お互いの心と身体が、本当の意味で繋がった日の次の日。ガディアは、フォル王に再び呼び出され、レオ城内にいた。今回は謁見の間でもなく、大広間でもない。議会室と呼ばれた場所。そこに、ガディアはギルと共に入る。入ってすぐに目に飛び込んで来たのは、沢山の椅子が部屋の周囲をぐるりと取り囲み、部屋の真ん中には、その場に不釣り合いな小さなテーブル。入り口の反対側には、フォル王が座る大きな椅子があった。すでにフォル王は座っている。その両側にはリュイとシーファーの姿が。周囲の椅子にはこの国を支える議員や貴族達が座り、入って来たガディアとギルを見つめた。あまりの視線の多さに生唾を飲み込むガディア。シーファーに視線を向けると、少し頬を染め、微笑んでいる。
「ガディア、そこに立て」
フォル王が指示する。ガディアはゆっくりと進み、テーブルに近付いた。
「ガディアよ、何故ここに呼ばれたか分かるか」
低く、落ち着いた声でフォルは問う。
「……王女の事ですか」
「うむ、まぁその事も含めてだが、まずお前が何者なのか。知る必要がある。リック」
名を呼ばれ、部屋の隅からリックが出てきた。ガディアは驚く。一方、ギルは表情を曇らせた。
「……親父、いつ帰ってたんだ」
「昨日だよ。ガディア、シーファーと宜しくしてたんだって?俺、驚いたよ!あはは」
物凄く、場の空気を読まないリック。フォルの眉間にシワが刻まれているのを気付かない。その場の者達も、リックの発言にひそひそ話を始める。
「リック、その話は後でする。それより、ガディアの事を話せ」
声に怒気を纏わせ、フォルは言った。言われたリックはフォルを一瞥し、ガディアを見据えた。その表情はいつもへらへらしたものではなく、真剣そのもの。リックの口が開く。
「ガディア、昔。俺はお前を森から拾ったって話したよな?」
「……ああ」
そう、ガディアはリックから、物心ついた時からそう言われていた。自分が、リックの実の子ではない。森で泣いていたところを、家に連れ行き、ギルと育てたということを。
「その事は何度も聞いた。」
「実はその話。本当は違うんだけど、今まで言えなかった。」
そう言って、手に持っていたある物を差し出すリック。それは、どこかの国の紋章を刻んだペンダント。ガディアはそれを受け取る。そのペンダントをフォルは見て、愕然とする。勢いよく立ち上がり。
「リック。その紋章は!?」
「そう、あの閉ざされた国。精霊達と共存しているアフィユーカス国だ」
そう言って、ガディアの方に向き直るリック。
「そのペンダントは、お前が赤ん坊の時に身に付けていた物。ガディア、お前はアフィユーカスの王族なんだ。そして、本当の次期国王」
その言葉に、ガディアだけでなく、その場の全員が息を飲む。
「バカな!リック、いくらこの者が精霊を使役出来るからと言って」
「フォル、言いたい事が分からない訳じゃないが。本来、精霊を使役出来るのは王族だけなんだよ。」
「……ば…かな…」
力なく椅子に腰を降ろすフォル。ガディアも頭の中が混乱していた。それをリックは見つめる。シーファーもフォルの横から口元を押さえて、驚く表情を隠して見ていた。
「いるんだろ?俺が説明するより、お前達の口から話す方が良いだろ」
リックは部屋全体に視線を走らせた。リックの声を聞いて、部屋の空気が動き一点に集まる。人の形を形成してウェントゥスが現れた。土壁からはアルバが。部屋を照らす炎からはイグニス。貴族の手に持っていた水の入ったコップからはヴァッサー。そして、部屋の窓。外から入って来たのはカエルムが。ガディアの前に立ち、膝をつく。
「……俺は…」
後退りするガディア。その動きをリックが止めた。
「ガディア、俺はお前の事をずっと見てきた。自分の子でなくても、お前に幸せになって欲しいと思ってる。だから、ここで逃げないでくれ。お前自身の為に」
リックの言葉に、ガディアは少し困惑していた。しかし、小さく頷く。それを確認し、精霊達も頷き合った。
『ガディア。……いや、我らの王。』
いつもふざけているウェントゥスが、初めて真顔でガディアを見ている。ガディアも真剣な表情になった。
『ようやく、我らの国を話せる事が出来る時が来る事。嬉しく思います。』
恭しく頭を下げる精霊達。
『我らの国は、とても穏やかで、人と精霊達はお互いを尊重し合い、暮らしていました。』
『主殿のお父上、ダリオ様は民を大事にされ、お母上、シュリ様は精霊達を愛していました。そんなお二人を我々も、とても誇らしく。命の限りお守りする事が我々の使命だった』
表情を曇らせ、精霊達は語る。
「だった。って」
『お守りする事が……、出来なかった。ガディア様がお生まれになってすぐ、お二人は殺されたのです。』
「……誰に?…」
『ダリオ様の兄上、ダウ。貴方の伯父になります。』
ヴァッサーの言葉にフォルが立ち上がった。
「ダウだと?ダウが、アフィユーカスを」
『ああ、ダリオ様に王の座を取られた事を逆怨みしての反逆。その後、アフィユーカスを乗っ取ったのも、ダウだ。』
『そして、今また、行動を起こそうとしている。』
「……何をするつもりじゃ?」
ギルは問う。カエルムはギルに視線を移し。静かに口を開く。
『ピスケスと手を組んで、十二連合国を潰すつもりだ』
カエルムの発言に、部屋の空気がざわめく。精霊達はガディアに向き直った。
『ガディア様。どうか、我々とアフィユーカスの民をお救い下さい。我々にとって、ガディア様が最後の希望なのです』
ガディアにとって、大きな試練が始まろうとしていた。
次回は、十二連合国の面々が出てきます。