※この作品はR-18です。

Kaleid/Burn Out   作:てんぞー

5 / 35
五夜目

―――赤い。

 

 見える範囲、感じられる全てが赤く染まっている。目が痛くなるほどの赤さの中、炎を見た。ゆらゆら、ゆらゆらと揺らめく炎を。それはアタッシュケースのあった場所に存在する炎だった。出現と同時に空港その物を炎の領域で呑み込んでいた。破壊を広げ、破界を破壊で呑み込み、そして炎を炎で抱き込んでいた。即ち―――赤、それだけの存在であった。

 

 呼吸も、時間も、心臓でさえも停止していた。炎は揺らめきながら形を変えて―――その姿を変貌させた。ゆらゆらと揺れる炎は姿を変え、不定形から固形へとその姿を変えた。フォルムは幼く、だが確実に人の姿を形成していた。

 

 それも―――赤かった。長くまとまりのない、乱雑な髪の毛は床に触れている。その根元は赤く、そして毛先へと伸びると段々と色素を失って行き、空気に燃えて溶ける様な白い色をしている。服装はぼろぼろ、その切れ端が炎の先端を思わせるように千切れている真紅のドレスを。そう、彼女は赤かった。だが炎から形成し、生まれて来た彼女が此方へと向けてくる顔さえも隠す様に覆う髪の隙間から見える瞳は、

 

―――焼けた後の空の様に蒼かった

 

 その瞳が此方へと向けられ、笑みを浮かべて手を差し伸ばしてきた。それで漸く正気に戻った。召喚だ―――あの聖遺物を触媒に召喚する事に成功したのだ。10歳ほどの少女の姿の存在は右手の甲に生み出された痣を通してパスが形成されている。その詳細を解析する余裕はないが、だがそれが目の前の存在と自分を繋いでいる事は確かだった。聖遺物を触媒に召喚されたナニカ、

 

 明らかにまともではない。

 

 だがまともでいては、ここは乗り越えられない。

 

 空港に広がる炎は間違いなく目の前の存在が生み出したものではあった。だがそれだけの魔力と神秘を内包する存在であれば、この状況を盛大にひっくり返す事だって出来る筈だ。

 

 故に迷う事無く腕を伸ばした。

 

 伸ばした手と手が伸び、互いを掴んだ。

 

 燃やして破界する。

 

 燃やして破界する燃やして破界する燃やして破界する燃やして破界する燃やして破界する燃やして破界する燃やして破界する燃やして破界する燃やして破界する燃やして破界する燃やして破界する燃やして破界する燃やして破界する燃やして破界する燃やして破界する燃やして破界する燃やして破界する燃やして破界する燃やして破界する燃やして破界する燃やして破界する燃やして破界する燃やして破界する燃やして破界する燃やして破界する燃やして破界する燃やして破界する燃やして破界する―――

 

「―――」

 

 意識そのものを呑み込むような強烈な意思と情報と()()の流れ。風呂の中に水を詰め込んでから風呂場その物が沈むように水を注ぎ、そしてそれでもまだ足りないので家が沈むほど水を流し込む様に、一つの意思だけが強制的に流し込まれる。

 

 彼女は狂っていた。

 

 彼女に正気はなかった。

 

 彼女は―――起源に覚醒していた。

 

 その幼女の姿をしているモノは起源に覚醒していた。或いはダイレクトに起源そのものを加工したような存在だった。パスを通じて一瞬で心と脳味噌と精神が侵された。隠された起源に人類は抗えない。手を放しても頭を抑え込んで魔力を遮断しても注ぎ込まれた起源の本能は消えない。出来上がった道を全力で疾走して本能が上書きされて行く。自分と言う人格が原初の起源の中へと沈み引き込まれて行く。それは深淵、覗いてはならない奥底、開いてはならない扉。

 

 開けてしまっては最後、永遠に帰ってこれない。

 

 破壊しろ。界を壊せ。全てを燃やせ。少女とのパスから感じられる意思はそれだけだった。完全に起源覚醒、起源汚染、或いは起源そのもの。それが形をなしているだけであった。少女に声はない。必要ないからだ。少女に意思はない。必要ないからだ。あるのは起源による原初の本能のみ。そしてそれは繋がった相手を汚染する。此方を起源に染めようと一瞬で浸食を行う。脳裏に本能が浮かび上がってくる。このまま世界を燃やし尽くせと。

 

 破壊せよ。

 

 そう本能が命じてくる。人間が生きるのに呼吸するように、ごく自然と破壊を行う。すべてを燃やし尽くし、見える範囲全てが焼けて消え去ったら見えない範囲を焼き尽くす。そして見えない範囲が焼き消えたら今度は大地を焼いて、そこに何かがあったという痕跡さえも全部消し去る。そうしろ。そうするだけだ。生きるように、食べるように、息を吸う様に、そうするべきだと絶頂にも似た陶酔感と脳を犯す甘い感覚の中で、右手に刻まれた痣を見た。3画刻まれた、奇跡さえも起こせる。魔力の塊。それを一気に解放し、

 

―――少女の襟首を掴んで引き寄せた。

 

唇が触れそうな距離にまで顔を近づけ、瞳を覗き込んだ。

 

「うるせぇ、黙れ、ざけんな、俺に従え―――何をどうするかは俺が決めるんだよ」

 

 3画全てが消失した。凄まじい魔力の奔流が空間そのものを見たし、それが炎と融合した。少女の姿が炎へと融けて行く中で、狂気を噛み砕きながら言葉を吐き捨て、現実が罅割れるように崩壊して行く音が聞こえた―――否、世界の境界線そのものが炎によって焼かれ、罅割れ、崩壊していた。吐き出した魔力と言葉、陶酔する快楽の淵の中でぎりぎり正気に噛みついている中で、

 

 見える世界全てが炎の中に呑み込まれるのが見えた。

 

 

 

 

 別に……魔術が嫌いだった訳じゃない。

 

 寧ろ最初は好きだった。

 

 やっぱり、才能と呼べる物はあったのだと思う。魔術を見れば大体理解できたのだ。何が悪い、何が良い、ここが古い、ここが改善できる、とかが。直感的に、と呼ぶにはあいまいだが、なんとなくの感覚で魔術の良し悪しが子供の頃は解っていた。資質、素質、自分は肉体に恵まれており、3世代目として既に最終世代目前のスペックを肉体的には到達させていた。

 

 そしてそれに相応しいだけの魔術的才能とセンスもあった。それらを含めて昔は神童だと呼ばれていた。実際、悪い気はしなかったし、楽しかったのも事実だ。子供の頃、算数の3x3が9になるのを学ぶ様に、魔術の術式をどう弄ればどういう結果になるのかを理論ではなく直感的に自分は理解していた。だからその通りに説明できず、行動していた。それが才能だったのだろうと思う。

 

 ただ、まぁ、それが楽しかったのが事実だった。

 

 魔術は基本的に法則を守りながら、どこかぶっ飛んでいるもんだった。

 

 しかもテレビで映っていたはずのフィクション、それを友達には内緒で使うことが出来た。

 

 俺はまるで隠れたヒーローの様だった。まだ修行中のヒーローで! 俺はこれから鍛錬を積み! みんなを守るのだ! ……そんな事を考えた時もあった。魔術の勉強も、その鍛錬も楽しく、何をやっても成功する時代。この先もそんな未来だと漠然に考えていた。

 

 だがその結果、自我喪失の恐怖を賢いからこそ理解してしまったのだ。

 

 開始地点を見て結果を理解する。だからここを歩き始めたら起源の覚醒と言うゴールに至ってしまう。それを理解したからこそ起源を自覚してしまった。それが無界鏡司という男の末路だったのだ。

 

 ()()()()()()()()()()()()()という。

 

 だから、馬鹿になった。真っ赤に全部燃やして、何もかも破壊して、そして家を飛び出した。もちろん、家出の経験なんてなかった。だけど自分には魔術があったのだ。アレは不思議で万能な力。一番得意なのはもちろん起源に関連した鏡と■の魔術だ。だけどそれ以外の魔術も大体使えた。

 

 鏡と■の魔術師なのだ、使える人間を見れば大体覚えられるという事もあった。

 

 置換と投影魔術を使った手品。暗示や催眠術を使って他人の部屋を寝泊りに借りたりもした。魔術という手段は上手く使えば現代社会の中では自分の記録を残さずに活動する為の、実に便利な能力となる。その悪用方法はテレビや漫画でも読んでいれば腐る程思いつく。そのころには既にスマートフォンもあった。その為、それを片手にネットで検索して使い方を考えたりもした。

 

 魔術協会も、まさか掲示板サイトで魔術の使い方を開発するなんて考えには一生至らないだろう。

 

 基本的には手品で路銀を稼いでネットカフェで寝泊まり。それだけのお金が足りなかったら暗示で適当にそこら辺のサラリーマンからお金を拝借するか、次の日の朝まで軒先を貸して貰えればよい。

 

 割と自由な生活をしていた。

 

 この頃も、正直そこまで魔術に忌避感はなかった。割と楽しんでいた。無論、起源は恐ろしかった。鏡の魔術を使えばそれだけ自分が本能に呑み込まれて行くのを理解できたからだ。だけど逆に言えばそれ以外なら大丈夫だという事でもあるのだ。そして、そうやって自分は魔術を便利に使い、タブーに触れない様になるべく家から遠い、そして文明のある、人で溢れている場所へと紛れた。

 

 東京だ。

 

 ネットゲームを遊んだり、ソーシャルゲームで課金して適当に人から調達した金でガチャを始めたり、どっぷりと屑な生活を堪能していた。

 

―――そこに終止符を打ったのが魔道元帥キシュア・ゼルレッチ・シュバインオーグだった。

 

 

 

 

「ファック……懐かしいもんを見たぜ」

 

 呟きながら体を持ち上げる。痛みに口から小さなうめき声が漏れる。体中が痛い。目を開いて視界に入ってくるのは鋼の天井で、背中は硬い床の感触ではなく、柔らかいストレッチャーに寝かされているようだった。軽く頭を持ち上げたところでここが狭い空間―――車内であるのを察し、溜息を吐いた。外から聞こえてくる怒号とふぁんふぁんというサイレンの音から、どうやら救急車に乗せられているらしく、

 

「む、大丈夫かい!?」

 

「あぁ……気分は最悪だけどな……」

 

 片手で頭を押さえながら呟いた。体中が痛い。骨が絶対に折れている。それだけじゃなくて全身を打撲した痛みで意識が朦朧とする。これ以上なく重症だった。正直な話、このまま転がっていたかった。ファック、ともう一度息の下で呟いた。そうすると車内に居た救急隊員が此方へと両手を向けた。

 

「大丈夫かい? 君の体は今かなりひどい事になっている。このまま病院へと運んだら即座に入院する事になるけど、それまで我慢してくれ、絶対に助かるからな!」

 

「心配ありがとうよ」

 

 体を起き上がらせようとすると隊員が止めようとして来るが、それよりも早く魔力を使って指を突き出す。暗示の魔術が発動し、指先を見た救急隊員が動きを停止させ、ぼーっとした表情で指先を眺めていた。

 

「だが心配する必要はない。俺は大丈夫だ。いいな? ここに居ないで他の困った人たちを助けるんだ。頑張れ、災害現場のヒーローはお前だ」

 

「俺が……ヒーローだ……」

 

 こくり、と隊員が頷くとそのまま救急車の外へと出て行く。それを見届けながら扉が閉まるのを確認し、人差し指を軽く噛んで血を流し、それで救急車の壁にルーン文字を描く。簡易的な物だが人払いのルーンをそうやって血文字で描けば、魔力が通って魔術が発動する。対象はこの救急車そのもの。

 

 しばらくの間、誰もがこの救急車に近づこうとはしないだろう。

 

「はぁ、ファック。体中がクソみたいに痛ぇ……」

 

 体を確認すれば、上半身を裸に剥かれ、そこに包帯を巻かれ、応急処置が施されていた。どこか頭がぼーっとするのは麻酔でも打たれたからだろうか? こういう経験は全くないだけに何をされているのかが良く解らない。感覚が鈍いのは間違いなく応急処置を施された結果なのだろう。意識を覚醒させるためにも強化魔術と思考強化で肉体の制御を取り戻し、頭をクリアにする。平行して血文字を包帯に刻んで行く。

 

 行うのは治療魔術だ。だが骨は折れているから魔術の段階を分ける。骨の再接合、筋肉の再生、肉の再生、増血、皮膚の再生。これらを段階的に分けて一つの治療魔術として完成させる。この順番でまともにやらない場合、骨が変な方向に生えたりして即席で怪物が誕生してしまう場合がある。その時はやり直すのがめんどくさい。

 

 そこそこ難易度のある魔術ではあるが、意識さえはっきりとすればそこまで苦労はない。治療魔術を終わらせれば徐々にだが体の中に治療の為の熱と、体を巡る魔力により癒されて行くのが解る。ふぅ、と口から熱を吐き出しながら息を零し、右手の甲を見た。そこには前まで存在した痣の跡というべきものがあった。

 

 消費され、そこには既に存在していない。

 

―――だがそれから繋がるパスは生きていた。

 

 手の甲から視線を外し、両足をストレッチャーから下ろしながらライダースジャケットを探し、それを肩に羽織りながら口を開いた。

 

「いるんだろう? 隠れてないで出て来いよ」

 

 煙草か珈琲が欲しい。そう思いながら視線を救急車のわずかなスペースへと向ければ、虚空から一つの姿が出現する。焔の様な幼い少女の姿は、あの空港を炎で満たした大惨事の主の姿だった。まったく罪悪感を見せる事もなく、此方の呼びかけに出現すると、ニコニコと笑みを浮かべた。目の前の少女の姿を捉えれば、やはり自分の手の甲にあった紋様と彼女が繋がっていたことが解るし、消えてもまだ繋がりが残っているのが解る。どうやら召喚を通した契約関係が完全構築されているらしい。

 

 どっかで、これと似た事があったような、そんな気がする。ぱ、っと思い出せることではない為、少女を見下ろしながら口を開いた。

 

「お前、なんなんだ?」

 

 出て来た瞬間に全てを炎に包み、覚醒された起源で何もかもを灰塵に帰そうとした。今ではその起源的本能や衝動は流れ込んではいないが―――この少女が厄物であるのは変わりはなかった。この少女とのパスを通じて、いつ自分が強制的に起源に覚醒し、発狂するか解ったもんじゃない。パスを調べれば恐ろしいほどに強固で、自分の魔力や知識でどうこう出来る範囲を完全に超越している。完全にこちらに接続して生きている。そういう幻想存在だった。だから直接聞き出す事にしたが、

 

「……?」

 

 少女は笑みを浮かべたまま首を傾げた。その姿にはぁ、と溜息を吐き、

 

「いや、だからお前は一体なんなんだよ」

 

「……」

 

 少女はにこり、と笑みを浮かべたまま首を再び傾げた。その動作は可愛らしく、美少女と呼ぶのにふさわしい容姿と合わせて実に魅力的なところだが、それはそれとして、会話が全く通じていない様に思えた。いや、違うか、と判断する。

 

「言葉が話せないのか?」

 

「……」

 

 その言葉にコクコク、と頭を少女が振った。その仕草に参った、と片手で顔を抑えた。情報収集すら出来ねぇじゃねぇか、と息の下で呟きつつも、即座に頭を回して考えを巡らせる。少女と自分の間に繋がっているパスを確認し、構成されている術式を疑似的に解析する。

 

 そしてそれを通してシステム的な部分を把握する。

 

 何かが条件となって召喚に関する情報や権利が取得されたのであれば、それとは別にシステムが増えている筈なのだ。ある意味、魔術の儀式とはコンピュータープログラム並みにシステマチックだ。XXXを行えばOOOが稼働する、というのは魔術の式としては基本的な部分だ。あの痣からプログラムを感じた以上、その先が存在するはずだ。召喚し、終わり。それだけとは考えられない。

 

 何よりもあの褐色の青年の姿が見えず、自分が生きているのもおかしい。となると相手は召喚を確認したから去ったのか? それとも召喚されたから去ったのか? 或いは召喚そのものが目的だったのか? どちらにしろ、理由がある、という事はそこには何かの意図が隠れている。手持ちの情報源はこの少女である以上、

 

「うし、動くなよお前」

 

 ストレッチャーから降りて片膝をつき、少女と目線を合わせながらその頬を両手で押さえた。此方の指示に対しては物凄く従順らしく、二の言なしに従ってくれる。動くなよ、という言葉に従って背筋をビシっ、と伸ばして体の動きを止めてくれるが、此方の言葉、一言一言を楽しそうに聞いている。

 

 何がいったい楽しいのだろうか、自分にはまるで解らない。

 

 とはいえ、さっさと調べる為にも両手で少女を抑え、その存在を解析する―――その肉体は高密度のエーテル、或いは魔力によって構成されている。その魔力の源は此方であり、同時に知らない場所へと接続され、そこから供給される魔力によって存在を維持しているように思える。だがその関係はやや一方的に見える。此方からの魔力が途絶えればすぐに消える、そういう儚い関係だ。

 

 まるで(マスター)従僕(サーヴァント)の様だ。

 

「あー、待て待て待て待て待て待て……」

 

 マスターとサーヴァント。その関係や名前をどっかで聞いた覚えがある。誰だったか。何が原因だったのか―――えーと、そう、ゼルレッチを消し去りたい。聖杯。そうだ、聖杯だった。聖杯戦争だ。確かそんなウォーゲームがあったはずだ。

 

 魔術師が過去の英霊を使役し、戦わせ、勝ち抜いたものは聖杯によって願いを叶えられる、という。

 

「ファック……あのサイコパスなゲームに巻き込まれたのかよ……」

 

 マスターの判定基準とはいったい何だったのだろうか? 前、日本の方で発生した聖杯戦争では()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()という事もあり、一時的に時計塔でも有名になった話だった。というか、その結果を知っている。マリスビリー・アニムスフィア、あのプライベートを暴露テロしてやったオルガマリーの父親が参戦し、そして優勝したのだ。

 

 それでいて他にも時計塔から参戦した魔術師を全員殺したもんだから、話題に上がらない筈がない。

 

 しかしなぜか、その後聖杯をどうした、どんな願いを叶えたという話は()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()のだ。そう考えると、彼にとってナニカ都合の良い方向へと願いがかなえられ、それを感知出来なかったんだろう。今、こうやって、実際に聖杯戦争らしき? なにか? 或いはそれに類似する状況に突入して初めて思い出せたのだから。

 

 となるとアレか―――あの圧倒的神秘と幻想の塊がサーヴァントであり、

 

「お前が……俺のサーヴァントなのか?」

 

 その言葉に少女が笑みを浮かべたまま、頷いた。主と従者。その関係性を知覚した瞬間、パスが一段階強化されたのを理解し、目の前の存在―――即ちサーヴァントへとアクセスできる情報が増えたのを理解できる。解析しつつ、目の前の少女のデータを取得でいるという事を理解し、マスターの特権として彼女の能力を表示させる。

 

https://www.evernote.com/shard/s702/sh/97083ce8-da67-4220-9256-bf10fd3764fa/5cc058d615cbb89815e9162449b92410

 

 なんというか、どっかのゲームを参考にしてきた? と言いたくなるような能力の表示の仕方だったが、ツッコミどころはそれ以上にたくさんあった。溜息を吐き、両手で顔を覆いながらこれからどうしよう、と割と絶望の近い感情を抱きながらなんとか頭と心を落ち着けようとしていた。

 

 こいつ、英霊じゃなくて武器じゃねーか。

 

 しかも起源覚醒者というか起源そのものから作成されているっぽいし。

 

 というか根本からしてコミュニケーションとれるようにできてねーじゃねーか、と。

 

「しかも理性が吹っ飛んでるからバーサーカーじゃなくて、考える為の理性が最初からない白痴だからバーサーカーってな話だけじゃねーか!! そりゃあ喋られないよな! もとは武器だもん! ばーか! ばーか! ばぁーか!!」

 

 武器に善悪なんてないし、そこに存在するのは()()()()()()()()()()だけだ。その良し悪しは使い手が振るう事で初めて決定される。だけどこの子は聖杯戦争のサーヴァントという形で召喚され、形を与えられた。それによって方向性があったものの表現できなかったのが自己表現が行えるようになった。故に一切の感情も考えも感慨もなく、炎を放った。こいつは起源に呑まれたのではなく、起源そのものを形にしたような存在だ。

 

 そりゃあそうなるわ。

 

 知識はあっても判断する知恵がないのだ、本能と作成理由に沿って行動するのが当然だ。

 

 そこまで考えた所で、当然の様にこの娘が自分の手に負える領域を超越している事にも理解できる。こいつをこのまま自分の所に置いておけば破滅するのは俺だ。それは絶対に間違いがない。なぜならこの少女は俺と相性が良すぎるからだ。本当に聖遺物だけが触媒となって召喚されたのか、今となっては怪しい。絶対にどこかでゼルレッチによる仕込みがあったに違いないと思っている。

 

「はぁー……」

 

「……? ……!」

 

此方が盛大に溜息を吐く姿を見て、少女は首を傾げてから元気づけようと手をぶんぶん振り回すが、それで火の粉が舞うだけだった。それは此方に降りかかってもとくに熱を感じないが、救急車に触れるとじゅ、と音を立てて軽く熔かしていた。やっぱ生物兵器じゃねぇか、と心の中で呟き、

 

 手を伸ばした。

 

 腕は服を貫通し、胸を貫通し、少女の体の中へと沈んで―――その奥にある霊核を掴んだ。

 

 肉体そのものが魔力で構成されている以上、コアとなるものが必要になるし、そこを起点に肉体を魔力で形成しているのは解っていた。後は自分の魔力で形成しているのだ、これぐらいは出来ると踏んでいたが、あっさりと抵抗される事もなく成功してしまった。霊核を手の中に握りつつ、これに力を強く込めれば、そのまま砕ける。

 

 つまり、目の前のレーヴァテインというバーサーカーを殺せるという事だ。

 

 その事実を前に、バーサーカー・レーヴァテインは表情を変えない。此方を見て、にこにこと笑みを浮かべ、首を傾げ、何をしているのか理解しているが、その意味が解らない、という風に困惑しているように見えた。そこには消滅への恐怖が一切感じられない。破壊するという事の意味も、壊すという行動の結果も、そして死という事に対する忌避感も、その全てを情報として理解しているだけだ。

 

 この少女には感情と呼べる物がない。

 

 起源から生まれ、人格を与えられ、形を与えられ、知識を与えられた。

 

 だがそこに人間性はなかった。

 

 つまり、知識を与えられただけどの()()()()()()()()()()()状態だった。

 

「……ファック、やっぱド四流魔術師だな、俺は」

 

 根源を目指さず、家をどうでもよいと思い、使命は知らんと蹴り飛ばし、研鑽も学習も行わず、当たり前として魔術師がやるであろう事を自分は行えない。行わない。それは人間性が王道であれば当然やらない事だ。が魔術師としては当然のことであり、それが出来ないのは三流以下である。

 

 霊核を握りしめていた手を解放し、レーヴァテインの中から引き抜く。はぁ、と溜息を吐きながら片手で頭を押さえる。

 

「なんで起源に呑み込まれたはずの俺が未だに自意識を保っているかとか考える事は多いけど―――ここでグダグダしている場合じゃねぇな」

 

「……?」

 

「ん? あぁ、ここに居ても後手になるだけだしさっさと逃げようぜ、って話だ」

 

 視線を救急車の隅へと向ければ、そこにはアタッシュケースも置いてあった―――その中身がまだ存在しているかどうかは別として、というか中身を確認するのが非常に恐ろしいのでなしとするのだが、これを大英博物館へと運んでしまおう。

 

 クソダサTシャツはぼろぼろになった結果処分されてしまったようなので、包帯がしっかりと巻かれているのを確認し、ジャケットの前を閉める。やっぱり元が男の感性だからか、ブラジャーを外した状態の方が解放感がある。ただ、まぁ、このまま運動すると胸がクソ痛いらしいので、しっかりと閉じて、胸が動かない様に固定する。ついでに包帯にも強化魔術による固定化を付与し、硬化させて胸を押さえつけさせておく。

 

 まだ完全に治療が終わった訳ではないが、体の痛みは我慢できる範囲に収まっている。故に立ち上がって、認識阻害のルーンを自分の体に血文字で刻み始めながら、横で此方を眺めているレーヴァテインに視線を向けた。

 

「お前、体ちっさいけど俺について来れるの?」

 

「……!」

 

 彼女に視線を向けてそう言えば、少女の姿が自分に近い年齢の女にまで成長した。先ほどまでは可愛いだけだった少女が、女の気配を見せる美しさを見せ始めていた―――とはいえ、中身が一緒なので、どこか、可愛らしい雰囲気に変わりはなく、言葉も相変わらず発することが出来ない様子だった。

 

 これがつまり、《変容》と呼ばれるスキルの効果なのだろう。

 

 ただ自身の事に関しては恐ろしいほどに無関心―――大きく太腿が露出するスリットというか破れているドレスを、正直どうにかしてあげたいとは思わなくもない。ともあれ、外が少しずつだが騒がしくなってきた。

 

 ……大英博物館まで、逃亡開始だ。

 




 それではもっかいレバ子のデータをこっちに出しておこう。

 https://www.evernote.com/shard/s702/sh/97083ce8-da67-4220-9256-bf10fd3764fa/5cc058d615cbb89815e9162449b92410

 Q.これはどういうサーヴァントですか?
 A.召喚した瞬間にマスターが起源汚染されて全てを燃やしながら世界を破壊するだけのマシーン化するので聖杯戦争もクソもないサーヴァントデス……。

 召喚したら最後、確実に起源に汚染されるかどうかするか飲まれるか覚醒するかという究極の選択肢しか残さない災いの枝ちゃん。だけど彼女は武器だからそこらへん一切関知しません!! ははーん、人類悪だなおめー? だが安心せよ、この可変型幼女が君たちのヒロインだ。

 次回、ロンドンサブウェイの最期。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。