「よ、っと」
階段を飛び降りて下へと着地するが、その動きに遅れて彼女―――レーヴァテインがついてくる。変容のスキルを使って姿を変えたのだから敏捷が上がったのではないか、と思ったがこれはコミュニケーション用の人型なだけだったらしい。少女の姿に戻させたら片手で掴んで持ち上げてみた―――恐ろしいほどに、燃え尽きた灰の様な軽さをしていたレーヴァテインを持ち上げそのまま、
地下鉄の階段を全速力で降りて行く。
認識疎外の魔術が働いている影響もあって、他の人にぶつかったところで此方に対して視線を向けられる事はない。ただ監視カメラなどの人格を持たない機械に関しては話は別で、しっかりと姿が記録される。とはいえ、それはどうとでもなる。魔術協会が隠蔽にさえ乗り出せば。一応だが連中にも現代科学の恐ろしさが理解できている部分が存在する。そういう連中で固めた科学対策班、とも呼べるのが存在する。
だからカメラとか関連の機械は無視し、人間の意識だけを此方へと向けられない様に阻害し、一気に地下鉄へと飛び込んだ。
「やっぱり運行停止かっ!」
地下鉄の切符売り場まで降りてきたところで、電光掲示板を見れば完全に運行が停止状態にあり、数時間単位で動く様子を見せないらしい。無論、それを全部待っていたら今ではいないあの霧の英霊に追いかけられてしまうかもしれない。
空港を救急車から出た時にチラっと見たが、その惨状はすさまじく酷かった。
あそこまで執拗に聖遺物を奪取しようとしていたのだ。
何時、また来るか解ったものじゃない。
だったら今のうちに、逃げられる間に逃げておくのが賢い選択だ。レーヴァテインとあの英霊がぶつかる事で発生するのがあの破壊ならば、間違いなく人がいる場所で衝突させてはダメだ。最低限
「ま、今日ばかりは見逃してくれ」
そう言って、自動改札を一気に飛び越えて反対側へと抜けた。設置されたレーザーに反応して自動改札が勝手に閉ざされるが、それは機械的な反応であり、人間の意識に引っかかった訳ではない。勝手に閉ざされてエラーを吐き出したようにしか見えない改札機の動きに周りの人間が首を傾げて行く中、さらに改札を降りて階段を段飛ばしで移動し、サブウェイのプラットホームまで降りる。
祈りながら見たプラットホームには運行停止したサブウェイの再運行を待ち続ける人々の姿と、そして発車できずにドアを開けっぱなしの状態で待機し続ける電車の姿が見えた。電車が来ている事に安堵を感じ、電車の中に飛び込み、そのまま両手をパンパン、と叩く。
「ルヴィアん所で買ってきた宝石とか触媒全部ロストしちまったのが痛いが、腐っても魔術師、何とかして見せましょう。えーと……この場合必要な触媒はラピスラズリ、血石、後は牛の骨か……
両手を叩き終わればその間で
「Oh Dear, My Teapot Is Empty. I Want My Tea Party Now」
両手を壁に叩きつけ、それで勢いよくケルト式のルーン文字を描き、そこに東洋呪術を加えたアレンジを施し、最終的に時計塔でも主流な西洋魔術による補正を行い、右と左の両方向へと伸びる矢印を血の芸術で作った。後はそう、杖でもあれば便利なのだが、そう思った直後、一旦下ろしていたレーヴァテインの姿が変質した。
一瞬で炎に包まれた少女は次の瞬間には黒く炭化しつつも燃え続ける絡み合った枝によって構成される赤の混じった杖へと変貌していた。わずかな隙間からその中には凄まじい熱が隠されているように見えるが、レーヴァテインは諸説では剣ではなく杖であった、という話もどこかで読んだ気がする。ともあれ、此方の意思を感じ取って《変容》のスキルで杖に変形してくれたらしい。横に待つように浮かび上がったそれを握った瞬間、凄まじい魔力が沸き上がってくるのを感じ取った―――魔力特化モードとでも表現すべきなのだろうか。ちょうど都合は良い。
「It’s Time For Tea, Alice!」
杖で壁に作った血の文様を軽く二度叩けば、矢印の方角へと向かって軽く炎の線が走った。次の瞬間、電車の中で座っていた人たちが勢いよく電車の中から飛び出し、駅の外、上へと向かって走って行くのが見えた。それに合わせ人払いのルーンを杖を使って炎で焼きこむ様に車内に刻み、走って先頭車両へと向かって行く。
使った魔術は簡単、催眠術を拡大させたものだ。
今すぐ紅茶と一緒にクッキーが食べたい。どうしてもどうしてもどうしても、我慢が出来ない、今すぐに食べたい! という超強烈な衝動を一瞬だけ与えるという魔術だ。一定の範囲内にそれを叩きこめば、強制的に人払いを行う程度の事は出来るし、それで人を払った後に人避けを施せば、誰も入ってこない、廃列車の完成だった。
流石に、ここで誰かを巻き込むのは気が引けた。
地上ルートは追いかけてきやすいし、これがおそらく一番安全なのだ。
そう言い訳しながら先頭車両へと続く扉を横へと蹴り開け、車掌室へと続く扉の前で足を止めた。当然ながら車掌も既に列車を飛び出している。この電車を操作できる人間はいない。
―――人間は。
「材料は血、骨粉、内臓、皮、そして肉。だがそのままだと物騒だし宝石翁の弟子らしくここは盛大に代替品で代用しよう。血液の代わりに水銀を、肉の代わりに鋼を、そして命に炎を注ごう。投影魔術で触媒をちょちょいと用意してそれを魔術で繋ぎ合わせて一番強い残留思念を憑依! ハイ! 即席ホムンクルスの完成!」
ホムンクルスを一段階劣化させた、ほとんど使い魔の領域のそれを生み出し、それを肉体の代わりにここに漂っている車掌の残留思念をダウンロードする。最近の電車は電子化が進んでいてこれはどうなのだろう? と思ったが、どうやらまだ古いタイプで実際に操作する必要があったらしい事に安堵を覚える。ホム使い魔が此方の意思に従って電車の扉を全て閉め、電車を走らせ始める。
「トレインジャック―――一度はやってみたかったんだよな。まぁ、こんな状況でやりたくはなかったけどなっ……!」
走り始めた電車に即座に通信が入ってくるが、魔術的に干渉を遮断する事で操作を外部から受け付けないようにする―――科学と魔術の融合に関しては既にオルガマリーを始めとしたカルデアが、そしてアトラス院で行われている。その技術のおこぼれを利用すればこれぐらいは簡単にできる。一回だけ見ていて助かった。そう思いながら電車はロンドンへと向かって二十数分の旅を動き始めた。
「ふぅ、これでとりあえずセーフか……」
ふぅ、と息を吐きながら車掌室から出て電車内の椅子に適当に座る。息を吐きながら体を沈め、杖を手放すとコミュニケーション用の少女の姿になった。正面から此方をしばらく覗き込んでいると、横に座り込んで、此方を見ながら真似るように足を広げて座った。女の子がやる様な事ではないが、指摘するのも面倒なので黙っている。両手で顔を覆いながら息を吐き、休息を入れる。
「なんでこんなことになってんだか……」
関わってしまった以上完全に投げ捨てる事の出来ない自分の甘さが原因か、或いは聖杯と言う音に聞いた伝説に対する魅力を捨てきれなかったか。いや、間違いなく甘さだ。そこらへんはちゃんと自覚している。あそこでこの少女の霊核を握り潰していれば
危機感は大事だ―――特に、魔術師の世界で生きる間は。
直感というあやふやな物ほど、なぜか信用出来てしまう。或いはそれ自体がオカルトの領域にある日常だからかもしれない。だがそんな悪寒を抱き、直感的にまだ安全ではないという事を察知し、座り込んでいた座席から立ち上がり、電車の後部へと視線を向けた。
「……?」
「うん? あぁ……嫌な予感しかしねぇからな……ちょっくら炎を借りるぞ」
座ったままのレーヴァテインの頭に手を乗せた。彼女その物が武器であり、神代の炎である以上、その存在そのものが超最高級の触媒であると表現できる。彼女の一部―――つまりは炎を使っても、魔力を此方から食らって即座に再生しているのが解る為、炎の一部を頭に触れて借り受ける。引きはがす手の上には熱を感じさせない炎が踊っている。これは俺が『破界す終焉の枝(レーヴァテイン)』の宝具効果によって装着している主だからなのだろう。
「人に愛を、物語にロマンを、夢に祝福を。ピノキオは今、その心に真実にして飛び立つ」
炎は鳥の形へと変形した。すぐ近くの窓を開きながらその向こう側へと放てば、火の鳥は僅かに電車と速度を合わせていたが、即座に流れるように電車の後方へと向かって飛翔した。その視界を自分の片目と同期させながら暗いトンネルの中を進んで行く鳥の視界で見る。存在そのものが炎で編まれた火の鳥の使い魔は自分の存在で明るく照らしながら地下トンネルを進んで行く。電車からしばし離れた場所で今度は聴覚も片耳だけ同期させる。
今度は聴覚も片耳だけ同期させる。
そうやって火の鳥を電車後部から離してしばし、
―――光と共に接近しようとする姿が見えた。
「……はは、来やがった」
闇を照らす光は大型二輪バイクのヘッドライトだった。それだけではなく薄く霧を纏ったバイクの車体にまたがる姿は魔力を薄く纏っており、それがトンネルの暗闇に青白い光を生みだしつつ、片手に霧の塊を握って迫って来ていた。その速度は速く、このまま通常の速度で移動している電車では追いつかれるのも時間の問題だった。そしてそれを自覚した瞬間、バイクに乗った褐色の青年が火の鳥を見た。
『……諦める時間は与えた、これよりは一切の手加減はしないッ!』
「馬鹿野郎、男が一度始めた事を投げ出せるかよテメェ」
振るわれた霧の武器によって火の鳥が破壊された。だがそれによって相手がこっちに迫ってくるというのが解った。切断の反動を何とか抑え込みつつも電車を操っている使い魔に速度をもっと上げるように指示を出しつつ、レーヴァテインへと視線を向けた。自分が必要とされている、という状況に彼女は笑みを浮かべると、杖へとその姿を変形させた。
「ファック! 結局命懸けかよ!」
後部車両の方へと向け、レーヴァテインを横に振るう。それに従う様に後部車両へと続く扉が全て開き、道が出来上がった。ファック、ファック、と口の中で言葉を何度も転がしつつまだ癒えない体を引きずって全力で最後尾の車両へと向かって駆け出して行く。電車のスピードは上げたが、これではまだ追いつかれてしまう。あの魔術をかき消される感覚、並の妨害ではものともしないだろうから、直接妨害する必要が出てくる。毒づきながら最後尾の車両へと向かう。
「サボってたツケか! それとも成功か廃人ってこういう意味なのかよゼルレッチぃぃ―――!!」
かの魔道元帥を絶対に殺さなくてはならない。その事を心に誓いながら最後尾の車両へと向かえば、その奥の窓ガラスから追い上げてくるバイクの姿が見えて来た。その姿が視界に入るのと同時に、マスター機能によるステータス把握が行えた。
https://www.evernote.com/shard/s702/sh/10c3f88e-0c26-4e29-9e7a-14e99808dd43/d9a4aff8bba225d36c7198e4e49b6627
見えたステータスに、《対魔力》という能力が見えたが、それを確認して納得した。確かにそんな能力があれば、魔術師相手にはほぼ無敵だ。魔術をその規模をベースに無力化する能力なんて、反則もいいところだ―――とはいえ、抜け道がない訳ではない。魔術という分類に入らなければやりようはある。そう思いながら感じた悪寒に後ろへと大きく跳んだ。直後、振るわれる霧の斬撃が屋根から壁までを切断し、電車をオープンカーへと改造してしまった。
「ふざけんな! チートやめろ! 運営に報告すっぞ! あっ、この聖杯戦争とかいうクソゲーの運営どこかしらねーや、ファック! ファ―――ック!」
今日一日だけで何回ファックと言っただろうか。その事に頭を悩ませつつも、要するに《対魔力》では防げない規模か、或いはそのロジックに引っかからない物を繰り出せばよいのだ。そこらへんは東洋呪術を知っている身としてはやりようがある。何せ、呪術は魔術そのものとカテゴリーが違い、
「よう! ノーヘルの兄ちゃん! お前実は仮面ライダーかなにか?」
「残念ながらライダーのクラスではない! 降伏勧告ならいつでも受け入れるぞ!」
ライダーなんてクラスがあったのか。まぁ、それはいいや。それよりも、と言葉を置く。
「兄ちゃん、ロード・オブ・ザ・リングは知ってる?」
その言葉にバイクに乗ったままの青年がアクセルを踏み込むのが見える。だが既に魔術は喋りながらも杖を媒体に起動させていた。ベースは東洋の呪術。攻撃ではなく守護にリソースを大きく割き、既に吐き出しまくっている魔力を更に吐き出す。痛みに意識が朦朧とし始めるが、それを噛みしめながら即興で魔術を形成した。
「灰の魔法使いガンダルフは力強き悪鬼バルログの前にこう叫んだ―――You! Shall Not! Pass!」
言葉と共に杖の底を床に叩きつけた。その言葉と共に炎の壁が車内を切断するように出現し、トンネルを端から端まで覆った。それは電車の動きに追従し、実質的に結界として生み出された。それを見た敵が霧の武器を一気に振るった―――発生したのは高圧圧縮された水の斬撃、それが明確に見えた。
炎に刻まれたのは呪術、そして起源魔術。
水の斬撃、その衝撃を受けて炎の壁は一瞬で切り裂かれるが、超高温と水が爆発した結果、魔術による反射効果で発生する水蒸気爆破が後ろ方向へ―――つまりは斬撃を放った青年の方角へと向かって放たれた。
ロンドン地下へと通じるトンネルの中で逃げ場のない爆発と衝撃が満たされ、その反動から体が浮きがって一つ前の車両まで吹き飛ばされ、杖を手放しながら床を転がった。潰れたカエルの様な声を零しつつ、
「……ごめん、ガンダルフはもうちょっとカッコよかった」
トントン、と指を叩いた。反応してレーヴァテインから炎が伸び、それが電車と電車の連結部分に一瞬で侵入し―――焼き切った。切り離された電車の連結、それによって速度を維持したままの後部車両が衝撃に耐えきれず、ボーリング玉のように転がりながら後方へ、水蒸気の中へと叩き込まれながら爆発と衝撃の音を響かせる。その景色を見て軽くガッツポーズを決めてから―――未だに聞こえる、バイクのエンジン音にガッツポーズの動きを停止させた。
「……嘘だろ? アレで生きてるのってマジかよ」
火照り始める体の調子を頭の端へと追い出しながら水蒸気を突き抜けてジャンプするバイクを見た。後部車両デスアタックでさえ乗り越えてしまった姿に、困惑が隠せない。レーヴァテインの炎は魔術由来ではなく、魔術そのものもそう偽装させた呪術による鏡面反射だったのだが―――というか今のだけでも魔術師一人殺すにはオーバーキルともいえるだけの力が入っていた。それでも無理なのか、と唇を噛んで体に喝を叩き込んで起き上がる。床に転がっているレーヴァテインを急いで拾い上げながら先頭車両へと向かって走って行く。
もう投影魔術で触媒の代わりを作り出している余裕も時間もない。本当にルヴィアから買い取ったものが腐ったのが辛い。そう思いながら車両を抜ける瞬間に、連結に向かって杖の底を叩き込んだ。此方の意思を読み取るレーヴァテインが言葉もなく意思を反映して連結と車輪を破壊し、車両を横転させながら切り離す。
炎と共に。
「一つ! 二つ! 三つ! あぁ、なんか即席で使えた童話か伝承はあったっけ、えーと、えーと―――」
テンパっているのが原因か、はたまた鏡の魔術を使った影響か、それともレーヴァテインを武器として振るっている事の影響か、思考が纏まらない。普段ならもうちょっと有用な魔術を即興で編み出せるものだが、この瞬間に至ってはそれが出来ず、車両を爆弾代わりに切り離して後ろの存在へと向かって放つ程度の事しか考えられなかった。連続で切り離せば切り離すたびに電車が重量から解放され、その速度は上昇して行く―――そして同時に逃げ場が失われて行く。
「やばいやばいやばいやばいやばい―――」
焦りながらとうとう、最後の車両、先頭車両へと到達する。既に絶え間ない爆音と破壊によってトンネル内部そのものが赤く染まっているように見える。駅を通り過ぎたか、通り過ぎていないか、それさえも解らない。だが後方へと視線を向ければ、相手が
「武器! なんかないのか武器は! ここから魔術以外で攻撃できるもんは!」
魔術じゃ完全にダメだ。となると武器しかない。そう思って叫ぶと、レーヴァテインが武器の姿を弓へと変えた―――伝承では矢の形をしていた、という解釈から弓と矢へと変形したのだろうか? だが弓やなんざ使った事もない。握った事すらない。
「馬鹿野郎! 俺はナイフとゲーセンでガンコンしか握ったことがないぞ!!」
そう叫ぶと、レーヴァテインが一瞬だけ不定形の炎に変形してから、ハンドガンへと姿を変形させた。それを見て叫ぶ。
「もう一声!」
わずかに重量が増すのを感じる、困ったような気配と共に炎がぐちゃぐちゃと変形し、その姿を大きく、砲台のついた、本来の自分の筋力であれば絶対に持ち運びが出来ない類の武装へとその姿を変形させた。
―――即ちガトリングガン。
「やれば出来るじゃねぇか―――!」
迷う事無くバレルをバイクの方へと向けて、スイッチを入れた。砲身が回転を始め、鉛弾の代わりに大量の小粒の炎を吐き出し始めた。一瞬で視界の内が赤く、そして爆音と熱によって閉ざされ始めた。電車の後部、その上にある線路と壁を赤く熔かしながらバイクへと向かって炎弾の暴風が襲い掛かる。
「
バイクに乗った青年の叫び声と共に霧が祓われ、空間に水分が満ちた。それによって空間の炎の勢いを弱めながら無数の斬撃が結界の様に放たれた。炎の雨と水の多角斬撃結界が連続で衝突し、爆発を地下で発生させながら空間そのものを揺らして行く。はははは、と高笑いしながらどう足掻いても生き残れるイメージが浮かび上がらなかった。やばい、何をしても無駄っぽいこの状況。
明らかに詰んでいる。
そもそも、生物としてのスペックが相手とこちらではまるで違う。戦うというステージ自体に乗れていないのだから、当然と言えば当然なのかもしれない。とはいえ、それで生きる事を諦める程解りの良い性格をしている訳でもない。ガトリングの掃射を終わらせて視界全てが水蒸気で覆われている中、電車内の電光掲示板を見て、今の位置を確認する。
「お前だけが頼りなんだからしっかり捕まっていろよ」
「……! ……!」
杖から人型へと戻った所で足元を叩く様に術式を埋め込み、首からぶら下がる様に背にレーヴァテインを背負った。片手で忘れそうになってしまうアタッシュケースを掴み、もう片手でポケットからカードデッキを取り出し、それを後部の大穴から風に乗せて一気にばらまきながらその大半を風に流す。その中で、高速で走る電車が駅を通り過ぎようとするのが見えた。
そしてバイクが電車に飛び込んでくる。
「じゃあの」
置換魔術で場所を入れ替えながら使い魔を自爆させ、同時に電車そのものもレーヴァテインから借りた起源覚醒の炎で満たした。
トランプの居場所は駅の横で散らばっていたため、一番駅に近いものと入れ替われば、駅の先で爆音と破壊音が聞こえ、地下その物が揺れる様な感覚を感じた。破壊された線路の上に着地すれば、周囲から自分に対して一気に視線を向けられるのを感じた。
「はぁ、はぁ、魔力がほとんど空だぞこれで」
認識疎外を自分に刻み直しながらよろよろとプラットホームの端へと移動し、体を引きずり上げた。即興と魔力不足なのが原因か、上手く認識疎外が働いていないような気もするし、視界が少しずつ赤く染まってきた気がする。正直、割と自分の状態がやばいのを自覚してきた。
息が荒く、体の発情が抑えられず、疼く。
「はぁ、はぁ、ファック……ここまで暴れたんだから死んでてくれよ……?」
今日一日で一体何億の損害が発生したかはわからないが、これ以上破壊活動は止めてくれ。そう思いながらプラットホームの上へと体を引きずり上げる。そしてそのまま、適当な柱に肩から体を叩きつけて、荒い息を整えようと息を吐く。体の感じる快感、陶酔感は意思の力でねじ伏せる事が出来る。だからそれを総動員して、意識が落ちない様に、快楽に思考が飲み込まれない様に堪えながらふらつく体を立たせ、魔術で強化しながら歩き出そうとしたところで、
―――神秘の気配を感じ取った。
「……はぁ、はぁ、大英博物館まであと少しなんだけどなぁ……」
呟きながら階段を一気に駆け上がる。サブウェイでの連続爆破でさえ殺せない相手を自分が一体どうしろと言うのだ。自分にできる大体の手段は今ので使い果たした。
武器に変身させて戦う? そんなのただの自殺手段だ。キチガイだ。素人が武器を持って英霊に立ち向かおうとするなんて正気じゃないし頭が絶対おかしい。そんな狂人にはなれない。
逃げる。
自分が出来るのはこれだけだ。ただひたすらこれだけ。持てる魔力と道具と、そして才能の全てを注ぎ込んで逃げるだけ。逃げ続けるだけだ。
相手があの自爆じみた破壊の中から無傷で出てこれるとは思えない。……希望的観測だが、多少はダメージを受けていてほしいと思う。そうすればまだ逃げ切れる可能性が上がる。
「走れメロ―――あ、ダメだ。魔力が足りない」
そこらの人間から魔力を徴収することが出来ればなんて楽な事なのだろうか! そんな事を考えながら自分の血肉を魔力へと変換させるために削りつつ、
ロンドン地下から続く逃亡劇のラストランを開始する。
自分にあるのはサーヴァントという存在には有効と言えない魔術の数々。研鑽を怠っていたせいで更新されていない手札。わずかに残された専用の触媒。相手と比べると圧倒的に劣りつつも本調子ではない体。そして武芸の才覚がある者が使う事が前提である単体では全く以て無能のバーサーカー。
この手札で、ロンドン駅から大英博物館まで逃げ切って見せるしかないのだ。
無理だと思う(断言
移動手段がないのならパクってくればいいんだよ! という事で適当にバイクをパクって来た英霊さんでもあった。そして始まるサブウェイテロ。この日だけで一体どれだけ被害総額が出て人的被害も出たんだろうなぁ……。
次回でたぶんバトル部分は終わり。そうしたらリザルト&成長かな。