俺が兄貴と初めて会ったのは小学5年の時だった。
僕の父親は小さい時にお星様になったって言われた。
少しだけ気になる事はあっても
僕の中で一番気になるのは住民票。
絶対僕に渡してくれないし見せてもくれない。
お父さんの話なんて一回も出てきた事が無い。
それでも僕は幸せだと思った。
僕には兄弟が居ないからお母さんの愛情を独り占めに出来るのだから。
だから結婚の話を聞いた時お兄ちゃんが出来るよって嬉しそうに話すお母さんが信じられなかった。
絶対に結婚の話なんて潰してやるって思ってた。
その日は土曜日で、お母さんからの手紙と洋服が出てた。
滅多に着る事が無い
お母さんの手紙は先に待ち合わせ場所に行くことと、五千円使って待っておく事が書いてあった。
そして僕は作戦を練るべく家を出る。
顔合わせの待ち合わせ場所は
お母さんは仕事場から直接行くらしくて僕は一人で待ち合わせ場所に向かったんだ。
待ち合わせまで時間が余ってたからお
ケーキバイキングは三千円位したけど金額が高いだけあって色とりどりのケーキが並んでてどれもおいしかった。
いけないいけない。ケーキにばかりかまけてちゃ結婚の話をぶち壊す事なんて出来ない。
おいしいケーキをお皿に沢山乗せて僕は
当然おいしいケーキが山盛りのお皿を無視する事は出来ず大好きなケーキを突きながら考える。
その時ふと声を掛けられて思考を停止させられた。
「もしかして優夜君かな? もし違ってたらごめんね」優しそうで凄く繊細そうな声。見かけは少し背が高くて髪の毛は短い。それでいて
「どちら様? 優夜って誰の事言ってるの? 」知らない人から声掛けられても知らん振りを通してきたから今回だけ特別って訳には行かない。当然しらを切るつもりだった。
「間違ってたのかな? 知り合いの子によく似てたから、つい声掛けちゃって。ごめんね」それだけ言うとそのお兄ちゃんは隣のテーブルに腰掛けた。
そこで、吃驚してしまう事になる。
だってさっきのお兄ちゃんの隣には、結婚相手がにっこりしながら笑ってるんだもん。
お母さんの結婚相手は優しそうでおっとりしてて、ひとつの事を聞くために一分位掛かっちゃいそうな中年?のお父さん。
「お父さん。違うって。まだ若いのにもうボケてきたの? 」なんて事を笑いながら結婚相手に話してるし。
って事はさっきのお兄ちゃんが結婚相手の子供で、僕のお兄ちゃんになるかもしれない人って事?
「そんな事無いと思うけどな。ね、優夜君」結婚相手が僕の視線を感じ取ってお兄ちゃんから僕に視線を流しながら話し掛けてくる。
僕はそのまま自分のテーブルに慌てて視線を戻すと後ろでまた話し声が聞こえてきた。
「え? 何処見て話してるの? もしかして幻覚ってやつ? 本当に仕事ばかりしてボケてきたんじゃないの? 俺の名前判る? 」
「全く。失礼だな。
そんな会話が後ろで繰り広げられながら僕は静かにケーキをフォークで
いきなり名前を呼ばれて緊張していたがやっとでその緊張が解れてきた頃亮輔兄ちゃんがトイレに席を立った。
僕は空になったお皿を持って、新たな獲物を求める為に席を立つ。
「優夜君、さっきは息子がごめんね。名字だけでも言ってれば優夜君も気づけたのにね」
いきなり声を掛けられ足を止めて声のした方へ顔を向ける。
「こちらこそごめんなさい。いきなりだったから失礼な態度取っちゃって」それだけ言うと一礼しておかわりのケーキという下なめずりしそうな獲物を取りに行く。
ケーキを取り終わって席に戻ったはいいものの、トイレに向かって引き返す事になるのだった。
トイレを済ませると手洗い場に行き手を洗いながら改めて考えを巡らせる。
結局、今の状態って作戦を練れる状況じゃ無い訳で、ココを出ない事には、はっきり言ってしまうと、結婚相手とその息子が邪魔って事で考える余裕が
そこまで決めてしまうと僕は獲物の
「あれ? また会ったね」この優しそうで繊細な声。
亮輔兄ちゃんだ。
「さっきは失礼な事言ってごめんなさい。突然だったし、考え事してる時だったからつい」向き直り頭を下げながら謝ると亮輔兄ちゃんはニコニコしていた。
そういえば、ドリンクバー付きのファミレスが通ってきた道にあったな。
どっちかって言えば僕としては滅多に食べれないケーキを一杯食べたいんだけど、そんな事言ってても
この際仕方ないだろうと諦める事にする。
このおいしいケーキバイキングを脱出しなければ顔合わせぶち壊し大作戦を決行する事はおろか、考える事すら出来ないんだから。
自分の中で固い決意を固めると、自分の席に戻りお皿に注いでいたケーキを瞬く間に胃袋と言う名の別腹に消し去る。
口一杯ケーキを詰め込み、そのままレジへと歩き出す。
「もう出るのかい? 優夜君。顔合わせの時間までここに居たら優夜君の分くらい私が出してあげるのに」
口に詰め込んだケーキを頑張って飲み込む。
おじさんの申し出は確かに喉から手が出るほど嬉しいんだけど。
今日のお小遣いは使わなかったらそのまま僕の手元に残るからあんまり無駄遣いせずに後でゲームとか買いたいんだけど、今日。いや、今だけはどうしてもここから出なきゃ。
「すみません。僕、ちょっと用事思い出しちゃって、どうしても行かなきゃいけないんです。ごめんなさい」ペコリと頭を下げ、その場を立ち去ろうとする。
「そしたら少し待ってて貰っても構わないかな? 店員さん。この子知り合いなんだけどこっちに会計回してもらってもいいかな? 」
なんつー人だ。
無理でしょ? そんなの。
なんて思ってたら……
「良かったね。優夜君。伝票くれるかな? 」なんて事言い出すから
確かお母さんの話ではホテルとかいろんな所を経営してる会社の社長さんとか言ってたな。
お母さんと二人でも十分生活できる給料は貰ってるらしいけど、お母さんは僕を一人にしたくないんだって。
用事があると言った手前顔合わせ始まりの時間までどれ位残ってるか見るついでに時計を見てみる。
よかった。後三時間はゆっくり残ってる。
早く出てきて正解だったな。そんな事を思いつつ、おじさんが言ってた事本当かな?
「本当にいいんですか? 」少し
「いいんだよ。子供は素直に甘えてなさい。それと、戻ってきたくなったら戻っておいで。店員さんには伝えておくから」自分の子供を見る様な優しい
素直に甘えろとまで言われたらさすがにおじさんの気持ちを
「ありがとうございます」頭を思い切り下げながらお礼を言うとおじさんは心底から嬉しそうに笑って行ってらっしゃいとでも言う様に手をひらひらと振る。
もう一回頭を下げ、ケーキバイキングに後ろ髪を惹かれる思いで、ドリンクバー付きのファミレスへと足を向けた。