アフィユーカス国城内
薄暗い城内を、ピスケス国のリース国王と息子のジュギが歩く。点々と灯された明かりは小さく、長い廊下をさらに不気味にさせていた。二人は城の一番奥にある部屋の前に立つ。
「ダウ、俺だ」
「……リースか。入れ」
扉の向こう側で、ダウが答えた。リースは扉を開け、ジュギと共に中に入る。部屋の中も廊下と同じく、薄暗く、大きな机の向こう側で、背をこちらに向けたダウが座っていた。リースはダウの方へ近付く。黒を基調とし、襟元には金色の装飾が施された服を身に纏っているダウ。
「計画は順調か?」
リースの方へ向きならが、ダウが言う。
「……途中まで順調だったんだが、邪魔が入った。計画は中止するぞ」
「邪魔が入っただと?」
鋭く睨むダウ。リースはジュギに視線を送った。怯えながらジュギが、リースの後ろから顔を出す。
「ダウ様と同じ力を持った男に邪魔されて……」
「俺と同じ力だと?」
怪訝な表情でジュギを睨むダウ。ジュギは身体を震わせ、リースの背後に隠れた。溜め息をつくリース。
「精霊を使役する力を持っていたんだよ」
その言葉に、ダウの表情が動いた。そして、ゆっくりと目蓋を閉じ、小さく唸る。
「……ウィケッド、グロム」
『お呼びでしょうか。ダウ様』
二人の精霊が瞬時に現れる。ダウは二人に近付き、殴り蹴り倒す。二人はすぐさま起き上がり、膝をつく。
「何故、殴られたか分かるか?」
冷たく見下ろし、ダウが言う。二人は身体を硬直させた。
「俺と同じ力を持ったヤツがいるようだが、何故だろうな」
『いえ、そんな筈は。ダウ様以外我々を使役する力を持つ者など』
ウィケッドの言葉を遮る様に、ダウは再び二人を殴る。二人は痛みに耐え、言葉を飲み込む。
「……始末しそびれたか?それとも、俺の命令が聞けないか?」
『いいえ、我々は』
「黙れ」
静かに一喝するダウ。二人は怯えた表情を隠す。
「ダリオの小倅が生きていたか」
そう言って、再び目蓋を閉じた。小さく溜め息をつくと、ウィケッドとグロムを見下ろし。
「お前達にチャンスをやろう。言わなくても分かるな?」
その言葉に無言で頷く二人。ゆっくりと頭を下げ、姿を消した。ダウはリースに向き直る。
「リース、計画は続行しろ。」
「良いのか?」
「ああ、いくら精霊を使役する力があっても、俺の敵じゃない」
椅子に座りながらダウは不適な笑みで答えた。リースは小さく肩をすくめて、ジュギと共に部屋を出る。ダウは無言で二人を見送った。
レオ国内の森
夜も更け、ガディアは森の奥の湖に来ていた。毎日、御祓の為に来るのが、ガディアの日課でもある。上半身裸のガディア。引き締まった身体に水が流れ落ちる。そのガディアを見つめる人影。シーファーがアツい眼差しで見つめる。吹き抜ける風が心地好い。しばらくして、ガディアがシーファーの元へ向かう。滴り落ちる水滴。シーファーは生唾を飲み込む。ガディアの身体は、もう見慣れた筈なのに、シーファーの心は乱れた。
「どうした?」
ガディアがシーファーの顔を覗き込む。我に帰るシーファー。真っ赤に染まった顔を反らした。
「ううん、別に何でもないわ」
「何だよ。気になるだろ?」
そう言って、シーファーの頬に触れ、自分の方へ向かせる。見つめ合う二人。ゆっくりと唇が触れ合い、深く口付けを交わす。
「……んふ」
シーファーの声が、キスの合間から溢れ出す。唇を離し再度見つめ合う二人。その時、殺気を感じた。ガディアとシーファーは臨戦態勢を取る。二人の視線の先には、暗闇に紛れ、息を殺していたグロムとウィケッドの姿が。ガディアがシーファーを庇うように立つ。
『……ダウ様の為に、お前には死んでもらう』
ウィケッドが動く。黒い霧のように身体が無くなり、暗闇に溶け込んだ。グロムも雷を轟かせ、頭上から攻め来る。
「ウェントゥス!アルバ!ヴァッサー!」
叫ぶガディア。その声に精霊達が一斉に現れ、ガディアとシーファーを取り囲み護る。グロムがウェントゥスに雷を落とす。
『グロム!』
『ウェントゥス、邪魔をするな!』
二人の攻撃がぶつかり合う。一方、ウィケッドもアルバに向かい、黒い矢を放つ。地面から巨大な土壁がガディア達を護る。その隙をみて、ガディアがウィケッドに駆け寄り、腕に水の鎧を纏い、拳を振り上げた。素早く後退するウィケッド。
『ウィケッド、いい加減目を覚ませ!ガディア様こそ、我々の本当の主だぞ』
『五月蝿い!お前達に我々の何が分かる!』
アルバの言葉に、ウィケッドは激昂した。互いに睨み合う面々。
『俺達は、いつも闇に生きてきた。今更、後には退けないんだよ』
息を荒くさせたグロムがウェントゥスと対峙する。そこにシーファーが割って入った。
「みんな、やめて!同じ精霊同士でしょう?どうして争うの!」
『シーファー様』
ヴァッサーがシーファーの身体を包み込む。そして、すぐにその場から離れた。
「……ちょっと」
『シーファー様、お気持ちは良く分かります。しかし、簡単な話ではないのですよ。』
ヴァッサーの言葉に、シーファーは黙って耳を傾けた。その間も、精霊達はぶつかり合う。シーファーはただ見つめ続けた。次の瞬間。ガディアが動く。その動きは速く、とらえる事が出来ない。気が付けば、グロムとウィケッドは弾かれ、地面に倒れ込み、噎せている。シーファーはガディアを見た。そして気付く。ガディアの目が光輝いている事に。
次回は、あるお方が出てきます。