ガディアの目が黄金に輝く。ぶつかり合っていた精霊達の動きが止まる。すぐさま、膝をつき、頭を下げる精霊達。シーファーは訳も分からず、その状況を傍観するだけだった。
『久し振りね』
ガディアの口から、耳を疑う声色が発せられる。どう考えても、女性の声だった。精霊達の方は、さらに頭を下げ、じっとしている。
『久々にこっちに帰って来たんだけど』
そう言って、精霊達を冷たく一瞥。溜め息をついた。
『どういう事か、説明してもらえるかしら?』
腕組し、精霊達の前に立つ。精霊達の方は、ほぼ同時に息を飲み、身体を強張らせている。ガディアは、軽く髪を掻き上げたり、自分の身体を見つめ、触ってみたりしていた。
『あら、男の身体だわ』
自分の身体に、驚くガディア。それから、ガディア達から少し離れたシーファーを見つけて、小さく首を傾げた。
『貴女、誰?』
足取り軽く、シーファーに近付くガディア。その歩き方や仕草は女性そのもの。シーファーの顔を覗き込むガディア。シーファーは少し引いた。
「……っえ…と」
何とか声を発するシーファー。変な汗が背中を伝う。
『ウー・ニウェルスム。その方はシーファー様。その化身の婚約者、みたいな者です。』
カエルムが言う。ガディアではなく、ウー・ニウェルスムがカエルム達に向き直る。
『婚約者、みたいなって。まだ婚約はしてないの?』
言いながら、再度シーファーを見た。シーファーは小さく頷く。ウー・ニウェルスムは小さく唸る。
『でも、愛し合っているのよね?』
その言葉にシーファーは縦に頷く。ウー・ニウェルスムは表情を明るくさせ、シーファーの頬にキスをする。シーファーは驚き、頬を赤く染めた。
『私から、祝福の口付けを与えるわ。』
柔らかく微笑むウー・ニウェルスム。シーファーは、その表情に頬を染めたまま微笑み返す。しばらく、ウー・ニウェルスムはシーファーを見つめ、ゆっくりと精霊達の方に視線を向ける。
『さて、本題に入りましょうか?私の可愛い子供達は、どうして喧嘩しているのかしら?』
先程とは一変し、笑顔の表情で言うウー・ニウェルスム。目が笑っていないのは明らか。その表情に、今度は精霊達の背中に変な汗が流れ落ちる。互いに顔を見合わせ、小声で言い合っていた。
『アルバ、お前が言え』
『……何故俺が言わねばならん。そもそも、この状況にしたのは、グロムとウィケッド。お前達だ。』
ウェントゥスの言葉にアルバが答える。他の精霊達も無言で頷き、視線を二人に向けた。生唾を飲み込む二人。その間も、ウー・ニウェルスムの表情が険しくなっていく。頭から角でも生えそうな勢いだ。
『……ウー……ニウェルスム』
怯えた表情でグロムが口を開く。ウィケッドも恐る恐る視線を向けた。
『……これには、色々事情がありまして』
『事情ねぇ……。その事情はとても重大なのかしら?』
その目には、明らかに怒りが見え隠れしている。ウィケッドとグロムは身体を強張らせた。
『我々は、ダウをアフィユーカスの国王と認め、彼を護って』
『だから、それが間違いなんだよ。ガディアが国王に相応しいんだ』
言い合いが始まる精霊達。ウー・ニウェルスムは大きな溜め息をつく。
『それで、喧嘩してるのね……。ウィケッド、グロム』
ウー・ニウェルスムが二人を見る。二人もウー・ニウェルスムを見つめ、次の言葉を待つ。
『二人は、他の精霊達の中でヤンチャな子達だから、いつか悪さするとは思っていたけど……』
腕組のまま、小さく溜め息をつき、少し呆れた表情のウー・ニウェルスム。
『ダウという男の闇の部分に惹かれてしまったのね。しょうがない子達』
そう言って、二人の頭を優しく撫でる。二人は目を細め、大人しくなっていく。他の精霊達も、ウー・ニウェルスムに撫でられる二人を羨ましそうに見ていた。
『グロム、ウィケッド。ダウの味方についても何も生まないわよ。むしろ、貴方達がどんどん消耗するだけ』
言いながら、他の精霊達の頭を撫でるウー・ニウェルスム。精霊達の姿はまるで小さな子達の様だ。母親に優しく撫でられ甘えている子供。そんな感じにシーファーには思えた。
(精霊達が小さな子みたい)
和やかな時間が流れる。ウー・ニウェルスムがシーファーを再び見る。真剣な表情のウー・ニウェルスム。シーファーは黙って見つめ返す。ウー・ニウェルスムの口が微かに動いた。
『………貴女の中から、ラディウスの気配を感じるわ』
初めて聞く言葉にシーファーは首を傾げる。そんなシーファーを他所に、ウー・ニウェルスムは一人納得したようだ。
『可愛い私の子達。彼女を護りなさい。グロムとウィケッドも彼女を護るのよ?分かった?』
精霊達は恭しく頭を下げた。シーファーの方は、訳も分からずにその様子を黙って見つめる。
『グロム、ウィケッド』
『……分かってるよ。ウー・ニウェルスムの言葉に従う』
ウェントゥスの言葉に、ウィケッドは視線を反らし、答えた。それを確認したウー・ニウェルスム。
『それじゃ、私は一先ず彼の中で休んでいるから、何かあったら呼んでね』
そう言って、ガディアの目に光が消えた。ガディアの意識がそのまま落ちる。その場に倒れ込み、シーファーが駆け寄った。ガディアの身体に優しく触れるシーファー。ガディアは目を開けない。シーファーはガディアが目を覚ますまで、精霊達と話しながら待ったのだった。
次回は、再びダウが登場します。