シーファーの悲鳴と共に、ガディアの身体が崩れ落ちる。ガディアの身体を貫いた精霊達は、まるで空間に溶ける様に消えていく。その様子を、ただ涙を流し見つめるシーファー。時間が止まった様に、誰も言葉を発しない。
「……ははっ」
ダウが声を上げて笑う。シーファーはダウを見た。
「……何が可笑しいのよ?」
怪訝な表情でシーファーはダウに問う。しかし、その問いにダウは答えず、ゲラゲラ笑いその場でお腹を抱えた。周囲を飛んでいた小さな精霊達が怯え、右往左往している。
「邪魔者はいなくなった!これで、俺が世界最強だ!」
天を仰ぎ、大声を上げるダウ。乱暴にシーファーの腕を掴み、引き寄せる。シーファーはいきなりの事に反応出来なかった。
「……離して!」
何とか、その腕から逃げようともがく。ダウはシーファーの髪を掴み、無理矢理キスをした。シーファーは目を見開き、ダウを押し退け様とするが、ダウはびくともしない。
「……やめて!」
首を横に振り、ダウのキスから逃れるシーファー。目には大粒の涙が頬を伝い、鋭く睨む。ダウはそれすら楽しんでいるようだ。
「ガディアは死んだ。お前は俺の女になるんだ!」
「嫌よ!」
「良いのか?お前が断れば、お前の父やレオ国の民が死ぬ事になるぞ?」
その言葉に、シーファーの反応が鈍る。それを見逃さないダウ。シーファーの唇を再び塞いだ。シーファーは抵抗する。シーファーの後ろから近付くリース。シーファーは気配を感じて、身体を身動ぎしたが、ダウがその動きを封じる。リースがシーファーの身体に触れ、身に付けていた鎧を脱がしていく。シーファーは、あっという間に下着姿になった。
「やめて!何するの!」
頭の鎧も外され、シーファーは抗議の声を上げる。ダウはシーファーをその場に押し倒すと、背筋が凍る程の視線でシーファーを見下ろす。リースもシーファーの両腕を掴み、頭の上で押さえ付ける。周りには、ダウの部下達が食い入るようにシーファーの下着姿を舐めるように見ていた。
「……何をするって?今からお前を完全に俺のモノにするんだよ。俺の部下達が見ている目の前でな」
そう言うと、ダウはシーファーの身体に舌を這わせる。シーファーの身体は拒絶反応を起こす。寒気が走り、青ざめるシーファー。それでもお構い無しに、ダウは下着を剥ぎ取り、ズボンのファスナーを下ろすと、下半身を出し、そそり立ったソレを濡れていないシーファーの秘所に宛がい擦り付ける。
「……嫌…嫌よ…やめて」
身を捩るシーファー。しかし、ダウはシーファーの腰をしっかり掴み、腰を進める。ソレが入る直前、ダウの身体が吹き飛んだ。その勢いは強く、かなりの距離があった城の城壁にぶつかるダウ。リースの方も、天高く舞い上がり、まるで何かに殴られたかの様に、兵士達の上に落ちる。シーファーは何が起こったのか分からない。
『……困りますね。』
どこからか声が聞こえる。シーファーはガディアの方を見た。しかし、ガディアは倒れたまま、動いた様子はない。シーファーは周囲を見渡す。シーファーだけではない。シーファーの周囲にいた兵士達も声の主を探している。
『僕を見つけるのは難しいですよ。』
周囲の反応を楽しんでいる様な声が響く。シーファーは気付いた。その声は、シーファーの中から聞こえている事に。その証拠に、小さな精霊達がシーファーの周囲に集まり、ダンスする様に飛び回っている。
『シーファー様』
身体の中の声がシーファーに話し掛ける。
『大丈夫ですよ。今はシーファー様にしか聞こえていませんから。……さてと、シーファー様。今から僕の言う事を聞いて下さい。』
(分かったわ)
『……順応が早くて助かります。シーファー様、そのまま真っ直ぐガディア様の所に向かって下さい。』
(ガディアの所に?でも、ガディアの周囲は)
シーファーは無言でガディアを見る。ガディアの周囲は、大勢の兵士達が取り囲み、容易に近付く事が出来ない。
『それは問題ありません。僕が援護しますから。とにかく、ガディア様の所にすぐに向かって下さい。』
シーファーは返事の代わりに、その場で立ち上がると脇目も振らずガディアの所に向かう。シーファーの行動は素早く、兵士達が気付いた時には、ガディアのすぐ側だった。ガディアの身体を抱き締めるシーファー。兵士達が引き剥がそうと近付く。その度に吹き飛ぶ兵士達。
『我らの王と王妃に触れる事は許さない』
声と共にガディアの身体が光輝く。あまりの眩しさに、シーファーも目蓋を閉じた。次の瞬間。シーファーはガディアに抱き上げられていた。ガディアの目は黄金色に輝き、真っ直ぐダウとリースを見据えている。
「……ガディア?」
「ん、シーファー。大丈夫か?」
黄金色に輝く瞳をシーファーに向け、ガディアが微笑む。シーファーは無言で頷き、生唾を飲み込む。
『シーファー。大丈夫だった?』
シーファー達の後ろから、以前ガディアの口から聞いた声が聞こえる。シーファーを抱き抱えたまま、ガディアは振り向く。そこには光を放ち、一糸纏わぬ女性の姿があった。シーファーは見惚れる。
『この姿で会うのは初めてね。私の事分かる?』
その問いに、シーファーは狼狽えながらも頷いた。
『ラディウスが目覚めたから良かったわ。ラディウス』
『はい、僕はここにいますよ』
『言わなくても分かるわよね?』
『はい、でも。ガディア様とシーファー様の愛の結晶は、まだですよ。』
ラディウスの言葉にシーファーは狼狽えた。
『……その事じゃないんだけど。まぁ良いわ。シーファー、私の事は美姫ちゃんって呼んでね。詳しい話は彼らを処分してからね』
美姫の言葉にシーファーは頷く。ガディアはシーファーを抱き抱えたまま動かない。代わりに、精霊達がガディアの周囲を護る様に囲み、ダウ達を睨む。
「……ガディア、生きていたのか」
城壁にぶつかったダメージが大きかったのか、ヨロヨロと覚束ない足取りでガディアに近付くダウ。リースも兵士達に支えられ立ち上がると、腰に下げていた剣をガディアに向ける。
「アフィユーカスは俺のモノだ。誰にも渡さない。」
ダウが声を上げて、精霊達に命令する。しかし、精霊達は動かない。情けない程の大きな声で命令しても、誰も動かない。
「……何故だ!俺の命令が聞けないのか!」
その姿を哀れんだ眼差しでガディアは見つめる。
『貴方の言葉に、精霊達はもう動かないわ。』
「お前、誰だ!」
『ダウ!!貴様!』
グロムとウィケッドが掴み掛かろうと動くのを美姫は手で制した。
『初めまして。名前くらいは知ってると思うけど、私はウー・ニウェルスム』
その言葉に、リースをはじめ、その場にいた兵士達が驚き、狼狽えた。周囲の者達と顔を見合わせ、その場に膝をつく。ダウは愕然としている。
『今回の事は、ここにいる精霊達から話を聞いているわ。それに、私も見てきた。ガディアの目を通じて』
ダウがガディアを見る。ガディアの目は黄金色のままだ。
『ダウ、野心がある事はいけない事ではないわ。でも殺し過ぎ。全ての生みの親である私には、到底許される事ではないわ。』
何かを感じ取ったダウが、ゆっくりと後退する。それと同じ様に、グロム、ウィケッド。アルバ、ウェントゥス。カエルム、イグニス、ヴァッサーが近付く。ラディウスはガディアの横に膝をついたまま、ダウを見つめる。
「俺は!……ガディア、ダリオとシュリを殺してすまなかった。だから、助けてくれ!」
恐怖と絶望の表情でダウが懇願する。
「待て、手を出すな」
ガディアがそう言い放つ。一瞬、ダウの表情が緩んだ。美姫と精霊達がガディアを見る。シーファーもガディアを見つめた。
「あんたに住む場所を追われ、仲間を殺され、人々に忌み嫌われた者達の想い。あんたに分かるか?」
ガディアの言葉に、ダウは理解していない。ガディアは指笛を吹く。遠くから遠吠えが無数に聞こえ、空気を震わせる。ダウはようやくガディアの言った意味が分かった。気が付けば、獣達がガディア達を取り囲み、ダウに牙を剥く。それはリースに対してもだ。リースの腕を噛み千切ろうと近付く獣達。リースはダウの側に駆け寄り、粗相をする。
「ダウ、お前のせいだぞ!」
「お前だって、乗ったじゃないか!俺だけの責任じゃない!」
無様な言い合いが始まる。ガディアは溜め息をついた。
「……あんたら」
ガディアは、哀れみすら無くした表情を二人に向け、こう言い放つ。
「可哀想にな」
その表情と言葉に、ダウとリースは青ざめる。
『新しい時代に、新たな王が血で汚れては意味が無いわ。可愛い私の子達、私がいなくてももう大丈夫よね?』
美姫が微笑む。精霊達が膝をつき、獣達も座り頭を下げる。気が付けば、兵士達もガディアとシーファーに膝をつき、頭を下げていた。
『これからはガディアとシーファーと共に、争いのない世界を築きなさい。さて、ダウとリース』
二人を見下ろす美姫。その眼差しは冷たい。
『貴方達に輪廻はないわ。そのまま消滅してもらいます。』
「ウー・ニウェルスム。お願いです。我々にチャンスを下さい!」
懇願する二人。魂を消滅されれば、生まれ変わりはない。本能が二人にそう言わせていた。しかし、美姫の決定は覆らない。
『いいえ、貴方達は汚れ過ぎているわ。前世も、前々世も。何度もチャンスを与えたのに、変われなかった。』
そう言って、二人に掌を向けると、一瞬で二人は粒子の様に溶け、天高く舞い上がる。その上には、黒い渦がその粒子を吸い込む。一時の静寂が流れた。
いよいよ大詰めです。