『無事に森を抜け出たようだな』
『うむ、そのようだ』
精霊二人が木々の影に隠れてシーファーを乗せた馬車を見送る。
『おい、ガディア。お姫様にアプローチしなくて良かったのか?』
風の精霊が、後ろで背を向け、木に寄り掛かっている人物に声を掛ける。それは先程の青年だった。
「興味ない」
『えぇ!絶対、お前のタイプだぜ。ドレス越しでも分かるだろ。あのプロポーション、めちゃくちゃエロい』
そう言って、指でシーファーの身体のラインを表す。ガディアは溜め息をついた。風の精霊はガディアに近付く。
『今からでも遅くないぞ。』
『ウェントゥス、主殿に失礼だぞ』
ずっと黙っていた地の精霊が風の精霊・ウェントゥスに詰め寄る。
『何だよ。別に良いじゃん。アルバは堅すぎなんだよ』
地の精霊・アルバと風の精霊・ウェントゥスが言い合う。その状況をガディアは一瞥し、そのまま二人を置いて歩き出す。二人の精霊の主であるガディア。ガディアの周りにはいつも精霊達がいた。物心つく前から精霊達はガディアの側におり、ガディアの成長を見守っている。ガディアは常に疑問に感じていた。何度か育ての親に聞いた事もある。しかし、その理由は未だに教えてもらえていない。
「時が来れば分かる。その時話そう」
決まって、いつもそう言われていた。気が付けば、アルバがガディアの後ろにいる。
『主殿、どちらに行かれるのですか?』
黙々と歩くガディアにアルバが問う。しかし、返事をする気にはなれないガディア。黙って森の中を進む。
『主殿』
「何だ。用なら早く言え」
苛立ちを隠せないガディア。
『本当のところ、どうなのですか?』
「何がだ」
『あの姫君に興味が』
その言葉に、ガディアは歩みを止め、肩越しにアルバを見る。その目はギラリと鋭い刃の様に、アルバを睨む。生唾を飲み込むアルバ。鋭い視線が全身を突き刺し、恐怖心が芽生えた。
「お前達は、俺に何を言わせたい。俺が、あの女に興味があると言えば満足なのか?」
『……出過ぎた事を申しました』
その場に片膝を着き、深々と頭を下げるアルバ。そんなアルバをガディアは一瞥する。そして、再び歩き出した。アルバもガディアの後ろについていく。
「アルバ、お前達にとって、俺は何だ」
後ろからついて来るアルバにガディアは問う。
『我々の命よりも大切なお方』
「それ、やめろ。俺はそんな立派なヤツじゃない」
『主殿、それは違います。我々にとって、主殿は偉大なお方なのです。今は、ご自身の事を知らずとも、いずれその意味が分かります』
アルバの言葉に、ガディアはただ、黙って聞いていた。森を抜け、少し拓けた場所に出る。そこは少し小高い丘だった。丘の上には小さな小屋があり、周囲には畑もある。ガディアはその小屋に向かう。勿論、アルバも一緒だ。小屋の扉を勢い良く開けるガディア。
「ギル爺、頼まれていた仕事終わったぞ」
暖炉の前で、本を読んでいる一人の老人に、ガディアが声を掛けた。振り向く老人。
「おお、御苦労様。どうじゃ?シーちゃん美人じゃったろ?」
ニヤケ顔でそう言うギル。ガディアは溜め息一つ。
「興味ねぇよ」
それを聞いて、ギルの目が大きく見開く。
「興味ないと?年頃の男が、異性に興味ないと。そんな筈はない。絶対、お前のタイプの筈じゃ」
その言葉にガディアは苛立った。
(ギル爺まで)
苛立った表情になるガディア。ギル爺はすぐに気付く。ガディアの方は、小屋の外へ向かうが、ギルの方に向き直った。
「ギル爺、もう俺に頼み事するなよ。俺はやらなきゃいけない事があるんだ。頼みたい時は、精霊達に頼めよ。」
しかし、ギルはその言葉に首を横に振る。
「それは無理じゃ」
「何でだよ」
「精霊達は、お前の命令しか聞かん」
言われ、ガディアは。
「はぁ?いつも、ギル爺の頼みを聞いてるだろ?」
「それは違う。精霊達がワシの頼みを聞いているのは、お前を育てているからじゃ。恩義じゃな。お前がいない時は動かん」
ガディアはアルバを見る。アルバは無言で頷いた。
「何でだよ。アルバ、俺の代わりにやれよ。」
「主殿、我々は主殿以外の命令は聞きません。」
「意味が分かんねぇよ」
そう言って、ガディアは外に出た。太陽の位置は、まだ、真上ではない。太陽の位置を確認し、ガディアは森の中へ向かった。深い森の中は似たような感じで、迷子になりやすい。しかし、ガディアは一度も迷子になった事がない。それは、精霊や森に住むもの達のお陰である。深い森の中をどんどん進むと、大きな大木が生えているほんの少しだけ拓けた場所に出た。そこには、真っ黒な毛並みに深紅の様な目をした獣達が数頭、大木の影で休んでいる。ガディアは獣達に近付く。喉を鳴らし、ガディアにすり寄る獣。ガディアは獣の頭を撫でた。気持ち良さそうに目を細め、身体全体をガディアに擦り付ける獣。その近くでは、森の主と呼ばれた大獣もいた。獣達と同じ真っ黒な毛並みに深紅の様な目。ただ、獣達と違うのは、頭のサイドから大きな角を二本生やしている事だ。その大獣がガディアの側に寄る。ガディアが手を伸ばし、大獣の身体を撫でた。大獣はゆっくりと身体を傾け、寝転がる。ガディアの手が大獣のお腹を擦った。獣達と同様、大獣も気持ち良さそうに寝始める。
「ごめんな、もう少し時間が掛かりそうだ」
大獣と獣達に言うガディア。しばらく、獣達を一頭ずつ撫でるガディアだった。
次回は、ヒロイン出ます。