深い緑に覆われ、自然と人とが共存している国、レオ国。レオ国の国民は温厚で、優しく、争い事を嫌い。そして、この国が自分達の自慢とさえ思う程、誇り高い意思がある。そんな国と国民を束ねる国王は、強い意志と厳格な性格の面持ちの王、レオ・フォル。
フォル王の統治の下、レオ国の中心都市、ファンには、多種多様な食用品や日用雑貨、武器や防具。また、農作業に必要な道具が数多く売り買いされ、レオ城に続く大通りは活気に満ちている。レオ城は、大きな石造りの城だ。そのレオ城内に、人を呼ぶ声が響く。
「姫様!シーファー様!」
この城に勤める侍女のレンが、広く長い石畳の廊下を小走りに、自身の主である人物を探す。レンの歳は、十八位だろう。長い黒髪を後ろで束ね、脚に纏わり付く紺色のスカートを太股の辺りから軽く掴み、息を弾ませた。
「はぁ、姫様ったら、どこへ行ったのかしら」
言いながら、辺りを見渡し、廊下から中庭を覗き込んだ。色取り取りの花が咲き乱れる中庭。その中庭に、花の蜜を求め、沢山の蝶や小蜂が飛び交う。また、小鳥達が疲れた羽を休める為に、木々の枝に止まっているのが見えた。中庭の中央には噴水があり、涼しげな音を奏でる。その噴水の傍らで長い金色の髪を風になびかせ、手には獣の様な籠手をし、片手には槍を持ち、仁王立ちする一人の少女。少女は、レンより年下に見える。その少女は、赤を基調としたTシャツと短パン姿だった。
「またあの姿で」
レンは少女を見つけると、すぐさま少女のいる中庭へ向かった。石畳の階段を下りて、廊下を通過、中庭へ出る。急いで中庭にいる少女の元へ向かおうとしたが、すぐには少女に近付かない。いや、近付けなかったといった様子で、その場に立ち尽くしている。レンは少女に見惚れているのだ。
少女の長く綺麗な金色の髪を、風が撫でていく。頬に少し滲む汗をそのままにし、空を見上げ溜め息を一つ付く少女。その姿が何とも魅力的だ。短パンから出ている素足は白く、また、Tシャツからチラリと見える曲線は艶かしい。さらに、顔には幼さが見えるのに、その顔とは不釣り合いな程成長している胸(恐らくDカップ)や腰の括れが、少女の魅力をより一層引き立てている。
それを証明するかのように、城内の兵士達が目をハートマークにしながら、遠巻きで眺めていた。その少女がレンの方へ振り向く。振り向く姿も美しく、レンは同性にも拘わらず、ドキリとした。
「レン、いたの?」
綺麗な顔を歪め、嫌そうな顔をしながら少女は言う。言われたレンは、溜め息をつきながら少女に近付き、中庭に行く際持って来たタオルを少女の肩に掛ける。
「シーファー様、フォル王がお呼びですよ」
「えぇ~、また?……ほんと、ウザイ」
シーファーは気だるそうに言うと、タオルで汗を拭う。
「そんな風に言わないで下さい。」
「言いたくもなるわ!」
少女の名はシーファー。レオ国の第一王女、フォル王の愛娘である。シーファーは、レオ国の王女にもかかわらず、父であるフォル王にうんざりしていた。それはフォル王のシーファーに対する親バカ振りだ。寝ても覚めても、何かとシーファーを呼びつけ、絡んでくるからで、その親バカ振りは、レオ国全土に知れ渡っている。当のシーファーは、あまり快く思っていない。しかし、フォル王自身は特に気にする様子もなく、それが余計にシーファーを逆撫でしている。
「で?今度は何よ」
汗を拭いながら、シーファーは城内に入り、レンはその後ろを付いて行く。
「さぁ?私には分かりません。シーファー様を連れて来るよう仰せつかっただけなので」
首を傾げるレン。
「ふん、いつものつまらない事でしょ」
シーファーは溜め息をつきながら、フォル王のいる王室へ向かう。
「姫様!その格好で行かれるのですか?」
レンは、Tシャツ短パン姿で王室へ向かうシーファーを慌てて止めた。止められたシーファーは、不貞腐れている。
「何よ!問題ある?」
「大有りです!いくら何でもその姿で王に会うなど、私が叱られます!」
言っているレンの目には涙。それを見て、苦虫を噛み潰した様な表情を見せるシーファー。大袈裟なほどの大きな溜め息を一つすると。
「分かったわよ!着替えれば良いんでしょ!」
踵を返し、自室へと向かった。
「おお、シーファー。今日も可愛いなぁ」
強面の顔を綻ばせ、フォル王は言う。ドレスに着替えたシーファーは腕組しながら知らん顔。シーファーの横でレンが『姫様』と、耳打ちし促す。舌打ちするシーファー。
「話って何よ!お父様」
語尾に刺々しさを強調し、話を振るシーファー。一方、フォル王は『反発するシーファーも可愛いなぁ』とニンマリ顔。その横で、拳位の華をモチーフにした装飾が施された白いドレスに身を包んだ女性が指で肩をツンツンと突っつく。
「いい加減、本題に入ったら?」
淡々と王に話し掛ける女性。
「おぉ、そうだった。リュイすまんな」
「流石、お母様ね」
リュイと呼ばれた女性はシーファーの母親である。シーファーより少し短めの金色の髪に、緩めのパーマ。肌の色は白く、引き締まった腰の括れ、胸は恐らくEカップ。初めて出会う人でも、惹き付けられる程の美貌は、年齢を感じさせない。シーファーにはない大人の魅力がそこにはある。そして、誰もが思うであろう。シーファーは、リュイ譲りの容姿だと。
「シーファー。お前に縁談の話がピスケス国から来ている。」
先程のニヤケタ表情とは違い、真剣な表情のフォル王。しかし、縁談の相手の名を聞いて、シーファーは寒気が走った。
「どうして?今までお断りしてきたじゃない!」
シーファーの怒りが爆発する。それは、フォル王も分かっていた。
「すまない。今回は無理だった。」
「……何よ。結婚を決める権利は、王族の女性の唯一の権利でしょ!それは、十二連合の間でも一緒の筈でしょ!なのに、どうして!」
シーファーの言う事は最もだ。十二連合国で決められている規律の一つ。結婚相手の決定は王族女性にある。どんな権力があろうとも、王族の男性は意中の王族女性に拒否されたら引き下がらなければならない。
しかし、シーファーに求婚を迫っているピスケス国は、そんな事などお構いなしだ。十二連合国の規律を守らない。それ故、他国から疎まれている。フォル王も、ピスケス国は快く思っていない。出来れば、ピスケス国以外の国に嫁がせたいと思っている。それは、シーファーを溺愛しているだけではない、他の理由も存在する。それは、後々分かるであろう。
「私も出来れば断りたいのだが、こう何度も申し込みがあれば、無視は出来ない。それは、お前も分かるだろう?」
「それは、そうだけど」
「断り続ければ、双方にとっても良くない。まあ、お前に気になる男でもいるのであればだが」
「……そんな人、いないわ」
先程まで怒りで支配されていた感情が、みるみる萎んでいく。フォルもそれには心を痛めた。必至に話を続けるが、今のシーファーに聞こえていなかった。
次回も宜しくお願いします。