謹慎処分が解けた翌日、まだ金がなく、服も整っていないという事もあって青いジャージ姿でゼルレッチに呼び出された。呼び出された場所は時計塔に存在する練習場とでもいうべき空間であり、そこは普段よりも広くゼルレッチによって広げられていた。空間に関する魔術であれば、魔法使いのゼルレッチであれば鼻歌交じりに成し遂げてしまう。そんな訳でジャージ姿、レーヴァテインを連れて演習場へとやってきていた。完全に貸し切りな上に他人が入ってこれない様に執拗に結界を張ってある辺り、呼び出された理由に関しては大体察しがついていた。
なので反対側に立つゼルレッチを見た所、まずは最初に中指を突き立てた。
「よぉ、爺。呼ばれた通り来たぜ」
「もはやその態度が挨拶と化しているな。わしの覚えが正しければ日本は礼節の国だった筈なんじゃがな……」
「何年前の話だよクソ爺。今の日本は酷いぞ。魔術師でさえここまで苛酷に人間を使わねぇぞ! ってレベルで働かせるからな。休みを与えず働かせてそれで死んだらなんでアイツ休まなかったんだ……とかいう末期社会だからな正直な話、もうダメだろあの国。俺だったら絶対海外で就職するわ。ホワイト企業見つけ出すよりも海外で働いて遊べる環境構築したほうが絶対に早いだろ」
「うーん、今度一度確かめに行ってみるか……」
そうするべきだ。まぁ、ネットでもある程度情報は入るのだが。それにしてもネトゲのギルメンからは物凄い疲れと怨嗟の声ばかりが聞こえてくる。上司が無能だとか、残業が終わらないとか。課金とガチャ芸でストレスを吐き出している様な生活だ。正直、同情しなくもない。まぁ、こっちはこっちで今、ブラック企業とは比べ物にならないブラック戦争へと参戦が確定していて、ホワイト企業だとか言っている場合じゃないのだが。
まぁ、大きく脱線してしまった。頭の後ろを掻きながら息を吐き、
「で、爺。俺の予想が正しければここに呼び出したのは―――」
「―――うむ。先の事を考えて弟子に稽古の一つでもつけようかと思うてな。貴重な自由時間だ。有意義な使い方じゃろ?」
「弟子の育成を暇つぶし扱いにするなよ糞が」
「ま、今までお前にロクな授業をしてやらなかったからな。最低限の事を叩き込んでおかんと欠片であっても勝機が見えんのじゃ困るしなぁ」
「爺、お前もしかして勝率0の戦いに放り込んで後から勝率を生もうとしているな??」
「お、解るか」
迷う事無くガンドをゼルレッチへと向かって放つが、その呪いが偏向され、無限に分割されて平行世界のどこかへと消え去った。その魔術的速度が速すぎて、魔法ではなく魔術を使ったというのは解るのだが、何をどうした、という原理がミラーリング出来なかった。今のガンド、キメラ程度なら完全拘束できる程度の威力を兼ね備えたものだったのだが、魔法使い相手には全く関係がないらしい。クッソ忌々しい。しかし遊ばれている、というのが解るので、ガンドを一発叩き込んだところで諦める。
ゼルレッチは確かに遊ぶが―――根源を目指す魔法使いでもある。
無駄な事はしない。この男が稽古をつけるという事は、最終的に必要な事なのだろう。そういう事に関しては魔術師らしく、手を抜かないのでさっさと話を進めるように視線で催促する。
「やれやれ、相性と才能はエスカルドス以上で逸材だというのに、何故凶暴性までトオサカとエーデルフェルトを超えるのやら……ワシの弟子ってそんなのばかりじゃなぁ」
「……? いつの間にルヴィアを弟子に取ったんだ、爺」
「ん? あぁ、別の世界の話だ」
じゃあ関係ないな、と割り切る。しかし平行世界のルヴィアには同情しておく。まさかこのキチガイクソ爺に自ら弟子入りするとか正気の沙汰ではない。此方のルヴィアには何度も警告しているが、聞き入れる様子はないし、そのうち弟子入りするんだろうなぁ、と思っているとゼルレッチがさて、と言葉を置くので集中する事にした。
「聖杯戦争という戦いに関してはもう知っているじゃろうから説明する必要もないだろう。ならその代わりに聖杯戦争という
「……システム?」
うむ、とゼルレッチは頷きながら答えた。
「元々聖杯戦争の根幹となるシステムはとある別の術をベースに構築されている。七騎の守護者を呼び出す事で大いなる敵と戦う為のシステム―――それが本来のシステムであり、聖杯戦争で活用しているのはその一部、或いは本来の役割を劣化させたものじゃ。故にサーヴァントは全員
「アレで弱体化ってマジかよ……」
後からバゼットから話を聞いた感じ、正面戦闘となると間違いなく互角か、或いは分が悪いとバゼットは言っていたのを覚えている。バゼットが英霊を相手に生身で戦えるのはそれ専用の対策を用意して戦場に出たのと、一撃必殺の手段を事前に用意していたかららしい。それを抜きにすると、非常に面倒な事になるらしい、それでも勝てない、とは一言も言わないのが彼女らしさなのだが。
そうじゃな、とゼルレッチが口を開いた。
「セイバー、レ・ロイ。このブリテンでは間違いなく無名の英雄じゃろうな。だがそれもベトナムへと移れば変わる。彼はベトナムのアーサーと呼ばれる様な人物じゃからな。英霊は信仰による補正を受ける」
「……それが聖杯戦争というシステムが出力できる限界だから……?」
その言葉にゼルレッチは笑みを浮かべた。
「聖杯は万能の願望器と呼ばれておる。だがその聖杯にも規模というもんが存在している。大規模な聖杯、小規模な聖杯。それによって聖杯戦争そのものもある程度規模やシステム的な出力、聖杯そのもののパワーが変わってくる。聖杯戦争は魔力を聖杯に満たす為の儀式じゃ―――だが必ずしもそれを全て効率よく出力できる訳ではない。結局のところ、聖杯も完全に万能とは言い切れない」
「……」
ゼルレッチの話は聞いたことがなく、そして興味深い話だった。聖杯戦争は優勝できさえすればどんな願いでもかなえてくれるという触れ込みだった筈だ。だがゼルレッチが今、話してくれた内容はそれを否定するようなものだ。だが態々それを意味もなく彼が伝えてくるとは思えなかった。そこまで考えた所で、胸を支えるように腕を組んだ。これ、胸を支えられるから結構楽になるんだよな、と最近発見した事だった―――ルヴィアを見て。
「聖杯そのものの出力が変わる事で聖杯の規模が変わる……となると遠いベトナムの地がベースとなっているセイバーがアレほどの力を発揮できたことや、超メジャーで凄まじいまでの破壊力を発揮しているバーサーカーを召喚、維持できている聖杯って結構大物なんじゃ」
「だろうな。そしてつまり、それクラスの相手が敵として出てくるという事でもある―――ただ本来の守護者召喚用の術と比べれば大幅に劣化している。ここで本来の話題、劣化した能力に関する話だ」
割と真面目に今回は話を聞いていた方が良い感じがする―――というか間違いなく生死に直結する話題である以上、真面目に話を聞く。
「さて、聖杯が真に万能であればそうする必要はないが、聖杯戦争というプロセスを経て万能へと到達する以上、事前段階では出力を抑えなくてはならない。英霊という極上の燃料を召喚するまでは良いが、そのままフルスペックで召喚すれば聖杯の許容量を超えてしまう。元の術であればそれがいいのだろうが、聖杯戦争の主旨には合わない。故に聖杯戦争で召喚されるサーヴァントは意図的に弱体化されておる」
レーヴァテインの方へと視線を向けた。彼女はバーサーカーというクラスだ。このクラスはどうやらデフォルトで《狂化》というスキルを付与されており、魔力の消費量を増やし、理性をなくす代わりにサーヴァントのスペックを上昇させるクラスらしい。そもそも精神汚染されている上に起源覚醒されているレーヴァテインの前ではほぼ意味のないデメリットではあるが、
「なんか、負ける為のスキルって感じだな……というかゲームを遊んでいる感じだ」
「聖杯戦争は元々英霊を脱落させて聖杯にくべる事を目的としておる。そういう自滅する要素があったりする方が逆に
魔術師って連中はほんとどこも自分以外を資源だと考えている様なクズばかりだと再確認する。英霊さえも死んだ後でリサイクル活用とか、エコロジックにも程がある。ゴミはリサイクルするべきだが、死して安らかに眠る人々までリサイクルするそのエコ精神に関しては少し引く。というかかなり引く。さすがの俺も死者を利用するなんてことは考えたくない。倫理観が死んでいるのはなんともまぁ、魔術師らしいが。
「まぁ、そんな聖杯用のサーヴァントシステムじゃが、この場合、お前を生き残らせる事に関しては非常に有用だ。その意味は解るじゃろう?」
「サーヴァントそのものが本来の伝承と比べて弱体化しているだけじゃなくて、スキルという形で系統化されているからミラーリングで盗みやすい、って話だよな?」
その言葉にゼルレッチが頷いた。
「実際、セイバーとの戦いで幾つか盗んだな?」
今度は此方が頷き返す。セイバーとの戦いを通して学んだのは《魔力放出》と《破壊工作》だ。他にもセイバーのデータを確認したところ、《対魔力》や《騎乗》なんてものが存在したらしいが、元々バイクとかの運転は出来るし、《対魔力》に関しては体質的な物らしく、覚える事は出来なかった。逆に言えば技術的に再現可能な《魔力放出》と《破壊工作》に関しては初歩の初歩、サーヴァント風のランクで言えばEランクで覚えることが出来た。
後はおまけでセイバーの剣術が記憶出来た事だろうか。流石にそっちに関しては見様見真似でどうにかする事は出来ない。根本的に体格や性別が合わないという問題点があるのだ。自分のは根本的に写し取るだけなのだから。魔術はそこ、アレンジしたりするのが得意なのだが、
ぶっちゃけ、体を動かすのはそこまででもない。
一応、最近は逃げられるようにジョギングを始めたのだが。
「ワシが今まで見てきた弟子の中で一番見所があるのがお前じゃ。端的に言えば適性が跳び抜けている。鏡と界の起源。その組み合わせはおそらく、第二魔法という場所を目指すのであれば理想的な組み合わせで、お前自身も魔術的才能は高い」
「褒めても中指しか出さないぞ」
「このクソ弟子め……。つまる所、お前は今、最も魔法使いに近い立場にあると言っても良い。魔術的な問題が解決している今、魔術の研究も復活させているんじゃろう?」
「いや、まぁ、そうだけどさ……」
今までは起源が恐ろしく魔術に触れることが出来なかったが、それが解決された今、魔術に再び触れているというのは事実だ。現在はレーヴァテインのスキルの解析、自分が覚えている魔術の再確認とフォーマティング、そして自分が扱える技術を管理しやすいようにレーヴァテインを真似たスキル風に整えている最中だった。
セイバーとの戦闘中、割と困ったことに
だから自分の技術や手札、能力をサーヴァント風に数値化して管理してみているのだ。それをレーヴァテインに《変容》で比べさせて貰ったり、魔術や自分が生き残るための方策を謹慎中にも考えていたのは事実だ。
全ては生き延びるために。
「……うん? ちょっと待てよ? え、まさか、そう言う事か?」
唐突に自分がここに連れ出され、稽古という言葉を聞いて、ゼルレッチが何をしようとしているのかを理解した。ゼルレッチの方へと視線を向ければ、
いや、待て。
「聖杯戦争の前に俺が死ぬから少し落ち着け爺」
「何を今更。魔法使いとして弟子入りすれば廃人となるか成功の二択。それしか残されていないと知っているじゃろう?」
「クソ爺が、俺はお前に拉致された今だレーヴァテインやれぇ!!」
「……!」
会話の途中で脈絡もなくレーヴァテインにその魔力EXという能力で破界の炎をゼルレッチを中心に、全力でぶちまけさせた。一瞬で燃焼する酸素は融けだし、粉砕される視界内の空間に、やった! 殺した、とガッツポーズを取っていると、炎を真っ二つに割って出現する、無傷のゼルレッチの姿が見えた。
「ほほう、先制攻撃とは中々やるではないか。防御させられるとはな」
「明らかに発言が魔王のそれなんだよ爺……!」
ゼルレッチの瞳を見れば、いい機会だから少し矯正してやる、という意思が見える。貴重な技術をそのまま、教えて伝えるのも癪という事なのだろうか? どちらにしろ、これから先、聖杯戦争で生き残るには第二魔法から生まれた魔術を少しでも習得しなければならないのは事実だ。魔術としての相性が他のとは遥かに違うのだから。
とはいえ、
弟子の稽古に全力で魔術を使う姿勢はどう足掻いても大人げない。
絶対、絶対にぶっ殺してやるからな―――そう心に誓いながらガンドの嵐を前に、迷う事無く人型のレーヴァテインを盾にした。
・《万華鏡》を取得した。永久的にサバ換算で魔力がワンランク上がり、魔力A+++の後に魔力のみEXにできるように
・《夢幻召喚》を学習し、剣術や弓術等の技術を読み取った場合、自分に最適化させて使用することが出来るように
・無理やり体を鍛えられ、ステータスを2点獲得
全部魔力に割り振って魔力が大成長。
【魔力】B(4)→EX(6)→コンバート→C(3)→B(4)
人間換算から【魔力】のみサーヴァント式へとコンバート、1ステの上昇に2点を消費するように。
人間時はB→A→EXだけど、サーヴァント式だとB→A→A+→A++→A+++→EXなので、ここから魔力EX狙うには合計6点必要。とはいえ他のステータスが貧弱だから特化集中狙っていいものか。
次回、コミュ2回目。裏でシナリオ2進めてるけどファンブってちょっと大惨事になってる。