※この作品はR-18です。

Kaleid/Burn Out   作:てんぞー

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倫敦二丁目

「さて、ロンドンに来たのはいいけれど、まずは何から手を付けるべきかなぁ……」

 

 バイクを駐輪場に止めておきながら降りたところで、呟きつつも軽く頭を掻く―――ぶっちゃけ、警察の資料に関しては既に手元にあるのだから、情報は手元にあるのだ。だからこれをベースに行動を組み立てればいいのだが、動ける範囲が広いのが困りどころだ。ともあれ、此方へと来る前に防御力向上と認識阻害を服に叩き込んだ為に、少し奇妙な行動を取った所で回りの人間から視線を向けられるようなことはなくなった。少しぐらいに派手に動いても大丈夫だろうし、

 

「……無難にヤードに行くか?」

 

「……?」

 

 出現したレティが首を傾げるので、説明する。

 

「ヤードってのはあの悪しきヤードポンド法じゃなくて、スコットランドヤードの略称だよ。つまりはロンドン警視庁さ。基本的にロンドン市内の事件とかはここで管理するし、警察官も大体ここに居るもんさ。話を聞くのならまず間違いなくここだな」

 

「……」

 

 此方の言葉にこくこく、とレティが頷いた。本当に解ったのだろうか? まぁ、今ではニュー・スコットランドヤードなのだが、一番情報を聞き出しやすい場所はここになるだろう、とは思っている。まぁ、ここからは遠くないので、歩いて向かえる距離だ。素直にバイクはここに置いて歩く事にする。歩くのも運動だ。悪くない……筈だ。

 

 ま、それはともあれ、シティ・オブ・ロンドンを二週間ぶりに歩き始める。

 

 セイバー、レ・ロイとの戦いを通してかなり派手に破壊を繰り返したロンドン市内はまるでそんな被害が最初からなかったかのように普段通りの生活に戻っていた。すぐ近くを流れるテムズ川ではボートが走っており、舗装された道路を車やバスが走っている。そういえばロンドンは日本同様、メトロ関係が非常に充実しているな、というのを唐突に思い出す。公共機関が発達しているおかげか、個人で乗り物を所有していなくても比較的に地区から地区への移動が楽なのが良い街だと思う。

 

 しかし、メシに関しては非常に文句を言いたい。

 

 なんというか、悪い訳ではないのだ。ただ物凄い雑なのだ、この国。探せばそりゃあ美味しいところもちゃんと存在するのだが、それは()()()という話になるのだ。ぶっちゃけ、まともに料理を覚えた家庭料理の類が店に入るよりも遥かに美味しい。

 

 そんな理由でちょっと高くなってしまうが、日本の食材とかをこっちのインターナショナルフーズストアで購入し、自分は自炊している。時計塔での生活が始めてから此方、料理力はかなり向上している自信があった。いや、必然的に飯マズ環境に囲まれている場合自分を鍛えないとどうにもならないので当然の結果と言えば当然なのだが。

 

 それでも、悪くないものはあるのだ。

 

 歩いていると見かけるのは小さい赤いワゴンであり、その上に並べられたホットプレート、そしてそこから流れてくる甘い匂いだ。ワッフル販売のワゴンだ。ちょくちょくこういうのを見かけるが、こういうお菓子系列は悪くないんだよなぁ、と思っている。せっかくので自分に一つ、そしてレティに一つ購入する。

 

 無論、何もかけないプレーンで。

 

「おらよ、急いで喰うなよ?」

 

「……!」

 

 頭を勢いよくぶんぶんと振り回すレティがワッフルを受け取ると、それに勢いよく噛り付いた。その眼には前には見えなかった光の様なものが見える。やはり《精神汚染》を取り除いた結果だろうか? 彼女の中に趣味や趣向、と呼べる物が少しずつだが築いているのを感じる。どうやらこの小さな破界剣は食事、という行動そのものが好きらしい。特に甘いものを食べるのが好きっぽい。

 

 ワッフルを食べている表情は笑っているのではなく、幸せそうなのだ。

 

 それに令呪を失っても繋がっているパスから、幸せの感情を僅かにだが感じる。少しずつ、少しずつだが人間性を獲得してきている。刺激を与え、それを学ばせ、人間としての形を作っていく―――知識だけは存在するのだから、そこまで難しい物じゃないとは思う。

 

「と、俺も食わないと冷めちまうな」

 

 包み紙を軽く広げて、その中のワッフルに噛り付く。日本のワッフルのイメージは柔らかいものがベースだろうが、此方は少々硬めで、端の方はパリっとしているタイプであり、クッキー生地の中が柔らかくなっている、という感じが一番イメージとして近いのかもしれない。この上からお好みでハチミツやらチョコソースやらをかけるのだが、個人的にはこの時点で十分に甘いので、このまま何もつけないプレーン状態で食べるのが一番好きだったりする。

 

 まぁ、ちょっとした街中での楽しみである。量もそんなに多くないので、おやつとして糖分補給するならちょうど良い。

 

「美味しいな?」

 

 そう言うとレティが食べながら頷いてくるので、苦笑しつつ足をニュー・スコットランドヤードへと向けた。さっくりと食べ終わって残してしまった包み紙に関しては起源の炎で焼き消す―――神話を焼き滅ぼした炎でゴミを完全燃焼させて地球から完全に消し去るという最もエコな魔術の使い方だった。

 

 そんな訳でニュー・スコットランドヤードへと到着する。認識阻害の魔術の便利さが今更になって物凄く解る。本来であれば一般人の立ち入りが禁止される場所へとすんなりと入れるのだから。

 

 昔は古めかしいビルだったらしいが、何度も移転してからは最新鋭のオフィスビルディングの様なガラス張りの建造物となっているロンドン警視庁。当たり前だが最新の設備がないと法は守れない。だがそれも魔術には勝てなかった。

 

 するり、と入り口を抜けて中に入りつつ受付へと向かう。資料を読み込んで、殺人事件を担当している人間が誰なのかは既に知っているので、

 

「J・マディソンって奴を探しているんだが」

 

「はい……えーと……この時間なら……彼ならX階にいます……」

 

「ご苦労、仕事に戻っていいぞ」

 

 催眠術で欲しい情報を引き抜き、認識阻害はそのまま、事件を担当する人物に直接会いに行く事にする。なるべく自分の証拠は減らしておきたいので普通にエレベーターではなく階段を上がって行き、マディソンのいる階まで上がって行く。そしてそこで適当にいる警察官を捕まえて誰がどれなのかを聞き出し、

 

 本人を捕まえる。後は先程みたいに催眠で本人でさえ忘れている情報を喋らせる。

 

 

 

 

 催眠や暗示というのはただ魔術を使っている訳ではなく、脳に対して情報の要求や改変を行っている物でもある。つまり黙っていろ、と催眠魔術で命令した場合は脳がその命令を自動的に受理し、本人の意思とは関係なくそういう風に行動するようになる。その為、催眠や暗示で情報を聞き出す場合、脳が情報を取得してればそれを確実に聞き出すことが出来るという特徴がある。

 

 そもそも、人間は情報をめったに忘れる事はない。覚えてはいるが、それを思い出すことが出来ない状態にあるだけだ。つまりパソコンに保存したファイルを探す時に、どのフォルダにファイルを仕舞ったのかそれを見つけるのに時間がかかっている状態になっている。

 

 つまり、催眠や暗示によって情報を聞き出す時はこのフォルダやファイルをサーチで指定している状態なので、即座に引っ張り出すことが出来る。

 

 なのに、()()()()()()()()と言うのがマディソンの言葉だった。

 

「うーん……厄介だなぁ、これは……」

 

 テムズ川横の土手に座り込みながらそう呟いた。実際、かなり厄介な状況の様に思えた。文字通り、マディソンは事件に関しては何も思い出せないと言っていた。事件現場に到達し、そして何かを見て、事件が終わった。

 

 それだけが事件の間にマディソンの見えた事だったらしい。

 

 まるでナイフで抉り開かれたような下腹部の傷。確認された子宮。事件現場は飛び散った血液によって悲惨の一言に尽きる状態になっていたらしい。ここまでは資料で読んだ通りの内容だった。そしてこれに続く言葉があるのだ、と思って警察官から話を聞き出したつもりだったのだが、魔術によって忘れられているのでも情報がロックされているのでもない。

 

 文字通り、情報が完全抹消されていたのだ。魔術を使って脳を焼けば確かに情報を抹消する事も可能だが、ここまでダメージもなく綺麗に自分に関する情報だけを焼くのは非常に難しい。そのあまりにも正体の見えなさ、そして女の子宮を引きずり出すような殺し方。

 

 確かに、切り裂きジャックの再来だと騒がれてもおかしくはない。

 

「とはいえ、どうなんだろう? 切り裂きジャックのサーヴァントなんてありえるのか? 信仰や英霊の土台として余りにも存在が弱すぎないかこれ?」

 

 だって聖杯戦争とは偉人や英霊と呼べるような人物を召喚する術式で、そのベースとなったのは守護者を召喚する為の術だ。つまり、守護者と呼べるのに相応しいレベルの存在を呼ぶための術を劣化させているのだから、生前5人程度しか殺せていない連続殺人犯が英霊として召喚されるのはおかしくはないか? という話だった。

 

 なにせ、セイバーのレ・ロイはベトナムのアーサー王と呼べるレベルの伝説の英雄だった。そしてそういう時代の人間は普通に数百人以上ぶった切っている。それが強さと信仰の土台となるからだ。強さにはそれだけの理由とベースが存在している。だがジャックはどうだろうか? 確かに有名人だし、ロンドンどころか世界中で知らない人物はいないであろう、有名な殺人犯だ。だが殺したのは5人だけ。そして正体は諸説があっても不明である。

 

 明らかに英霊のベースとしては弱すぎる。

 

「まぁ、まともな聖杯戦争であれば絶対に呼び出せない英霊だよ―――あん?」

 

 そこまで喋ったところで、発言を止めた。今、まともな聖杯戦争、と発言した。何と比べてそう発言したのだろうか? そもそも自分が経験し、知る聖杯戦争の中身はこれが初めてだ。なのに何故、まともな聖杯戦争とは、と言葉を出せたのだろうか……?

 

「……」

 

 思わず無言になり、考えてしまった。自分が少々おかしいのは自覚している。ペナルティを受けた時―――ではない。これはゼルレッチには関連しない。となるとやはり、レティと契約した時だろうか? 彼女の宝具効果で起源を自分は覚醒させられているらしい。起源を汚染されているらしい。

 

 レティと自分には共通する起源がある―――【界】だ。

 

 境界、世界、つまりは第二の魔法に最も近い起源。これがあり、遍在という魔術が使えるから、最も魔法に近い魔術師として弟子に取られた。今まではまるで考えなかった、界の起源。此方は鏡と比べると酷く曖昧で、定義が難しく、尚且つ()()()()()()()()()()()起源だった。その為、深く考えた事はない。だけど今、レティと共にその起源を共有している所、首を傾げざるを得ない。

 

 果たして俺はその起源の影響を受けているのだろうか、と。

 

 そもそも、俺は既に起源に屈しているのか? していないのか? なんで無事なのか? その事実さえも曖昧で不明だ。解ってはいないのだ。起源に関連するアレコレは調べる事で覚醒してしまうため、不可能だ。出来るのは覚醒した人間を観察することぐらいだから、事実上、研究不可能な領域だと言える。もし俺が本当に突き抜けて覚醒したのであれば、

 

 それこそ封印指定される可能性もある。そう考えると実に恐ろしい。

 

 バゼット・ゴリ・ラ・マクレミッツとかいうサーヴァントを相手に出来るゴリラの相手をしなきゃいけないとか死んでも嫌だ。第一無理やり時計塔に入学させられておいて時計塔のルールに従えって理不尽じゃないだろうか。お前、ブラック企業亜種? とか言いたくなるアレ。

 

「はぁ、馬鹿ばっか……じゃねぇな。世の中クソだな。そうそう、こっちだこっち。今時ルリルリの話をしても通じる相手がいねぇよ」

 

 なんでアレ、劇場版で急にダーク路線へと突っ走ったのだろうか? でも割とテレビアニメ版よりもあの劇場版のダークっぽさは気に入っている。やっぱり男子たるもの、どこかダークヒーローという言葉の響きには弱いものがある。

 

 だって悪ぶりながら手段を択ばず、一番大事なものの為に一貫して行動し続けるって、絶対かっこいいではないか。

 

「……はぁ、気晴らしに軽くガチャ回しつつ考えを纏めるか。脇道に思考が逸れ過ぎたし」

 

 スマホを取り出して適当なソシャゲを起動させつつ、ショップからガチャ石を適当に購入し、時間をかけてガチャを回すために纏めてではなく単発でガチャを引き始める。この作業染みた行動が地味に脳を活性化させてくれる。何せ、余分な事を考えなくて済むから。

 

「とりあえず―――相手は完全に情報を抹消しながら潜伏活動が出来る相手であり、目撃情報は消えて、そしてその影も形も捉えることが出来ない。この状況から推測するに相手のクラスは7騎の内、暗殺と隠密に特化したサーヴァントのアサシンであるとみられる」

 

 セイバー、ランサー、アーチャー、キャスター、ライダー、バーサーカー、そしてアサシン。これが基本の7クラスになる。このうち情報を抹消して人を殺して回るだけの能力があるのはアサシンだろうと思う。

 

 キャスターも似たような事が魔術で出来るかもしれないが、基本的に魔術師と言う生き物は相手を待ち構える生き物だ。工房を築き、そこで籠城戦を行うのが魔術師の戦いなので、自分から打って出るとは思えない。

 

「推定アサシンの正体が巷で言われる切り裂きジャックならその目的は……娼婦の粛清? いや、殺された女はそういうのは関係なかった。純粋に子宮を確かめるように殺されていたから、子宮そのものを確かめるのが目的だったのかもしれない? なんだよそのサイコパスは」

 

 切り裂きジャックは娼婦に対する異常な執着と殺意を抱く殺人鬼だったと言われる。ロンドンでの殺人鬼イコール切り裂きジャックというイメージが先行するが、子宮を引きずり出すとかいう事にまでは手を出していない。

 

 もっと、こう―――無垢で、邪悪で、擁護のしようがない感じを覚える。

 

 そう、言い換えれば()()()()()()()という感じだ。

 

 美学もなく、信念もある訳でもない。それが資料から感じ取った犯人に対する印象だった。だけど感じ取れるのはそこまでだ。自分はシャーロック・ホームズではないのだ、この程度で答えを導き出せるわけではない。

 

 危ないお薬を何度か経験している点は一緒だけど。

 

 まぁ、魔術師なんて危ないお薬を割と普通にキメているというか、それ以上に危ないお薬とかキメてるからこれぐらい問題ないだろう。

 

「なんつーか……常軌を逸脱した執着を感じるな」

 

 サイコな執着、だと思う。少なくとも殺す事が目的ではなく、()()()()()()()()()()()()という結果の様に感じる。だがそこまで考えるので現界だ。流石にこれ以上の情報は目撃者が皆無である以上、存在しない。

 

「冬木の聖杯だと山の翁以外は出現しないって爺が言ってたなぁ、そういやぁ」

 

 だけどこのやり口はどう見てもプロではない。伝承と精神性が混ざった結果、情報だけが消えて執拗な殺害が発生している。そんな感じだと思う。暗殺教団に所属する存在がこんな乱暴な手口を行うとは思えないし、挑発にしてはあまりにも汚い。プライドというものが殺し方には見えない。

 

 ……やはり、見えてこない。

 

 となると、

 

「……お、46回目でSSRってこいつもう持ってるし、1凸するのに使っておしまい、っと」

 

 ガチャを終わらせたところでスマホをポケットの中に突っ込み、立ち上がる。話を聞いて、そして資料を見て感じられる事だけでは限界がある―――どうやら、自分の足で直接現場を見る必要があるらしい。

 

 まだ暗くなるまではそこそこ時間がある様に感じる。となると適当なネットカフェにでも入って、ネトゲでもしながら時間を潰すのが良いだろう。それにネットカフェの個室だったら魔術を弄ったりカスタマイズする時間もある。

 

 本番は今夜からだ。




 という訳でシティでの調査タイム。かなり地味だけどよくあるフェイズ。そう、卓ならね。なお調査は空振りまくってる。

 次回は現場から。それにしても中々エロを入れる暇がない。
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