1
「貴方の未来はまだ決まっておりません。天命と言う物は自らが切り開く物ですが、若い芽は摘まれます。何でも一人で出来るからこそ、他者の弱味を掴みなさい。それは貴方の大切な者を守る力と成るでしょう。私や同門の者を利用しなさい。多くの人と関わり、経験を詰んで更に成長して下さい。貴方の名がいつの日か天下に響き渡る事を楽しみにしています」
気高く優秀な者には自ずと力を発揮する機会がやって来る。優秀な者に性別は関係無いが、特に女性に有力者が多いのだから、名士、名族は優遇される。それは差別では無い。
「先生、有り難うございました」
盧植から修了認定された一刀は故郷に帰って来た。早速、囲っていた女達に顔を出しに行こうとした一刀だが、母に引き留められた。
「先ずは荀家に挨拶へ行って来なさい」
母は一刀の女遊びを知っている。子が出来たなら嫡子、庶子と区別せず孫として迎える心の広さも持っている。それでも荀家とは婚姻の話を進めていた。
「荀家ですか」
法と秩序を重んじ、論理的な思考と判断力を持つ母にそう言われたのだ。荀家に向かった一刀は
視線を下げると白い背中が揺れている。
金髪の貧乳少女───に一見見えるが、立派な成人女性である桂花は久々に再会した一刀に蹂躙されていた。
「んっ……くふっ……」
胸のボリュームこそ無いが、武骨な男と違って張りと弾力ある身体は女性にしか有り得ない快感を与えてくれる。
最初は「駄目っ! 明日は早いのよ」と拒んでいたが、挿入してしまえば一刀のペースで進められる。桂花は無意識の内に一刀を求め、いやらしい腰使いをして蜜壷を締め付けた。
「んっ、くぅぅん……くひぃっ!」
部屋を伺う気配が外からする。家人に聴かれている事が桂花の羞恥心と快感を高める。
一刀に背後から突かれて歓喜の声を漏らしていた。そんな桂花の身体を心ゆくまで堪能する。
「あ……いい……一刀……」
可愛い喘ぎ声を聞いてる内に、じわじわと絶頂感のゲージが貯まってくるのを一刀は感じた。
健康寿命は毎日の性交からと言う。空が白む頃、ようやく二人は眠りに着いた。
「お嬢様、お嬢様」
部屋の外から声がかけられた。先に目覚めた一刀は、ぼんやりとした瞳で寝惚けていた桂花を揺り動かした。
「え、
「そろそろ御用意なさった方が宜しいかと」
顔を赤くした桂花の髪を撫で様とした一刀だが、桂花は素直じゃない。
手を払って寝台から一刀を蹴落とすと、部屋の外に居る侍女に声をかけた。
「でかしたわ!」
桂花は慌てて出仕の支度を始めた。希少なウグイスの糞で顔を洗い、完璧な着こなしで礼儀正しい荀家の息女の完成だ。
「今日から袁紹の所に出仕するのに、如月が気を利かして起こしてくれなかったら、あんたのせいで初日から遅刻したじゃない」
一刀は矛先を変える事にした。
「嫌だ嫌だと言ってもおばさんの指示には従うんだな」
「仕方ないじゃない」
漢で影響力を持つ名門袁家に出仕を求められたら荀家としても断る事が出来ない。袁家は「先導者にして根絶者、王佐の才」と幼少の頃に評価された桂花を招く事で箔を付けようとした。
見栄の為に人の人生に手出しをするなと桂花は言いたい所だが、家長である親の指示には従うのが子の勤めだった。
「そもそも、あんたが早く帰って来ないから悪いのよ」
「それは俺に桂花の代わりに出仕しろって事か」
この世界に生まれた以上は、辛い事、苦しい事を避けて、精一杯、面白おかしく生きる。一刀はそう考えていたが、桂花の言葉だと自分が働く事になってしまう。
官職に就けば望まぬ事もやらされ責任も増える。それでは社畜な負け組になってしまう。
桂花は悪戯っぽい目をして口角を吊り上げた。
「あんただって神童って言われてたじゃない」
「俺はただの凡人だよ。少しばかり他より成長が早かっただけで、年齢を重ねたら皆に追い付かれてるし」
体は子供でも頭脳は大人顔負け。それは前世の記憶というチート能力があっての事だった。知らない事を学ぶ学問は楽しいが、追究したり官吏を目指してる訳では無い。
「もっとやる気出しなさいよ! この甲斐性なし、穀潰し、淫乱、浮気性、女たらし」
「おいおい」
ある程度罵倒すると気が済んだのか桂花は出仕して行った。
× × ×
時刻は昼前。馬が止まった。
「一刀様、着きましたよ」
御者の隣に腰かけていた女性が、荷車に座る一刀に振り返り声をかけてきた。落ち着いた雰囲気の侍女で、彼女が先程、起こしに来てくれた如月だ。
「うん。昨日はありがとう。桂花も興奮してくれたよ」
「……そうですか」
昨夜、一刀は桂花との情事を部屋の外で聞き耳立てている様に如月に頼んだ。性的嗜好は人それぞれ、そして桂花の為だと如月は了承した。
山で暮らしていても魚介類を口にする機会が多い。黄河や長江と言った大型河川が流れていると船舶の航行に支障がないから、食材の買い出しに荷車を牽かせた馬車が川辺の街まで頻繁に出ている。
荀家でも買い出しに馬を出していた。
「如月、ありがとう」
便乗させてくれた如月に礼を言って荷車から降りる。
「今度はいつ御戻りですか」
一刀はゲームや小説から三国時代の知識があった。それは演義や正史の混ざった物で、後漢書や資治通鑑の類いは読んでいなかった。それでも歴史的イベントの概要は掴めた。
(黄巾の乱が始まったら遊べないしな。きっと従軍する事に成る)
世界には珍味や娯楽、美女が溢れている。戦乱が始まる前に諸国を漫遊して来る積もりだった。
「特には決めてない。桂花には愛してるって言っておいてくれ。今度は三人で楽しもうか。それとも二人で?」
赤くなる表情を引き締めて如月は釘を刺す。
「そのうち桂花様に刺されますよ」
苦い顔をする荀家の侍女に手を振って一刀は船着き場に向かう。──それでも俺はこう言う生き方しか出来ない。一刀はそう思った。
2
曹操は字を孟徳、真名を華琳と言い、人物の鑑定家として名高い
「過ぎた野望は身を滅ぼすぞ華琳。誰が聞いているか知れないのだ、言葉を慎みなさい」
父の
他人の顔色を窺う事が曹嵩の生き方であり、金品の賂以外にも、時には閨で身体を使う。それが伏魔殿と言える朝廷での処世術だった。
しかし華琳はそんな父の生き方を卑屈であると認めなかった。好きでもない相手に抱かれ抱く事により媚を売る。それは人ではなく家畜だった。
自分を貫いて何が駄目だと言うのか。自分はまだ若い。何でも努力次第で成し遂げられると信じていた。
華琳の尊敬する西楚覇王は、秦を倒し二十の王国に封建した。その時代は
「私は他人の機微を気にしてびくつく様な器じゃ無いわ。悪事を犯しても必ずしも捕まらない事が証明よ。その時だけ揉み消しが出来れば、後は逃げ切れるのが宦官の連中でしょう? デマ、捏造、偽装、粉飾、談合、改竄、隠蔽。あらゆる悪事は目的を果たす手段として許されるわ」
家族は団欒をする物であり親は子を守る者だが、父と娘は会話をしない時間の方が長かった。娘の行状に眉をひそめるだけだった父は、決定的な言葉を口にした。
「上に楯突く自分を格好良いとでも思ってるのか? お前に知識はあるかも知れないが、協調性が無い。馬鹿丸出しで我が家を滅ぼす気か。今まで何不十無く暮らして来れたと思ってるんだ。出ていけ!」
結論。戸籍上、血縁上の親娘であっても我慢の限界は存在する。
常々、発言や態度を苦々しく思っていた父と喧嘩をして家を追い出された。悪い事をすれば叱られる。親に扶養される立場で、その程度の想像力も働かなかった。殴られなかっただけ彼女は恵まれていた。
(悪いのはお父様の方よ。どうせ、しばらくしたら私の機嫌を窺って来るに違いないわ)
華琳は従姉である
しかし華琳は父を舐めていた。
「申し訳ありませんが、当家は孟徳殿を受け入れる事は出来ません」
家人は礼を失さない様に断って来た。そして、いつもは様と敬称を着けるのに今日は殿と言って来た。
「そう……それは、春蘭と秋蘭も承知しての事なのかしら」
華琳は薄々、状況に気付き始めていた。今回の父は激怒プンプンなのである。
「曹家一門を束ねる、曹
家を継ぐ母胎役は他にも居る。子廉は華琳の従妹、
「そうよね。ごめんなさい」
曹家の影響を受けていない勢力を頼る。選択肢は限られていた。
華琳の脳裡に友人である袁紹の高笑いする姿が浮かんだ。
(麗羽の所に、か……)
袁紹を訪ねれば、からかわれて屈辱を味わうだろう。それでも親類が頼れない以上は、袁紹に頭を下げるしか無かった。
× × ×
商人は利で動く。それは未来への投資として長期的な物を含めた。
「私、曹孟徳を袁本初の下に届けなさい。勿論、礼はさせるわ。そして私個人としても恩を忘れない」
商人は小娘と侮る事が無かった。見る目は商いで養っていた。それは華琳と言う人物を見極めるには十分だった。
華琳は
(親子の縁を切るのは簡単か……。それでも、私は……)
子は子であり、親を思う。
華琳達が出発して半日が経った。山道を進んでいると、木が倒れて来て道を塞いだ。
「何だ!」
驚き馬車を止めた商人達は木を退かそうと集まった。
華琳は兵法を学んだ経験から不自然な物を感じた。そして木を見て叫んだ。
「注意して! この木の切り口、自然に倒れてきた感じじゃないわ」
商人は怪訝な表情を浮かべながらも護衛の者達に警戒を命じた。
「がはらっ!」
しかし絶妙なタイミングで矢が飛んで来た。驚愕する商人達が分散する前に降り注ぐ矢は雨の様で、一網打尽となった形だ。
曹家の口封じかと言う考えが浮かんだ。しかし、すぐにその考えを否定する。
木々や茂みの隙間にてんでばらばらな姿をした襲撃者達の姿が映った。正規軍ではない。
「賊か!」
多くの者が倒れ伏していた。
率いる兵も無い。落ちていたすりこぎ棒を片手に華琳は馬に跨がると、矢を払いながら駆けた。
「一人逃げたぞ!」
「構う事はねえ。先にお宝を頂戴してずらかるぞ」
追っ手はかからなかった。先ほどから肩がずきずきと痛む。どこかでぶつけたのかと華琳が視線を向けると、矢が深々と刺さっていた。
初めての実戦は受け身なままに終了した。賊相手に逃亡と言う行動は華琳の矜持を傷付ける物では無かった。生きてこそ覇道を歩めるのだから。しかし不信感までは隠し通せなかった。
「賊共め。私が力を持ったなら、漢から必ず駆逐してやる!」
敗北と痛みを味わいながら報復を誓った。
どれぐらいの時間が過ぎたのか、馬が何処を走っているのか分からない。透き通る様に白い肌と艶やかな金髪は血と汗と埃に汚れている。
華琳は血液を失い、視界が霞んで来た。体が痛い。そして息を吐くと死を覚悟した。
3
髪が優しく鋤かれている。その感覚に心地良い物を感じながら華琳が目を覚ますと、見知らぬ青年の端正な顔があった。
見た所、何処かの宿屋であった。
「私は、
無防備な一刀の笑顔に一瞬、華琳の胸が鼓動を刻んだ。
穏やかに話しかける目の前の青年が、手当てをしてくれた恩人だと言う事を理解して華琳は丁寧に頭を下げた。
「有難うございます。私は曹孟徳。友人の所に向かう途中、賊に……」
おおよその事情が把握できた一刀は頷くと申し出た。
「それは災難でしたね。これも何かの縁です。ご友人の所までお送り致しましょう」
一見、華奢に見えるが一刀は武を嗜み、身体はそれなりに鍛えられている。
「それは助かりますが、お言葉に甘えても宜しいのでしょうか?」
首を傾げる華琳の仕草を一刀は可愛らしく感じた。歴史に名を残す曹操が美少女だと言う事も食指を刺激した。たとえ胸が貧相でも──これは物にするしかないとさえ思った。
「都での武勇伝はお聞きしております。かの曹孟徳殿の知己を得られるなら安いものです」
「誇張された噂をお聞きに成ったのでしょう」
華琳が照れる姿を見て一刀は、あわよくば御近づきになろうと言う内心を隠して喉の奥で笑う。
(私、どうしたの?)
ヤるヤらない以前に、一刀は受け入れやすい空気を放っていた。
そして華琳は浮き足立つ心に気付いた。天才だと讃えられ、一人の少女として見られる事は無かった。
(私は漢に生涯を捧げる。だから本気の恋はしない)
そう思っていた。だからこそ、この感情の揺らぎに身を委ねてはいけない。
× × ×
傷を癒す時間も惜しい。華琳は一刀に付き添われて旅路を急いだ。その道中、記憶の共有で親睦を深めた。思い出話だ。一刀と華琳は自然な流れで真名をお互いに預け合った。
「宦官は皇帝陛下を裏から操り外戚と権力争いをしているけど、お祖父様はそう言う世界とは無縁の方よ。だから私はお祖父様を尊敬してるの」
「ああ、君の祖父は賄賂を受け取らない清廉な人柄で、大長秋にまで成られたお方と聞いている。影響力の大きさは伺っていますよ」
皇帝の寵愛と庇護を受けた
易経の『亢竜悔いあり』の言葉の通り、曹騰は孫の将来に期待し、その為に己の全てを与えてくれた。
最初は一刀も殿を着けて敬語を使っていたが、華琳がそれを拒んだ事で一刀が受け入れ、その後は打ち解けるのも早かった。
「一刀」
「何だ、華琳」
一刀に並んで馬を走らせる華琳は、雑談から本題に入った。
「貴方は私を──曹孟徳をどう見るのかしら」
「天下に並ぶ者の居ない覇王」
ゴミは100円で売ろうと誰も買いはしない。しかし曹操と言う人物は万金の価値がある。家を追い出されたとは言え、何時までもその状況に甘んじる様な人物では無い。将来、株価の大幅な反発による利益が期待出来た。
「そう……じゃあ、貴方は私に仕える気は無いかしら」
「うん。華琳を俺が囲い養う。それはそれで魅力的な提案だと思うよ」
ひくっと華琳の口角が吊り上がり、睨んで来た。
(やべぇ、目がマジだ)
その眼力は流石だと一刀は思った。
「違うわよ。分かってるんでしょう」
勿論、分かっていて一刀は焦らした。だけど限界の線引きを心得ている。
「ああ。でも、まだ時期じゃない」
「……はぁ、『時期じゃない』か」
華琳は欲しいモノは必ず手に入れる。物であっても、人であっても同じだ。少なくとも一刀は無能では無い。だから時期を窺う。
「それはそうと、袁紹の所に着いたらどうするんだ。食客として身を寄せるのか」
「ええ、そうよ。麗羽の性格は理解してるわ。多少成長したとしても、操りやすい相手である事は変わり無いでしょう」
一刀に対して華琳は微笑みを向けた。
「念の為に言っておくが、袁家は朝廷で影響力を持つ。袁紹本人はどうだか知らないが、周りの者を侮るなよ。
その心配は杞憂だと言う様に華琳は目を細めた。そして天を仰いだ。
「ふふっ。それはそれで楽しめると思わない?」
マリア様のお庭ではないが、澄みきった青空が広がっている。
「君は強いな」
華琳はこれからの生涯の岐路をかけた闘争を楽しもうとしていた。
4
「一刀、世話に成ったわね。また会いましょう」
「貸しは身体で払ってくれても良いぞ」
一刀の返しに華琳は恥じらいを覚えて視線を逸らす。
「……馬鹿」
一刀は甘い空気に浸る事も無く背中を向けた。
「じゃあな」
「ええ」
袁紹の下に華琳を送り届けると、別れを惜しみながら二人はそれぞれの道を歩み始めた。
一刀は劉備、曹操と三国時代の英傑の内、二人に出会った。残る一人である孫堅を訪ねて見る事にした。
(江東の虎って言う位だから東に向かえば良いか)
この世界の孫堅は野心家で、
残った一族は袁術の守役である
(孫堅って反董卓連合時には生きてたはずだが、もう死んでるって何それ。俺の知ってる三國志とは時系列が前後して入り乱れてるな。知識も当てに出来ないか。面倒臭い……)
孫堅には会えないが三人の娘が残っており、その内、孫策と孫権は政に加わって居ると聞いた。それよりも一刀にとって重要なのは容姿だった。
親譲りの褐色の肌は磨きあげられた様に美しく、桃色の髪は手入れされている。背が高く端正な顔で、出るところもきっちりと出ている等々……。
(オーケー。聞く限り外れは無い。楽しみだ)
そう思っていた。
一刀が対峙するのは孫策。孫家の長女その人で、ギロっとした目付きで睨み付けられていた。
長江を南に渡り、たまたまほんの偶然、夕飯を食べようと入った店に孫策が居て、動物的直感で確保された。
「んっ」
杯をビシッと一刀に突き付けて来る。
「……はい」
一刀は孫策の杯に酒を注ぐ。
飲み干すと孫策は口を開いた。
「貴方、ただ者じゃ無いわね。うちを探りに来た袁術の間者とか?」
ハートをハートキャッチする前に、自分が不審者として扱われている事は一刀にも伝わった。
袁術の守役である張勲は袁術の信頼が厚い。虎の威を借る狐の様で、政を乱す君側の奸と言った噂を聞いている。張勲は孫家を体のいい小間使いとして扱っていた。
「いや、それは無い」
「そうかな? 私の勘って結構、当たるのよ。貴方は『普通』では無い」
孫策は袁家を警戒し付け入る隙を見せず、動物的直感でこれまで危機を乗り越えて来た。
最初に警戒を解かないと勘違いされたままだ。人の印象など見る者の捉え方一つで簡単に変わる。一刀は口説き落とす事を諦めていない。ピンチはチャンスに変えられる物だと認識している。
「最初に断っておきたい。俺は孫家に害意は無い。うちの家はそれなりに影響力もあるが、何処かの家に味方する気も無い。だから何事も無ければのんべんだらりと日常を過ごしたいと思っている」
「……なんだか詰まんないわ。もっと楽しい話題は無いの?」
孫策は威圧感を収めるとだらーっとだらしなく肘を着いて、箸を皿のつまみに走らせるとそう言った。
一刀は思わず、どしゃっと机に倒れ伏して一気に脱力した。
「はいはい、分かってましたよ」
酔っぱらい相手の会話は破綻していた。
「何よー、こんな美女相手にお酒が飲めるんだから嬉しそうな顔しなさいよ。もしかして
「……絶対無い。何処でそんな知識を手に入れるんだよ」
「まぁ、冗談は置いておくとして、それじゃ、うちに来る? 腕が立ちそうだし給金は弾むわよ」
ふふんと笑う孫策は酒が入りほんのりと赤くなった肌が艶やかだった。
「……唐突過ぎだろ」
孫策は犬を拾うように簡単に言って来た。その事に対して一刀は先の読めないワクワクとした期待感を感じた。中原の女とは違う江東の女を味わえるかもしれない高揚感もあった。
「おじさん、お代置いておくわね」
「毎度、ありがとうございます」
人の価値は生まれの血筋と外観でほとんど決まる。美人はそれだけで得をする。要するに割引のおまけをして貰っている様だ。
「行こっか」
「うっす」
一刀を促して席を立つと、肩を組まれながら孫策の屋敷に足を向けた。孫策の艶々とした髪が一刀の頬をくすぐる。
(軽いなぁ。乗りが軽過ぎる。俺が暗殺者だったらどうするんだ?)
本質的に一刀は己の欲望に忠実だった。そして欲望を満たす為の過程として恋愛を楽しんでいた。そして今は───孫策の熟れた果実が当たっていたが、一刀は気にしてない振りをして柔らかな感触が堪能出来る至福の時間を選択した。
× × ×
孫策の母、孫堅は長沙太守に任命され
「結局は死んじゃったけどね」
一刀は話を聞いていて特に異論、反論は感じなかった。
資源が無尽蔵にあるわけではない以上、平等に分け与えるのは不可能だ。そこで商売が成り立ち、成功者と格差が生まれる。資本主義の原理は下手をすると、大きな悲劇を招く可能性すらあるが社会主義よりはましだと言えた。
この時代、市街化調整区域も無いのでニュータウンも作り放題だ。土地移転や建築に反対する者は不可解な死を迎えるが、禁断の真実が暴かれる事はない。後腐れが無かった。
「それも解決手段の一つだろ。時世を読めないのが悪い」
「そうね」
「それに美人の頼みを断る奴は馬鹿だよ」
何度も告白されて訓練された美人は男のあしらい方を心得ている。百戦錬磨の悪い男にも引っかからない。
だけど
孫策は頬を緩めた。
優しい男は嫌いでは無い。政に携わって居ると、優しくしてくれる男と出会う機会も減ってしまう。
(ああ、でも見合いの申し込みは増えたかな)
力を求めてすり寄って来る者の下心は見え見えで、却って忌避したくなる。人間不信から世界との隔絶を選択する等と言った事は立場上出来ない。家族の前では明るく演じていたが、それは上に立つ者の孤独であり、日々の積み重ねで救いは与えられない。
だから純粋に女として求められる事は悪くない。
そして青年の距離感は絶妙だった。
自分は安全パイだと思わせフラグを立てる。それが一刀の常套手段だった。
一刀と瞳が合った。
「うん?」
微笑みを向けられて孫策は鼓動が早くなった。
夜風が酔った身体を醒ます様に、ひんやり冷たく心地いい。
「お帰りなさいませ」
屋敷に戻った孫策は家人に酒の用意を命じた。
周の時代から珍用八物と呼ばれた牛、羊、
そして肴を摘まみながら、ちびりちびりやりながらとりとめもない事を語り合った。家族や友人と共に飲む酒とは違うシチュエーションで、その居心地は悪く無かった。
これまで孫策は重荷を背負って来た。それを成し遂げれた理念、人の持つ想いは強い。
孫家の姉妹の種は誰か分からないが母は一人。孫策は母の隠れた後、供養として母の男達を全員、殉死として送り出した。父親を名乗り、家長の地位を脅かすかも知れなかった。
「
孫策の知恵袋であり盟友の周瑜は驚いた。相手が糞外道とはまだ決まっていなかった。
「
生き方には正解がある。全ては妹達と孫家を守る為、行った正義の鉄槌だった。
そんな過去や立場からか、身近で接する男達からは何処か遠慮のある接し方をされていた。
しかし一刀は違う。
孫策の振る話題に一刀はうんうんと頷いて着いて来ている。自分の屋敷で飲む事により場の
「んー……」
こう言う時に親友が傍らに居てくれたら助言をしてくれる。そんな事を考えてうむむと唸る孫策を相手に、一刀も距離を掴みかねていた。
女心をくすぐるのはヒモ生活の第一歩だが、獣の様に勘の良い孫策を相手にする場合のリスクとリターン。計算して導き出した答え───。
(とりあえずヤってから考えよう)
じっと孫策を見詰めて視線が合った。にひっと笑いかけて一刀は行動する。
仮面も着け続ければ、いつの間にか本物に成っている。口説き落として来た経験は本物だからだ。
その夜、屋敷に孫策の獣の様な嬌声が鳴り止まず、家人は不眠に悩まされたとある。
後に一刀は『愛の光なき人生は無価値である』と言葉を残した。
5
孫策の妹、孫権が姉の元を訪れると、姉はまだ寝ていると虚ろな瞳をした家人の者に言われた。
「皆、どうしたのかしら?」
家人の態度に訝しげな物を感じる一方で、いつもと変わらない姉の怠惰な行状に呆れながら寝所を訪れた。
「なっ、なっ、な!?」
寝台の周囲には脱ぎ散らかされた衣服が散乱している。視線を向けると、姉は見知らぬ男に股がりカクカクと腰を揺さぶっていた。その姿は娼婦の様に淫靡だった。
「んひゃっ、ふぁ、一刀……って、あら
急に覚めた姉に男も間の抜けた声をあげた。
「へっ?」
孫権に気付いた孫策は起き上がると見事な裸体を晒した。
妹相手なので恥じらいを覚えないのは分かるが、一刀は苦笑を覚えた。孫権はそんな一刀を一睨みすると、着替え始めた姉から視線を逸らした。
「姉様がだらしないのは知っています。だからいつか間違いを侵すのではないかと危惧してました」
「実の妹から酷い言われ様な気がするのだけど?」
眉を寄せた孫権は振り返って怒鳴る。
「姉様は危機感が足りません! その者が敵の間諜であった場合、どうするのですか」そして一刀の方に視線を向けて続ける。「……そこのお前、姉様の戯れに付き合わせたな。もう帰って良いぞ」
「と言ってるけど
孫策の真名を呼ぶ一刀に孫権は、真名まで預けたのかと不快感を感じた。そんな妹の空気を孫策は経験から読み取った。話が拗れるとやかましい、と。
「ごめんね、一刀。また後で連絡するから」
ばつが悪そうな孫策の頬に手を添えた一刀は気にしてないと軽く接吻をした。
「女と寝る時は、俺自身が納得出来る相手を選ぶ事にしてるんだ」
「ふーん。ありがとうって言っておくべきかな?」
孫策がしなだれかかった時に一刀の鍛え上げられた身体が露になった。
一瞬、視線を奪われた孫権は羞恥心から叫んだ。
「いい加減に離れなさいっ!」
「寝所にいきなり入って来たのは君だろう。ま、服を着なくても話は聞ける……って冗談だよ。剣を抜くな」
一刀は孫策と視線を合わせて苦笑する。
× × ×
孫権はぼっちである。孫家の次女という立場から、建前が本音を隠して周りから孤立させる。
「孫権様? ちょっと苦手かな……」
「そうだよね。お堅いって言うかさ、正論でもたまにイラって来るしぃ」
姉に追い付こうと足掻く結果、努力しても自己満足に過ぎず彼女らしさを消して行く。
(腰痛ぇ……。雪蓮のやつ、タフだったし。4回以上は記憶に無いなぁ。そう言えば孫権もビッチではないだけで、本質は同じかな? 味比べをしてみたいな)
宿屋に部屋を取った一刀は、孫策からの連絡を待っていた。
「陳さん、女性のお客さんが来てまっせ」
「はぁーい」
ベストプレイスの風向きが変わった。入って来たのは孫権だった。
(姉にとっての害を排除しようとやって来たのか?)
桃色の髪は艶やかで姉に似た顔付きだが、見た目は孫策の方が女として出る所は出ていた。一刀は気軽に声をかけれる様な雰囲気ではない事を感じ取ると真面目な表情を作った。
「孫権様がこの様な宿に参られるなど、どう言った御用向きで?」
「貴方に聞きたい事がある。それと、姉様の前の口調で十分よ。今さら、取り繕う必要は無いわ」
孫権は凛とした美しさを持っている。透き通った瞳は孫権の意思の強さを感じさせた。
「そうか。で聞きたい事とは?」
「貴方は
「確かにそうだが、俺は俺で祖母の功績は関係無い。そう思ってる」
出自を気にせず自分を持っている一刀の言葉に、孫権の心が揺れた。そして姉が一刀に引かれた事に納得した。
母の孫堅は勇猛
───だけど、それは母様と姉様の背中を追っていただけ。
孫策は自分の好きな者は構い、嫌いな者は否定する。はっきりしていた。
自分に自信を持てば、自分らしく生きていける。そして世間と上手くやる。誰かを頼っても良い。同じ人間だし、それが社会に適応すると言う事だ。
(俺は穴さえあれば良いけどな)
一刀は孫権の纏う空気が変わった事を表情から読み取った。どうやって口説き落とすか考える。
「何か吹っ切れた様だな」
「別に……そんな事は……」
孫権は渋面で答えた。
「よし、飲もう!」
「えっ!?」
一刀は手っ取り早く孫権を酔わせる事にした。
だが孫権には気を使った優しさに思えた。仕方が無い。彼女はまだ若かったから。だから油断した。
× × ×
可愛い女の子の寝顔を見て、狼に成らないのはやせ我慢だ。一刀は素直に葛藤も無く動いた。
酔った孫権を寝台に寝かせて一刀は着ている物を丁寧に脱がして行く。
未来には、エメフィール、トリンプ、ワコール、ラヴィジュール、ピーチジョンと様々な下着メーカーが乱立するが、この時代にも優れた裁縫技術とメーカーが存在した。
ローライズなデザインに一刀は苦笑する。
(下着の技術は絶対にオーバーテクノロジーだよな)
完全に脱がすと桃色の茂みも丸見えになっている。
姉と同じ褐色の肌に手を伸ばす。スベスベと手入れされており、乳房も張りがある。
「んっ……」
「さーて、御開帳」
まだ誰も触れた事の無い蕾が見えた。酔って寝ていても蠱惑的な色香で誘う。流石は姉妹であると一刀は笑みを深めた。
「ああ、ありがたや。ありがたや」
客観的に見ればどんびきな行為だが、冗談混じりにそう言うと一刀は指を這わせて、くぱぁと花弁を開いた。
まだ湿り気は無いので舌で愛撫した。
「ううっ……あっ……んっ!」
高橋名人の16連射の様な指使いも可能だが、初めてには手荒すぎる。
喉の奥に何か詰まった様な吐息が喘ぎ声に変わるまで時間はかからなかった。
寝た振りでは無い。眠っていても孫権の身体は確かに反応を示す。蜜液がこんこんと沸き出して来た。
孫権は苦しそうに口をきゅっと震わせて脚を無意識の内に伸ばした。じんとした疼きが身体を襲っていた。
凝り固まった身体は
「ふぁ……ああっ、ひゃっ!」
指を出し入れするとくちゅくちゅと淫らな音を立て始めた。孫権の目尻にうっすらと涙が浮かんでいる。
強気だった少女の身体を
「んじゃ、ぼちぼち頂きますよ、っと」
一刀は自慢の息子を花弁に当てがって一気に貫いた。
「痛っ……」
貞操を奪われ流石に目を覚ました孫権だが、まだ状況が理解できていない。
「えっ、陳羣。何で私裸に……あっ!」
一刀は腰を動かせて蜜壷をかき混ぜた。裸で男と交わっている事に孫権は、羞恥しながら混乱した。しかし、じっくりと弄ばれた身体は快楽の味を覚えており蜜を溢れさせている。
「おいおい、つれないな。さっきまで一刀と呼んでくれていたじゃないか、
真名を囁かれ反応する間も無く、一刀は優しく孫権の唇を塞いだ。
「んんっ……!」
舌が蠢き口腔を蹂躙するが、それさえも快楽の刺激と成って孫権の子宮を疼かせた。
「ぷぁ……待って、どうして……私、貴方と……んっ」
「さっきは、蓮華が初めてだから我慢したけど、今度は遠慮しないぞ」
勿論、一刀の言葉は口からの出任せである。良い女をゲットした等と考えているとは、孫権に確認する術も無い。
「ええっ!?」
孫権の頭は熱を持った様で思考が纏まらない。滑りを増した蜜壷をトントンと一刀は突いて来る。快楽に流されて虚言を刷り込まれた。
6
「そろそろ旅に戻ろうかと思う」
唐突に告げられた一刀の言葉に孫策は瞬きをした。
「あ、そうなんだ。一刀はこの後、何処に行くの」
「そうだな、都に行こうかな」
好かれている事を実感しながらも、一刀は孫策に何かを求めたりはしなかった。他の男とは違う。
一刀を引き留めたかったが、それでは足りない物があると直感が告げていた。
個人的理由をどうこうする分けにはいかない。縛り付ける事は独善的で傲慢だからだ。でも好きな相手と一緒に居たいと言うのは自然な感情だった。
「最近、
「賊でも出るのか」
「ううん、そう言うのじゃなくて旅芸人の支持者らしいわ」
「ふーん」
素っ気ない一刀の感情を理解出来ない。だから間違えた答えは避ける。煩わしいと思われたく無いから。
考えても分からないが、分かる事が一つだけあった。
「……蓮華を抱いたんでしょ」
「まぁな」
孫権の纏う空気が最近、柔らかい物に成った事を感じていた。肩から無理な力が抜けていた。
消去法で答えは見つけた。時間が解決すると思っていた問題を一刀は解決したのだと。
「んーっ、でも仕方無いかな。私が好きに成った一刀なんだから」
でも一刀の手口は悪辣だった。
酔った孫権を場の雰囲気で盛り上げて絶頂させた一刀は、姉に追い付く為に自分から抱かれたと刷り込んだ。利用したのは孫権だが悪くない、大丈夫だと。
本物では無い感情を本物にする。卑怯だが上手くやれた。
「蓮華が一刀に依存する前で良かった。でもあの子は、きっと泣くかな」
「すまない」
「妹を慰めるのは姉の役割よ」
その後、一刀は孫権にも辞去する事を告げたが泣いて引き留められた。
「何か私に至らない事があったの? どんな事でも必ず治すから捨てないで!」
そうではない、毎月に手紙を送ると約束してようやく一刀は解放された。
「また逢おう」
思い立ったが吉日と言うが、一刀は簡単に別れを告げると旅立った。その行程は特に問題も無く、知り合った旅人達と楽しくやりながら到着した。
「へぇ……」
漢の都、洛陽に入った一刀は人の多さ、街の大きさに驚いた。
「流石、漢の都だな」
帝の住まう宮殿の前にある市場で珍しい食材でも手に入れようと向かった一刀だが、その日は屋台が全て撤去され、天皇陛下の一般参賀の様に人だかり出来ていた。
「何事ですか?」
「何だ、兄ちゃん知らないのか。大罪人が車裂きにされるんだ」
洛陽を襲撃しようとしていた賊徒の首魁である馬元義と言う者が刑罰を受けようとしていたのだ。
「
一刀はスプラッターシーンに興味は無い。
(れんほーって言うと国籍疑惑の反日議員が居たな。ま、そんな事より肉が食いたい)
市場の移転先を聞くと移動する事にした。
肉屋はすぐに見つかった。豚や羊が並んでいる。
「おばちゃん、牛無いの。出来たら生きてるまま一匹欲しいんだけど」
一刀は焼肉やステーキが食べたかった。肉と言えば牛だが、大陸では牛飼養頭数より豚飼養頭数の方が多い。豚が最も一般的な食材と言えた。
「うちは小売り店だから、一匹丸ごと買うなら
「そっか、ありがとう」
肉の産地で直接購入する。新鮮な牛を手土産に帰るなら寄るべきだろうが、リスクマネジメントの観点からそこは回避する事にした。
涼州が産地の一つであるのは、野生の牛や馬が存在するからだ。人の手で育てられた家畜と違い野生の獣は危険があった。
「牛で驚かせたかったけど、桂花には牛以外を買っていくか」
そこで装飾品でも贈ろうと店を探して北門に差し掛かった時だ。
「あら」
「よぉ」
袁紹と共に孝廉を受けたと手紙で知らせて来た華琳が居た。
一刀は切り替えが早い。遠くの相手より、目の前の相手に思考を集中させた。
「北部尉に成ったのか。出世が早いな」
「麗羽なんて
漢の名族の八割は、祖先が周の諸侯以来続いている高貴な血族か、高祖劉邦以来、漢を支えた功臣の直系であり、幾度かの戦乱の中で、高貴な身分から下賎な身分まで身を落とす事もあったが、それでも中原から見て地方の民とは異なる。中原の価値観から言えば、地方は蛮夷な格下の劣等民族でしかなかった。そして共同体の外にある劣等民族には塩対応が行われる。
その様に人の血筋や生まれで生涯が決まる。事実の再確認で華琳は少しばかり落ち込んだが、与えられた職務は全うし、更なる高みを目指す積もりだった。
「心は折れていない。それでこそ曹孟徳だよ」
一刀は笑みを浮かべたまま華琳に顔を寄せて行く。
「あ……」
唇を重ねられた華琳は一刀を狡い男だと思った。手紙はまめに寄越すが行く先は分からなかった。
「逢いたかった」
一刀は華琳を腕の中に引き込むと、抱き締めて囁いた。
「華琳」
髪を指で
「わ、私も……一刀に、ずっと……んっ……」
再び唇が塞がれた。一刀に結った髪が解かれ、手が背中から滑って華琳の臀部を撫でる。
舌を絡められ呼吸が苦しく成るが、愛撫で与えられる快感の方が大きい。
身体は一刀を求めていた。ゾクゾクするがはっとして状況に気付いた。
「あ、一刀……」
華琳の反応に一刀は問い返す。
「うん?」
「ここでは、人目があるから駄目……」
他の女に嫉妬するのは恥ずかしいと自らに言い聞かせていたが、会えないと寂しさは募った。
だけどここは往来の真ん中で、部下や行き交う人々の視線を感じた。その中には『リア充は死ねっ!』と言う呪いも混ざっている。
これが男女の普通だとしても、仕事中だからこそ上に立つ者は率先してけじめは着けないといけない。
「分かった。また後で会おう」
一刀は微笑み、今度は軽く唇を重ねると離した。その場には、羞恥心で頬を染めた華琳が残された。
× × ×
腹が満たされると、それ以上に食べたいとは思わない。性欲も満たされれば賢者タイムがやって来る。素っ裸であろうと着崩されて居ようとそれは変わらない。
薄暗い部屋に明かりが灯されている。仕事を終えた華琳との逢瀬を楽しんだ一刀が、酒を飲みながら賢者タイムを過ごしていた。
着替えを終えた華琳は振り返り、咳払いをして注意を引いた。
「最近、巷を騒がせている邪教を知ってるかしら」
「邪教?」
耳慣れない言葉に問い返すと、手配書の人相書きを見せられた。髭面、大柄の大男でいかにも悪党と言った顔付きで張角と記されていた。
「この者、張角を首魁とする賊徒よ」
喘ぎ声を漏らしていた唇から真面目に言葉が紡がれる。
「馬元義を処断したのは始まりに過ぎない。と言うのも、賊徒は漢王朝の打倒を旗印に掲げて
世の中はワークシェアリングで上手く行く。君主あっての国、国あっての民。
それにも関わらず、旅芸人のファン活動が一定のコンセンサンスを得て漢王朝への反逆に荷担したのだった。
「殆ど全土じゃないか」
常識では考えられない事だが、ゲーム知識等で黄巾の乱は知っていたので理解出来た。しかし納得出来ない──と言うより期待外れが一つだけあった。
著名人の殆どが美女か美少女であるこの世界なら当然、張角も美少女と思っていたが予想を外された。
手配書の似顔絵にがっかりする一刀に気づかず華琳は続ける。
「帝は事態を憂い、
「皆が苦しみを知れば世界は平和に成る。いよいよ華琳が羽ばたく時がやって来たんだな」
上に立つ者はメンタルの強さが求められる。偽善者や豆腐メンタルでは賊徒の討伐は出来ない。
「そうね。私は切っかけを手に入れる。そして上を目指す」
嬉しそうに頷くと華琳は蒼い瞳を細めて一刀に接吻をする。そして愛する男が居る幸せを噛み締めていた。
(あいつら大丈夫かな)
柔らかい唇を感じながら一刀は、故郷に残して来た妾や、旅先で深く繋がりあった女達に思いを馳せていた。
と言っても華琳の気持ちを裏切っている訳ではない。華琳も桂花も雪蓮も蓮華もその他の女達も平等に愛し好ましく大切に思っている。
「あぁ……んっ、て流されてるじゃない!」
甘い声を出していた華琳は、身体の奥から再び沸き出して来る欲望を我慢した。
「続きは、またにしましょう」
このまま快楽に身を委ねては大望を果たす事は出来ない。恥ずかしそうに部屋を出て行く華琳を一刀は見送った。