レオ国城内
ガディアは暗い地下牢で手枷を付け、天井から吊るされていた。側には、木刀を持った兵士がガディアの身体に打ち付ける。
「……がぁ!」
苦痛の表情で声を押し殺し、ガディアは無言でその痛みに耐えた。ガディアがこの様な状況になったのは、数日前に遡る。それは、シーファーとガディアが初めて身体を繋げた日だ。二人は眩しい朝陽を浴びながら、目を覚ます。しばらく見つめ合い、キスをする。
「私、そろそろ帰らないと」
「ああ、そうだな。」
互いの服を着せ合い、まだ、城内の人間は起きておらず、ガディアは護衛兵に見付からないよう自室まで送った。しかし、目撃者がいたのだ。
その後、シーファーが公務の為、レオ国にいない間に、フォル王から城へ呼び出されたのだ。ガディアは謁見の間で、フォル王と初めて対面する。鋭い眼光がガディアを見下ろした。
「お前がガディアか?」
息さえ容易に出来ない程の重苦しい空気。フォル王の身体から黒いオーラが見える。ガディアは、少しだけ頭を下げて、口を開いた。
「……はい」
「愛娘の純潔をお前が奪ったそうだな」
「…………」
誰かが密告したのか、誰も知らない筈の事をフォル王は言っている。ガディアは目を伏せた。
「分かっているだろうが、極刑は免れないぞ」
つまり、死刑である。ガディアは口を開こうとしたが、すぐに閉じた。突如、謁見の間の扉が開く。ギルが息を切らし、ガディアの側に駆ける姿が。
「フォル王、何かの見間違えでは」
「護衛兵が目撃したのだ。間違えはない。」
「王、どうか極刑だけは。私に免じて」
そう言って深々と頭を下げるギル。フォル王は深い溜め息をつく。そして、ガディアを睨んだ。
「……王族の女性に手を出したのだ。しかも、我、愛しのシーファーに。だがしかし、ギルには恩義がある。よって、地下牢にて鞭打ち等の痛みに耐えれば許そう」
そう言って、フォル王は謁見の間から出ていった。二人きりになるガディアとギル。ガディアはギルの顔を見れなかった。
「ガディア、本当の事を言っておくれ。シーちゃんと」
「……ごめん、ギル爺。嘘じゃないんだ。俺は彼女の純潔を奪った。でもそれは、彼女の意思を聞いてから。合意だったんだ。」
「な……なんじゃと……」
ガディアの言葉に愕然とするギル。足元がフラフラと覚束ない。その場に座り込むギル。ガディアは側で腰を下ろした。
「彼女が何で俺に純潔を捧げたのか。彼女の気持ちを聞いていないから分からない。気の迷いだったのかも知れない。でも、俺は彼女の事が好きなんだ」
ギルはガディアの目を見る。その気持ちに偽りは無いようだった。
「ならば、ガディア。その気持ちはシーちゃんに伝えたのか」
「……言ってない」
言って、視線を落とすガディア。ギルはガディアを見据え。
「ガディアよ。その気持ち伝えるべきじゃ。」
ギルの言葉にガディアは頷く。そして、兵士と共に地下牢へ向かったのだった。
森の中
ウィルゴ国からの公務を終えたシーファーが、レオ国へと向かっていた。侍女のレンと、楽しく談笑する。
「姫様、最近女らしくなりましたね」
唐突なレンの言葉。シーファーは頬を染めた。
「え?いきなりどうしたの?」
レンは微笑んだまま。
「前の姫様は、女らしさの欠片も有りませんでした。しかし、ここ数日で女性らしさっとでも言いますか、色気を感じます。もしかして、あの精霊使いの青年と何かありましたか?」
ガディアと身体を繋げてから、シーファーの表情や仕草は、誰から見ても変化していた。以前の様なTシャツ、短パン姿はなくなり、鍛練の時は武具を身に付ける様に。城内で歩く時もきちんとドレスを着て、夜は下着姿のまま寝なくなった。それだけではなく、時折見せる女の顔が、周囲の者達をより一層惹き付けている。
「……レン、私ね」
「はい」
「ガディアの事が好きなの。」
「……やはり、そうでしたか。」
レンの反応にシーファーは目を丸くする。
「知ってたの?」
「……はぁ、姫様。ご自身は自覚ないかも知れませんが、分かり易いですよ」
「……ええ!そうなの!?」
シーファーの驚く表情にレンは溜め息をついた。
「それは兎も角、そのお気持ち、ガディア様にお話しましたか?」
「そんなの話せないわ」
「どうしてです?」
「……だって、身分が違うもの」
「それ、本気で言ってます?」
レンは怒っていた。シーファーは目を伏せる。
「姫様、例え身分が違っても、お気持ちだけは偽らず、正直に話された方が良いと思いますよ」
「……分かったわ。」
言葉が切れたと同時に馬車が止まる。シーファーとレンは顔を見合わせ、窓の外を見た。すると、覆面の男達が馬車の中に入ってくる。
「何者ですか!」
レンがシーファーを背に庇いながら男達の前に立ち塞がったが、白い布切れで鼻と口を塞がれる。そして、意識を失った。シーファーがレンの身体を抱き起こそうとするが男達に拘束された。
「私が誰か分かっているの?」
「レオ国の第一王女だと知っている。さぁ、王女様。我々について来てもらおう。」
「嫌って言ったら?」
「無理矢理でも連れて行きます。あのお方がお待ちしておりますよ」
そして、レン同様、白い布切れで鼻と口を塞がれ、シーファーの意識は落ちた。
レオ国城内
城内が慌ただしい。公務を終えたシーファーが帰ってこない。もうすでに夕刻を過ぎている。フォル王は広間で右往左往していた。シーファーの状況が掴めないからだ。
「シーファー。どこに行ったのだ」
焦るフォル。リュイも青ざめ、オロオロしている。そこに、ギルが入ってきた。
「フォル王、お話があるんじゃが」
「ギル、悪いが私はそれどころではない」
「シーちゃんの居場所なら、分かるぞ」
ギルの言葉で、その場にいた者達がギルを見た。フォル王はギルに駆け寄る。
「本当か!シーファーはどこにおるのだ!」
「それはワシには分からん。分かるのは、ガディアじゃろうな」
その人物の名に、眉を吊り上げるフォル。
「ガディアを出してくれぬか?」
「断れば?」
「シーちゃんの行方は分からぬままじゃな」
苦虫を噛み潰した様な表情のフォル。
「…………ガディアをここへ」
フォル王の命令に兵士が地下牢へ向かう。全身血に染まり、満身創痍のガディアが広間に入る。兵士に支えられながら、床に座るガディア。ギルはガディアに近付く。
「ギル、この者にシーファーの居場所が分かるのか?」
「ああ、分かるぞ。ガディアは精霊使いじゃからな」
表情が一変するフォル。ガディアをじっと見つめた。
「……精霊使いだと?」
「話しは後じゃ。ガディア、良く聞け。シーちゃんが行方知らずになった。お前の力が必要じゃ」
「…………」
ギルの言葉に無言のガディア。フォル王はガディアに向かい頭を下げる。
「頼む。シーファーの居場所を見付けてくれ!」
「……ウェントゥス」
『おう。姫様の居場所だろ?』
「どこだ……」
『……ピスケス、しかもちょっとヤバイ状況だ』
「シーファーの身に何が?」
『ピスケスの次期国王、ジュギがシーファーの服を無理矢理』
その言葉でガディアが立ち上がる。目は怒りでギラつぎ、光っていた。フォル王、ギル。その場にいた者達がその殺気で身動きが取れない。
「イグニス、アルバ。すぐにシーファーの元へ行け。ウェントゥスとカエルムは俺と来い!ヴァッサー援護頼むぞ!」
『『『『『仰せのままに』』』』』
瞬時に精霊達が集まり、命令を実行にうつす。ガディアは怒りのオーラを纏い、レオ城を出たのだった。
次回は、ちょっと戦う場面ありです。