「待て! マテマテマテーい!」
カードを握り潰そうとする動きを停止させ、キャスターを攻撃する行動を止めながら、いや、なんだよ、と視線をキャスターへと向けた。ばっさばっさと翼を動かしながらキャスターは横に本を浮かべ、空を捲りながら何かを確認し、そして此方へと視線を戻してくる。
「今の、何がいけなかったんだ……?」
「しいて言うなら全部かな……いや、まぁ、聞けよシェムニキ」
「おう、これからの参考用に聞いておくわ」
とりあえず机と椅子用意するわ、とキャスター、シェムハザが無から物質を創造し、それを正面に並べた。なので机を挟む様に椅子に座り、紙とペンを貰ってそれを書き込みながら色々と教えて行く。背後ではぎゃおー、とかずががががんー、とかティタノマキア! とか叫び声が聞こえてくるが、それは全て無視する方向性で進む。ともあれ、まずはこの勘違いメンナク野郎が基本的な勉強をする方が先だ。
「いいか、シェムニキ。まず―――お前のそれは肉食を通り越して変態の領域に入る」
「……マジか」
「マジマジ」
「……マジかぁー」
相当ショックを受けたようで、両手で顔を覆い、数秒間、考え込む様にそのまま無言を貫いた。それでイケているとか思ったのかよお前……少しは常識を学んでみろよ、とは言いたかったが、基本的に魔術サイドの人間って常識が蒸発している連中ばかりだからまぁ、これもしょうがないかなぁ、とは思わなくもない。とりあえず、
「俺の体は?」
「女」
「魂は?」
「超男」
「ナンパは?」
「超イケる。良い体してるじゃん。むしゃぶりつきたい」
「はい、そこでダメです」
「えー……」
あのなぁ、と呟きながら眼鏡を要求する。コロセウムの上を巨人がドラゴン君が跳んで抜けて行く。そしてついに被害がローマの反対側にまで広がった。シェムハザに作ってもらった眼鏡を装着しつつ女教師気分でいいかな、と言葉を置く。シェムハザは言葉をしっかりと自分の宝具に書き込む所存だった。
「今の時代、過度なセクシャルアピールは犯罪です。というか口に出してすぐに誘うのはもう犯罪です。逮捕されます。逃げられます。しかも今は言葉で誘うにしても迂遠なやり方が流行っている時代です。直接褒めるんじゃなくて少しずつアピールして仲良くなる事でお近づきになる時代です。つまりシェムハザ君は時代に真っ向からぶつかるスタイルに挑戦しましたねぇ……」
「嘘だろお前。俺がいた時代なんて俺が微笑んで誘えば一発でベッドインだったぞ! しかもこっちで参考用に取得した雑誌も大体そんな感じだったし」
「参考資料がクソだったって事だよ。言わせんなボケ」
「えー……マジかよ……」
シェムハザ君、ダメージが実に大きそうなのだが、話はこれで終わらない。
「そのファッションセンスもダメですね……」
「ダメですか先生」
「うん。ワイルドさは悪くないけど致命的にローマと合ってない。アメリカのサブストリートとか行けばまだファッションとして許されるかと思うけど、その恰好でローマはないね。センスが死んでる。人間としてどうかと思う。正直戦う前に本気で着替えて欲しかった。魔術の祖がこれとか魔術師の大半が死にたくなるわ。俺はある意味その潔さ嫌いじゃないけどね。ただやっぱそのセンスないわー」
「ないかー」
「うん。まぁ、ワイルド系も需要がある所にはある。だけど基本的に清潔感をメインにした上で落ち着いた服装の中に個性を見せるのが良い。特にローマとか結構明るい色の似合う場所だと思うし、チェック柄のシャツとかいいと思うけど……まぁ、ここらへんは俺も詳しくは言えない。基本的に俺もインナーとスカートだけで生活してるもんだし。だけどそれはそれとして、俺は美女だから許される」
「一理ある」
こくこく、と頷いたシェムハザを見て、とりあえず纏める。
「今回の現界では無理があるから次回で」
「そっかー……まぁ、
じゃあタイム終わりで? 終わりで。そういう方向性で両者合意する。とりあえず机と椅子が邪魔にならない様にローマの彼方へと蹴り飛ばし、シェムハザはコロセウムの前へと戻り、自分も十数歩、スペースを開ける為に下がりつつ背筋を伸ばして右手の上にカードを浮かべて回転させる。待機状態的なポーズを決めつつ、いつの間にかシェムハザが着替えていた。
……地味に気にしていたんだな……あいつ。
そういえば部下とか仲間をたくさん引き連れるリーダーだったし、そういう部分もあるよなぁ、と思いながら翼をばっさばっさ広げながら半分浮かび上がる様にポーズを決めるシェムハザを見て、そっと地面から骸骨を腕を出し、サムズアップを向けておく。
あ、笑顔が返ってきた。
こほん、と軽く咳ばらいをお互いにしながら、戦闘態勢に戻った。
「―――良く来たな
「待たせたな
お互いに言葉を放ったところでニコリ、と笑みを浮かべる。千里眼ホットラインが現在大爆笑によってパンク中ではあるが、シェムハザと今は心が繋がっているのを感じる。そう―――今の俺達のやり取り、かっこよくね……!? と、それで完全に同意していた。
まぁ、これから殺し合うのだが。
故にカードを握り潰した。
本の頁が捲られる。
「魔法、幻想、彼方の神秘よ、私は否定する」
「聞け、我が魔道こそ原初にして原典。汝ら叡智全て我が指先なり」
「彼方の理よ、汝はここにあるものに非ず、汝時の迷い子」
「否、却下である。否認、否認、否認。我が無窮の叡智ここにあり」
連続で焼却されるカードと無限に捲られる頁による魔術干渉合戦が一瞬で交差する。流石に相手が相手だけに本気で詠唱を込めた魔術合戦を行った。迷うことなく戦力をゼロに落とすためにキャスターの最大の武器、魔力の封印除外を行った次の瞬間にはそれが抵抗され、逆に此方の能力を封印しにかかってきた。魔法によるレジストで抵抗しつつ能力に続けてスキルを連続で封印させるが、同じ魔術という領域では
投擲されたカードが一瞬で複数のカードと連結し、強大なのこぎりのようなカッターに変形、回転しながらシェムハザへと接近する。だがそれに対応する様にシェムハザの正面に一人の戦士が出現した。軽く見て英霊級の存在がカードカッターを切り払い、踏み込んでくる。それを封印と除外で一瞬で無力化し、手足を別々のカードに封印して残された体を消し飛ばした。実体がある分、純粋な神秘の塊である英霊よりは幾分かやりやすいのが事実だ。
純エーテルの塊であるサーヴァントは存在自体が神秘の塊であり、それが理由で純粋な魔術の通りが悪い。その為、特殊な攻撃手段か蓄積された神秘を持ってこない限りは戦闘は難しい。
その対策として魔法からくみ上げた魔術を使って戦闘を行っている。これは対魔力などの耐性を貫通できるほか、
さて、このシェムハザ。
人間の妻を娶って孕ませてそれで堕天したという馬鹿ではあるが、
人類に対して魔術という叡智をもたらした存在でもあるのだ。
「俺が魔術を伝えた。つまりは
此方が好んで使う二次元空間への封印魔術の気配を感知する。界の壁を焼き切って異世界経由で一回無敵回避し、違う場所に戻ってくる。シェムハザの死角からそのままカードを投擲する。それを見るまでもなく翼が跳ね飛ばし―――跳ね上げられたカードが増殖、分身し、それがエーテルを巻き込んでエーテルの竜巻を生み出す。
それに対してシェムハザが同じように、しかし真逆の方向の竜巻を生み出し、衝突させて相殺させる。また、その内側から強い風とエーテルを纏った戦士が立ち上がるのが見えた。
「あぁ、つまり魔術って領域に立っている間は永遠に俺に勝てねぇって事だ。お前らで言う第三魔法が俺にはあるしな。勝ちたいなら魔法に覚醒した上で俺を超えろ―――って本当はここらへんで言うつもりだったんだがなぁー……」
「そこら辺の事はもう水に流せよ。花の屑を虐める事だけは覚えておいて」
『!?』
「そうだな」
『!?』
言葉を放ちながらも世界に穴を開けて、裏側とこの領域を直結する。超高濃度エーテルを散布しながらそれで空気を焼く。風が光りながらそのまま燃え上がり、ローマの空気そのものがエーテルの炎となって炎の洪水が空間を一瞬で満たす。
だがそれをシェムハザが一瞬で解体する。エーテルという存在を一瞬で鎮静化させると裏側の世界へとそれを押し戻しつつ、戦力である英霊戦士を第三魔法で創造し、召喚する。一人一人が一流の領域にある戦士は耐性を貫通した反則技を使わない限りは相手するのが難しく、まともに相手をしない。
どれだけ雑魚を一瞬で除外できても、それがシェムハザに届く事はなかった。
「おらおら、どうしたよ、後輩。俺が採点してやるから、祭りにふさわしいド派手な玩具を抜けよ。俺がそれを見てやるかさ」
「さっきまで落ち込んでた奴の言葉じゃねぇなぁ―――」
と、呟きながら最初の位置へと転移し、戻った。じゃあ仕方がねぇな、と呟く。
「魔術と違って
残された腕をシェムハザへと向けた。笑みを浮かべて、シェムハザがそれを見て、
「―――失せろ」
次の瞬間、シェムハザの姿が消え去った。
それと同時に近くにあった残骸、瓦礫、道路、地形がごっそり抉れるように消え去った。魔法を行使したその余波で周りの存在率が低いものが消え去っただけだ。そう、余波でこれだ。だからまともに魔法を使う事が出来ない。使おうとすればそのまま周りの存在まで巻き込んで否定してしまう。魔法そのものにまだ馴染み切っていないというのが最大の理由ではあるが、第一魔法そのものが暴れ馬であるという事にも理由がある。言葉一つ、ワンアクション、それでこれだけの成果を生み出せる。
「は―――やれるじゃねぇか」
無へと否定されたはずのシェムハザは魔力を減らしながらも再度出現し―――減った分の魔力を即座に完全な状態へと回復させた。
「そうだ、遠慮はいらねぇよ。慣らし運転には丁度いい相手だろ? 本気でぶち込んで来いよルーキー」
挑発する様に言葉を向けてくるシェムハザはしかし、此方へとリードを渡してきている。普通に口説くときもそれぐらい出来ればまだイケるのかもしれないのに、と軽く嘆きながらもその恩恵にあずかることにした。魂から無限のエネルギーを生み出せる。そして同時に第三魔法の特徴として無から有を生み出す事も出来る。
第一魔法は無の否定による
第三は魂という永久機関を使う事で無限のリソースを手にする。
故に死、或いは消滅した程度では簡単には消え去らない。これは上位に近づけば近づくほどよくある条件の様なものだ。或いは母の獣の様に地上に生物が存在する以上死ぬことは無かったり。死んだあとで死んだという事実をなかったことにして蘇ったり。或いは死という概念そのものが存在しない蜘蛛も存在する。
一定のレベルを突き抜けるとやれること、できる事は似てくる。なら持ち味で突き抜けるだけ突き抜ける必要がある。そうじゃなければ勝負にならなくなる。今のシェムハザとの戦いもそうだ。魔法vs魔法まではいい―――だからこそ尖った部分が必要だ。
「あぁ、さぁこい! てめーの全力を見せて見ろ!」
見たいのなら見せてやろう。後悔はするなよ、と呟きながら右手を心臓へと持って行き、呟いた。実際に抜くのは初めてになる。何せ、加減の効かないじゃじゃ馬なのだ、抜けば確定で周辺の数十キロが無の大地になる。
こんな時でもなきゃ抜けない。だから、
胸から光を引き抜き、天に手を伸ばす様に掲げた。抜かれた光が光の柱となって照らし、否定による消滅の波動と光の炎という形で撒き散らす。黄昏色に染まって行く大地と空はそれだけで消え去って行く。周囲に螺旋を描く黄昏は集約し、一本の片手剣へとその姿を収束させる。鍔も握りも存在しない、全てが刃で構築されてるような光で固めて作った、物質的な黄昏色の光の剣。
「
手の中に触れる事無く頭上で輝き浮かぶ黄昏を掴んだ。溢れ出す起源そのものを形とした力、それだけで周辺が消し飛んでゆく。その対策に即座に界を破壊して世界に穴を作り、消滅と破壊の行き場を生み出して、必要以上のダメージを世界に残さない様に配慮しつつ、握りしめた剣を後ろへと引く様に構えた。
その動きに世界が黄昏色に染まって行く。
剥き出しの起源。物質化された起源。破壊と消滅と炎という起源の形。レティの遺した物。
業を解放する武装故にKarma Liberate……或いは、彼女の遺した業でKarma Leti。
どちらにしろ、それは
起源武装。
「おう、綺麗な色をしてるじゃねぇか―――」
「汝のあるべき場所ここに非ず。無に帰れ、Vanish」
横薙ぎに全力で剣を振るった。収束するのではなく拡散する。もとより剣の形で留めておくのがあり得ないというレベルで収束されている起源の力、もはやそれは少しだけ握りを緩めるだけで一瞬で界を満たすほどに溢れ出す。
黄昏の光が異界を一瞬で満たして飲み込む。その光に焼かれたもの全てを消滅させながら。神秘の格差なんてものはその前には存在しない。
敵も、味方も関係なく、全てを消し去り葬る。その機能しか存在しない、どこまでも業が深く、欠陥品でしかない―――愛しい剣だった。
界を破壊し、リソースが聖杯へとくべられる事さえも否定して消滅させ、黄昏を振るう為の世界が消滅する。
その果てに残されたのは万魔教典から零れ落ちた数枚の頁だけだった。
https://www.evernote.com/shard/s702/sh/3602647a-1beb-4334-b7eb-8d82a5fcf26a/3e59c11bcc774d2aa2813a23cb12203b
身内に提供してもらったシェムニキのデータ。魔術戦である限りは絶対に勝利出来ないタイプのキャスター。まぁ、魔術を伝えた祖だし多少はね? それでいて基本的にギャグ属性。まぁ、孕ませて堕天使になってるしやっぱり多少はね?
元々のプロットだと魔術戦で敗北して、勝つには魔法に覚醒するしかない! という展開だったのですが、おそらく一番狂った理由であるマーリンとライダー君敗退によってその展開は死んだ!!
後はランサーと会って、始末したらエピロですかねぇ。