※この作品はR-18です。

Kaleid/Burn Out   作:てんぞー

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おはよう、おやすみ

 第一魔法・無の否定。

 

 それがたどり着いた境地だった。

 

 無の否定、つまりは無い物を消去する事。それは概念的な行いであり、当然ながら概念的な領域に到達できない科学では絶対真似できない事だ。故に第一魔法は概念と言う領域を定義した魔法でもあった。合計六つの魔法、その中で一番最初に概念と言う領域を見出し、そして否定する事で道を作った。

 

 永遠に魔術と魔法と言う別次元を生み出した。それが第一魔法。

 

 否定する事による消去に特化しており、その恩恵は応用さえすれば様々な方向へと伸びる。例えばエーテルから不純物を否定しながらそれを集めるだけで、神代級の触媒用エーテル塊を生み出す事が出来る。他には死を否定する事で死亡した事実をなかったことにして、蘇生ではなく死亡する前の状態へと回帰する事が出来る。或いは時間軸を否定する事によって疑似的なタイムスリップを自由に行ったり、領域と領域の合間を否定する事で世界や場所を自由に移動する事が出来る。

 

 そして魔力コストそのものを否定する事で、魔力を無限に使い続けられる。

 

 だけどキシュア・ゼルレッチも、ヘヴンズフィールも、青も、全てこれと同列で同じ領域に存在している。それが魔法使いの領域。魔法使いと言う存在になってくる。その世界に今、自分は踏み込んで登った。冠位指定魔術師の資格たる超越(EX)級千里眼を獲得した。

 

 これで正真正銘の魔法使いだった。

 

 或いは現代神話とも呼べる領域の住人の仲間入り。

 

 自分がこうなるなんて、思いもしなかった。強くなる事だけを考えた。その果てに到達したこの場所は―――言葉にするのが面倒なほどに、不要なものだったのかもしれない。異世界の壁を否定する事で平行世界を渡り歩き、他の世界へと到達する可能性をゼロにするまで否定する事で狙って世界へと移動し、自分の本来の世界へと戻ってきて、

 

 三日が経過した。

 

「ミス・ムカイ、君の事を探していたぁぁぁがあああああああ―――!」

 

「ダディに俺がジャパニーズだってことを学ばなかったのかロメオ(いろおとこ)? 話しかける時は最初にかける言葉に気を付けるんだな」

 

 時計塔のカレッジを歩いていると、そうやって一方的に話しかけてくる姿が最近増えた。無論、まともに取り合う気はゼロである。連中の言い分はシンプルである。利益をやるから、魔法使いを我が家に取り込みたい。それだけである。()()()()()()()()()()()()()()魔法使いは今、後ろ盾が存在しない。だから簡単に取り込めるという考えの魔術師がコンタクトを取ってきているのだ。

 

 ハニートラップや魅了を織り交ぜて。今、こうやって話しかけた男からも禁制の惚れ薬の気配を感じる。とはいえ、そんなものは魔法使いには効かない。アイアンクロ―で顔面を掴んでから一気に振り回し、そのまま地面に叩きつけたらズボンを引きずり下ろし、ケツの穴に最近制裁用に購入してきたバイブを取り出して突き刺し、全力でスイッチオンにさせつつ両腕の自由を拘束して解放する。

 

 高速で走って逃げるバイブ魔術師の完成である。

 

「はーっはっはっは! 根源まで到達できそうな速さだなぁ、イケメン君よぉ!! オラ! 粗チンぶらぶらさせながら逃げろよぉ!! どうした足がおせぇぞ! 惚れ薬がくせぇんだからちゃんと風呂に入れよ包茎!」

 

 げらげらと笑いながら逃げて行く背中姿の近くに解りやすく火柱を発生させて遊ぶ。火柱が出現するたびに転がり、這い上がり、ケツにバイブが食い込んで行く姿が見ているだけで感動的だった。人間、あんなに情けない姿を晒してでも生きようとするんだな、と。でもキメラオナホの魔術師が存在するし、アナルバイブの魔術師も存在するのは不思議ではないのでは?

 

 もしかして俺は今、新しい魔術の形を生み出したのではないのか?

 

 そう思うとじーん、と感動―――感じる訳ねぇだろ。汚いわ、と、心の中で切り捨てる。あぁ、クソめんどくせぇ事になったなぁ、と、そう呟く事しかできなかった。実際、クソ面倒だった。

 

「Fcuk! 何度繰り返せば理解するんだこのライミー共! 男に! 走る! 趣味は! ないつってんだろうがぁ! サキュバスの誘惑もインキュバスの唾もラミアの呪いも俺には通じねぇんだよクソが! 若造だと思って俺の事を舐めたか! お前も! お前も! お前も! 遠視しているお前ら全員だよ! バレてねぇとか思うんじゃねぇぞ! 今からお前らが欲しがってる魔法を全力でぶち込んで時計塔諸共消し飛ばしてやるからな!!」

 

 虚空に向かって叫べば一気に覗き見している気配が消え去って行くが、それとは逆に干渉する気配も感じるので、術そのものを否定して存在をなかった事にし、発動ではなく魔術の式そのものを歴史から消し去った。それが終われば今度こそ干渉もクソもない、カレッジ内の平和が戻ってくる。

 

 ふぅ、と呟きながら()()()頭を掻く。

 

「―――何度見てもそれが偽物だとは見えない精度ですね」

 

「ん?」

 

 頭を掻く手を止めながら来た道を振り返れば、そこには見覚えのあるスーツ姿の女が見えた。ここしばらく見ていなかった女は本当に軽いが、時計塔内では割と珍しい人間的な思考が出来る女だ。その真面目さとまともさと引き換えに残念さを植え付けられたような女だったが、価値観が比較的にまともだから会話が出来る女―――バゼットは、本当に久しぶりの登場だった。

 

 おっす、と片手を上げて挨拶をしながら左手を下ろした。これは愛歌に引き千切られたものだが、

 

「良く出来てるもんだろ? この()()は」

 

 腕の再生、蘇生は不可能だった。根源に接続している存在に観測されながら引き千切られて整えられたのだから。肩口からばっさり切り落とされたかのように綺麗な様子になっている。だからそれを幻術で騙した。高ランクの《幻術》はそれこそ実物と変わらない。

 

 少なくとも花の屑の奴はそうだった。《千里眼》を取得した結果、軽くヤッホーなノリで教えてくれるようになった為、義手などを作ったり新しい腕を生やすよりはこれがずっとスマートだから花の屑の言葉を受け入れて幻術で腕を作る事にしたのだ。花の屑、近場に仲間が出来たからと最近割とうるさい。

 

「……キョウジさん?」

 

「ん? あ、あぁ……ちょっと知り合いの事を考えてた。まぁ、なんだかんだで義手の用意とかは金がかかるし、魔力なんて使っても減るもんじゃねぇしな。日常生活する分だけだったら幻術で何とかなるわ」

 

「幻術の魔術がそこまで便利だったとは知りませんでした」

 

 自分は体の欠損部位を騙す程度が限界だが、花の屑クラスであれば街を丸一つ一時的に生み出して騙す事ぐらいはできる。アレと比べると児戯の様なものだ。まぁ、アレとこちらでは魔術師としての格が違う。魔術師としてはあっちの方が遥かに高位存在だ。その代わりこっちは魔法使いだ。まぁ、お互いに出来ない事が出来る程度なので、嫉妬の様なものはない。

 

 花の屑の事に関しては頭の外へと追い出して、

 

「バゼットさんはどんなご用事で?」

 

「あぁ、そうでしたね」

 

 話を振るとバゼットは頷いた。

 

「貴女を()()()()()()()

 

「……諫めに?」

 

 はい、とバゼットが頷いた。

 

「生存率が高く、部署から出せる人間で一番面識があるのは私ですから。であれば話も通るでしょうという希望で私が来ました―――ここ数日、少々派手に動き過ぎでは、と」

 

 バゼットのその言葉に足を止めて頭を掻く。

 

「貴女は基本的には物的被害は出しても直接人に対する手を出すような人物ではなかった筈です。いえ、まぁ、それも問題がないと言えば嘘なのですが……一応こちらの方から線を越えない様に、との通達です。正直な話、昔はともかく魔法使いである今は戦っても勝てるかどうか考えたくない所もあるので」

 

「あー……うん、解ったよ」

 

 トラウマになる程度にしかやってなかったんだけどなぁ、とぼやきつつ再び頭の裏を掻いた。だけど確かに最近は面倒臭がって物理的手段で追い返している回数が増えているな、とは思わなくもなかった―――いや、物理的に追い返しているのはそれだけの力と、そしてそうしたほうが()()()からだ。もしくはこうしないと面白くもないからだ。だからあー、と声を零してしまい、まぁ、と言葉を置く。

 

「殺さない程度にするさ。そもそも時計塔の面倒な政治関係の話は俺に合わないよ。爺にも破門されたしな―――近いうちに時計塔を出て行くよ。もうここにいる理由もない」

 

「……そうですか。となるミス・ブルーの様に?」

 

「いや、オルガマリーちゃんがカルデアで雇ってくれるって言ってるしな。()()()()()()()()()()やっぱ就職しておくのが早いからな。あそこ、微妙に福利厚生しっかりしてるし」

 

 自分の口から呟いて、つまんない事を口にしたな、と溜息を吐く。それを聞いてバゼットが少し困ったような様子を浮かべるが、面倒なのでここらへんで会話を切り上げて部屋に戻る事にする。バゼットに軽く別れを告げてから再びカレッジ内を歩き始める。もはや道を邪魔する人間も、話しかけてこようとする者もいない。

 

 誰もが虎視眈々と機会を狙っているのは感じているのが面倒だった。それはどうしても解ってしまった。そして魔術師と言う連中の面倒さを良く理解していた。欲しい者、必要なものは手に入れる。()()()()()だ。それが魔術師と言う連中の基本だ。唯一の例外はここにいるのではルヴィアのところぐらいだろう。だがそのルヴィアでさえ戦場に飛び込むぐらいの事は普通にする。

 

 そう、面倒な場所なのだ、ここは。

 

「あー……まだ空が青いな……」

 

 空を見上げる。そして《千里眼》を発動させる。EX域に到達したそれは冠位魔術師としての最低限の資格であり、また同時に世界の反対側でさえ視る事の出来る眼になる。それは片目を失っても、もし両目を失ったとしても消える事はない。それだけに冠位指定の資格とは重く、そして強い。

 

 そしてそれで空を見上げれば視える。

 

 ()()()()()()()()()()()()()()が。その意味が、やり方が第一魔法の使い手であるからこそ誰よりも理解できてしまう。焼却によるリソースの確保が。

 

「つまんねぇな」

 

 空から視線を外して歩き出す。千里眼を使ってしまえば何時だって視れる―――これから自分が遭遇する出来事、紛れ込むシナリオのプロットが。この世界へと戻ってきた時に、気づいてしまった。千里眼の本当の機能に。

 

 見えない目で視ようとした結果、視えすぎてしまう結末に。

 

 EX域に至った千里眼はそれこそ神が世界に用意したプロットを視る事さえ可能とする。それは習得した者それぞれで傾向が異なる。過去、未来、そして現在の三種に分類される。自分がそのうち、手にしたのは花の屑と同じ現代を見る眼だった。存在する世界の全てを視る事が出来、その上で今現在、そして数年内の出来事であればその流れと物語の発生を確認できるというものだった。

 

 超越者の領域に立ったものが何故、どこか道化を演じるのかが解った。

 

 ()()()()()()()()()()()からだ。

 

 何が起きるか解っている。その内容も大体解っている。その仔細まで把握する訳ではない。だが大まかな流れが解っている以上、そこに驚きは存在しない。故に自分から何とかして盛り上げないと駄目なのだ。そこに自分で楽しみを見出さないとならない。そうしないと視た通りの出来事で終わってしまう。

 

 ゼルレッチがカレイドステッキやケータイさん、箱を作ったのも大体そういう理由から来るのだろう。千里眼を超えてくれる予想外が欲しかったに違いない。自分の視界の外から迫ってくる楽しみが欲しかったのだろう、と今更ながら思っている。

 

「……レティ、魔法使いになるのも一長一短だったな?」

 

 呟きながら視線を横へと向けるが―――そこにレティの姿は出現しない。愛歌との戦い以降、彼女は霊体化したまま、姿を現さなくなった。それまでは呼ばれなくても勝手に現界して遊んでいたのに。その理由も大体解っている。この先、自分がやらなきゃいけない事も解っている。

 

 自分が何者かを理解している。

 

 自分の物語における役割を理解している。

 

 自分が何を求められているのかを理解している。

 

 自分がなぜこうなったのかを理解している。

 

 自分が何をするべきなのかを知っている。

 

 自分が何を出来るのかを理解している。

 

 自分が何を出来るようになるのかを知っている。

 

 ……星がどうなるのかを知っている。星がどんな夢を見ているのかを知っている。星がどうなってしまうのかを知っている。自分が何を求めているのかを知っている。なぜ自分が生まれたのかを知っている。

 

 それが魔法使い。それが冠位指定魔術師。それが超越者の視点。圧倒的理解、そして運命の歯車でもある。至ってしまったものはそれを視ずにはいられない。そして視た以上はそれに絶対に囚われる。そこから逃げ出す事は出来ない。どこまで逃げても使命感と義務感からそれに立ち向かう様になってしまう。

 

 ギルガメッシュも、マーリンも、ゼルレッチも―――俺も、そこは変わらない。

 

 俺にも視えてしまった―――人理焼却が。そして魔神王ゲーティアの悲嘆が。そしてその物語に挑む少年/少女の姿が。そしてそれを目撃してしまった以上、囚われてしまう自分が。

 

 備えなくてはならない。人理焼却に。準備をしなくてはならない、これからの戦いに。()()()()()()()()()()()()()()()()()()のだから。()()()()()()()()()()()()()()()()のが俺なのだから。

 

 この聖杯戦争とはそういうものだった。

 

 本来であれば()()()()()()()()()()()()()()()()()()だった。今のこの早い覚醒段階は一種のイレギュラー状態でもある。無論、その原因は花の屑と夢の中で接触してしまったところにあるのだろう。アレとの出会いが完全に覚醒を助長して―――いや、違う、きっと《英雄作成》を視覚えて、そして冠位指定魔術師を目撃してしまった事にあったのかもしれない。

 

 どちらにしろ、

 

「ここに至っては関係のない事だよな、レティ。結果は結果だ。俺が第一魔法に到達したのならそれが全てだ。第二だったらもっと自由に特異点に割り込めたんだろうけどなぁ……ま、そこは人類最後のマスター君に任せるとしようか」

 

 煙草を口に咥え、煙を吸い込み―――吐き出す。そして笑みを浮かべる事を忘れない。花の屑や英雄王もたぶん、そうなのだろうなぁ、と思いながらカレッジの敷地を歩く。彼らもきっと、どこかで()()()を見出しているのだ。物語を、展開を知っているからこそ楽しめる何かを探し出している。

 

 英雄王は営み、あり方、そこに愉悦を見出す。

 

 花の屑はそもそも描かれる紋様に美しさを見出した。

 

「俺も、視えるものに価値を見出さなくちゃ―――」

 

 ただ、視えるという世界に押し潰されて消え去るだけだ。冠位指定魔術師、その座は予想していたものよりも遥かに重く、そして酷かった。故に微笑を常に浮かべる。内心を絶対に悟らせない。理解させない。言葉を煙に撒く。意味のある様な言葉を意味のないような言葉にして吐き出す。

 

 知るとはつまり真実の亡者になる事でもあった。

 

「部屋に帰ろうレティ。外は大分面倒になったもんな」

 

 呟きながら部屋へと向かって帰る。

 

 

 

 

 そして何時も通り自分の部屋に帰還する為に学生寮へと戻って来た。とはいえ、ここを利用するのもそう長くはないだろう、と思っている。自分の役割を、やるべき事を果たすためにここでの聖杯戦争を終わらせたらヒマラヤへ―――カルデアへと向かわなくてはならないからだ。その為の準備を既に視えて理解しているものは既に進めている。顕現される存在へと向けての対策も進めている。

 

 あぁ、めんどくさい。女子風呂にでも行って合法的な覗きでもしてやろうか。

 

 それとも《気配遮断》を使って女子風呂に飛び込んで非合法セクハラでアサシンドスケベチェックでもしてやろうか。ぶっちゃけある。性欲は。女子相手にはビンビンというレベルで。見た目はこうだが、中身は完全に男だ。性別が変わった程度で精神が引きずられるなんて魔法使いを舐めてはならない。

 

 まぁ―――セクハラとかエロとかナンパとか、そこら辺を考えている方がよっぽど健全だというのもある。これは千里眼では視れない事項だし。そういう方向で振り切れるのも悪くはないのかもしれない。

 

 そんな事を考えながら歩いて寮の二階へと上がり、自分の部屋の扉の前に居る小柄な姿を見た。その姿に浮かべていた笑みを一瞬で溶かして削ぎ落とした。そして真顔のまま、扉の前に居る姿を見た。

 

 小柄な少女の姿にフリルドレスの姿は数日前に一度殺したばかりの相手の姿であり、何をどう足掻いても勝ち目が見えない、敵対する事自体が馬鹿らしい相手だった。

 

 即ち沙条愛歌。そこに彼女がいた。

 

「さよな―――」

 

「あら、見ただけで逃げるとは酷くないかしら」

 

 転移魔法で逃げようとした直後にそれを封印されて魔法がキャンセルされた。その封印行動を否定する事で時間を遡って封印をなかった事にしようとしたが、根源印のレジストに否定された事実を根源から引っ張り出して上書きする事で否定された事をなかった事にされた。

 

「止めてくれ……メタはやめてくれよ……否定の魔法に対して上書きで否定をなかったことにするのほんと止めてくれよ」

 

「あら、顔を見た直後に逃げ出そうとする不届きもの相手なんだから別にこれぐらい問題ないでしょう?」

 

 前に一歩、愛歌が踏み出した。それに合わせて廊下を一歩後ろへと下がった。このあどけない少女は間違いなく自分の天敵だった。一度戦って手の内がバレている為、それに対する対策を根源経由で用意出来ているのだ。二度と戦いたいとは思えない。しかも勝負は実質的に此方が敗北している。

 

 もう次捕まったとしても、逃げられるとは限らない。

 

 なので滅茶苦茶冷や汗を掻いている。この少女だけは根源の直轄なので、その動きが読めない。千里眼の上位に位置するものに繋がっているのだから当然といえば当然なのかもしれないが。ひくひくと口の端を引きつらせつつどうやって逃げるか、と思っていると、溜息を愛歌が吐き出した。

 

「……襲わないわよ、もう。その意味もないしね。その意味、貴女なら解るわよね」

 

 逃げようと後ろへと下げていた足を前へと戻し、右手で頭を軽く掻き、溜息を吐きながら無言のまま、自分の部屋まで歩み進んで、鍵をかけていなかった事にし、扉を開ける。中に入りながら、

 

「はぁ……そうだな。中に入って話すか」

 

「お邪魔するわね」

 

「いらっしゃい」

 

 愛歌を部屋に通してから部屋の扉を閉め、鍵をかける。前まではオープンにしていても誰も恐れて入ってくる事はなかったが、最近は魔術的防備をしない限りは盗聴や盗撮、或いは夜這いを狙ってくる輩が出てきたため、用心をする様になった。魔法使いになった瞬間、腫れもの扱いが一変してこうなるのだから、魔術師たちの手首には回転モーターでも仕込んでいるのではないかと思ってしまう。

 

 ドリル魔術。そんなものもあるのか。

 

「ないわよそんなの」

 

「だけどオナホキメラはあるんだぜ」

 

「えぇ……」

 

 部屋に入ったところで上着を脱いで投げてコートラックにひっかけて、左腕の幻術を解く。そうすれば元々存在しなかったかのように腕が消え去り、滑らかな腕の存在しない肩口が見える。愛歌はそこへと視線を向けながら、座り場所を探す様に視線を部屋に向ける。

 

「腕、そのままなのね」

 

「一応戒めだからな。幻術で騙せばそこまで不便じゃないし。後お前ん所みたいな洒落た椅子やテーブルはない。適当なソファかベッドに座ってろ。あと茶もないぞ」

 

 その代わりにビールとか突っ込んであるんだけど、と言いながら冷蔵庫を開ければ、愛歌が顔を顰めた。やはりまだ子供だし、酒は辛いものがあるらしい。冷蔵庫の中から瓶ビールを取り出し、《Detonate》で魔力で筋力を代用させ、一時的に筋力EX扱いにさせる。そうすれば簡単に親指で蓋を消し飛ばせる。何とも無駄すぎる第一魔法の使い方が出来てしまう。

 

 そうやって弾いた蓋は魔法で消し去った、足で冷蔵庫を蹴り閉めながらソファに勢いよく腰を下ろし、一回だけグビっとビールを呷る―――愛歌の手前、動揺を見られたくないので大仰に振る舞っているが、味を感じない程度にはビビっているのが事実だった。

 

「なんというか……客の前でも遠慮ないわね……と言うか足を広げているとパンツが見えるわよ」

 

「パンツぐらい別にいいだろ、見ているのはお前だし」

 

「はしたないわよ。それに客の前で飲むのは正直どうかしてない?」

 

「ここは俺の城、俺が法だ。お前の所ではお前に合わせたルールに従うけど、ここは俺の城なんだからそれに従う必要もない。ま、こっちに出向いて来た以上仕方ないと諦めておけ」

 

 そう答えつつ、愛歌の口から減点、そしてアーサーと比べる様な言葉を待つが―――それは出てこない。テーブルから引っ張って来た椅子に座り、言葉を出そうとして口を開き、そこで動きを停止させている。何かを口にしようとしては、そして再び口を閉ざす。一切の迷いと呼べるようなものを見せない沙条愛歌と言う根源の姫にしては非常に珍しい姿であり、おそらくは次元初の姿でもある。

 

 そして同時に、それが自分に与えた最高最悪の傷だった。

 

「……駄目、ね」

 

 静かに、自分に対して愛歌が呟いた。

 

「まるで心が沸き立たないわ」

 

 喜びも悲しみも感じないような平坦な声で愛歌は呟いた。

 

「あれほど輝いて見えたアーサーの事を思い出してもまるで胸が高鳴る様な思いがしないわ。たとえ消えてなくなっても、再び見ればまた恋に落ちる―――そう思ってまた彼を思い出したのに。なのに不思議と何も感じなかったわ。あぁ、かっこいい人ね……その程度にしか思えなかったわ。今もそう。少し前の私なら貴女とアーサーと比較してダメだししたでしょうね」

 

「超想像できる」

 

「でしょう? ……だけどそれが出来ないわ。比べる事にまるで意味を感じないもの」

 

 それは再確認するような言葉で静かに、しかしどこか、驚きが混じる様な声だった。心の底から愛歌は自分が変わってしまったという事実を認識していた。そして同時に、それが二度と戻らない物であるという事をも彼女は理解していた。沙条愛歌は永遠に取り戻せないもの失ってしまった。

 

 幼少期の夢。

 

 無謀な夢。身勝手な夢。子供だからこそ許される壮大な夢。

 

 それを否定したのだ。否定し、消した―――その結果、沙条愛歌は目覚めた、現実に。そこに白馬の王子様はいない。都合よく運命の人に出会う事なんてない。とてもシンプルだけど、どんな女の子も見るであろう幼少期の夢だ。それを愛歌は否定された。それは成長する上で誰もが迎えるものでもある。中には大人になっても引きずる者だっている。だけどそれを愛歌は卒業した。

 

 卒業()()()()()

 

 そして一度卒業してしまえば、現実を見なくてはならない。その時に夢を見ても、そこには常に現実の影がある―――完全に夢に没入する事は出来ない。現実を忘れられないからだ。そして沙条愛歌は現実に目覚めた。

 

 あの頃の全てを燃やし尽くすような恋心は―――生まれない。

 

 目が覚め、向き合わなくてはならないからだ。現実と。

 

 夢を終わらせるとはそういう事。目覚めて現実と向き合いながら生きて行くという事だ。若い頃は小説家になりたいと言っていた少年がいた。彼は幼少期は好きなだけ物語を書いた。

 

 だが幼少期を抜けて現実を見た彼は、知ってしまう。

 

 物語を綴るだけでは生きてはいけない。

 

 生活費、仕事、給料、周りとの関係、学歴、社会、税。彼は物語を書く上では自分の生活を支える事が必要だと知った。そしてそれだけではなく、やがて一人で生きて行くのだから、書くだけではなく別の仕事をしなきゃ生きていけないという現実に直面する事になった。そうやって幼少期の夢は過ぎ去って行く。

 

 愛歌も目覚めた―――それだけの話だ。

 

 故に幼少期の夢を見直しても感じられない、その時の情熱を。それははしかの様な熱病だったのだから。

 

 とはいえ、それが唯一、自分が生き残るための道だった。愛歌がアーサーに対する思いを失わない限りは逃げてもまた手段を変えて世界を滅ぼすだろう、彼の為に。彼が求めていなくても。故に彼女を夢から覚ました。その事に対する後悔は欠片もなかった。やらなければ自分と言う存在が消えていた。それだけの話だったからだ。

 

 だけどこうやって見る愛歌という少女は、

 

―――言葉もなく、憐れだった。

 

 思考した瞬間、首に圧迫感を感じながら両手で首を絞めつけられていた。目を見開けば愛歌が両手で此方の首を掴み、締め上げる姿が見えた。その手には凄まじいまでの力が込められており、一瞬で耐久力を魔力で代用しつつ耐えてもミシ、と嫌な音が首からした。だが抵抗する事はなく、即死しない様に首を強化する以外はそのまま、ビール瓶を片手に愛歌に首を絞められてソファに押し付けられる。

 

「憐れ―――憐れですって!? 貴女がやっておきながらぬけぬけと言えたものね!」

 

「おいおい、熱くなるなよ。第一お前自身そこまで怒ってはないだろ?」

 

 その言葉に愛歌の首の締め付けが止まり、手が震える。手から力が抜けて行くのを感じながらソファに押し付けられたまま、愛歌の顔を見た。本人も解ったようなものではない、複雑そうな表情を浮かべていた。

 

「そ、そんな事はないわ。流石に―――」

 

「言い訳しなくていいんだよ。別に、それが悪い事でもないし。まぁ、確かに俺にある程度の過失があるのは認めよう」

 

 だけど、と言葉を置く。

 

「―――今はそこまでやりたい、とも思ってないだろ?」

 

「いや」

 

「寧ろなんでそこまで浮かれていたかが解らないだろう?」

 

「そんな事は」

 

 言葉を吐き出す―――だがただの言葉ではない。毒だ。少女を惑わせる毒。普段は交渉で惨敗しているし、敗北続きではあるが、相手の心が弱っているのなら話は別だ。こう見えて魔術師の端くれだ。

 

 心の弱っている相手をどうにかすることぐらい、難しくもない。

 

「だけど怖がる事はない―――それは誰もが大人になるにつれて経験する事だ。急に今まで面白かったものが面白くなく感じたり、急に情熱を失ったり……不思議な事じゃないんだ。そして特別恐れる事でもない。それが()()の少女、だって事だ」

 

「普通……」

 

 そう、普通の少女だ。この子はきっと、根源に繋がるべきではなかった。それを接続解除する事は人類には不可能だ。あまりにも悍ましすぎて、人には触れられない業だからだ。故に彼女を根源から切り離し、本当の普通の少女にする事は難しい。

 

 だけどそこから目を離し、満たす事によって目を反らし続ける事は出来る。

 

 正直に言えば一生、愛歌と関わるつもりはなかった。だけどこうやって彼女が現れてしまった以上、その責任を取るのもまた大人としての役割だろう。

 

 愛歌の体を引き寄せ、抱きしめ、そしてその顔を胸に埋めた。そのまま優しく抱きしめ、諭す様に言葉を放つ。

 

「あぁ、恐れる事も心配に思う事も必要ない」

 

 抵抗心を否定し、言葉が染みわたる様に囁く。やっている事は洗脳に半分近い。とはいえ、この子をこのまま放置させるわけにいかないのもまた事実だった。出会ってしまったのなら最後、

 

 責任を取らなくてはならない。

 

「だから焦る必要もない。ゆっくり、ゆっくり受け入れればいいさ―――」

 

 あやす様に、抱きしめて頭を撫で、髪を梳きなが呟く。呟く様に耳元に口を寄せながら、心を落ち着かせる言葉をささやく。女を口説く様に、騙す様に、詐欺師の手管で言葉を注いで行き、此方へと向ける。

 

 彼女は少女であった。

 

 理解されるようで、一切理解されぬ少女だった。

 

 恋に恋をし、盲目のままに愛を捧げようとする少女であった。

 

 その真実を誰も理解できない。

 

 なぜなら彼女の心は人の物ではないから。

 

 故に彼女は()()されなくてはならない―――星と未来の平和の為にも。大義名分、自分の役割、やらなくてはならない事。《千里眼(魔法)》を見て、それを通して視た自分の役割の全て。やらなくてはならない事、それを理解して改めて感じる、思う。

 

 果たして未来が視える事。やらなくてはならない事。

 

 それを知る事は本当に幸福なのだろうか?

 

 全能に近い力を持っていても本当に幸せでいられるのか?

 

 少なくとも、胸に顔を埋める少女の姿を見て―――その答えは見つかりそうもなかった。だから抱きしめて、言葉でやり込めて、その精神性を都合のよい方向へと導く。

 

 最低な事をやっている自覚はあったが、やらなくてはならない。どれだけクソで、吐き捨てたい事であっても現実である以上は立ち向かわなくてはならない。

 

 そう―――立ち向かわなきゃいけないのだ。

 




・沙条愛歌が夢から覚め、夢に落ちました
・沙条愛歌が住み着きました、同行者として選択可能です(制限あり
・女神との出会いが運命力を向上させる【幸運】D(2)→C(3)
・ゼルレッチに破門されました、新しい第二魔法由来の技能を習得しません
・《Eliminate》による限界突破が全体へと対象変更されます
・《NeverDie》にペナルティ無効化が追加されました
・最終コミュの相手にレティが自動選択されました
・クリア後、FGOへと移行される事が確定しました
・花の屑と女帝が通常コミュリストに追加されました
・魔法使い■と魔法使い■■■がコミュリストに追加されました
・現実を知り経験点2点獲得しました

 所持点2+獲得2点から3点使用
 【耐久】E(1)→D(2)

 これで漸く最低ラインの英雄っぽさが出て来たな! 後は宝具の調達だけだ!! そして最初はエロを入れようと思ったけどきっとこの後にあった! だが書かない! 次、引き続き2回コミュやって、レティとの最終コミュだよ!
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