二人は朝から遠い九州にあるスペースワールドまで来ていた。
そう。心ここにあらず状態の二人だけで。
道行く人は誰一人として二人に声を掛けようとはしない。
声を掛けるだけで二人の闇が一瞬にして、自分を飲み込むかのような恐怖を覚えるからだろう。
僕が持っている闇。亮輔が持っている闇。双方違えど一緒に居たいと思うのは一緒なのだろうか?
お互い繋いだ手を離そうとはせずただギュッと誰も入れないよう、強く握り締める二人なのだった。
「兄貴。ここに居ても何にもなんないじゃん。荷物も一杯だし。ホテル行こうよ。んで、荷物なんてさっさとおいてスペースワールド遊びに行こう。一杯乗りたいものあるんだ」ニッコリ笑いながら楽しそうに話す僕。その雰囲気からは以前の僕の面影はない。
それが無性に悔しいのかもしくは、はがいいのか亮輔の口数は以前と比べて少ない。
「うん。そうだね。優夜昨日から楽しみにしてたもんな」僕と話す時何故か悲痛な顔をする。それが今の僕には引っかかって拭えない。
(何か俺悪い事でもしたか? 確かに手首切っちゃったのは悪いとは思うが。一応お母さんも結婚したし、俺が悪いのか? )全く僕は恋心を封印してからというものその理由が判らず頭を抱える。
(それに何かにつけてすぐに俺に触れようとするし。こうやって手を繋いでても放そうとしないだろ? 何でかこっちまで緊張して力入っちゃうじゃん)
僕としてはそんな感じで仕方なく繋いでいるようだが、何故か振り払えないのだ。兄の手を。
振り払おうと考えた時は山ほどある。でも、しようとすればするほど急に抱きついたり、力が入って振り払えなかったり。とにかくどうしても無理なのだからもうこの際気にしないことにした。
それは
二人はホテルまで行き、部屋に着くと僕は以前の恋心を思い出したかのようにはしゃぐ。
年相応のはしゃぎ方だろうか。それとももっと
たまに垣間見えるソレに亮輔は泣きそうに涙を溜める。
急に後ろから亮輔に抱きつかれ
「何だよ! 急に、何でそんなに俺に引っ付きたがるの? 」僕としてはその行為が判らない事なのだ。
何故こんなに引っ付きたがるのか。ソレは
「ごめん。もう少しこのままで。このままで居させて。優夜、ごめん。本当にごめん」優夜が手首を切ってしまった償いなのか、はたまた僕自身が苦しみ嘆いていた心の痛みへの謝罪なのか。今の僕にとっては判らない。その選択肢すら浮かんで来てはいないだろう。
ただ、今回も振り払おうとすれば抱きつくのだろう。殴ろうとすれば頬を優しく、そして愛しく撫でてしまうのだろう。
だから静かにそのままこの蛸が離れるまで待つしかないのだ。
その日、蛸が離れた時、既に夕食の時間になってしまっていた。
僕は折角、思いっきり初日から遊ぼうと
夕食をモソモソと食べ、二人して部屋に戻る。
あの時の冷えて固まってしまったパスタを食べた時のように楽しい会話は何一つ無かった。
ただ、出されたものを黙々と食べる。ただそれだけ。
翌朝僕が目覚めた時隣に温もりを感じた。
急いで見ると兄貴が隣でスヤスヤと安らかな寝息をたてている。
折角寝る時はわざわざ別々のベットで寝たのにどうしてかシングルの狭いベットで二人も寝てるのだ? 何が楽しくて男と寝てんだ俺?
それでも兄を蹴落とせない。
ベットから追い出せない。
何故なのかは僕自身にも判らない。
ただ、こんな時ふと思い出すのだ。
懐かしいと。兄に触れたいと。あの唇に自分の唇を重ねたいと。
そっと兄貴の唇に自分の唇を重ねてみた。
僕本人はあくまで興味本位に。
それが僕自身の何かを騒がせ始めた。
そっとベットから降り、パジャマを着替えようとするのだが、何故か手が止まる。
(この服。何でまだあるんだ? 確か汚れて捨てちゃったはずじゃ? )そう部分的な記憶の抜け落ちた部分は埋めなくてはならない。
その埋めた箇所に自分が今着ているブルーでキャラクターがプリントされているあのパジャマを確かに捨てていたはずなのだ。
亮輔と出会ったときには既に持っていなかったはずのパジャマ。
そっと胸のパジャマを握り締め、涙が零れる。
全て僕が家出したあの日と重なる。
永遠に帰ってこなかったであろうあの日まで。
そのまま僕の意識は途切れ、そのままバタンと倒れる。