由樹が上目遣いで見つめてくる。顔を上げないのは恥じらいではなく歯をぎらつかせているのを見せないためだろうか。
抱きしめ、壁まで彼女を押すときゃあとわざとらしく声を上げて、そっと最大限優しくしたのにもかかわらず、その声は自分で自分の発言に酔っているようだった。
「わたくし、どうされてしまうのかしら……」
目線をあちこち揺らしながら由樹の息が壁に挟まれて荒くなっている。慌てて下を脱ぐとはっはっと犬のように待っている。
彼女は声を出すのも出させるのも好きである。出血は勘弁してほしいものだけれど、初夜は思い切りやられて耳をもがれるかと思ったものだ。
「……んっ……はぁ、お腹がうずうずします」
さわさわと指先を波打たせながら彼女は自分で痛む腹をなぞり、誘導されて手を重ねるとうっと圧迫感に眉を顰め、それでも嬉しそうに、やや不気味に笑顔を浮かべている。
中は青く、いや黒くなっているだろうか。先日見たときはなかなかグロテスクな様子だったけれどとなぞってどの程度か範囲を確かめて、その怪我に手のひらを押し付けてさするとふぅと息がこぼれ、熱い息を吐いた。
「はぁ……さぁ、くださいまし」
彼女が自分でスカートをめくる。足の内側に川ができるように黒タイツが滲んでいる。開かれた足をぐいと乱暴に、喜ぶように好きに広げた。
彼女がくいと突き出しているむわぁと熱気を放つ入口にあてがうと、濡れ切ってむしろ亀頭が滑るほどだった。
クリトリスにかするとやんっとハートでもでそうな甘い甘いとろけた声が聞こえ、手が震える。
それも繰り返すといじわるとばかりに目線が飛び、やっとと入れると、彼女は高い声をあげた。
「ッあ゛あああア゛ッ! あっ……んっ……んん」
慌てて口を塞ぎ、彼女を見るとじんわりと笑っている。わざとか自然か、両方だろうか。
お尻を撫でながら腰を押し付けるとよく締まり、口を塞いでいることもあるのかぴくぴくと無理やりの呼吸が筋肉を固めている。
胸は小さくとも触れる。しかし服の上からでしかもこうした場ではやや乱雑で、丁寧な愛撫なぞ難しく、彼女の気持ちに水を差してしまいかねないとあえて触らなかった。
「ッふー……ンむー……」
由樹は声が大きい。叫びというのは生き物の感情や痛み、さまざまな生理的なごまかしという点もあることから声を出させること、出すことは彼女の好みとするところなのだろう。
しかしその癖は部屋ならまだしも人が通り過ぎそうな場所では少し難儀する。彼女は興奮すると部屋以外、いやむしろ好んでそうした場所でしたがる。困ったことに。
さすがに初めては雰囲気を作ったはいいものの、痛みも気にせず噛みつきあう野性の獣のような風情のないセックスになった。それは変わることもなく今も、自覚しているふしはある。
口を押えていると彼女の熱を帯びた息で手のひらに水滴ができると錯覚しそうになる。口に指を入れていたら噛みちぎられていたかもしれない。
少し不安定な姿勢で立ったまま腰を揺らしていく。声が上がりそうになるのに合わせて、手のひらで塞ぐのに加えてもう片方の手で、腹を押した。
「お゛ぐッ……ンンッ……ごっ、ふ……」
内臓が締まる。目が情欲でどろりと澱み、手のひらを伸びた舌で舐められ、思わず離してしまった。
「……んふ……はぁ……」
口が自由になった彼女はまた期待するような目で見ながら、催促するように腰をぐりぃと左右にくねらせている。
手はわざとらしく後方に隠され、ご自由にと見ている。それではとまた突きながら、怪我をどずんと押した。
「ッかはっ……ふ、ふふ……ひっ、ああ……すごい……」
上から唾液を垂らすと由樹はべぇと舌先で迎える。大切そうにそれを受け取る姿を邪魔するように腰を揺らし、あはと飛沫を飛ばしながら笑う彼女を責めた。
そして今度は片足を持ち上げ、もっと強くとした瞬間、彼女の唇が唾液をてらてらと伴いながらあーんと口を開き、首筋に牙を剥いた。
「あむっ」
かわいらしいそれはぎちぎちと肉に沈み込み、中の骨に食い込んでいるのではというな、内部にみちりと打ち込まれたような痛みを与えた。
噛むという行為は割とよくある愛情表現である。当然もっと強いのもいるのだけれど彼女は噛み、噛まれたがる。
揺さぶるように足を持ち、腰を振るとはふはふと噛みついたまま髪を揺さぶり、目がぎらりと獲物をみるように輝いている。
そしてぶぱと音を立てて口から剥がれながらがくんと頭を揺らし、今度はと光る眼がお願いをしていた。
首がじわりと疼く様に痛む。ならばとこちらもお返しとしてどこぞの吸血鬼のように、難儀しながらもあぐと彼女の、喉元に噛みついた。
「……ッかっ、あ゛ッ……ぎっ……」
白く晒されていた首、よりも喉元に噛みつくと柔らかな弾力が歯に帰ってくる。歯形をつけるようにみちみちと歯をわずかに開閉すると呼吸のような喉の動きがぴくぴくと、抵抗として現れるのをそのまま噛み潰す。
すると後ろ手はぶらんと落ち、頭上からひぃひぃとこぼれ落ちるような、かすれた笑い声もどきが響いた。
合わせて噛み続けていると膣内は絶頂のように痙攣し続け、じょばあと暖かい液体を漏らして、だんだんと顔が紅潮していった。
そして射精と合わせて乱暴に腰を振ると最後にぴぃと鳴き声のような声を上げながら、潮を小刻みに吐き出しながら体をびくんびくんとひきつらせた。
「……ぁ……っ……」
かぱぁと歯を外すと力を込めて噛みすぎたのか、ぴたりと肉が張り付いたように、剥がすのににちり、にちりと数瞬時間がかかっていた。
歯形はしっかりと残り、犬に食いつかれたようで、じわりと赤と白が混在していた。
かくんと首がずれ、壁にこつと当てるようにのけぞり、力が抜けていく。合わせて肉棒もにゅるりと吐き出されるように彼女の体から抜け、それでも暖かい液体はまだとばかりにこぼれてスカートを濡らした。
「は……ぁ……ああ……ふ、ふふ、ふ」
彼女はしばらく天を見ながら白痴のように笑い、がくがく震える足を支えられるがままになっていた。足元にはびたびたと液体が泉を作っていた。
少しすると固形のような液体がどろぉりとゆっくりと体から離れるのを惜しむように塊を落とし、ぼたりと一つ、ぷつと糸が途切れてはまた一つと白を撒いている。
わざとらしくひっぱるようにスカートを掴み、陰茎を拭うとだらけた顔でちらりとこちらを見てはくすくすと笑い、手をあげかけてまたおっくうそうに力を抜いた。
「……恥ずかしいところを見せてしまいました……」
うっとりとしたまなざしでこちらをみる彼女は酸欠のせいかそれとも別な理由か顔を真っ赤にして頬をより朱に染めている。はぁはぁと荒い息はどちらの意味か、またこぼれた液体にあっと呟いてはまたくすりと笑う。
「悲鳴は抑えようと思っているのですけれど……いえ、わざとではありませんよ? 本当に。ふふ」
由樹はよろよろと手を上げて大切そうに喉の痕をなぞり、指の爪をひっかけてこりこりと遊んでは妖艶に笑う。傷を宝物か、勲章か何かのように扱いながら。
壁を背にしていつまでも揺蕩いながら遊んでいそうな彼女に掃除を提案すると今思い出したとばかりにかくんと膝を折った。
そして半萎えほどになったペニスに一度距離を測りかねたのかべちゃりと当ててはしたないとばかりに目を一度閉じ、今度は過つことなくためらいなく口に含んだ。
「ちゅっ……お世話になりましたものね……あむ……ふふ……わたくしの、あひ」
ちゅぱちゅぱと唇を尖らせて先端を含んでは吐き出す。足元の汚れはそうしてるうちにも増えていくのだけれどとりあえず従ってしまう。
頭をなでるとすんと鼻を鳴らして喜ぶ。ペット扱いのようだけれどもくしゃりと撫でると笑う。髪をあまり触られるのは嫌な子も中には、ふりかもしれないけれどいる。
「はぁ……自分の味というのはなかなか……んっ……そうひへは、ご飯をきちんと食べませんと。もう冷めてしまったかしら」
冷たく言い放つ彼女だけれど、実際はそこまで気にしていないのかぺろぺろとゆったりと彼女のペースで舐め続けている。いつでもできるということなのか、ただ二人っきりでいたいのかはわからない。
「……はぁ……誰もいなくなるくらいまでこうしていたいのですけれど……」
由樹は鈴口をくすぐっていた舌を止めてじっとこちらを見ている。乗せた手で髪を撫でつけ、一房つまむように、遊ぶように時間つぶしのようなことをしてみる。由樹と名前を呟くと恥ずかしそうに舌を限界まで伸ばしていたのをしまい。初めてのようにちろちろと慣れぬふりをしている。
「ふふ……ありがとうございます。冗談……いえ、本気ですけれど、わたくしのわがままで日が暮れてしまいますわ」
ぐいと伸びるように彼女は立ち上がり、お互いの服装を整えながらぱたたと足元にできた新しい水滴にはにかむと雑巾を取ってきます、と去って行った。
することもないと、ついて行けばよかったとぼうっとしている。いまさら増えた誰かの声と、立っていると通りすがりの元気の良い挨拶が聞こえてなんだかお腹が空いてきた。
ガラガラとバケツとモップを持ってくる彼女に笑顔で手を振りながら、カレーではあまりムードはないかなと思った。