一夜目
201X, England, Outer London, The “Clock tower”
良し、これで準備はいいな、と呟く。スマートフォンを取り出しながらそこに刻まれている時間を確認し、そして同時に片手で握るラジコンのコントローラーも確認する。魔術師なんだから使い魔を使えばいいじゃないか―――と、言うかもしれないが、ここまで来たら意地だ。断じて魔術に頼るものか、と。これはもはや聖戦なのだ、そう自分に言い聞かせながらクソガキの笑みを浮かべ、そしてラジコンに設置されたボタンを押し込んだ。
どこか、爆発するような音が聞こえた。それに合わせ、あらかじめセットしておいたラジコンが動き始める。へっへっへ、と息の下で笑い声を零しながら空を見上げれば、少しだけ大きいラジコン飛行機が空を飛びながら、空から積み込まれたペーパーをカレッジの敷地内にばら撒いていた。そこに用意しておいたもう一つの無線で取り付けたラジコンから音声を流す。
『号外! 号外―――! オルガマリー・アニムスフィアに関する新情報だ! なんとあのアニムスフィアの女は―――』
空を飛んでいたラジコンが爆破した。流石に嗅ぎ付けるのが早いな! と心の中で称賛しつつ、ラジコンのコントローラーを捨てて、あらかじめ用意していた逃走ルートでの逃亡を開始する。監視、確認を行う為に昇っていたカレッジの屋根の上から滑り降りるように中へと戻って行き、カレッジの中へと入り、廊下の中を走って行く。
「へい、キョウジ、またやらかしたのかよ」
「お前、そろそろいい加減にしないと殺されるぜ? お前この前キメラをけしかけられたのに良く反省しないよな」
「反省したら負けだからな! まぁ、見てろよ。そしてばらまいた話を見てみろよ。いい話題のネタになるから」
「あいよー、逃げるの頑張れよ」
窓を開けて飛び出しながらカレッジの裏手から走って逃亡して行く。途中、歩いている学生の姿がまたお前かよ、という表情を向けては無視して歩き去って行く。最初の頃は全力で知らないフリをしていたのに、慣れるもんだ、と学生の適応能力に呆れをある程度感じてしまう。そんな己も間違いなくここに所属している学生の一人ではある―――だがそんな立場は認めていない。認めるつもりもない。支給された制服はその日のうちに燃やした。
魔術に必要な参考書は全て捨てた。
修練に必要になりそうな道具は全部売って小遣いにしてやった。
課題の提出の代わりにカレッジをテロる事もこれでもう何度目の事だ。
「ジャミング用の宝石が効いてる効いてる……金を出して買っただけの事はあったな」
自分へと向けられた探知の魔法が、知り合いの魔術師から買い取った礼装によって抵抗されている気配を感じ取り、邪悪な笑みを浮かばせながら更にペースを上げて走る。特別に鍛えられた訳でもない肉体は長時間の運動に長けている訳ではないが、それでも健全な男の肉体だ、それなりに動かす事は出来る。窓を抜け、廊下を走り、そして校舎の裏手を走る。時折此方を見つけた学生や教諭の視線がまたお前か、というのを向けてくるので片手で挨拶を送る。
無論、中指で。
そうやって何度も想定し、計算に計算を重ねた逃走ルートを通りながら向かうのはとある学舎の裏手になる。そこには逃走用に設置しておいた大型二輪バイクが置いてあり、その上へと飛び乗り、エンジンをかけながら一気に走らせる。
草地をホイールで潰しながら土で舗装された道路へと向かって軽いジャンプを行う様にバイクを動かす。
「課題? 俺に課題を提出しろだと? やれるもんならやってみろよ! オルガマリーちゃん! できるもんならなぁ! 社会的尊厳か! 教室の修復か! それとも個人的な復讐か! それを選んでからなぁ!! はーっはっはっは!」
100人が100人、俺を指さして頭がおかしいと言うだろうし、お前が絶対に悪いと言うだろう。だけどそんな事は俺には関係なかった。中指をカレッジの方へと突き立てながらあばよオルガマリー、とげらげら笑いながら校舎のあるエリアから商業区の方へと向かって全力でバイクを走らせて行く。風を切って頬に当たる風の感触が気持ち良い。この素晴らしさを理解しない連中は人生を損してやがる、そう思いながらポケットから煙草のパックを取り出し、口に咥えた。乗る前に火をつけりゃあ良かったなぁ、と思いながら溜息を吐く。
直ぐに部屋に戻る事は出来ない。どうせ監視されているだろうし。適当に数日外泊しなきゃダメだな、こりゃ。そんな事をどうでも良く思いながら逃げるように時計塔の商業区へと向かってバイクを走らせ続けた。
この世界には
それが神秘だ。
時代を経る事で世の中から神秘は段々と薄れてきた―――だが完全に死滅したわけではなく、確かに裏の世界で生きている。世の中に居る貴族と呼べるような連中はそれを知っていて、ひそかに魔術の研究を続けている。それが裏社会でのステータスであったり、国家がひっそりと知っている事であったり、或いはそれ自体が重要な事であったりもする。だが俺から言わせれば連中は正気じゃない。
魔術は、或いは神秘は大いなる流れからちょろちょろ、と流れ出てきた一部だけだ。だが魔術の研究を重ねる事でその大本へと近づく事が出来る。そのあたりの理解は完全に放棄した。だけどきっと、解りやすい言葉で表現するなら根源、アカシックレコード、或いは座とか原初、とかそういう事で表現できるのだろう。魔術師の目的はそこへの到達らしい。それが何よりも名誉であり、そして数世代通してやって行く事でもあるらしいのだ。
そしてその果てに待っているのは死と消滅だ。根源への到達はつまり生の終焉だったり、生物としての終わりだったり、或いは廃人だったり、という話を聞く。だけど魔術師はそれでも根源を目指す。まるでレミングスの行進の如く。自分の先にあるのが絶望と死と終わりだと理解しているのに、根拠のない自信であぁ、俺なら大丈夫さ! 絶対に戻ってこれる! そんな馬鹿々々しい考えを浮かべているキチガイばかりだ。そう、連中はキチガイばかりなのだ。
もはや冠位指定を含め、魔術に対する情熱や想いは呪いの類だ。いや、一代では消えずに次世代にまで届くのだ。こんなの呪いではなく伝染病の類だ。性病だって死ねばそれで終わるのに、それで終わらず次の子にまでしっかりと感染させるのだからそれよりもタチが悪い。しかも恐ろしい事に、魔術師には常識というものがない。連中にとっては研鑽以外の全てが些事だ。
そう、人の命でさえ。
クレイジーな研究所だって死刑囚を使った人体実験を行うだろう。それが倫理観というものだ。だけど魔術師にはそれがない。
イカレている。徹底的にアホらしい。どいつもこいつもキチガイばかりだ。
無論、魔術師全てがそういう訳ではないという事は理解している。だけど世の中、或いは魔術師という生物は大体がそんなもんだった。世界よりも神秘、根源。自分が盲目に歩かされているレミングスだと自覚していて全力で奈落へのダイブを楽しもうとしている。それが義務だと思っている。ダイナミック自殺を決める事が自分の使命だと心の底から思い込んでいる。
自分が知っている魔術師の中で一番正義感があり、まともと表現できる人物はちゃんとした倫理観を保有している。だがそれはそれとして、魔術の研鑽、根源を目指す事を義務だと思っている。一番まともな部類でこうなのだ。魔術というものはもはや麻薬よりもひどい。もしかしてお前ら前世でユダヤを虐殺していた指導者に洗脳された経験ない? と思えてしまう盲目っぷりは逃げ出したくなるレベルだった。
魔術を学ぶ者にまともな奴はいない。
魔術の研鑽は正気を削る世界。
魔術の深淵は人の為ではない。
魔術の追及の為に倫理等邪魔でしかない。
狂気、まさに狂気の世界だ。正気ではこんな世界に居続ける事は出来ない。最初は非現実的な事に目を輝かせ、そして興奮してもやがて、その現実に突き当たる。どれだけの外道が積み重ねられ、そして今でも人間を生贄として容易に使えてしまうこの現実が。他者だけではない。自分でさえも当然の様に次世代の為に使い潰せるという魔術師の世界はおかしい。
お前ら、全員、正気じゃない。狂っている。
「あ゛ぁ゛―……疲れたぁー……」
どかり、と音を立てながらソファに座り込んだ。バイクで走るのに装着していたゴーグルを首元まで下ろし、ライダーズジャケットを脱いで横に転がした。深く座り込みながら腕と足を広げる。今いるのは喫茶店の奥、ドアを一枚隔てているために外からは見えない他、防音と遮蔽の魔術によって外からは絶対に見られない様になっている部屋だ。ちょくちょく逃げ場として利用させて貰っている、行きつけの店だった。バイクに乗ってから追いかけられなくなったが、それでも逃げ切れるまでは緊張が続く為、漸く一息を付ける気分だった。そんな風にソファで休んでいると扉が開き、頭にバンダナを巻いた中年が入ってくる。
「ヘイ、キョウジ、とりあえず何時も通りアイスティー持ってきたけどこれでいいんだよな?」
「おぉ、サンクスサンクス」
目の前のテーブルに置かれたアイスティーのグラスを掴み、ガムシロップもいれずにそのまま喉の中へと流し込む。甘さは全くないが、走り回ったのと緊張から解放された事もあってすこぶる美味しく感じた。それで一気に半分ほど飲み終わったところでガムシロップの蓋を開け、それをグラスの中に流し込む。部屋から出る事無くバンダナを額に巻いた中年の男―――この喫茶店の店主は此方を見るとはぁ、と溜息を吐いた。
「お前、またカレッジ燃やしたんだって?」
「それだけじゃ捻りがないから教授の部屋をぶっ飛ばすのと一緒に個人情報流出してやったわ」
「お前、殺されるぞ……」
「そもそも俺は授業に出ないし出るつもりもない。だから課題をしつこく提出しろ、って言われても欠片も提出する気はないんだよ。だからアレは提出しなきゃ云々、と言ってくる方が悪いんだよ。そもそも俺、成績とかまったく気にしてないしな」
「だからと言ってカレッジを燃やすのはどうかと思う」
「仕方がないだろう? 俺の保護者がアレなんだから。これぐらいやらなきゃペナルティの一つや二つ、やってくれないんだよ」
魔術なんて絶対やるもんか―――そう息を吐き捨てると、溜息が店主から返ってくる。このやり取りももう何度目だろうか。だがここで踏み込まずにいるからこの男は話しやすい。仕方がねぇなぁ、と声を置き、店主は扉を抜けて去って行く。その背中姿を見送ってから再びアイスティーを喉の中へと運び、息を吐いた。
「はぁー……時計塔なんて来たくなかったのになぁ……」
かつて、時計塔は大英博物館の地下に存在し、ダンジョンの如く伸びていく暗黒空間だったらしい。だが様々な問題が噴出した結果、研究機関の多くを地下に残したまま、カレッジや学舎、他には学生向けの寮などに関しては地上部分、ロンドン郊外にそのまま、大学という形で広げる事となった。数百を超える学舎などにそれを支える為の生活空間と小規模な街、全てが魔術師による魔術師の為の小規模な学園都市となっていた。普段は秘匿しなくてはならない魔術だが、時計塔によって学園都市を中心に魔術を知らぬ一般人を遠ざける魔術が張られており、堂々と魔術が使える都市が作り上げられたのだ。
だから、この街には魔術師しか存在していないのだ。
故に自分はロクデナシの街と呼んでいる。
何度ここから脱走を企てた事か。しかし魔術師としては遥か高位にある師匠が原因で、半ば呪いの様に自分の存在はこの街へと縛りつけられていた。学ぶつもりのない魔術、そして課題の提出や催促を行う教授。更生させようと話しかけてくる連中、全部うんざりだった。
自分は、魔術を学ぶ気なんて欠片もない。
使うのはまぁ、良いかもしれない。だけどこれ以上その深淵に踏み込むつもりなんて欠片もなかった。それだけに関しては絶対的に強固な意思で反逆している。嫌と言ったら嫌なのだ。
だが自分を連れてきた人物は何が目的か、ここに縛りつけて魔術を学ばせようとしている。いや、その目的は解る。だけど自分にはそんな気はない。
だから毎日毎日、テロや嫌がらせを繰り返す事でさっさと放校されることを求めてきた。教授の浮気の現場をばら撒いたり、絶対ばらされたくない趣味をばらしたり、定期的にカレッジを放火したりで。最近ではそれにも慣れてきたのか、放火後の対処が早かったりするので、別の手段を編み出さなくてはならない。そう思いながら面倒だなぁ、と考える。
「はぁ、魔術なんて学びたくもないのに……」
なんでこんなところへと来てしまったのだろう。いや、解っている。悪いのはクソみたいな師匠と、そして両親だ。両親の方は典型的な魔術師だ。盲目的で、誇り高く、そして使命感を持っていた。魔術を探求する事が正しいというのを疑っていない。彼らは解っていないのだ、魔術を探求した果てに待っている絶望がどれだけの事なのかを。馬鹿馬鹿しく、そしてキチガイだ。
キチガイばかりだ。
「みんな頭がおかしい。なんで自殺する為に勉強するんだ」
根本的にそれが理解できなかった。なぜ恐怖を感じないのだろうか? 自分が学んでいる事は全て自殺する為の道具であるという事を自覚していないのだろうか? それが自分にはどう考えても恐ろしく感じられた。魔術とは最終的に根源を目指すものである。音に聞く魔法使いの様に完全に道具として割り切っている連中以外にとっては根源へと至る為の道具。
つまり自殺の道具。
やはり理解できない。
何故この恐怖を感じないんだろうか、と。
「はぁ、早く退学にしてくれないかなぁ……こんなクソみたいな国からさっさと出て行きたい……」
呟きながら天井を見上げていると、それを遮るように灰髪の老人が顔を見せた。
「ほう、そんなに罰を受けたいとは感心だな」
「おわぁぁぁ―――!?」
座っていたソファから驚きながら滑り落ちる瞬間、脛をテーブルにぶつけ、言葉にならない痛みに両手で脛を抑えながら悶絶する。それを見た灰髪の老人がくっくっく、と意地の悪い笑みを浮かべて笑っているのが見えた。瞳に涙を浮かべながらそれを何とか堪え抜き、振り向けば、そこに老人の姿はなく、
「相変わらず派手にやったようだなぁ」
「クッソ、爺……!」
再び正面へと視線を向ければ、そこには魔術師らしいローブ姿の老人の姿が見えた。姿は老け込んでおり、灰髪が目立ってはいるが、だがその体に覇気と呼べるような若々しさが溢れている。だがそれ以上にこの老体を知らぬ人物が魔術師の中に存在しない事が特筆すべきことだろう。この老人こそが最も有名な
キシュア・ゼルレッチ・シュバインオーグ、第二魔法と呼ばれる、現代科学では絶対に真似出来ない魔法と呼ばれる領域に到達した人物であった。
そして何よりも、現在の自分の保護者、或いは師匠と呼べる立ち位置に居る人物でもある。だがこの男に対する感謝の気持ちなんていうものは欠片も存在しない。そう、自分が日本から海を越え、そして特別に飯が美味い訳でもないこの辺境の島国へとやってきたのはこの男が全ての元凶でしかないからだ。
中指を突き立てながら、口を開く。
「まだ寿命を迎えてなかったのかよ糞爺、早くくたばって俺をこの辺境から解放してくれよ」
「ほう、師に対してそんな言葉を吐くとはな、大したもんだ」
何が面白いのかは全く理解できないが、この頭のイカレた魔術師の中でもさらにイカレている魔法使いと言うジャンルの老人は、ストレートに罵倒すると笑う。魔法使い、それは根源という場所へと最も近い人種だとも言われている。だからこうやって笑っているゼルレッチの姿を見ていると、魔法のキメ過ぎで頭がくるくるぱーにでもなったのではないかと勝手に解釈している。
ロックミュージシャンがロックをするために麻薬をキメてパーになる様に。
「それより爺、さっき俺、天文学部のカレッジをぶっ飛ばしてやったんだ。これはそろそろいい感じに退学ラインに足を突っ込んでいるんじゃないかと思うんだけどなぁ!」
「ははは、クソガキめ。他の所の弟子であれば退学どころか首の下までが棺桶に突っ込まれている所だ」
知っている。だが魔法使いの弟子という肩書はその程度では害する事が出来ないレベルで重さがあると知っている。だからそう簡単には退学が出来ない。そしてそもそもこの魔法使いが俺を自由にしてくれない。なぜかは解らないが、時計塔から手放してくれないのだ。
その為の反逆として時計塔を定期的にテロっているのだが、
それに合わせ、全体的に時計塔の修復チームの練度が上昇している気がする。
場合によっては事前に修理のスタンバイする為に、テロの日程を聞き出そうとする連中までいる。やはり魔術師の頭はおかしい、何を考えているか全く理解できない。日本に帰りたい。そんな事を考えて現実逃避を行っていると、ステッキを片手に握っているゼルレッチが空いている片手を伸ばし、此方の服の裏襟を掴んできた。次に何をやるのかを察し、即座にライダーズジャケットを掴んだ時には持ち上げられ、
体を放り投げられていた。
「クッソ、爺め……!」
投げられるのと同時に視界の先が完全に切り替わり、場所は喫茶店内の一室から完全に変化し、大人しい雰囲気のする執務室へと変わった。少し高い位置に放り出されたところで軽く受け身を取りながら床に着地し、ジャケットに袖を通しながら起き上がった。ぎこっ、と音がしたと思えば数瞬前までは誰も座っていなかったはずの椅子に、ゼルレッチの姿が見えた。
転移魔術。それこそ魔法級と呼ばれる魔術ではあるのだが―――魔法使いであるゼルレッチの前に、そんな難易度の壁は存在しない。そもそもゼルレッチは時間軸にも、場所という概念にもとらわれない。
ゼルレッチが至ったのは第二魔法。即ち平行世界の運営。
故に場所への移動なんてものは朝飯前、欠伸を漏らしながらでも出来てしまう。それはそれとして、此方を放り捨てておいて本人は優雅な椅子の上に優雅に登場とか良いご身分ではないか。立ち上がったところでゼルレッチの椅子の前に置いてある執務机に両腕をバン、と叩きつけながら下ろす。
「さぁ、俺のパスポートを返して貰おうか! そしていい加減退学させてくれ! もうこんな辺境で魔術に関わって生きるのはこりごりなんだ。俺がいなくなればまともに講義が進む! ここの教授たちはプライバシーが守られる! お互いに利益のある行動だろうクソ爺!」
「面と向かってそのクソ爺と言い切る根性は気にいっているんじゃがなぁ、誰もがそういう感性をしている訳ではないから気にしたほうがいいぞ?」
「ここから出て行く為だよ!! 俺一人の影響でそっちの評判だって落ちているんだろう? だとしたら俺を破門させた方が遥かに早いだろう! さぁ、さぁ、さぁ!」
ガンガンと手を机に叩きつけていると、段々と手が痛くなってきたので動きを止める。机のひんやりとした感触に涼みながら、ゼルレッチを見据えた。時計塔へとやって来てから提出した自分の課題はゼロ。教授への罵詈雑言は基本、そしてカレッジへのテロも何度も行っている。その報復を受けた事だって一度ではない。だけど、それでも生きていられた、そしてここに居たのは魔法使いの弟子というプレミアがあったからだ。
それがなくなれば誰も俺と関わろうとは思わないし、俺も関わりたいとは思えない。
やっと、ここを自由に出て行けるのだ。
自分は魔術を学ばない。学びたくはない。
「……」
正面からゼルレッチと睨みあいを続ける。しばし、そうやってゼルレッチと睨み合いを続けていると、そうだな、とゼルレッチが口を開いた。ごくり、と生唾を飲み込みながらゼルレッチの言葉を待った。何かを眺めるように虚空へと視線を向け、考えるような様子を浮かべてから言葉を続けた。
「そうだな……考えても良い」
「マジかクソ爺」
「お前とルビーぐらいだな、どんな状況でもそう呼んでくるのは」
憎しみはあれど、感謝なんて欠片も存在しないのだから当然だ。自分は魔術とは関わってはならないのだから。これ以上学びたいとも知りたいとも思えないし、思わない。だから早々にパスポートを取り返し、この国を出て行きたい気持ちしかない。日本に帰ったら東京に行こう、そして実家とは関係のないところで生活するのだ。
ソシャゲで廃課金しつつ。
「で、言い方からすると何か条件があるんだろう?」
「あぁ、無論それはそうさ。それに、それだけではない―――今までずいぶんと派手に暴れまわっていたようだからな、少々ペナルティの一つでも与えんと流石に示しがつきそうにないからな。どれ、一つ笑えるペナルティでも課そうとするか」
笑える、というゼルレッチの一言に急激に悪寒を覚える。
この魔法使い―――センスがまるで死んでいるのだ。
魔法少女の変身ステッキ、喋る携帯電話とか、何のために作ったのそれ? と思いたくなるような姿をした道具を中身ガチ目で作成するという欠点を持っている。そんなセンスで
「ぐぇぁ」
潰れたカエルの様な声が喉から漏れ出したところで飛び出そうとした体が目に見えない衝撃によって床に叩きつけられた。ひんやりとしているなぁ、と床に転がりながらその冷たくも硬い感触を服の向こう側から感じていた。机の向こう側から覗き込むようにゼルレッチは見下ろしており、うむ、と満足げに見下ろしていた。
「さて、お前に与えるペナルティはそれとして、パスポートが欲しいのであれば仕事を一つ、代わりに片付けて貰おうか。それが完了すればここから出て行くのも、ここに残るのもそちらの勝手として任せよう。だが最低限、与えた損害に匹敵する利益を出してくれなければ手放す事も出来んなぁ……言っておくが、安くはないぞ?」
そう言われると非常に辛い。だけどここから追放されるにはそれが一番手っ取り早く、そして確実だった。
そして今、漸く、ここから脱出する為のチケットが見えた。
それは脱出へのチケット、非日常から脱出する為のチケット、もう二度と魔術というクソみたいなものに触れなくて済むためのチケット、
「それでは仕事をお前に回すが……何時まで寝てるんじゃ」
「うーい……」
声が少し高くなった? と感じつつも床から体を引きはがし、持ち上げる。その際、少しだけ頭が重く感じ、体が軽くふらつく。髪が片目を隠す様に降りてくるのをいつも通り見ながら、起き上がってゼルレッチへと視線を向けた。それを受けゼルレッチは頷き、
「良し、では明日、欧州の方から大英博物館へと欧州神話祭典の為に色々と美術品が運ばれてくる。無論、大英博物館がこちら側のフィールドであるのは理解しているな?」
「あぁ、そりゃあな。第一あそこは元時計塔だしな」
やはり声が変だ。なんというか、女の声の様な気がする。首を傾げながら喉に触れる。その間にもゼルレッチは話を続けた。
「そうだ。大英博物館で展示を行うのはそういうパフォーマンスもあるが、聖遺物や触媒の類を運ぶ時にそれらしい名目や運び込みの時の処理を楽にする為でもある。今回、海外から神代の触媒を運び込んでくる予定だ。お前の仕事はそれを空港で受け取り、大英博物館へと運ぶ事だ。運び方はそちらで一任する。ちゃんと形を保って大英博物館まで空港から運べれば問題はない」
成程、と頷くと髪がふぁさ、と揺れるのを感じた。おかしい、髪が伸びたのか? と、視線を後方へと向けた。元々横髪は伸ばしていたが、それよりも長く伸びる後ろ髪を見つけた。此方の方はちゃんと切っていた筈なのに、長く床に届きそうなほどに伸びる黒髪の姿が目に映った。だがその視界の端に違うものが映った。
……ん? ある?
「ここに代理の証明となる書類と、何かあった場合のメモを置いておく―――空港に―――時だ。解ったな?」
下へと視線を向けた。そこには見慣れないふくらみが“Buster!”と書かれてあるお気に入りのクソダサTシャツを下から押し上げていた。額を走る汗の感覚に、視線を見慣れないふくらみから正面、ゼルレッチへと向ける。
「あの」
「少し横から違うテクスチャーで上書きしただけだ。お前も第二魔法が使えるようになればどうにかできるだろう」
「それってつまりどうにもならねぇって事だなこのクソ爺」
「嫌な事じゃなければペナルティにならんじゃろ?」
この瞬間、頭の中で魔法使いの殺害方法を考え始めたのはおそらく、間違いじゃなかった。このクソ爺、弟子を止めた時は絶対に一発お礼参りしてやるからな、と心の中でどす黒い感情を溜め込みながら静かに中指を両方とも持ち上げ、死ね、と言うアピールを行う。
だがそれを見て、結局のところ、ゼルレッチを楽しそうに笑わせる事しかできなかった。
絶対に殺す。そしてこれを力づく―――では無理なので、仕事が終わった後で絶対に解除させる。それを心の中で誓った。
Q.これはどういう話なのですか?
A.FGOの前日譚的なシナリオを作成し、裏でダイスロールを挟みながらキャラの育成を目的とした【リプレイ風SS】です。
つまりシナリオ作成→キャラデータ作成→ダイス転がしつつシナリオを一人で進める→ダイス結果を反映してSSにするという遊びである!!という訳で主人公の初期ステータスを公開。※リンク先を見てね
https://www.evernote.com/shard/s702/sh/508ad70f-8ef4-41ea-a414-fa870cad1229/9c8fc5576f1ce9b06610c9cd3c4c73fe
シナリオのクリアでステータスを上昇する点が、そして合間でコミュをダイスで決定して魔術等を習得し、FGOに紛れ込もうというアレ。ショートキャンペーンでキャラを育成して大型キャンペーンへと持ち込む感覚。
1シナリオ目は完了してダイス振り終わっているので後はそれを文章にして更新するだけだけど、その性質上更新はゆっくりデース。遊びながらだからね。
まぁ、そんな訳でゆっくりよろしく。