※この作品はR-18です。

Kaleid/Burn Out   作:てんぞー

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黄昏の果て

「礼装良し、パンツ良し、髪の手入れ良し」

 

「ハンカチは持ったわね?」

 

「持った持った―――それじゃあ行ってくる」

 

 ちゃんとポケットにハンカチを入れたのを見せつつ、準備を完了させた。愛歌は心配そうに―――するわけではないが、それでも普通の少女の様に此方の面倒を見ようとして来る。背伸びをしている様な少女の姿に苦笑を零すが、知識量の事を考えれば大体は精神的に同じぐらいになるだろうとは思っているし、心配されるのも無理はないだろう。だから大丈夫だ、と軽く頭を撫でる。そしてそのまま軽く頭を下げて頬にキスする。うむ、今の俺最高に人間の屑してる。

 

 魔法使いの屑だ。花の屑、王の屑、召喚の屑と揃ってクアトロ・デ・クズとか結成するか。

 

 いや、ダメだ。この集団の中で明確にクズやってるの俺と花の屑だけだ。クアトロじゃなくてクズコンビでしかない。まぁ、そこはどうでもいいやと告げる。自分の本分で問題にならないレベルで趣味に手を出すのなら問題はない……そう、問題はない。そういう意味では魔法使いになった事を後悔しているとも言える。

 

 見なきゃそれに対処するために働く事もなかっただろうに。千里眼も、魔法も、どちらもなければ今の自分にはならなかっただろう―――まさか星と人類の事を考える様な時が来るなんて思いもしなかった。ともあれ、それは今回は脇に置く。

 

「そんじゃ、出るか」

 

「行ってらっしゃい」

 

 背後に笑みを受けながら扉を開き、その向こう側へと抜ける。

 

―――そうやって出るのは砂の大地だった。

 

 夜空が浮かび、満月が見える。スモッグも排気ガスも高層建築もない。地平の限りに存在するのは砂、砂、そして砂である。それ以外の何もかもが存在しない。それこそ生命すら存在していない―――あるいはこの砂の大地に下で眠っているのかもしれない。それはこの星、地球のどこかにある砂漠の一つだった。ただただ不毛で、欠片も資源を生まず、そして人間が一切寄り付かない大地。そこは本当に何もない世界だった。

 

 ただ空を見上げれば夜空が見えるだけ。都会では絶対に見る事の出来ない、美しい夜空だった。肌に染み込むような寒い夜の砂漠の空気は毒だ。昼間と比べて発生する寒暖差は殺人的とも表現できる。とはいえ、その調節ぐらいは魔法でちょちょい、とどうにもなるから不快感はない。少し肌寒く感じる程度になっている。

 

 これが良い。

 

「このぐらいが俺達にはちょうどいいよな、レティ」

 

 言葉を放てば正面にレティが出現した。彼女の服装は初めて会った時から一切変化していない。あの炎の様なドレス姿だ。だがその姿は大きく育っている。まるで人間性と情緒の獲得によって成長したのを表すかのようにその姿は成熟した女の姿へと、少女から成長し切っていた。少なくとも今見える彼女は自分とほぼ同年代の女の姿をしている。成長した肉体、そして何よりもその精神性が一人の大人の女として確立されていた。

 

「うん……私も、これぐらいが、丁度良い、と思う、よ」

 

 そう言って張り付けたようなではなく、柔らかい笑みをレティは浮かべた。その姿を見て、本当に綺麗に、人間になったもんだと思う。そう、今の彼女は言葉が少したどたどしくとも、人間だ。そういう精神性をここまでの戦いで獲得した―――最後の一押しは愛歌を見た事だろう。そして明確にその考えを否定した事だった。

 

 それで人類という種の多様性、善悪の自己判断、そして許せる基準という物を獲得した。自分で考え、意見を口にし、行動する―――自己判断する生き物、それは明確に人としての活動だった。言われてからの行動ではない。自分からの行動。それが明確にレティを成長させた。それが今のレティを作った。

 

 自立性を促し、成長させる……そういう意味では成功している。

 

 だけどそれは兵器(レーヴァテイン)の本分ではない。

 

「ますたー」

 

 レティは両手を胸に当て、軽く首を傾げ、その動きで片目を髪で隠しつつ微笑んだ。

 

「私、マスターに、召喚されて、とても幸せ、でした」

 

「……そうか」

 

 その言葉に笑みを返す。空を見上げ、星々を見る。その天体図で世界という存在そのものの流れを見て、この先の出来事を千里眼で視た―――視えてしまった。それは一種の呪いだと思っている。花の―――魔術師マーリンはその瞳でブリテンの終わりを視てしまった。それを視てしまったが故に彼は回避する方法を求め、失敗した。失敗する様に進んでしまった。彼は知ってしまった。故に世界の未来がそう定まってしまったのだ。そして英雄王―――ギルガメッシュはウルクの終末を視てしまった。それ故にウルクは滅ぶ。そういう未来が形成されてしまったが故に。

 

 千里眼は決して便利な能力ではない。それはある意味呪われた能力でもある。未来を観測することが冠位指定の条件である事には意味がある。そしてそれは超越者となるからこそ求められる物でもある。未来を見通す力とは()()()()()()()()()()でもあるのだ。千里眼はそれを伝えるための能力であり、また同時に祝福でもある。

 

 千里眼を冠位指定域にまで育て上げた者は避けられない絶望を一つ視る。覆す事の出来ない結末を一つだけ視てしまう。

 

 そして俺が視たのは―――レティの消滅だけだった。

 

 或いはそれこそが最も大切だったから、他に大切な存在がなかったからそれを視たのかもしれない。

 

 未来を視るという事はそれが発生する事実が固定事象化される事でもある。

 

 故にその瞬間、レティの消滅は回避しようがなくなった。

 

「私は、兵器。私は、起源武装。星を、焼くために、作られた、起源を形に、した兵器。レティは、人じゃ、ない……です」

 

 だから、

 

「レティは、壊れる」

 

 微笑んだままだが、少し悲しそうに言った。

 

「兵器だから。レティは、人が、本分じゃない、から、壊れちゃう」

 

 根本的な霊基と基盤と規格の問題だ。核ミサイルをバトミントンのシャトル替わりに使っている様なものだ。場違いだし、ジャンル違いだし、そもそも無謀で役割が違う。想定されていない使用なのだから、その結果壊れても()()()()()なのだ。そもそもレティは兵器であり、武器であり、防具である。彼女は元々人格も感情も存在しない装置なのだから、人間としての機能が入る隙間なんて存在しないのだ。

 

 入りきらない領域に新しくプログラムを組み込めばどうなる?

 

 それは()()()()()()()()。兵器としてのレティと、人間としてのレティがコンフリクトを起こす。それが発生するエラーがレティを殺すのだ。それは根本的にどうしようもない部分だ。レティがサーヴァントという領域を逸脱すればまだ可能性はある―――いや、人という形を与えれば兵器から脱却し、人間・レティになる事も出来ただろう。

 

 彼女はサーヴァントシステムの存在だ。

 

 本当の肉体はそこにはない。聖杯と常に直結している彼女はそこから脱却し、完全なる個体を確立する事はできない。彼女の維持コストを支払う事が出来ても、()()()()()()()()()()()()()()()のだ。或いは()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。だがそれが行えるイリヤスフィールとは運悪く会えなかった。今も彼女は誰かを助けるためにこの星のどこかを自由気ままに走り回っているのだろう。

 

 だから……少しだけ彼女を恨む。筋違いではあるのだが。

 

「人に、近づけば、近づくほど、壊れる」

 

 だけど、と言葉を置き、一拍置いてから言葉を続けた。

 

「後悔は、ない、よ」

 

「……そうか」

 

 だけどなぁ、冗談めかしつつ笑う。

 

「お前が消えると聖杯戦争続けられないんだよなぁー……」

 

「う、ん」

 

 だから、とレティは頷いて言葉を続けた。

 

「レティは、()()()()()()()()()

 

 レティは真剣な表情で言葉を紡ぐ。砂漠の月光にその髪を焔の様に輝かせながら彼女が考えた全てへの答えを口にした。

 

「私の、宝具で、マスターと、融合する。私は、消えるけど、霊基は、そのまま。マスターの、中に霊基が、あるから、バーサーカー扱い、できる、よ」

 

「……」

 

「私も、この後も、ずっと、マスターの、血肉に、なって、力に、なれる……私も、それは、凄くうれしい……の」

 

 はにかみながらそう言ってくるレティにはそそるものがあったがそういう類の性欲は今はこの子相手に向ける事は出来なかった。あるのは申し訳なさ、後悔、うしろめたさ、そして自分の無能さに対する怒りだった。この状況を生み出したのは自分なのだから。

 

「魔法使いつっても、出来る事と出来ない事がある……こういう事か、爺」

 

「……?」

 

 魔法使いゼルレッチがなぜ弟子を作り、自分以外の魔法到達者を様々な異世界で作成しようとするのか。その理由が、気持ちがなんとなくだが伝わって来た。魔法使いは凶悪と呼べるほどに強い。だけど決して全能でも万能でもない。だからこそできる人間を用意するのだ。できる手段を増やすのだ。そして備える、視る事の全てに頼らずに。

 

 ……レティがこうなっているのは俺が純粋にそういう風に接して方向性を固めたのもあるのだろう。だから間違いなく俺の責任であり、それ以上でもそれ以下でもない。だから責任を取らなくてはならないだろう。

 

 夜空を見上げた。

 

 砂漠の夜空は遮るものが何もなく、良く見える―――だけど同時にここにいるのが自分だけの様に思えて、寂しくも思える。寂しい夜空だとは思う。美しく輝くにはそれを比べる為の基準と、そして同時にそれを遮る全てを押しのけなければならないのだから。

 

 美しくも、何もない寂しい空だ。

 

「……レティ、俺の事好き?」

 

「うん、マスターの事、大好き、だよ」

 

「そっか」

 

 ここにきて、もうちょい彼女を大事にしてあげればよかった、と思うのは流石にダメだろうと思う。自分の選んだ選択である以上、それに対して後悔を抱く事はならない。自分で選んで進めたのだ、そこにはケジメを付けなきゃならない。

 

「本当は……」

 

「……?」

 

 軽く、言葉を零す。

 

「ここで一発、レティを相手に派手に暴れようかと思ってた」

 

「なん、で……?」

 

 そうだなぁ、と星を見上げながら呟く。これはやがて天体科の物語へと続く前日譚だ。俺もまた物語の登場人物の一人として作成されているだけだ。本番は人理焼却が始まってからになる。俺はその下準備として用意されている―――少年と少女の物語に色を添えるために。それ自体に対しては、俺は文句はない。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()のだから。

 

 これは前夜祭。人理焼却に抗う為の少年少女を導くための仲間を作り、育てるための前夜祭。この先の未来に対する警報を送る為のお祭りだ。俺は主役ではない。その主役を助ける人物の事を掘り下げるサイドストーリーの様なものだ。

 

「まぁ、一つは視た通り進めるのが癪だったって部分があるし、このままみすみす誰も死なずに消えるのはちょっとムカつくから地球に傷跡でも残してやろうかと思ったのも一つだけど―――」

 

 まぁ、やっぱり、

 

「素直に消えるのを認めようとしていたお前にムシャクシャしたってのが一番かな」

 

「……」

 

 その言葉にばつの悪そうな表情をレティが浮かべるものなので、小さく笑い声を零してしまった。本当にあの幼女の姿をしていた宝具英霊が、変わろうとすれば変わるものだ。もはや彼女には《狂化》も《精神汚染》もなかった。たとえ意思のない道具の英霊であろうと、そこから先があるのだという事を証明することに成功した先達となった。それを誇れど、怒る理由はない。

 

 あぁ、だけどやはり、彼女が消えると思うと喪失感がある。

 

「出会いは最悪だったし、ずっとニコニコ笑みを浮かべててサイコパスかよこいつ! って思ったら案の定精神汚染されてるし、魔力を滅茶苦茶吸いまくって辛いし、出会ってから毎日トラブルばかりで俺もいつの間にか人類卒業して魔法使いだよ馬鹿野郎」

 

「う、うん、ごめんなさい……?」

 

 いや、だけど、まぁ、と言葉を置く。

 

「楽しかったな」

 

「うん。マスターと、一緒の、時間は、凄く凄く……楽しかった」

 

 腕がもげたり目玉を引き抜かれたり死んだり蘇ったり追いつめられたり暗殺されそうになったりロンドンを地獄に突き落としたり、本当に色々とこの短い時間の間に発生したな、と苦笑しながら笑う。

 

「異世界にぶっ飛んだときはビビったな」

 

「セイバーが、凄く、怖かった……」

 

「アーチャーは結局貧乏くじを引かされ続けただけだったな、あれ」

 

「実は、まだ、ちょっと、あの子(愛歌)が、苦手」

 

「うん、気持ちは解るけど本人に絶対言うなよ」

 

 苦笑しながら椅子を取り出し、それを並べた。こっちこい、と手招きしながら横に座らせ、誰も存在しないこの砂漠、二人で並んで夜空を眺めながら話を続けることにした。最初は暴れるのなら被害のない場所が良いだろう、そう思って選んだ場所だったが……夜空が綺麗に見えるこの場所は、夜通し語り合うには良い場所だったのかもしれない。そう思い直しながら横並びに座り、残った手を結びながら思い出話をぽつぽつと語り出す。

 

 この聖杯戦争が始まった間の話とか、レティと出会う前の話とか、爺の失敗話とか、本当にどうでもいい、普通の話をする。思えばそんなどうでもいい、日常的な話をこの子とたくさんした事はなかったな、と思い出す。

 

 ある意味、自分はこの子を常に色眼鏡を付けて見ていたのかもしれない。

 

 だがそんなもやもやも胸の内を通り過ぎる。

 

―――そうやって、互いに語り合う。

 

 何がしたいのか、何をしてたのか、何をどうするのか。本当にどこにでもいる様な女の話をする。人となって驚いた事、人となって不便に感じた事、人となって幸福に感じた事。ただの兵器だった存在は少女という皮を手に入れ、それを通して今、一人の女として存在するに至った。彼女との会話は何か、特別な話題でもなく、

 

 だけど、それが最も大切なものの様に感じられた。

 

 結ばれた手を伝わって熱が体に入り込んでくる。

 

 ゆっくりと、ゆっくりと彼女の存在が削れてゆき、此方の体の中に移って行く。その度にレティ―――レーヴァテインという存在は逸脱した事から崩壊して行く。だがその最も大事なもの、大事な部分は受け継がれ、渡され、融けあって混じり合って行く。

 

 やがて、夜通し、話し合った。

 

 夜空の終わりが見えてくる。

 

 夕日から黄昏が世界を覆い、夜空が世界を包み―――そして夜明けが見える。美しい朝焼けの色に砂漠が照らされ始める。砂が太陽の光を反射し、徐々にその熱量が上がって行き、砂漠本来の姿が取り戻され始める。

 

「黄昏は終わり、夜が来る―――」

 

 握っていた手にもはや感触はない。片目を覆う髪、その色は魔法使いに覚醒してから蒼く変色していた。だが今、その毛先は誰かの色を受け継いだかのように先端で焔色に変色するグラデーション化していた。

 

「だが何時か、その夜も開ける、か」

 

 登り始める太陽を見て、胸に確かに宿る熱を感じて、体に変化を認識し、そして今まで知覚できなかったもう一つの領域―――起源の源泉そのものを認識し、自分自身でどうにかなる、自分を構成する最後の要素をここに完結させたのを感じ取った。

 

 これにて、幕間の物語は全て完結した。

 

 残されたのはこの前日譚を彩る最後のピース。

 

 即ち、聖杯戦争の終焉である。

 

「さて、夜を終わらせに行くか」

 

 もう誰もいない砂漠を後に、最後の戦いを終わらせに立ち上がった。




・黄昏の果てに次があるのを視ました
・レティが消滅しました、霊基は聖杯戦争中PCに受け継がれます
・レティの血肉を吸収し、能力を任意2点上昇できます
【筋力】C(3)→B(4) 【敏捷】B(4)→A(5)
・ステータス成長限界へと到達しました。ステータスの成長が停止します
・宝具スキルを獲得しました宝具扱いのスキルです
・以降、スキルか宝具成長のみが発生します

 ほぼ最終化されたステータスを表示します。

 https://www.evernote.com/shard/s702/sh/5f5fb31c-c5e8-419a-87f6-cefda7d49714/db2506695ca3ddd7b0566d5d1e5c130f

 レティは融合して、いろいろと変化を残しつつスキル宝具化しておしまい。おそらくこれが最終データ。ランサーとキャスターで何かスキル成長でも行わなければ大体これで成長完了。聖杯戦争終了後、FGO風にデータをコンバートしてカルデアに行き、全てを知るけど何も変化できない魔法使いとして影からサポートする感じに……?

 確定勝利スキルが反則? カリバーやエヌマ等の特級宝具も確定勝利扱いなので最低限1個は確定勝利ないと相殺できないので。

 次回からvsキャスターやランサーの最終章って感じで。
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