「ねぇ、ちょっと」
ガディアに背負われたシーファーが声を掛ける。耳元で話し掛けられ、背筋がぞくりとするガディア。
「……何だ」
「どこに向かっているの?」
問われたガディアは歩みを止めず、視線を一度シーファーに向けると、また前を向く。
「お前はいない事に、護衛兵が気付かない訳はないからな。お迎えが来てる筈だろ?」
そう言って、迷う事無く森の中を歩き、いきなり目の前が拓けた。そこは、断崖絶壁の崖の上。シーファーは驚き、背筋が凍る。
「どうするつもり?」
「さあ?どうしようか」
含み笑いをするガディア。シーファーはガディアから降りようと暴れる。しかし、がっちりと足を掴まれ、降りられない。
「降ろして!」
「……お前、何か勘違いしてないか?」
「……え?」
シーファーの間抜けな表情にガディアは溜め息をつく。
「俺はお前をとって食おうなんて思ってない。俺は、お前を護衛兵がいる所に連れて行っているだけだ。」
ガディアの言葉に目を丸くするシーファー。
「……なら、どうして笑ってたの?」
「笑ってた?俺が?」
問われたガディアは戸惑う。自分の手を口元に触れると、少しだけ口角が上がっている事に気付く。今後はガディアが目を丸くした。
「……」
ゆっくりと崖の近くに近付くガディア。シーファーは慌てた。
「ちょ、ちょっと!このまま行ったら落ちるわ!」
シーファーの抗議に、耳を貸さず、ガディアはどんどん近付く。そして、崖からまるで軽くジャンプする様に飛び出た。シーファーは恐怖のあまり、目蓋を閉じ声にならない悲鳴を上げる。
(私、死ぬのね)
ところが、一向に衝撃も落ちている感じもない。シーファーは恐る恐る目蓋を開けた。目蓋を開いて驚く。シーファーを背負ったまま、ガディアは空中を飛んでいた。もう何度目の驚きだろうか。シーファーはガディアを見つめる。それに気付くガディア。シーファーの驚いた表情に微かに笑った。
(こんな表情も見せるのね)
ガディアの笑顔にシーファーは見惚れる。
「……貴方、一体何者なの?」
疑問が自然と口から溢れ。
「お前から見て、俺は何者に見える?」
そう言った。その表情はどこか妖艶だ。シーファーはゴクリと生唾を飲み込む。しばらくガディアは飛び、小さな丘に建つ小屋へと降りた。
「ここ、ギルの家だわ」
それを聞いたガディア。シーファーを背負ったまま、小屋の中に入る。小屋の中には、ギルとレン。護衛兵が数人と獣達を退けた精霊が二人いた。
「姫様、どうしてすぐにいなくなるのですか!」
「おお、シーちゃん無事じゃったか」
『ガディア、姫様と何やってたんだ?』
三者の言葉が重なる。ガディアはシーファーをゆっくりと降ろし、小屋の外へ向かう。
「ガディア、どこに行くんじゃ」
すぐさまギルがガディアを止める。ガディアは面倒臭そうに振り向く。
「森だよ。そいつのせいで、色々出来なかったからな」
「そいつとは何じゃ。シーちゃんは、王女じゃぞ」
「俺には関係ねぇよ。もういいか?」
ガディアの態度にシーファーの鼓動が軋む。それに気付いたのはレンだった。
「貴方、何の権限があって、そんな言い方をされるのですか?」
言われて、ガディアの視線がレンを捕らえる。鋭い視線が全身を貫き、レンは震えた。
「俺は、やらなきゃいけない事があるんだよ。邪魔してるのは、おたくの王女様だ。」
「まぁまぁ、レンちゃん落ち着いて。ガディアもそう怒るな」
「ギル殿」
ギルの仲裁で、二人は口を閉ざす。シーファーがその様子を黙って見ていた。
「ねぇ、ギル。彼空を飛んでいたの。どうして?それに、そこにいるのは、風と地の精霊でしょ?何故精霊がここにいるの?」
疑問をぶつけるシーファー。ガディアの表情を見ながら、ギルが口を開く。
「ガディアは精霊使いじゃ」
「……っえ?」
ギルの言葉にシーファーは固まる。ガディアと精霊二人は小さな溜め息をついた。シーファーの思考は混乱している。ガディアの顔を見て、その表情を窺った。すると、ガディアもシーファーを一瞥。そのまま背を向け、扉に手を掛けようとした。
「待って!」
咄嗟に呼び止めるシーファー。ガディアの前に立ち塞がる。
「貴方、精霊使いなのね。」
「だから何だよ」
「私と戦ってくれない?」
「……はぁ?」
呆れた表情のガディア。シーファーの方は、目を輝かせている。対称的なガディアとシーファー。
「私、強い人と戦いたいの。精霊使いは、この世界で一番強いって聞いた事があるわ。だから、私と戦って」
「……はぁ?何で俺がお前と戦わないといけないんだ。面倒くせぇよ」
「お願い、戦って」
「嫌だ。面倒くせぇ」
お互い平行線で話が進まない。二人の言い合いをその場にいた全員が呆れていた。
「ガディア、ワシからも頼む。一戦だけで良いから、戦ってくれんじゃろうか」
ギルが頭を下げた。ギルの行動にガディアは困惑する。育ての親が、他人の為に頭を下げたのだ。そんな行動をさせた相手、シーファーはガディアをアツい眼差しで見つめている。ガディアは大きく溜め息をつく。
「分かった。一戦だけだ」
「本当?やったぁ!」
シーファーは飛び上がり喜ぶ。破れたドレスの胸元が飛ぶ度にフルフルと揺れて、ガディアは視線を反らした。ウェントゥスがそんなガディアをニヤニヤしながら見ている。
「それじゃあ、試合は二週間後」
話が決まったのだった。
二週間後
挫いた足も完治し、シーファーは意気揚々でギルの小屋へと向かう。レンも一緒だった。小屋の外ですでにギルが待っている。しかし、ガディアの姿はなかった。
「ギル、彼は?」
「ああ、ガディアなら、もうそこの丘で待っておるぞ」
そう言って、小屋から少し離れた丘を指差す。シーファーは駆け足でその場所へ向かう。少し明るめの緑色の作業服を着ているガディア。明らかにやる気は無さそうだ。その場に腰を降ろし、胡座に頬杖をついている。ガディアがシーファーを見た。そして驚く。シーファーの姿はTシャツを少しまくし上げ、お腹が見えていた。そればかりではなく。Tシャツ自体が全体的に小さく、シーファーの胸元を強調し、下の方はお尻が見える位の短パン姿だったから。一気にガディアの顔が真っ赤に染まる。目のやり場に困り、視線を反らした。シーファーの方は、ガディアと一戦交える事に、身体がウズウズしているようで、準備体操をしている。
「……お前、その格好で試合するのか?」
「え?ダメかしら?この方が動きやすくて良いんだけど」
「……」
呆れて言葉が出てこないガディア。開いた口が塞がらない。
(こいつ、ワザとか?それとも天然か?)
「ねぇ、早く始めましょ」
目を輝かせシーファーは言う。ガディアは腹を括った。徐に立ち上がり、シーファーを見据える。
「お前が負けたら、俺に関わるなよ」
「……分かったわ。でも、私が勝ったら何でも聞いてくれる?」
「お前が勝ったらな」
そう言って、審判役のギルに目で合図する。頷くギル。
「では、先に一本取った方の勝ちで良いな」
「ああ」
「ええ」
ギルの言葉に同時に返す二人。視線がぶつかり、シーファーは構えた。
「では、始め!」
ギルの言葉で、先に動いたのはシーファー。素早くガディアの懐に飛び込み、鳩尾目掛けて拳を振り上げる。ガディアはそれを意図も簡単に避けた。シーファーの拳が、今度はそのまま勢いよくガディアの頭上に振り下ろされる。それもガディアは避けた。連続攻撃でシーファーの拳がガディアに向かうも、ガディアは全て流す。そして、ガディアの反撃。シーファーの腕を掴み、後ろ手に回す。シーファーはそれを返し、ガディアを投げた。一旦、間合いを明ける二人。
「ちょっと!本気で来てよ!」
シーファーは不貞腐れていた。本気を出していないのがシーファーには分かっていたからだ。言われてガディアは面倒臭そうにする。
「本気出したらお前、怪我するぞ」
その言葉にシーファーはキレた。ガディアに向かって、飛び蹴りをする。すかさず、ガディアはシーファーの足首を掴み、押し倒す。そして、拳をシーファーの眼前に突き付けた。
「……俺の勝ちだ」
『さあ?それはどうかな?』
その言葉と共にガディアの身体が吹き飛んだ。驚くガディア。
「ウェントゥス、どういう事だ!」
『どういう事も、俺は姫様の味方するぜ』
風が刃の様になり、空を切る音と共にガディアの服を切り裂いていく。衝撃で後ろに倒れ込むガディア。
「アルバ!」
『……』
ガディアの言葉に、アルバは反応を示さない。
「……くそ!」
ガディアは起き上がり、ウェントゥスに向かおうとするが、いきなり足元に何かが当たり転ける。
「……い、いてぇ」
起き上がろうとして手をついた。温かく、柔らかな感触。ガディアは手に触れる感触を何度も確認する。
「貴方、どこ触ってんのよ……」
視線を少しだけ上に移動する。目の前には顔を真っ赤に染めたシーファーの顔があった。冷や汗を掻くガディア。手元を見ると、そこにはふくよかな膨らみが。それは、シーファーの胸だった。
「…………エッチ~~!!」
シーファーの平手打ちが炸裂し、シーファーの勝利が確定したのだった。
次回は、ちょっとムフムフあります!