※この作品はR-18です。

Kaleid/Burn Out   作:てんぞー

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六の界

 やっぱりか、と口に出さずに呟く。

 

 先ほどまでは和やかだった空間も濃密な魔力を通して圧迫するような感覚が今は広がっている。ギルガメッシュから聞いた話、愛歌の回路は量が低レベルである為、魔術や現実改変の類を行使する時、ラグなどが発生する筈だ。だが今感じている魔力量はそんな回路の低質さを感じさせるものではなかった―――となると何らかの方法で克服している、とみるべきなのかもしれない。その事実に冷や汗を静かに流す。だからと言って交渉を諦めるべきではないのだが。

 

「俺は元々魔法の修行の途中だったんだ。ここに来る予定はなかったし、最初から帰りたいと考えている。お前が俺を此方へと引っ張りこんだのなら過失はそちらにあるんじゃないか?」

 

「えぇ、そうね……確かにそう言う意味であれば私にも過失はあるのでしょうね。だけどそれは私が気にする事かしら? 貴女がそうであるように、私もまた混沌の側の人間よ? ()()()()()()()()()()()()()()わ。えぇ、それを魔術師(あなた)が責める事出来るかしら?」

 

「え、責めるよ」

 

「!?」

 

 当然であるようにそれを愛歌に対して、少女に対して宣言した。ニヤリ、と笑みを浮かべながら。いや、だってそうだろう? 他人は他人、俺は俺という奴だ。お前が何をやっているのか、と俺が何をやっているのかは全く関係がない。だって、XXXが人を殺しているからじゃあ俺も殺していいんだ! ……って訳にはならない。

 

 自分のルールは自分で守る。そしてこの少女のやっている事と、俺のやっている事は別。それだけの話だ。つまり簡単に言えば、

 

 俺は良い、俺だから。だけどお前はだめだ。それだけの精神である。

 

「俺に関わる範囲で迷惑かかってんだから俺が許すわけないだろ? だから普通に責めるさ。俺はお前に迷惑をかけていない。だけどお前は俺に迷惑をかけた―――これは実に大きな問題だと思わないか? ん?」

 

「ふふふ、中々面白い切り口ね。でもダメよ。そう言われると逆に燃え上がるというものですもの」

 

 小さく笑いながらティーカップに口を付ける彼女の姿を見て、ケーキを鷲掴みにしながら食べた。うーん、困った、と。目の前の少女の目的が見えてこない。俺に対して興味は見えるけど、それは薄い。だからと言って殺意や敵意がある訳ではない。純粋に何かしらの目的があっての事なのだろうが、それが読めないのだ。最近、考えや動きが読めない相手ばかりで辛いなぁ、と軽く嘆きつつもそれで、と声を出す。

 

「……俺に何をさせたいんだ? それが終わったら帰してくれるんだろう?」

 

「えぇ、そうね。一つ仕事を頼みたかったのよ―――断るのなら洗脳して染めてしまえば良いのだけれど、貴女の場合それが酷く手間になるからなるべくしたくないのよね。貴女に掛かり切る羽目になっている間にギルガメッシュに乖離剣で冬木諸共処理されかねないし」

 

「あぁ、確かにギルガメッシュならやるな」

 

 あの女帝は必要だと感じたら迷わないタイプだ。そして最初から何が必要であるのかを理解し、その為に全ての行動を構築しているタイプでもある。故に一度状況が始まったら後は機械的にそれを処理するだけだ。そこに迷いや説得の余地はない。或いは愉しめるのであれば話は別だろうが、この少女を相手にそういう手心や慢心を見せる事は()()()()()()()()だろう。そして同時にギルガメッシュがあそこまで忌んでいる少女なのだ、その目的はぶっ飛んでいるのだろうと予測できる。

 

 で、と言葉を求め、愛歌に何をさせたいのかを喋らせようとする。

 

 それを受けて、

 

 愛歌は―――頬を赤くした。

 

「……は」

 

 少しだけ笑い声が漏れてしまった。だけど此方に気づいていない様子で、片手で頬を抑えつつ、顔を少しだけ赤くしていた。それはどこかで見た恋する乙女の様な表情で―――いや、まだ恋はしていない。恋に恋をしている、とでも表現すべき状態だった。それが愛歌から見れる様子で、中身はともかく、見た目はそういう事を考えても良い年頃の若い少女で、見た目も麗しく、それは絵になる姿だった。

 

「え、えーとね? あのね? そのね? 私、王子様に会ってみたいの」

 

「王子様」

 

「えぇ、えぇ、そうなのよ!」

 

 輝かんばかりの表情を愛歌は浮かべた。その彼女が言う王子様とやらはどうやら彼女の心をがっちりと掴んでいるようだった。ティーカップを両手でつかみながらやや俯く様に、恋する乙女が語らうかのように少しだけ声を小さくし、

 

「あのね? 彼ってば本当にかっこいいのよ。実にチャーミングな笑みを浮かべていて、綺麗な金髪の髪の色をしているの。服装も結構センスのあるもので、戦働きの騎士とは思えない程紳士的でスタイリッシュなの。それでいて爽やかで、こう―――まるでおとぎ話の王子様の様な人なのよ」

 

「お、おう……成程。つまりその王子様に会いたい、と」

 

「えぇ、そうなのよ! その為には貴女の力が必要なのよ」

 

 楽しそうに、そして嬉しそうにそれを愛歌は語る。そうかー、恋愛だったかー、めんどくさいなー、と心の中で呟きつつも、愛歌の次なる言葉に耳を傾けた。

 

「彼、アーサー・ペンドラゴンって言うのだけれど男のアーサー王なのよ。だけど残念ながらこの世界のアーサー王ってアルトリアという女性なのよね。だからどれだけ求めても私と王子様は会えないのよ……平行世界の私ばかりずるくないかしら?」

 

「まぁ、それは此方で生まれてしまった不運だろ……」

 

「そうよね? だけどこの不運も私とアーサーの人生のスパイスよ!」

 

 そこでまるで名案かの様に愛歌は言う。

 

「そう、()()()()()()()()()のよ」

 

「―――」

 

 軽く放った愛歌の言葉に動きを完全に停止させる。そんな此方の様子に熱が込められた愛歌は気づく事もなく、更にヒートアップする様子で言葉を放つ。

 

「えぇ、そうよ、アーサーがいないのなら()()()()()()()()()()()に決まっているじゃない! だとしたら歴史を再編してアルトリアではなくアーサーがいる歴史に作り替えればいいのよ。一度ブリテンの歴史を否定する事で時系列から抹消、そこから作り直せばいいのよ」

 

 言葉を失った。

 

「歴史の焼却は魔法使いなら可能ではある。足りない出力は私で補強すればいいし、方法も私が根源から引っ張ってきて教えるわ。そうやって歴史を抹消したらアルトリアではなくアーサーが出現する未来を視ればそれで流れは確定するわ―――ギルガメッシュが抵抗に流れを確定させたけど、その前の段階で流れを抹消して作り直せばそんなもの意味はないわ」

 

 この少女は狂っている。まだ外面は人間の様に取り繕っていると表現した。だがそんなの間違っていた。取り繕えていない。完全に人間の様なフリが出来ていない。この少女は怪物、いや、違う。表現するのなら自分の()に酔っている、

 

獣だ

 

「ま、たぶん抑止力が出てくるし、世界も一度は滅びそうだけれど、そんな事些事よ、些事。その後の歴史をまた作り直せばいいのだから、一回ぐらい滅んだって問題はないわ」

 

「いや、あるわ。頭おかしーんじゃねーのお前。人類が滅ぶかもしれないダイナミック歴史改変のどこが些事だよ。そんなに愛しの王子様に会いたいなら今すぐ自殺して過去のブリテンに生まれ直せよ」

 

「出来たらやっているわよ! だけど根源との接続は魂とかではなく肉体で繋がるものよ? 私が肉体的に死亡して、肉を捨てたのならその時点で魂が肉体と切り離されて根源とは切り離されてしまうのだから、ダメじゃない!」

 

 あぁ、成程、真剣に考えた結果なのか、とある種の絶望感を感じた。根本的にこの少女は人ではないのだ。比喩や表現ではない。根源と言う人類が触れてはならぬ領域に繋がってしまった結果、人ではなくなってしまったのだ。人の姿をしただけの怪物……ただ、そう、

 

「お前は……純粋過ぎたんだな」

 

「あら、何の事かしら?」

 

 この愛歌に善悪の判断を付ける事は自分には出来ない。根源接続者にその善悪の判断を押し付けること自体が無駄だろうし、意味がない。だけどこの子はきっと純粋過ぎたのだ。純粋に、そして一途に愛してしまったんであろう―――そしてそれが指向性となって今、恐怖を生み出している。この少女を放置すれば世界が滅びる。いや、ぶっちゃけた話、この世界はどうでもいい。滅びようと1000人単位で死のうが興味はない。

 

 だがこの少女は()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()だろう。

 

 流石にそれは、自分の楽しい犯罪ライフの為にも見逃せない。

 

「……やっぱ、相容れないなぁ」

 

「あら、そうなの? 結構いい線を行っていたと思うのだけれど……」

 

 困ったような表情を浮かべながら愛歌はそう言った。だからその言葉にいやいや、と言葉を置いた。

 

「流石に放置できねーわ。正義感とかじゃなくて、お前を残しておくと後々俺の人生の失敗になりそうだしなぁー……あぁ、後そうだそうだ」

 

「うん? なにかしら?」

 

 立ち上がりながら後ろへと数歩下がり、指をぱっちん、と弾く。それに合わせて服装が本来の姿―――つまりは黒いぴっちりインナーと赤いジャケットにスカート、本来のテクスチャーを取り戻す。なんとなくだがこれはゼルレッチが叩きつけて来たペナルティに構造が似ている事だった。つまり外見情報を上書きする事で情報を変化させ、姿形を変えるというやり方だ。超越者たちの基本機能かもしれないなぁ、と思いながらポケットに手を突っ込み、

 

 煙草を引き抜いて口に咥えながら火を付けた。たっぷり煙を吸い込んでから吐き出し、咥えたままにやり、と笑みを浮かべる。

 

「紅茶のティーパーティーよりはビールのドリンクパーティーの方が好みだ。趣味が合わない」

 

「悲しいけど音楽性の違いという奴ね。いいわ、正面から叩き潰して屈服させて心が折れた所で洗脳して人形にしてあげるわ。その方が一々面倒がなくて楽だものね」

 

「ヒュゥ、言ってくれるぜ」

 

 右手を振るえばそこにレティが握られる。頼もしい炎と鉄の感触を感じながらも偏在しつつある周辺の空間に静かに冷や汗を流す。今、目の前で興じていたティーセットもテーブルも、ガーデンも全てが消える。そしてその代わりに無限に広がる石畳の世界へと光景が変わって行く。一瞬で異界から異界を生み出し変質させたその空間形成能力は魔法使いですら中々出来ない事だ―――少なくとも手順や順序と呼ばれるルーティーンワークを全て無視して行っているのは事実で、

 

「さて、全力を出せなかったから……なんて言い訳はさせないわ。全力で打って来てね? それを叩き潰して屈服させるから」

 

「この性悪の小娘が―――」

 

 は、と笑いながらレティの姿を()()()()()()()()。それこそが原初の姿。一番古く語られ、最も正しい姿とされているレーヴァテインの姿である。災厄の枝。それこそがレーヴァテインの本当の名前。本来の役割を果たすためにはこの姿へと回帰しなくてはならない。ある意味変容ではなく《神代回帰》とも呼べるもの。本来の武具としての姿を取り戻す。

 

 そしてそれを横に、両手で伸ばす様に腹を見せて構えた。

 

「ところで愛歌ちゃん」

 

「あら、何かしら?」

 

「この異界の強度にご自信は?」

 

「そうね……惑星一つ分の強度はあるかしら」

 

 成程、と呟く。惑星防壁とでも呼ぶべき空間か。普通、この中に放り込まれたら脱出なんてできないだろうし、発狂するまで放置されるだけだろう。とはいえ、今回はそれを心配する必要はない。これを振るう事が出来るのはおそらく地球上ではここだけ、宇宙でも―――そう―――月の―――無限領域―――ぐらいだろう。故に少しだけ安心感を抱きつつ、再び愛歌ちゃん、と言葉を置く。

 

「全力を出す覚悟は出来たのかしら?」

 

「あぁ―――これから俺もお前もたぶん一度は死ぬから。覚悟しておけよ」

 

「……うん?」

 

 その言葉に愛歌が視線をレティへと合わせ、そして枝に搭載された最後の宝具を見た。

 

 それは対歴史宝具。発動させたら星を終焉させて歴史を終息させるという役割を持った宝具。それこそがレーヴァテインの本来の機能。だがそれを発動するには令呪3画に聖杯というリソースが必要になってくる。だが当然ながら、そんなリソースは簡単に用意は出来ない。だが魔法使いともなれば話は別だ。EX化された【魔力】、そして《万華鏡》によるリソースの無限供給。

 

 これが存在するのなら本来のスペックでぶっ放す事が出来る。地上では絶対に放ってはならない最悪の破壊―――否、破界宝具。

 

「さあ、一撃で消し飛ばしてやるよ。お互いその後でどれだけリソースを残せているかで勝負だ―――来たれ破界の時、世界の黄昏(ラグナロク)!!」

 

「ファッ!? 待ちなさい、それちょっと待ちなさい! なんてものを持ち出しているのよ貴女!?」

 

「はーっはっはっは!」

 

 笑いながら炎が圧縮されて行く枝を構えている。そこに圧縮される熱量は()()()()()()()()()()()()()()()炎だ。それも全ての存在、地上や地下関係なく天体そのものを焼き尽くすもの。そう、これは惑星を滅ぼす災厄の枝。だが()()()()()()()()()()()()()()()()()のだ。その本質は歴史の焼却、あったという事さえも残さない絶対必滅の概念。

 

 神話を終わらせたという概念を保有した()()()()()だ。

 

 起源の炎から生み出され、界と破壊を与えられ鍛え上げられた一本の枝―――それは超新星爆発を武器として形状を与え、溜め込んだものであり、その一撃は星を呑み込んで全てを炎で融かした後、ブラックホールで呑み込んで跡形さえも残さない絶対的な物理破壊現象。

 

 その性質上、—度発動すれば使用者も敵も惑星も呑み込む。

 

だけどここが惑星規模の防御力だったら是非もないよネ!

 

「いい感じに燃え上がってまったく躊躇する気ないわね!?」

 

無論、何せ()()()()()()()()()()()()土俵に上がれないだろうからなぁ―――!

 

 叫び声と共に、来たれ破界の時、世界の黄昏(ラグナロク)を放つ。構えた災厄の枝を―――レティを振るい、本来の姿へと解き放つだけだ。そうすると手の中に存在したレティの姿が燃え尽きるように消え去り、

 

 次の瞬間には熱を感じられず、酸素が消失していた。息苦しい、そう思った次の瞬間には見える範囲全てが炎に包まれ、意識をする間もなく何もかもが蒸発する。その間に知覚出来るもの等ない。だが死亡するのと同時に鍛え上げられ、完成された技術、魔法、スキルが組み合わさって一瞬で死亡したという事実を否定する。

 

 世界を焼き尽くす炎が放たれた後で死亡した事実が否定されれば―――気づけば夜の冬木の空にいた。目の前には散らばった炎が収束し、それが再び人の姿を取る。それに向かって片手を伸ばし、伸ばされたレティの手を掴んだ。

 

「ま……け……ぃ……で……!」

 

 絞り出すような声と共にレティが剣になったそれを一回振るい、空中に熱を生み、それで体を軽く浮かび上がらせてから中空を蹴った。落下速度を殺して逆に空へと飛び上がりながら見える世界を確認する。

 

 空が赤く燃えている。

 

 夜ではあるが、所々夜空が燃えており、その影響で冬木の一部が赤く染まっていた。それが地上に届く事も触れる事もないが、それでもそれは終末の空を思わせる様な幻想的な風景を生み出している。完全に隠蔽する事の出来ない神秘の漏洩だった―――まぁ、少しぐらい派手になってもいいよな、とは平行世界だから思わなくもない。とはいえ問題は、

 

「やってくれたわね……!」

 

 同じように空を落下する愛歌の姿が見えた。どうやら完全にあの隔離空間を破壊できたらしい。そうなってくるとここからが本番、という事になる。お互い一回死亡した状態から蘇生した。となるとそれなりに手札を切ったはずだ、

 

火を付けたんだ、存分に燃え尽きようか―――

 

 先ほど完成させた魔法由来のスキル―――《NeverDie》の影響で死の概念を否定して蘇り、その勢いのまま愛歌の背後へと一気に転移する。これが空の上である以上、地上を焼き払うだけの心配はいらない。

 

 対城規模、つまりは街を一つ吹き飛ばす規模の破壊を薙ぎ払って生み出す。夜空に炎の波状斬閃が広がるも、同じように転移で愛歌は抜け出していた。一瞬で視界の外側から消えた姿を追う様に《千里眼》で姿を追いかけた直後、

 

 愛歌の周囲に黒い人影が集っているのが見えた。肌色は完全に黒く染まった影の様な姿は矢を番え、《千里眼》越しに此方を見た。その瞳はしっかりと、此方をロックオンしている。

 

 そして愛歌の口が動いた。

 

「最高峰のアーチャーは一射一射が対城級になるらしいわよ?」

 

「英霊召喚術式……!」

 

 英霊の再現、そんな事も出来るのか―――そう思った直後には流星と見間違う様な矢が放たれた。一瞬で音速を超過した矢は人の認識を超越しながら真っすぐ、夜空を貫きながら飛翔してくる。迷うことなく転移で適当なビルの上に着地し、そこから《千里眼》で見えた愛歌の背後へと一気に転移する。

 

「見つかっちゃった」

 

 零距離から放たれる対城級の通常攻撃を対城級の通常射撃で切り結んだ。その熱波と余波だけで屋上が消し飛び、瓦礫が吹き飛びながら宙を舞う。一気に跳躍し、瓦礫を足場にレティを双剣に変容させ、移動しながら乱舞する様に振るう。無数の対城級の斬撃が夜空を彩るように連続で放たれ、それを弓兵の黒英霊は全て迎撃していた。チ、と吐き捨てながら再び転移する。弓兵に対して一気に接近する様に踏み込みながら剣を振るう瞬間、弓兵が体を極限まで回避する様に反らしながら表情を変える事無く零距離射撃を敢行してきた。

 

燃えろ

 

 言葉と共に影の英雄の筋力が燃え尽きた。引き抜けそうになっていた弦は一気に力を失い、元の形へと筋力に逆らって戻って行く。その動きで一瞬、間が生まれる。

 

次はもっとマシな状態で殺ろうぜ

 

「……」

 

 影の英霊が燃え尽きて行く。その胴体に突き刺さった炎が致命傷となって焼き尽くす―――だが燃え尽きる一瞬だけ、影の顔が笑みを作った。安らかな笑みを浮かべて燃え尽きて消えた。

 

……っ

 

 笑っていた―――そう、最後だけはまるで正気に戻ったかのように笑っていた。となると彼は、自我があったのだろうか? 英霊の座から再現された本物だったのだろうか? それともコピーに生まれた最後の瞬間だったのだろうか。どちらにしろ、

 

 敵は増えていた。黒い影が冬木の新都、ビルの屋上に現れていた。それはかつて、どこかの世界、或いは過去において活躍した英霊たちの影、偽物、或いは闇。シャドウとも呼べるサーヴァントの姿であり、宝具を持つことから本物であること以外は全てが真実の影だった。

 

覚醒開始(アクセス)

 

 千里眼を使って出現する存在を全て把握する。

 

強制覚醒(アクセス)

 

 世界と世界の隙間を繋げ、空間を繋げて一つの攻撃が無限分岐しながら無限の距離を獲得する様に調節する。

 

ぶっぱ、なす―――!

 

 一振りの斬撃で全座標の影の英霊を始末する。一振りが無限乱舞へと変化し、冬木市の各所から天へと昇る火柱となって昇って行く。全てを始末したところで無理に感覚領域を広げた反動で息が切れる。次、と愛歌を見た瞬間、

 

 背後にいる彼女の姿が視えた。

 

「えい」

 

 体を捻った―――が、遅い。

 

気づけば触手が片腕を袖ごと千切っていた

 

「ふぅ―――!」

 

「どうしたの? 火が消えてるわよ」

 

 腕が千切れた事を気にせずに振り返りながら剣を振るう。残った腕で即座にバランス調整をしながら広く、夜闇を消し飛ばす様に振るった。だがそれを愛歌は触手を何十、何百、何千と重ねるように出現させて正面から防いだ。二刀であれば即座に連撃で突破できただろうが、片手であればそれだけの速度が出せず、突破できない。力を乗せて放った一閃だけに動きが僅かに鈍る、

 

「捕まーえた」

 

「ごふっ」

 

 動くよりも早く一瞬で触手が体を絡めとった。言葉を吐くよりも早く体がビルを貫通する様に投げ飛ばされ、残骸を貫通する。一瞬で肉体が耐えきれる限界の衝撃を超過し、一瞬だけ意識がブラックアウトする。ちかちかと瞬く視界の中で、瞬きをした瞬間には景色が変貌していた。

 

 破壊の痕跡を見せる冬木から景色が入れ替わる。大地を消し飛ばして逃亡しようとする矢先、触手が腕を掴み引き倒す。残された腕が大地に縛り付けられ、レティが大地に縫い付けられて動きを止められる。クソが、と血液を吐き出しながら言葉を吐き出そうとしたところで腹の上に衝撃を感じる。言葉の代わりに血液を吐き出す。転移による逃亡を行おうとする。

 

「だからだぁーめ、もうだめよ。ここは再構築した私の空間。領域。貴女じゃここから逃げ出せないわよ」

 

「おぉぉぉおおおおお―――」

 

 筋力任せに触手を千切ろうとしても、まるで体に力が入らない。いや、あの一撃を食らった時点で致命傷に近い一撃を受けているのは解っていた。あの腕を、片腕を失った時点で詰んだ。

 

いや―――そもそも、根源接続者相手に勝ち目がなかったのか。

 

「ううん? そんな事はないわよ。私だって不意打ちされれば一回ぐらいは死ぬわ。実際はさっき一度死んだでしょ? だから絶対油断せずに捕まえる事にしたんだけどね」

 

そうやって笑った愛歌はさぁ、と声を零した。

 

「私の勝ちね。ふふふ、これでアーサーに会えるのね!」

 

「寝言は寝てから言え小娘。お前は会えない、アーサー王には絶対に会えない」

 

「逞しいわね……こうされてもまだ言えるかしら?」

 

そう言って笑いながら愛歌が片手の指を差し込んできた―――左腕の傷口に。ぐずり、と血液を吐き出させながら腕があったはずの場所に指先を差し込み、それを広げるように指先を抉る。

 

「ぎぃ、ぎゃ、ぎゃぁぁぁぁぁっ、あっ、あっ」

 

「ふふふ、痛いでしょうねー。せっかく夢がかないそうでいい気分なんだから、水を差しちゃ駄目よ? 私もあまり痛い事は好きじゃないのよ、汚れちゃうし」

 

 そう言いながら愛歌は指を引き抜いた。そこには中途半端に折れた骨が握られており、千切れた腕から引き抜いたのだと自覚した瞬間、声を震わせながら絶叫が漏れ出しそうになる。だが見える愛歌の表情は返り血で真っ赤に染まっており、その中でうっとりと浮かべる表情は―――猟奇的で、怪物のものだった。

 

 故に悲鳴よりも先に血交じりの唾を吐いた。

 

 少女の顔面に。

 

「クタバレハーロット」

 

「勇ましいわね……心を折ってみようかしら」

 

 そう言って残されたわずかな腕の部分を愛歌が握り潰して引き千切った。一瞬で激痛に支配された脳味噌が喉の奥から絶叫を飛び出させ、一瞬で視界が赤く染まる。それを愛歌が笑いながら眺めており、

 

「あら、もしかしてマゾヒストなの? こんな状況で股を濡らすなんてハーロットの称号は貴女に相応しいんじゃないかしら。さ、それじゃあその無能な目玉を片方貰っちゃいましょうか。減らしたほうが良く視えるようになりそうだし」

 

 そう言ってあっさりと髪の下に隠された目に指を差し込み、ぶつり、という音と共に目玉を引き抜いた。

 

「これで良し、と。無駄に視界に頼るから良く見えないのよ。これで多少は機能が改善されるし……うーん、ちょっと左腕の余りが不揃いね。こうなったら肩口までバッサリと無くしちゃった方が形的に良いだろうし、えい」

 

 ぶちっ、と千切れる音とザク、と切り刻まれる音がした。既に耐久の限界を超過しているのに死んでいないのは魔法使いという人種に足を踏み入れている事、そして()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()からだ。

 

 逆に彼女が死んでもいいよ、と思えばその瞬間に死亡する。

 

 痛みの中、逆に思考がクリアになって行く。あらゆる雑念がほどけ、痛みさえも脳の中から消え、見えなくなってくる。愛歌を見る左目。そしてどこかを眺める何もない筈の右目。

 

 それで愛歌を見て―――その瞳に移る自分を見た。

 

 それを見て、

 

【怒りを感じた/安堵を感じた/何時も通りだった】

 

 

怒りを感じた/安堵を感じた/何時も通りだった

 

 ……安堵していた。あれ? なんでだろう? 痛みで脳味噌が回らない。出血がひどすぎて口をパクパクと開く。えーと、あぁ、なんだっけ……その、なんだろうか。

 

 あぁ、そうだ、と唐突に思いつく。

 

「―――もう、がんばらなくていいのか」

 

 心が折れている訳ではない。そもそも、そんなものは子供のころにとっくに折れていた。だからこれ以上折れる事はない。だからそこから諦めずに生きる事は難しくはなかった。妥協せずに人生を進めばよい。それだけの事なのだから。

 

 だけどこうやって、何もかももうダメだ、という状況に突入して、()()()()()()()()()()()()()()()()()と言う事実にたどり着いた。もう頑張らなくても良い。もう滅茶苦茶な事をしなくても、巻き込まれなくても良い。

 

 それだけで笑えた。

 

「……哀れね」

 

 片手に目玉を握り、もう片手で肉片を握る愛歌が馬乗りの状態で見下ろし、動きを停止させながら見下ろして呟いた。

 

「それ以外の言葉が私には見つからないわ―――哀れよ、貴女。成るべくしてなった、という所かしら。憐れむ事だけはしてあげるわ」

 

 でもね、と言葉が付いた。

 

「私はアーサーに会いたいの」

 

 愛歌が言葉を発し、返答が返される。

 

「―――おまえは、あえない、ぜったいに」

 

 直後、馬乗りだった愛歌の胸から炎の剣が生えた。その瞬間、愛歌の思考が停止したのか、魔法が戻ってくる気配を感じた。右目を抉り抜かれて奪われたのに、なぜか視界は今まで以上にクリアだった。今なら何でも見通せる気がする。魔法の力で何でも出来る気がする。そんな事を考えながら、

 

 おそらくは殺す事が不可能なこの娘に対して、今だけ出来る唯一の対処法を行う。

 

「《F:Memories》」

 

 残響する記憶よ、記録よ、燃焼される想い出―――運命。そういう名前のスキル。第一魔法の否定というものの中でも最も浅い領域を否定する事で無くす事が出来なかったそれを、本当の魔法の領域に踏み込み、選択しつつ選んだ。

 

「沙条愛歌の夢を否定しろ」

 

 血液を吐き出しながら呟いたのは魔法の言葉。

 

 シンデレラにかけられた魔法には終わりがあった。

 

 アリスは目覚めてワンダーランドでの冒険を終えた。

 

 何時までもピーターパンと遊べる訳ではない。

 

 夢に終わりは来る。そして現実は終わる。

 

「夢から覚める時が来たんだ……俺も、お前も」

 

 呟きと共に、少女の悲鳴が響いた。

 




・沙条愛歌に敗北しました、成長点を獲得しません
・強制的に第一魔法に覚醒しました
・千里眼が強制的にEXに覚醒した結果ED後が確定しました
・片腕と片目が再生不可状態で固定されました
・レティの消滅フラグが進行、確定しました
・レティの消滅が確定となりました
・第二宝具が解禁されます 
https://www.evernote.com/shard/s702/sh/0add8632-e684-42c7-8099-2a889c717f19/a848f562223b25e934d7669485c3d0ab

・覚醒に伴いスキルが全て更新されました、ステータスが変化しました
https://www.evernote.com/shard/s702/sh/fc1ec54f-0670-4455-a5b4-0eb7f4e6f3fb/d8141082881b8190587fcc3210d146bf

 システム的に装備できるスキルは同時に4個まで。それ以上はスキルを交換させないとダメ(パッシブ以外)。

 次回から特別コミュ、そして通常コミュ。おそらく次のシナリオがラストシナリオです。
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