※この作品はR-18です。

エロエロナ物語 -エロエロンナ物語R18編-   作:ないしのかみ

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続いてしまった。
今回も書き直し二回。書き足し一回。
田舎の男爵領でサッキュバスの仕事は続きます。今回は殆どエッチがありません。ごめんなさい。



帰郷 -サッキュバスの館5- その8

サッキュバスの館5- その8

 

              ◆       ◆       ◆

 

「へぇ、じゃ、あのクーペって女の子に魔法を教えたのは、貴女でしたのね」

 

 てくてくと歩く、少女三人組。

 最初に言を発した少女は長い銀の髪を持った巨乳美少女で、まるで妊婦みたいにと腹部が膨らんでいるが、別に妊娠している訳ではない。尻からは尻尾が揺れている。

 腹部を露出させたデザインの黒いレオタードに、指先を出したフィンガーレスの長手袋。丈の長いサイハイブーツは同色で、鋭角的な白いラインが入った典型的なサッキョバスルックだったが、控えめにあしらわれた宝石やフリルがアクセントとなり、煽情的ながら猥雑では無く、何処か上品な雰囲気を漂わせている。

 

「ええ、教えたってよりは、魔法を出すコツを伝えただけなんだけど」

 

 答えるのは隣を歩く少女だ。

 褐色の肌に赤いポニーテール。いや、後髪を単に束ねただけの髪型である。

 シンプルなチューブトップとチョッキに腰を覆っただけの短めな垂布を着ているが、これは種族的な事情がある。

 彼女はアリン・ブラッツ。魔族である魔鳥族(セイレーン)である。

 飛行の際に腕が翼へと変化させるので、袖のある服を着ると支障が出るし、脚部の腿から下が鳥同様な構造になっているので、ボトムを着る事が出来ないのだ。

 大きく広がる三本脚のかぎ爪が、脚を通すと引っかかる為である。

 

「御免ね。付き合わせちゃって」

「いえ、自由時間ですし……あ、助祭様、少し弱めでしたか?」

 

 オマケに今、片手を翼に変化させて団扇の様にバタパタと扇いでいる。

 助祭であるトリンシスは「読み師としての力を借りたいだけで、そこまでやってくれなくても」と辞退したが、先程の失敗を糊塗する為か、アリンは自主的に二人の団扇役を買って出ている。

 

「丁度良い具合だけど、疲れるんじゃないのか」

 

 東方聖教会の正装とも言える、白小袖に緋の袴姿の巫女が問うと、セイレーン「変化させると筋肉量が増えるから、見た目よりは耐久力あるんですよ」と自慢する。

 確かに変形前の腕と翼に変化後のたくましさは三倍近く違い、太く頑強そうである。

 

「大助かりですわ」

 

 サッキュバス。領主代行のアラティーも謝辞を述べる。

 貯水池へ向かって歩く道は、街道では無く普通の農道だ。

 交通量が減って荷馬車とかと衝突する危険は減ったが、舗装はされておらず、その幅も馬車道士がすれ違えるかどうか、ぎりぎりの幅しか無い。

 

「でも、あたしの読み師の力なんて大した事ありませんよ」

「あら、自信がありませんの?」

「正直……。駆け出しですし」

 

 読み師とは〝気読み〟や〝水読み〟など探索系の魔導士で、地中にある精霊の力を読む力が必要とされる職業だ。

 魔導士ならば誰でも魔力の流れに敏感だから、魔導士ならば基本は誰にでも備わっている力ではあるのだが、それも程度問題で読み師の様な専門家以外、微細な流れを探知するのは難しい。

 

 砂漠の地中深くに隠れている水源を発見するのは難しいし、山中に埋没する金脈を発見しろと言われてもお手上げだろう。

 それは大河の側で〝水の精霊力〟を感じたり、森の中で〝植物の精霊力〟を大雑把に把握は出来るのとは難易度が違う為だ。

 普通の魔導士は大量に存在する精霊力から、もっとも多い物を選別して感じるだけだからである。

 

「親方から〝お前は空飛べるから読み師になれ〟と言われただけですし……」

「実績は?」

「井戸を三本。捕らえ易かったのが水なので」

 

 つまり、専門は水読みなのだろう。

 親方に勧められてと言う事は、つまり、土建屋に勤めてから井戸を三本発見したと言う事で悪い成績では無いだろう。

 

「ご謙遜を。この前まで見習いと聞きましたから、これは全て一年以内に挙げた成果ですのね。

 立派な物だと思いますわ」

「ハァ、恐縮です」

 

 褒められたのに困惑しているのは仕方ない。このセイレーンは貴族なる階層に殆ど変わった事は無く、貴族と言うのは権力を振りかざして上から高慢に命令する、厭味な人種としか言うステレオタイプしか持っていなかったからである。

 そんな貴族評が間違っているかと言えば、それは何とも言えない。

 階級が高位になる程、貴族と言うのは一般庶民を遠ざける傾向にあるからだ。

 市井に出て領民と触れ合うのはせいぜい伯爵家までで、侯爵家以上の貴族にとっては世間付き合いは専ら社交界と言うのが殆どである。

 

「あの……いいのですか。あたしみたいな下賤な民と歩いてても」

 

 そのアリンの言葉に、面食らったのがアラティーだ。

 

「誰が下賤ですの?」

「あたしです。卑しい土建屋の職人風情で……」

「……。誰が貴方を下賤呼ばわりしたのです」

 

 物静かだが、その声には怒りが混じっているをトリンは感じる。

 アリンは故郷の伯爵子女が、まるで汚物を見る様に一般市民を追い払った事例を告げた。

 

「子女って立場なら、今のアラティーと同じだね。そいつが次期領主なのかは知らないけど」

「男爵と伯爵では身分が違いますわよ。故郷と言うとセイレーン諸島ですか」

 

 南洋に浮かぶセイレーン諸島。中央大陸のセイレーン族は大抵ここ出身である。

 

「はい。あたしは成人まで島で育ちました」

「セイレーン諸島はシャルカーン侯爵家領でしたわね。確か」

 

 ヒト族以外、非王国系のいわゆる外様系貴族の中でも有力な家だ。

 これに匹敵する外様系は男爵領の上位家たるエロエロンナ伯爵家他、数家のみだが、王国から遠く離れた遠隔地に領土があるので独立独歩の気風が強く、主な種族のセイレーンを統制の為に王国は侯爵家領の下位貴族に非セイレーンの家を送り込んで監視している。

 送り込まれた下位貴族の中には評判の悪い、質がそれ程良くない家も混じっていたが、王国は侯爵領に不協和音を引き起こす目的で敢えて放置しているらしい。

 

「シャルカーン侯爵家自体の評判は悪くないけど、その配下の貴族ってのがねぇ」

 

 巫女のツッコミにお腹の大きなサッキュバスは「仕方ありませんわ。元々、流刑みたいな物ですから」と眉をしかめる。

 領地(くに)替えと言う言葉がある。

 元々の所領を取り上げられ、全く別の土地に領地を移される事だが、我がグラン王国にもこの制度がある。が、普通、これは領地を持った旧い貴族に関しては殆ど行われる事は無い。

 大抵、その所領は先祖伝来の土地か、自分で荒野を一から開拓して切り拓いた土地であるから、いきなり寄越せと行っても交換出来る物では無いし、強要すれば下手すると戦になる。

 しかし、懲罰として何かヘマをやった場合、領地替えが要求される事がある。

 

「流刑?」

「ええ、領地没収よりは軽いですけどね。土地を取り上げられて〝どこそこの土地に赴任せよ。期間は15年である〟とか、命令されるのですわ」

「懲罰として辺境行きなのね」

「大抵そうですわ。政界や社交界からは切り離され、中央に影響を及ぼせない様にする仕組みですの。もっとも田舎が気に入って、元に戻らない家もありますけども」

 

 領地替えで与えられた土地は、大抵は名だけの田舎でインフラなんか皆無の酷い荒れ地の場合が多いのだが、移住先で頑張って生活基盤を築き、元の領地よりも裕福なった例もあるのだ。

 

「でもシャルカーン諸島のそれは辺境だけど、開拓はされている土地だった筈ですわよ」

「大抵、代替わりの形で十数年毎に本国から貴族が赴任して来ると聞きました」

 

 アリンの説明に「腰掛け貴族ね」と納得した様にトリンが言うが、アラティーも全く同じん感想を持った。

 ここで一発奮起して、貴族として良い統治を行い、領地を栄えさせるのが可能ならまだ見込みはあるだろうが、腰掛け貴族ではそんな気概を持つ者は少ないに違いない。

 その土地の者では無い余所者が領主として赴任し、現地の文化に馴染めず、それに愛着を持つ訳でも無く、ただ単に流刑の様に辺境に縛り付けられているとしたら、帰還の日々を指折り数えて待つだけではないのかと言う事態は、容易に想像が付く。

 

「階級意識がそーゆー輩じゃ酷いのよ。まぁ、伯爵子女クラスなら中央に居た時もお付き合いのある相手は同じ貴族階級ばかりでしょうし……」

「トリンの言う通りね。特に生まれた時から王都暮らしで所領での生活を体験してないのだったら、その傾向は強くなりますわ」

 

 王都に別宅を構え、自分の統治する所領に一度も帰らぬ貴族と言うのも存在する。

 政治、文化の中心である王都から離れて田舎臭い所領へ引きこもりたくないのが理由だが、大黒柱である領主はまだしも、政治的に中央の動向には無関係だろう家族は、特に子女は成人前まで所領で育つべきだとアラティーは思う。

 無論、家族で過ごしたいと言う感情も理解する。だが、所領に関して郷土愛とか何の感情も持てず、単なる収入を得る為の土地と化してしまうし、領民との触れ合いで庶民との交流も持てないのは損失だと考えるからだ。

 

 そんな貴族達が普段から付き合う相手は、士族階級以上の者の他にはせいぜい自分の家の使用人である。平民である庶民階級を蔑んでいてもおかしくは無い。

 海軍の士官学校にでも入らぬ限り、上下差の無い平民と日常的に接触はしないから、こうした傾向を持ち続ける貴族は多いのだ。

 

「わたくしは貴方を下賤と思いませんわ。自信をお持ちなさい」

「はぁ」

 

 貴族に励まされて混乱するセイレーン。

 貴族と言う人々には特権階級で民を支配して導く者だとされているが、この召喚術士には貴族に導いて貰った記憶は無い。

 民に対して労役を課すとか、戦になったら徴兵して兵役を就かせるとかを導くとでも思っているのだろうと理解していたが、この姫様は役人とか部下を派遣して仕事をさせ、館に引きこもって贅沢三昧をする貴族と違い、貴人が足を運ばぬ現場へも赴く様である。

 率先して、本当に民を導いている。

 

『何か本質的な違いがあるのか……。うーん』

 

 単に目の前の少女が、変わり者であるのだけなのかも知れない。

 貴族とは言うものの、あんな格好で出歩くサッキュバスだし。

 

 そう言えば、貴族の令嬢とか言う奴は護衛だの、取り巻きだのを行列の様にずらずら連れていると思ってたら、この姫様の随員は助祭一人だ。

 曰く「ガルスは街道の石畳工事で監督してるし、この視察は半ば公務とは言い難い趣味みたいな物ですから、お仕事している職員を動員する訳には……。え、護衛ですの。我が領の治安は安定してますのよ。わたくしを襲う不逞の輩なぞおりませんわ」と、笑いながら語っていた。

 

 言われてみれば領民との仲は良さそうで、道行く途中で姿を見た民から名を呼ばれ、返礼として手を振り返していた。

 訓練中の騎士の一団であったが、騎士や従士の誰一人して訓練に専念して、領主代理の護衛に回らなかったのにビックリする。

 それを指摘すると、淫魔は「あら、騎士無しでもいざとなれば、武器もあるから自衛だって出来ますわ」とカトラスを見せて抜刀を披露してくれたが、その太刀筋は騎士学校か海軍の士官学校にでも行ったのかと思った程、実践的な物で貴族のお嬢様が片手間で習う様な代物ではない。

 

「それに、わたくしは庶子ですからね」

 

 庶子とは正室以外の子供と言う意味で、本来ならば妾腹の子を指す単語だ。

 しかし、アラティーの母はここの領主である女男爵(バロネス)で、一応は正当な子になるのだが、相手が問題だった。

 行きずりのサッキュバスに犯されて強制的に孕まされて出産した子供で、正当な夫の子供ではないので〝庶子〟なのだそうだ。

 

「今は誰も、そんな事を気にしちゃいないよ」

「でも……」

「正当な跡取りとして国にも認められてるんだから、胸を張りな」

 

 諫める様にトリンが言うが、今、問題になっている終わった筈の継承騒動の原因が元を正せばこれに辿り着くのだから、彼女の憂鬱は晴れない。

 余りお嬢様扱いされないのも護衛が付かないのも、この継承問題が遠因であるのをアラティー自身が自覚している。当時の士族、騎士達の多くが自分の存在に反発していたからだ。

 

 表向きは護衛を引き受けた後、実際は途中で任務を放棄して置き去りにする事もあったのだが、当時の自分はそれが普通だと思って気にしなかった。

 むしろ、面倒な監視役が消えて喜んでいた気もする。

 流石に意図的に自分を害する様な者は出なかったが、今、考えると〝このサッキュバスが途中で獣にでも襲われて、死んでしまえば良い〟と考えた者は居たに違いないと思う。

 四歳のあの時、屍人が徘徊するあの状況では、普通、領主の娘なら外出を制止するか、少なくとも護衛の数人は付けれる筈だからだ。

 

「もしかしたらカニンガム、あ、家令の名ですわ。が、こっそりと密偵でも付けてくれてるかも知れませんけどね」

 

 思い出した様に付け加えるが、道中、他の者が一行を付けてくる気配はない。

 騎士達の訓練は馬を疾走させ、その後ろに槍持ちの兵が駆けて行くと言う行軍演習だから、「騎士を護衛に回したら、指揮官が居なくなって兵が遊軍化してしまいますわ」だそうだ。

 

「あ、見えましたわ。あそこが貯水池です」

 

 そうこうしている間に目的地に到着した様だ。

 目の前は水の涸れた貯水池の跡が広がっていた。

 

              ◆       ◆       ◆

 

 道の両側は小麦畑であった。

 本来なら、小麦が一面の青い絨毯みたいに広がっているのだが、猛暑と渇水による水不足によって畑は元気のない麦が生えているだけだった。

 背も低く、枯れかけた小麦が何とか根を張っている状態で、隣の耕作地に植えている豆類の方が元気そうに見える。

 その隣の休耕地には雑草が生えているだけだが、心なしかそれすら弱々しく、土の色も黒色よりも黄土色っぽい。

 

「地力が回復してないな」

「ああっ、やっぱり。判りますのね?」

 

 褐色のセイレーンは答えずに、片腕を羽根から手に変形させると屈んで土を手に取った。

 しげしげと眺めると、手に取った土を指先でこねてぱらぱらと落とす。

 

「虫が居ないな。乾きすぎで地表に出てこないんだろうけど」

「虫ですの?」

 

 意外な単語に聞き返すと、アリンは「必要なのさ。地力を豊かにするのにね」と答えた。

 顔を上げて土に汚れた手をはたく。

 その間にトリンは農地にとって昆虫の存在を領主代行に説く。元は農家だけあって、ここらの知識はアラティーよりも上である。

 土の素材である朽ちた縮物、動物の死骸などの諸々な物を喰らい、養分として排泄してくれるのが、土中に生息するこれらの生き物である。

 

「土を豊かにする為ですか」

「そっ、ミミズとかダンゴムシが典型例だけどね。土を食って養分にしてくれる」

 

 アリンとの会話がぎこちない原因が、慣れない敬語混じりのですます調だと言うのに気が付いたアラティーが、特に敬語を使わずとも構わないと告げた為、セイレーンの言葉遣いは普段通りの姐御調に戻っている。

 

「物が腐る為にも水は必要さ。ミミズやダンゴムシの食物は主に土中の腐敗物だけど、これだけ乾いていると条件が悪すぎる」

 

 今の農地には彼らの姿は無く、この土地の状態は読み師に言わせると〝生命の精霊力が弱っている〟らしい。

 

「流石ですわね」

「よしとくれ、あたいは《水読み》だから、専門じゃないんだよ」

 

 彼女の師匠であるカルト・ミッヘンを例に挙げて謙遜するアリン。しかし、専門家ではないにせよ、読み師たる者、大体の精霊力は薄ぼんやりとは判るそうだ。

 

「水か。雨は降りそうも無いわね」

 

 雲一つ無い青空を見上げるトリン。

 

「気象を操る魔導士でも呼んだら?」

「呼びたいのは山々ですが、それって何処に居ますの?」

 

 確かに存在はする。しかし、そんな魔導士は国にとって秘密兵器に近く、存在が明らかになっているのは数名の有名所である。

 大雪を降らせて進軍を妨害したり、大嵐呼んで艦隊を壊滅させる様な戦略兵器だからだ。

 存在が知られている希有な人材は大抵、どっかの研究室で篭もっていると思うし、雇用量が幾ら掛かるのか想像もしたくない。

 

「単に水を大量に出す、普通の水魔法使いすら雇えませんのよ」

「此処に一人居るじゃん」

 

 それを聞いて、きょろきょろと辺りを見回すサッキュバスだが、此処に居るのは自分以外、召喚師のセイレーンと幼馴染み兼恋人だけだ。

 

「何処に」

「アラティーだよ。水じゃ無いけど、大量のザーメン出せるじゃん。

 これでもか、これでもかって程、どばどばと。あれも水分作成って観点から見りゃ、立派に水魔法だよ」

 

 確かに淫魔の精液作成は一部、魔法による産物である。

 精巣、サッキュバスの場合、豊かなバストが超大型の精巣であり、そこからヒト種の何十倍ものスペルマを生産しているのだが、流石に出せるのは水筒一本分が限界だ。

 しかし、本気になるとそれ以上の精液を吐き出せるのは、魔素を精液に転換して新たに製造している為で、魔素が続く限り、幾らでも射精可能だ。

 

「確かに水も作ってますわ。精液だって液体ですもの」

「それをドバッと畑に撒くのよ」

「無茶を言わないで下さいませ。幾らわたくしでも、この貯水池に満々と精液をたたえる事は不可能ですわ」

 

 アラティーは限界まで射精した事は無い。

 友達数人でザーメン風呂を作った事はあるが、かなりへとへとになったあの時の浴槽だって充分大きかったのに、この貯水池のスケールはその何十倍もあるのだ。

 仮にこの池を満杯、数千、数万リットルかは知らないが、それだけの精液を出せる淫魔が居たら化け物だが、もしかすると伝説の王族種淫魔(ロイヤルサッキュバス)なら可能なのだろうか。

 

「うーん……。スペルマ混じりの水で育てた作物って、余り食べたくはないよねぇ」

 

 横合いから意見を述べる召喚術士。

 しかし、トリンは元農家だからか「堆肥だって糞尿だよ」と夢の無い現実を言う。

 

「それに比べりゃ、アラティーの精液の方がまだ綺麗だよ」

「五十歩、百歩ですわよ」

 

 トリンはぼそりと「いや、飲めるし……」と呟く。

 男爵令嬢は少し顔を赤らめるが、「こほん」と咳を一つ付いて「さて、読み師の目から貯水池周辺の気を探って下さると助かりますわ」と話題を変えた。

 

「空飛んでも構わないかい?」

「ご随意に、それがセイレーンの、いえ、貴女の特技でしょうから」

 

 鳥人族の少女は、目を瞑ると指先に意識を集中した。

 種族固有の生体魔法が働いて腕全体に羽毛が覆い、指が退化して一対の翼が生まれる。

 二、三度軽く羽ばたいて翼の調子を確かめてから、地を蹴って上空へと飛び上がる。

 

「じゃ、見てくる」

「水源がどうなってるのかを、重点的にお願いしますわ」

「分かった!」

 

 ホバリングから巡航状態となって、一気に加速して低空から高空へと昇って行く。

 スカートと言うより、スリットの入った腰布から見える白い下着が眩しい。それを目を細めて見守りながら、「いいなぁ」と呟くのはトリンの本音だろう。

 

「サッキュバスも、ロイヤル種は飛べたらしいですけどね」

「ああ、出し入れ自由なコウモリ羽根ね」

「角もあったそうですわ。でも羽根はともかく、角は要りませんが……」

「何で?」

 

 曰く、〝空を飛べるのは嬉しいけど、角はフェラチオの際に頭部の固定具として使われるだけなのが、が目に見えているから〟だそうな。

 

「ロイヤル種は欺瞞の為、尻尾も収納出来たそうですが……」

「尻尾、消したいの?」

「弱点ですからね。引っ張られると痛いんですわ」

 

 初めて会った頃の昔を思い出す。

 淫魔の尻尾は生殖器も兼ねているのでデリケートなのだけど、トリンは面白がって会う度にアラティーの尻尾を引っ張っていたのだ。

 コモン種の尻尾は服装か何かで隠さない限り、外から明確に分かってしまう。

 

「あ、降りて来る」

 

 くるくると上空を舞っていたセイレーンが降下体勢に入っていた。

 

「何か分かりましたの?」

「とんでもないよっ!」

 

 まだ降下の最中であったが、アリンは空中を飛んでいるにも関わらず、興奮気味な口調で吠えた。

 ようやく地上に降りて、二、三度はばたくとアラティー達に駆け寄る。

 

「異常だ。異常だよ、ここは……!」

「えっと、何が……」

 

 要領の得ない言葉に困惑するが、とにかく「一旦、落ち着いて話しなさいな」とアラティーが言うと、彼女は息を整えてから静かに話し出す。

 

「水の精霊力が停まってるんだ。それと地の精霊力が異常だ。これってあり得ない!」

「停まってる?」

「この先の水脈が全てさ。渇水なのもこれじゃ当然だよ」

 

 まだ困惑気味の領主代理の手を掴むと、「来て」の一言で読み師は一方方向へ駆け出した。

 流石の異常に普段の苦手意識も忘れている様子が、トリンにも『これは容易ならざる事態なんだ』と理解して、一緒になってついて行く。

 

「な、何がありますの。この丘を越えた先に……」

 

 貯水池を囲む形でぐるりと三方にそびえ立っている、昇りつつある小高い丘。

 元々は貯水池の堰堤だが、貯めていた水量がゼロに近い為に一寸した丘と化してしまっているが、植物が生えていない箇所から、かつての水面下にあった水位の跡は確認が可能だった。

 アラティーが「そこにシャルル・ゲハの屋敷跡がありますわ」と続ける前に、昇り切った彼女の視界に異様な光景が飛び込んできた。

 

「これは!」

「見ての通りさ。領主代行」

 

 シャルル・ゲハの屋敷跡と思われる土地を取り囲む様に、板状の岩が地面から顔を覗かせていた。

 その数、十数個。

 最近、土地が隆起したのかぼこっ、ぼこっと地中から押し出される形で立っている。

 

「な……に、これ?」

 

 丘を降りて、そいつをしげしげと眺めるお嬢様と、口をあんぐりと開けて呟くトリンシス。

 

「結界石……ですわね」

 

 アラティーが結論を口にした。

 

「やっぱり、見た事があるんだ」

「一応、間……いえ、貴族教育の一環としてですわ」

 

 淫魔学校では、実際の結界石を見る機会があった。

 これは娼婦の皮を被った間者としての授業の一環で、あらゆる状況に対して適切な知識を叩き込まれる教育から来た物であるが、それを市井に知られる訳には行かないので、お嬢様は貴族教育としての一環と誤魔化しを忘れなかった。

 が、昔、アラティーが見た物とはサイズが大違いだった。

 

「大きいですわね」

 

 あれの一辺がせいぜい30cm四方だったのに比べ、今、目の前にあるのは横は同じ様なサイズながら、縦は1mを越える。いや、地面に埋まっているから、もっと長いのかも知れない。

 

「地の精霊力異常の原因だよ」

「成る程、じゃ、水の精霊力異常の方は?」

 

 巫女の問いに土建屋の娘はかぶりを振って、「それが分からないのさ」と言う。

 聞くとあらゆる水の流れがここに集中している事だけは確かなのだが、堰き止められたみたいにここから先には一切の精霊力が消失しているらしい。

 

「とにかく異常の原因は、この土地にあるのですのね」

「うん。それは間違いないね」

 

 アラティーは考える。

 ゲハ邸の地下有りに何かがあるのだろうかと。

 

「でもそんな施設、継承騒動で『闇』が見逃すとは思えないんだけど」

「ええ、でも相手はシャルル・ゲハ」

 

 アラティーは続ける。「この前までの印象だったら、わたくしもトリンと同じ結論に達して首を捻っていた筈ですわ。しかし……シャルルは二級魔導士でした」と。

 

「どー言う、意味さ」

「彼が討ち取られたのが十年前。

 でも、トリィに酷い渇水が起こり始めたのは、ほんの三年前ですわ」

「あ、まさか」

 

 淫魔は頷くと同時に、精液で膨らんだ腹をぶるんと震わせた。

 つまり、シャルルは〝万が一、自分が失敗した時に備えて何等かの措置を準備していたのではないか〟との予想である。

 

「それが何なのかは分かりませんけれど、二級魔導士なら『闇』の目をかいくぐって、数年後に作動する何かの魔法装置を設置した施設を準備していたのかも知れません」

「それが、あの結界石?」

「隠蔽用の結界石は配置が大事なのです。そうですわね。アリン?」

「姫様は専門家並だねぇ。そーだよ」

 

 勿論、単体で機能する結界石もあるが、何かを隠蔽する結界石はサークル状に対象物を囲んで、一種の結界か魔法陣的に場所を配置する必要がある。

 つまり、今の地上に突き出た状態だと配置が乱れているので、恐らく、効果は途切れてしまっているが、それ以前なら、完璧な隠蔽魔法が働いていた筈なのだと推測が出来た。

 

「で、結界石の作用でシャルルは『闇』の目からも逃れた?」

「仮説ですけどね」

 

 言いつつもアラティーは歩を進め、ゲハ家邸の礎石周辺に目を凝らした。

 士族の館でも石造建築だったので、燃え尽きたのだが外壁は残っている。

 屋敷は十年前に炎上しており、普通なら燃え尽きた建材やらが散乱して足の踏み入れる気分には到底なれる状態ではないが、それでも風化は確実に進んでいて、昔、五年程前に足を運んだ頃よりも、大分マシになっている様にも思える。

 前は倒壊しそうな形で燃え残っていた柱や二階の床などが既に崩壊していて、少なくとも突然生き埋めになる様な危険は無さそうだったからだ。

 それでも慎重に廃屋へ入ると、瓦礫混じりの石造の床をサッキュバスブーツの爪先で蹴った。

 

「何しているの?」

「下に空洞が無いか、捜してますのよ」

 

 サッキュバスの黒いピンヒールが硬質な音を立てながら移動し、時々、立ち止まっては爪先で音を確かめる。

 これも淫魔学校で習った技術の一つだった。

 

「ここですわね」

 

 鈍かった反響が明らかに異なった場所に停まり、アラティーは跪いて周辺を探る。

 周りにある焼け焦げた残骸で、手も露出した太股も炭で真っ黒に汚れてしまうが気にしては居られなかった。

 とにかく残骸をどける作業に集中する。

 

「見てられねーな。お姫様」

 

 見るに見かねてと言う感じで、アリンが屋内へ入ってきた。

 そして「どきな」と指示してから、目を閉じて呪文を唱える。

 

「我、汝を使役せり。アリンの名に命ず。出でよゲイマー!」

 

 召喚呪文であった。

 床に魔法陣が出現したと同時に、空間が割れてゼラチン質の塊がぼてっと出現する。

 アリンの息が荒いのは、かなりの魔力を使ったせいだろう。

 

「はぁ、はぁ。こいつを使って掃除するよ」

「ありがとうございます。えーと、お代はわたくしのお小遣いで足りるかしら?」

「大サービスで、無料だよ。でも……」

 

 召喚術はタダでは無いと代金の心配をする淫魔の男爵令嬢に、セイレーンはそう告げたが、続けて「これからも《ヴァーサ土木店》を御贔屓に」との自分の土建屋アピールを忘れない。

 成る程、『営業としてのサービスとしては優れた手か』とトリィ村の住人勢は感心する。

 

「動け、前進せよ」

 

 命令を受けてのそのそと前進を開始したゼラチンキューブは、床に積まれたゴミを体内に取り込んで行く。炭化した廃材、家具か何かの残骸、キラキラ光る物は硝子の破片か?

 取り込まれた物質は有機物なら分解され、無機物だったら排出されるだろう。

 

「ゼラチンキューブですの?」

「ああ、ゲイマーって名付けた。あたいが使役出来る唯一の個体だよ。捕まえて従属させるのに苦労したよ」

 

 アリンは今の所、使役獣は弱いこれ一体しかなかったが、別に傭兵として戦争する訳でも無いから、「下水清掃商売の上で不都合は無いよ」と述べる。

 とにかく、魔物が通った後はそこが綺麗に掃除させられていた。

 

「こんなモンかな。お姫様、様子はどうだい」

「待って下さいませ。あ……あった!」

 

 問われたアラティーは地下への入口を発見して、彼女は快哉の声を上げる。

 床に人一人がやっとくぐれそうな小さな、しかし、頑丈そうな石の扉が現れていた。

 

「へー。ここが入口ねぇ。あれ、重いの?」

「【ロック】の魔法でも掛かってるのか、うんとも、すんとも言いませんわ」

 

 入口を塞いでいる石。

 スライド式かなと試してみたが、どうもシンプルに蓋を外すタイプらしいのだが、その蓋を持ち上げようとして、悪戦苦闘している様子にトリンが尋ねる。

 恐らく単純ながら、物に鍵を掛ける魔法【ロック】が施されているのだと推測し、お嬢様は途方に暮れてしまう。

 

「参りましたわ」

「【アンロック】の呪文を知っているの」

 

 それは【ロック】の対抗呪文だが、実を言えばこれらは禁呪の類いだ。

 決して難しい呪文では無いが、泥棒に便利に使われてしまうとの理由で市井では普通は教えられていないし、使用もはばかれる代物であった。

 

「知りませんわよ。もし、知っていたとしても……」

「二級魔導士が施した呪文だから、我々の腕じゃ、太刀打ち出来ない、か?」

 

 アリンが言葉を継いで、さもありなんと頷いている。

 此処に居るメンバーで一番階梯が高いのはアリンの五級で、他はかろうじて魔導士を名乗れる六級に過ぎず、【アンロック】のみならず、【スペルイレース】等の魔導対抗呪文でも二級だと思われるシャルルの呪文に対しては、対抗出来ないのが容易に予想出来た。

 

「ええ、此処まで来たのに悔しいですわ」

「その穴は貫通しているのかい?」

 

 セイレーンの指摘した穴とは、把手代わりに蓋に付いている小さな窪みだ。指摘されたアラティーは「ええ」と答えて、念の為に目を近づけて覗いてみる。

 暗すぎて中は見えないが、穴から微かに空気の流れが感じられて、風が僅かにサッキュバスの頬を撫でる。

 

「下に空間があるのは確かですわね。残念ですけど、今日はここまでで……」

「よし、ならば、まだ方法がある。退いて!」

 

 慌てて飛び退くと、セイレーンの召喚術士の命令でゼラチンキューブがのたのたと進み、石の蓋に開けられた小さな穴に侵入した。

 キューブの体内にはまだ消化途中の色々な物が詰まっていたが、穴を潜るのに適さない大きな物を体外へ排出しつつ、ずるりと中へ入ってしまった。

 

「これなら行けそうだ。と、思う」

「ん、何が」

「行った先の状況だよ。助祭様」

 

 召喚師は感覚の一部を召喚した相手に同調出来るが、残念ながらアリンの召喚獣は視覚を持たぬゼラチンキューブ。

 よって、キューブが持つ四方の広がりを感覚で捉える空間把握でしか周囲の状況が分からず、行った先の空間が、そこそこの広がりがあるとしか把握不能であった。

 

「どうしますの」

「こうさ。アリンの名にて命ず。下から突き破れ」

 

 突然、物凄い音がして石の蓋が砕け散り、キューブが下から姿を現した。

 下の空間でゼラチンキューブの体を変形させ、その圧力で物理的に蓋を爆砕したのだ。

 

「魔法が駄目なら力業だよ」

「な、なんか凄いね」

 

 半分、呆れ顔のトリンに、にっと不敵に笑う召喚師。

 まぁ手段はともあれ、これで障害はなくなった。

 

「でも、あたいはこれで限界。もう、魔力が空だ」

 

 召喚獣の使役限界がここまでの模様で、ゲイマーと名付けたゼラチンキューブがすうっと消えて行く。

 呼び出される前の空間に帰還したのだ。

 

「こっから先の調査はあんたらの仕事。あたいはそろそろ親方の所に戻るよ」

「ありがとうございますわ。《ヴァーサ工務店》の親方に宜しく」

「……洞窟ね」

 

 これは領主代行とセイレーンの会話中、中を覗き込んだ巫女の感想だ。

 下に広がる空間は人工物では無く、天然の隧道と言った暗い雰囲気の穴をぼっかりと開けていた。

 

 

〈続く〉




約1,2300文字。
長いなぁ、今回も対決編に入れなかったよ。

でも、ようやく決戦場所に着いた。アリンが予想に反して大活躍したのは自分でも計算外でした。
ゼラチンキューブのゲイマーは、〝アキハバラに住んでいた大女優希望者「にょ」の従者から命名ゲマ〟だったり(笑)
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