転移魔術とは魔法の領域に近いものがある。結果としてみれば一つの場所からもう一つの場所へと移動するだけなのだから、歩いて出来るし、車や飛行機、自転車にだって再現できる。だから転移は魔術扱いではあるが、利便性や行っているプロセスを考えると魔法級だと言われている。つまり、魔法を使用する事が出来るのなら比較的楽に出来るという事でもある。
まだ魔法の切れ端を掴んでいるだけの状態だが、やれることは解っている。魔術回路に燃料を注いだらそれを消費し、自分の存在確率を操作する。現在位置の存在率を0パーセントにし、その代わりに転移したい先の存在確率を100%にするのだ。そうする事によって世界の修正力が発生する。この人物はここに存在しないのだから、当然ながらそこに存在してはならない。もっとパーセンテージの多い場所にいる筈、と世界が認識する。
その結果、転移するのだ。これがアーチャー戦の最後に見せた転移魔術の中身だった。
あの時は必死だったがこうやって理論にしてみると
魔法とは現象に対する原理を説明することが出来てもそれが意味不明で片付けられる領域の行いなのだ。そして自分が行った転移も間違いなく魔法の領域。その副産物から来るものだろう。とはいえ、これは、なんというか、
「……第二魔法じゃないよな?」
転移を完了させて直接ゼルレッチの執務室に飛び込みながら、執務机の向こう側で笑みを浮かべて此方を待ち受けていたゼルレッチに対して開口一番そう告げた。それに対してゼルレッチはそうさな、と言葉を置いた。
「何故そう思った」
「平行世界の運営が絡んでいない。可能性の管理は第二魔法の領域だけど、確率と存在の管理は第二魔法の領分じゃない気がする。なんというか。もっと別の深淵に触れている気がする」
「そうだのう……確率を操作する部分は間違いなく第二魔法だろう。だけど存在を飛ばしているという意味では第五にも当てはまるだろう。だが燃焼に通ずる消失という特性はある魔法も思わせる―――さて、どれがお前の掴んだ魔法の片鱗なのだろうな」
「その答えを求めてんのはこっちだよクソ爺」
「貴様の様なクソガキはワシが観測してきた平行世界でも初めてなんじゃから知る訳もなかろう。今の所貴様が一番の成功作だ」
「モルモットかよ」
「然り」
迷う事無くトランプから派生したクラスカードを手元に呼び寄せて燃やし尽くそうかと考えたが、それを鋼の理性で抑え込みながら溜息を吐く。この参考になりもしない師匠は実際、かなり誠実に対応してくれている。解っているのだ、結局この爺は根元では
その成果の上に自分がいる。
「……ってそんな話をしたいんじゃねぇ。爺、お前なら解るだろう? 俺とレティの間に何が起きてるんだ。あいつが感じた痛みや快感が共有されてくるぞ」
「ふむ?」
ゼルレッチはそう呟くと此方を観察する様に視線を向け、そしてそうじゃなぁ、と声を置いて。
「パスや霊基に変化はないんじゃろう?」
「あぁ」
「なら問題は貴様の方にあるんじゃろう。最近、何かサーヴァントとの間に共通点でも出来たか?」
ゼルレッチにそう言われ、ストライクするのが一つだけあって―――起源だ。自分に新たに炎の起源が追加されていた事実だ。元々自分に備わっていた起源は鏡と界の二つだった。それに対して後天的に、或いはレティとの同調率上昇による起源の覚醒、おそらくは《起源覚醒》と宝具による合わせ技だ。それで自分に起源が追加されていた。
だって俺は
だから今更起源の一つや二つが増えようが、おかしくはない。そんな不思議な生態をしているのだから。とはいえ、それが原因で、
「俺がレティと同じ起源を共有する事でそんな事があり得るのか?」
「通常はそうでもないだろう。だが同じ起源に片方は霊的存在。その上でパスと契約によって強固なパスを構築しておる。ならばありえなくもない話なのだろうな。此方も初めて見る症例だから断定できる事は少ない……が、宝具は同化、合体状態と書いてあったんじゃろう? ならその先は見えておる」
ゼルレッチはその先の言葉をこともなげに言った。
「
「対策は―――」
「思考封鎖や精神防壁を構築すれば良いだろう。とはいえ、その程度の回答にお前がたどり着いていない筈はないとは思っているが」
「……」
ゼルレッチの言葉に黙り込んだ。事実、ゼルレッチに起きている事を告げられてからはそれが一番手っ取り早い対処法だと思っているし、その対策を施すのにほとんど時間は必要ではない。だが、ここから先、アサシンやアーチャーの様な強敵、そしてセイバー級のサーヴァントと戦闘をする場合にレティからの反応にラグが発生するようであれば、
それは間違いなく致命傷に通じる。何せ、今の状態でも既にぎりぎりを歩いているのだから。その上で縛りプレイなんか出来たもんじゃない。とはいえ、このままレティを使い続ければ人間とサーヴァントが融合する事になる。カルデアに記録されているデミ・サーヴァントではない。もっと違う、人体と神秘の融合とも呼べるものだ。
……俺は、それが純粋に恐ろしい。珍しく深く考えるべき決断だった。俯きながらこれはどうしたものか、と考えだすとまぁ、とゼルレッチが言葉を贈った。
「貴様がどんな選択を選ぼうが、貴様の師としてワシは取れる責任を取ろう。答えが必要なら与え、修練が必要ならまた与えよう。それがワシに出来る事だろうからな」
「……偉く殊勝だな、爺」
そうだな、とゼルレッチは呟いた。
「聖杯戦争も残すところあと二体……その終わりを感じられる事にワシも考える所はある。それだけの話だ」
「……」
ゼルレッチの言葉に口を閉ざす。正直、この爺さんが本当に根源を求めているのかどうか、それが自分には怪しい。魔法使いとして多くの魔術師を再起不能にしているのは事実だし、悪い奴らをぶっ飛ばしているのも事実だ。だけど助けを求めようとした正義の味方を蹴り飛ばす事もあるし、時には悪戯小僧の様な事さえもする。様々な表情、姿を見せるゼルレッチの真意は一体なんなのだろうか?
それが自分には全く見えなかった。そして問題は見えずとも、この爺の言葉は無視できないというのは事実だった。この爺は俺よりも遥かに多くを知っており、経験しているのだから。
「まぁ、良い。せっかく来たのだから少々鍛えてやろう……そう言えば《千里眼》を獲得した様じゃな? 魔法使いとしてそれを一段階先の領域へと成長させてやろう」
「げっ、藪蛇ったか」
まぁ、実際はスキルを育ててくれるのは非常に助かるのだから文句はないのだが。それに《千里眼》スキルは偵察や覗きの事を考えたら凄まじく優秀なスキルだ。鍛えておきたいのは事実だ。ゼルレッチがやる気なのは胡散臭いし面倒だが、それを払いのける様な余裕は今、自分に存在しない事もまた事実なのだ。故に素直に諦めて、うっす、とゼルレッチに返答した。
「なんじゃ、覇気のない返答をしおって」
「今、俺が人間卒業するか否かの話をしたはずなんだが」
「ワシだって死徒じゃぞ。遅かれ早かれ、魔法使いは人間を卒業しなければ務まらんのだ、今更焦る必要もあるまい」
「このゴリゴリの魔術師理論よ……」
そういえばゼルレッチは人間じゃなかったな、というのを思い出す。だが同時にそのスタンダードを此方へと押し付けないで欲しいと思わなくもない。そしてまた同時に、人間のまま魔法使いであるミス・ブルーはそれだけ規格外なんだろうなぁ、と思わなくもない。それはともあれ、ゼルレッチは座ったまま、
「クソ弟子よ、今判明している魔法を告げてみろ」
幾つかの魔法はその内容が完全に不明であり、それが存在するとしか認識されていないから完全には解説出来ないのだが、判明している部分だけを口にすればよいだろうと判断する。
「一が無の否定、二が平行世界の運営、三が魂の物質化、四が失われて、五は青、六は世界を変える……だっけ?」
その言葉にゼルレッチは頷く。だがそれと同時に、
「それぞれの魔法には特徴がある。それは科学では結果を再現できないという点ではない……いや、魔法へと至った魔法使いには特徴がある、というのが正しいのじゃろうな。それがお前には解るか?」
「流石にノーヒントじゃあどうもな……いや、《千里眼》の保有か?」
先ほどのゼルレッチの言葉から、それが答えだと直感すると、ゼルレッチがひげを撫でながらそうじゃ、と深く頷いた。だがそれと同時に、
「魔法使いだけではなく、冠位指定の魔術師と至るには何よりも重要とされるのは世界そのものを観測する《千里眼》の力だ」
「おい、流石にそれは初耳だぞ」
「観測し、そして臨んだ結果へと至ろうとするのが魔術師であり魔法使いだぞ? 千里を見通すその力は魔術の徒として何よりも重要だ。なぜなら《千里眼》は俗にEXと呼ばれる領域に入る事で未来や過去、或いは現在に発生している出来事をどこからでも観測できるようになる―――それは魔術において重要な要素の一つになる」
ゼルレッチの言わんとしている事は解る。未来を見通す眼は自分の結果、結末を事前に知る力となる。過去を知る事は失われた真実を知る術になる。そして現在を見る事は世界の全てを知る事に繋がる。それは過程を経て結末へと至る魔術の道においては非常に重要な能力だ。
「ワシにも《千里眼》がある。これによって魔法と組み合わせ、未来を別世界も合わせて観測が出来る」
「やっぱそれを聞くととんでもないよな」
平行世界の運営という魔法でゼルレッチは自由に世界を渡る事が出来る。それとは別に保有する《千里眼》の能力で未来を観測し、それ以外にも遠くを見ることが出来る。戦闘力などを含めて、あらゆる点において反則的な存在であると思う。だが逆に言えば、これだけの反則的存在が重要視する《千里眼》は、それだけ重要なものなのだろう。アーチャーからラーニングした形だが、妙にしっくりと来る。
「これを一段階上へと押し上げることが出来るんだよな?」
「うむ―――そしてそれを通してお前が掴んでいる魔法の方向性を決める。まぁ、おそらくは第二魔法ではあると思うがの」
「寧ろそれ以外だった場合が怖い」
鏡と界の起源を通して第二魔法への適性を見極められたのだから、それ以外の魔法に目覚めるとはまるで思えない。というか目覚めたら目覚めたで色々とアレだ。ともあれ、第二魔法は夢が広がる。
「俺も第二魔法に完全に目覚めて万馬券を当てたい……」
「その気持ちは良く解るし、ワシも結構そういうやり方はしてる」
まぁ、魔術師なんて金を湯水のごとく使う職業というか、研究に対して利用する触媒やら道具で一々ダイヤモンドとか消費するのだから、必然的に資金の問題が常に付き纏ってくるのだ、金策は重要な事の一つだ。
「それで借金を支払える未来は見えんがの」
「夢を壊すの止めてくれない?」
実はこっそりアメリカの資金が持ち越されているロトで一発確率操作の不正で当てようかと思っていたのに、それを先んじてゼルレッチに潰されてしまった。がっくり、と項垂れているとゼルレッチが近づけ、と手招きをしてくる。
「ほれ、目を前に出せ」
「はいはい……いきなり目に指をぶすり、とかしないよな?」
「大丈夫じゃ。ただ確率を操作して《千里眼》の覚醒率を100%にするだけじゃからな」
「最近その覚醒で事故りまくってるから微妙に怖いんだよ……」
文句を言いながらもゼルレッチへと近づけば、片手を上げて此方の顔の前に手を掲げる。魔術が集中するのが見えた次の瞬間には魔法特有の燐光が見え、それが此方の視界に干渉するのが見え―――一瞬で作業が終わった。え、これだけ? と思いながら目をぱちぱち、と瞬きを繰り返した。
「どうじゃ?」
「どう、と言われても……」
ゼルレッチの前から顔を外し、振り返りながら両目へと意識を向け、《千里眼》を使ってみる。オルガマリーのシャワーを覗いた時の様に透過する事が出来て、壁の向こう側の出来事が見えた。そしてその距離は更に遠くへと伸びて行き、時計塔を抜け、更にその向こう側へと超えて行く。
「視界が広いな」
「余り焦らず最初は視界を拡大させろ。急ぐと自分の場所を見失うぞ」
そう言われても具体的すぎて良く解らねぇんだよ爺、と愚痴りながら視界が更に拡大する。《千里眼》、それは場所や環境に囚われず多くを見る為の目。至る存在はそれを使って世界を知ると言われている。なら自分が見れる世界とは何だろうか? そう思った直後、一瞬だけ視界を砂嵐がジャックした。
ザ、ザ、ザ、と一瞬だけ全てが砂嵐に包まれた直後、チャンネルが切り替わる様に見える範囲が変化した。
見えるのは荒廃した大地、砂漠と荒野に包まれた地球。星の悲鳴が響き渡りながら眠っていた怪物が産声を上げて起き上がった。世界を水晶に包み込みながら災厄が目覚めるその瞬間だった。
頭の裏に走る痛みと共にチャンネルが切り替わった。
海の様な穏やかさのある場所だった。背面には電子的なグリッドが広がり、積み重ねられた棺桶の上に白衣の男が座っていた。何かを待ち続けるように棺桶の上に座る眼鏡の男は視線を見下ろす様に此方へと向けた。
頭に叩きつける様な痛みが走り、チャンネルが切り替わる。
燃え盛る街の姿が見えた。黒い影が町中を蠢き、暴れている。その中を時を超えた英雄たちが立場を超え、協力し合いながら最後の時へと向けて針を進めるべく共闘していた。全ての破壊を許しながら振るわれる破壊はおそらく地上では本来許されない行いではあるがその時、その瞬間だけは許される夢幻の共闘だった。
ガンガンと響く痛みに頭を押さえながら目を閉ざす。音が聞こえない。だけど景色は見える。ゼルレッチの言葉に意味が解らないから、とか言わず大人しく従っていれば良かった……! と激しく後悔をしながらも、景色が見えた。
それは今までと比べればはるかに普通の景色だった。町並みは田舎の日本の景色を思わせ、そして平和そうに過ごしている人々の姿が見える。大蜘蛛の絶望も、天の座でもなく、燃え盛る運命でもなく、平和な日常の風景が見えた。
そこを一人の少女が歩いていた。フリルを装着したドレス姿。しかしその表情はどこか退屈そうで、飽き飽きとしているのが見えた。
町中を歩いていた少女は急激に足を止め、そして振り返った。
「―――あら、面白そうね」
聞こえない筈の声が聞こえた。
直後、全てが消えてブラックアウトした。
・《千里眼》が《千里眼(魔法)》に変化した
・レティの消滅フラグの内容を認識しました
浸食率が上昇すればそのまま融合する事になります
・EXシナリオが開始されます
という訳で残りのコミュは全てキャンセル、千里眼と魔法のゼルレッチコミュでクリったので次回から舞台は日本に代わってEXシナリオのお時間よー。