※この作品はR-18です。

東京キングダムでイき抜く魔族さん   作:ヤトラ

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●本日の予定
・とある人口島の密輸品略奪

●登場する原作キャラ
・アイナ=ウィンチェスター(米連HR)

今回は対魔忍二次小説「金瞳の二丁拳銃 アイナ」の作者「我楽娯兵」様とのコラボ小説です!
メッセージで「コラボしてみたいな~」的な事を言ったら我楽娯兵様が許可してくれたんです!
初のコラボですが、貰った原案や作中の単語が飛び出るだけで大して濃ゆい内容にならず。無念(涙)

今回はエロスは全くありません。


番外:アイナ=ウィンチェスター

(どうして……どうしてこうなったんだよぉ……!)

 

 【指無し】という忌み名を与えられた男・神崎ミキ―――本名は田中―――は、全身から湧き上がる恐怖と嗚咽を必死に押し隠していた。

 数々の仕事の失敗により上司からの信頼を失っていた彼は【荷物】の夜間中の見張りという、最低限の仕事を言い渡され、この場に訪れたはずだ。

 

 それがどうして、このような事になったのか。

 

 コンテナの影から顔を僅かに出せば、月明りも無い闇夜の中を武装した大男達が走り回っている。いずれも人ではなく、化物と呼ばれる存在だった。

 彼らは一同に自分を探しており、サーチライトの明かりを頼りに周囲を走り回る。彼らが神崎を探す理由は簡単だ―――彼らの存在及び所業を見てしまった自分を消す為だ。

 見つかれば先程のような火器で蜂の巣になるのは確実。それだけは嫌だと、彼らに見つからないように逃げ隠れ続ける。それが神崎の最低限の抵抗だった。

 男達の怒号とサーチライトの照明が飛び交う中、男は焦燥感と微かな希望を胸に抱きながら、出来うる限り音を消して歩き出す。

 

 此処が資材置場で良かった。迷路のように入り組んだ地形は逃げ回るのに打ってつけだ。しかも地形と出入口はほぼ把握している。

 しかし深夜なのが最悪だ。ペンライト1つ点けようものなら見つかり、しかし灯り無くして安全に逃げられない。

 それでも神崎は逃げ続ける。逃げ切ってやる。生き延びてやる。その想いだけで恐怖を打ち消し、歩を進めていた。

 

 ―――ドガッ!

 

「あいだっ」「ぐあっ!?」

 

 何かとてつもなく重い物に躓き、前のめりに倒れ込む神崎。しかし咄嗟に受け身を取り、身の安全の為に地へ伏せたまま周囲を確認する―――誰も居ない。

 続いて何に躓いたのかを、闇夜に慣れた眼で確認する―――闇に紛れるような黒い服の少年が、痛そうに鼻面を両手で抑えていた。

 

「鼻思いっきり打ったぁ……」

 

 少年は痛そうにしている。蹴とばしたのはこの子だったようだ―――だが神崎は咄嗟に飛びかかり、その子の口を両腕で押さえつけた。

 

(大人しくしろガキっ!)

 

 オーク達に見つからない為にも、この子の口と鼻を腕で押さえつけ、呼吸困難で静かに殺す……それが神崎の取った選択だった。

 神崎にとっては最善の行動だろう。口と鼻を塞げば必然的に音は出ず、生きる為に必要な酸素の供給を止めて殺す事ができる。

 

 

 

 ―――だから神崎は気づかない。

 

 

 

 

 ―――神崎の背後から、人間ほどもある巨大な触手が幾本も伸びている事を。

 

 

 

 

―――

 

 シマバラと呼ばれる人口島がある。

 

 瀬戸内海に建てられたこの島は、違法拡張が相次ぎ瀬戸内海をほぼ覆い隠す程の大きな島と化している。

 違法拡張が繰り返されているにも関わらず表向きは普通の街である。だが夜な夜な行われる違法行為の横行故に、各地に点在する違法都市と大差はない。

 しかも広島ヤクザのお膝元である為、表立って犯罪などは行われないが、秘密裏に密輸や人身売買などが横行している。

 

 しかし各地にはシマバラを上回る裏の世界が広がっている。だからこそ、比較的穏やかなこの島は、普通の街として機能しているのかもしれない。

 「臭い物には蓋をしろ」……見て見ぬ振りをして関わろうとしなければ、追いやられた弱者はシマバラという人口島で平和を謳歌できるのだ。

 

矢鳴(やなり)ぃ、おどれ(お前)神崎みぃひんかったか?」

 

「いえ、見ていませんが……」

 

 禿頭に黒竜の刺青が彫られた厳つい大男・木朽(きくち)に問い掛けられた青年・矢鳴は平然と応える。

 病院で刺青の大男が給食調理員に詰めかけるなど奇妙な光景だろうが、係員も看護婦も病院も、誰も彼もが2人の存在など気にも止めない……気にする必要もない。

 我関せずを貫く周囲を無視するように、木朽はサングラス越しに眉間を歪めて舌打ちする。

 

「神崎がどうかしたんですか?」

 

「あのとーすけ(マヌケ)が一昨日から姿を見せんでのぉ……おどれ(お前)にも話しておくか」

 

 そう言って木朽は顎で「こっちへ来い」と矢鳴を誘い、ズカズカと歩き出す。

 矢鳴はその後を追い、屋外にある喫煙所に辿り着いた。人払いを済ましたのか人は折らず、寒波の風が吹き抜ける。

 

「……ここんとこ『会社』の荷物がちょくちょくたわん(届かん)っつー話は聞いとるか?」

 

「……俺も『会社』から不備があると言われました」

 

 煙草の煙を吐きながら木朽は忌々し気に眉を歪め、矢鳴は怒りの矛先が自身に向かないかと冷や汗を浮かべる。

 

 2人の言う『会社』とは、表向きは不動産会社を謳う密輸組織だ。広島ヤクザのシマである為に表立っては行動しない比較的(・・・)穏やかな仕事場である。

 木朽は『会社』の中では発言力のある下っ端で、矢鳴は『会社』の運び屋にして弾き屋……偽名と、殺しの経験を持った悪人だ。

 

とーから(前から)、荷物をがめる(盗む)しごんぼう(やんちゃ坊主)はおったがのぉ、さえん(使えない)奴ごとないよーにする(紛失する)っちゅうんはみょうちくりん(奇妙)じゃ。『会社』もぶち(とても)お怒りじゃ」

 

「シマを荒らす余所者がいるってことですか?」

 

「そういうことじゃけぇ(だから)、一度しごーせにゃ(懲らしめなきゃ)ならん」

 

 その懲らしめを見せつけるかのように木朽は煙草を地に落とし、ザリザリと踏みて鎮火する。

 

 木朽は失敗の「オトシマエ」として全身を刺青で真っ黒に染められた。それ以来は一度たりとも失敗をせず、他者の失敗も許さない。

 木朽の所業と偉業を間近で見た矢鳴は木朽の怒りと意気込みを肌で感じ、強い尊敬と畏怖が湧き上がる。木朽も矢鳴の眼から何かを感じたのか、ニィっと強気に笑う。

 

 しかしその笑みも直に怖い顔に変貌し、矢鳴を見下す。

 

「まずはおどれ(お前)の不備から追いかけるけぇ、やいとー(お灸)すえたる。おどれ(お前)けー(来い)

 

「……俺もですか?」

 

じゃけん(だから)そう言っとろぉが! わりゅーすりゃぁ(ことによると)単なるおどれ(お前)の失態だけかも知れんけぇ、自分の目で確かめぇや」

 

 要するに、『荷物』の紛失が一番近く見つかったのが矢鳴の仕事であり、矢鳴のミスだけで済めば彼にオトシマエ(責任)を取らせる。

 失敗を許さない木朽のドスの効いた声に矢鳴は身を震わせる。オトシマエの恐怖もそうだが、強面の木朽のドアップはそれ以上に怖い。

 

 「要件はそれで終わりだ」とばかりに木朽は喫煙所を離れ、矢鳴もその後に続く。

 ドアを潜ると立ち往生していた木朽の大きな背にぶつかり、矢鳴は何事かと思って顔を覗かせる。

 

 そこに立っていたのは銀髪の女性だった。左目を黒の眼帯で隠し、グラマラスな体を紫のボディコンと黒のパンスト、ぼろのモッズコートで包み込んでいる。

 男が見れば鼻の下を伸ばすような美人さんだが、彼女の狼のような鋭い目つき、そして裏の人間が持つ経験則に基づいた「カタギでない気配」に反応する。

 

「……煙草を吸いたいんだが、通してくれるか」

 

 女は人差し指と中指で挟んでいた煙草をクルクルと弄びながら、大男である木朽に遠慮なく声を掛ける。

 青の右目が木朽を見上げる。矢鳴は狼に睨まれたように硬直するも、木朽は堂々と女を見下ろし。

 

「……おう、すまんの」

 

 矢鳴の肩を掴んで女に道を譲る。女は「どうも」と一言言って何事も無かったかのようにドアを潜った。

 

 何かは解らないが、プレッシャーのような何かから解放された矢鳴はホっと息を零す……『会社』で様々な汚れ仕事を請け負った彼が慣れたはずの「それ」を吐き出すように。

 

「なんなんですか、あの女は」

 

「手ぇ出すな。噛みつかれるぞ」

 

 広島弁を潜め、標準語で矢鳴に語り掛ける木朽。戸惑う矢鳴を差し置いて、木朽は病院を出るべく歩き出す。

 木朽が「手を出すな」と言う事は、彼女も殺し屋か何かなのだろう……『見て見ぬ振り』は、この島にとって平和的な無干渉手段なのだ。

 

 

 

「……日本語(ジャパニーズ)って解らねぇなぁ」

 

 

 

―――女が喫煙所で煙草を吹かしながらそうボヤいていた事を、木朽と矢鳴は知らない。

 

 

―――

 

 矢鳴らが務める『会社』は不動産会社として引越の荷物を、様々な交通手段を用いてシマハラの各所を通じ、日本各地に送り届けている。

 矢鳴の仕事はトラックを運転し、別の中継点へ荷物を届ける事だ。そこから別のトラックに荷物を移し、さらに別の中継へと繋ぐ。いざという時の「尻尾切り」の為に。

 矢鳴の不備―――荷物の紛失が確認されたのは、『会社』から遠く離れた港町。受け取りに来た別のトラック運転手が、中継地点に置かれたはずの荷物が無いと言うのだ。

 

 幸いにも矢鳴の荷物には米連製の発信機が埋め込まれている。その発信機を頼りに、木朽と矢鳴、構成員計10名近くが車で急行する―――怪しまれないよう、バラけて移動しながら。

 

「……ちっ。米連の連中まだおったか」

 

 高速道路を移動中、矢鳴が運転するトラックの隣の席に座っている木朽が舌打ちする。

 

 自分達の前を走っていたのは米連製の装甲車だった。違法行為が跋扈しているシマバラだが、一応は治安維持という名目で米連の組織が幾つか点在している。

 

「木朽さん、まさか今回の件、米連が絡んでいたりは……」

 

きょうてい(怖い)か、矢鳴。 心配せんでも連中はワシらにねじる(ぐずる)ぐらいしかできん」

 

 当然ながら木朽らが所属する『会社』にも睨みを利かせているのだが其処は闇の世界、贈り物を渡して両者不干渉を敷いているのだが……いつ寝首を掛かれるか変わらない為、不確定要素には違いない。

 此度の件についてはまだ騒動に至ってはいないので関わってくるとは思えないが……矢鳴は微かに浮かび上がる不安を払拭し、運転に専念する。

 

 発信機が示した場所は意外にもすぐ近く……近日に『会社』経由の貨物船が停泊するコンテナターミナルだった。

 しかし矢鳴が届けた荷物はこの港で送る品ではなかったはず。行方不明になった神崎が見張りをやっていた場所でもあり、不明瞭な点が多い。

 

 コンテナターミナルの駐車場には既に木朽の子分達が募っており、武器持ちと例の薬(DMMA)持ちを待機させ、木朽と矢鳴を含めた子分数名が向かう。

 月夜に照らされている夜中とはいえ、周りは不気味なほど静かだ。普段は点灯している警備用のサーチライトや街灯もついていない。

 

「こりゃ何かあったんスかね叔父貴」

 

せせろーしぃ(うるさい)

 

 何気ない部下の言葉に叱る木朽。まぁ係の者ですら見当たらないのだ、何かあってない方がおかしいというもの。

 矢鳴も足音を立てぬ歩き方で木朽の後に続き、回転式銃(リボルバー)を握る手に力を込める。月明りを頼りに、コンテナで出来た迷路を歩く。

 

 道中に行方不明だった荷物入りのコンテナを幾つか発見しながらも、木朽らはトランシーバーを頼りに連絡を取り合って歩を進め―――それは見つかった。

 

 ―――木朽らの行く先の道のど真ん中で、倒れ伏せている神崎が見つかったのだ。

 

「神崎っ」

 

 矢鳴が小声で叫ぶ。それを木朽が手で塞ぎ、罠かもしれないとハンドサインで部下に知らせ、無線機で他の仲間に知らせる。

 程なくして、各所の細道の影に仲間達が募り、包囲網が完成。囮と確認を兼ねて下っ端の1人に神崎を確認するよう指示し、向かわせる。

 

 

 ―――下っ端が倒れ伏した神崎の顔色を伺おうとした瞬間。

 

 

 ―――ぞりゅるるるっ!

 

 

「ひ、ひぎゃ―――」

 

 神崎らしき体から蛸のような触手が何本も伸び、瞬く間に下っ端を包み込んだ。叫ぶ間も与えず、骨を潰すような嫌な音が響き渡る。

 それだけならよかったのだが、その触手は陰で見ていた木朽らを把握しているかのように四方八方へと伸びていくではないか。

 

しばけ(ぶちまわせ)ぇぇっ!」

 

 木朽は迫る触手を前に短刀(ドス)を抜いて叫ぶ。矢鳴は後方をライトで照らして回転式銃(リボルバー)を構え、残る部下達は次々と拳銃を抜く。

 触手はまるで蛇のように鎌首を擡げて木朽らを威嚇し、別の場所の部下達は触手相手に奮闘している。その間にも神崎らしき死体は不気味に痙攣していた。

 

 やがて人間の姿をしたソレは膨れ上がり、紫色に染まる。その姿は正しく蛸……10mにもなろう巨大な怪物だった。

 

「魔族っ!」

 

 複数の部下のライトに照らされた化物を見上げて矢鳴は叫ぶ。

 

「いまだぁっ!」

 

「一斉にかかれぇっ!」

 

 その叫びを起爆剤にしたかのように、木朽らの包囲網よりも広く大勢の包囲網を敷く存在が叫び、ライトが周囲の人々を照らす。

 後方を警戒していた部下達が目撃したのは、武装したオークだった。いずれも筋骨隆々の大男で、ライフル銃やプロテクター、中にはタワーシールドを装備している。

 ドスの利いた声で喚く木朽らを他所に、オーク達は警官が使うようなタワーシールドを盾に歩みを進め、ライフル銃を撃つ。

 

「んだらぁっ! こーへぇ(生意気)なぁっ!」

 

 木朽はそう叫んで首元にDMMA(魔転生麻薬)を注入、瞬く間に皮膚が硬質化してオークらが放つライフル弾を弾き飛ばす。

 木朽を盾に矢鳴も同じ薬を首筋に注入するも、アチコチから仲間達の叫びや断末魔が聞えてくる事に焦りを覚える。

 

 中心には蛸の化物、それを包囲するように囲んでいた木朽らを武装したオーク達が取り囲み、じりじりと詰めていく。明らかに劣勢だった。

 

「んだらぁっ! 舐めんじゃねぇぇっ!」

 

 怯える矢鳴に対して木朽は叱咤し、己の防御力を盾にオークの弾幕を突き進む。せめて背後の部下と共に逃げようと彼も必死のようだった。

 

「ボ、ボス、こいつマジで硬ぇですぜ!」

 

 鬼の形相で迫りくる木朽を前にタジタジのオーク達。盾とライフル銃2丁の三人編成では木朽を止める事は出来ないようだ。

 これを好機と捕らえた木朽は両腕を眼前に添えてオーク達に向けて突撃していく。まずはライフルごと腕をへし折ってやろうとするが……。

 

『どれどれ……っと!』

 

「うわ、わぁぁぁっ!」

 

 グチャグチャと水音が混ざった不気味な声が響き、ぞろぞろと太い触手が後方から伸びていき、矢鳴らを無視して木朽に殺到する。

 地を這う極太の触手に怯える矢鳴だが、先程の下っ端のように木朽が触手に巻き取られるのを見て悪寒を覚え……ミシミシと嫌な音が響く。

 

『本当だ、硬いですねぇ』

 

 困ったような声で言う化物……オスカー=ライマキーだが、木朽を巻き取っているであろう触手の束から破砕音が響き続ける。

 

 岩のように硬質化した木朽をここまで締め付けるとは。元人間とはいえDMMA(魔転生麻薬)を使用した彼が成す術も無いとは。

 裏の仕事をしてきた彼は何度も魔族という存在に会った事があるが、こんな化物がシマバラに潜んでいるとは思わず、震えが止まらなかった。

 

『まぁ、鼠さんは貴方達で最後みたいですし、コイツ以外を黙らせればいい話ですよね』

 

 いつしか水音混ざりの声が背後から聞こえて来た。矢鳴は咄嗟に後ろを振り向けば、オスカーが此方に向けて迫ってくるのが解る。

 その背後ではオーク達が死体をかき集めているのだが、それどころではない矢鳴にとってどうでもいい事だ。

 矢鳴に怯えた下っ端2名が駆け付け、触手の包囲網から逃げようと身を寄せ合う。オスカーはそれを楽しんでいる節ですらあった。

 

 触手が矢鳴に襲い掛かり――――。

 

 

 

 ―――数発の発砲音が周囲を揺るがした。

 

 

 

『あいっだぁぁぁっ!』

 

 目と目の間を撃たれ、数発の穴からドロドロと体液が溢れ出る。そこを触手で抑え、痛そうに悶え始るオスカー。あまりの痛みに木朽を放り投げたほどだ。

 バカでかい発砲音とオスカーの甲高い叫びにオーク達が驚き、慌てて盾持ちを中心に身を固め、ライトで発砲元を探す。

 

 ライトがコンテナの上へと移り、人影が照らされる。

 

 硝煙を上げるシリンダーが内蔵された自動式拳銃、銀髪の髪、グラマラスな肢体、そして鷹のように鋭い隻眼。

 

 思わず見上げた矢鳴は、その存在を偶然にも知っていた。病院ですれ違った場違いな女だ。

 

『銀髪に隻眼―――【二丁拳銃(トゥーハンド)】アイナ=ウィンチェスタァァァ!!』

 

 ぞりゅんと音を立て、撃たれた眉間から人間の上半身が生えた。短い黒髪をした少年は怒りを露わに叫び、触手を何本も伸ばす。

 散弾のように勢いよく伸びるそれを前にアイナは軽く身を屈めて跳躍、コンテナから飛び降りながら懐の拳銃を握り、二丁片手持ちで発砲する。

 落下する彼女を狙っていた触手が次々に弾丸の餌食となって破裂し、片手の拳銃を着地点に近いオークに向けて撃つ。

 

「……おい、木朽さんを、早く!」

 

「お、おう! 今助けますぜ叔父貴!」

 

 この隙にと気絶している木朽を引きずり、一刻も早くここから逃げ出そうとする矢鳴達。

 

 オーク達は肩や足を撃たれて呻き、それを踏み台にアイナが着地。彼女の全体重を高所から背中で受けたオークは押しつぶされ、アイナはバク転を披露する。

 突然の落下に戸惑うオークを盾にアイナが発砲、プロテクターに守られていない膝や肘を撃ち抜き、更にオスカーの上半身に向けて撃つ。

 

『いっつもいっつもちょっかい掛けてきましたが、今度こそ捕まえますよ!』

 

「こっちも、テメェみてぇなタコ坊とはおさらばしたいね」

 

 弾丸が命中し穴が開く頬や首だが徐々に肉が塞がっていく。そして摂取した弾丸を口から吐き出しながら、オスカーは忌々し気に銃を向けるアイナを見る。

 

 オスカー達「イ・グー」とアイナ=ウィンチェスターとは初見ではない。

 

 全ての始まりは、ノマドよりシマバラに流通している密輸品を略奪するよう命令された時からだ。

 オークボと奴隷達に組織を任せ、東京キングダムから遠く離れたシマバラに潜入、シマバラの各所にばら撒かれたコンテナをかき集めて来た。

 そんなイ・グーの存在に『会社』が気づかなかったのは、実はノマド側に寝返った『会社』の人間の手によるものだ。オスカーの慎重な性格も合わさり、略奪は上手く行っていた。

 

 その度に邪魔して来たのが、的確にオスカーの目やオークの関節を射抜くガンウーマン、アイナである。

 

 米連の回し者かと思って追い払うか捕まえようとしたが、彼女はオスカーの触手やオークの包囲網から抜け出し、置き土産に弾丸を放つ程度だ。

 どういう目的かは解らないし略奪の現場全てに彼女が居たわけではないが、コソコソと夜中を廻るイ・グーにとってアイナは目の上のタンコブも当然だった。

 

 アイナがイ・グーに絡むのには理由があるのだろうが、本人は関わり合う事を拒んでいるらしく、嫌そうな顔で発砲し続けている。

 良質な弾丸と優れた弾道予測はオスカーの数多の触手を的確に撃ち抜き、その度に破裂していく。再生していくとはいえ百発百中の弾丸のダメージは無視できず、触手の動きが鈍くなっていく。

 だがイ・グーに有利なのは変わらない。オスカーとオーク達は逃げ回るアイナを追いかけていく内に海岸側へと追い込んでいく。

 

『追い詰めましたよぉ……この後に我々の上司が乗った船が来ます。応援が来るとしても』

 

「いや―――逆だよ」

 

 追い詰めた事でイ・グーの面々が余裕そうにしているが、アイナは表情を変えぬまま拳銃を天に向けて発砲。

 

 それを合図に広範囲を眩く照らし、唐突のフラッシュに悶えるオスカーとオーク達に向けて幾人もの人影が駆け付けてくる―――対魔戦最新鋭装備を備えた米連の特殊部隊兵士であった。

 いつの間にか周囲のコンテナの上に置かれたサーチライトで照らされた魔族を取り囲み、オスカーを中心に容赦ない一斉射撃を放つ。

 

「ぼ、ボスぅっ! 米連だぁっ!」

 

『解ってます!』

 

 そんな米連の一斉射撃を防ぐのは何名かのオークが持つ盾と、オスカーの太い触手。肉厚なそれは米連の射撃を防ぐには十分だ。

 しかし米連側も侮ってはいない。ロケットランチャーや機関銃といった火力に優れた武装を次々と投じ、オスカーを集中砲火、動きを封じる。

 防御に回るしかないイ・グーを他所に、ロケットと銃弾の雨を潜り抜けながら拳銃を発砲し、オスカーの触手の目を的確に潰す。

 

『このタイミングで米連が来たって事は、まさか―――!』

 

 激痛にのたうち回りながらも、オスカーは冷静に最悪の事態を想定する。

 

 

 

―――

 

 イ・グーが米連の集中砲火を受けている頃。コンテナターミナルから離れた沖合では。

 

「目標、撃沈しました」

 

「ご苦労」

 

 イーグル&サンクチュアリ社……米連の新設警備会社であり、本来はタカマガハラの治安警備の全権を担う会社のロゴマークが刻まれた戦艦。

 その甲板に立つ二名の軍人―――恐らくは艦長と指揮官だろう―――が、炎と煙を上げる貨物船達の末路を見送っている。全て艦砲射撃で鎮めた物だ。

 

「しかし何故、今更になってシマバラを?」

 

「このシマバラとフラニティが繋がっている事は調べがついていた。そこへノマドがオメオメと食いついてきた……後は解るな」

 

 フラニティ―――イーグル&サンクチュアリ社が目の仇にしている、自警団を自称するタカマガハラの違法武装集団の名称だ。

 そのフラニティに武器弾薬類を密輸していたのがシマバラの『会社』であり、そこを襲撃する切欠としてノマドを誘い込んだのがE&S社だった。

 

 餌を仕込んだ罠(シマバラ)ごと(ノマド)を捕らえる為に。

 

 此度のノマドの襲撃を理由にシマバラを一斉捜査、米連の組織力を見せると同時に、米連側に有利になるようことを進める。

 その為にはノマド傘下の組織が『会社』の荷物を一通り略奪させる必要があった為、傭兵のアイナ=ウィンチェスターにちょっかいを掛けさせた。

 

 その成果もあって、コンテナターミナルには証拠の密輸品が集中し、ノマド社の貨物船がノコノコとやってきた。

 魔族の魔の手が伸びたことで、より米連の息がシマバラ全体に広がることだろう。フラニティの密輸も阻止できて一石三鳥だ。

 

 

 後はアイナの言う「蛸の化物」を捕らえ、東京キングダム襲撃の足掛かりにできれば万々歳だ。

 

 

 

―――

 

 水平線に浮かぶ火柱と煙を眺めながら、全身にロケット弾や機関銃の弾を受け止めているオスカーはぼやく。

 

『うーむ……こりゃアレですねぇ……』

 

 頭を掻く仕草をしたかと思えば、触手がオーク達を取り囲み、そのまま掴み上げる。

 

「ボ、ボス何するんでぇっ!?」

 

 ボスを信頼しているとはいえ、分厚い触手が自分達を纏めて捕らえるとなれば不安になるのも仕方がない。

 狼狽するオークを他所にその辺に積み上げていたコンテナを引き抜き、蓋を無理やり開けてからオークを其処に詰め込む。

 

『素直にトンズラ!』

 

「逃げるぞ! 艦隊に通信!」

 

 密輸品のコンテナを持ち逃げ。オスカーは高々とコンテナを掲げ、そのまま海に飛び込んだではないか。

 大きな水柱を上げ、コンテナターミナルに雨が降り注ぐ。海面を泳ぐオスカーにサーチライトを上げ、追撃のロケット弾を放ちつつ戦艦に連絡。

 オスカーは攻撃を受けつつ、コンテナに空いた穴を触手で塞ぎ、そのまま水中に潜っていく。

 

「全く……やっと終わったか」

 

 水中へと逃げていったオスカーを見送ったアイナは張り詰めていた緊張を解し、両手に持っていた銃をホルスターにしまい込む。

 周囲は相変わらず騒がしい。オスカーは艦隊に任せ、特殊部隊の連中は密輸コンテナと『会社』の下っ端の確保に奔走している。

 E&S社への連絡は既に部下が済ましている為、アイナは迎えの船が来るまで暇を持て余す事になる。タバコに火をつけ、適当にブラつく。

 

 この後の米連は、密輸と魔族の襲撃を理由にE&S社の手の物を送り付け、『会社』を始めとしたシマバラのテリトリーを侵略していくことだろう。

 E&S社が目の敵にしている「フラニティ」との繋がりを暴く事が目当てだが、米連は強欲にシマバラの利益を喰らうつもりでる。

 まぁタカマガハラに帰還するアイナには関係のない話だが。

 

 水平線を見れば轟音と共に水柱が何度も上がる。恐らくは戦艦が蛸の化物(オスカー)を相手にしている頃だろう。

 それでもアイナは思う。あの戦艦一隻程度では、無尽蔵ともいえる再生力を殺しきる事は出来ないと。その癖に逃げ足は早く、諦めが悪い。

 

「……あんな変な化物は、もうごめんだ」

 

 不満を煙草の煙ごと吐き出す。早くタカマガハラに戻りたいと思える程、あのトンチンカンな連中との追いかけっこは面倒だった。

 

 

 

 【金瞳の二丁拳銃】アイナ=ウィンチェスターと【ノマドの化蛸】オスカー=ライマキー。この2名の再会は、この後一切なかった。

 

 

 

 ―完―

 




●本日の成果
・密輸品(火器弾薬類)
・イングリッド様の叱咤

 オスカーが死にそうな思いをして、無事に生還する事が出来ました。失敗したけど。

 一話の短編にしようとして詰め込んだ結果がこれだよ……。
 貰った原案は非常に濃かったのでそれを活かしたかったんですが、ダラダラと長引きそうだったのでこんな形で投稿させてもらいました。

 我楽娯兵様ごめんなさい、そしてありがとうございました!

 我楽娯兵様のハードボイルドな対魔忍小説「金瞳の二丁拳銃 アイナ」も是非読んでみてください!(露骨な宣伝)

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