※この作品はR-18です。

Kaleid/Burn Out   作:てんぞー

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二夜目

「クソ爺、ほんといつか殺してやるから首を洗って待っていろよ……」

 

「その時を楽しみに待っているとも」

 

 憎しみだけで殺せれば―――と思った事は一度ではない。人の体をあっさりと弄りやがって、と殺意を抱きながらも今は仕事を承諾し、逃げるしかなかった。こんなやり方を取られた以上、自分はあの魔法使いに従うしかない。仕事を終わらせたら絶対に解除させる。その事を忘れない様に心に刻みながらゼルレッチの執務室を飛び出した。

 

 これもまた本来はどこにも通じていない扉ではあるが、ゼルレッチの第二魔法によってどこにでも通じるという不思議なドア―――そう、どこかの青い狸を思い出させるドアとなっている。実際、自分が布教したこともあってあのクソ魔道元帥は割とアニメやゲームの類を知っている。そこそこアイデアの元となるらしい。ケータイさんやカレイドステッキも何を思ったのか、そういう発想から生み出されたものらしい。あの爺の脳みその中は理解できない。そう思いながらどこでもドアを抜けて、時計塔にある自分の部屋へと直通させた。

 

 この姿でカレッジ内をうろうろしなくて済んだ事は感謝しても良いかもしれない。

 

 扉を叩き閉め、自分の部屋に飛び込んだところで深く溜息を吐く。ゼルレッチから強奪してきた必要な書類の類は全部手元に一応ある。あの魔道元帥の事だ、忘れてきても第二魔法の応用でちょちょいと部屋に届けてくるに違いない。釈迦の掌の上にいるようで実に気に入らない。こうやって働かされる事も非常に気に入らない。

 

 とはいえ、自分の性別とかいう前代未聞の人質を取られたのだ、ここは大人しく従うしかない。マイ・サンを取り戻すためにも。これは、マイ・サンを取り戻す戦いである、と心に呟きながら折れそうな心を何とか鼓舞し、ジャケットを部屋の中へと放り投げる。なんか、もう、心がやさぐれてきていた。

 

「はぁ、クソが。完全に女声じゃねーか」

 

 パスポートを取り返しても、姿が女じゃ空港を抜けることが出来ない。とりあえずは自力でこれを解除できないか、と調べる事にする。

 

 幸い、自分の部屋は一人部屋―――の壁をぶち破って、一人部屋を二つ繋げた状態だ。無論、ゼルレッチが連れてきた暴走気味な弟子の部屋の隣に住みたい奇特な奴なんて存在しない。その為、遠慮なく寮の隣室をぶち破って二人部屋に無理やり広げた。その為、周りの視線を気にする必要なんてないが、一応に備えて窓のカーテンがちゃんと閉まっている事だけは確認する。確認を完了したところで部屋の中にある立ち見鏡の所へと進む。

 

 そこに映る自分ではない自分の姿を見た。

 

「あぁ、クソ。確かに()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()こんな風になるだろうってのは納得するけどさぁ!」

 

鏡に映るのは自分の姿だった。性別を反転させれば大体そういう風になるだろうな、という感じの姿の。片目を隠す前髪と長く伸びた横髪はそのまま、基本的に短く切っていた後ろ髪が長く伸ばされており、床に届きそうなほどの長さとなっていた。それだけではなくクソダサバスターTシャツの下からも見える胸の膨らみはサイズ的にC後半、Dほどのサイズを連想させる他、全体的に身長が低くなったことをダボダボとなったズボンの裾が主張していた。

 

 そのほかにもズボンが非常にルーズになって落ちそうであったり、前ほど握力が無い様に感じていたり、と、明らかにテクスチャーだけを変えたようには思えないほどの肉体的な変貌だった。

 

「嘘だろ? 痛みも何もなかったぞ?」

 

 頬に触れ、肉質を感じ、そして今度は髪に触れ、その無駄にきめ細かい質の良さを感じる。もはやテクスチャーを上から張り付けたのではなく、瞬間的に情報を更新した、とでも表現すべき肉体の変貌だった。シャツを脱いでその下の体を晒したところで、鏡に映るのは上半身裸の女の姿だった。胸を掴めばそこには肉感があり、ちゃんと体に神経が通っているのも感じる。胸に感じる質感を手放しながらズボンのベルトを外し、トランクスを少しだけ下ろし、何もそこには存在しない秘部を露わにした。毛の生えていない秘部にはぴっちりと閉ざされた未使用の秘裂の姿が見えた。

 

 それを指で広げ、膣を確認し、軽く指を入れてから抜いた。

 

「あ、ダメだ、完全に肉体が変わってる」

 

 確認を終わらせてトランクスを引きずり上げ、ズボンを蹴り飛ばしながら近くの椅子に座り込んだ。ついでにデスクの上に設置していたデスクトップを操作し、部屋の中にスピーカーでBGMを流しながら足を組んで座り、肘を膝について考え始める―――微妙に胸が腕に当たるな、これ。そんなどうでもいいことを考えながら椅子の上から立ち見鏡に映る自分の姿を確認した。

 

「解析―――は無理だな、これ。完全に領域が魔法に突っ込んでいるし。純粋に姿を整えただけじゃなくて、平行世界から個人の情報を取得して上書きしたって感じだ。俺の起源が■だから他人の情報であってもあっさりと出来た訳か? あ、いや、そういえばルビーが夢幻召喚とか出来てたな。アレを考えると平行世界から情報を引っ張り出して上書きするのは難しい事じゃないのか……うわぁ、ほんとレベルの高い嫌がらせをするなぁ、あのクソ爺……」

 

 魔術ではなく魔法。やっているレベルが高すぎて魔術で解除しようとするとそれこそ神代の奇跡に縋る様なものになってくる。根本的に魔術は現代科学で再現できるが、魔法は現代の科学では絶対に再現できない領域の産物だ。

 

 つまり現実とファンタジーというフィクションとノンフィクションの壁が二つの間には存在している。

 

 どれだけ画面の向こう側の嫁に会いたくても、俺達は会えない。

 

 だがあのゼルレッチは出来る。

 

 それが魔術と魔法の差だ。ぶっちゃけた話、これがまだ魔術の領域だったら解除する事に関しては自信があった。今では完全に魔術を探求する事を蹴り飛ばしているが、まだ日本に居た頃―――ゼルレッチに拉致られる原因となった頃は、それはもう真面目に魔術の練習と勉強と探求を行っていた。その時はその時で神童とか言われていたりしたのだ。まだ何も知らなかったから。

 

 だが賢しすぎる魔術師は深淵に触れる。

 

 その結果――どう足掻いても、それ以上深淵に沈む気にはなれなくなった。

 

 魔術は極端な話、ルールやロジックが存在する。だからこそ現代の科学でも再現が出来る。火を灯す魔術。そしてライター。結果を見れば方法が違うが、同じ結果を生み出せている。つまりは神秘には神秘のルールが存在し、それを辿る事で結果を生み出すことが出来る。逆に言えば()()()()()()()()()()辿()()()()()()()()という事でもあるのだ。そこまで難しい話ではない。だが魔法はこのルールが根本的に通じない。魔法とは根源から零れ落ちたものだと言われている。その為、根本的に法則なんてものが存在しない。

 

 理不尽と言う言葉に尽きる。魔法で行った事は魔法でのみ対処できる。だからゼルレッチは言っているのだ―――自分で解除したければ早く魔法の領域まで上がって来いと。魔術の探求を再開しろ、と。

 

 本当にクソ爺である。

 

「えーと、これ以上肉体を探知した結果観測で肉体存在率が固まっても嫌だし、これ以上は手入れ以外ではノータッチにするとして、とりあえずは体がまともに動かないのはどうにかしなくちゃダメだな」

 

 胸が重くて体が歩くときに少し揺れる他、体に予想以上に力が入らない。また足のサイズが変わって靴も微妙にぶかぶかになった感じがする。再々、トランクスはゴムが入っているからズリ落ちないが、ズボンの方はベルトをきつく締めない限りまともに履けそうにない。とりあえず、一つ一つ問題を解決しよう、と考える。

 

「……まぁ、一番楽な方法が魔術に頼る事なんだけどさ」

 

 溜息を吐きながら長い間放置していたトランプのセットを見る。パソコンの横に置いてあるそれは自分が魔術を使う為に使用する触媒だ。自分の属性は“空”、つまりは空間や天体を構成するエーテルを司る属性だ。

 

 これは一番面倒でありながら扱いやすい属性だ。空間、天体、場所、土地などに関連する魔術の類が触媒いらずで使いやすくなるのだ。だけどそういうの大抵難易度が高い。例えば転移の魔術はそれ一つで魔法級だと言われている。

 

 飛行機に乗って移動するのと結果としては同じだから魔術という扱いなだけで。

 

 故に空属性であっても、魔術の補助等で道具を使用する必要はそれなりにある。自分の場合はトランプのカードを使用している―――と言ってもほぼ趣味の様なものだ。だがこれがあった方が魔術を使用する時のノリが良いのは事実でもある。手を伸ばし、パソコン横のトランプのセットを手に取り、それを通して魔術回路を起動させる。

 

 イメージはシンプル。鏡を砕くイメージ。それで魔術回路が全て起動する。問題なく稼働するそれに、本当に性別だけを入れ替えたんだな、と軽くゼルレッチの所業に呆れる。業の深い爺だ。魔法少女の次はこれか、と。あの爺、実は倒錯した性癖の持ち主ではないのか……?

 

 そういえば業の深い性癖で思い出した。隣の学部の奴がキメラ姦とかいうのにハマっていたのを思い出す。色々と動物をキメラさせた結果、膣の様子が異次元めいていて、もう二度と人間の相手には戻れないとか。完全にオナホ用キメラじゃねぇか。というか魔術でオナホ開発している。

 

 だけどその頭の悪さ、嫌いじゃない。彼のオナホ開発ライフがこの先も明るい事を祈りたいが、オナホキメラでどうやって根源へと到達するのだろうか?

 

 こう、イク、が逝くになるのだろうか。根源に。……だめだ、オナホで向かう根源とか面白すぎる。ぜひとも彼には頑張ってほしい。そして自分の次の世代にオナホづくりの宿命を与えるのだ。

 

 受け継がれる両親の業。何世代も続くオナホ職人魔術師。やがてシェアは拡大しアトラス院へ―――。

 

「……良し、現実逃避もこれぐらいにしておくか」

 

 馬鹿な事を考えずに真面目に対策を考えるか、という事にする。トランプセットを片手で握るとパラララ、と右から左へとトランプが躍る様に移動する。こういうカードトリックは暇つぶしとナンパ用に練習したものだ。こう、重力を無視した動きをトランプにさせるのは割とかっこいいと思っている。それはともあれ、トランプを手に取り、再び立ち上がりながら鏡に映る自分の姿を確認した。

 

 やはり胸の重みで少し体がよろめく―――空属性をベースにした強化魔術で肉体を強化する。あまり効率は良くないが、それだけで少しだけ体を支えることが出来る。髪の毛を切ってしまうのがおそらく早いのだろうが、それはそれとしてどこか負けた気がする。勿体ないし。

 

「姿や声をどうにかしないとまず普通に外に出られねぇ……」

 

 肉体改造系の魔術は―――この場合アウトだな、と真っ先に考える。少しだけ知識があるが、アレ系統は非常に繊細というか、場合によっては人類を卒業してしまう。なので完全にアウト。やるつもりはない。なので回りから見て、そして聞いて、ある程度騙せるようにすればよいのだ。そうなると魔術で出来る範囲であれば、

 

「変化である程度体を弄って、幻術で見た目的な違和感を取り除く事か? うーむ、ちょっとそこらへんの魔術混ぜて新しく作るか」

 

 大昔から変形、変容、変化系統の魔術は存在していた。解りやすいのを言えば幻想種が人の姿に変貌したり、或いは日本では大妖怪の類が人間に変化するのがメジャーだろうか? 古来より魔術を使って化ける、というのはそこまで珍しい話ではないのだ。

 

 ……少なくとも修練していれば。

 

 残念ながらそっち系統はそこまで詳しい訳ではない。熟練の変化の魔術師であれば自由自在に姿を変化させることが出来、それこそ幻想種に変身する事さえ出来るだろう。超一流の幻術使いであれば現実を幻術で騙し、真実を変える事さえ出来るだろう。だが残念ながら、其方の勉強は全くした記憶がなく、これからするつもりもない。触り程度しか自分の中には知識がない。だからその二つを捏ねて合わせ、なんかいい感じの魔術を作成する事にする。

 

 腕を組んで考える事五分ほど、妥協できるラインを頭の中で完成させた。

 

「ま、こんなものか」

 

 魔術回路を通して魔力を発生させ、高速詠唱と圧縮詠唱で魔術の発動に必要な工程を一工程に留める。トランプの束からカードを一枚抜いてそれを握りつぶす様に捨てれば、魔術が発動する。

 

「痛ってぇ―――!」

 

 スマートにやったゼルレッチの時とは違い、体に軽い激痛が走る。それを歯を食いしばりつつも声を漏らして乗り越えれば、幻術と変化の合わせ技で作った魔術が見事、軽くだが胸を縮小させ、平たくする事に成功していた。平たくする、と言うよりは収納するという方が正しいのだが。成功したところで息を荒げながらげんなりとした。

 

「だめだ……痛みを消さないとまともに使えないぞこれ……というか時間制限付きだから元に戻るときまたあの痛みを受けなきゃいけないのか……」

 

 なんだこのクソみたいな術は。だけど胸の大きささえ誤魔化すことが出来るのであれば、あとは長袖などの服装を着て、姿を隠せばよい。声と、そして身長が下がった事に対してはゼルレッチからのペナルティで一時的に年齢を下げられてしまったと言えばよい。その方が精神的なダメージは低い。

 

 良し、精神的には致命傷だな! と心の中で叫んだ。だいぶ錯乱しているのは自覚したが、少なくとも時計塔内部では絶対に自分の性別がゼルレッチの手によって入れ替えられた、とは知られたくはない。知られた場合明日から一体、どういう顔をして歩き回ればよいのだろうか。

 

「ふぅ、これで急場は凌げるな。後はジーンズの裾をまくりあげて、半袖のシャツと上からパーカー着ればいいだろ」

 

 無論、ベルトはズボンが落ちない様にきつく締めて。割と真面目に服を買いに行く必要があるから、これは緊急の出費だな、と思いつつも靴の方もどうにかしないとならない。

 

 或いはもう面倒だし、さっきの魔術を無機物ベースに改良して使えばいいんじゃないだろうか? それが良い。自分の特性や起源に触れる事はない範囲の魔術だ、()()()()()()()()()()()()()だ、と自分に言い聞かせる。

 

「まぁ……なんか、集中して気を紛らわせてないと頭がおかしくなりそうだしな……」

 

 溜息と共に言葉を吐き出し、服と恰好の問題を解決したら、今度は魔術礼装の調達に向かいたいところだった。

 

 仕事を持ち出してきたのはゼルレッチだ。あの第二魔法に到達した魔道元帥と呼ばれ、落下する月にさえ対抗したと言われるキング・オブ・キチガイだ。そんな男が持ち込んできた仕事というものがただで終わるとは欠片も思っていない。というか普通に終わったら逆に怖い。直々に殺しに来るのではないか? と疑ってしまうレベルだ。

 

 絶対に、何かある。

 

 もはや確信の領域でこの先にある波乱の展開を直観しているので、魔術礼装や作成する為の道具を調達しなくてはならない。個人的に保有していたものはこのトランプを除いてほとんど処分してしまっている。無論、魔術修練を行うつもりなんて欠片もないからだ。そして普通、調達するにはそれなりに時間がかかるのだが、

 

「仕方がねぇ、成金のお嬢様に売ってもらうか」

 

 高いんだけどなぁ、と呟きながらしばらくは終わりそうにない苦労の予感に涙を流しそうだった。

 

 

 

 

 下は裾をまくったジーパンを。上はシャツの上からパーカーを着て、髪の毛をフードの中に押し込んで被り、隠す。作ったばかりの魔術の影響で体は小さくとも、少なくとも若い男性と見間違える程度には体格を弄れた。少し服のサイズが大きく、それで体の形をある程度隠せているのが功を奏したのかもしれない。ともあれ、そうやって姿を完全に隠したところでバイクに乗るときに使っているゴーグルを装着し、目元も隠す。意外だがそういう部分でも男性的、女性的かというのは判別がつく。

 

 これで体の形、顔、髪を隠すことが出来た。変声に関しては割と魔術としては珍しくない。これも幻術の一環でどうとでもなる。これが超一級の幻術使いであれば性別すらも騙して入れ替えられるだろうに―――とは思いつつも、さっさと財布とチェックをポケットの中に叩き込んで寮を出る事にした。相手の事を考えたらまず間違いなくそれなりに吹っかけてくる。出費の事を考えると痛いし、ここら辺のお金をゼルレッチは絶対に支給してくれない―――生活費の方はガンガン支払ってくれるのに。

 

 溜息を吐きながらやや不審者ルックで寮を出た。まだ昼まである事もあり人の気配はあるが、歩いている姿は少ない。

 

 当然ながら時計塔に居るすべての人間が魔術師だ。

 

 ここには学び、そして研究する為に来ている。基本的に魔術師は未熟な連中を含めて全員意識が高い系、とでもいう連中だ。青春を送らずにひたすら魔術の修練を行っている様な連中ばかりである為、講義が終わったら自分の工房か、或いは研究室に戻って修練と研究ばかりやっている。

 

 外へと飛び出してデートやナンパにでも誘う、なんてことは自分ぐらいしかやらない。いや、一部本当に奇特な奴がいて、そういう連中は結構遊んでいるのだが、それはこの広い時計塔の中でも1%に分類される連中だ。自分の様な希少種だ。

 

 ともあれ、向かう場所は知っているのでさっさと移動する。時計塔内は大型の大学キャンバスを思わせる広さがあるので、移動するのはそこそこ面倒だ。

 

「チ……バイクを喫茶に置きっぱなしだったな……」

 

 後で回収に行かなきゃダメか、と口の中で呟きつつ、歩きながらも違和感を感じまくる。やはり股間に息子のない感覚が物凄い違和感を感じさせる。常にそこに合った感覚がいきなり喪失するのもそうだし、肌の服と擦れる感覚が前よりも敏感になっている様な気がする。あとは……そう、少し股間の部分が風通しが良い様に感じるぐらいだろうか?

 

 体は軽いのに頭は重く感じる―――女どもは良くもこんな風に髪を伸ばす事が出来るなぁ、と思わなくもない。

 

 まるで違い過ぎる体の感触に違和感しか感じず、それがややストレスに感じる。靴は流石にサイズが合わなかったのでサイズ調節がある程度可能なサンダルを履いているが、そのおかげで余計に歩きにくい。これで胸がそのままだったらたぶんそこらじゅうで転んでいたな、と確信する。時計塔が広いばかりに、長時間この体で歩き回るのは余りしたくない事だった。いや、それ以前に、

 

「バイク……足、届くかなぁ……」

 

 軽く鏡を見た時に身長は20cm近く縮んでいたような気がする。おかげでズボンもシャツもまるでサイズが合わない。軽く裾を直したりして今は着ているが、本格的に服を購入しなきゃダメだなこれ、と外を歩き出してひしひしと感じていた。

 

 しかもこの服装、購入したところで元に戻った時には処分しなくてはならないのだ。

 

 あの爺、本当にクソだな、としか言葉が出ない。

 

 そんなに女が好きならお前がマジカル☆カレイド☆ゼルレッチでもすればいいんだよ。だめだ、破壊力が強すぎる。時計塔がその衝撃に滅んでしまう。このアイデアは一生封印する事にしよう。それとは別に、自分の起源などには触れずにどうにかして上書きされた肉体情報を修正する方法を探さなくてはならない。

 

 仕事が終わればそのまま普通に戻してくれるとは思うのだが。第一、パスポートを取り戻しても姿がこのままだと飛行機には乗れない。

 

 いや、暗示や催眠術で空港の警備員を騙してもいいのだが、流石にカメラとかまでは騙せない。密航の伝手を持っている訳でもないし、本当にゼルレッチの犬として働かなきゃいけないんだな、と理解し、溜息しか出てこない。

 

「あーあ……こんな時に聖杯がありゃあなぁ……」

 

 噂に聞く伝説の聖杯―――日本では聖杯戦争なんてびっくりイベントが開かれ、それを使って願いを叶えることが出来たとかなんとか。万能の願望器の噂が本当であれば、何とも夢のある話だろうか。自分にも叶えてほしい願いの一つや二つぐらい存在する。出来る事なら聖杯でぜひとも叶えてほしいところだ。その筆頭候補はゼルレッチを殺してくれ、だが。

 

 こういう場合はどうなんだろう、ギャラハッドでもいてくれればいいのだろうか? かのブリテンの英雄は聖杯を持ち帰る事に成功した英雄だ。つまり、因果的に聖杯を手に入れる事が約束されている。そう考えたら聖杯戦争とかではめちゃくちゃ強そうではないだろうか? まぁ、そんな都合の良い英雄を手に入れられるとは思えないが。それに聖杯戦争自体、一回だけで限界だったとかいう噂を聞く。もうチャンスはないだろう。

 

 そんな風に適当に考えを走らせている間に、目的地に着く。基本的に学生寮での生活がここに居る学生たちにとっては基本である中、一部の貴族、大貴族等の連中は―――そう、時計塔では貴族なんてステータスが化石ではなく実際に意味を持って存在するのだが―――そんな連中は私財に任せ、専用の屋敷をここで建築してしまうのだ。

 

 まぁ、これは魔術師的に考えて悪い事じゃない。と言うより割とまっとうな考えだ。

 

 そもそも魔術師の研究とは基本的に秘匿するものだ。その為、魔術師の工房は非常に機密性が高い。他の魔術師に成果を奪われないためだ。そしてその為に自分が研究を行う研究室、或いは工房と呼ばれる領域をダンジョンの様に改造し、自分以外の人間が全く入ってこれない空間へと改造してしまうのだ。無論、時計塔側でも悪くない研究室を提供してくれる。

 

 だが一流の魔術師や、歴史のある家とかになるとそこらへん、自分専用に一から建築したほうが信頼性があるらしい。そんな訳で向かっていた場所はそういう大貴族が態々こっちの土地で建築した屋敷、或いは別荘とも呼べる建造物だった。学生寮を丸々一つ買い取って、そしてそれを改造したものだった。ある所にはあるんだなぁ、金。そう思わされる様な気合の入った改築で、もう完全にグレードが変わっていた。

 

 流石に元一般市民系魔術家の出としてはやや気圧される部分があるも、ここは前に進まない分には話が進まない。こほん、と咳ばらいをしつつ屋敷の前に立ち、扉をノックする。

 

 それに反応したのは扉の横に立つ宝石のガーゴイルだった。実に趣味が悪いとしか言えない。だが片手を持ち上げて挨拶をする。

 

「無界鏡司、触媒や礼装が欲しいから買いに来た」

 

 宝石のガーゴイルは数瞬此方を眺めていると、静かに元のポジションへと帰還する。十数秒扉の前で待っていると、屋敷への扉が開かれた。その向こう側からは老年に入った執事の姿が見える。モノクルを装着した姿はいかにも、という感じを受ける。一礼をしてから案内をする姿にはゼルレッチとは別の、歳を経ても消えない気品を感じる。

 

「これはこれは魔道元帥のお弟子様、触媒の買い付けとは。当家にお頼みいただけるとは実にお目が高い」

 

「あのクソ爺の弟子とか人生の恥なだけだからほんとその看板下ろしたい……それはそれとして、頼んでも良いか?」

 

「えぇ、とおっしゃりたいところですが、お嬢様が直接話を聞くと」

 

「げっ」

 

 やっぱり居たのか、と息の下で呟く。あのフィンランドのハイエナ女は妙に勘が鋭いからなるべく話をしたくないのだが―――金で礼装や触媒を譲って貰ったりできるのは自分が知る所、ここが一番()だ。業者に頼むとそれこそ少々時間がかかるのだが、こいつの場合、即座に倉庫から引っ張り出してくれるのだ、だからどうすっかなぁ、と一瞬だけ考えるが、

 

「……解った」

 

「それでは案内いたします」

 

 苦渋の決断であった。案内されるがままに屋敷の中へと踏み込んだ行く。

 

 

 

 

「―――おーっほっほっほっほ!」

 

 案内された応接間に到着し、一番最初に迎えたのは大爆笑だった。部屋に入った瞬間、此方を見て、金髪巻き毛に青いドレスの女は姿は優雅だが、見せている態度は全くそれとは関係のないところを突き進んでいた。此方を見ると白いグローブに包まれた手で口元を隠す様に、しかしお嬢様笑いで大爆笑していた。ここまで案内してきた執事はそれでは、と一礼すると応接間から出て行った。

 

 ここで俺とこのイカレ令嬢を二人きりにしないで欲しい。

 

 だがその反応を見て解った。

 

「クソ爺……事前に知らせたなアイツ……!」

 

「ふふふ……当然ペナルティだから知っている人間には教えたそうですわよ、シュバインオーグ師は。隠せるようであれば恥辱にはならない。故に交流のある人間にだけは伝える。何とも屈辱的でしょうね」

 

「ほんとだよ畜生! 人の苦労を返せよクソ爺!」

 

 ほんとあの魔道元帥はどうにかしなくてはならない。だがよく考えればカレイドステッキの生みの親でもある。あの超愉快型礼装の作者だと考えると、これぐらい普通にやるだろうなぁ、という自信がどこからともなく湧き上がってくる。あの老人、年齢は100歳超えている筈なのに若者の様なノリで行動するからほんと嫌い。自分の年齢相応の落ち着きという奴を持って欲しい。

 

 半分煤けながら溜息を吐く。これはしばらくの間、知り合いとの交流禁止だな、と自分に言い聞かせる。こうやって笑われるのはダメージが大きい。

 

「あぁ、クソ、隠している意味もないならこんな窮屈な恰好をしている意味もねぇな」

 

 パーカーを脱いでゴーグルを下ろし、服の中で窮屈に抑え込まれていた髪の毛を外に出して解放した。ついでに使っていた魔術を解除する。痛みと共に肉体が元の形を取り戻す。やはり痛み止めの魔術とか絶対に用意すべきだよな、と表情を変えずに食いしばっていると、令嬢が、

 

 フィンランドのハイエナとも評されるエーデルフェルト家の令嬢、ルヴィアゼリッタが興味深そうに視線を向けてきていた。なんとなく考えている事は解る為、やめろ、と言葉に出さず唇を動かしつつ、

 

「クソ爺に仕事を頼まれたから幾つか触媒や礼装を譲ってほしいんだけど、即金で」

 

「それぐらい問題はありませんわ。魔道元帥の弟子との繋がりを維持する事はこちらとしても利益がありますしね」

 

 そりゃあ良かった、と息を吐きながら漸く応接間のソファに座り込む。相変わらず成金趣味らしい金を豪華に使った内装だ、と思いながら懐からメモ帳とペンを取り出し、売って欲しい物をリストする。それが書き終わったところでそれをテーブルの上に乗せる。それじゃあ、と言葉を置き、

 

「これを頼む」

 

「承りましたわ。……それはそれとして、本当にそれだけで大丈夫ですの?」

 

 リストを受け取りながらルヴィアが視線を向けているのは此方の服装だった。それで言いたい事は伝わってくる為、腕を広げる。

 

「大丈夫なように見える?」

 

「追加料金を支払うのなら服装の方も此方で用意しますわよ?」

 

「そりゃあありがたい。数日中にこんな馬鹿々々しいペナルティを解除するというか絶対にさせるつもりだけど、それまでの間服がないからな……ほんと……」

 

「えぇ、そうでしょうね。男と女ではまるで見るところも用意するものも考えるところも違いますわ」

 

 持つべきもんは利用できる師匠とコネだな、と心の中で考えつつ息を吐く。後は金の話だ、と思いながら話を進めようとした、いつの間にかルヴィアがソファから立ち上がり、そして此方の手を掴んでいた。女のくせに凄まじい怪力で腕を掴んでいるルヴィアの手を見てから視線を持ち上げ、ルヴィアを見る。

 

「あの、これは」

 

「あら? 当家は仕事は完全にやるのが信条ですのよ。服を渡したところでハイ、終わりとはエーデルフェルトとして許せませんわ。それにシュバインオーグ師にしっかり面倒を見るように言い付けられていますわ―――面白可笑しく」

 

「おい、待て宝石ゴリラ。お前絶対最後のぉ―――」

 

 片手でつかまれるとそのまま持ち上げられ、お姫様抱っこの状態で持ち上げられ、部屋の外へと運ばれて行く。思わず拉致られる最中にドナドナを歌いながらゼルレッチへの殺意を溜め込むのは間違いではなかったと信じたい。

 

 あの爺は絶対に一回殺さなくてはならない。

 

 再びあのクソ爺への殺意を心の中で募らせた。

 




 ルヴィアゼリッタ・エーデルフェルト 好感度:30→35
「才能はあるのでしょうけれど人格が伴わないなら魔術師としては無能ですわね。個人としては面白いですけれど」

 とか裏では処理している。なお開幕で笑われてるのは裏で転がした運ダイスでファンブってるから。そこら辺の処理とかを一々見せるとテンポが悪くなるので、基本結果のみを見せる方針。

 TSした理由? 趣味だよ察せ。卓の時は大体趣味優先してる人。

 個人的に体の変化の戸惑いや、そこで覚えて行く事を観察するのがTSに関する楽しい部分だと思っている。ともあれ、お買い物・準備フェイズでした。
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