コモンの時代〟でも、常に糧を得るのにきゅうきゅうとしていたから、体型が崩れる問題も表面化しなかったからだ。
「最初に太った方は諦めてデブ専になり、それが受けて、人気娼婦になったのだから皮肉なのかも知れませんけど、わたくし、そうはなりたくない!」
「吸精しないで、そこらに射精して捨てちゃったら良かったのに」
しごくもっともな事を言う恋人に、「じょ、冗談じゃありませんわ!」と叫ぶアラティー。
「皆様がわたくしの為に注いでくれた大切なザーメンを、そんな粗略な扱いは出来ません!
ええ、断じて出来ません!」
変な所で真面目である。「うわぁ」と絶句するトリン。
徴収する税と同じで、無駄遣いは出来ないと領主代行の立場から出た結論であり、彼女からすれば折角、収穫した葡萄酒を飲みもせずにドブに捨てる様な行為と一緒なのだろう。
「じゃ、暫くダイエットするしかないわね」
「明日っからお仕事ですのよ。仕事前にタンクに絞り出すとして、どの程度なのかしら」
ぶつぶつと呟くアラティーに、「とにかく、立ち直ったみたいね」と声を掛ける巫女。
一時的な落ち込みからは確かに立ち直っている。
「午後は貯水池の調査だっけ」
「いえ、その前にオルコット・ジャタド夫人と会談する必要がありますわ」
ぴんと立った尻尾を揺らしながら、すっくとお嬢様は立ち上がった。
◆ ◆ ◆
城館のここは客間。
と言えば聞こえが良いが、使っていない応接室に寝台を持ち込んだだけだ。
不意の客が訪れる際、または宿直が出る際に応接室は臨時に模様替えが出来る、こうしたフレキシブル構造になっている。
ジャタド家の奥方であるオルコット夫人は、息子のギルバと共にこの部屋に留め置かれていた。
「ご機嫌よう」
「アラティー様、今回はお世話になりまして……」
儀礼的に挨拶を交わして席に就く。
今、この部屋には領主代行と聖教会の助祭、そして夫人と息子しか居ない。
ギルバを見て、「すっかり元気になったらしいですわね」と微笑むと、領主代行は居ずまいを正して本題に入る。
「さて、オルコット夫人に尋ねたき事がありますわ」
「シャルルの事でしょうか……」
「それもありますが、ギルバの身体と言った方がより重要ですの」
領主代行は目を細め、「シャルルに籠絡された原因はそこにありますわ」と伝えると、母親は肩を落として「はい。息子は取り替え子なのです」と告白する。
「やっばりか」
間近でギルバの解呪風景を見ていたトリンが呟く。
取り替え子とは同種族間から、別の種族や両性具有者が生まれる事である。
ちなみにヒト族と亜人は混血可能だが、他種族と交わっても魔族から生まれるのは魔族のみ、しかも、大抵の女系魔族には男性が生まれない。
長年魔族が忌み嫌われていたのも、モラルが違っていただけではなく、こうした性質があった為なのだが、本題とは関係ないので省く。
「何故、男子の殆どが拒絶したシャルルの誘いに乗ってしまったのか。両性具有(ふたなり)だったなら理解出来ますわ」
「でも、ぼくは男です!」
それまで黙っていたギルバが声を張り上げた。小声で「女の子の格好をしたいって顔貌はあるけど、ぼくが好きなのは……フランちゃんだから」と続ける。
自分が男だと言う自覚はあるらしい。
「フランちゃんって、あの……」
「フランソワ・シーマ。シーマ家の子です」
トリンが口出しする途中で、オルコット夫人が答える。
「シーマ家。士族の一人ですわね」
シーマと言う家名にアラティーも反応する。確か、養鶏場を経営していたセドリック家のライバルだった家だ。
家業は野菜を栽培していた筈で、確か猛暑でトマトの出来が良いと喜んでいた様な記憶があると告げると、夫人は頷き、「葡萄同様、水を少なくして気温が高いと、実が引き締まって糖度が上がるらしいと聞きます」と言った。
「トマトも最近、領都向けに栽培して好評を得ている作物ですわ。でも、猛暑を歓迎する雰囲気に何とも言えぬ気分を味わって、落ち込んでしまいそうになりますわね」
「そー言えば、隣の席だっけ。フランソワとは仲が良かったわよね」
トリンは公学校に出席する女の子を思い出しながら話しかける。
成績は平凡で、運動の苦手な大人しい地味な子と言う印象があるが、ギルバとは仲が良く、一緒に画を描いていた女の子だ。
「うん。フランちゃんはぼくの趣味、女装を唯一理解してくれたの」
「そうか、彼女も取り替え子だったわね」
「ちょっ、ギルバッ!」
確か、ヒト族の夫妻から生まれたハーフエルフであった。
互いに士族であり、将来的には当主になるかも知れぬ環境も似ていたから、交流があったのだろうと想像するが、自分の性癖まで相談していた事に一同は驚く。
特に夫人には寝耳に水だったみたいで、声を張り上げて叱責仕掛けていた。
「ぼくはフランちゃん為に、男である事を選んだの」
「将来的に彼女を守る為、ですわね」
ギルバは首を縦に振った。そして「フランちゃんはぼくが女の子の格好をしても、笑わないし、綺麗な夫をお婿さんにしたいって……」と言う。
『もしかしてフランソワって、元々、レズっ気のある娘なのかしら?』
娼館の客にも、その手の趣味を持つ者は少なくない。
だからこそ、見掛けが女性である淫魔を抱きに現れるのだけど、フランソワ・シーマがその手の性癖を有してないとは否定出来なかった。
「ギルバが取り替え子なのはジャタド卿には……」
それをトリンが口らした途端、オルコット夫人は「知りません。夫はギルバが男子だと信じ込んでいるのです」と呻く様に答えた。
つまり夫はギルバの正体を知らないと言う事になる。
「出生時に告げなかったのですか」
「生んだ時は男の子でした。ええ、ええ、それは間違えありません!」
「そんな……」
「トリン!」
悲鳴に近い声で叫ぶ夫人に詰め寄る巫女へ、サキュバスが介入する。
一旦言い争いを止め、「恐らく、仮性半陰陽ですわ」とその正体を看破する。
「何それ?」
「性器が露出しない病気ですわ」
何等かの理由で性器が以内に埋没するか或いは突出してししまい、本来の性別とは別物だと周囲に認識されてしまう病気だ。
別にふたなりだけに起こる特有な症状では無く、大人になっても何時までも声変わりせず、おかしいと思っていたら実は女だったとか、逆のケースもある。
「ギルバの場合、埋没していた女性器が後になって表面に出て来たって事」
「多分……」
「割れ目が出て来たのは最近だよ」
本人の言によると、触ると気持ちいい所がバックリと現れたのは、ごく最近らしい。
フランソワと遊んでいる時に発見され、互いにそれを使って遊んでいる現場をオルコット夫人に見られてしまったそうだ。
当然、母親は烈火の如く怒ったが、同時に夫であるオドニエにどう伝えるかで途方に暮れる。
下手をすると離婚にもなりかねない。
「しかし、隠し通す訳にも行かないでしょう」
「はい、助祭様」
「でもね。でも、ぼくはシャルルから〝ていそー〟てのを守ったんだよ!」
暗いその場の雰囲気を明るくする、無邪気な少年の声。
聞くとシャルルは最初、淫夢内でヴァギナを狙って性行為をしようとしたのだが、少年はそれを許さずに、後の穴しか使わせなかったらしい。
「偉いですわね」
「うん。フランがね、ここは大事な所なんだって教えてくれたから!」
胸を張るふたなり少年。
そして「だから、あの暗い洞穴の仲でも正気を保っていられたんだ」と続けた時、お嬢様はその言葉に引っかかった。
暗い洞穴?
「ああ、そういやぁ、淫夢を見た子達もそんな事言ってたっけ」
「シャルルに襲われた時、そんなビジョンが見えていたのですの」
詳しく聞くと、淫夢の中ではシャルルの幻影と共に暗い洞穴の光景が目に映るそうだ。
ごつごつした岩肌で、周囲は湿気に満ちた暑苦しい空気に包まれているらしい。
「後で何か、白い塊がぶよぶよって動いているの」
「塊の正体は何だった」
「うーん、よく見えなかったからわかんないよ。先生」
子供の記憶だから、興味ない物事には無関心なんだろう。
が。その暗い洞穴がシャルルらしき黒幕が本拠地にしている場所である可能性は高い。
「シャルルって土属性の魔法使いだったっけ?」
「岩肌って所から、人工的な隧道ではなさそうですわね」
エルダ世界の地下施設建設は、土属性の魔法使いが【隧道】の魔法で地面を素掘りした後、支保工とかの土留めで土が元へ戻るのを阻止、その間に石工達がポータルを固めて掘り進んで行くのが一般的だ。
掘る為の人材が省略可能であるので、一から掘るよりはかなり簡便に施設を建設出来るが、それでも魔導士の雇用費、壁を固める為の建設費なんかは高く、そうそうは実施出来ない。
一級魔導士の使う【永・隧道】みたいな呪文なら、掘った土が元に戻らず、トンネルが完成するのだけど、一級魔導士とかは世界で数人しかおらず、大抵、その手の人間は偏屈で自分勝手なので自分用に地下迷宮を作るとかならともかく、俗事には関わろうとしないだろうし、雇えても目の玉が飛び出る程、雇用費が掛かりそうだ。
「土属性二級魔導士なら、永続で素掘りの洞窟を掘れる魔法があったよ」
「良く知ってますわね」
「同期が使い手だった」
東方聖教会の養成校にそんな才能の持ち主が居たらしい。
しかし、良く聞くとその娘は問題児だったらしく、その魔法の用途は主に落とし穴を作るのに飼われていたそうだ。
「穴掘り姫って渾名だったな。皇国の工兵隊が高く買って、青田買いで引っ張って行ったけど」
「さもありなん」
当然だが、この手の土魔法は野戦築城に多大な影響を与える。
堅固な城壁や水壕でも魔法一発で無効化され、地下から軍勢が続々と現れて占拠なんて事態も充分に起こるし、折角建てた城が、土台から崩されてしまう事もある。
「二級魔導士相当だったら、強力な耐魔結界を張れそうですわ」
「けど彼女、そーゆー地味な仕事を嫌ってたからなぁ」
耐魔結界とはそうした土魔法を弾く処理である。
労力と財を投入して造り上げた建物を、一瞬にして崩壊させられてしまう事態を避ける為、土魔法を無効化する結界石を地面に埋めて防御するのである。
無論、結界石単体だけでは範囲が狭いので、建物を囲む様に並べて埋めるのだが、これが結構手間が掛かって面倒なのが頭の痛い所だ。
「耐魔結界を晴れる仕事って、高給取りのイメージがありますけど」
「地味だからねぇ。折角作った結界石は地面に埋められて存在が判らなくなるから、感謝もされないって嘆いていたから」
いや、真っ先に狙われて破壊されるから、隠蔽させなきゃ意味ないのに、『モニュメント的に〝ここに結界石があります〟と露出させる訳にも行かないでしょ』と思う。
「いずれにせよ、シャルルがそんな高位魔導士だったら、帝国だって放っておかない筈よね」
「引っ張りだこになりますわね」
世の中に数える程しか存在しない一級には劣るが、それでも二級魔導士だって世の中に五十人居るか居ないかの希少な存在である。
元、シャルルがそんな存在だったら、あの帝国が手放す訳はないのだから、こんな片田舎に現れる事は無いと言い切れる。
「でも、錬金術師だったって資料にはありましたわ」
「ピンキリだから、何とも評価しかねるけどね」
物作りに魔術を応用するのが錬金術だが、高度の魔導機械を製作するのも錬金術師の仕事だし、衣服や傘に撥水加工を施すだけの職人だって、錬金術師の範疇に入るからだ。
だから、シャルルがどんな腕を持った錬金術師なのかは推測しかねた。
「私はどうしたら……。夫に言うべきなのでしょうか?」
そんな中、夫人の悩みが響き渡る。
シャルル問題で脱線したが、いまはこの男の娘問題の解決が議題である。
「ふたなりなのが判明したのが最近なのでしょう」
「はい」
「ならば、正直に洗いざらい本当の事を告げるしか無いと思うわ」
トリンは「時間を置きすぎると、隠していたのが不義理だと言って責められかねないのだから」と伝えると、夫人は肩を落とした。
「アラティー。領主代行としてギルバの面倒を見る責任があると思うわ」
「え?」
「配下の士族の間に問題を起こしたくは無いでしょう。あんたも夫人と一緒にオドニエの所へ出向くべきよ」
取り替え子が生まれたのは誰の責任でも無く、将来的にギルバが望むなら男爵領で雇用するとでも約束すれば、オドニエ・ジャタドだって文句は出ないだろうと説明する。
「領主代行なら、将来の家臣の一人を青田買いだって出来るんでしょ」
「で、でも……やって良いのかしら?」
悩む。
いや、一人か二人の家臣なら雇えるだけの財源は今だってある。公娼の給金は高給だからなのだが、正式に男爵領の役人、文官なのか武官なのかはさて置いて、雇えるのかは母と相談しないと確約は出来かねるのが問題だった。
次期領主であり代行だから、そこらは上手く調整すれば大丈夫とは思うのだが、ここで独断で決めても構わないのか、悩む事、数分。
「判りましたわ。このアラティー、ギルバ君を迎える事にしましょう」
◆ ◆ ◆
午後三時。
相変わらずの暑さにプテラ山に漂う白煙を見ながら、領主代理の淫魔は民家の軒先で休憩していた。
街道沿いの為、物珍しそうに余所者がじろじろとアラティーを注目するが、本人達は提供された一杯の冷茶に癒やされ、そんな視線も気にならなかった。
「あーっ、極楽ですわ」
「この手の使い手がもっと欲しいわね」
単なる小作人の農家なのだが、住人の一人が水魔法を使えるだけあって【製氷】によって、この飲み物を提供してくれたのだった。
単に日陰を求めて軒先を借りたのだが、これは思わぬサプライズであった。
水出しした磚茶に氷を入れただけで、砂糖も何も混ぜてないし、誓われている茶葉も等級は低い普及品なのだろうが、それでも冷たさから生き返る様な気持ちになる。
「子供の遊びですよ」
家の主人が謙遜し、実際その水魔法の使い手は小さな子供であってアラティーを驚かせたのだが、七級相当の児戯な物でも魔導は魔導である。領民に使い手が居るのは嬉しく思ってしまう。
「クーペと言いましたわね。幾つになりますの」
「はい、うちの娘ですが、六歳です」
「将来、お城に務める気はありませんの?」
トリンは「え、ギルバに続いて青田買いなの」とびっくりするが、これは早めに手を付けていた方が良さそうだと、アラティーの勘が告げていた。
「わかんない……」
「そうですわよね。わかんないか」
生まれて十五年。
自分も六歳の頃は〝立派な貴族になるんだ〟とだけは教育されてたけど、その理由は考えた事もなかったし、将来の目的も見えてなかったのだから、クーペの反応は当然だった。
「わたくしのお仕事を手伝って欲しいのですわ。その気があったら」
「うん、考えとく!」
手を振りながら行ってしまう女の子を見送ったアラティーを見て、「強引に勧誘するのかと思った」と胸をなで下ろす巫女。
「〝これは領主命令だ!〟って、それをやったら極悪人ですわよ」
「たまに使命から、そーゆー悪い道に入りそうなのよね。あんた」
「気を付けましょう」
大衆演劇とか軽小説に出て来る悪徳貴族、同期の淫魔ラーガが好きそうなお話の登場人物にはなりたくは無かったし、そこまで強引な手法を好まないアラティーは神妙な顔をする。
他者からそう思われるのかとも反省していると、「にしても……」とトリンが話を続ける。
「ギルバの件はあっさり行って良かったわね」
「まだ空約束でしたけどね。正式には次の帰郷になるでしょう」
色々とすったもんだはあったけど、領主代行が城勤めの官僚として将来を約束した為に、オドニエ卿がギルバの性別問題を問題にしなかったのだ。
ギルバ本人が「ぼく、女の格好はしたいけど男の子だよ」と言い切り、ちゃんとジャタド家の跡継ぎであると宣言したのも良い結果を生んだのかも知れない。
「まぁ、次期領主の内定を受けたのも同然だから、安心出来たって所でしょう」
「だから、まだ正式には……」
流石に明日帰還する予定なのだから正式な公文書作成の時間がなく、正式に契約書を作成するのは半年先、次の帰還までお預けである。
「反故にする気?」
「まさか」
「ジャタド卿を始め、領民も皆知ってるのよ。アラティーが信頼出来るサッキュバスだって」
口約束だって反故にしないだろうという安心感から、信用しているのだと説かれ、口籠もりながら「ま、まぁ、そうですけど」と返事をする領主代行。
「シーマ家とセドリック家との抗争も、ギルバが上手くやれば収まりそうだしね」
「フランソワを嫁にって将来設計は、まだ早すぎますわよ」
気が早すぎるとアラティーは恋人を諫める。
実際、未来はまだ不確定なのだが、配下の士族同士の仲が険悪なのは困るから、基本的には上手く行って欲しいとも願う。小さな地方領での仲間割れと言うのは宜しくない。
「しかし……シャルルってどんだけ強いのよ」
「読むと聞くとじゃ大違いですわね」
ジャタド家との会合で、ついでとばかりに当時の戦の模様を質問したアラティーであったが、その内容に絶句したのだった。
到着した『闇』の精鋭にも劣らぬ魔法を使いこなしたと聞き、片田舎に派遣されたうだつの上がらぬ工作員的なイメージだったシャルルが、腕利きの密偵並に上方修正されたのである。
当時の現場に居た者の証言だ。
「泥巨人(マッドゴーレム)を使役する奴だとは思わないわよ」
それは少なくても四級魔導士。下手すると三級魔導士である。
何でそんな奴が、田舎町であるトリィなんかに現れたのかは疑問の残る所だが、それは軍事機密の闇に閉ざされて、明らかにされる事はあるまい。
とにかくシャルルは懸命の抵抗を試みたが、多勢に無勢で遂に討ち取られたと言う。
「まずはシャルルの屋敷があった場所、ゲハ家邸の跡へ向かいたいのですが……。もー、動きたくありませんわ」
「炎天下を歩き詰めだからねぇ」
昨日も同じ程度は歩いたが、今日は気温に加えて凪である。
風があれば、まだ元気は残っていたかも知れないが、休憩した途端に先へ進む気が失せてしまった。
「あんた風魔法使いなんだから、得意の【送風】の呪文使えばいーじゃん」
「あの魔法、最初に唱えた位置固定なのです」
つまり、船とか馬車みたいに唱えた場所が一緒に移動するならともかく、普通に唱えたらその場所から離れると効果範囲が外れてしまうのだ、
その場から動かなければ良いのだが、移動時には大変非効率な魔法なのである。
「50mを離れたら再度唱えて、また50m離れたらとか、やってられませんわ」
「その上位呪文……」
「わたくし、六級魔導士ですのよ。持っているとでも?」
恨みがましい目で睨まれる。そこへ「おーい」と誰かを呼ぶ声が響いた。
たたたっと、脇を小さな影が歓声を上げてすり抜けて行く。
「おねーちゃーん」
「よぅ、クーペ。久しぶり」
上空から声がしたと思ったら、激しい羽音を立ててゆっくりと人影が降りて来た。
ホバリングで速度を殺し、すとんと地面に到着すると翼だった部位が二本の腕に変化する。
「アリンさん。でしたっけ?」
「あー、名前が似てるトリン助祭さんでしたよね」
セイレーンのアリン・ブラッツは声をかけられて、初めてこっちに気が付いた様でちょこんとお辞儀する。
そして、その隣にぷっくりと腹を膨らませたアラティーの姿を見付けると、明らかに顔を引きつらせる。
『……りょ、領主代行だ』
それを観察しつつ、「げっ、と言う顔をしていますわよ」と指摘するサッキュバス。
慌てて深いお辞儀を返すが、既に苦手と言う態度が察知されてしまっているのでアリンは焦る。
「お姿が変わっているので、気が付きませんでした」
「搾精をしたからですわ。アリン・ブラッツ」
良い訳はするが通用しそうもあるまい。
名前をフルネームで呼ばれ、どんな叱責が飛んでくるのか覚悟したが、意外にもその後の問いは街道で行っている修復工事に関する事であった。
無論、アリンも土建屋関係者なので専門外とは言うものの、工事の進展具合程度なら答えられる。
「石畳は仕上げを残して、今日中には基礎が終わりそうです」
「表面を平滑にする、細かな仕上げは後回しでも結構」
領主代行は隣の街道を指し示して、念を押す様に「とにかく荷車は通れますのね」と確認する。
午後に入って、やや通行量が減少したのはこの猛暑のせいだろう。日暮れになって気温が下がれば避暑をしている連中が復帰する筈だ。
「大丈夫です。それは日没までには仕上げます」
「見ての通りの交通量ですわ。その殆どがうちを素通りして領都へ行ってしまうのですけどね」
大勢の馬車、徒歩の旅人で賑わうも、利用者から言えばトリィは単なる通過点なのだ。
領都手前にある宿場町としては利用価値は少なく、通行税が入るが、直接資本を投下してくれる割合は少ないのが頭の痛い所である。
だから支街道の北への分岐が重要で、ここの整備が滞ると町のダメージが大きいのを強調する。
北行きの流通を水運に取られると収入が減少するからで、だからこそ早めに修復してくれたのを感謝するのだった。
「下水の方は……」
「あ、助祭様。そっちの方はばっちりです」
自分の仕事だけあって明確な答えだ。
やはり、水量の少なさから汚泥他、様々な物が溜まっていたらしいが、問題ないレベルにまで清掃は済んだと告げる。
「で、今は?」
「やる事やったし、親方が〝お前が居ても仕事の邪魔〟だと言うので、時間を潰していました」
褐色のセイレーンは不満気味に言うが、石工の仕事には門外漢であるのは確かだった。
で、空の散歩と洒落込んだ所、たまたま知り合いのクーぺを見付けて降りて来た所であった。
「暇なのね」
「ええ、まぁ……」
トリンがアラティーの方を向くと、お嬢様は了解したという風に頷いた。
おもむろに「では、これから視察に赴くのだけど、同行をお願いしますすわね」と口にする。
「へ?」
「貴女、確か読み師だったわよね。空も飛べるし、ちょこっと協力してくれてもバチは当たらないわよ」
〈続く〉
対決編まで一気に行く筈だったんだけど、気力が尽きた。