「ヒャッフー!」
転移魔法で飛び込んだ瞬間、排斥するような衝撃に一瞬で吹き飛ばされながらどっかの配管工の様な言葉を叫びながら一気に大地をバウンドしながら転がった。転移で乗った勢いがそのままマイナス方向へとベクトルに乗せられたかのような勢いにピンボールの如く吹き飛びながら何度か大地をバウンドし、衝撃を食らいながら数秒間そのまま、転がってから停止した。
「絶妙に痛さを感じない辺り、職人芸が光るな……」
大地―――というよりは道路に転がった状態で呟く。痛いようで痛くないようで痛いかもしれない……絶妙なダメージ加減にどうリアクションを取ればいいのだろうかと悩んでいると、足音が聞こえてくる。体を起き上がらせながら視線を向ければ、ボディアーマーにショットガンを装着した現地の警察官の姿が見えた。片手で頭を抱えつつその人種を見れば、ちゃんとブリテンからイタリアまで転移できたのは間違いない。
「おいおい、アンタどこから来たんだよ……ってのはともかく、大丈夫か?」
「ミキサーに軽くかけられたような気分だよ。最悪極まりない。……ところでここはローマでいいのか?」
「あぁ、入れないけどな」
ほら、という警察の言葉と共に視線を正面へと向ければ、半透明な壁の様な物に覆われたローマの都市を見る事が出来た。魔術師である以上、それが即座に結界の類であり、自分の知識や技量を超越する神代級の魔術である事を知覚する。つまりはキャスターの仕込みだ。祭りの会場に一般人が入り込んでもまずいから対人結界、人払い、物理障壁、そして転移排除結界が合成されて敷かれている。
神秘の量が強すぎて結界そのものが目視出来てしまっている。いや、これはどちらかというとすごいぞー! 俺すごいぞー! ……的なアトモスフィアを感じる。まぁ、でも、大技とかは基本的に見られてナンボ、というのはあるし気持ちは実際解る。俺も大技をやるならやっぱオーディエンスは欲しいと思う。それはともかく、丁寧にスタート地点まで弾き出してくれたのだ、ここからローマに入って来い、という趣向なのだろう。
実に望む所である。
起き上がり、立ち上がり、軽く埃を叩いて落としながら体を軽く捻る。
「……大丈夫か?」
「おう、そしてあんたは市民の安全を頑張って守りな。俺はローマ滅ぼしてくるから」
暗示と共にそう言葉を告げて警察官を追い払いつつ、左腕を消した。その代わりにベルトのホルスターからカードを一枚抜いて、それを掌の上で浮かべて回転させながら歩く。なんかこういうポーズ、ゲームで出てくる強キャラ感あるよな、と密かに心の中でガッツポーズを決めつつ、
「うっし、じゃあ遊ぼうぞキャスター。祭りの最後は鮮やかに花火で彩ろう。それが俺達の流儀だろう」
言葉を吐き、結界を抜けた。その直後、全身にのしかかる様な重圧を感じた。ローマという街全体が拠点として掌握され、キャスターの《陣地作成》によって神代の神殿としての機能を発揮しているのだろう、と察知する。この都市そのものがキャスターの領域であり、踏み込んだものは当然ながらペナルティを受ける。まずは力を削ぐ、という所だろうか。
「ま、通じないけど」
カード一枚を握り潰す。炎と共にカードが燃え尽き、干渉による強制ペナルティを否定してなかった事にする。こういう封印、除外系統に対して自分はその性質上、凄まじく強い。というか魔法の性質を考える結果、魔術的には
そしてそれが出来るのなら簡単だ。
魔力の暴力で殴り飛ばせばいい。
「おうおうおう、おいでなすったぜ」
結界を超えてローマの街の入り口に立てば、蠢く気配を感じる。視線を正面へと向ければ、整えられた足並みで正面、道路を占拠する様に軍服姿の人たちが見えてくる。ナチスドイツ、古代ローマ軍、帝国軍、その恰好はさまざまであり、統一感がない。だが共通してそれらは全て
魂を物質化させて肉を与えた存在だ。
「流石自前の魔法で物質化して降りて来る奴は違うな。第三で軍隊を作るってお前……」
派手にやるぜ、と思った直後一瞬で銃撃と矢と投槍の雨が此方へと向かって放たれた。それぞれが弾丸にも匹敵する音速で迫ってくる光景は圧巻の一言で、認識を加速させ、ゆっくりと面を制圧する様に放たれるそれを眺めた。攻撃の壁だった。映画のワンシーンにでもなりそうなそんな景色の中、うーん、凄い、と煙草を咥えたまま呟き、
「だけど俺の方がもっと凄いんだよなぁ……」
新しく取り出したカードを後出しで振るう。攻撃はまだ届かない。そこら辺の優先順位の入れ替えなんて魔法使いや冠位指定には朝飯前である。故に振るえばそれだけで攻撃が消失し、カードの内界、三次元から二次元へと存在を否定されて落とされる。全ての攻撃がその中に一時的に封印され、それをそのまま、転移で相手の内側へと投げ込んだ。
「そうら、受け取れ!」
封印されたものが内側から弾け飛ぶ様に解放された。弾丸が、矢が、魔術が、そして槍が相手の軍団の内側から吹き飛んで周辺を蹂躙する。即席手榴弾の様なものだ。派手に血肉と内臓が舞うぜ、と思いながらもまだ無事な姿が多数見える。なので軽く片目で照準を行い、地平線に沿う様にカードを横に振るった。
よく子供がやる、片目を閉じて遠近法で人を潰すような遊び、それをカードで切り裂く様にやる。
そして実際、視界範囲内の全てが両断される。
「さぁ、死にたくなければガンガン気合を入れると良い―――気合入れて死力尽くして覚醒したところで勝てるわけではないけどね!」
歩きながら屍の舞う道路を進んで行く。それを邪魔する様に四方八方から再び気配を感じ、狙撃する敵の姿を千里眼で捉えた。その射線上に片手で持ち上げたカードを配置し、直後発生した狙撃をカードと片手で防ぐ。まぁ、流石に筋力がBにもなればこれぐらいは余裕で出来る。サーヴァント基準でBなので、鉄骨ぐらいは素手で捻じ曲げる事が出来る力はあるのだ、これは。
「えーと……詠唱なんだっけ? まぁいいや。適当に今組み上げればいいだろう―――胎動せよ我が魔力よ」
弾丸を叩き落としながら歩き、カードをひらひらと落として行く。それが大地に触れる前に燃え尽きながら近づいてくる敵を発火炎上させ、近づけずに滅ぼして行く。一枚で十殺ぐらい出来るから存在強度はそこまではない。無双ゲームの様な気分だった。じゃあ三千程殺してみるか? なんておどけつつ、
「汝、発展と科学により彼方へと否定されし幻想。星の裏側へと潜む栄光の影よ、今こそ再誕の時。汝の名はバハ―――ちげぇ、これお空の方の奴だ。えーと、なんか、こう、いい感じの来い」
背後の空間が割れる。世界は薄いテクスチャーの上に成り立っている。今ある地球の表面の下には否定され、忘れられ、そして眠り続ける数々の幻想が存在している。その否定部分に対する相性の良い己はそれを一時的に歪め、ロンゴミニアドによって封印されている世界の扉を開けているに過ぎない。
割れた隙間から濃密なエーテルが風となって光りながら溢れ出し、そこから巨大な黒龍の姿が見えてくる。
『……』
「え、最後まで呼びかけはかっこよくやって欲しかった? ウチ、待遇は成果次第なんで新人くんの扱いはやや雑なんだ……すまんな……」
『……』
そっかー、な表情を浮かべてドラゴン君がブレスを吐いた。ところでお前どこ出身? という言葉を飲み込みながら吐き出されたブレスが一直線に大地を穿ち、直線状に炎の壁を大地を真っ二つに割きながら生み出し、天高くにまで届きながらローマのコロセウムに衝突し、吸収される様に無力化された。だがその地点に到達するまでの道行きは全て一瞬で灰燼と化した。胸を張りつつ口から煙を輪っかにして吐き出すドラゴン君の姿を見上げ、
「実は結構ノリノリ?」
『……』
「そっかー」
ノリで世界の裏側から召喚するもんじゃねぇなこれ……と軽く後悔した。魔法使ったら周辺が消し飛ぶから代わりに戦ってくれるもんを呼び出したのに、それが同じレベルで破壊を撒き散らすとか話を聞いていない。
だが、まぁ、いいや! 聖杯使って修復すればいいよね! ノーカン! ノーカン!
「情熱のままに、全てを燃やし尽くし、暴れ、踊り、歌い、そして備えよう―――本祭に向けて。今はしがらみも何もかも忘れて、笑って衝動のままに暴れろ、黒龍。今日一日だけはそれが許される。傲慢に暴れろ。忘れられた幻想よ、汝はここにあると咆哮すると良い―――まぁ、BBCのトップは飾れないけどな!」
『……』
結界が情報偽装付きで中の出来事を外に映さないようにしているから、外で飛行しているBBCの報道ヘリはドラゴン君の活躍を記録できないのだ、残念ながら。まぁ、そもそも世界の裏側から溢れるエーテルの風がなければこの世界に留まる事も出来ないほど濃い幻想だからテレビに映るかどうかさえ怪しい。
だが龍は吠えた。咆哮を響かせ、それにこたえるように天地が鳴動した。流石幻想種最強の一角だと思える咆哮に、世界が応えるように大地が割れてマグマが間欠泉の様に溢れ出す。ローマの地獄化が加速して行くが、最終的に聖杯でどうにかするので問題なし、と断言しておく。
問題はない。たぶん。
故に、
「薙ぎ払え」
言葉と共に黒龍が口からブレス―――というよりはもはやビームを放った。横に薙ぎ払う様に放たれたビームは横薙ぎにローマの街を横断し、炎のカーテンを街に飾った。視ろよ、ローマが赤く染まってるぜ! と心の中で叫びながら見た次の瞬間、黒龍に匹敵する巨躯がコロセウムから飛び出してきた。
十数メートルを余裕で超えるその姿は巨人と呼ばれる幻想種族の姿であった。堕天使の子として生み出された存在は底なしの食欲を誇っており、
黒龍へと襲い掛かって来た。
「解ってるじゃねぇか! やっぱ怪獣決戦はいいよね!」
『……』
巨人の鉄塊を黒龍が翼で受け止めるも、後ろへと一気に押し戻される。一撃を翼で弾き飛ばしながら空いた巨人の体にボディブローを叩き込み、組み付く様にブレスを放つ。それを察知した巨人が咄嗟に倒れるように体を下げ、身体能力ではなく、先読みを使った回避技術で破局を回避した。そのまま、ドラゴンvs巨人のB級映画っぽい戦闘風景がローマの街を蹂躙し、転がりながら始まる。
「盛り上がって来たよな?」
見えて来た敵の姿をカードという二次元の世界に封じ込め、そのまま一切の躊躇もなく握り潰した。カードの内界からぐきっぼきぃ、と骨が砕け血肉が潰れて弾ける様な音が聞こえる。だがカードの内側で起きている事は外側に影響を与えられない。内側から滲んで真っ赤に染まったカードを燃やしながら投げ捨てて、コロセウムへと向かって歩く。
そこまで繋がる道路は綺麗に破壊されて、文明の跡形もない。ただ一つ、コロセウムだけが極限まで防御を固められており、無事に鎮座している。非常にわかりやすいゴールだった。つまりそれ以外はどうなっても別に問題はない、というサインでもあった。
故に暴れる。歩くごとに足跡が大地に刻まれて行く―――炎の足跡だ。それが生まれる度にまたどこかで爆発が発生し、命が砕け散る。魔法によって創造され、固形化した命達。この日、この時を彩る為だけに出現した存在達でもある。
ここまで派手にやる必要はあるのか? そう問われれば
だが元々
だからこれぐらい無意味で派手でふざけてりゃあいいのだ。
派手に、自分の欲望に素直で、常識や法律はファック、俺が知るもんか。重要なのは楽しめるかどうか。俺にとって意味があるかどうか。責務の事ではない。俺がそこに価値を見出せるか否か、だ。
そしてこの祭りには意味はなくても価値がある。
「っつーわけだ、派手に遊びながら来たぜ」
「おう、遅かったじゃねぇか。待ちくたびれたぜ」
そうやって破壊を振りまきながら道を炎で飾った。蹂躙された町は瓦礫と化し、炎がゆらゆらと揺らめきながら焔色に街を染めている。それはある種、美しく感じられる。積み上げ、積み上げ、そして積み上げ続けて来た歴史と価値を全て一瞬で滅ぼす美とでもいうべきものだ。それがたまらなく自分には美しく感じる。
炎で燃やし尽くすその事に美しさを覚えるのはやはり起源の影響だろう。
だがそれでいい、悪くないと思っている。
だからそうやって歩き、コロセウム前に陣取るキャスターの姿を見た。背からは黒く染まった翼を持ち、現代風の服装に着替えているのかダメージジーンズに素肌の上からパーカー、茶髪というどこか若さを感じる恰好をしており、現代人に滅茶苦茶馴染んでいるのが解る。
そんなキャスターを前に、カードを掌の上に浮かべて回しつつ、
「とりあえずスケジュール壊してすまんな」
「いや、そりゃあ別にいいんだよ。つーか久方ぶりの正式な仕事だしな。知を授け、魔術を授けた者としてぶっちゃけ妥当な仕事だと思ってるしな。まぁ、だけど流石に会う前に仕事が終わるとは思ってなかったぜ……あっ、そうだ、戦う前に少しいいか?」
「おう?」
首を傾げながらキャスターの言葉に耳を傾ける。背後から未だに怪獣決戦によるローマ破壊が続いているのでやや煩い。そんな中、キャスターがいや、な、と言葉を置く。
「俺は結構早い段階で現界したから現代の文化に触れる機会があったんだわ。だからこっちに来て以来、色々と勉強してな―――今の俺はある点においては生前を超えると思うぜ」
「マジか」
「あぁ、だからその成果を今、披露してやる―――」
キャスターは凄みを放ちながら此方を真剣な表情で見つめてくる。その姿に唾を飲み込み、何時でも動けるように魔術を準備させれば、キャスターが口を開く。
千里眼ホットラインから過呼吸に陥る声が聞こえて来た。ダメだこいつ、神代のころから学習するどころか悪化してやがる、片手で顔を抑え、心底溜息を吐き捨てながら、気持ちを入れ替えて叫ぶ。
「キャスター戦、開始ぃ……!」
「え、答えは? なんか雑誌で見たフレーズをアレンジしてみたんだが」
メンナクでも参考にしたのかよこの野郎、そう叫び出しながらローマを灰燼に帰す、キャスター戦が開始する。
という訳で問題児のキャスター出現。ヒントは既に色々と出ているので死んだらデータ出すって事で。
シリアスな部分は全部終わった。お祭りは笑いながらやるもんじゃて。