「ちっす、仕事は終わらせたぞ女帝」
「うむ、此方でも確認した。
聖堂教会へと戻った所で待ち構えるようにギルガメッシュがベンチに座って待っていた。教会という場所がこの上なく似合わない女だった。座っているベンチは中央を割る通路の左側にあるので、ちょうどその反対側になる右側のベンチの方に座る事にした―――そこに座ってから思う、このベンチ滅茶苦茶硬いわ、と。明らかに人間が座る事を考慮した硬さじゃない。やっぱ宗教ってクソだわ。
そんな事で足を組んで座りながらも、なんとなくだが
まぁ、それはともあれ、ベンチに座りながら背中を預ける。成果はあっただけに色々と言いたい事はあっても―――それは我慢する。【筋力】を向上させる事も、【魔力】も限界突破が出来たのだから。後はこの貧弱な体力を何とかしたいところだ。それはともあれ、
「……やっぱりバレてる?」
「当然であろう。我が眼は千里を行く。貴様程度がやったことなど見通している―――とはいえ、我もそれを
自信満々の女帝の様子に、悪戯がバレてしまった小僧の様な気分になってしまう。まぁ、自分がやったことは簡単だ。
自分に試す前に実験したかった事でもあるので、桜を使って確かめられたのはちょうど良かった。今頃、桜を大事そうに抱えていた青年が大事に大事に守ってくれている事だろう。まぁ、もう二度と会わないけど。
「魔法……その使い方が漸く解って来た。俺の魔法は基本的に第一と第二、その両方に足を踏み込んでいるわ」
「だが中途半端に両方に踏み込んでいる以上、突き抜ける事は出来ん。どちらかを選ぶ。もう片方はそれ以上成長する可能性を失うが、その代わりにもう片方は魔法としての完成を見る」
「そっすなー……」
……俺は生まれた時から魔法を使えていた。第二魔法が生まれた時点で使えていたのだ。本当にその欠片、未熟な部分だった。だけど俺はそれを使って
だけどこうなってくるともう、そんな心配しなくてもいい。起源覚醒は既に終わっている。その上で魔法使いとして最後の覚醒を行えば、どちらであれ、抵抗できる。そしてそれが終われば選ばなかった方の技術は今以上に伸びる事はないだろう―――その代わりに、選ばれた方が最終的な進化を迎える。
現在確認されている魔法使いは全部で三人になる。
第二魔法の使い手キシュア・ゼルレッチ・シュバインオーグ。彼は無限の平行世界を操作する魔法使い。無限の魔力を使い、夢幻の可能性を操る事が出来る。 次に第三魔法の使い手はイリヤスフィール・フォン・アインツベルン。魂を具現化する魔法の使い手である彼女は彼女の存在そのものが聖杯戦争の様なものであり、その気になれば自由に英霊を呼び出して使役する事が出来るものの、その能力から常に勧誘されることに辟易し、姿を隠して人助けを行っている。
そして最後、宇宙戦艦とか波動砲の青崎青子。以上。
ここでどれを伸ばすかを選び、そしてそれを伸ばせば魔法使いになり、彼らと同じ領域に立てるようになる。それは興奮しながらも、同時に恐ろしい事でもある。悩むなぁ、と思いつつ忘れる前に、
「それで……結局、報酬はどうなったのかな、ギルガメッシュさん」
「あぁ……そうであったな。なるべくあの女化生の事は忘れていたかったのだが仕方があるまい。良いだろう。貴様にこの世界から抜け出し本来の世界線に戻る方法を教えてやろう……そもそも、貴様は面白そうだから、とこの世界線に引きずり込まれたわけであるしな」
もうこの時点で嫌な予感しかしない。両手で顔を覆いながらうん、と呟き言葉の続きを待つ。
「……そうだな、ソレは一言で表現するなら姫、であろうな。城の中で自由に育てられた我儘な姫だ。そして自分が我儘であるという自覚を持たぬ部類だ。それだけであれば可愛らしいだけで済んだだろうな。だが問題は姫には力があったという事だ。そしてそれは並みの存在では立ち向かえず、我でさえ塵芥の様に扱ってくるだけの力を持っている」
「ごめん、この話ここら辺で止めない?」
「貴様の報酬だ雑種、最後まで聞いて行け」
はっはっは、と笑っているギルガメッシュの反対側で頭を抱えつつ、聞く。
「その姫は―――根源接続者だ」
「帰りたい……」
「あぁ、ならば会わなくてはな!」
爆笑するギルガメッシュの顔面殴りたい、と心の中で切実に思いつつも根源接続者、という言葉を口の中で転がした。それは魔術師によっては複雑な言葉だ。魔術師の目的は根源へと到達する事である。そして根源接続者とは何らかの原因で根源へと接続されている存在を意味する。本来根源とは凄まじい大河であり、それに触れた存在は例外なくそれに呑み込まれる―――どんな魔法も魔術もそこには差がない。それが根源だ。或いはアカシックレコードとでも呼ぶべきところだ。
故に魔術師はどんな対策を施しても無意味だ。それは最初から記されているのだ、根源に。そしてその対策もまた根源に刻まれている。故に根源に到達する事は根源への同化と消滅を意味する。だが唯一の例外は根源接続者だ。
そこに接続するという事はつまり、全知全能である事に違いはない。
「あの小娘は元々違う流れを見ている。そしてその流れを生むために手を打っている。我がこうやって性別を偽っているのも所詮はそれへの対抗策でしかない。男のギルガメッシュが登場しなければ演者は揃わんからな。後は騎士王の登場だが―――貴様があの娘を一度は殺し、贋作者の目にとどまる様になればそれで終わりだ」
「世界を走るプロットライン完成、と」
「視えるのか?」
「いんや、まだ……まだそこまでは視えないかな」
極まった《千里眼》、つまりはEXともなればそれこそ世界を走るシナリオが見れるという話らしい。ゼルレッチも時折蜘蛛を倒すのに100年はかかる、などと言う話をしているのを思い出す。思い返せばゼルレッチもどこか、予定調和へと向けて動いている様な、そんな部分がある。視えるという事はつまりそれに縛られるという事でもある……今はそう感じる。そしてギルガメッシュとその姫との戦いとはつまり、どちらがより確かにプロットを並べる事が出来るか、という戦いだと思う。
完全に異次元の視点である。
まだ一歩、その領域には足りない以上、自分はその暗闘が解らない。とはいえ、自分のやったことがそれに通じるというのは解った。
「娘の名前は沙条愛歌だ―――この地の霊地の一つに屋敷を立てている。そこへと行けば見つかる。とはいえ、気を付けろ。魔力回路の量は底辺ではあるが全能だ。当然ながらこの会話も聞かれておろう。そして
「ありがとう王様。本当に助かったわ」
「良い―――これもいずれは必要になる事だ」
会話が終わる。此方も必要な情報は得た。これでもうここに来る必要はないが、不思議と寂しさは感じなかった。なんとなくだがまた近いうちに会える。そんな気がしてはならなかった。故にそれだけの挨拶で済ませ、背を向けて教会を出て行く事にする。何よりもギルガメッシュの言葉が本当なら根源接続者の相手―――それが一筋縄で行くわけがない。
そんな事を考えつつ教会を出た。そして思いっきり背中を伸ばしながらんー、と胸を張って一息をついた。
「ふぅ、結構好き勝手暴れられるってのも楽しいなー」
考えてみればこれは平行世界なのだ。ここで多少暴れた所で自分の悪事が本来の世界へと届く事はない。流石に殺人とかそういうのはちょっとどうかとは思うが、それはそれとして、軽い悪事で楽しく人生を過ごす程度だったら割と問題はないのではないか? と思わなくもない。
「うーん……普通はナンパ出来ないような子の相手とかしてみたいなぁ」
自分のいる軸じゃあどう足掻いても襲う事が出来ない相手とか、ちょっと誘ってみたい。ルヴィアとか割と普段は感謝しているからどう足掻いても口説く気にはなれないけど、平行世界のルヴィアならセーフなのでは? と思わなくもない。いや、だって流石に世話になっている人には手を出せないけど、それが良く似た別人ならセーフだよね! という話だ。
「まぁ、境界歩きぐらいは出来そうな感じあるしなぁ―――後は能力を伸ばすだけか」
なんとなくだがやり方が解っていない、という感じはある。まぁ、それは時間をかけて覚えて行くものとして今はとりあえず、この沙条愛歌などと言う根源接続者に会いに行く準備をするべきだろう。
気が付いたら
「センスは悪くない。ただ個人的にドレス系はフリル系よりもシンプルなタイプの方が好みなんだよなぁ……あんまりファンシー派ではない」
「あら、残念だわ。でもそうね……そこは個人的な趣味の領域になるから確かに口出しする事は出来ないわね」
「とはいえ、センスはいいと思う。本当に。俺みたいなやつに似合うフリフリ系って結構難しいだろう?」
「そうでもないわよ? 何せ貴女の様に気の強い人は表情に性格が出るからそれに見合った服装を用意すればいいのよ。自分本位でありながら自分の身内や興味のある人物に対しては手を差し伸べる精神性―――手段を択ばず、自分本位だけどある程度社会を顧みるのは混沌・中庸とも呼べるカタチ」
そうね、とテーブルの向こう側の彼女は言った。青いフリルドレスにショートカットの少女はそうね、と二度言った。それは言葉を確かめるように。その内に見える流れは混沌としていた。全てを混ぜ込んで煮詰めてまた混ぜて煮詰めて、この世に深淵があるとしたら、間違いなくこの子の内に見えるそれがそうなのだろう。そう確信できる虚無と全がそこにあった。
いや、今こうやって対面している一部ですら全てではあるのに、まだ一部だ。
根源―――根源の姫、それに繋がる姫。沙条愛歌。
この少女がそうなのだと、その内に秘められた先を見れば理解できる。
「貴方にはゴシックフリルが似合うわ。ネイビーブルーのが。赤の色も綺麗で嫌いじゃないわ。まるで燃え上がる魂の様な焔の色ね……だけど貴女の本質はそうじゃないわ。もっと静かで穏やかで―――何もない、凪いだ海の様な虚無。だから青よ。貴女に似合う色は。青と黒。そしてやっぱり赤、ね。まるでめらめらと燃え盛る自我。誰よりも何もなく、だけどそれに抗う様に燃え上がる貴女にはその色が相応しい。だからそれを配色しつつ形を整えればいいのよ」
果たして何時からティーポットはそこにあったのか。それをティーカップに注いでいるウサギの執事は何時そこに生み出されたのか。何時からこの部屋は庭に変わっていたのか。空は夕日が見える筈なのになぜきれいな青空が見えるのか。
何時から俺の服装はアリスエプロンドレスへと変わっていたのか。
「あら、ワンダーランドと表現したから整えてみたんだけれどダメだったかしら?」
「流石にここまでやるのは趣味じゃないな。愛でるのは嫌いじゃないけど、成るのは別だ」
「あぁ、確かにそういうタイプよね。寧ろ別の誰かに憧れず、真似ろうとする事を嫌がるタイプよね」
「まるで知っているように話しやがる」
「そりゃあ知っているから話すわよ。人間なんて底が浅いもの。視れば大体わかるでしょ?」
あぁ、成程、と呟く。その言葉だけで大体この少女が見えて来た。表面上は人間であり、人間として振る舞い、自分を人間だと認識している―――だけどその皮の下は混沌だ。何がトリガーで暴発するかが解らない火薬庫になっている。そしてそこから獣性、とでも言うべき傲慢が見え隠れしている。何か……何か、致命的な出会いがあれば爆裂するような、そんな危なさを備えた少女だった。
果たして、彼女には何が見えているのか―――それが解らず、恐ろしい。
「さて、仕切り直しましょうか」
目の前にチーズケーキの乗った皿と紅茶の注がれたティーカップが並べられた。そこから感じられる匂いは本物であり、食欲を誘ってくる―――故に迷うことなくそれに手を伸ばし、頭の片隅に普段は追いやっているマナーなどを引っ張り出して、最低限の紳士っぽさを演出する。
あぁ、そういえば今は淑女だっけ。
そんな事を考えながら、さて、と呟く。
ここからが交渉のスタート地点だ。予想外に相手のスタートから開始してしまったが、まだこれはどうにかなる。
「疑わずに食べるのね、ちょっと意外だわ」
「欲望には素直に、ってのがモットーでな。我慢しないタイプなんだ。それはそれとして、出されたものを警戒して口を付けないのはゲストとして失礼だろう?」
「えぇ、それはそうね、確かにそうだわ……ふふふ」
沙条愛歌の言葉に笑みを浮かべ、軽く微笑み返し、
「―――さ、俺を帰して貰おうか」
「―――無論、ダメよ。許可できないわ」
ふふふ、ははは、と笑い声を零し、睨み―――お互いに魔力を垂れ流しにする、威圧交渉を開始する。
次回、交渉決裂からのvs沙条愛歌戦。一応交渉ルートも戦闘勝利ルートも残してあるんだけど……うん、まぁ、その……うん。
次回若干リョナいかもね!!! 誰がとは言わないけど!! それにしても運Dだと交渉毎回失敗するなこいつ……。まぁ、初手教会のギルルートだと最速対面になるのでこうなってしまう。