※この作品はR-18です。

人格基盤形成の不全における弊害と観察   作:キューブケーキ

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物理的暴力行使の独占1/2

1

 

 山を走破するよりも、人口が密集した市街地の移動の方が疲労する。

 都からの帰路、一刀が山道を通って居ると焦げた臭いが辺りに漂って来た。

 鼻をひくつかせて一刀は周囲を見回した。

「山火事か?」

 一刀は通信教育で空手と柔道と相撲を体得した経験から、この時代でも効率的な体力錬成の下地があった。

 ややあって、隘路を抜けた先にある村が襲撃を受けて燃えていた。

 漢に弓を引く腐った根性を持つ襲撃者は、黄色い頭巾をお揃いの様に身に付けた賊徒、黄巾賊だ。

 極左暴力集団の賊が現れるのは、漢による管理体制の脆弱さの露呈と言えるが、賊は郡国制度での管轄権を理解した上で、境界付近で襲撃を繰り返していた。正規軍相手にゲリラが弱いなりに頭を使うのと同じだ。

 剣戟の音は鳴り止み、代わって聴こえるのは老若男女の悲鳴、呻き声、捕食者の笑い声で、定番と化している。

 自分の手の届く範囲でなら人助けの善行を行う。それも時と場合による。「謝謝大侠」と感謝の言葉を言われても命あっての物種だ。やって後悔するよりやらない罪悪感の方がましと一刀は判断する。

「くわばらくわばら、触らぬ神に祟りなし」

 胸キュンな出逢いがあるなら兎も角、争いを好まない一刀は、その光景から目を逸らして足を止める事無く家路を急ごうとした。日和見主義と言われる行為だが、本件の事案の場合は妥当と言える判断だった。

 しかし賊は周囲に警戒の兵を配置していた。

 賊を成功させる為の秘訣は軍事行動に近い。警戒の者が一刀に気づいた。

「おい、てめぇ。持ってる物を出せ」

 粗暴な態度で恫喝して萎縮させる。賊の常套手段だが、しかし一刀は賊にとっての獲物ではなかった。

「はぁ?」

 唐突な恐喝に一刀は相手を確認する。相手はたった二人、一刀の様に武を嗜んだ者ではない事が挙動から判断出来た。一人は気絶した少女を片手に抱えて下卑た笑みを浮かべている。彼女が欲しければ、すぐやりたがるのは間違いで、この行動は明らかにマイナスポイントだった。

 将来、美しく成長するかもしれない少女。女の敵は一刀の敵である。

(殺るしかないか……)

 名前を残したいと言う思いも無いので素手での喧嘩(ステゴロ)に一刀は価値を認めない。負ければ殺されるなら尚更だ。

 相手の実力を瞬時に見抜き、一刀は懐に手を入れた。そして携帯していた筆を対峙する賊の目に向けて放った。

「うわあっ!?」

 吸い込まれる様に角膜から水晶体、硝子体へと突き刺さる筆。知恵と工夫で筆も剣に勝る。

 叫び声をあげて賊は得物を落とした。大量生産される安物の剣だ。

 一刀が空かさず剣を拾うと白刃がきらめいた。無言のまま一刀は踏み込み、少女を抱えて唖然としていた相棒の額を叩き斬った。

「うぐっ……ああっ……」

 後ろに倒れる賊の手から少女を解放すると、筆が刺さって呻いている最初の賊に止めを刺した。躊躇をしなかったのも自分と少女が生き延びる為だと割り切った故である。それに、じわじわといたぶり殺す趣味は無い。

 善悪は時代が変わっても不変である。しょせん犯罪者は不良品であり、生きてる価値は無い。

 人の命は重いとか現代的価値観もこの世界では通じない。暴力よりも話し合えば分かり合える。そんな平和ボケが通じるのも日本だったからだ。

 少女に視線を向けると、ボブカットにした金髪の間から覗く瞳は閉じられており、浅い呼吸をしている。意識の無い少女を放置すると言う考えは無かった。

「よいしょっと」

 少女を背負うと再び歩き出す。

 

      ×  ×  ×

 

 西周の都城鎬京(こうきょう)が犬戎(けんじゅう)と申(しん)の反乱軍に襲撃された時、幽王の后であった褒姒(しょうじ)は戦の原因であったが、後の北宋が女真族に破れた時と同様に、その美貌から身分賤しい者達に拐われ性的奉仕を強要された。

 同じ様に、獣と化した賊徒は極左暴力集団であり、漢の平和と秩序を乱し、略奪と殺害を繰り広げている反社会的勢力であった。

 賊徒は賊徒なりの言い分があり、「漢の圧政に対して踏ん張ろうと決めたから、宿命は漢王朝打倒の使命になった。希望は地べたに転がっている。武器を取り悪官を倒し、功徳(くどく)を積み所願満足こそ人生である!」等と一見、もっともらしい事を述べているが、やってる事との解離が激しい。

 各地で起こる反乱に対して朝廷も手をこまねいていた訳ではない。排他的な反体制派は、暴力革命による社会の破壊と転覆を目論んでいる。

「俺、出来ない」「兵法、何それ。知らない」「戦はやだ」そんな者に剿匪作戦の指揮官を任せる訳にはいかない。クリエイティブな議論を重ねた結果、冀(き)州の黄巾賊討伐の責任者である北中郎将に盧植(ろしょく)を任命した。

「承りました」

 厄介事を押し付けられた形だが、朝廷からの使者に対してそう答えると盧植は、知己を頼り将たる指揮官と兵を集めた。

 私塾を開いていた司馬徽(しばき)にも出来れば本人の力を借りたい所だが、門下生の紹介を頼んだ。

「──と言う訳で、私は水鏡先生に命じられ盧植北中郎将様の元に向かう途中でしたが、雛里(ひなり)ちゃん達とはぐれてしまいました」

 自己紹介を終えた少女は後の蜀漢の軍師として後世まで名を残す諸葛孔明。幼い容姿に一刀は驚きを感じた。

「それは心配ですね。ですが伏竜と呼ばれる高名な孔明殿をお救い出来た事は幸いでした」

「そ、そんな。私なんてまだまだでしゅ!」

 自分の事を誉められて、はわわと狼狽える少女に一刀は顔を綻ばせる。一方で連れの鳳士元も少女という事から救う事を考えていた。

「それに助けて頂いたのは私の方です! どうか我が真名を御預り下さい」

 真名を預けると言う意味は大きい。真剣な眼差しに一刀はこくんと頷いた。

「朱里(しゅり)と申します」

「分かったよ朱里。俺は一刀だ」

 邪気の無い笑顔を一刀は向けた。朱里は頬が紅潮するのを感じた。

 朱里にとって散々な日は運命的な出逢いと成った。

「朱里を盧植先生の所まで連れて行ってやりたい所だが、今は都合が悪いみたいだ」

 そう言われて朱里は賊に襲われた記憶が甦る。旅人を狙うような小者ではなく、村を襲い破壊する事まで行っていた。

「そうですね。賊がここまで出没するとは思っていませんでした」

「俺の実家に向かおう。とりあえずは人手を集めて鳳士元殿と趙子龍殿を見つけ出す。その先は状況にもよるから合流してから考えよう」

 それは一刀が挙兵すると言う意味ではないが、結果としては同じ事だった。民兵、義勇兵、自警団、郷土防衛隊……etc、その類いである。

「はい!」

 この後、実家に帰った一刀は自信のコネを使い、自警団を結成する名目で義勇兵を集めた。

 営利目的や私兵として抱える訳では無い。潁川(えいせん)郡は17の城塞都市を中心に140万の民が暮らしている。人手は余っており、特定非営利活動である以上、運用資金は一刀の実家──陳家や地元の名士が声をかける事で確保出来た。

「これは慈善事業じゃないからね。婆ちゃん達には利息を着けて返すよ」

 この預かった資金で人手を集め、賊を倒して鹵獲した武具や馬匹の売却益から投資家に還元する事を一刀は約束した。

「まぁ、やってみなさい」

 手助けを求められた陳寔(ちんしょく)は、これからどれ程の人物に成るのかと孫の成長を期待して、愉しげに見詰めた。

 中・長期的な視点で見れば、何事も前例に倣えという前例踏襲主義は正しい。積み重ねた実績と名声は裏切らない。

 朱里は名士の影響力と言う物を改めて実感していた。受付を行っていた朱里の前には長蛇の列が出来ている。朝から休む間も無く名簿を作成していた。

「──廖化(りょうか)さん、それではそちらの列に続いて下さい。次の方、どうぞ」

「朱里、やはり無事であったか」

 その声に顔を上げると水色の髪をした少女が槍を携(たずさ)えて目の前に立っていた。

「星(せい)さん!」

 それは護衛をしてくれていた趙雲だった。もう一人の連れ、親友である鳳統の行方を尋ねた。

「雛里ちゃんは?」

「ああ、雛里は宿で今後の対策を考えている」

 その言葉にほっとすると、お互いの無事を喜び近況を確認する。

 都のある司隷と離れていない豫州だが、潁川郡にも賊徒が襲来すると言う事案が続発していた。この事が足止めをしていた。

「やはり一刀様の仰る通り、ここの賊を倒さねば先には進めませんね」

 皆仲良くと言う幻想は抱いていない。自衛の為の暴力は常識であった。

「首謀者は波才なる者らしい。心を一つに圧倒的な民意を示そう等と申しておるが、まったく嘆かわしい。同じ民を襲い奪う、何が楽しいのかわからぬ」

「そう言いながら星さんは楽しそうですけど」

 熱心に武を極めんと稽古をして来た星にとって自らの力を試したいと言う気持ちは確かに存在した。そして好機がやって来た。

「笑ってはおらん」

 そう言いながらもにやりとした。

「分かりました。星さんもそちらの列に続いてください」

「ああ、また後で会おう」

 

 

2

 

「真の叡知を持つのは『女』。文明を産み出し政を行い導くのも私達『女』です。では『男』の存在価値とは何か。子孫を残す事を目的に生み出され、『女』が子を産む為にも不可欠な存在です。喜びなさい。『男』である事を捨てた宦官では救う事の出来ない『女』を救う事が出来るのは、一刀、貴方の様な『男』ですよ」

 師がその様に言っていた事を回想した一刀は、目の前の少女達に視線を向ける。

 一人は目を引く美貌で、すらりとした身体は抱き心地が良さそうだが飄々とした性格の少女。ゲームでも人気の高い趙雲その人。

 水色の色素をした髪は宇宙人(エイリアン)の遺伝子を受け継いでいるのだろうか、等とふざけた事を考えて一刀は薄く笑みを浮かべ会釈した。

 もう一人、魔女の様な格好したツインテールの少女は、鳳雛(ほうすう)と呼ばれ劉備の軍師として活躍する鳳統。親友の朱里が真名を預けたと言う事で、彼女も真名を預けて来た。

(朱里が孔明って事に驚いたけど、今度は趙雲に鳳統か)

 この夜、自警団(仮)の本部が置かれた陳家の所有する屋敷に一同は集まった。

「婆ちゃんが言ってたけど、朝廷の方でも大将軍何進(かしん)が皇甫嵩(こうほすう)、朱儁(しゅしゅん)を討伐の指揮官に任命したそうだ。官軍も間も無くやって来るだろう。だから俺達のやる事は自衛であり、時間稼ぎだ」

「それだと兵の数はもう少し多くても良かったのでは無いですかな」

 星の言葉に朱里は反論する。

「気概は買いますが、数だけ揃えても烏合の衆です。持久戦を考えた場合、兵糧の問題もありますし、口減らしの観点からも足手まといは少ない方が良いでしょう」

「あわわ。朱里ちゃん、黒いよ……」

 応募者が多くて、それなりに腕の立ちそうな者も居たが全体として素人。これで賊に勝てるとは考えなかった。絞り込んだ結果、自警団は100名程揃えた。採用から漏れた者達は、現地協力者として情報の提供や調整等での協力を依頼した。

「それで、具体的に団長殿はどうされる御積もりですか」

 星の瞳は一刀を試す嗜虐的な色が浮かんでいた。

 一刀はからかうのもからかわれるのも慣れている。だけど男として舐められる積もりは無かった。

「官軍にとって兵士は替えが効く物で消耗品。民兵は下手に目立つと使い潰される。それは真っ平御免だ。彼を知り己を知れば百戦殆からず、と孫子のおっさんも言っていた。先ずは情報を集めよう」

「お、おっさん……」

 オブラートと言う言葉とは程遠い。伏竜鳳雛の二人は目を剥いたが、特に反論も出なかった。

「分かりました。誰か人選をして任せますね」

「いや、それは俺がやるよ」

 朱里は一刀の言葉に驚いた。星の顔には喜色が浮かんでいる。

「え、ちょっと待って下さい。一刀様御自身が行かれるのですか」

「そうだけど?」

 一刀は頷いた。

 説得は無理だ。一刀はやると決めている。

 その事を理解し、溜め息を吐いて朱里は妥協案を提案する。

「分かりました。でしたら星さんも連れて行って貰えませんか」

 一刀は星に視線を向けると微笑んだ。

「名だたる常山(じょうざん)の昇り龍が一緒なら安心だね」

「お任せを」

 星も一刀の好む勝ち気な女らしく不敵な笑みを返した。それは色っぽく見えて、組み敷いた時には、どんな声を聴かせてくれるのか情欲と想像力をかきたてた。

 

      ×  ×  ×

 

 寝るには時間が早かった。打ち合わせを終えた一刀は獣欲を隠して星を飲みに誘った。

「二人は宜しいのですか」

 それはそうであろう。しかし見た目が子供と言う言い訳も出来た。

「親友同士、語りたい事もあるだろうから声はかけなかった。それに明日の事を話したかったしな」

 物の道理と人の機微を分かる星は一刀に付き合う事にした。

 女尊男卑の世界で、高く評価される一刀は優良物件であった。家柄から言っても将来の出世は約束されている。その影響力は一刀が思ってる以上にあった。

 何よりも陳家の秀才である男に興味を引かれた。

「東東、後は良いよ。ありがとう」

「失礼致します」

 侍女が酒宴の用意を終えると二人だけに成った。

「朱里に聞いたけど、護衛をする前は一人で諸国を廻って居たとか」

「いかにも」

 一刀は誉め、星は頷き武勇伝を聞かせてくれた。一口、二口と酒を含み杯を重ねる内に、挑発的な色香は収まり処女(おとめ)の印象を与える。

(これは耳年増で演じてるだけか)

 そう気付くと大人振って可愛く思えた。だから一刀は純粋に酒を楽んでいた。

(やっぱり、やっちゃおうかな)

 しかし、酒の力もあって自制心は呆気なく崩壊した。

 一刀は星を引き寄せる。鍛えられているとは言ってもやはり女で、男に比べれば華奢な腕をしていた。

「いや、団長殿は真に変わった御方だ」

 軽く睨むと星は小声で嗜めた。愛の囁きすら無かったからだ。

「そうかな」

 後退りしそうな星の顎を持ち上げて唇を重ねる。肉体的衝動から始めた行為だが、その接吻は優しさと誠実さを感じさせる物だった。

「私程の美女と成れば酒に誘いたく成るのは分かりますが、酔いに身を任せて不埒な真似をするのは頂けませんな」

 星は眉を寄せながらも主導権を握られて心が落ち着かないのを感じた。

「ははは。君は、自分が男に与える影響を考えるべきだな」

 明確な抵抗を示されなければ男は強引に事を進ませる。一刀の時代でも無罪放免と成っている。だから悪くはない。

 ゾクゾクと痺れを感じ、星は一刀に身を預けその感覚に酔いそうに成った。

「私は、その……経験は無くて……」

 顔を赤らめた星は疼きを抑え込もうとする。

「この事は、二人だけの秘密だな」

 人には自分に相応しい相手を選ぶ権利がある。強い男に求められる事は喜びだ。一刀の胸に抱かれ雄の香りを吸い込んで星は、自分が一刀に相応しい雌であるか悩んだ。

「あっ!」

 あっという間に着ている物は下着まで脱がされていた。

 慰み者にされる訳では無い。だけど話には聞いていた破瓜(はか)の痛みに恐怖を覚える。

「団長殿……」

「一刀だ」

 そう言いながら一刀の指が星の花弁に沿って動き、花芯を挟み込んでいた。

「ひぃ……っ!」

 指は花弁を割って入ろうとするが、手首が太腿部にぎゅっと硬く締め付けられて進めない。

 一刀は苦笑して、涙ぐむ星に接吻した。

「か、一刀殿……んっ、あ……」

 普段は隠されている胸に自由な片手を伸ばす。たわわに実った果実はち切れんばかりに張り詰めており、肌は指に吸い付く様だった。一刀に合わせて星の身体はしなやかに動いている。

「ああっ!」

 ビクッと震えた星の太腿が緩んだ。次の瞬間、ちょろちょろ、と温かい液体が一刀の腕に流れてきた。

「は……あ……うううっ」

 星は羞恥心から涙をぼろぼろと溢した。

 しかし一刀にとっては御褒美と言えた。濡れた花弁を開いて桜色をした割れ目に顔を近付けると舌をめり込ませた。

「あっ、だめ、あぁっ!」

 一刀の舌から逃れようとする星の腰を抱き止める。

 見た目はアワビに似ているし塩味はした。流石に歯応えを確かめる訳にはいかない。

 だからその分、粘り気の多い蜜液を楽しむ事にした。

 わずかに視線を上げると星の反応を確かめる様に舌を動かす。

「ひゃっ、な────っ!? んんっ!」

 じゅる、じゅると滲み出る蜜液を吸うと漏らす吐息に、一刀はそろそろ先に進める事にした。

 ぼろんと一刀が取り出したのは百戦錬磨の逸物で、それを目にした星は何をされるか理解した。

「キツかったら無理にしなくても良いんだからな」

 ここまで来てしないのは蛇の生殺しだが、一刀はそれならそれでも構わないと思っていた。だが一刀の言葉に星は頷いた。

「それは……遠慮は要りませんぞ。覚悟は出来ております」

「そっか」

 尖端を当てると一刀は一気に沈めた。星は貫かれる激痛に備えて目をぎゅっと瞑る。

「あ……れ?」

 予想したよりも痛みは無かった。考えれば耳年増な分だけ、普段から自分の指で慰めて居たのだから当然と言えた。

 それに一刀が事前に指と舌で十分に解(ほぐ)していた。蜜壷の内壁から蜜液が分泌され、咥え込んだ一刀の逸物を離さないかの様にきゅっと締め付けている。

「ふふふ」

 星は呆気なさに笑い声を漏らした。そして一刀に真っ直ぐな視線を向けると宣言した。

「さぁ一刀殿。一手、御教授願いましょうか」

 一刀はその物言いに、笑って受け入れると肉体的快感に導く行為を再開した。

 

 

3

 

 一刀は男女の仲に成った星を伴って荒野を移動していた。

 ただし、その距離は近い。

「星、そんなにくっついては歩きにくいんだけど……」

「主殿、つれないですな。昨夜はあんなに愛し合ったと言うのに」

 星はしなだれかかって来ると、胸を一刀の腕に押し付けて来た。

「それと俺はいつ君の主に成ったんだ?」

 腕に触れる柔らかな感触と星の放つ雌の香りを楽しみながら一刀は尋ねる。

「我が真名を預けた時からですが何か」

 しれっとした顔で答える星。

「ま、良いけどさ。ちょっと離れてくれ」

 戦に於いて将は、軽快かつ柔軟に部隊を指揮する事が重要である。この為、絶えず先行的に状況を判断し、地形を克服して敵の行動の間隙を求めて……等という知識を詰め込んでは居るが、結局、リアルタイムな近況を把握しなければ対応に限界がある。

 その為に賊を探していた。

「兄ちゃん、良い女連れてるじゃねえか。女と身ぐるみ置いていけば命だけは助けてやるぜ」

 都合良く、三人組に行く手を遮られた。チビ、デブ、ノッポのステレオタイプな面子だ。

 嫌々、賊に参加したと言うよりも、好んで略奪者と成る卑しいタイプだと、生き様や性根が人相に現れていた。

「ん、あぁ……お目当ての登場か」

 獣欲を感じさせる不躾な視線が星の身体を舐める。

 生かしていては世の為には成らぬ。その事を感じ取って、星は一刀に指示を求めた。

「主殿」

「いや、そこのおっさんは生かしておけよ」

 星の腕は疑っていない。むしろやり過ぎる事を心配した。

 会話を続ける二人に無視された形で賊は怒りを浮かべた。

「舐めやがって。ぶっ殺す──」

 星はその言葉に腰を沈め、携えていた槍の突きを放った。

「うげぇ」

 一刀に生かしておけと言われた男は、星に腹を突かれ跪いて咳き込んだ。欲望は思考から吹き飛び、痛みで真っ直ぐ立つ事が出来ない。

「兄貴ィ!」

 手下の二人が抜刀して踏み込んで来るが、足下を刈り取る様な槍の動きで倒れた。

「うわっ、よくもやりやがったな……」

 怒鳴り声は途中で途絶える。一刀が剣で手下の背中から心臓を突き刺していた。

 残った兄貴分のノッポは血塗られた剣を突き付けられて顔色をさっと青ざめさせた。

 一方で二人殺した一刀に動揺は見られない。引き締まった一刀の顔を見て、流石は我が主と星は惚れ直した。

「本題だ。お前ら黄巾について洗いざらい吐いて貰おうか」

 誤魔化しは利かない。その事にノッポは不安の表情を浮かべた。

 

      ×  ×  ×

 

 ノッポの協力で得られた情報によると黄巾賊の宿営地は山中に分散して存在した。

 情報は離れた場所から監視して兆候を考察するよりも、直接敵と接触した方が、敵に関する情報資料を入手出来る。

「馬の数は、そう多くありませんな」

「ああ、徒(かち)の者が殆どだな」

 任務達成に影響のある敵の兵力・配置及び敵の可能行動、行動概要を掌握する為に、一刀と星は敵の陣中深く紛れ込んでいた。

 宿営地の一角ではフリーマーケットが開かれおり、略奪品の売買が行われている。ちらっと見ただけでも、筵(むしろ)の上に装飾品を並べた男の背には、まだ血に汚れた物が山積みされていた。

 流石に買い物を楽しむ気分にはなれなかった。星は不快感を切り替え様と一刀に話題を振った。

「もし私が先に倒れた場合、主はどうされますか?」

「仇を討つ」

 一刀は躊躇無く答えた。呉の伍子胥(ごししょ)の様に相手の死体を暴いて鞭打つだろう、と。

 それから数時間後、情報収集を終えた一刀は宿営地に火を放ち混乱に紛れて脱出した。

 屋敷に戻ると、一刀と星に対峙して朱里と雛里が席に着いて結果報告を受けた。情報の共有化だ。

 一刀達が賊の陣中に入り込み放火をする下りに至って、朱里の情熱を込められた瞳は半眼に成っていた。

「何を考えているんですか。一刀様もお立場をお考え下さい! 外から見て帰って来るだけだって仰ってたのに」

「そうですよ。朱里ちゃんの言う通り、一刀様は自警団の団長様なのですから……」

 雛里も帽子の下から「私、怒ってます」と言う感じで睨んで来るが、一刀にしてみれば可愛くて仕方が無かった。

「まぁまぁ、主殿も悪気があった訳では無い」

 自警団の長である一刀が星と二人っきりで出かけたのは軍師二人も容認していた。それは危険に合わせない為の警護としての役割を求めての物だった。しかし星は止める事無く積極的に荷担し楽しんでいた。敵地に潜入するまでは我慢も出来る。何をしたのかと聞けば、主を危険に晒す行動であった。

「星さんも反省して下さい!」

 その事で幼い軍師二人から叱責される事と成った。

 女心は不可解だと言うが、嫉妬のせいだろう。そう一刀は受け止めた。

「心配をかけてすまなかった」

 さらりと返事を返すあたり、一刀も本気で反省してる訳ではなかった。必要なら何度でも危険を犯すだろう。

「はい。心配をかけるのはこれっきりにして下さいね。それと……」

 だけど朱里は視線を向けないで、言い淀んでる。

「うん」

「……星さんが一刀様を主殿と呼んでる様ですが」

 一刀は答える。

「ああ、何だか気に入られたみたいで臣従してくれてるよ」

「────えっ」

「でも、朱里達を先生の所まで送る契約はそのままだからな。この件が終わった後も任せてくれ」

 みるみる内に朱里の表情が抜けていたが、一刀は雛里を構って気付いていない。

「……雛里ちゃん。後でお話しようか」

「ひっ……!」

 静かに話しかける朱里だが、雛里は脅えて一刀にしがみ付いた。

 そんな空気を気にせず星は一刀を飲みに誘っていた。

「主殿。今宵も一献、傾けたいがいかがでしょう」

「ああ、良いよ」

 月明かりが外から射し込んでいた。

 二人が退席して随分と時間が経った気がするけど、雛里の目の前には表情の抜けた朱里が視線を外さずに居た。今の朱里を見れば、普段の朱里を知る者はそれが表面だけに過ぎなかったと知る事だろう。

「雛里ちゃんは協力してくれると約束したよね」

「う、うん」

 この後、朱里のお仕置きが待っている。その事を覚悟して雛里は震えた。

「それなのに、さっきの態度はどう言う事かな?」

 雛里が一刀に抱き締められて頭を撫でられていた事だ。

「それは一刀様が……」

 朱里は雛里の肩を軋む様な力で掴んだ。

「痛っ」

「私は雛里ちゃんに訊いてるの。今、一刀様は関係無いでしょう? 話を逸らさないで」

 分からないよ、と雛里は震えて答えた。

「分からないの? じゃ、教えてあげる。抜け駆けをする雛里ちゃんにはお仕置きだね」

 臆面もなく言われて、雛里は泣きそうに成る。

「嫌だよ、朱里ちゃん! お尻だけは許して」

 前に水鏡の私塾に居た頃、朱里に面白半分で玩具を入れられる経験をして、気持ち良くも無かった。死にそうで錯乱しそうだった記憶が蘇る。

 赤面してイヤだと泣き叫ぶ雛里の腕を朱里は取った。

「大丈夫、痛いのは最初だけで直ぐに気持ち良く成るから。先人もお尻は押し出すだけが、使い方じゃないって言ってるし」

 雛里の耳に唇を当てて朱里は囁いた。それだけで雛里はビクッと身体を震わせる。

 朱里が怖かった。圧倒的な快楽は知識に勝る。

「そう言って後片付けするのは私なんだよ」

「何言ってるの。散らかしたら片付けるのは当然でしょう?」

 そのまま雛里を押し倒すと、朱里はじたばたする脚の間に腕を伸ばして雛里の下着を引き摺り降ろそうとした。

 朱里と雛里が揉めている頃、一刀の部屋から押し殺した吐息が聴こえる。

 一刀は膝の上に座り込んだ星を抱き締めている。陰茎と膣は結合していた。

「星」

「くぅ……」

 真名を呼ばれて子犬の様に甘えた声で接吻をねだる星は、昼間の勝ち気な姿からは想像もできない。たくしあげられた服から見える蜜壷は一刀の物を咥え込んで蜜液を溢れさせている。

 鍛え上げられた身体は筋肉が付きやすくなるが、出る所は出て余分な贅肉は削ぎ落とされ女性らしい体をしている。一刀を満足させる身体だ。

「んっ……はぁ……」

 喘ぎ声を洩らす星の尻を掴み、一刀は膣奥に熱い精液を解き放った。

「主殿、こんなに出して、孕んだらどうする積もりですかな。軍師殿にまた叱られるのでは無いですか。ですが、主殿がどうしても産めと言うのなら、私も考えなくは無いですが……」

 結合部分から愛液と精液が混じって溢れ出て来る。恍惚とした表情で余韻に浸る星だが、一刀の言葉に表情を一変させた。

「星は俺の為に働きたい。だけど俺は親に成るにはまだ未熟だ。二人共、育てる事が出来ないなら堕(お)ろせば良いだろう?」

 その言葉を聞いた星は体を震わせて、一刀の顔面を殴ると部屋から飛び出そうとした。

 廊下に踏み出す前に、一刀は星の腕を取ると抱き締めた。

「ごめん、意地悪した。ちょっとした冗談だよ。子供も星も捨てたりはしない」

 星の背中が震えている。

「主殿、その冗談は最低ですぞ。本当に貴方は馬鹿だ……」

 星の嗚咽しか聴こえない。いかに一刀と言っても好んで抱く女の涙には弱い。いささか戯れに冗談をやり過ぎたと反省する。星の手を取ると指先に口付けをして、愛してると囁く。

 ずるい男だと思いながらも、星は心に安らぎが満ちていくのを感じた。

 

 

4

 

 夏侯惇、夏侯淵の姉妹──春蘭、秋蘭は華琳に忠誠を誓い、互いに真名を預け合った。

 その心に二心は無かった。しかし華琳は父によって廃嫡され、捨て扶持さえ与えられずに家を追い出された。

 この御家騒動で二人は華琳に着いて行きたかったが、夏侯の家を背負う立場から、この混乱の最中に責任を放棄して動く事が出来なかった。

 だから屋敷に籠る事がせめてもの抵抗、無言の抗議と言えた。

「姉者、華琳様からの参陣依頼、どう答えるんだ」

 華琳が『無念の人』として、ひっそりと隠遁生活を送る様な人物では無い事を二人は知っていた。

 袁紹の元の身を寄せた後、華琳は実力で出世した。そして今回の討伐に騎都尉として参加している。

 華琳からの手紙を受け取って心に葛藤は無かったかと言えば嘘と成る。

(結果として私達は華琳様を裏切った形に成る。華琳様はお怒りではないだろか)

 しかし華琳からの手紙は二人を思いやる情愛に満ちた内容だった。

 読み返した春蘭は呟く。

「家は関係無い、か」

 秋蘭は姉の言葉に耳を澄ませた。

「確かに出会いは家同士の繋がりだったが切っ掛けに過ぎない。華琳様は自分を貫かれ今がある。私は華琳様の剣でありたいと思う。秋蘭、お前はどうなんだ?」

 言われてみればその通りだと共感した。

「華琳様は目標や目的の為に部下を犠牲にする事をも厭わない御方だ。いつの日か姉者が倒れるかもしれない。それでも、私は姉者と共に華琳様の弓でありたいと思う」

 それは二人の本心で、後悔でもあった。

 本当に優先する物は何かと考えた場合、華琳が廃嫡された時に共に行くべきであった。だから後悔は二度としない。したくなかった。

「では決まりだ。ぐだぐだ考えるのは私の性に合わない」

「確かに姉者らしくはない」

 うんうんと頷く春蘭を見て秋蘭は破顔する。将来はあやふやだが、お互いにとって久し振りの笑顔を浮かべた。

 春蘭は礼節を知る人間だ。親にこれまでの礼を述べた手紙を書き残して出奔した。その傍らには妹、秋蘭の姿もあった。

 

      ×  ×  ×

 

 賊将波才(はさい)は蜂起に当たっては、自分達の被る頭巾と同じく染めた黄色い布を旗印に掲げた。

「漢朝の政は乱れている。黄龍と成って天下の乱れを正すのだ!」

 だが世間の反応は違った。賊徒として醜い本性を晒しながら何が黄龍だ、馬鹿げた話だと被害に遭っている地元の民は一顧だにしなかった。結果として負の連鎖から悪循環するだけで、末法の世だった。

 正義とは力であり、力とは数だ。ただし賊徒が幾ら群れ様とも烏合の衆でしかない。

 華琳は手駒となる猛者や賢者を集めた。────腕に覚えのある者、知恵者は我が下に集え、と。

 そして華琳は、配下の士卒に法三章を布告した。殺人は死刑、傷害、窃盗は罰すると言う、単純だが軍規を引き締める物だ。

 官軍の集結地に華琳の天幕が展張されている。兵が揃って無いからこそ情報収集に余念はなく、斥候を放ったりやる事が多い。

「華琳様あぁぁぁ!」

 その声は愛すべき片腕、春蘭の物だ。

 馬を飛ばして来た疲れを感じさせない勢いで天幕に飛び込んで来た春蘭は忠犬の様であり、遅れて秋蘭も入って来る。

「良く来てくれたわね、春蘭、秋蘭」

「華琳様のお呼びとあれば何処でも参ります!」

 一目見て理解した。冷酷非情と蔑まれる事に成ろうとも、恋焦がれる様に敬愛した主君は変わっていないと。

「ふふっ。二人に会えて本当に嬉しいわ」

「華琳様ぁ……ん……っ、はぁ、ぅ」

 絆を確かめ合うかの様に華琳は春蘭の唇に接吻した。

 生粋の武官である春蘭は、戦場に立てば相応の活躍で期待に応えるだけの力量を持っている。華琳の理想を実現する忠実な将と言えた。

 一方の睦事では初々しく、おずおずと舌を絡めて応えていたが、春蘭を焦らす様に華琳は唇を離した。

「あ……」

 唾液の雫が溢れ落ちる。

 上気した春蘭の頬を撫でると華琳は、姉と主のやり取りを優しく慈しむ様な眼差しで見ていた秋蘭に声をかけた。

「秋蘭も久し振りね」

「はい、華琳様」

 春蘭と違い軽く抱擁されたが、寵愛と言う意味で区別をされていない。秋蘭は姉の幸せを自分の幸せと捉える事が出来た。

「これから面白い時代に成る。貴女達の活躍に期待してるわ」

 屈託の無い笑みを見せる華琳を前に二人はぶるっと震えた。歓喜の震えだ。

 自分達は必要とされている。華琳の言葉は、鬱屈としていた二人の心を覆う雲を晴らす光だった。

 主の期待に応える事こそ生き甲斐であり誉。士は己を知る者の為に死す。

 改めて華琳への忠を誓う姉妹だった。

 

 

5

 

 敵の襲撃を防ぐ為に、一刀達は民を防衛しやすい幾つかの街に疎開させる戦略村構想で対応した。

「何で田畑や住み慣れた村を捨てねばならんのだ」

 そんな声も出たが、一刀は「死にたきゃ勝手に死ね」と告げて関与せず、残りを連れて行こうとした。

 結果として疎開は進み、人が集中した街では民の協力で塁を築き堀を掘らせて防御を強化させた。

「一刀様、民より陳情が上がっておりまして、街の区分けで相談があるそうです」

「そう言うのはしない。自警団は周囲の巡回をするから、街の事は役人や自分達で相談してやって欲しい」

 一刀は全てをやろうとした訳ではない。飢えた者に魚を与える事も、魚の捕り方を教える事もしなかった。陳家に益に成る事を考えて知識の安売りはしなかった。

 その間に整備された街道を移動して、官軍の第一陣として朱儁が到着した。「官軍の精兵4万が来援!」と喧伝されたが、その兵力は騎馬2000騎、歩兵3000名。後続として皇甫嵩が本隊15000名を伴い到着する予定であった。

 地元の名士は挙って挨拶をした。その中に一刀の姿もあった。

「我らは朝廷が遣わした秩序と文明の守護者、漢の民を喰らう賊徒を倒す時が来た。さて、諸君全員に問いたい。何の為に戦うのか?」

 朱儁は民を扇動し尊敬させる術を心得ていた。勇気は胃袋に宿る。来客をもてなし、腹を満腹にさせ、酒と言葉に酔わせた。

「心に刻め。未来の為に、平和の為にだ! 道を見失い武力で威嚇し奪い、暴虐の限りを尽くす賊徒に我らは負けない。だからこそ一日も早い事態の鎮静化の為にも、諸君の力を私に貸して欲しい」

 官軍の将が頭を下げて名士達は好意的に受け入れた。地元の有力者を味方に付けた事で官軍は、兵糧の調達やそれらを運ぶ人足の手配で協力を得やすく成ったと言える。

 真理を求め教養を高める儒学者。彼らの望む理想郷の様な漢は夢の中にしか存在しない。それでも人は大樹に寄って楽に暮らす事を好む。この場合、朱儁が大樹だ。

(ふーん、あれが朱儁将軍か。勝てば富と栄光、名誉が都で待っている。勝てればだが。それにしても俺らに選ばせてる様で、協力するか死ぬかを強要してやがる)

 朱儁を凝視する一刀。歴史に名を残すのは王や将で、兵では無い。真の統率者、偉大な人物かは分からなかったが、時として裏切る事を躊躇わない者だと感じた。

 それぞれ挨拶を交わして一刀の順番がやって来た。

「おお、陳羣殿。そなたの活躍は聞いておるぞ。容赦なく賊徒を、犬の様に殺したそうだな。君らが居れば民は安心だ。街の守りは任せたぞ」

 気を使った言葉遣いなのも陳家が名家だからだが、結局、素人は家に帰って大人しくしてろと言う意味合いを含んでいた。だが一刀は自警団の売り込みを行った。

 功名心や自己犠牲では無い。早く終わらせて気楽な生活に戻りたかったからだ。

「将軍、お許しを頂ければ敵陣に夜襲をかけ戦の勝利に貢献したいと思います」

 しかし朱儁は矜持を持っており、一刀の進言を退けた。

「私は勝利を盗みたい訳ではない。官軍の将として正々堂々と勝つ事だ」

「成る程、さすがは将軍。失礼致しました」

 名言を言ったと思っているドヤ顔が一刀には滑稽だったが、愛想笑いで追従しておいた。

(駄目だ、こいつ)

 朱儁に対する一刀の興味は失せていった。

「主殿から見て朱儁将軍は如何でしたか」

「────こいつは不味いかもしれない」

 朱儁の下を辞去した一刀に表で待っていた星が尋ねて来た。

「と言いますと?」

「夜襲は却下された。これでは、戦う前から敵を侮り慢心している」

 ねっとりとした引っ掛かりを感じていた。

 負ける事は考えたくないだろうが、勝つ為なら卑怯、下賎と蔑まれても手段を選ぶべきではない。

 末端の士卒にとって、勝てる戦で負ける事こそ、無意味で報われない死は無い。

「あれは紛い物だ」

 官軍の到着で皆は熱狂に包まれていたが、一刀の言葉で星は急速に冷めていった。

「それが真実なら不味いですな」

 官軍に討伐の力が無ければ賊徒は勢いを増す。漢の平和と言う神話が崩れ、乱世と言う現実がやって来る。

「確実に負けるぞ。ま、そう成ったら成ったで、俺の身近な者だけは守るよ」

 身内か、その他かで区別をしている。一刀の発言が可笑しかったので、星は喉を震わせ笑い声を漏らした。

 

      ×  ×  ×

 

 波才に従う賊徒は300、対して官軍は5000。幸運に恵まれなければ勝てない戦力差と言えた。しかし賊徒は逃げる事無く迎え撃って来た。

「賊風情が白昼堂々とした布陣。正面から戦って勝つ気か。少しは兵法を知ってる様だが、しょせんは付け焼き刃な知識よ。愚かな」

 討伐指揮官である朱儁は、もとより勝てると自信があった。敵が緊要地形である隘路の出口を確保した意味も理解している。しかしこの場合、両者の兵数が隔絶していた。嘲笑うのも当然だった。

 後学の為にと朱儁を言いくるめて同行を願い出た一刀は朱里を伴って観戦を決め込んでいた。

 男には自分の女を幸せにする義務がある。幼い容姿の朱里に食指は動かないが、愛玩する事は出来た。将来の天才軍師に実戦を見学させ、将来の糧とさせると言う目論見もあった。

「敵は見た限りだと精々100か。……あぁ、成る程な」

 朱里の頭を撫でる手を止めて、一刀は指差した。

「朱里、さっきから鳥の1羽も飛んでいないだろ。あの稜線には多分、伏兵が居るぞ」

 恥ずかしそうに撫でられていた朱里は、一刀の手が離れた事で頭を上げて目を細めた。

 官軍の接近経路は限定されている。それを考えた上で、賊徒は隘路の脇に稜線陣地を偽装していた。

「正面の兵力から考えて、両翼の伏兵を合わせても300を超える事は無いでしょう」

 官軍も罠に自ら進む無能では無い。斥候を放っていたが討ち取られていた為に帰ってこなかった。

 朱儁もさすがに不安を覚えたが、敵は寡兵。戦闘準備を命じた。

 一刀は後方の輜重兵と共に続きながら隊形が変わる様を眺めた。西園の廄(うまや)から供出された馬は良馬揃いで、河東、河内、河南の三河騎士を含めた官軍の騎兵は威風堂々としている。

「官軍は両翼に騎兵2000、中央に歩兵3000を並列配置してるけど、隘路に進める兵は限られる。さて、朱儁将軍のお手並み拝見といこう」

 一刀達が見守る中で、官軍は隘路入り口に兵を進めた。前衛が隘路入り口の形成部を確保し、尖兵が慎重に進む。

 しかし賊軍には秘められた戦力があった。圧倒的な武を持つ将だ。

「行くぞ!」

 気合いは十分。黒髪の少女が青竜偃月(えんげつ)刀を振り上げて合図をした。稜線から賊徒が喚声を上げて駆け降りる。

「出番なのだ!」

 反対の稜線でも、豚に乗った赤髪の少女が蛇矛を振り回して飛び出した。

 それは乾坤一擲の逆襲で戦況を一変させる攻撃だった。

 獅子に率いられた羊は、時として羊に率いられた獅子を破る。暴風と成って襲いかかった二人によって、尖兵は挟撃を受け壊滅した。

「うは、何だあの二人。チートかよ」

 黒髪が美しい少女は関羽、豚に乗った少女は張飛。三國志の英雄だったが、この外史では漢王朝打倒に共感して黄巾賊に加わっていた。

 尖兵を撃破された前衛本隊は戦闘加入するが、瞬く間に蹴散らされて行く。

 個人の武が集団を凌ぐ。官軍にとっては悪夢だった。

「そんな……」

 兵法を学び軍略を極めて来た朱里にとって、目の前の光景は許しがたい物だった。

「彭城(ほうじょう)で西楚覇王は高祖劉邦を敗走させた。先例が無い訳じゃない」

 嘘か本当か、1943年3月18日、劉老庄の戦いで国民革命軍新四軍の82名が、六塘河作戦中の日軍第17師団の一個大隊を撃退したと、抗日戦争の英雄、烈士としての記録もある。

 一刀は朱里を慰める様に頭を撫でた。一方で悪鬼羅刹、修羅の如く戦う関羽の姿に美しさを見出だして視線を奪われていた。

(あの女、欲しいな)

 反射的に男の性(さが)がそう思わせた。

 それも当然で、多少、一刀の知る歴史と異なるとは言っても───一刀は世界の未来を知る者だから、全てを手に入れる資格があった。

 しかし今は諦めた。ただの賊風情では無い。あれこそ武人と言う物だと理解出来たからだ。

 全ては終わった。敵の逆襲に伴い、朱儁は全般の状況を把握すると計画の補修・修正は不可能だと判断した。

「おのれ……ここは一先ず、兵を退くしかないか」

 後退行動は困難を極めた。追撃して来る賊軍の将は官軍よりも強く、騎兵は無傷だが官軍は総崩れと成った。

 戦闘終了後、朱里は珍しく泣き言を言った。

「私は慢心しておりました。賊とは言えども、在野にはまだまだ剛の者が居ると言う事を失念しておりました。これが官軍ではなく自警団の戦いであった場合と考えれば、浅はかな知識で思い上がり、恥じ入るばかりです……」

 一刀はそうは思わなかった。

「朱里に失敗は無かった。現に俺達は生きているし、死んだのは官軍だ。こう言っちゃ何だが、敵の手の内を見る上でも意義のある死だ。連中、役に立ったし犬死にではない」

 責任を負うべきは官軍の将である朱儁だと一刀は言い切った。

「それに、あんな規格外の連中が居るって情報があると無いとでは大違いだ。やっぱり来て良かったろ」

 人は繋がっている。その死も誰かの為に成る。

 両目を潤ませて朱里は頷いた。

 

 

6

 

 一刀は長社(ちょうしゃ)の街にある宿屋に入っていた。

「おはようごまいます。ご、御主人様……」

 目を覚ました一刀に朱里が恥ずかしそうに挨拶を述べてきた。御主人様と呼ばれ、ふと考えた。

 ──ああ、だからか。

 ペドに足を踏み入れた気分は悪くなかった。昨夜の情事を思い出した一刀は声をかける。

「痛みはましに成ったか?」

「はい。御主人様が優しくして下さったので」と言って朱里は、子宮のある下腹部を手で覆う。

 まだ違和感が拭えないらしく、時おりの痛みで涙目を浮かべている。処女を奪った事が原因なのは分かっていた。だから言わないといけない。これからの事だから。

「何回かやらないと膜が再生して、また痛いらしいから、しばらく慣らさないとな」

「は、はい。宜しくお願いしましゅ……」

 一刀にこれからも抱かれる事は分かっている。朱里は頬を赤く染めて頷いた。

 そこに居るのは、未来の蜀の丞相ではなく嗜虐心をくすぐる愛らしい少女だった。

「それと、朱儁将軍がお会いしたいとお待ちです」

「ほう。将軍様がねぇ……」

 朱儁は臆病者でも無能でも無い。退くべき時を弁えていた。一方の賊将波才も官軍の迂回部隊に包囲されれば、勝利が白紙に戻る事を理解していた。

 賊軍は、後退する官軍を追撃して長社を包囲に成功する。その原動力と成ったのは、官軍から落伍した逃亡者や投降者を吸収し拡大した兵力であった。

「陳先生、先日は失礼致しました」

「先生?」

 ──ふう。

 一刀は短く息を吐いた。共依存の関係こそ人の本来あるべき姿で、朱儁の口振りから協力要請があると踏んだ。

「賊徒の反乱は国権を愚弄する不届きな行いでありますが、賊将は敵ながら一騎当千の強者。どうかお力をお貸し願えないでしょうか」

 一刀は夜襲の進言を蹴った事を謝罪され、協力を要請された。手のひらを返した態度に内心で呆れている。

 だが協力する事はやぶさかではない────自警団を組織したのも故郷を守る為だから。

 傍らで聴いている朱里はこれこそ一刀が立身出世する好機と捉えていた。主の成功を望まぬ下僕は居ない。ましてや、それが愛すべき者なら何を言わんや。

「──と言われましても自警団は100程度、街を守るだけで手一杯です。その程度では焼け石に水では?」

 自分や周りの者が幸せ過ごすには多少の犠牲は付き物だ。愛するのは家族と隣人だけで良い。他人の不幸を見過ごす事も必要だと一刀は理解していた。官軍と心中する積もりは無い。

「何を仰いますか。先生の智謀があれば賊徒を何する物でしょうか」

 随分と変わり身が早い。

「はぁ、そうですか。それでは僭越ながら進言させて頂きます。守りを固めて官軍の本隊到着を待たれてはどうでしょうか」

 強いのが正義であり、弱いのは罪だ。戦に負ける事は官軍として正義ではない。官軍を助け賊徒を挫くのが正義とされる。

「夜襲を進言された先生にしては、いささか消極的ではありませんか」

 軍人勅諭は述べている。只々、一途に己か本分の忠節を守り、義は山岳よりも重く死は鴻毛(こうもう)よりも軽しと覚悟せよ、と。国と時代は違っても武器を持って戦う者がやる事は変わらない。

「いえ、民を守り街を守る事は官軍として誇れる役割です。その為にも民には全面的に協力させましょう。勿論、私も御協力致します。我々はただ、黙って勝利が転がり込んで来る時を待っていれば宜しいのです」

 朱儁は喜びの声をあげたが、一刀にとってはカードを一枚手に入れた事に成る。

「おおっ!」

 一刀は長社の防御体勢を整えるべく編組、防御区域、統制を割り振り調整を行った。

 具体的には主戦闘地域である外周の守備隊は官軍が担当し、民の中から有志を募り武の心得のある者で予備隊、警戒部隊を組織し協力する事とした。

「勘弁してください。種籾(たねもみ)を持って行かれたら、来年からわしらどうしたら」

 一刀が街の防備を確認していると、官軍の兵が民から食糧の徴発を行っていた。

「うるさい。将軍の御命令だ!」

 すがり付く農夫が足蹴にされる姿を見て、一刀は老人を抱き起こし声をかけた。

「お爺さん、賊に囲まれて今日明日にでも死ぬかもしれない状況で来年を考えてどうするんですか。官軍に勝って貰う事が第一じゃ無いですか?」

 老人は反論しようとしたが一刀は続ける。

「官軍に逆らう事は利敵行為です。処罰されますよ。それよりは気持ち良く戦って貰いましょう。勝てば将軍様も配慮して下さいますよ」

『独立の気力なき者は必ず人に依頼す、人に依頼する者は必ず人を恐る、人を恐るる者は必ず人にへつらうものなり』と福沢諭吉は著述しているが『寄らば大樹の陰』『長い物には巻かれろ』と言う言葉がある。

 選択の余地は無い。項を垂れた老人にはそれ以上、口にする言葉がなかった。

「御主人様、門は完全に塞ぎました。それと御指示の通りに、街の各所に消火用水を用意させました」

「良いぞ朱里。人は権利より利益のために戦う。家を守る為だと言ったら簡単に動いてくれた。後は、矢どんどん作らせてくれ」

 戦乱の兆しが見える漢帝国で一番安いのは人の命。見知らぬ民が幾ら死のうが知った事かと一刀は達観していた。しょせん他人の命はその程度の物だった。

「さて、ここからが本番だ」

 

      ×  ×  ×

 

 包囲をする賊軍の中から一人、前に出て来た。関羽だ。

「長社に詰める官軍の将に告げる。我が名は関雲長、官軍は降伏し門を開(ひら)け。さもなくば我等が刃によって地に伏す事に成るであろう。賢明な判断を下す事を願う」

「へぇ。あの女、関羽か……」

 長社を守る城壁の上から、関羽の口上を聞く者達の中に一刀の姿もあった。

 朱儁が返事返した。

「使者の口上、相分かった。されど我等は朝廷の命に従う官軍。賊徒に屈する訳にはいかん。刃を以て答えよう」

「精神論だけで勝てると思っているなら後悔するぞ!」

 口調とは裏腹に関羽は戦いを喜ばしく思っている様で、口元に笑みを浮かべると自軍に戻って行った。まさしく旧体制の武人だった。

「敵の攻撃が始まるぞ」

 号令が響き渡り、彼我の動きが活発に成った。一方の一刀は「汚したい、あの笑顔」等と関羽の背中を視線で追いながら考えていた。

 三國志の英雄にとって戦いは定められた道。関羽は理想を求めるあまり、賊軍に味方した。けれど、いつか劉備の下にたどり着く時があるかもしれないと一刀考えていた。つまり───その時は口説き落とせるかもしれない。

(だから今、必要なのはリスクヘッジだな)

 長社が落ちた場合、屠城(みなごろし)される事は間違いなかった。その時、一刀は脱出する。必要とあれば肥溜めに腹這いになって死んだ振りでもする。

 一刀に権力志向は無いが、陳家の金とコネで人生を好きに生き、好きに死のうと思っていた。まさしく唯物論の信奉者と言える。

 戦争の原則は火力の集中と戦術であり、砲兵は戦場の支配者であり、機関銃は万歳アタックを破砕した。

 飛び道具は兵力差を縮める。一刀は弓や弩の積極的な活用で耐え凌ごうとした。それに対して弓兵のスペシャリストである射撃指揮校尉(FDO)から質問が出た。

「弓兵の使命は、通常、近接戦闘部隊に対する密接な矢力支援にあります。野戦と違い縦深にわたる矢力戦闘によって敵兵力の漸減を図る事は不可能ですが、その辺りは如何為さるおつもりですか」

 1分間に1束の矢が放てるとして1000の弓兵で1万本の矢が放たれる。矢の備蓄数は幾らあっても足りない。

「主戦闘地域である城壁から後退する時は我々の敗北です。ですから、矢の使い惜しみをしません。最初から全力です。その後は剣や戟で戦って下さい」

 洛陽から南へ500里、一刀の計算では48時間以内に官軍の応援が到着する予定だった。その間、必要とする矢の数は───国中かき集めても足りそうもない数だ。用意出来たのは2分間の全力射撃分。

「矢力集中点いぬ、破城槌と随伴する歩兵凡そ1000が接近中」

 敵の徴候を監視していた見張りから報告が入った。

「射撃用意。弓兵効力射、5本、各個に射て」

 直ちに弓兵指揮班(FDC)から所要の指示が出される。

 門に殺到する賊軍に対して最初の一撃が放たれた。

「ほう──急造の射撃計画だが上手く行ってるな」

 一刀の目の前では、矢制範囲に入った賊徒が黒い矢の雨を浴び、その攻撃は破砕されていた。

「敵の機先を制して戦勢を得る。お見事です、御主人様」

 朱里は一刀を称賛したが、皆の協力あっての物だと一刀は謙遜する。

 一方で戦場騒音が精神の高揚を呼び起こし、喚声や悲鳴が生存本能から情欲を刺激した。

 それは場違いな考えではない。

 華は自ら色香を放ち誘うのも子孫を残す為だ。だから一刀は女を抱きたいと思った時は、本能に従う事にしている。

 僅な時間があれば良い。人目を避けて物陰の静かな場所に朱里を誘うと、ポロンと自慢の逸物を出した。朱里は顔を赤くするが、唾液を絡めて素直に口で奉仕する。

「んっ……ちゅっ、ちゅる……」

 献身的奉仕を受けながらも一刀は冷めており、視線の先には賊軍を叱咤激励をする関羽の姿があった。経験上、胸元にはたっぷりとした物が隠されていると予想出来た。

「御主人様……?」

 反応の薄い一刀に心配に成ったのか、朱里は顔を上げた。

「うん。そのまま続けてくれ」

「はい」

 頬を撫でられて嬉しそうに奉仕を再開する。

 そんな朱里の胸は薄いが、ぷっくりと膨らんでいる部分があった。ぎゅっと一刀は摘まみ上げた。

「きゃっ……あ、んぁ……」

 微かな痛みが快感と成って朱里は悶えた。花弁からはトロリと蜜が流れて大腿部を湿らせている。

 現代人的感覚から見て小児性愛(ぺドフィリア)は大罪であるが、法に縛られない時代であり一刀は気にしない。現世を楽しむ事こそ人生である。

 朱里の反応を楽しみながらも一刀は、関羽に視線を戻し視姦を再開した。

 友が敵に成り、敵が友に成る事もある。世間体を気にしても結果は同じ事だ。

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