※この作品はR-18です。

十二連合国   作:氷野心雫

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触れ合う体温

 大獣と獣達にブラッシングをしているガディア。先程までガディアの側で寝ていた一頭の獣が唸り声を出す。と、同時に女性の悲鳴がガディアの背後から聞こえた。ガディアは振り返る。そこにいたのは、シーファーだった。シーファーは獣達を見て怯えている。

「……な、何で、お前がここに」

 ガディアの思考は混乱している。それもその筈。ガディアはシーファーが森を抜けるのを見たのだ。なのに、今目の前にいるのは、間違いなくシーファーである。

 

(確かに森を抜けた筈だ)

 

 一方のシーファーは、目の前に映る光景が信じられないでいる。獣、大獣がガディアの側にいるのだ。しかも、ガディアに対して心を開き、なついている。ガディアはシーファーに背を向け、シーファーに警戒し、唸る獣達を宥めていた。

 

(どうして、彼の側に獣達がいるのよ)

 

 身体の震えがいつの間にか消えていた。シーファーは挫いた足を引き摺りながらガディアに近付く。一頭の獣がガディアに近付くシーファーを見る。ドキリとシーファーの鼓動が脈打つ。

「帰れ」

 獣を撫でながら、ガディアはポツリと呟いた。その言葉はシーファーに向けている。それでもシーファーは近付いた。

「……ねぇ」

 ガディアの服の袖を掴むシーファー。だが、ガディアはその手を振り払う。そしてシーファーに向き直った。その目は鋭く苛立ちを含み、シーファーを睨む。

「帰れ、二度とここには近付くな」

 ガディアの言葉は静かに、しかし、明らかに苛立っている。シーファーの鼓動が軋む。小さく頷くと、踵を返そうとした。その時。挫いた足が痛み、シーファーはバランスを崩した。咄嗟にガディアがシーファーの腕を掴み引き寄せる。二人の身体が、初めて触れ合った。鼓動と鼓動が共鳴し、同じ速度で脈打つ。以前からそうしてきたかの様に、互いの温もりを感じ合う。ガディアはシーファーの髪に顔を埋め、微かに香るシーファーの匂いを無意識に嗅ぐ。それはとても甘く、落ち着く匂い。ガディアはシーファーの匂いを嗅ぎながら、数日前の出来事を思い出す。

 

 数日前

 

 ガディアはギルに呼び出される。夜、外へ行くところだったガディアは、不貞腐れていた。

「何だよ。俺は今から出掛けなきゃいけないんだ」

「まぁ、そう怒るな。ガディア、ちょっと頼まれて欲しい事があるんじゃ」

「……」

「実はな、レオ国の王女様を護衛して欲しいんじゃけど」

「何で俺が、大体、護衛兵がいるだろ」

 ガディアの言葉に、ギルは溜め息を一つ。

「護衛兵だけで何とかなるなら、お前に頼まん。」

 その言葉に怪訝の表情のガディア。

「ピスケス国に王女様、シーちゃんが行かねばならんのじゃ。つまり、この森を通る」

 そう言われて、ガディアは理解した。

「様は、俺に獣達から、その王女を護れって事か」

 ガディアの言葉に、ギルは頷く。それを確認して、溜め息をつく。

「ガディアは、シーちゃんを見た事がないじゃろ?シーちゃんは、とても綺麗な子じゃ。一度、見に行って来んか?」

 浮かない表情のガディア。しかし、渋々快諾する。次の日、ガディアはレオ国城から少し離れた場所にいた。ギルの話によると、シーファー王女は、毎日剣術の鍛練をしていると言う。半信半疑でガディアは茂みに隠れ見ていた。すると、馬に跨がり、こちらに向かう人影。シーファーだった。いつもの短パンにTシャツ姿のシーファー。ガディアは息を飲んだ。日の光りに照され、美しいシーファー。手に持った槍を振り回し、型を決めていく。次第に汗が滲み、動く度にポタポタと落ちる。その姿にガディアは心を奪われた。一目惚れ。そうガディアはこの時、シーファーに好意が芽生えたのだ。

 

「ん、痛い」

 ガディアの腕の中で身動ぎするシーファー。いつの間にか、抱き締める腕に力が入っていたようだ。ガディアは身体を退ける。お互いしばらく見つめ合い。無言で立ち尽くす。

「……悪ぃ、歩けないんだったな」

 視線を反らして言うガディア。シーファーはガディアを見つめ、掛ける言葉を探す。その様子に、獣達が小さく吠えた。先程まで警戒し、唸っていた獣達が、シーファーに歩み寄り、その手を舐める。中には、シーファーの匂いを嗅ぐ獣達も。驚くシーファー。しかし、すぐに慣れ、獣達を撫でる。ガディアはその様子に驚く。

 

(獣達が、俺以外に)

 

 獣達に微笑むシーファー。その姿も美しく、ガディアの鼓動が速くなるには十分だった。

「さっきはごめんね。驚かせて」

 優しく語り掛けるシーファー。獣達はそんなシーファーをじっと見つめ、ガディアの方を見た。シーファーもつられて見る。

「……そろそろ、戻るぞ」

 少しだけ頬を染めたガディアが、シーファーに背を向け、腰を下ろす。いきなりの行動に、シーファーは動けない。

「早く乗れ」

 ガディアは背中をシーファーに近付けるが、シーファーは動こうとしない。

「何してる」

 苛立つガディア。

「自分で歩くから」

「はぁ?その足で歩けないだろ?」

「何とか出来るわよ」

 そう言って、足を引き摺りながらガディアを無視するシーファー。それにガディアはキレた。シーファーの身体を無言で担ぎ上げ、そのまま歩き出す。

「ちょ!ちょっと!降ろしてよ!」

 ガディアの肩の上で暴れるシーファー。それをガディアはものともしない。すたすたと歩く。しばらく暴れていたシーファーだが、観念したのか大人しくなる。

「……ねぇ、この体勢キツイから変えて欲しいんだけど」

 足を止め、ガディアはゆっくりとシーファーを降ろす。その動きに無駄がない。あまりの出来事にシーファーはガディアを見つめた。背を向け、腰を下ろすガディア。シーファーは吸い寄せられる様に、ガディアに身体を預ける。見た目、華奢に感じたガディアの身体は、肩から全身にかけてがっしりとしていた。シーファーは無意識にガディアの首に腕を回し、身体を密着させる。汗の臭いとは違う匂いが、シーファーの心を掻き乱した。

 

(どうしよう!ドキドキする!)

 

 ガディアの背中の上でシーファーは悶絶する。一方のガディアも背中に感じるシーファーの胸の柔らかさに、鼓動が速くなり、身体が熱くなるのを感じていた。無関心にみえて、ガディアは意外とムッツリである。自分が変な気分にならないよう、歩く速度を早めた。足場の悪い森の中。ガディアは迷う事無く、ある場所へ向かったのだった。




 次回は、二人が戦います!
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